超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
打ち合い、離れ、また打ち合う。突撃、後退、上昇下降と織り交ぜて、機動戦で激突する。力の勝負じゃない。技の勝負でもない。スピードでも、策略の勝負でもない。どれかじゃなくて…全ての、勝負。
「せぇええぇぇいッ!」
急降下から地面を蹴り、急上昇と共に斬り上げる。追って急降下を掛けてきたアルテューヌの振り下ろしと、刃同士で衝突する。
「勢いは……」
「こちらが上よッ!」
地面を蹴って加速を掛けたといっても、その力の何割かは急降下の勢いを殺す事に流れてしまっている。だから一瞬は拮抗したけど、その後は急降下の勢いをそのまま乗せたアルテューヌの振り下ろしに押し切られる。
けどそれは分かっていた事、予想していた結果。だからすぐさま押し切ってくる力を利用して、オーバーヘッドキックで返す。その場での後方宙返りで振り出した脚は、アルテューヌの三つ編みに触れて…けれど間一髪で躱される。アルテューヌはサイドステップをするように避け、ならばとわたしは更に回転。縦に続いて今度は横回転を掛け、避けたアルテューヌへ追撃の回転斬りを放つ。
(今度こそ、押し切る…ッ!)
大太刀を掲げての防御ごと回転斬りで押し切り、姿勢の崩れたアルテューヌへ刺突。迷いなく斬っ先を喉元へ突き出し…アルテューヌの姿が、下にずれる。倒れるように、上体が落ちていき…同時に蹴りが下から迫る。
それはまるで、さっきの意趣返しのようなカウンター。何とか身体を捻って、斜め前に身体を逸らして避けたわたしだけど、ここからの反撃は出来ない。わたしは一度離れ、即座に振り返り、反転しながら構え直す。…今の蹴りが意図的な意趣返しなのか、同じわたしだからこそ自然と似たような動きになったのかは、分からない。
「どの動きも予想の範疇ね、面白味がないわ」
「あら、それはお互い様だと思うけど?」
短い、そして冷ややかなやり取りを交わして、即座にまた仕掛ける。斬り結び、真っ向から力と力でぶつかり合う。
実際ここまで、わたしから見てもアルテューヌの動きに予想外のものはなかった。全て想定した通りの動きをしてきたって訳じゃないけど、度肝を抜かれるような事はなかった。だから単発の攻撃は勿論、連続攻撃もかなりのものじゃない限りは対応される。揺さ振りをかけようとしても、十分に練らなきゃすぐ見抜かれる。逆に、アルテューヌがそういう事を仕掛けてきても、半端なものなら脅威にはならない。
つまり、このまま戦うだけじゃ消耗戦になる事は必至。もう最初みたいにお互い同じ動きをする…なんて事はないから、どこかで均衡は崩れるだろうけど、それがいつになるかは分からないし、それを待つなんて受け身の考えじゃ勝てるものも勝てない。積極的に勝ちを狙うなら、その為の道は二つ。『予想の範疇』を超える為に、超える瞬間へ向けて徹底的に積み重ねていくか…そもそも予想なんて出来ない、分かる筈のない力でぶつかるか。
「…ふっ、わたしを孤立させたのは賢明な判断ね」
「…何が言いたいの?」
「気付いたのよ、わたしにあって貴女にない力を。貴女には、皆と連携する力がない。経験も、信頼も、絆もないんだもの」
「…ふん、安い挑発ね。ここにはいない、頼りには出来ない相手の事をひけらかしたって滑稽なだけだわ」
斬り結んだ状態から互いに離れたわたし達は、教会上空を飛び回る。接近はしても攻撃はせず、仕掛けるチャンスを、隙を伺う。
わたしの言葉に、アルテューヌは動じない。まあでも、別にいい。言いたいから言っただけで、駆け引きとしての意味なんて元から大して考えていない。
「それに、どれだけ絆を誇ったところで、ネプギアが貴女を見限った事は事実よ。ずっと同じ時を過ごしてきた、妹のネプギアが…ね」
「…何も分かっていないのね、貴女は」
「分かっていない?」
「わたしとネプギアは、喧嘩する程仲が良い、って事よッ!」
言葉を叩き付けると共に、力任せに急旋回。慣性を捩じ伏せて、一気にアルテューヌの正面へ回り込む。その勢いのまま、気合いを込めた斬撃を打つ。
(まあ、実際にはこれまで殆ど喧嘩なんてした事なかったけど…ねッ!)
