超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第五十四話 複製体の帰還

 一進一退の攻防。普通、自分で言うものではないと思うけど、間違いなくそういうものだった。ネクストフォームのわたしと、カオスフォームのアルテューヌの決戦は、そういう戦いになっていた。

 一撃でもしっかりと決まれば、それだけで一気にわたしが有利になる。だけどアルテューヌはそれを許さない。着実に積み重ねて、アルテューヌはわたしを削り切ろうとしてくる。でも、わたしはそうさせない。互いに長期戦に持ち込む訳にはいかない中で…わたし達の激突は、加速していく。

 

「ふッ、はぁぁぁぁああッ!」

 

 飛びながら振るわれる刃。その度に斬撃が飛来する。わたしはそれを避け、躱し、叩き斬る。躱した斬撃は、背後の教会へそれぞれ大きな跡を残す。

 

「お返し、よッ!」

 

 全て凌ぐと共に、わたしは真上に急上昇。上を取り、アルテューヌへ向けての軸合わせからわたしも振り抜き斬撃を放つ。黒紫の斬撃を、アルテューヌは紙一重で躱して…斬撃が触れた地面は、消滅する。ただ斬れたんじゃない。そこだけ抉り取ったように、ネクストフォームの力を帯びた斬撃が、斬り裂き破壊し全て無に帰す。

 

「ふん、どんなに高威力だろうと、当たらなければ無意味よッ!」

「そうね、仮面の人もどうという事はないって言ってるものね。…最後まで当たらずに、いられるのならだけどッ!」

 

 躱したアルテューヌは、投擲するようにエクスブレイドを飛ばしてくる。それをわたしが斬り飛ばした直後、エクスブレイドを目隠しに肉薄してきたアルテューヌの横薙ぎが迫り、わたしは大太刀で受け止める。斬り結び、その場で言葉をぶつけ合う。

 

「隙だらけねッ!」

「残念、そんなものはないわッ!」

 

 押し合いになった直後、三つ編みの端に備えたプロセッサのパーツで刺してくるアルテューヌ。即座にわたしは引き、刺突を避けながら左手を離す。三つ編みが伸びきったタイミングで、わたしは髪を掴もうとし…けれどそれを読んでいた、或いは凌がれた場合を想定していたアルテューヌの、もう一方の三つ編みとプロセッサのパーツが伸びてくる。何とかわたしは手を捻って、プロセッサの厚い前腕部分で受けたおかげでダメージはほぼなかった…けど、わたしも掴むのに失敗する。

 そこからまた、剣撃で攻防。ただの斬り合いじゃ、優劣は付かない。同じわたしだからこそ、幾ら打ち合っても時間を浪費するだけで…わたしにとってもアルテューヌにとっても、それは望むところじゃない。だからこれは、探り合い。次に繋げる為の、布石の駆け引き。

 

「貴女を倒し、レジストハート達を倒してわたしは行く…わたしの望む、未来の先へ!」

「イリゼを利用して、いーすんも利用しようとして、皆の歩みを否定して掴もうとする未来なんて、わたしは許さない!たとえ貴女が、わたしの選択で生まれた存在だとしてもッ!」

「身勝手ねッ!」

「身勝手も何も、わたしの事よッ!だからどうするかは、わたしが決めるッ!」

 

 打ち合いながら地上へ降りたわたし達は、一瞬離れ…また激突。互いに放った袈裟懸けで、互いの刃を弾き合って…爪先を地面へ突き立てる事で無理矢理衝撃を殺したわたしは、そこから刀身を寝かせて刺突。真っ直ぐ胴へ向けて突き出して…それをアルテューヌは、わたしとは逆にバランスが崩れている事を利用しそのまま身体を左に傾ける事で刺突を避ける。直後に片手でわたしの大太刀の腹を押して、身体を跳ね上げてのボレーキックを返してくる。

 手を押し付けられている大太刀での迎撃は出来ない。だからわたしは大太刀を離し、思いきり仰け反る事で回避を掛ける。蹴りはわたしの鼻先を掠めて…けれど外れる。脚が通り過ぎていくのを確認しながら、わたしは地面に突き立てたのとは逆の脚を振り上げて、手放した大太刀を蹴り上げる。手を当てていたアルテューヌの腕に衝撃を与えつつ、飛んで蹴り上げた大太刀を素早く掴む。そこからは急降下を掛けて、降下の勢いを乗せた上段斬りを叩き込む。

 

「そんな貴女には…貴女にだけは、負けられないのよッ!」

「その言葉、そっくりそのままお返しするわッ!」

 

 全力で振るった刃同士がぶつかり、衝撃が響く。刃越しに、シェアエナジーを感じる。だから、ネクストフォームの力も通用し辛い。ネクストフォームの力も根源はシェアエナジーであり、シェアだからこそ能力頼りの戦い方は出来ない。…けど、問題はない。どんどん感覚は研ぎ澄まされていっているし…初めから、能力頼りで戦う気なんてないんだから。ネクストフォームも、その能力も、強力ではあるけど…あくまで武器の一つに過ぎないんだから。

 

『せぇいッ!』

 

 押し切る寸前、アルテューヌは自ら身を逸らしてわたしの斬撃を流す。わたしの大太刀が地面を裂く中、身体を捻ったアルテューヌは横薙ぎを放ち、わたしもそのまま身を伏せる事で斬撃を避ける。上下が入れ替わった状態から、今度はわたしが斬り上げを、アルテューヌは振り下ろしを打ち込み…斬り合った直後に、お互い飛び退く。そうしてまた、すぐさま斬り掛かろうとした……その時だった。

