超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
未知数の領域に対する突入作戦。これまでそれを女神や、女神と親しい一部の者達のみで行ってきたのは、偏に突入手段が限られていたからであった。天界にせよ、別次元にせよ、向かう手段が人間大の『扉』以外は基本的になかったが為に、艦艇はおろかMGを初めとする各種大型兵器も突入の戦力として運用する事が出来ず、向かう手段に難のある未知数領域では兵站の確保も難しい以上、大部隊を向かわせる事も出来ない…即ち少数精鋭にならざるを得ない事情がある結果、各種兵器の運用と、個々の力や判断も重視しつつもやはり基本的には『集団』である事を強みとする軍が動く事はどうしても出来ず、突入作戦の間は国内防衛に専念する他なかった。『国防軍』である事を思えば、国の防備を固める事はなんらおかしな事ではなく、むしろ元来の責務である訳だが、『戦力にしようにも出来ない』という実情は、常に女神の…更には女神や教会から作戦について伝えられる軍上層部にとって、一つの歯痒さとなっていた。
だからこそ、クロワールの存在はこれまでの状況を一変させた。イストワールとクロワール、それに人間であるネプテューヌによって作り出される、作る事が可能となった巨大な『門』の存在が、これまでの不可能を可能とした。そして艦船すらも展開可能となった今、元から女神に付き従い、未知の領域への出撃する事も想定して設立された
「想定通り、相手はかなりもかなりの戦力を用意していたようね。けどその戦力も、見ての通り今は壊滅状態!今以上に進撃を掛けるチャンスなどないわ!」
門を抜け、時空の歪み、その内側への突入を果たした特装艦アヴァラス。その前方で、セイツ…女神レジストハートは声を上げる。得物で向かう先を指し示し、先陣を切るようにして飛ぶ。
「ブリッジよりオラクル各機へ。通達通り、我々はレジストハート様と共に進軍を行う。よってオラクル1、サクリスタン特務中佐率いる第一小隊はレジストハート様と協同しての先行、オラクル2、チュイル特務中佐指揮下の第二第三小隊は本艦の進路確保と制圧、第四小隊は本艦の直掩を主任務とする。但しこの領域については情報が極めて少なく、通信状態も常に安定しているとは限らない。ブリーフィングでも伝えたが、各任務はあくまで原則とし、各隊隊長の判断の下柔軟な対応をする事を艦長として君達に望む」
アヴァラスの艦内、格納庫に響くのは、艦長からのアナウンス。パイロット達は発艦準備の進む自機の中でその言葉を聞き…一泊の後、艦長は放送範囲を切り替える。格納庫から、艦内全域へと変え…静かに、されど信念の籠った声で、告げる。
「──これは、我等が守護女神様を出迎える為の戦いだ。その身命を賭して我々の道を拓いて下さった、そして今も間違いなく己が思いを貫き、我々の信ずる女神の在り方を示し続けている守護女神様に、報いる為の決戦だ。総員、死力を尽くせ。やるべき事はただ一つ。
その言葉に、各部署が、各員が応える。幾ら他に手がなかったとはいえ、守護女神たるイリゼ自身がそれを望んだとはいえ、助けるどころかむしろ助けられてしまった…そんな無念があったからこそ、その雪辱を、今度こそ部隊としての…
「その通りよ、それでこそ
セイツは思っていた。この件に関して、彼等の非など何もないと。全員が為すべき事を十全に果たしたのだから、称賛こそすれども、責任を感じる必要など微塵もないと。だがそれを、その無念を糧に、決意の炎を心に燃やす
ハッチが開き、カタパルトに光が灯る。先を行くセイツを追い掛けるように、その更に先を阻むように現れる、大小様々なモンスターを迎え撃つように、電磁加速により射出されたMGが翼を広げて舞い上がる。
(随分わらわらと出てきたわね…それにこの現れ方、飛んできたっていうより、どこかからワープでもしてきたような……)
カオスモンスターの迎撃は想定の内。艦隊による門越しの集中砲火も、門の先にある空間へ迎撃戦力が集まってくる事を見越してのものであり、その結果危なげなくセイツ達は時空の歪みの中へ突入する事が出来た。