心の中で付け加えながら、防御するアルテューヌへ斬撃を押し込む。下がるアルテューヌへ対して精製速度重視の小型エクスブレイドを放ち、弾いたアルテューヌへと更に斬りかかる。
わざわざ碌にした事もない喧嘩を引き合いに出したのも、横や上方ではなく無理してでも正面を取って打ち込んだのも、精神面で上に立つ為。心で上回る為の、一つの駆け引き。
「…気に食わないわね…」
「気に食わない?」
今は攻め時、防がれようともすぐさま次の攻撃を仕掛けるべき。そんな直感に従って次々わたしが打ち込めば、アルテューヌは細かく位置取りを変えながらも、防いで避けての防戦に入る。そうなれば、切り崩すのが先か、それとも息切れするのが先かの勝負になる…と思いはしたけど、結果が出るよりも先に、アルテューヌは呟く。
「気に食わないわ。結局勝つのは自分、自分こそが本当のネプテューヌだって思ってる、その態度が、心持ちがね…ッ!」
「それは……ふん、当然の事よ。どうせ貴女だって、同じように思っているんでしょうに…ッ!」
上段からの振り下ろしを打ち込んだ直後、アルテューヌは動く。ここまでは防御と回避に徹していたアルテューヌが、下がらず大太刀をぶつけてくる。それは、攻撃じゃない。ただわたしの斬撃に対し、初めから受けるんじゃなくて、自分から得物をぶつけてきただけ。でもそれによって、ほんの僅かにペースが乱れる。
…ううん、それだけじゃない。変わったのは動きだけじゃなくて、アルテューヌが纏う雰囲気もそう。元々刺々しい敵意を向けてきていたアルテューヌだけど…そこから更に、漂う雰囲気の剣呑さが増す。
「当然よ、本来在るべき『ネプテューヌ』はわたし、貴女は所詮記憶を失った事で生まれた後付けの存在に過ぎないんだもの。だけど、それでも、それなのに…今の信次元がネプテューヌとして認めているのは、貴女の方よ…ッ!本物はわたしなのに、わたしが記憶を失う前は、存在すらしなかったのが貴女なのに…ッ!」
攻撃でも何でもない押し返しから、反転攻勢を掛けてくるアルテューヌ。大振りな攻撃で身体を振り回しながら、流れるように連続で大太刀を振るってくる。普通、大振りな攻撃は隙が生まれ易いものだけど、アルテューヌは振り回されているが故の不規則な動きをわたしへの翻弄に利用している。恐らくは意図的な不規則さで、わたしの反撃のチャンスを潰してくる。
声に、斬撃に感じるのは怒り。純粋な、剥き出しの憤怒。わたしからすれば、それを怒りとして向けられるのは困る…少なくとも記憶喪失になった原因に関わっているのは、その時の『わたし』だったアルテューヌの方なんだから、その怒りをわたしに向けるなんてお門違いもいいところだって返したいものだけど、言ったところでアルテューヌが納得する筈がない。…それに、気持ちは分かる。同情も賛同もしないけど、そこにある怒りや悲しみを、理解する事は出来る。
「だから、間違ってるって言うの?だからやり直すって、取り戻すって言うの?信次元は、貴女の…貴女だけのものじゃないわ…ッ!」
「わたしは思い通りに作り変えようだなんて思ってはいないわ…ッ!ただ一つ、わたしの狂った部分を修正するだけよ…ッ!わたしの事を、わたし自身が…ッ!」
放たれた刺突が、届く直前で胸元から顔へと突き上げてくる。逸らそうと振り出したわたしの大太刀が、紙一重ですり抜ける。やられた、でも機動変更の分打ち込む速度は低下した。それを見抜いたわたしは、首を傾け…間一髪で、刺突を躱す。刺突はわたしの頬を掠めて、薄皮一枚裂いただけで顔から外れる。
すぐさま蹴り付け、わたしは反撃。下がって避けたアルテューヌへ、宙で踏み込みながら横薙ぎで攻める。自分で評するのもアレだけど、ここまでわたしは冷静に、沈着に戦っていた。でもアルテューヌの怒りに当てられて、わたしも感情を揺さ振られる。喚起された激情が湧き立つ。
「狂った?…今でこそ…こうして貴女が、過去のわたしが別の存在として姿を得た今だからこそ戦いになっているだけで、わたしも貴女も同じ『信次元のネプテューヌ』でしょう…ッ!別なんかじゃない、貴女の延長線上にわたしがいるのよ…ッ!」
「そうね、記憶を失うだけなら確かにそうだったかもしれないわ。けど貴女はこの私を…過去をないものとして扱った!わたしと貴女が別の存在となったのは、そうしたのは、他でもない貴女よッ!」
「それは、未来に進む為よッ!ノワールと、ベールと、ブランと…皆で一緒に、皆との未来を描く為の選択よ!だからわたしは、そうした事を…今も昔も、一度も後悔なんてしていないわッ!」