 

「──え?」

 

 不意に、アルテューヌが動きを止める。戦闘中においては致命的な程の、即勝敗が決まる程の隙を晒す。…けれど、それをわたしは突けなかった。わたしもまた、思わず止まってしまっていた。──歪みが、色を失い始めた事で。

 

「…そんな…まさか……」

 

 じわじわと抜けるようにして色が失われていく中、アルテューヌが狼狽の声を漏らす。…わたしには、何が起こったのか分からない。分からないけど、予想は出来る。恐らく、これは……。

 

「…どうやら、セイツ達がやってくれたみたいね」

「……っ!」

 

 わたしの言葉で、アルテューヌは表情を歪める。それはもう、認めたようなもの。その間にも、色の消失は進んでいって…歪みそのものも、薄れ始める。

 

「呆気ない幕引きね。尤も、ここからだとそう見えるだけで、セイツ達からすれば奮闘の末なのかもしれないけど」

「…幕、引き……?」

「そうでしょう?貴女の望みは潰えた。見える景色が、その証左。わたしとしては、きっちり貴女を倒して終わらせたかったところだけど…それとも、無様に悪足掻きでもするつもり?」

 

 言葉と共に、大太刀の斬っ先を向ける。我ながら、性格の悪い言い方だとは思うけど…情けなんて、かけるつもりはない。甘さなんて、向けたくない。…それにきっと、アルテューヌもそんなものは望んでいない。まあ、仮に望んでいたとしても、それに応えようとは思わないけど。

 

「…ふざけないで頂戴…わたしは、まだ…ッ!」

 

 一瞬顔を伏せたアルテューヌは、直後に打ち込んでくる。突進からの突きをわたしは弾き、蹴りで返す。防御体勢こそ取られたものの、衝撃でアルテューヌは姿勢を崩し、それを逃さずわたしは追撃。次々踏み込み、大太刀を振るって、圧力を掛けていく。対照的に、アルテューヌは時折り見せる反撃以外は防戦一方の形になる。

 その動きは、明らかに精彩を欠いていた。油断は出来ないけど…その太刀筋に、これまでのような脅威は感じられなくなっていた。

 

(…哀れなものね)

 

 情けはかけない、かけたくもない。でも正直、哀れだった。アルテューヌからすれば、直接負けてこうなったんじゃなくて、足止めされている内に、その場にいる事も出来ないまま、望みが断たれたようなものなんだから。

 そして、聞こえてくる二度の轟音。二度目の轟音とほぼ同時に、教会の一角が吹っ飛んで…少しの間を経て、そこから戦闘機が現れる。先行するようにまず戦闘機が、次にセイツが現れて……

 

「……っ…!…イリゼ……」

 

 わたしは見た。見えた。セイツが抱える、イリゼの姿が。酷い傷で、目を覆いたくなる程の満身創痍で…それでも確かにセイツと共にいる、わたしの大切な友達が。

 もしアルテューヌがいなければ、交戦中でなければ、駆け寄りたかった。触れて、声を掛けて…謝りたかった。

 

「…逃がさない…今なら、まだ今なら…ッ!」

「逃がさない?…させる訳、ないでしょうがッ!」

 

 地を蹴り、セイツの方へと向かおうとするアルテューヌへ一気に接近。声を上げ、全力で大太刀を叩き付ける。ただでさえ精彩を欠いていたところでの余所見、その隙は大きくて…満足な防御も出来なかったアルテューヌは、わたしの一撃で吹き飛ぶ。

 その間に、戦闘機とセイツは高度を上げ、教会から離れていく。見上げるわたしの視線の先で、セイツが一瞬振り返って…わたし達は、頷き合う。…わたしは、行けない。共に戻る事は出来ない。だって…まだ、やる事があるから。

 

「貴女が潔く諦めるというなら、その意思は最大限尊重しようとも思っていたけど…考えてみれば、これも当然の事ね。諦めが悪いのが、わたしだもの。ネプテューヌ、なんだもの」

 

 膝を突いたアルテューヌへ、視線を戻す。もう、分かっている。イリゼを奪還されたからって、セイツ達を逃してしまったからって、アルテューヌが諦めるような事はないのは。諦めが良い女神なら…わたしだって、ここまでやってこられなかったんだから。

 それに、さっきは悪足掻きと言ったり、今も諦めるなら尊重を…なんて言ったりはしたけど、わたしはそんな終わり方を望んでいない。アルテューヌが諦めないのなら、最後まで戦おうというのなら…わたしも望んだ通り、戦って勝つまで。

 

「…………」

「……?…もしかして、諦めるつもり?」

 

 けれどわたしの予想に反して、アルテューヌは立ち上がらない。初めは何か狙っているのか、わたしの油断を誘っているのかとも思ったけど…そんな風にも、見えない。だから、わたしは思った。まさか、本当に諦めるつもりなのかと。心が折れてしまったのかと。

…でも、違う。気付く。聞こえてくる。微かにだけど…アルテューヌが、声を発している事に。

 

「…終わりじゃない…」

「それは、どういう意味かしら?諦められないというだけ?それともまだ何か……」

「終わりじゃない…終わりじゃない終わりじゃない終わりじゃない終わりじゃない…まだ、終わってなんかいない…!わたしは、まだ…終わらせない……ッ!」

 

