超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第五十二話 阻む力

 イリゼ。初めて会った時から、心と心で通じるもののあった、特別な何かを感じていた…それを疑問に思うよりも、嬉しいと思えた、思っていた相手。そのイリゼが実質的な妹だと分かった時、その時も困惑や驚きなんかより、喜びが優った。あの時はあまりに突然で、気持ちが追い付かなくて、心の中がぐちゃぐちゃになっちゃったけど…やっぱり一番感じていたのは、幸せだった。妹の事を、家族の事を知れたからこそ、それまで自分自身でも気付いていなかった寂しさが押し寄せてきて、色んな感情が溢れ出していた。

 姉妹として過ごしてきた時間は、まだそんなに長くない。知り合ったのもその少し前で、だからわたしとイリゼの今の関係が、姉妹らしいものなのかどうかは分からない。もしかしたら、仲間や友達としてのそれに近いのかもしれない。姉妹の、家族の在り方に決まりなんてないといえばそれまでだけど、イストワールとの関係含めて、今でも時々気になる。けれど、気にはなるけども…不安はない。不満もない。満足している、確信している、いつだって実感している。どんな経緯だろうと、どんな関係だろうと、イリゼはわたしの、わたしの大切な…妹だって。

 

「イリゼ……」

 

 飛び込んだ大広間の中央、結晶と共に浮かぶ姿。間違いない、間違える筈もない。そこにいたのは、確かにイリゼ。静かに、眠るように目を閉じている、わたしの妹。

 前に見た時と、その様子は変わっていない。細かく見た訳じゃないから、断言は出来ないけど…身体の状態も、ほぼ変わっていないように見える。

 

「セイツ、先走るのは…って、これは一体……」

「…さっぱり分からない。分からないが…異質で危険極まりない事だけは、わたしでも感じ取れるな…」

 

 背後から聞こえた声にはっとして振り返れば、そこにあったのは広間に入ってきた三人の姿。皆広間の中に…至る所に伸びる紫の光と異様な雰囲気に目を見開き…すぐにわたしの側へ、イリゼの側へと駆け寄ってきた。

 

「無事…では、ないわね。…なんて無茶を……」

「同感よ。…って言うと、多分女神の皆から『他人の事を言える立場か』って怒られそうだけど…」

「この姿は、入る前から見えていたけど…イリゼは、どういう状態なの?」

「それは…そうね、あくまで分かっている範囲での話になるけど、今のイリゼは封印されている…ってところよ」

 

 全身酷い有り様なイリゼを苦々しい表情で見つめる東ザナちゃん。同じような顔を、乙戦ちゃんもしていて…既に『視えていた』らしい、その分多少は心の中で受け止められている様子のスカネクは、わたしに視線を向けてくる。その問いに、わたしは答える。これは恐らく、女神の封印術の一種、或いはその派生的なものだと。クロワール曰く、封印状態に置く事で満身創痍なイリゼの生命を繋いでいたんだと。

 話しながら、わたしは自分が意外と冷静である事に気付く。…多分これは、三人がいるから。声を掛けられる事で我に返ったり、説明する上では落ち着いた状態にならざるを得なかったりするからこそ、わたしは冷静でいられている。もしわたし一人だったら、もっと感情任せになっていただろうし…だから三人には、感謝したい。

 

「イリゼ自身、こんな事になるとは思っていなかっただろうな。…わたし達は、どうすればいい?」

「ちょっと待って頂戴。まずは試したい事がある、から…!」

 

 言葉を返しながら、わたしはイリゼを包む結晶に触れる。両手でしっかりと触れて…力を込める。…でも、動かない。しっかりと固定でもされているかのように、床と一体にでもなっているのかと思う程に、びくともしない。

 勿論、100%の力ではない。少しだけ余力を残してはいるし、圧縮シェアエナジーの解放を使えば瞬間的には更に大きい力をぶつける事も出来る…けど、流石にそれは出来ない。イリゼが結晶の中にいる以上、そういう強引さは絶対に厳禁。

 

「…駄目ね。結晶ごと抱えて離脱出来ればそれが一番だったけど…どうやらここでイリゼを解放するしかないみたいだわ」

「という事は、解放する手立てはあるのね?」

「えぇ、忘れてた?わたしも女神なのよ?」

 

 触れてみて、やっぱりこれは女神の技由来の封印だって分かった。であれば、わたしに…同じ女神のわたしに解放出来ない理由はない。

 わたしが少しだけ調子良く、そしてはっきりと答えを示せば、聞いてきた東ザナちゃんはわたしの事を見つめ返して、こくりと頷く。任せるわ、と強い意思の籠った声を送ってくる。

 

「であれば、わたし達の役割は……」

「それが完了するまでの、周辺警戒と何かあった際の対応ね」

 

 今のやり取りを踏まえて、乙戦ちゃんとスカネクも頷き合う。二人はわたしを挟む位置取りで、軽く左右へと移動する。

 そう。ここから先、イリゼをこの封印から解き放つまでは、恐らくわたしは手を離せなくなる。出来ない理由はない…と思うけど、初めてやる以上容易に出来る事だとも思わないし、今のイリゼは満身創痍も満身創痍。タスキとかハチマキとかアンダーシャツとか根性とかでギリギリ踏み留まっているようなものなんだから、ほんの少しでもわたしがミスをしたり、ミスでなくても荒っぽくなったりしたら、取り返しの付かない事になるかもしれない。

 

(…そんな事、なって堪るものか…絶対に、一緒に帰るんだから……!)