互いに放ったエクスブレイドがぶつかり合って砕ける、その破片の中を突っ切るようにして飛び込み斬り込む。わたしは逆袈裟を仕掛け、アルテューヌは避けると共に上段からの胴打ちで返してくる。迫る刃を、逆袈裟懸けの状態から左手を持ち上げ、逆に刀身を下げる事で、寸前で斬撃を受け止める。斬り結ぶ刃越しに、視線と言葉も叩き付ける。
分かる。理解出来る。もしわたしとアルテューヌが逆だったら、わたしだってきっと素直に受け入れる事は出来なかった。…でも、だからって後悔はしない、していない。だって今があるのは、あの選択があったから。それより前も、それより後も…色んな選択の末に、今があるから。反省する事は多くても、後悔なんて…絶対しない。
だから、その思いを乗せて押し返す。間髪入れずに大太刀を持ち上げ、追撃の姿勢を見せ…その上で大太刀の間合い以上に、一息で踏み込む。斬り掛かると見せかけての肉薄で意表を突いて、片手持ちの大太刀をアルテューヌの大太刀へ押し付ける事で動きを阻んで…離した左手を、真っ直ぐ振り抜く。
「ぐ……ッ!」
拳に感じる、確かな感覚。触れる直前、僅かにアルテューヌは身を引いていて、その分受け流されて100%の力は伝わらなかった。だけどそれでも、一発入った。漸く一発、アルテューヌの頬に拳を叩き付ける事が出来た。
(まだわたしには余裕がある。だけど恐らく、それは向こうも同じ事。予想はしていたけど…厳しい戦いね……)
今のだけじゃ、戦いの流れを引き込むには至らない。今のは価値ある一発だけど、ここから更に気を引き締める必要がある。その思いと共に、わたしは構え直し、アルテューヌを見据える。対するアルテューヌもまた、頬に手を当て…その手を離す。より鋭くなった眼光を、わたしへと向ける。
「…でしょうね、分かっていたわ…えぇ、手に取るように分かるわ。貴女が後悔しないって事は。だって同じ、『ネプテューヌ』なんだもの」
ゆらり、とアルテューヌも構え直す。一見構え直すその動きは、隙だらけで…でも、安易には踏み込めない、踏み込んじゃいけないと思わせる雰囲気がアルテューヌを包む。
「構わないわ、後悔なんかしてくれなくて。後悔したところで、その後悔には何の意味もないし…わたしは人任せになんてしない。わたしが、わたしの力で、わたしの未来を取り戻す」
「させないわ。貴女の未来は、わたしよ。これが、ここにいるのが…ネプテューヌの今で、未来だから」
真っ直ぐな声と瞳に、否定で返す。皮肉に取られてもいいと思いながら、真っ向からアルテューヌの思いを否定する。わたしとアルテューヌは、互いに相手を睨み合い…訪れる沈黙。次の動きまでの、次なる激突までの、不意の静寂。
下手に動けば、後の先を取られる。同じわたしだから、感覚だけでカウンターを放てる。だからこそ、わたし達はお互い仕掛けるチャンスを伺う…一瞬の隙を掴むべく、全神経を集中させていた、その時だった。
「……っ!これは…!?」
突如として、何の前触れも予兆もなく、周囲に広がっていた歪みがその姿を変える。色なんてなかった、上手く形容出来ない姿だった歪みが、紫の光を浴び始める。
「……ふ、ふふっ…あははははははっ!」
すぐさまわたしが視線を戻せば、アルテューヌは笑い始める。全て分かっているように、待ち侘びたとばかりに、微塵も隠さず笑い声を上げる。
じわり、と心の中に広がる嫌な予感。いや…予感なんて、感じるまでもない。戦闘の最中にこんな笑い声を上げた時点で、それがわたしにとって良い事である筈がない。
「漸く、漸くこの時が来たわ!これで、やっと…!」
「…まさか……」
「ふふ、安心して頂戴。まだ信次元は、何も変わっていないわ。…だけど、クロワールから聞いているでしょう?──この領域の…時空の歪みの掌握が、完了したわ」
余裕に満ちた表情から、ふっと真剣な面持ちへと変わるアルテューヌ。掌握の完了…それが意味するのは、アルテューヌの目的…過去を塗り替える為の準備の完了。まだ何も変わっていないなんて言ったアルテューヌだけど…恐らくもう、すぐにでもアルテューヌは変えられる。変えられてしまう。
「これで道は開いたわ。後は歪みを、信次元全域に広げるだけ。この領域で信次元を包むだけよ。…さあ、どうする?それでもまだ、抗うつもり?」
「抗う?…口振りが完全にラスボスのそれね。くろめもそうだったけど、明らかに女神の在り方から外れてるって思う瞬間があったりはしないの?」