 叩き付けるように言葉を放つアルテューヌ。脚に、腕に、力が入り、アルテューヌは立ち上がる。その瞳が、わたしを睨む。

 

「…そう。ならわたしが、わたし自身が、終わらせてあげるわ」

「終わりはしないわ…何も、何一つとして…ッ!」

 

 構え直すわたしに対して、アルテューヌは宙に浮かぶ。何かしてくる、反射的にそう捉えたわたしの直感は…半分正解。アルテューヌは、何かしようとしている。だけどそれは、わたしへ向けてのものじゃない。

 

「オリジンハートがいなくなったから終わり?もうこれで、わたしの望みは潰えた?…舐めるんじゃないわよ…貴女も、信次元もッ!ここはもう、この時空はもう、わたしが掌握した領域よ!だからこのわたしがいる限り、終わりなんてない…終わらせはしない…ッ!」

「貴女、何を……」

 

 湧き上がるカオスの力。渦巻くように広がっていき、同時にアルテューヌの周囲が歪み始める。一度はその歪みでアルテューヌの姿が見えなくなって…けれどそれすらも、湧き上がる力が飲み込んでいく。

 

「ぁぁぁぁぁぁああああぁああああああああああッ!!」

(……っ!これは……)

 

 響き渡る声。力が揺らめき、その密度が増していく。歪みを、カオスを、力の全てを纏っていく。

 それだけじゃない。薄れていた、教会の周囲を覆っていた歪みが復活していく。その色を取り戻していく。…でも、違う。元に戻った訳じゃない。上手くは言えないけど…復活した歪みは、それまでより何か異質なものになっている。

 

「はぁッ、はぁッ、ぁ"ッ…ぁ"あ"ああ……ッ!」

「止めなさいッ!貴女、分からないの!?ううん、分からないなら聞きなさい!今の貴女は、普通じゃない…!」

 

 肩で息をするアルテューヌ、その呼吸も表情も明らかに常軌を逸していた。瞳孔も異様に開いていた。そんなアルテューヌに、思わずわたしは声を上げ…アルテューヌは、わたしを再び睨め付ける。

 

「普通じゃない…?…何を、今更…その普通を、取り戻す為に…わたしは、戦っているのよッ!」

「……ッ!」

 

 爆ぜるような加速と共に、一気に踏み込んでくるアルテューヌと、袈裟懸けに振るわれる刃。わたしはそれを、大太刀で正面から受け…姿勢を、崩される。咄嗟にわたしは後ろに引き…直後、詰められる距離。

 

「不思議なものね。窮地よ、逆境よ…だというのに、感覚が冴える…ッ!ヒリつく位に、研ぎ澄まされる…ッ!」

「くッ…なんて嫌な吹っ切れ方を…ッ!」

 

 迎撃する形で、今度はわたしも大太刀を振るい打ち合う。数度打ち合い、互いの大太刀が大きく弾かれた瞬間わたしは左手を離し、拳を突き出す。真っ直ぐ殴打をアルテューヌへ放ち…ほぼ同じタイミングで、アルテューヌも同じように殴打を放ってくる。拳と拳がぶつかり合って…互いに、止まる。

 

(この感じ、パワーまで底上げされてるわね…まさか本当に、イリゼの代わりも担おうっていうの…!?)

 

 更に数度打ち合う。わたしは全力で大太刀を振るい…けれど凌がれる。単純な力や速度では上回っていた筈の、ネクストフォームのわたしが、その面でアルテューヌに追い付かれている。

 勿論、悲観する事ばかりじゃない。今のアルテューヌは、明らかに無理をしている。恐らく無理矢理力を引き出して、飲み込んで、限界を破っている状態。限界を乗り越えたんじゃなくて、限界を無視しているような状態。だから、長時間持つとはとても思えない…けど……

 

「貴女、本当に一人で全てを担うつもり!?出来ると言うの!?」

「どうかしらね…ッ!けど…そんなの、黙ってやられる理由になんてならない…ッ!」

(……ッ、やっぱり…!)

 

 次々飛来する、斬撃とエクスブレイド。それを躱しながら言葉をぶつければ、アルテューヌは接近しながら返してくる。身に纏うプロセッサが最低限だからこその、細かな体捌きで踏み込み大太刀を振るってくる。

 その返しで、確信する。やっぱり今のアルテューヌに、確証なんてものはないんだと。無理を通そうとしているだけだと。…だからこそ、恐ろしい。イリゼを失った事で消え始めていた歪みを無理矢理制御して、自分一人で全て成そうとしてるなんて…それこそ、歪みがどうなるか分からない。どうなっても、おかしくない。

 

「あぁ、そう、そうよ!こうしてわたしが存在しているだけでも、奇跡みたいなもの!ただ消えるだけだったわたしが、後一歩のところにまで来ているの!だったら最後の一歩位、何がどうなろうと為してみせる!ううん、為せるのよ!それが定めよッ!だってわたしは女神、わたしはパープルハートだものッ!」

 

 大太刀。三つ編みの先のパーツ。殴打に蹴撃、遠隔攻撃。次から次へと放たれる、怒涛の連撃。パワーとスピードを併せ持つその攻撃に、わたしは押される。少しずつ、プロセッサが傷付き砕けていく。

 ここに来ての、フルスロットル。後先考えない、目の前の事に力の全てを注ぎ込んでいるような勢いは、いっそ気圧されてしまいそうな程で……わたしは気付く。そんなアルテューヌとは対照的に、ほんの少し…わたしの心には、緩みが生まれていた事に。

 

(…そうよ、まだ終わっていない。わたしだって、まだ終わりじゃない。わたしが、わたしの手で、アルテューヌに…自分の過去に、ケリを付けない限り…何も、終わらない…ッ!)