 

 胸に手を当て、深呼吸。そしてわたしは、始めると伝える。改めて両手で結晶に触れて…意識を、集中させる。

 

「……これ、は…」

 

 分析を始めて、すぐに気付く。これまで封印なんて大層な表現をしてきたし、実際イリゼの状態を維持している…ある意味イリゼの『時』を封じ込めているようなものではあるけど、その性質としては何の事はない、わたし達女神が使う『シェアエナジーを武器や防具にする技術』の延長線上にあるものだって。その技術そのものではなくて、それを下地に発展というか、工夫をしている感じではあるけれど、全くの別物レベルにはなってないって。

 だったら、やっぱり何とかなる。焦らず、落ち着いて紐解いていけば…いける。わたしなら、大丈夫。

 

(がっついちゃ為。一気に解放するなんて事は考えなくていい。表層から順に、一つ一つやっていく…!)

 

 恐らくこれは、出来るかどうかより、着実にやれるかどうかが分かれ目になる。焦らなければ確実にいけるだろうし、焦れば一瞬で終わる。…下手な戦闘よりも、遥かに緊張する。

 一つ一つ、一歩一歩、解放に向けて進んでいく。神経を張り詰め、でも心は落ち着かせて、ゆっくりと封印を解いていく。結晶の外観に変化はない、だけど少しずつ、少しずつだけど進んでいる…そう、思っていた時だった。

 

「…うん?…皆、何かおかしいわ」

「おかしい?何か気付い──」

 

 不意に声を上げる、東ザナちゃん。解放の為にわたしが集中を始める直前、東ザナちゃんも床に伸びる光を調べるように、片膝を突いていて…だから、何か気付いたのかもしれない。わたしはそう思った。乙戦ちゃんも同様に思ったみたいで、彼女の尋ねる声が聞こえた。途中までは、聞こえてきた。

 けれど、その声は止まる。止められる。直後に起きた、異変によって。視界が…ううん、この領域全体がぐにゃりと歪むような、『何か』によって。

 

「……っ…今のは、一体……」

「セイツは動かないで。私達で調べるわ…!」

 

 動くなという、スカネクの返し。任せられた以上、動くつもりはない。皆の事を信じている。…だけど…わたしは、言う。

 

「…どうやら、調べるまでもなさそうよ…」

 

 だって、わたしが真っ先に気付いたから。わたしが真っ先に気付ける状況だったから。絡み付くように、逆流するように、紫の光がイリゼを包む結晶へと伸びていって…結晶の真上で、歪みが生まれ始めたから。

 危ない、不味い。本能がそう伝えてくる。反射的に、距離を取りたくなる。でもそれは出来ない。わたしはここから、何があっても動く訳にはいかない。…そうしている内に、歪みは輝きと共により深いものへと変わっていく。深まり、歪み、閃光を放ち…そして、変貌する。歪みは、女神の、姿になる。

 

(…これは…これ、は……?)

 

 それが女神である事は、すぐに分かった。人ではなく、ただの人型ではなく、女神だと本能的に…わたしの本質が、理解した。

 他人じゃない。誰かじゃない。姿は女神の形を持った歪みで、正体を隠していた時のアルテューヌの様で、それでもわたしには分かった。分かって、しまった。それは、これは、この女神は……

 

「──ぁ…」

 

 気付けばわたしは、惚けていた。用心も警戒も忘れて、何よりも今はイリゼとイリゼの封印へ集中しなきゃいけない事も頭から抜け落ちて、吸い込まれるように見上げていた。そして女神は、ゆらりとその姿をぶれさせて……次の瞬間、刃が煌めく。わたしの眼前に、刀が突き出され──女神の振るった一撃を、受け止める。

 

「セイツッ!」

 

 あまりにも早い女神の急降下と、それに割って入った…間に合わせたスカネクの、超高速移動。スカネクが厳しい声音でわたしを呼ぶ中、女神は軽々と飛び退き、わたし達から距離を取る。東ザナちゃんと乙戦ちゃんも駆け寄って来て、女神へ向けてわたしを背にする形で構える。そして、わたしは…呟く。

 

「…オリゼ……」

 

 声にして、言葉にして、確信する。無意識下で、本能と本質で理解していた事を、それが誰なのかを、漸くはっきりと意識が、心が捉える。嗚呼、そうだ、間違いない…彼女は、オリゼだ。オリゼ、なんだ。

 

「オリゼ?それは、彼女…?…の、名前か?セイツはあの存在が誰なのか知っているのか?」

「…原初の、女神…わたしと、イリゼと、イストワールを…わたし達を創り出した、信次元の最初の女神……」

「原初の女神…そういえば確か、イリゼさんはその複製体だって…。…なら、どうしてそのオリゼ?…がここに…?」

「分からない…分からないわ…!だって、オリゼは…オリゼは……ッ!」

 

 理解した。した事で、動揺が湧き上がる。そんな訳ないと、あり得ないと、目の前の光景が信じられなくなる。どうしてかなんて分からない。確かにオリゼは、帰っていった。戦い、守り、女神の在り方を信次元に示して、自分の時代へ…自分の国民が待つ国へと、帰っていった筈なんだから。それは凄く寂しくて…だからこそわたし達は、ある思いを燃やしてきたんだから。そこへ向けて、一歩ずつ歩んできたんだから。