「一つの存在としての在り方すら一度失ったのよ?それに比べれば、大した事じゃないわ。それに…どんな存在になろうとも、わたしのプラネテューヌを、国民を思う気持ちは変わらない」
「…そうね。その点だけは、一度も疑った事なんてないわ」
過去を変えるという事は、今を否定するという事。喜びも悲しみも、成功も失敗も、誰もがそれぞれの形で積み上げてきたもの全てを、無に帰すという事。だから許せないし…だけどアルテューヌが国民を思っているというなら、女神としての思いを捨ててはいないなら、それは認める。やろうとしている事は許さないけど、その心までは否定しない。…そう。わたしは心を否定しようだなんて、欠片も思わないけど……
「…まだやる気、って訳ね」
大太刀を握り直して、斬っ先をアルテューヌへ向ける。言葉ではなく、態度で示す。
「たとえどんな状況でも、もうどうにもならないと思える中でも、わたしは諦めないわ。だって、わたしの辞書に諦めるなんて言葉はないもの」
「…でしょうね。こっちだって、諦めてくれるとは思ってなかったわ」
「それなのに訊いたの?…とは言わないわ。それに…そもそもまだ、どうにもならない訳じゃない。そうでしょう?」
わたしの問いに、今度はアルテューヌが無言を返してくる。何も言わず、わたしの事を見据えてくる。
これは、予想の出来ていた反応。だから、それならそれでとわたしは続ける。
「だって本当に全ての準備が整ったなら、即座に時間を戻してしまえばいいだけだもの。でも、貴女はそうしていない。…つまり、まだ出来ないんでしょう?信次元全域に広げるのにも時間が掛かるのか、それとも集中しなくちゃ時間は戻せない…だからまだ戦う意思のあるわたしの前で行う訳にはいかないのか、その辺りは分からないけど…貴女を倒して止めるっていう、わたしの目的を遂行する上では、掌握の有無なんて何も関係ないわ」
「…正解よ。貴女がいる限り、貴女を倒さない限り、わたしは制御に全力を注げない。それに、最初に原天界帰を試みた時は気付かなかったけど…今ははっきりと分かるわ。貴女が抗うのなら、わたしを倒そうとするのなら、わたしも貴女を倒さなくちゃ、実行出来るかどうかだけじゃなくて…心が、真に望むべき未来へ全身全霊になる事が出来ないって。だから……終わらせるとしましょう?」
動揺する事なく、淡々とアルテューヌは指摘を認める。もう一人の自分を倒す…その意思を、改めてもう一人の自分へと突き付ける。
そして、アルテューヌの身体はカオスエナジーに包まれる。その姿が、在りようが、変質していく。
「…そうね。わたしも…そのつもりよ」
カオスの力を見据えながら、小さく息を吐く。全身に力を、シェアエナジーを漲らせる。アルテューヌに呼応するように…力の限りで迎え討つべく、わたしはネクストフォームを解放する。
わたしが身に纏うのは、進化した女神の力。アルテューヌが操るのは、女神の存在からは外れた力。元は同じ、一つのネプテューヌだったわたしとアルテューヌ。だけど今、別の存在となったわたし達が紡ごうとしているのは…その為に掴んだのは、別の道。その先にあるのは、別の未来。
『この力を以って、
「──わたしは未来を、守り抜く」
「──わたしは未来を、取り戻す」
研ぎ澄ます感覚。見据える勝利。そしてわたし達は、翼を広げ…ネクストとカオスが、激突する。
*
セイツと共に先行する第一小隊の役割は、先導としての露払い。アヴァラスに付き従う第四小隊の役割は、機動性を活かした直掩。そして第二及び第三小隊の役割は、殲滅と制圧。こじ開けられた穴を広げ、道へと変える侵攻の本隊。
一直線に進んでいた
「オラクル1よりオラクル9、オラクル10へ!障害となるモンスターは掃討した、いけるな?」
「オラクル9、了解!」
「こちらもいけます…!」
ビームマシンガンで地上のモンスターを追い立てながら、声を上げるサクリスタン特務中佐。彼の言葉を受け、二機のMGが…ルヴァゴユニットとは違う、デルタ翼の無人機ユニットを装備した航空形態のマエリルハが急降下を掛け、着地の寸前でユニットを背負ったままの変形を行う。一対の脚部で路面を踏み締め、バックパック状態のユニットから腋の下を通す形で展開した長砲身の火器を構える。続いて左右腰部…ルヴァゴならばビーム砲、キエルバならばスラスターが基本装備となっているその部位に備えられた装備が稼働し…次の瞬間、搭載されたパイルバンカーが路面へ深く突き刺さる。
「吹き飛べ、モンスター共が…ッ!」
「この火力、病み付きになりそう…!」