 

 それは、イリゼを取り戻せたからこその緩み。わたしの中でずっと燻り続けていたものが一つ、やっと解けた事による…心の隙間。だけど、それじゃ勝てない。今のアルテューヌに打ち勝つには…わたしもまた、力の、心の、わたしの全てを懸けるしかない。

 

「…終わりよ」

「しつこいわね、わたしは……」

「いいえ、終わりよ。今も、未来も、パープルハートの立場も、ネプテューヌの名前も…全て、わたしのものよッ!その為にわたしは、ここにいる!貴女は終わるんじゃない、潰えるんじゃない…わたしが、貴女を、終わらせるッ!」

 

 突き出された斬っ先が、顔を掠める。触れた頬が、熱くなって…だけどそんな事は、気にしない。お返しに、わたしも振り抜く。下がり躱したアルテューヌ、そのアルテューヌが纏う力の一部を、大太刀の軌道に沿って消し去り飲み込む。

 

「見せてあげるわッ!女神が限界を超える、未来を掴む…その意味を!その為に掴んだ、ネクストフォームの真髄をッ!」

 

 飛び退いたアルテューヌが撃ち込んでくる複数のエクスブレイドを、大太刀の一振りで掻き消す。強く斬り裂いてはいない。今のは軽く、撫で斬りをしたのみ。それでも消し去れた事で、わたしはまた一つ確信すると共に、真っ直ぐ突っ込む。

 イリゼを取り戻せた事で、わたしの心に生まれた緩み。けれどイリゼを取り戻せたという事はつまり、もうわたしが助ける必要はないって事。勿論セイツ達を信じてはいた。けどそれはそれとして…事実として、もうこの後は何も気にする必要がないって事。

 もしアルテューヌが制御に失敗して…或いはアルテューヌ自身が飲み込まれてしまったら、最悪の結末を迎えてしまうかもしれない。…だから、負けられない?勝たなきゃいけない?…違う。イリゼを取り戻せた以上、気負う事は何もなくなった。後は自分に勝つだけ、過去の自分自身に打ち勝つだけ。そしてわたしは、終わらせる。この戦いに、わたしが生み出した因縁に、わたしが手放し背を向けた過去に……決着を、付ける。

 

 

 

 

 随分と長く、眠っていた気がする。皆を守る為、帰れるようにする為に、覚悟と力を振り絞って…そこから先の事は、分からない。

 そうした事に、後悔はない。それがあの時の最善だったし、女神としても皆を守れるのならそれが本望。ただ、情けない気持ちはあった。皆に、苦渋の決断をさせてしまう事が。終わるつもりはなくても、自分を犠牲にする形になる事が。あの時の、あの場のベストではあっても…私の思う、ベストには程遠い事が。

 後悔はない、情けなさはある。だけど…不安や心配は、心に一度も浮かばなかった。だって、皆がいるから。皆を信じているから。だからきっと、大丈夫。…ずっと、そう思っていた気がする。ずっと、ずっと。

 

(…………)

 

 初めに感じたのは、温かさ。凄く凄く身近な…柔らかな、熱。真っ直ぐで、包み込んでくれるような…温かい思い。その熱で、少しずつ身体が軽くなっていくような…そんな気がした。

 次に感じたのは、私を呼ぶ声。聞こえていないけど聞こえてくる、心に響き伝わる声。それは一人のもので…一人のものだけど、伝わる思いは一人だけのものじゃなかった。その声を、熱を通して、色んな思いが…私を思ってくれる気持ちが流れ込んでくる、確かにそんな感覚があった。

 だから、もう、こうしてはいられない。私はあの時、私のするべき事をした。女神の成すべき責務を果たした。だけど、そこで終わりじゃない。求めてくれる人がいる限り、その声に、思いに応え続けるのが女神。そんな皆と、共に歩みたいと思うのが私。だから──。

 

「……ぅ、ぁ…」

 

 長い眠りから、目が覚める。ゆっくりと、じわじわと、意識が覚醒していく。熱と、身体の重さと…それから風を、じんわりと感じる。

 

「…おはよう、イリゼ」

「…せい、つ…?」

 

 私を覗き込む、セイツの顔。女神化しているセイツの顔を、私はぼんやりと見つめる。するとセイツの穏やかだった顔は、段々と変わっていって、くしゃりと歪んで……

 

「…ぅ、う…し、心配…ずっと、心配…してたん、だから…ね……っ!」

「ぇ、あ…わ、セイツ…!?いや、ちょっ…えぇっ……!?」

 

 突然ぼろぼろと泣き出すセイツに、私は仰天。目覚めた直後、いきなり姉が泣き出したら、そんなの驚くに決まっている。驚き、困惑し、取り敢えず話を聞こうとして…私は気付く。色々な事に。

 まず、私は空にいる。セイツに抱えられる形で、飛んでいる。しかも結構な速度を出していて……それから、全身が痛い。思い出すように、痛みがどんどん押し寄せてくる。

 

「ぅ、ぐっ……」

「ぁ、う、動かないでイリゼ…!動いたら、その……」

「…その……?」

「…千切れそうな気がするから……」

「千切れそう…!?」

 

 あまりにも恐ろしい言葉に、再び仰天する私。何が!?どうして!?と、反射的に訊きたい衝動に駆られて…けど、痛みと共に思い出す。自分に何があったかを、自分が何をしたのかを。思い出すと共に、セイツの言った意味も理解する。

 身体が重いのも、セイツが泣き出したのも、全て納得。ただ、まだ分からない事が多過ぎる。それに、もしかして今は…戦闘中…?