しかし、そんな強烈な初手の事など何も知らない、或いは気にしないとばかりに、現れたモンスターの群れは一直線にセイツへと向かってくる。その内の一体、突出して襲ってきたカオスモンスターを、セイツはすれ違いざまに斬り裂き沈める。続く群れの突進を急上昇で以って躱し…光芒が、目標を見失ったモンスターを貫き灼く。長距離からの攻撃で、モンスターの群れの勢いは削がれ…そこへ追撃を掛けようとするセイツの前で、更に三条の光芒が撃ち抜く。
「……!その装備…へぇ、これが……」
ちらりと後方へ視線を向けたセイツは、微かに目を見開く。そしてその姿に、ほんのりと口角を上げる。
そこにいたのは、紅の鉄騎。他の機体、ルヴァゴ装備のマエリルハが航空形態で迫る中、紅のマエリルハだけはルヴァゴとは違う無人機をバックパックとして装着した人型形態のまま、しかし航空形態のルヴァゴマエリルハ以上の加速を見せる。携行武装のロングビームライフルと、水平展開した無人機のビーム砲二門、合わせて三門による遠隔攻撃を仕掛けながら、その速度を落とす事なくカオスモンスターの群れと接触。構えたシールドで衝突した個体を弾き飛ばし、射撃と砲撃で群れに穴を開けて突破する。抜けた直後、鋭いターンを掛けて反転し…ビームライフルと持ち替える形で、ビームサーベルを抜き放つ。
「流石は隊長、鮮やかな動きね」
「これも、この装備を間に合わせてくれた彼のおかげです。各機、制圧は後続のオラクル2達に任せれば良い。俺達はこのまま、道を切り開くぞ!」
『了解!』
機敏にして繊細、無駄なく丁寧な挙動から伝わってくるのは、センスと技術と努力の全て。左剣で正面のカオスモンスターを斬り伏せ、投げ放った右剣で別のモンスターの頭部を貫き、そのモンスターが落下する前に肉薄し右剣を引き抜いたセイツは称賛の言葉を送り…それに答えた紅のMGのパイロット、サクリスタンは続けて部下に指示を飛ばす。一撃離脱の斬撃で一体潰すと共に群れを抜け、各機がそれに続く。精鋭らしく、変形とそれによる性質の変化を戦術に組み込んだ機動で群れを蹴散らし、後続の為に踏み荒らした上でサクリスタンの後を追う。
(全く、わたしは体力を温存しておいてくれて構わないってばかりの大立ち回りね。ほんと、いつの時代も…人は頼もしいわ)
先行する第一小隊の最後尾に付く形となったセイツ。元々信次元の軍は国を守り、女神と共に戦う存在として復活した組織であり、セイツ含め女神は皆自分が守ってもらおうなどとは微塵も思っていないのだが、ただ人を守る事だけが女神の務めでも、正解でもない。人の思いに答える事、人の勇姿を尊重する事、その為には時にでしゃばらない事…それもまた、女神にとっては大事な務め。だからこそセイツは、今はMG部隊の支援と援護に回り、自身の力が必要となる瞬間まで体力を温存しようと決める。堂々と先陣を切る、道を切り開く役目は彼等に譲り、信頼し任せる。
そして、セイツは考えていた。今はまだいい、だがこのまま最後まで苦労なく進むなどという事はあり得ないと。向こうもこちらの動きに対抗し、多くの手を打ってくるだろうと。故にセイツは戦いながらも、その精神を研ぎ澄ます。自らのコンディションを、更に鋭く高めていく。
*
セイツ率いる
向かう先は、時空の歪みの中で形作られた街の中心部。その目標は…教会の、制圧。
「大したものね。こういう戦いも、元から想定していたのかしら」
まだ遠い、しかし確かに近付く進軍。それを悠然と待ち構えるのはアルテューヌ。歪みの掌握を進めるにつれ、領域の中で起きている事をぼんやりとだが『把握』出来るようになったアルテューヌは、冷静にその動きを分析していた。
元から想定していた。そう捉えたアルテューヌの認識は正しい。大規模なモンスターの群れによる襲撃、或いは同じく大規模な群れの縄張りに対する強襲等、多くのモンスターを相手取る戦闘は有事以外でも起こり得る、軍として動く必要のある事態としてどの国でも想定がされており、対軍ならぬ対群戦闘は各国国防軍にとってお手のもの。加えて相手はモンスター且つ、戦場は街の形こそしているもののその実態は異空間と、その力を振るう上で気にする事など一切ない状況である為に、迎撃戦力としてカオスモンスターの大群を差し向けるのは、相性的にかなりの悪手であった。特に周囲への被害を考えなくて良い点は大きく、その殲滅速度は女神に引けを取らない程であった。