 だけど、そのオリゼが今、ここにある。見間違いじゃない。偽者でもない。わたしの全てが、彼女をオリゼだと、わたしを創り出した原初の女神だと、断言している。そんな筈ないのに。もしそうなら、そうだとしたら、そんな事があるなら……

 

「落ち着きなさい、セイツさん。私は彼女の事も、貴女の事情も知らないわ。それについて、とやかく言うつもりもない。けど──今、イリゼさんを助けられるのは、貴女だけよ」

「……ッッ!」

 

 頬を張られたような感覚。はっとする、我に返る。今、自分が何をしていたのか…何をしなくちゃいけないのかを、思い出す。…そうだ、わたしは今何をしている。何に気を取られている。私が今、しているのは…妹を助け出す事でしょうが…ッ!その為に、イリゼの友達が、イリゼとわたしを信じてくれる国民の皆が、力を貸してくれているんでしょうが…ッ!だったら、それを、人の思いを忘れて他の事に気を取られるなんて……それこそ、オリゼが許す筈がない…ッ!

 

「…ありがとう、東ザナちゃん。貴女の、言う通りよ」

「気にしなくていいわ。私は言うべき事を言っただけだもの」

「…なんだか貴女、段々物言いというか、声音が変わってきたわね。でも、その裏にある優しい心は、とっても素敵だって思うわ」

 

 心を切り替えられた訳じゃないけど、ちゃんと我に返る事は出来た。…肩越しに振り向いた東ザナちゃんには、本気で困惑した目を向けられたけど…許容範囲よ、これ位は慣れてるもの。

 

(…あぁ、でも…そっか)

 

 わたしは気付く。何よりも人を思う、人を尊重し人に尽くすオリゼだからこそ、その人の思いを踏み躙ったりはしないと。もしもわたしの知る通りの、短い間だったけど同じ時を過ごしたオリゼなら、何も言わずにこんな事をしたりはしないと。だからきっと、彼女はオリゼであってオリゼじゃない。

 

「…動かないな」

「こちらの出方を伺っている…にしては、気配というか、敵意の様なものを全く感じないわね…」

 

 張り詰めた空気の中、乙戦ちゃんとスカネクが言葉を交わす。…確かに、彼女からはまるで仕掛けてくる様子を感じない。後の先を取ろうとか、そういう風にも思えない。

 一体これは、どういう事か。情報が少な過ぎて、推測を立てる余地もない。…でも、それなら…。

 

「…皆、わたしはイリゼの解放を続けるわ。何かあったら……」

 

 視線を彼女からイリゼに戻す。止まってしまっていた、封印の解放を再開する。

 戻る直前、見たのは三人の頷く姿。わたしの方へ振り向きはしない、最低限の…一瞬たりとも動きを見逃したりはしないという、真剣そのものな皆の姿。…やっぱり、繋がりの力は凄いわ。わたしが三人と過ごした時間なんて、たった数日に過ぎないのに、それでもわたしは三人を深く信頼してるんだもの。信頼出来るんだもの。

 きっと皆は何とかしてくれる。だからわたしも、何とかしてみせる。わたしはわたしの、わたしにしか出来ない事を……

 

「……──っ!」

 

 直後、背後で感じるせめぎ合い。聞こえてくるのは、刃が空を斬る、銃弾が放たれる、床が強く蹴られる音。…意識が、そちらへと引き摺られる。三人の息遣いが、わたしの意識を引き摺り込む。

 

「くっ、ぅ……!」

「東ザナちゃん…!」

 

 激しい音が聞こえた次の瞬間、東ザナちゃんが跳ね飛ばされたように床を転がってくる。すぐさま跳ね起きた東ザナちゃんだけど…この時わたしは、完全に意識を東ザナちゃんへと引き込まれていた。そしてそれに気付いたのか、彼女が浮かべるのは自責の表情。

 

「…ごめんなさい、下手を打ったわ…」

「そんな事ないわ。東ザナちゃん今、わたしにぶつからないよう横に飛んだでしょ?わたしの事を気にしなければ、もっと余裕で立て直せた筈でしょ?」

「それは…って……」

 

 わたしの左側から転がってきた東ザナちゃんだけども、その一瞬前、激しい音は真後ろから聞こえた。だから恐らく、東ザナちゃんは自分よりわたしとイリゼの事を思って、無理な動きをしてくれた。そこに責めるべき事なんて、一つもなくて…わたしの言葉に、東ザナちゃんは何か答えようとした。したけど、途切れる。

 浮かぶのは、困惑の面持ち。その視線の先にいるのは、影の様な原初の女神。スカネクと乙戦ちゃんの猛攻を受けている、それを凄まじい速度で躱している…躱すのみで、一切の反撃を行わない、オリゼじゃないオリゼ。そしてオリゼは、大きく距離を取り…止まる。さっきまでと、同じように。

 

(また、動かなくなった…?何か、動きを止める条件があるって事?それとも、トリガーがあるのは行動を起こす方…?)