 

「…マエリルハ…?それに、このマーキングは…枢機部隊(カーディナル)…?」

「そうよ。イリゼを取り戻す為に、皆が力を貸してくれている。女神の皆も、軍の皆も…友達も、ね」

「…それ、って……」

 

 ゆっくり首を動かせば、見えてくるのは無数のモンスターと、それを撃ち抜き斬り裂いていくマエリルハ。落ち着きを取り戻した様子のセイツは、含みのある言い方をしていて…私は気付く。私の、セイツのすぐ近くを、見た事のない戦闘機が飛んでいる事に。

 全く知らない機体。だけどセイツの言葉で、ふっとある人の…人達の事が思い浮かぶ。そして、察したセイツが寄ってくれた事で…見えた。戦闘機を操る、彼女の姿が。別の機体の後部座席に座る、二人の顔が。

 

「…皆……」

 

 あの後、何がどうなったのかは分からない。どれだけの時間が経ったのかも、予想が付かない。でもここに、皆がいる。スカネクが、東ザナちゃんが、乙戦ちゃんが…ここにいる。…嬉しかった。ただただ、嬉しかった。

 

「さてと。イリゼも目を覚ましてくれた事だし、後はアヴァラスに戻って…と、言いたいところだけど……」

 

 どうしたものか。そんな表情を浮かべるセイツ。何が問題があるのか、と一瞬私は疑問に思って…けれどすぐに、私は理解。確かにこれは厳しそうだと、私は遠くに見えるアヴァラスを見つめる。

 枢機部隊(カーディナル)の母艦、アヴァラス。その艦体各部に備えられた火砲が、パンツァー隊の砲撃と共に押し寄せるモンスターを薙ぎ払う。抜けてきたモンスターは、局地展開のビームシールドで阻み、焼き切る事で一体たりとも迎撃の突破を許さない。その巨体に見合う強さで、迫るモンスターを圧倒している。…だけど、だからこそ、セイツもそこに近付けない。ボロボロもボロボロな私を抱えていて本来の機動力を発揮出来ない今、迎撃をすり抜けて着艦するのは無理があるし、私達の為に迎撃を緩めたら、そこをモンスターに抜かれかねない。

 

「…セイツ…私なら、大丈夫…急がなくても、この程度の怪我……」

「そうはいかないわ、というか傷だらけな妹を後回しに出来る訳がないじゃない」

「けど、女神として人の…国民の優先順位を下げる訳にはいかない…そうでしょう…?」

「そう、だけど…。……!待って…!」

 

 待って、と言ったセイツは黙り込む。少しの間、何かを聞いているような様子を見せ…それからセイツは、アヴァラスへ視線を送りつつ言う。

 

「…えぇ、大丈夫。イリゼは…オリジンハートは、取り戻したわッ!」

 

 その言葉で、私はセイツのインカムに通信が入った事、戻ろうとしているセイツにアヴァラスの方も気付いた事…そして、私のインカムは落ちたか吹き飛んだかして、もうない事に纏めて気付く。出来る事なら、私の事は私自身で伝えたかったところだけど…今はまあ、仕方ない。

 

「そうね、わたしもそのつもり…だけど、迎撃の手は緩めないで頂戴。それはわたしも、イリゼも望んでいないわ。……そう、だからわたしもその手を考えているところよ。例えば、少し待つ事にはなるけど、次に補給に戻る機体とタイミングを合わせて……え?」

 

 向こうからの声が分からない以上、わたしはセイツのやり取りを見守るしかない。その間、戦闘機が、乙戦ちゃんがこちらへ飛んでくるモンスターを叩き落としてくれていて…あるところで不意に、セイツは驚いた顔をする。そこから更に、数度言葉を交わし…最後にセイツが浮かべたのは、笑み。

 

「イリゼ。ちょっと降りるわよ」

「え、降りるって……」

 

 言うが早いかセイツはまた戦闘機に寄って、着地する事、そこで待つ事を三人に伝える。待つのは理解出来る、でも待つならこんな戦場の真っ只中よりも、もっと良い場所がある筈で…いや、違う。それをセイツが分からない筈なんてない。って事は…きっとセイツには、何か考えがある。そして同じように皆も思ったのか、戦闘機も旋回しながらセイツと共に高度を落としていく。

 ある程度高度が落ちたところで、開くキャノピー。そこから飛び降りる、スカネクと東ザナちゃん。二人は遠隔攻撃で着地先にいるモンスターを蹴散らし、空中のモンスターは乙戦ちゃんの戦闘機が蜂の巣にする。更に話は伝わっているのか、赤のカラーリングが特徴的なマエリルハ…オラクル中隊長のMGも援護射撃を掛けてくれる。

 

「ねぇイリゼ。持つべきものはダチ、ってほんとよね」

「へ…?いや、なんで某パリピ系逃げ切り娘みたいな言い方……あ」

 