射出されたパイルバンカーにより固定された機体が放つ、電磁投射の弾丸。高電圧により撃ち出された弾頭は、唸りを上げながら宙を駆け抜け、複数体のカオスモンスターを纏めて撃ち抜く。続けざまに二門の砲を肩越しに構え、荷電粒子の砲撃を叩き込む。
ガビエルム・ユニット。長距離支援砲撃を主眼とし、キエルバ、ルヴァゴに続く形でロールアウトした新装備。この作戦の為に、真っ先に配備されたユニットパックを、オラクル中隊のパイロットは早速使いこなし、その重火力で以ってカオスモンスターを蹴散らしていく。
「やはり大半のモンスターは正面から火力で叩くのが一番か…だとすれば……」
飛び掛かるカオスモンスターを機体のシールドの衝角で殴り付けたサクリスタンは、戦場へ視線を走らせる。火力においてはカビエルムに劣る自機の立ち回りを考え…直後、大型の飛行モンスターが飛来する。咄嗟にビームマシンガンを撃ち込むサクリスタンだったが、カオスモンスターは数発当たった程度では怯みもせずに突っ込んでくる。
上空から急降下により、一気に肉薄する大型モンスター。既に武装を切り替える隙はなく、姿勢的にバックパックのビーム砲も間に合わない。咄嗟の一手が失敗した事による、一転しての危機。
だが、ここでやられるようなら彼はオラクル中隊の…
「ちッ…邪魔だッ!」
鉤爪を構えての突進。それが機体に触れる、食い込む直前、サクリスタンは機体を翻す。両脚部のスラスターを全開で吹かし、逆にそれ以外のスラスターは姿勢制御用以外を全て切る事で、まるで操縦ミスをしたが如く、凄まじい勢いで後方宙返りを掛ける。その動きでカオスモンスターの真下へ滑り込み…更に回転する事によって、カオスモンスターをその背後から蹴り付ける。急降下の勢いを利用し、それを後押しするように蹴り込む事で、真下に落とす。
落下していくカオスモンスターに対し、回転の流れのまま軸合わせを行ったサクリスタンは、今度こそバックパックのビーム砲で追撃。二門で両翼を同時に撃ち抜き、追うようにして急降下。
その機体の腕部にあるのは、既にマシンガンではなくビームサーベル。それも二本の柄尻を連結させた、双刃刀。
「ふ……ッ!」
着地と同時に下へ向けた荷電粒子の刃を突き立て、間髪入れずに機体の手首を半回転。双刀の刃でカオスモンスターの胴を斬り裂き、瞬時に飛び立つ。
カオスモンスターの大群に対して有能なのは、正面からそれを薙ぎ払える火力。ガビエルムマエリルハやアヴァラスを初め、その火力を展開出来る戦力はある。そして単純な火力では押し切れない、力押しを躱して反撃してくるような力あるモンスターへの対抗こそが、自分の…高火力機以外の役目。それを改めて認識し、彼の駆るマエリルハ…徹底的なチューンがなされた本体と、彼の為に用意された専用ユニット、『スポーロス』によって実現する、圧倒的な機動力で以ってカオスモンスターの注意を引き付ける。
「チュイル特務中佐、引き戻したパンツァー隊の補給が完了しました。出撃させますか?」
「えぇ、半数は先程と同じくポイントデルタに、もう半数は……ふむ」
「…特務中佐?」
「そろそろ頃合いでしょう。残りの半数は私の指揮の下、ポイントアルファに向かわせます。新装備のテストに丁度良い状況ですからね」
一方で戦線の後方、アヴァラスの艦内。小隊に加え、前線に展開する陸戦無人機、パンツァー隊の指揮も担うオラクル2、チュイル特務中佐は微かに口角を上げて補給の為一度帰還した自機へと乗り込む。彼の指示の下、装備していたキエルバユニットのビームカノンが取り外され、代わりに別の砲が装着される。
そしてチュイルのマエリルハは出撃。自身も攻撃を行いつつ、パンツァー隊の砲撃を駆使して最前線へ進む。カオスモンスターを蹴散らしながら目標地点へ突き進んでいく。
「…さて、彼も携わった最新兵器の性能、如何程のものが試させてもらうとしましょう」
ポイントアルファへと到達したチュイルは、ビームマシンガンで牽制を掛ける。わざと一ヶ所抜け道を作り、そこへ飛び込んできた数体のカオスモンスターを、前腕部のグレネードで吹き飛ばす。
そのチュイル機へと襲い掛かる、サクリスタンが撃破したのとは別種の大型モンスター。その個体を見据えたチュイルは地上を滑るような機動で下がり、大型のカオスモンスターを引き付ける。対するカオスモンスターは速度を上げ、勢い良く飛び掛かる…が、その瞬間にチュイル機は左腰部のフレキシブルスラスターを跳ね上げる事で横滑り。背にする事で隠していた、建物の瓦礫へと大型モンスターをぶつけさせる。それと同時に素早いターンで背後を取り、バックパック右側の大型砲を展開する。