しかしそれに対して、アルテューヌは然程焦ってはいない。神生オデッセフィアの
(あの巨大な穴といい、場所を分かってるように真っ直ぐこっちに向かって来てる事といい、やっぱりクロワールは向こうに付いたみたいね。…これが、クロワールの思う面白さなのかしら)
この突入がクロワールの存在を前提としていると確信したアルテューヌが思うのは、クロワールの意図。裏切るだけなら残念だが分かる、相手側に付くのも理解は出来る、だが果たしてこれが、クロワールの望んだものなのかと、この戦いがクロワールにとって面白いと思うものなのかと、少しの間考える。考え、想像し…しかし考えても仕方のない事だと、結論が出る前にその思考を切り上げる。…これが面白いものを見る為ではなく、自分が本当に面白いと思うもの、人間のネプテューヌとの『これから』の為にクロワールが選んだ道なのだという事を、アルテューヌは知る由もない。
そして、戦闘に直結しない思考を切り上げたアルテューヌが考えるのは、別の事。打って出ると言って向かっていった…しかしセイツ達の進軍に対して何のアクションも見せない、ネプギアの事。
「…ネプギア、何のつもり?まさか、貴女も……」
アルテューヌの頭に浮かぶのは、ネプギアへの疑念。手を出せないのではなく、手を出さない…わざと見逃しているのではないかという、彼女への疑い。まさかという思考を、アルテューヌは無意識的に口にし…その瞬間、胸がざわつく。嫌な感覚が、胸中で渦巻く。…それは何故か。ネプギアからも裏切りの可能性を感じたからか。それとも、ネプギアを疑ってしまったからか。その感覚は、疑ってしまう自分に対するものなのか。再びすぐには答えの出ない思考が芽生え…アルテューヌは、首を横に振る。
「…いや、そう決め付けるのは早計ね。相手は軍だけじゃないんだもの。正面から迎え撃つのは不利だと判断して、後ろからレジストハート達へ仕掛けようとしている可能性も──」
そうかもしれない。しかしそうではないかもしれない。ネプギアには策がある様子だった、今はそれを虎視眈々と目論んでいるのかもしれない……そこまで考えたアルテューヌは、ふと気付く。
レジストハート達。アルテューヌはセイツと
(…間違いない。今軍と共に近付いてきている女神は、レジストハートだけ。だとしたら、他の女神達は艦内で待機している?第二陣として、外で控えている?…それとも、まさか……)
着実に進むセイツとアヴァラスだが、それは相性と兵器の性能、それに各員の能力あってのものであり、決して女神という突出した戦力によるものではない。この進軍に、セイツ以外の女神は関わっていない。
だとすれば、他の女神はどこにいるのか。今はまだ姿を見せず、仕掛けるタイミングを伺っているのか。それとも本当に、突入する戦力は神生オデッセフィアだけなのか。焦る事なくアルテューヌは考え、門が開いてから今に至るまでの事を一つ一つ思い出し…一つの可能性に、思い至る。
そしてそれは、奇しくもネプギアが思い付いた可能性と同じであった。進軍を見逃すネプギアもまた…気付いた可能性に基づき、動いていたのだった。
*
艦隊の集中砲火としか思えない豪快な露払いと、そこからの
だけど、気付いた。お姉ちゃんも、ユニちゃん達も…セイツさん以外の女神が、誰もいない事に。…そんなの、あり得ない。チームを分けて、正面突破はセイツさん達が担当する…みたいな事ならあり得るけど、これだけの事態を前にして、皆は何もせずにいて、セイツさん達だけに突入させるなんて事は、絶対にする訳がない。アルテューヌさんとの戦いを、今のお姉ちゃんが人任せにする筈がない。
だからきっと、これはいないんじゃなくて、いないように見えている、見せかけているだけ。強烈な集中砲火も、そこからの進軍も、100%その為だけ、って事はないだろうけど…その目的の一つは、恐らく陽動。派手な進軍は、迎撃の目を引き付ける為の意図的なもの。つまり…お姉ちゃん達は、必ずどこかにいる。
(わたしが到着する前に突入していた可能性は…いや、ない。それじゃあ砲撃もアヴァラスも陽動にならないし、クロワールさんが情報を隠してなければ、真っ直ぐ向かってきたわたしと鉢合わせする可能性もあった筈。それに今は、自分が見てない…全く分からない可能性を考えても仕方ない…!)