 念の為って事なのか、セイツはわたしを抱えたまま。皆がわたしを守ってくれる中、セイツは思わせぶりに薄く笑って…セイツが見つめる視線の先、そこに見えたのは一台のバイク。戦闘でどこもかしこもクレーターだらけな地上を、モンスターを躱しながら突っ走るそのバイクに乗っているのは……

 

「アイエフ…!?それに、コンパも…!?」

 

 恐らくはフルスロットルで突っ込んでくる、二人乗りバイク。セイツが着地する中、バイクは察したスカネクと東ザナちゃんが開いてくれた道を駆け抜け…某チキンレースのスライドブレーキばりの動きを見せて、私達の前で無理矢理止まる。直後、運転していたアイエフは勢い良く、そのアイエフにしがみ付いていたコンパはちょこんと乗っていたバイクから降りる。

 

「イリゼの事は任せたわよ、コンパ!」

「はいですっ!」

 

 追い掛けてきた多数のモンスターへ向けて、ノンストップで駆けていくアイエフ。そして煌めく、赤い炎。

 

「魔界粧・轟炎ッ!」

 

 突っ込み飛び掛かってきたモンスターが、纏めて炎の柱に飲み込まれる。そこまで狙っていたのかは分からないけど、バイクによる戦場の突破が、良い具合にモンスターを引き寄せる形となって、後続のモンスターも止まりきれずに炎へ突っ込む。

 

「…相変わらず、凄いな…」

「ふふ、そうですね。…セイツちゃん、少し離れて下さいです」

 

 火力に関して言えば、ルウィーの高位魔法使いにも負けていないアイエフの我流魔法。その腕が健在である事に私が感嘆の声を漏らす中、セイツはゆっくりと私を寝かせる。硬い地面に、背中と脚が触れて…でもあまり、痛くない。傷だらけの身体で触れれば痛い筈なのに、今ある痛み以上のものは感じない…その事実で、自分の状態の不味さを痛感する。

 そんな私を包む、幾本もの包帯。けれどそれは、普通の包帯じゃない。傷の一つ一つを優しく包み、保護してくれるのは、コンパの治癒魔法。

 

「…コンパも、凄いね…前より更に、傷の把握が速くなってない?」

「早く把握出来れば、その分早く治療が出来て、早く助ける事が出来るです。だから、ねぷねぷと出会って、旅をし始めたあの時からずっと…わたしも皆と同じように、頑張っているんです」

「…うん、知ってる。コンパも、アイエフも…私の自慢の友達だから」

 

 コンパの我流魔法であるこの治癒は、手当ての知識や技術が根底にある関係で、対象の怪我の状態を細かく把握する必要がある。即ちこの魔法の精度や発動の速さは、コンパのナースとしての実力に左右される訳で…だからこそ、凄い。把握は勿論、治癒が早速効き始めている事も、こんな場所でも微塵も慌てる事なく治癒を進められているその精神も…頼もしいって、心から思える。そしてそれは、アイエフも同じ事。私にとって、初めて出来た人間の友達二人は…いつだって、本当に心強い。

 

「…セイツ。ざっくりでいいから、今に至るまでの事を教えてくれないかな」

 

 周囲を警戒していたセイツは頷き、すぐに話し始めてくれる。ネプテューヌの事、ネプギアの事、クロワールの事、これまでの経緯…どこかのタイミングで私に訊かれると思っていたのか、要点だけを纏めた説明をしてくれたおかげで、すぐに私は把握をする事が出来た。…色々と思うところ、申し訳ないなって感じるところはあるし、理解は出来ただけで、飲み込むにはもう少し時間が掛かりそうではあるけれど。

 

「ほんとに、色々あったわ。あったけど、こうしてイリゼを取り戻す事が出来た。だから後は、アルテューヌを倒すだけよ。…勿論、この戦いも結構厳しくなってるけどね」

「うん、再生されるんじゃ…ね。…私の事、軍人じゃない神生オデッセフィアの皆は……」

「上手く誤魔化してあるわ。けど、守護女神のイリゼがずっと顔を見せていないのは事実なんだから…戻ったら、ちゃんと元気な姿を見せてあげなきゃ駄目よ?」

「そうだね、快気祝いじゃないけどまた特別ライブでもしようかな」

「…あ、そうですイリゼちゃん。これを渡さなきゃでした」

 

 ずっと眠っていたから実感はないけど、何となく皆と離れてしまっていた感覚がある。だから私自身、また友達や仲間、国民の皆と同じ時間を過ごしたい。私は元気だよ、皆はどう?って言葉を交わしたい。

 と、そこでコンパから手渡されたのはインカム。どうも私に通信が繋がらない事は、皆も把握してたみたいで…私は受け取る。耳に付けて、小さく深呼吸をして…そして、告げる。

 

「…皆、心配を掛けて申し訳なかった。辛い選択をさせてしまった事も、君達には謝りたい。それに、言いたい事もあるだろう。私自身、言いたい事、訊きたい事が、幾つもある。だが今はまだ、その時ではない。まだ今は、乗り越えなければならない戦いがある。だからこそ、今私が、君達に伝える言葉は一つだけだ。──親愛なる国民の皆よ、私は…神生オデッセフィアが守護女神、オリジンハートは……今ここに、帰ってきたッ!」

 