大型のカオスモンスターを狙う、中折れ式の巨砲。スパーク音が響く中、チュイルは静かにトリガーを引き…電磁投射の砲弾が、カオスモンスターへと突き刺さる。それ自体、大きなダメージ。カオスモンスターは仰け反り、しかしチュイル機を睨んで立て直そうとする……が、次の瞬間突き刺さり食い込んだ弾頭は、閃光と共に激しく放電。電撃がモンスターを内側から貫き、そのまま屠る。
「…次」
痙攣しながら倒れ伏すカオスモンスターを一瞥し、チュイルは機体のスラスターを吹かす。鈍重な…しかしそれを補うべくスラスターの大幅増設がなされているキエルバユニットの推力は高く、迫り来る地上のカオスモンスターの上方を取る。その際カオスモンスターの放った遠隔攻撃がチュイル機を叩くが、キエルバの追加装甲は難なくそれを弾き返し、再びチュイルは砲を展開。目標に合わせて出力する電力を変え、二射目を撃ち込む。通常の電磁投射砲のそれよりも長大な弾頭が、狙い違わず放たれ…路面へと、直撃。先頭のカオスモンスターはそれに怯むもすぐさま飛び越え、後続も左右に避けて進んでいく。
一見それは、攻撃の失敗。だがコックピットの中でチュイルは笑う。そしてそれに呼応するように、二発目の弾頭もまた、周囲に強烈な電撃を放つ。カオスモンスターの一団が丸ごと放電範囲に入ったタイミングで、狙い通りに電撃が迸り、纏めて飲み込む。
「…スタンレールランチャー、少々エネルギーの消耗は大きいですが、期待した通りの性能ですね」
マイクロミサイルポッド数基を展開し空爆を掛けつつ着地したチュイルの、満足そうな呟き。続くモンスターの群れもパンツァー隊の一斉掃射が返り討ちにし、チュイルと共に叩き潰していく。
この作戦の為に、イリゼを取り戻す為に、
「…オラクル2、ポイントアルファの制圧状況は?」
「…貴方も気が付きましたか。これは少々厄介ですね。艦長、モンスターの出現状況…特にそのルートの再確認を」
「ルート?…まさか……」
火器を撃ちながら、サクリスタンとチュイルはやり取りを交わす。艦長はオペレーターへチュイルからの要請に応じるよう伝え、浮かんだ可能性を前に顎へと手を置く。そして……
「これは……艦長!モンスターですが、撃破された個体が消滅しておりません!まだ全ての個体がそうなのかは判明していませんが…現在観測の出来た複数の個体が、復活しています!」
「ぐっ、やはりか…!時空の歪み…時間も空間も歪んで正常ではなくなっているという話だったが、巫山戯た真似をしてくれる…!」
観測結果により、ブリッジに走る衝撃。隊長達が抱いていた違和感は、モンスターの大群を圧倒しているにも関わらず、モンスターの物量がまるで衰えていない事へのもの。初めこそ確かに勢力が減衰していた筈が、今やその気配が感じられなくなっている事。その正体こそが…モンスターの、復活。
倒した個体が復活する。それは即ち、モンスターの数が瞬間的に減る事はあっても、長期的に見れば減らないという事。それどころか、増援が来れば来るだけ増えるという事。撃破が、その為に消耗した体力や弾薬などが、全て無駄になるという事。どれだけ圧倒出来たとしても、その成果が復活によって打ち消されてしまうなら、圧倒出来る事の意味は大きく薄れる。
「復活の状況について、観測と分析を続けなさい!何か条件や手順があるかもしれないわ!」
「は、はい!」
「…どうしますか、艦長。仮に無条件且つ全てのモンスターが復活するなら、戦えば戦う程こちらが不利になるのは必至。…迅速な判断が、求められます」
副長の言葉に、艦長は頷く。判断が遅れれば、その分更に消耗する。後に無駄となるものが、増えてしまう。されど、だからといって慌てるのは愚の骨頂。必要となるのは、冷静な判断を最速でする事。
故に艦長は目を閉じる。数秒の間、自らの思考のみに意識を集中し…両手を艦長席の肘掛けへ置くと共に、閉じていた目を開く。
「…各員、戦闘を続行せよ。ここで我々が退けば、その分の負担がレジストハート様に集中する。そうなれば、オリジンハート様の帰還は遠退く。…厳しい戦いである事は間違いない。だが、忘れるな。我々の目的は、勝利条件は…元からモンスターを殲滅する事ではない」
落ち着いた声音で、艦長は言う。狼狽える事はない、勝機が失われた訳ではないと示すように、はっきりと言い切る。
そう。