進軍の迎撃はカオスモンスターに任せて…っていうか、モンスターでも多少の時間稼ぎにはなる筈って割り切って、一度物陰に身を隠す。自分が見てきたものを、ゆっくり振り返って…口元に、手を置く。
「…最初の砲撃の時、爆炎と煙で門の周辺は全然見えなくなっていた…だったら、もしかしたら……」
確証はない。だけど今一番ある得るのは、その可能性。だからわたしは、それに賭ける事にする。口元から手を離して、そこから飛び立つ。
(急がないと…わたしの見立て通りなら、きっとまだ……)
時空の歪みの中で形作られた街。その上空を、全速力で駆け抜ける。もしもわたしの見立てが外れていたら、わたしの読みの裏をかかれていたら、間に合わなくなる。でも、そんな心配をしたって何にもならない。動く前に確証を得る事は出来なくて、可能性全部に対応する事も出来ないなら…これだって選んだものを、選んだ自分を信じるだけ。後はそれが合っている事を願うだけ。そして……
「──ふ…ッ!」
脚を大きく前へ振り出すようにして、急ブレーキ。同時に姿勢を整えながら、眼下にM.P.B.Lの銃口を向ける。狙いを定め…収束させたシェアエナジーの一撃を放つ。
撃ち込んだ光芒は、街の路面に直撃する。狙った通り、少し先の場所を撃ち砕く。わたしが見つけた、わたしが探していた……低空飛行で街の中を飛んでいたお姉ちゃん達を、押し留める。
「…やっぱり、最初の掃射に紛れて、あれを目眩しにして突入していたんですね」
下からわたしに向けられる視線。それに答えるように見返しながら、わたしは言う。目だけを動かして、セイツさん以外の女神が全員いる事を確認する。…良かった、予想が外れてなくて。
「よく分かったわね。それに、アタシ達の侵攻ルートへ先回りを掛けるだなんて、一体どこまで読んでるのよ?」
「なにもかも、なにもかも…なんてね。…これについては、ユニちゃんだって分かってるでしょ?砲撃を目眩しに突入したって気付いた時点で、予想するのは簡単だって」
「ふん。…まぁね」
鼻を鳴らして、ユニちゃんはわたしの言葉を肯定する。実際、予想するのは簡単だった。隠れたまま進むなら、障害のない空を進む訳にはいかないし、最短距離…直線で向かうルートはセイツさん達が採っているし、カオスモンスターの迎撃もある訳だから、こっちも隠れては進めない。となると迂回するルートになるけど、巨大な扉から見て左側は、比較的開けた空間になっているから…残る選択肢は、右回りで迂回するルートだけになる。
そこまで分かれば、後は地上を、街の中を見回せる高度から追い掛けるだけ。…まぁ、そうは言っても要は『ざっくりしたルート』しか分かってない訳だから、見つけるまでのわたしは必死になって目を凝らし続けてたんだけど…それは言わない。…格好悪いから。
「で、アンタはどうするつもり?まさか、一人でアタシ達全員を相手にするつもりだなんて言わないでしょう?」
「どうするつもり、か…それは勿論──」
「ちょっと待った!なんでたたかうことがゼンテーみたいな言い方してるのよ!」
「え、いや、だってそれは……」
わたしの言葉を遮る、ラムちゃんの声。味方からの突っ込みに、ユニちゃんは目を丸くして…その中で、ロムちゃんが前に出る。
「ネプギアちゃん。わたしたち、たたかわなきゃダメ…?たたかわなきゃ、ダメなの…?」
「…ロムちゃん達が味方になってくれたら、戦わなくても済むよ」
「…おい、ネプギア……」
「待って。…わたしも、ラムちゃんも…みんな、ネプギアちゃんの味方だよ。敵なんかじゃ、ないよ」
静かにブランさんを制止したロムちゃんは、わたしを見上げる。その隣にラムちゃんも来て…二人が、わたしを見つめる。真っ直ぐな瞳が。女神の瞳が。…友達の、瞳が。
(…不味いな、これは…これはちょっと…ううん、かなり揺らいじゃうかも……)
もしこれをお姉ちゃんやユニちゃん達が言ったなら、色々湧き上がる気持ちはあっても、落ち着いて返せたと思う。だけど、ロムちゃんに言われると…二人に見つめられると、流石に落ち着いてはいられない。わたしやユニちゃんよりも幼くて、純粋で…だけどこうしてここまで来た、ここに立っている二人だからこそ、心が締め付けられる。
