超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
腕の中でイリゼが目を覚ました時、わたしの中から思いが溢れ出してきた。もしここが戦場じゃなかったら、そしてイリゼが満身創痍の傷だらけでなければ、きっと即座に抱き締めていた。というか、もしパラレルワールドがあるなら、そこそこの確率で実際にわたしが抱き締めてるパターンもあるんじゃないかと思う。…いや、割とほんとに。冗談じゃなくて、本当に。
失って初めて気付く大切さ…なんて月並みな言葉だけど、この時わたしは逆に、取り戻して初めて気付いた。わたしはイリゼの事が大好きだけど…本当は、わたしが思っているよりももっと大好きなんだって。そんなイリゼを取り戻せたからこそ、わたしの心は満たされていて…けれどまだ、終わった訳じゃない。まだ戦いは、終わっていない。
でも、アルテューヌとは、ネプテューヌが戦っている。ネプギアに対しても、皆がぶつかっている。だからわたしが、わたし達が、イリゼを取り戻した。なら、次にわたしがする事は何?…そんなのは、勿論決まっている。ここまでは、取り戻す為の戦いだった。そして取り戻した今、わたしがするのは…守る為の戦い。わたしは、わたし達は…取り戻したもの、守りたいものを…失ったりなんて、しない。
「分かったわ、陣形を組み直しつつアヴァラスは後退!再編する間の隙はわたしが埋めるわ!」
逆手持ちの連結剣二本を同時に大型のカオスモンスターへと突き立て、引き抜くと共に後方宙返り。着地と同時に地面を蹴り、内側から外へ開くような二重の横薙ぎでモンスターを斬り裂き仕留める。更にインカム越しで、
…といっても、わたしはあくまで艦長の判断を承認しただけ。援護が必要か訊いて、頼まれたから応じただけ。当然ね。わたしだって指揮をしようと思えば出来るけど、
「皆も一旦、アヴァラスに戻って!まだ戦えるかもしれないけど……」
「艦が後退を始めたら、それに追い付くのは大変になる、って事でしょ?」
「分かりましたです!」
突っ込んできた別のカオスモンスターを後ろ蹴りで返り討ちにし、わたしは跳躍。二振りからの圧縮シェアエナジー弾頭で地上に爆撃を掛けて、応じてくれた皆を支援。アイエフとコンパはバイクへと乗車し、スカネクと東ザナは低空飛行で近付いてきた乙戦ちゃん…の率いる戦闘機へと飛び乗り、アヴァラスへと向かっていく。後はイリゼのサポートを…と思ったけど、イリゼもすぐさまその後に続いてくれた。イリゼの飛ぶ姿は、一先ず大丈夫そうで…流石はコンパの治療ね。
「さぁて…懲りもせず再生するモンスターには、纏めて退いてもらおうじゃないッ!」
後退する皆を追い抜き、障害になるカオスモンスターは片っ端から斬り付け突き刺し叩き落とす。どうせ再生してしまうんだから、抜けられれば良いだけだから、倒せたかどうかは気にしない。一旦退かす事が出来れば、それで十分。
わたし達の接近を受け、アヴァラスは一部の迎撃を緩める。当然そこは穴になり、モンスターが突撃を仕掛けてくるけど…それは即ち、このわたしを相手に背を向け隙を晒すという事。そんな事をするモンスターは、それこそ例外無く斬り伏せるまで。イリゼを取り戻す事が出来て、今のわたしは絶好調。今なら電磁波放電だろうとビームホーンだろうと分身だろうと、なんだって出来る気がするわ!最高にハイってやつね!
「邪魔ぁッ!」
双刃刀形態で連結した得物を投げ放ち、遠距離から斬り捌く。バイクへ空から飛び掛かろうとした大型モンスターへ横から突っ込み、勢いそのままの掌底と膝蹴りで黙らせた上で、首根っこを掴んでこっちも投げ飛ばす。ぶん投げて、地上のモンスターを押し潰す。…進路にいた訳じゃないモンスターに対して「邪魔」は間違ってる?いいのよ、わたし達のしようとしてる事の邪魔ではあるんだから。
「よ、っと!全員、戻ったわね?」
「こっちは大丈夫よ!」
「ですっ!」
ランディングギアを展開し戦闘機が着艦していく中、回転しながら戻ってきた連結剣をキャッチし、加速を兼ねてカオスモンスターを踏む要領で横に蹴る。わたしが蹴ったモンスターは、飛んで行った先で立て直し…砲撃の穴から出ていた事で、機銃掃射を受けて吹き飛ぶ。対照的にわたしは、アヴァラスの甲板に降り立ち、イリゼ達の事は目で、艦底部のハッチから戻ったコンパとアイエフの事はインカムで確認して…ふぅ、と一つ息を吐く。
「お疲れ様です、レジストハート様。準備は出来ておりますので、オリジンハート様と共に休息を」
「ありがとう、けれど言ったでしょ?再編の隙はわたしが埋めるって。その分イリゼの事を頼むわ」
「いいや、私にもまだ為すべき事がある。休むのは、その後でも遅くはない」
「イリゼ…まぁそういう事を言うとは思っていたけど、それをわたしが許すとでも……」
ブリッジからの通信にわたしが返せば、続けてイリゼもまだ良いと返す。そしてその言葉を聞いて…わたしは、呆れる。
気持ちは分かる。まだ戦いは終わっていないんだから。わたしからすれば、イリゼはずっと頑張っていた、持ち堪えていた訳だけど、イリゼからすればきっと、大変な時に何も出来なかった、出遅れに出遅れてしまったって心境だろうから。
でも、幾ら治癒を受けたといったって、イリゼの状態がすこぶる悪い事は変わらない。治癒魔法はあくまで怪我を治すだけだし、その治癒だってコンパが行ったのは応急処置としてのものな筈。そして、それが分からないイリゼでもない筈。にも関わらずまだ為すべき事が…だなんて、流石にこれは頂けない。イリゼは可愛い妹ではあるけど、だからこそ姉として、時にはガツンと言わなきゃいけない。その思いと共にわたしは振り向き、真っ赤に充血した目でにっこにこしてるイリゼへびしっと……
「ってイリゼ!?何でそんな笑顔なの!?」
……言おうとして、びびった。それはもう、ぎょっとした。い、いやそうでしょう…この状況でにっこにこ、でも目は充血してるとか明らかに普通じゃないじゃない…!