 

 牽制の様に放たれた念力の刃と銃撃を、また彼女は躱す。でもそれだけ。躱すだけで、以降の動きはない。わたしが背を向けている間は音だけで分かる程激しい戦闘になっていた筈なのに、今の彼女は不気味な程静か。

 何かに反応しているのは間違いない。何かがあったから、或いは無くなったから、彼女は動きを止めたに違いない。それは分かった。だけどそれが分からなくちゃ、情報としては不十分。…なら、なんだっていうの?一度目は、現れた直後にわたしへと仕掛けてきて、すぐに動きを止めた。二度目はわたしが背を向けたすぐ後で、東ザナちゃんが跳ね飛ばされてから攻撃をしなくなった。この二度の動きで、共通点があるっていうの?あるとしたら、それは……。

 

「……いや、待った…まさか…」

 

 ふと、頭に浮かぶ可能性。見方を少し変えた事で、浮かんだ推測。そしてわたしは、警戒しながら立ち位置を変える。彼女をしっかり視界に収められる位置に移り、その上で三度、イリゼを封印から解放……

 

「──つぁ…ッ!」

 

……しようとするや否や、本当にその直後だった。直後に彼女は踏み込み、一瞬で肉薄してきた。辛うじてわたしは躱し、結晶からも手を離す。するとまた……彼女は、動きを止める。

 

「…やっぱり…そう、なのね…。……皆、分かったわ!彼女が、一体何を狙っているのかが!」

 

 立て直し、声を上げる。初めに苦しみが広がって…けれどそれを飲み込み、気付いた事を…答えを、言う。

 

「彼女は、謂わば歪みの防御反応よ!この時空にとって不可欠な、イリゼを逃さないようにする為の防御反応…!そして…彼女が狙うのもまた、わたしだけよ!彼女は、オリゼは、原初の女神は…何よりも、人を至上とするんだから!」

 

 そう。一度目も二度目も、彼女が動いたのはわたしがイリゼの封印を解除しようとしてからだった。どちらも、わたしの集中が途切れて解除の手が止まると同時に、彼女の攻撃も止まっていた。まだ二度だけだから、断言するには早いのかもしれないけど…可能性は、確かにある。それに…行動のトリガーは推測の域を出ないとしても、もう一つの方は確信が持てる。彼女がオリゼであるなら、わたしの知るオリゼでないとしても、確かに原初の女神であるならば…常に人を最優先にする筈だから。…故に、手はある。彼女が防御反応であり、オリゼであるなら…打てる手はある。

 

「だから皆…わたしを囮にして頂戴!狙いが分かっていれば、自分は狙われない前提で立ち回れるなら、きっと……!」

「囮って…貴女、本気なの…!?」

「本気も本気、大真面目よ!何にせよ今わたしは戦えないんだもの!わたしの見立てが間違っていない限り、狙われるのはわたしだもの!だったらこの状況、利用するのが一番よ!」

「…合理的な判断ではあるわ。だけど…それがどれだけ危険なのか、分かった上で言っているの?」

 

 ただの思い付きではないと、東ザナちゃんにはっきりと返す。見立てが合っているなら、どうしたってわたしは狙われる。ならそれはもうそういうものだと受け入れて、その上で判断するしかない。それがわたしの考えで…スカネクからも問われる。本当に、理解しているのかと。…だから、わたしは答える。笑みを浮かべ、竦めるように肩を揺らす。

 

「勿論。危険な事も、それでも止める訳にはいかない事も…見せてくれた皆の実力も、皆なら信じられるって事も、ね」

「…ふふっ、言ってくれるな。だが、それでは足りない。確かに君は囮になるかもしれないが、わたし達の勝利条件達成に必須の防衛対象でもある。そして動けない防衛対象を囮にするというのは、とても上策とは言えない」

「…それも、その通りね。だけど今は……」

「だから、足りない一手をわたしが補う。セイツの言う通りなら、わたしにも一つ策がある。…まあ尤も、彼女の動きにほんの少しでも対応出来るようになるまでは、セイツの策に頼るしかないがな」

 

 困った顔で、乙戦ちゃんもまた肩を竦める。…乙戦ちゃんの言う策が、何なのかは分からない。分からないけど…顔を見れば、伝わってくる。乙戦ちゃんが、しっかり勝利を見据えてる事は。

 

「…いいわ。それなら私も、貴女の…貴女達の策に乗る。どちらにせよ、ここまで来て引く訳にはいかないもの」

「……分かったわ。私もプロよ。覚悟も考えもあるなら、私も応えてみせる。…スカネクさん、さっきの動きはどの程度出来るの?」

「継続的な使用は出来ないわ。それに一度使いきれば、再使用までは多少の時間が必要になる。…あまり、期待し過ぎないで」

「大丈夫よ。まだ…私にも、手はあるもの」

 

 多くは語らない。けれど彼女は全く動かないおかげで、落ち着いて言葉を交わす事が出来る。

 刀と剣を構え直す二人。そして三人の視線は、わたしに向く。それは三人からの合図で…またわたしは、結晶へと触れる。意識を向ける。力を…込める。

 

(頼むわよ、皆…)

 

 一つだけ、言わなかった事がある。…わたしは、彼女と戦えない。たとえオリゼじゃないオリゼだとしても、今のわたしはきっと、何の躊躇いもなくオリゼと戦う事なんて…出来ない。だからきっと、先に彼女を倒す選択をしたとしても、わたしは皆の足を引っ張ってしまうだけ。だから、わたしは皆に戦いを託した。勝手な話ではあるけど…皆を、信じて。

 意識を向けた直後に、身体が本能的な危機を感じる。逃げろと言う。でも、逃げない。逃げやしない。だって……

 

「──霊力封印、第一段階…解放ッ!」

 

 ヒリつくような危機感が消える。代わりに冷気が肌を撫でる。…振り向かない。わたしのやる事は、ただ一つ。

 

「もう少しだけ待って頂戴、イリゼ。いい加減、一緒に…帰るわよ…ッ!」

 