…でも、折れはしない。折れるようなら、わたしだってここまで来てない。だから小さく、皆には見えないように小さく深呼吸をして…わたしは、返す。
「…ありがとう、ロムちゃん。でも…違うよ。わたしが言ったのは、わたしの味方にって事じゃない。…お姉ちゃんの、味方にって事なんだよ」
「ネプギアのおねえちゃんは、ネプテューヌちゃんでしょ?ネプテューヌちゃん以外に、だれがいるっていうの?」
それも、ラムちゃんの言葉も、心に突き刺さる。何の曇りもない言葉だからこそ、小手先の返しや、嘘や偽りで答える事そのものが、辛くなる。
そんな気持ちを抱きながら、わたしは二人を見つめ返す。無言で、わたしからも見つめて…ユニちゃんが、動く。ユニちゃんは、ロムちゃんとラムちゃん、二人の肩に優しく手を置く。
「そこまでにしておきなさい、ロム、ラム。気持ちは分かるわ、分かるけど…ネプギアだって、譲れないものがあるのよ。ネプギアなりに、何が何でも貫きたいものがあるから、その為にネプギアは戦っている。だから…これ以上の話をするなら、勝って、捩じ伏せて、その上でもう一度話すしかないのよ。…そうでしょ?ネプギア」
「…ほんとに、ユニちゃんはよく分かってる…よく分かってくれてるね」
「えぇ、よく知ってるわよ。アンタが意地っ張りな事も、頑固な事も、割と融通が利かない事もね」
「それは全部似たような意味だよ、ユニちゃん…」
言葉と共に、X.M.B.を向けてくるユニちゃん。意図せず似たような言葉を並べたのか、それとも似た言葉を重ねる事で改善を求めているのかは分からないけど…確かにもうこれ以上、ただ会話を続ける訳にはいかない。…初めから、ロムちゃんとラムちゃん以外は臨戦態勢だから。二人の為に待ってくれていただけで…そうじゃなきゃ、もう戦いは始まっていた筈だから。
「…ネプギア。貴女はここが、時空の歪みがどういうものなのか分かった上で、変わらずアルテューヌの味方をしている…そうなのね?」
「そうだよ、ネプテューヌさん」
「…なら、もう一つ確認しておくわ。クロワールに情報を伝えたのは……」
真剣そのものな、面持ちと声。鋭い…けれど敵意なんてない、真意を推し量りたいんだという意思が伝わってくる瞳で、お姉ちゃんはわたしを見据える。
それにもわたしは、無言を返す。無言で、返す。言葉ではない答え、何も言わないという回答を示して…お姉ちゃんは、小さく頷く。そして……
「貴女の答えは、よく分かったわ。だから…退きなさい、ネプギア。私達は信次元の『今』と『これまで』を守る為に戦っているわ。それを邪魔するというなら、容赦はしない。それがたとえ、妹である貴女だったとしても…ね」
「退かないよ。たとえ相手がユニちゃん達であっても、わたしは退かない。わたしはわたしの…思いを貫く」
お姉ちゃんからの視線と言葉に、真っ向から返す。地上に降り立ち、皆の前に立ちはだかる。
空気は一触即発。いつ誰が仕掛けてもおかしくないような状況で…でも、誰も動かない。そしてその理由は恐らく…わたしにある。
「仕掛けてこないんですか?わたしは多勢に無勢でも構いませんよ?」
「はっ、よく言うぜ」
「賢いネプギアちゃんの事ですもの。何か策がお有りなのでしょう?」
やっぱり、とわたしは心の中で呟く。…うん、当然だ。わたしだって、立場が逆ならそれを警戒する。普通に考えれば、どう見ても不利…どころか話にならないような劣勢で、それなのに落ち着いて、一人で立ちはだかってきたとなれば、誰だって策や罠の存在を疑う。そう思わせる為のハッタリだったとしても…というか、ハッタリかどうかを見極める為にも、まずは警戒するのが妥当な選択。
そしてそれは、間違っていない。皆が警戒している通り…わたしには、策がある。無策で、勢いだけで立ちはだかったりはしない。
(ここからどうやってお姉ちゃんを…いや、最初から欲張っちゃ駄目。一つ一つ、進めていくんだ…!)