故に退く事なく、戦いを続ける。物資は有限、体力や集中力もいつかは必ず底を突く。だが士気は、守護女神たるオリジンハートを迎えるのだという思いだけは尽きる事などないと、多くの者が心を燃やしながら。それを、力に変えながら。
*
縦横無尽に駆け巡り、エネルギー刃の迎撃を躱しながら、ダークメガミへ接近していく。撃ち込まれる掌底部からの光線を、急降下により潜り抜ける。そして二振りの得物を連結し、そこにシェアエナジーを収束させる。
「真巓解放・信頼ッ!」
精製する、巨大な刃。大剣状態の連結剣を遥かに超える、超巨大剣。それをわたしは振り上げる。急上昇を掛け、峰側に組み込んだ圧縮シェアエナジーを解放する事による加速も乗せて、目一杯の力でダークメガミを下から斬り上げていく。ダークメガミは下がって避けようとするけど…甘い。足りない。わたしは、連結剣を芯に形成した超巨大剣はダークメガミを逃さず、斬っ先で胴体部から頭部までを装甲ごと纏めて斬り裂く。
とはいえ下がった分、両断とまでは行かなかった。巨体をものともせずに、前面をズタズタに斬り裂きはしたけど、まだダークメガミは沈んでいない。だからこそ振り抜いたわたしは即座に巨大刀身を解除し、大剣状態の連結剣から片手を離し、左腕を引きながら頭部へ肉薄。
「これで終わりよッ!真巓解放・
斬り裂いた内側へと突き込む貫手。腕の力、突進の勢い、それに肘側のカートリッジの圧縮シェアエナジーを用いた全力の貫手を突き出し、ダークメガミの頭部へと打ち込む。その内側を、腕で抉る。そしてその状態から、限界まで圧縮した状態のシェアエナジーを、プロセッサ前腕手首側から解き放つ。完全なゼロ距離、腕を食い込ませた状態から圧縮シェアエナジーを炸裂させ、頭部を内側から吹き飛ばす。当然わたしの腕にも相当な負荷が、解放されたシェアエナジーの爆発が襲い掛かるけど…ダークメガミに与えたダメージは、それよりも遥かに上。更にその爆発を利用する事で、わたしは瞬時に腕を抜き…離れるわたしの目の前で、ダークメガミは倒れる。その巨体が、崩れ去る。
「最初はモンスターも相手にしていたとはいえ、思ったより手間取ったわね…」
撃破出来たとはいえ、相手はくろめ達が使役していたものより弱いダークメガミ。それに時間を取らされたというのは、正直痛い。それに、歪みの問題もある。時間云々以前に、これを何とかしなきゃわたしは突入出来ない訳で……って、うん…?
「…歪みが、紫に染まっている…?」
教会を覆うように現れた、新たな歪み。それが気付けば、紫の色を帯びていた。何がどうしてそうなったのか、ダークメガミとの戦闘に意識を向けていたわたしには分からないけど…これが良い兆候には思えない。そして、そんな思考をしている中で入ってくるのは、アヴァラスからの通信。艦長からの、直接の通信を受け…わたしはカオスモンスターの復活を知る。
(…不味いわね…ネプテューヌは突入出来たとはいえ、わたしは完全に足止め状態。皆ならまだ暫くは大丈夫だろうけど、皆が頑張ってる中で、女神のわたしが立ち往生じゃ話にならない。それに、だからって皆と一緒に戦ったところで、この状況は──)
「な……ッ!?」
感覚に従い飛び退いた直後、一瞬前までわたしがいた場所を光芒が駆け抜ける。…ダークメガミの砲撃が、その場を貫く。
まさか。そう思って、弾かれるように下を見たわたしの目に映ったのは、再生していくダークメガミの姿。それも、ただ再生しているようには見えない。それは、やられた状態から復活しているというより、やられた状態からそれ以前の状態へと戻っているような……。
「…くッ、その見た目で再生とか、どこぞの細胞にでも侵食されてる訳…!?…なんて言ってる場合じゃないわね…向こうの状態が進行したって事?だとしたら……」
再び砲撃しようとするダークメガミへ圧縮シェアエナジーの弾頭を撃ち込み、掌底部を破壊。連結剣を大剣状態から双刃刀形態に切り替え、再生を上回る速度でダークメガミを斬り捌いていく。…でも、これもその場凌ぎにしかならない。焼き尽くしたり跡形もなく消し去ったりすれば復活しないのかもしれないけど、魔法も極大のビームも使えないわたしにその手は打てないし、バラバラにした上でそれぞれ別の場所まで持っていく…なんて悠長な事はしていられない。それに時間を掛けた挙げ句、某
…けど、だからってダークメガミを倒し続ける?…ううん、そんなのは論外。それじゃあ結局、足止めされている事に変わりないんだから。
(でも、何にせよわたしに歪みを突破する手立てはない。…ネプテューヌに、託すしかないって事なの…?)