 

 

 

 四方八方から、光の砲撃が駆け抜ける。かと思えば、刃が牙の様に喰らい付いてくる。それ等を避け、凌ぎ、隙間に身体を滑り込ませる。そうしてすぐさま身を翻し…見据える。

 

「まだまだこんなものじゃないよ、ユニちゃん!」

 

 攻め込むより先に、光芒が撃ち込まれる。ネプギアが、回避先へと的確に追撃の射撃をしてくる。それもギリギリのところで躱し…アタシは、腕を振り抜く。

 

「それは…こっちの台詞よッ!」

 

 手首のスナップで跳ね上げたハンドガンを掴み、トリガーを引く。放った弾丸を避けたネプギアへ、ライフルでの追撃を掛ける。勿論、立ち止まる事なんてない。この戦いで…ネプギアとの勝負で、じっくり腰を据えて撃っていられる余裕なんてものはない。

 

(まだ、この距離じゃ足りない…もっと、もっと…ッ!)

 

 左手のライフルからバレルをパージして、サブマシンガンに。右手もハンドガンを手放し持ち替えて、二丁のサブマシンガンで弾幕を形成する。ネプギアを、ネプギアの操る端末を同時に相手取って…けれどネプギアは、躱す。ネプギアもビットも巧みに躱して、すぐにアタシを包囲してくる。

 嫌らしいのは、その戦い方。ネプギアは最低限にしか踏み込んでこない。常に包囲し、崩れても即座に立て直す事で、圧力を掛け続けてきている。積極的に勝つんじゃなくて、体力や集中力を削って相手が弱るのを待つっていう、消極的な…だけど堅実で着実な勝利を掴もうとする、単独で集団戦を行えるネプギアだからこその戦法。そういう手を打ってきているから、アタシもまた今のところ全弾躱せているけど、アタシの攻撃も届かない。そしてネプギアの狙い通り、消耗具合は…多分、アタシの方が上。

 

「くッ…流石はわたくし、こうして相手にするとこうも手強いとは…ッ!」

「ネプギアが選んだ最高の戦力がわたし達、か…全く、ネプギアらしいっちゃネプギアらしいな…!」

「ふん、幾ら過去の私自身だろうと…ううん、過去の私自身だからこそ、負ける訳にはいかないのよ…ッ!」

 

 アタシとネプギアの間の空間を、嵐の様に無数の槍が蹂躙する。打ち合い、ぶつかり合い、砕け散って、更に多くの槍が空を駆ける。飲み込まれれば即座に粉微塵になりそうな槍の暴風雨の中で、ベールさんと影のベールさんもまた激突する。互いの突き出した槍が擦れ合って、それぞれの穂先が頬を掠める。

 別の方向では、濃密な青白い光の奔流が地上を薙ぎ払う。ブランさんと影のブランさん、それぞれの砲撃がせめぎ合い、閃光が散る。四散する光で周囲の建物が次々と崩れ、瓦礫が降り…けれどブランさんの、或いはブランさんの影の周囲に落ちる瓦礫は全て当たる前に停止し、凍り付いたように動かなくなる。そんな中で突進し、刃がぶつかる。

 そして、アタシより更に高い場所で繰り広げられるのは、お姉ちゃんとお姉ちゃんの影による超超高速戦闘。目で追う事の叶わない、きっとそもそもそんな事なんて出来ない機動でお姉ちゃん達は飛び回り、手にした剣を踊らせる。それはまるで、瞬間移動。速く、鋭く、きっとアタシが認識するよりも遥かに多く斬撃は放たれている。

 

「嘗ては五人を同時に相手取っていた私が、今や一人を抑えるので手一杯とは…全く、衰えたものだ…!」

「次いくわよ、ロムちゃん!わたしたちは、負けたりなんてしないんだから!」

「うん…!今度は、こっちから…!」

 

 戦っているのは、お姉ちゃん達だけじゃない。全力を解放したマジェコンヌさんもまた、ネプテューヌさんの影と鎬を削る。ネプギア以上の数の端末を操り、それを部隊の様に飛ばしながら、魔弾に電撃、更には槍での近接攻撃も交えた怒涛の攻撃を仕掛けている。その悉くを斬り払いながら、ネプテューヌさんの影も突撃し、槍と大太刀が斬り結ぶ。

 最後の一人、イリゼさんの影を迎え撃つのはロムとラム。アタシと同じようにビヨンドフォームとなった二人は、杖と魔法陣から系統の違う魔法を次々と放ち、イリゼさんの影は武器の乱射で対抗する。爆ぜるような多段加速で攻め込んでくれば、接近された方は回避と防御に達し、もう一人が逆に背後から仕掛ける事で、すぐにその攻勢を潰す。

 皆、それぞれの相手と、それぞれの形で戦っている。アタシは誰かの援護なんてする余裕はないし、それは恐らく皆も同じ。…自分で、何とかするしかない。自分で、勝つしかない。

 

「やっぱり、包囲しても全然捉えられないね…流石ユニちゃん」

「はッ、じっくり削りきればいいって思ってるんでしょ?大して問題だと思ってもいないでしょうに、よく言うわ…!」

 

 数基を自分の正面に配置したネプギアは、M.P.B.Lと共に一斉射。アタシはそれを急降下で躱し、下がりながら横回転。サブマシンガンのフルオート射撃で周囲の端末を下がらせて、すぐさま突っ込む。ネプギアは正面の数基で迎撃を掛けてくる中で、わたしは右のサブマシンガンを手放す。真横に避けると共に、グレネードランチャーをプロセッサから引き抜く。