策がある事は予想されている。だけどそのおかげで、こっちの出方を伺ってくれているおかげで、わたしも落ち着いて動く事が出来る。
一瞬力を抜いて、それから全身に力を込め直す。お姉ちゃん達全員を見据えて…ビヨンドフォームを、解放する。
『……!』
「正解ですよ、ベールさん。そしてこれが…時空が歪んでいるという事ですッ!」
表情が険しくなる皆の前で、わたしはビットを展開。大小合わせて十二基の端末を展開し、その砲口を皆へと向ける。そして皆が散開する中、わたしはその砲口、それにM.P.B.Lをそれぞれ別の方向へ向けて…一斉に、放つ。
「……?どこ狙って……」
「…待った、これは……!」
四方八方へ駆け抜ける光線。でもその光線は、全てが外れる。一発たりとも、お姉ちゃん達には当たらない。避けられたとか逸らされたとかじゃなくて、初めから全てが全て、誰もいない位置を撃ち抜いている。
その事に、疑問の声を上げるうずめさん。でもその直後、くろめさんが察したような表情を見せる。全部理解したのか、ざっくり何かありそうだと思っただけなのかは、今の反応だけじゃ分からない。でも、どっちだとしても問題はない。だって…もう、わたしの策は発動しているんだから。
駆け抜けた、十三の光。NG粒子を帯びた光線。これは、お姉ちゃん達を狙った攻撃なんかじゃない。明後日の方向を撃ち抜いたのも、狙っての事。狙い通りに光線は周囲へ伸びていって、光芒が軸になるように、そこを起点とするように……周囲の空間が、歪み始める。
『な……っ!?』
目を見開くお姉ちゃん達の前で、更にわたしは光線を放つ。その度に、歪みは広がっていく。歪みが繋がり、周りを覆っていく。わたしの意図に気付いたみたいで、お姉ちゃん達は離脱をしようとするけど…もう遅い。お姉ちゃん達が範囲外へ出るよりも一瞬早く、広がっていった歪みは閉じる。時空の歪みの中…その中で更に、隔絶された領域が一つ生まれ…完成した。
「ネプギア、アンタこれって…!」
「大丈夫だよ、ユニちゃん。これは時空の歪みが不安定な領域な事を利用して、更にその中を少し歪めただけ。別に新しい『時空の歪み』を作り出した訳じゃないし、何もしなくても暫くすればこの歪みは消滅するよ。…消滅するまでは、そう簡単には脱出なんて出来ないけどね」
鋭い視線を向けてくるユニちゃんに、軽く肩を竦めて返す。この言葉に、嘘はない。NG粒子を用いてほんの少し時空の歪みの中を弄っただけだから、これが新たな脅威になったりはしない。一時的なものに過ぎないし…だけど歪みは歪みだから、物理的な突破はほぼ不可能。わたし自身、更に歪ませる事は出来ても任意の解除は出来ないし…出来る可能性のある方法も、わたしが思い付くのは一つだけ。
「先手必勝で仕掛ければ、こうはならなかったかもしれない…って訳ね。やるじゃない。けど…それは自ら退路を断ったも同じ事。違うかしら?」
「そうですよ。だけど、わたしは一人。たった一人で皆さんを暫く足止め出来るなら、首尾は上々というものです」
「…ネプギア、まさか貴女は捨て石になるつもり?」
「まさか。これはネプテューヌさん達に抜かれないようにする為のもので、後ろ向きな策なんかじゃないよ?」
大剣の斬っ先を向けながら言うノワールさんと、構え直すお姉ちゃん。その直前、ブランさんはちらりとロムちゃんラムちゃんへ目配せをして、それを受けた二人は歪みに向かって魔法を放つ。収束された青白い光線が、歪みへと触れて…二つの光線は、湾曲。ぐにゃぐにゃに歪んで、歪みに飲み込まれて、拡散した光の一部は内側へと戻ってきて…そして、消える。
(ここまでは、上手くいった。だけどまだ安心しちゃ駄目。それにお姉ちゃんを何とかしなきゃ、本当に上手くいったなんて言えない。だからここからは、上手く誘導して…けどやっぱり、どうしても賭けにはなっちゃう…かな…)
皆を自分諸共歪みの中に閉じ込める事が出来たのは、全員が慎重でいてくれたから。でもその結果わたしの一手が決まった以上、もう同じ事は望めない。慎重かつ大胆に動いてくる事は間違いない。
だけど、わたしの策だって一つじゃない。タイミングを、一つ一つのチャンスを正確に見定める事が出来れば…きっと、上手くいく。
「後ろ向きの策じゃない、ね…それなら尚更、容赦する訳にはいかないわ。皆、全力でいくわよ」
「簡単に勝てるとは思わないでほしいな。ネプテューヌさんの事は勿論だけど、わたしはこれまで前にも後ろにも動く戦い方をしてきたからこそ、ユニちゃん達の事だって……」
ビットを全てプロセッサの浮遊ユニットへ戻して、全員の位置を確認する。どう動いてくるか、どう対応するべきか、その上でどうやってわたしは……
(──って、あれ……?)