わたしは動かなきゃいけない。こんなところで、これ以上足止めを喰らってなんかいられない。だけど、進む方法がなくちゃ、どちらにせよ進めない。この先にイリゼが…妹がいる筈なのに、国民の皆はわたしを信じているのに、わたしは姉としても、女神としても、為すべき事を果たせない。
──そう。このままだったら、どうしようもない。わたし一人じゃ…助けられない。
「…だけど」
もうボロボロな路面を蹴って、わたしは空へと戻る。今の状況に、余裕なんてものはない。でも、劣勢じゃない。
だとすれば、今はイリゼを取り戻す上での、最大のチャンスでもある。この歪みさえ何とか出来れば、きっとイリゼに手が届く。そして……わたしには、まだ最後の一手が残っている。
「…ふ……ッ!」
連結剣を大剣状態に戻し、斬っ先を正面に…歪みに向ける。歪みを見据え…今放てる圧縮シェアエナジー弾頭を、全部纏めて一気に放つ。撃ち込んだ不可視の弾頭全てが歪みへと飛び込み、爆ぜ……消える。爆ぜたところまでは分かった。でも、歪みに飲み込まれた先は分からない。わたしには、把握のしようがない。
結局今のわたしにあるのは、守護の力だけ。わたしに出来るのは、女神として守り導くだけ。歪みを何とかする事も、次元や時空に干渉する事も、出来やしない。だけどわたしにも、武器がある。皆との、繋がりがある。わたしに力がなくても…皆がいる。
恥ずかしくない。情けないとも思わない。だってそれも、女神の力だから。それこそが、女神の大事な力だから。
「…今は、貴女達だけが頼りよ。わたし一人じゃ、どうしようもない。イリゼに手が届かない。だから……」
放った圧縮シェアエナジー弾頭は、攻撃じゃない。あくまで歪みにぶつける事そのものを目的とした…それにより発生する『揺らぎ』を起こす為の、わたしからの合図。そしてわたしは、声を上げる。願いを込めて…叫ぶ。
「今こそ貴女達の頼みに応えるわ!イリゼを取り戻す為に──皆の力を、貸して頂戴ッ!」
空に、彼方に届けるように叫んだ声。開けたこの場所で、わたしの声が響く事はない。広がって、そのまま消えていくだけ。元通りの、戦闘の音が聞こえてくるだけ。
だけど、わたしには確信があった。信じられた。この声が届いていると、応えてくれると。そして、次の瞬間──時空の歪みの内側、そこにある空に紅い糸で織り成したような紋様が現れる。紅の紋様は広がっていき…彼岸花に彩られた、巨大な門の姿となる。
顕現し、開いた門。そこから現れたのは、特徴的な翼を持つ四機の戦闘機。そうしてわたしが受け取ったのは…三人の声。
「約束を、果たしにきたわ」
「結局私達は、イリゼさんに助けられた。だからこそ……」
「ああ、だからこそ今度は…わたし達の番だ」
応えてくれた三人。わたしの持つ、最後の一手。けれどこれは、わたしの力であっても、わたしだけの力じゃない。だって、そうでしょう?この力は、三人が応えてくれたのは……イリゼが皆との繋がりを、紡いだからこそなんだもの。
今回のパロディ解説
・「〜〜どこぞの細胞〜〜」
機動武闘伝Gガンダムに登場する要素の一つ、DG細胞の事。だからといって、触手みたいなコードが出てきてくっ付いてるとかではありません。そこまでいったら本当にDG細胞で再生してる可能性あります。
・某
ジョジョの奇妙な冒険の主人公の一人、東方仗助の
・だけどわたしにも、武器がある。皆との、繋がりがある。
ガンダムSEEDシリーズの主人公の一人、キラ・ヤマトの名台詞の一つのパロディ。今思いましたが、このネタをネプテューヌがアルテューヌに言ったら、元ネタ同様相当な煽りになりますよね。