 身体を起こし、私は言った。守護女神として、真っ先に伝えるべき事を。伝え、響かせ…聞こえてくるのは、皆の声。耳に、心に染み渡る、皆の言葉。…それだけでもう、痛みが吹き飛ぶようだった。力が湧いてくるようだった。

 

「帰ってきた、ね…ほんと、堂々とした物言いをするようになったじゃない、イリゼ。まあ、そういう気配が全くなかったのは、出会ったばかりの頃だけだったけど」

「アイエフ…二人も、ごめんね。それと、ありがとう。わざわざこんな場所に、こんな形でまで助けに来てくれて」

「イリゼちゃんを助ける為なら、この位へっちゃらですっ!」

「それに、もうこういう場も慣れっこだしね」

 

 気を利かせてくれたのか、セイツはアイエフの所に行って、アイエフがこっちに戻ってくる。にこりと笑ってくれるコンパに私は更に感謝を抱き、肩を竦めるアイエフにそれもそうかと苦笑を返す。

…本当に、私は縁に恵まれている。ここにいる皆が、私の為に、私を助ける為に来てくれたんだから。イストワールさんを初め、ここにはいない人達だって、力を貸してくれたんだから。勿論、もう一人のネプテューヌ…アルテューヌを倒す事も目的な訳だし、軍の皆は任務であり、命令を受けての事でもあるけど…だとしても、頑張ってくれているのは事実。それに感謝をしない理由も、嬉しいと思わない理由も…私にはない。

 

「コンパ、私の治療は後どの位で終わりそう?」

「もう少しです…けど、わたしに出来るのは応急処置までですよ?」

「分かってる。コンパはナースさんだもんね」

 

 本格的な治療までは望まない。というかこんな場所で望める訳がない。…でも、それで良い。今は応急処置さえしてもらえれば、それで十分。

 この戦いにおいて、私は謂わば救助対象。私を連れて帰る事が、目標の一つ。だから私が何をしなきゃいけないのかっていうのは、理解してる。してるけど……

 

「…うん、大丈夫。これなら飛ぶのに支障はなさそうだね」

「ちょっ、イリゼ…!?」

「イリゼちゃん、それって……」

 

 手を数度、ぐーぱーさせる。手足の関節を軽く動かし…ほんのちょっぴり、浮いてみる。万全には程遠いけど…最低限、動く事は出来る。

 その私の言動を受けて、唖然とした顔を見せる二人。…それも、当然の事。当たり前の事だけど…私は二人を見つめて言う。

 

「私には、義務がある。己の未熟さが招いた戦いを、それによって皆を戦いの場に向かわせてしまった結果を、自分自身の目で見る義務が」

「義務って…そんな状態でするべき事ではないでしょうが…!」

「そうです!まずはちゃんと身体を治す、その方が大切です!」

「あはは、だよね…けれどそれが、女神の義務だよ。私の考える、女神の義務だ。それに…私には、権利もある。アルテューヌに散々利用された、いいように使われた私だからこそ…その結末を、見届ける権利がね」

 

 異を唱える二人の指摘はご尤も。そう言われると思っていたし、私自身無茶な事を言っているなという自覚はある。…だとしても、私はこのままただ下がる訳にはいかない。それは出来ないと、私の心が言っている。女神として、見届けなければならないと、私の身体が叫んでいる。

 

「…それは、本当にイリゼちゃん自身が見なきゃ駄目な事ですか?」

「コンパの言う通りよ。私達が女神についてどうこう言うのは違うのかもしれないけど…イリゼは、女神はこうあるべきだって考えに囚われてない?」

「…ううん、どうこう言うのは間違ってないよ。信じてくれる人ありきの女神だから。…でもね、私は私が、女神が心から『譲れない』って思ったものは、絶対に譲っちゃ駄目だと思うの。だって、きっとそれは、女神としての在り方に直結しているから。皆の思いを形にする女神だからこそ、心から譲れないものを譲っちゃったら、どこかでそれが信じてくれる皆の気持ちへ背く事になる…そう、思うから」

「だったら、今心配してる気持ちに沿わない事は、背く事にはならないの?」

「…それ言われると、弱いな…うん、それには言い返せない。だから、こんな身体で言う事じゃないけど…私を、信じて。私は見届けるだけだから。それ以上の事はしないから」

 

 論理的な、合理的な理由がある訳じゃない。結局のところは気持ちの問題で…だけど、女神の本質に繋がる問題。私は、そう思っている。だから譲れないと感じている。

 けれど、誰かの…私を信じてくれる人の思いを理由にする以上、それを止めようとする思いがあれば、私はそれを不意には出来ない。アイエフが突いてきたのは、その部分で…それを言われてしまえば、私は強行出来なくなる。…だから、頼み込んだ。私の中にある意思は、貫きたい。でも反対する気持ちを押し切って行く事はしたくない。この二つを両立させるには…私の意思を、納得してもらうしかない。

 

「…ズルいわね、その言い方は」

「凄く、ズルいです…」

「だよね、ごめん。それでも…お願い」

 

 佇まいを正して、二人に頭を下げる。これでも尚駄目って言われたら…こっちも諦める訳にはいかないから、何とか別の案を捻り出すしかない。ただ、出来る事なら分かってほしい。そんな思いで頭を下げて……聞こえてきたのは、困ったような声と嘆息。

 