そう、考えていた時だった。頭の中で、何かが引っ掛かったのは。何かがおかしい、変だと感じたのは。それが何なのか、すぐには分からない。でも確かに、どこかに、おかしなところがある。直感が、そうわたしに告げている。
もう一度、わたしは全員を見回す。誰か欠けている?…違う。何か不審な動きをしている?…それも違う。なら何か、ここまでのやり取りで見逃しちゃいけない、聞き逃しちゃいけない、そういう何かがあるんじゃないかと思って……そしてわたしは、気付く。
「…ぁ……」
それは何気ない、本当に何気ない事。むしろそれが普通で、これまでが変だったとも言える事。だけど、明確に違う。確実に、絶対に…間違っている。
「…誰、ですか……」
「…ネプギア?どうかしたの?」
「貴女の事です、ネプテューヌさん…貴女は、ネプテューヌさんじゃない…一体──誰ですか…!?」
首を傾げるお姉ちゃん…いや、お姉ちゃんの姿をした『誰か』。見た目はどこからどう見てもお姉ちゃん。声だって、間違いなくお姉ちゃんのもの。でも違う。お姉ちゃんじゃない。お姉ちゃんならしている筈の事を…この人は、ここまで一度もしていない。
「…ふむ、ここまで下手を打ったつもりはなかったが…やはり実の妹は誤魔化せないという事か。…どこで気付いた、ネプギアよ」
「…被せですよ」
『被せ?』
「お…ネプテューヌさんは、前にわたしと会った時、わたしが『ネプテューヌさん』と呼ぶ度に、『お姉ちゃん』と訂正してきました。わたしの言葉に被せてまで、徹底してネプテューヌさん呼びを許しませんでした。だけど、貴女は違う。真っ直ぐ自分の言葉は曲げないネプテューヌさんが、訂正を止める筈なんてない…!」
数拍の後、お姉ちゃんの姿をした誰かの雰囲気が変わる。全く違う…でも誰かに似ているような雰囲気になり、わたしへと問い返してくる。その問いに、わたしが返せば…抱いた違和感の正体を明かせば、お姉ちゃんの姿をした誰かは目を丸くし…笑う。
「…そうか、しまったな…まさかネプテューヌが、そんな事をしていたとは…。だが…ふっ、確かにそれなら納得だ。成る程成る程、確かにネプテューヌはそういう女神だったな。マザコンヌだのマジェっちだの、毎回わざと言い間違え続けていたんだものな」
「マザコンヌ…?…って、まさか…貴女は……!」
これは一本取られた、とばかりにお姉ちゃんの姿をした誰かは頷く。確かにそうだ、と懐かしむような表情を見せる。
そしてその『誰か』が挙げた、ある人の事を指す名前。わたしもよく知る、ある人の事。まさか…そうわたしが思う中、考えがそのまま口を衝く中、お姉ちゃんの姿をした誰かは光に包まれ……
「──すまない、ネプギア。悪いが、騙させてもらったぞ」
……その人は、本当の姿を現した。わたしの前で、皆の前で──マジェコンヌさん、本来の姿を。
「悪いが騙させて…逆にすると、途端に何か狙った発言の様に聞こえますわね」
「いやそこは気にしなくていいだろ…ネプテューヌの姿のままなら、そっちで言ってた気もするが…」
(…そ、っか…聞いた事がある、確かマジェコンヌさんは……)
お姉ちゃんの姿をしていたのがマジェコンヌさんだったと分かった事で、わたしは思い出す。嘗てマジェコンヌさんは、敵だった頃のマジェコンヌさんは、お姉ちゃん達の力を奪ったり、コピーしたりしていたらしい事を。その力を用いて、同じ外見を取る事も出来たんだって事を。
正体に驚いているのは、わたしだけ。つまりこれは、ユニちゃん達は全員分かっていたって事。これもユニちゃん達の策略の一つだって事。
「…驚き、ました…まさか本当に、ここまでそっくりになれるだなんて…。…けどそれなら、どうしていーすんさんの時は……」
「何故イストワールの時は、自分がこの能力を用いて入れ替わらなかったのか、出来ると言わなかったのか、という話か?…姿を真似るには、まず対象の力をコピーしなければならないからな。そして私は嘗て、その力で女神の力をコピーした結果、本来の自分を忘れ、道を踏み外してしまった。…情けない話だが、怖かったのさ。同じように、また我を忘れる事が。再びこの信次元に害を成してしまう事が」