 

「グレネード?そんなもので……」

「それはどうかしら、ねッ!」

 

 間髪入れずに放つ一撃。弾頭は真っ直ぐネプギアへ向けて飛び…その行く手を、端末が阻む。ただの弾丸より大きい弾頭は、それでいて普通の射撃より遅いこの攻撃は、ネプギアからすれば撃ち落とし易い的。それは至って自然な判断で…だからこそ、予想出来た反応。

 確かにその解釈は、間違ってない。だけど、足りない。普通のグレネードならそうだけど…これは、違う。

 

「……ッ!?これは…!」

 

 端末の砲撃で撃ち落とされる直前、自ら弾ける弾頭。そこから吐き出されるのは、細かい弾。弾頭の内側に仕込んであった、本命の散弾。放射状に広がる散弾に対して、目を見開いたネプギアは端末を全て退避させる。そして空いた空間へ…アタシは、踏み込む。

 

「やっぱり、耐久性は普通のビヨンドの時と大差ないのね…ッ!」

「驚いたよユニちゃん、まさかどこぞの名もない小隊長さんみたいな事してくるなんて…!」

 

 サブマシンガンで回避の動きを牽制し、肉薄。グレネードランチャーも手放して、そのままアタシは腕を突き出す。前腕に備えた、プロセッサの楔形パーツで刺突を掛ける。対してネプギアは、寸前のところでM.P.B.Lを掲げる事で辛うじて防御を間に合わせる。

 

「ユニちゃんが自分から接近戦を仕掛けてくる…ほんと特異な性能だね、ユニちゃんのビヨンドフォームは…!」

「安心して、NG粒子なんてものを作り出すアンタ程じゃないわ…ッ!」

 

 押し返してくるネプギアには抗う事なく、代わりに左手をハンドガンに持ち替えて撃つ。躱した隙を突いて、また距離を詰める。そこからは左手は実体弾の、右手は光弾のハンドガンを握ったまま、近距離射撃と近接格闘を織り交ぜて全力で張り付く。

 幾ら近接戦闘能力が向上したっていっても、あくまでアタシの主戦場は遠距離。お姉ちゃん達はもとより、ネプギアだって近接戦だけで上回るのは無理があるし、だから近距離戦をするには射撃も交えて、こっちから動き回る必要がある。…けど、それだけの意味はある。わざわざ距離を詰めるだけの価値は、間違いなくある。あるからこそ、喰らい付く。

 

「こう近付けば、四方からの攻撃は無理…だと思った?甘いよ、ユニちゃんッ!」

 

 左手での幾度目かの打突を防がれて、向けようとしたハンドガンもネプギアは下から銃身を掴んでくる。アタシの動きは、一瞬止まり…それを待っていたとばかりに、端末が飛来。迫るのは、爪の様になった先端。砲撃ではない、直接攻撃。真上から飛来するその攻撃に対し…アタシは、脚を跳ね上げる形で回転を掛ける。ネプギアを飛び越えるように、頭を軸にするように回転を掛け…飛来した端末を、踵で蹴って弾き飛ばす。

 

「そっちも大分、甘いわねッ!」

 

 踵落としならぬ踵跳ね上げ。砲撃ではなく直接攻撃、側面から衝撃を与えれば凌げるからこその、迎撃行動。そしてアタシはハンドガンを手放し、両手でネプギアの両肩を掴む。そのまま鋭く回転を掛けて、今度こそネプギアに踵落としを叩き込む。

 今のは我ながら、ネプギアの意表を突けたと思う。近接戦で、ネプギアを一瞬上回れた気がする。だけど、ネプギアだってそこまで簡単にはやられてくれない。アタシの身体がネプギアの後方に回った時にはもう、ネプギアは前へと動いていて、掴んでいた手が離れる。当然、踵落としも空振りに終わる。

 

「そうだね…ユニちゃんは結構足技を使うって事、忘れてたよ…ッ!」

「ちッ…(対応が速い…!)」

 

 即座に振り向けば、同じようにネプギアも振り向いている。振り向くと共にM.P.B.Lを振っていて、回転斬りが打ち込まれる。それをアタシは、両腕を掲げる事で、腕のパーツを使って防御。蹴りで返してやりたいところだけど…届かない。近接戦が出来るっていっても、手持ちの武器がある分リーチはどうしたってネプギアが上。…でも、ネプギアは一つミスを犯した。隙を晒す…晒してしまう、ミスを。

 

「…片手で振るえる武器って、持ってない方の手で別の事が出来るのが利点の一つよね」

「……?急に何を……」

「けど、利点は欠点にもなり得る…なんて、当たり前過ぎて言うまでもないかしらッ!」

「え、わ…ッ!?」

 

 持ち堪えるのを止め、弾かれる。当然ネプギアは追撃の姿勢を見せてくる。だからアタシはネプギアへと、その左手へと意識を向け…次の瞬間、ネプギアは姿勢を崩す。左手を引っ張られ、蹌踉めく。

 一体何がネプギアを引っ張ったか。蹌踉めかせたのか。…それは、アタシのハンドガン。アタシが手を離した事で、ネプギアの手に残った…片手でM.P.B.Lを振るえるからこそ、掴んだままでいたアタシの火器。そしてビヨンドフォームのアタシは、ビヨンドフォームでの火器を手放しても引き戻す事が出来る。基本的には自動で戻ってくるようにしてるけど…今みたいに、任意のタイミングて引っ張る事だって出来る。