「…怪我人さんなら、たとえ頼まれても駄目なものは駄目、って言わなきゃですけど……」

「女神、それも今や一国の長であるイリゼに頭を下げられちゃ、こっちも駄目とは言い切れないわよね」

「コンパ、アイエフ…」

 

 分かった、とばかりの二人の顔。明らかに呆れている…だけど理解をしてくれた二人。そんな二人に抱くのは、勿論感謝。感謝と、更なる決意。これだって、私がもっと強ければ、こんな事態にならないように出来ていれば、不要な事だった。だからこそ感謝と共に、気を引き締めなきゃいけないし、理解してくれた二人の為にも私は見届け……

 

「…ま、ある意味予想通りか。コンパ、アレをお願い」

「分かったです。イリゼちゃん、お注射の時間ですよ」

「へ?」

 

 アイエフからの言葉を受け、すっ…とコンパが取り出したのは、巨大な注射器。凄く、凄く見覚えのある…アレ。

 

「…ちょっ、や…それ、コンパが武器にしてるやつだよね!?普段モンスターとかにぶっ刺してるやつだよね!?」

「大丈夫です、消毒済みですよ?」

「あぁそれなら…いや良くないよ!?だとしても嫌だよ!?っていうか中の薬液も何!?ボコボコいってるんだけど!?色も形容出来ないというか、カラーコード上で存在していないような色合いをしてるんだけど!?」

「あっ、動いちゃ駄目ですイリゼちゃん!針が貫通しちゃうです!

「針が貫通しちゃうような注射器の時点で人に使っちゃ駄目だってぇぇぇぇええええええッ!」

 

 どう見てもヤバい薬液を巨大注射器で注入してこようとするコンパに、私は戦慄。しかもアイエフが私を取り押さえようとしてくるものだから、もうどったんばったん大騒ぎ…は私の身体的に無理だけど、精神的にはそれ位大騒ぎ。いや無理だって!どんな薬なのかは分からないけど、今の状態でその巨大注射器使ってやられたら最悪とどめ刺されちゃうからぁ!

 

「これは、イリゼの事だから素直に下がってはくれないだろうな…って想定して、でもちゃんとイリゼには帰ってきてほしいから、皆で帰りたいから何とか準備を間に合わせた…ううん、コンパが間に合わせてくれたものよ。…ちゃんと見届けたいんでしょ?だったらせめて、私達の思い位は受け入れて頂戴」

「うっ…それは、その……ごめん。…そうだよね…無理を言ってるのは私なんだから…これを受け入れる位の気概は、見せなきゃだよね」

 

 静かな、だけど真剣なアイエフの言葉を受けて、私も冷静になる。そうだ、その通りだ。これを私の為に用意してくれたのなら、私を思っての事であるなら…それを見た目だけで判断して拒否するなんて、それこそ女神としても、友達としても間違っている。

 それにコンパが用意してくれたなら、その点は信頼出来る。もしかすると、女神の強靭さを前提に、女神だからこそ使える効果と量の薬を用意した結果が、この薬液なのかもしれない。それこそ例えば、前にオリゼが皆へ用意してくれたシェアクリスタル…あれを参考にしたとか、そういう事も考えられる。やっぱり、詰まるところは信じられるかどうかで……コンパなら、コンパとアイエフなら、信じられるに決まってる。

 

「…コンパ、お願い」

 

 心を鎮め、深呼吸し、注射を受け入れる体勢を取る。二人は頷き、巨大注射器の針が私の方を向く。…流石にやっぱりちょっと恐ろしさはあるけど…大丈夫。私はそう信じてる。

 そうして、私は受け入れた。二人の気持ちを。私を心配してくれる、皆の思いを。──この戦いの結末を、見届ける為に。

 

「…あ、因みにだけど、それって治験とか、そういうものは……」

「理論上は大丈夫らしいです!」

「いやだから、治験というか、臨床試験的なのは……」

「いーすんさんも、大丈夫って言ってたです!」

「ちょ、ちょっと?それってまさか、何も試してない……」

「…そういえば私、モンスターに使った時は大変な事になったって聞いたような……」

「駄目じゃん!それ超駄目じゃんッ!ちょッ、やっぱ止め──

 

 

 

 

 

 

ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」




今回のパロディ解説

・「〜〜仮面の人もどうという事は〜〜」
ガンダムシリーズに登場するキャラの一人、シャア・アズナブル(キャスバル・ズム・ダイクン)及び彼の代名詞的な台詞の一つのパロディ。当たらなければ…は、ほんと使い勝手がいいんですよね。

・「貴女を倒し、レジストハート〜〜未来の先へ!」
BLEACHに登場するキャラの一人、ロバート・アキュトロンの台詞の一つのパロディ。彼はいつかアニオリで再登場するんですよね?してくれるんですよね?…と期待しているシモツキです。

・「〜〜某パリピ系逃げ切り娘〜〜」
ウマ娘に登場するキャラの一人、ダイタクヘリオスの事。持つべきものはダチ、というのはイベントの一つの事ですね。キャラ的には、セイツよりマホの方が合いそうな台詞です。

・某チキンレースのスライドブレーキ
AKIRAにおける、代名詞的なブレーキのシーンの事。これも前にパロネタで使った記憶があります。というか、いつ使ったのかも覚えていたりします。

・どったんばったん大騒ぎ
けものフレンズのアニメにおけるOPの一つ、ようこそジャパリパークへの代名詞的なフレーズの一つの事。これも前にパロネタとして使った気がしますが…これはいつだったか朧げです。
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