「…そういう事、ですか……」
「…だが、その結果仲間とはいえ、別次元の存在に頼らざるを得ないというのもまた、情けない話だ。やれる事があるのにやらなかった、恐れてやれなかった…その恥を雪ぐために、私は今ここにいる。…まぁ、嘗て程の力はない今の私に、長時間の変化をし続けられるかどうか分からないというのも、理由の一つではあったのだが、な」
静かに語るマジェコンヌさんの声には、重みがあった。自分が積み重ねてきたもの、してしまった事、それを背負った上で歩む今…そういうものを感じる、マジェコンヌさんだからこその言葉だった。
「…ネプテューヌさんが、影武者を立てて自分は安全な場所に…なんて事をする訳がない。って事は…陽動だったんですね。セイツさん達だけじゃなくて、マジェコンヌさん達も」
「いいや、攻め込むつもりではあったさ。無論、ここにネプテューヌがいると見せかける意図は確かにあったが」
「でも、アルテューヌさんが自由に動けるようにするって意味では、やっぱり陽動…ですよね?」
見つめるわたしへ、マジェコンヌさんはまた頷く。確かに『ただの陽動』にするには、贅沢過ぎる戦力だけど…別働の戦力がある以上は、陽動の側面もある事は事実。
まんまと騙された。完全にペースを掴んでいるつもりだったけど、先に策に嵌まっていたのはわたしの方だった。セイツさん達を陽動に侵攻する…それを見抜いた事で、逆にわたしは油断してしまっていた。…油断していなければ、マジェコンヌさんの事にもっと早く気付けたかっていうと…多分、無理だったんじゃないかとも思うけど。……でも。
「……ふふっ。でも、それなら良かったです。そういう事なら…好都合ですから」
策に嵌まってしまったのは事実。だけどその内容は、結果は、わたしにとって都合の良いものだった。わたしがこれから何とかしなきゃと思っていた事を、クリアしてくれる…ううん、そこは初めから気にしなくて良かったんだって、示してくれるものだったから。
好都合。わたしの言葉に皆が怪訝な顔をする中、わたしは軽く浮き上がる。そして、用意していた『それ』を、わたしのビヨンドフォームだからこそ出来る秘策を……発動させる。
「何か策があったとしても、ビヨンドフォームを使われたとしても、これだけの人数なら脅威じゃない。そう思っているなら…わたしの切り札が、ビヨンドフォームだけだと思っているなら…大間違い、ですよ?」
少しだけ芝居掛かった言い方をしながら、わたしは翼を広げる。プロセッサを、その力で包んでいく。暗い光が、わたしの身体を包み込む。
「ネプギア、アンタ何を……ッ!」
聞こえてくるのは、ユニちゃんの声。驚きと、緊張と…どこか心配も含んでいるような、ユニちゃんの言葉。それを受け止めながら、わたしはその力を収束させ…解き放つ。
変容したプロセッサ。これまでとは違う感覚。そういえば、ここにはお姉ちゃんもセイツさんも…あれを見た事のある人はいないんだったという事にも気付きながら、皆を見据える。そして、息を呑む空気が伝わってくる中……わたしは、告げる。
「これが、この戦いの為に用意した力。わたしの覚悟で、わたしの思いで、今わたしが出来る最大の一手。だからこの力は、今のわたしは、謂うなれば──ビヨンドパープル・
今回のパロディ解説
・「なにもかも、なにもかも〜〜」
MOTHER3における、第八章のタイトルのパロディ。なにもかも、一つなら日常的に使える単語ですが、これを繰り返すと、途端に使えるタイミングが限られてきますね。
・「〜〜真っ直ぐ自分の言葉は曲げない〜〜」
NARUTOの主人公、うずまきナルトの名台詞の一つのパロディ。名台詞というか、忍道ですね。マーベラスAQLやステマックスにも忍道があるかどうか、気になるところです。
・「悪いが騙させて〜〜何か狙った発言〜〜」
ARMORED CORE2 ANOTHER AGEに登場するキャラの一人、ランバージャックの代名詞的な台詞のパロディ。OEに続き、本作でも初代ラスボスのマジェコンヌが味方として活躍してくれてます。
ラストに出てきた『cHAOS』という単語ですが、頭文字が小文字になっているのはミスではなく意図的なものです。