 

「貰ったわよ、ネプギアッ!」

 

 ネプギアが晒した、アタシが引き出した隙。そこへアタシは突進を掛ける戻ってきたハンドガンを掴むと同時に撃って、ネプギアにM.P.B.Lで防御させて、完全に足も止めさせる。肉薄し、今度こそ振り上げる要領で脚を蹴り出す。

 

「やられた…けど、やられないよッ!それ位じゃ、わたしは…ッ!」

「でしょうね、だからッ!」

 

 ギリギリのギリギリ、爪先が届く直前に、ネプギアはアタシの膝を開いた左手で押さえてくる。…だから、アタシは撃つ。ネプギアなら対応すると、出来ると分かっていたからこそ、ネプギアが蹴りに気を取られた瞬間を突いて、ホルスターではなくビーム砲としての機能を持った、プロセッサのパーツを稼働させ放つ。超至近距離からの砲撃が、身を捩ったネプギアの左の二の腕と、右の脇腹を掠める。右の足首周りのプロセッサユニットを、撃ち抜き壊す。

 

「ぁぐ…ッ!」

「まだまだぁ!持ってけダブルでッ!」

 

 痛みと衝撃で怯んだ、結果生まれた更なる隙ももぎ取って、握ったままの右の光弾ハンドガンと、跳ね上げて掴んだ左の実体弾ハンドガンで、二丁同時射撃を放つ。その寸前、闘志の燃えるネプギアの瞳がわたしを見返して、M.P.B.Lが振り上がって、二発共防がれるけど、間に合わせるので精一杯の様子だったネプギアは射撃の威力で大きく仰け反る。これまでとは比べものにならない、完全な隙を…無防備な姿を、遂に晒す。

 千載一遇のチャンス。逃す事なんて出来ない、その理由のない、最高の瞬間。アタシは戻ってくる引き金にもう一度指を掛け、阻むもののないネプギアの胴へ弾丸を……

 

「……え?──ぐぅ…ッッ!」

 

……撃ち込もうとした、時だった。真横から駆け抜けた端末が、左のハンドガンを貫いたのは。下から飛び込んできた別の端末が、右腕を強かに突き上げてきたのは。

 完全に壊れるハンドガン。楔状のパーツに食い込む端末。おかげで右腕が駄目になる事はなかったけど、撃った弾丸は明後日の方向に飛んでいく。パーツもひしゃげて…膝に嫌な痛みが走る。

 

「…とどめの一撃は、油断に最も近い…難しいものだよね。とどめの瞬間って、無意識に相手に意識が集中しちゃうものだから…!」

「やって…くれるじゃない…!」

 

 折角のチャンスが零れ落ちた。掴む寸前で、ネプギアに阻まれた。…ネプギアの方が、上回った。惜しいし悔しい。だけど、悔しくても悔やんでる暇はない。息吐く間もなく次の攻撃が、端末の追撃が襲ってくるから。

 

(まさか、アタシの動きを読んで距離が空くのを…よりビットでの攻撃がし易くなるのを待っていた?…いいや、そんな訳はない…!)

 

 すぐさま左手でも光弾のハンドガンを引き抜いて、二丁拳銃で端末を追い払う。この戦いにおいては、何か考えがある訳じゃない限り距離を取るのは得策じゃない。だけど今は、こうするしかない。

 ネプギアが、全て読み切っていたなんて思えない。ただ、ネプギアは掴んだだけ。仰け反って後退した瞬間の、結果として生まれた『反撃のチャンス』を見逃さず、刹那の内に掴み取っただけ。…だけどそれが、逆境を覆した。しっかりアタシにもダメージを返してきた…本当に、やるじゃないネプギア……!

 

「懐かしいね、ユニちゃん」

「懐かしい?何が…ッ!」

「こうやって、一対一で勝負をする事だよ…!」

 

 下がるアタシの動きに合わせて、ネプギアも端末の半数を引き戻す。腰の浮遊ユニットに装着して、ネプギア自身は光弾のフルオートと残った端末の十字砲火を掛けてくる。おかげで多少余裕は出来たけど、攻め込む事は出来ない。包囲による集中砲火から、自分に近付かせない為の弾幕形成に移行された事で、余裕はあるけど攻め込む難易度は殆ど変わっていない。それに……

 

(ぐッ…ほんのちょっぴりだけど、右手が思ったように動かない…それに、ビットの持続時間長過ぎるでしょ……!)

 

 アタシが下がったのは、腕の調子を確かめる為でもあった。そして迎撃の為に撃って、振り回して…気付く。僅かにだけど、いつもと調子が違うって。モンスター辺りが相手なら大した問題じゃないけど…ネプギアが相手じゃ、無視出来ない。これが勝敗を決する可能性すらある。

 それに、ビットの継続時間もこれまでより明らかに長い。引き戻したって事は、完全に再充填なしで飛ばし続けられる訳じゃない…とは思うけど、それでもビットの欠点の一つである、定期的なチャージが必要になる点がある程度改善されてるのは凄く厄介。…あぁ、強い。本当に強い。これでアタシと戦う前から消耗してる、お姉ちゃんに浅くない傷を貰ってる状態だっていうんだから…凄く、凄く、凄く…悔しい。

 

「…何が、懐かしいよ…アタシはこんな形で、懐かしい思いになんてなりたくなかったっての…ッ!」

「…それは、わたしもだよ」

 

 ハンドガン二丁から、ライフルとサブマシンガンに持ち替える。ライフルでネプギアを、サブマシンガンで端末を狙う。プロセッサ各部からの砲撃も狙いたいところではあるけど、手持ち程の射角が取れない以上、小さいし飛び回る端末相手にはどうしたって高い辛い。

 そんな中で、アタシは言い返す。気持ちは分かる。アタシもここまで本気でぶつかるのは、あの時以来…犯罪組織が台頭した頃の決闘以来だって思っていたから。だからこそ、二度目がこんな形になんてなってほしくなかった。…そして、ネプギアも言う。それは、自分もだと。…なら、だったら…ッ!

 

「…だけど、だとしても、わたしは後悔してないよ。こうなった事は、残念だけど…後悔なんて、一つもない…ッ!」

 

 言いたかった言葉。ぶつけたかった思い。…それを察したように、更に言う。後悔なんてしてないと。はっきりと、しっかりと、言い切ってくる。

 

(…あぁ、もう…そういうところは、ほんと変わらないんだから…ッ!)

 

 腹立たしかった。嘘じゃないと、分かったから。それが心からの言葉だって、伝わってきたから。真っ直ぐなのは、本当に変わらなくて…その癖戦い方は変わらないから。アタシを近付けさせない、消耗させての勝利を狙うスタンスは微塵も崩れてなかったから。

…だけど、少しだけ良かった。ここにいるのは、ちゃんとネプギアだって…アタシが知っているネプギアだって事も、分かったから。

 

「…だったらもう、躊躇う必要なんてないわね」

「…躊躇ってたの?」

「まさか。でも、はっきり確信出来て良かったわ。あの時ぶりの戦いが、実は正気じゃなかった…なんてなったら、消化不良で終わりそうだもの」

 

 こんな形の勝負は望んでいなかった。いなかったけど、こうなってしまった以上、アタシは徹底的にやりたい。迷いなんて、躊躇いなんて、ここに介在させたくない。…だから、いい。これなら心置きなく…弾丸をぶち込める。

 トリガー引きっ放しで撃ち込む中、戻していた端末が再び射出される。交代する形で、ここまで展開していた端末が戻っていく。先に再射出をする事で、端末が展開していない瞬間を作らないようにするのは流石だけど…それでも僅かな隙は生まれる。入れ替わる、持ち場を交代する一瞬だけは、隙が生まれて…その瞬間に、アタシは突進。目一杯の力で加速して、サブマシンガンとショットガンを持ち替え突っ込む。

 

「いいわ、正真正銘あの時以来の勝負といこうじゃない!だけどこれは、決闘じゃない…だから覚悟する事ね、ネプギア!アタシはアンタを、全身全霊で……ぶっ潰すッ!」

「わたしは始めからそのつもりだよ、ユニちゃん。だからわたしも、全力全開で……思いを、貫くッ!」

 

 接近する前に、砲撃が叩き込まれる。それを張り切って、ショットガンの一撃を返す。

 そう、これは決闘じゃない。正真正銘、未来を懸けた戦い。だからこそ、勝つのはネプギアじゃない。勝つのはアタシ。もう、あの時みたいな姿は見せない。今度こそ、アタシが……勝つッ!




今回のパロディ解説

・「〜〜忘れてた?わたしも女神なのよ?」
ガンダムSEEDシリーズに登場するヒロインの一人、ルナマリア・ホークの台詞の一つのパロディ。無論セイツのイメージカラーは赤でもないですし、赤い服を着ていたりもしないです。

・タスキとかハチマキとか
ポケモンシリーズに登場する道具の一つ(二つ)、気合いのタスキ及び気合いのハチマキの事。タスキは消耗品でしょ?そんなの対戦だろうと使えないよ!…と、持ち物の復活を知らない頃の私は思っていました。

・アンダーシャツ
ロックマンシリーズに登場する要素の一つの事。作品によってチップだったりプログラムだったりアビリティだったりします。…シャツ一枚で何故持ち堪えられる…って話ですね。上記のものもそうですが。

・根性
モンハンシリーズに登場するスキルの一つの事。上記二つはまだ外部から身に付けるものだったり効果だったりしますが、いよいよこれは精神的なものですね。まあ、実際には根性という名の『スキル』ですが。

・「〜〜どこぞの名もない小隊長〜〜」
機動戦士ガンダムUCに登場する、あるスタークジェガンのパイロットの事。鉄血のオルフェンズにおける、通称右から二番目の人とかもそうですが、こういうやたら強いモブが出てくると何か燃えますよね。

・「こう近付けば、四方からの攻撃は無理〜〜」
ガンダムシリーズ(宇宙世紀)の主人公の一人、アムロ・レイの名台詞の一つのパロディ。ただ、この場においては対応出来てるので、状況的にはZのクアトロ(シャア)とハマーンのそれに近いですね。

・「〜〜持ってけダブルでッ!」
戦姫絶唱シンフォギアに登場するキャラの一人、雪音クリスの台詞の一つのパロディ。思い返してみると、意外とこのキャラの台詞はパロネタに使っていませんでした。

・「…とどめの一撃は、油断に最も近い〜〜」
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかに登場するヒロインの一人、アイズ・ヴァレンシュタインの名台詞の一つのパロディ。これは、意識していても直すのは難しい事だろうなと思います。
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