「元気だから!」
「そんな訳ないでしょう!?貴女さっきまで満身創痍だったのよ!?」
「でも、今は元気だから!元気だからーっ!?」
「それは『ですか?』疑問系で投げかけるものよ!?元気だから、って宣言されても反応に困るでしょうが!」
「でも実際元気だよ?全身痛いし身体重いしなんか鈍っちゃってる感じもあるけど…でも、元気でこの通り笑顔だから!」
「だからむしろ不安なのよぉぉぉぉおおおおっ!」
やたら笑顔、なのに棒立ちなイリゼへ叫ぶわたし。戦闘機から降りたスカネク達も、唖然とした様子でイリゼを見ていて…こ、コンパは本当に何の治療をしたの!?イリゼがどうしても引っ込まないって言った場合を見越して、少しだけ無理が出来る薬を用意しておくって話は聞いていたけど…それは大丈夫な薬なの!?全然大丈夫じゃなさそうに見えるんだけど!?
と、思っていたら甲板にコンパとアイエフがやってきた。二人はイリゼを見て…それから何とも言えない顔を浮かべた。
「…元気、そうね…」
「元気では、あるですね…」
「ふふ…心配を掛けたね、皆。私に後悔はない、けれど……」
「いや何食わぬ顔で話進めようとしないで!?無理だから、今のイリゼの状態を一旦置いておくとか無理だからね!?」
「セイツ、今はそんな話をしてる場合じゃないよ。前話ラストといい今話といいここのところシリアスが続いてるからって事でギャグパートが突っ込まれたのかもしれないけど、まだ皆戦ってるんだから」
「メタ発言が過ぎる!?なんかもう手遅れ感あるんですけどぉ!?」
既に十分ぎょっとしてる筈なのに、ここにきて更に来る仰天のおかわり。イリゼがネプテューヌばりに、或いはネプテューヌ以上にメッタメタなメタ発言をするなんて、もう信じられないにも程がある。……思い返せば一度や二度は過去にもあった気がするけど、その時はその時でやっぱりイリゼはテンパってたりしてたと思うし…それと同じような状態になってると思えば、もう不安要素だらけというか、不安しかなかった。…けど困った事に、イリゼの指摘そのものは間違ってもいない訳で……
「…あーもう…イリゼ、貴女冷静なのね?そこは、信じてもいいのね?」
「勿論。我ながらなんかおかしい気はするけど、それはそれとしてそれはもう冷静だから」
「自覚があるなら休んでよほんと…。…えぇい、わたしももう割り切るわ!今は時間が惜しい、それはほんと事実だものッ!」
これ以上わたしがわたわたしても仕方がない、その時間こそが何よりも無駄。無理矢理ではあるけど、自分の中でそう結論付けて、意識も思考も切り替える。
「…話は、済んだようね」
「えぇ、待たせたわね。…あんまり済んだ気はしないけど、済ませたわ。済んだ事にしたわ」
呼び掛ける声に、小さく首肯をして返す。それからスカネク達三人の方を見て…少しだけ、離れる。わたしは無駄な時間を使ってしまった。でも今ここには、イリゼと三人の間には…きっと必要な、時間がある。だから少しだけ…待つ。
「…セイツから聞いたよ。私を助ける為に、また来てくれたんだって。最初から、そう約束してたんだって」
「ああ。わたし達は君に助けられた。それも一方的に、きちんと話す間もなく、な。…それで終わりなど、受け入れられないさ。短い間とはいえ、同じものを目指して協力し合った仲間なのだから」
「うん。…ごめん、勝手な事して。それから…ありがとう」
「気にしないで、私はあの時の借りを返しただけだもの。それにあの時は、ああする他なかったって事も理解しているわ。…納得は出来なかったからこそ、私は…いいえ、私達はここにいる訳だけど」
「…納得、か…皆。私はまだ、ここで終わりにしたら、納得しきれない。これで良かったって思いで、終わらせられない。だから……」
「構わないわ。貴女が強情だって事は、それこそあの時によく知ったもの。…行くんでしょう?援護するわ。まだ色々、言いたい事はあるけど…それは、やる事を済ませた後でも出来るもの」
イリゼを見つめる、三人の眼差し。皆はイリゼを取り戻す為に、わたしの力になってくれた。その皆が今度は、イリゼの力になってくれようとしている。そしてイリゼは…頷く。何も言わない、だけど浮かべた表情が、纏う雰囲気が、見せた頷きこそが…何よりの、答え。
「お待たせ、セイツ。…任せても、いいんだね?」
「任せなさい。だけど、まだやる事があるって言うなら、わたしも行くわ。だから皆の立て直しが終わるまでは、待っていなさい。…これは、お願いじゃないわ」
「…もし、時間が惜しいって先に行こうとしたら?」
「大丈夫よ、そうはさせないから」
「へぇ、反応が早いわね」
「あ、ちょっ…二人共…?いや、今のは冗談……」
「じーっ……」
「ほ、ほんとに冗談…というか、言うだけ言ってみただけだって!そんな、割と本気で疑うような顔しないで…!」
仮定の話を口にした直後、東ザナちゃんとアイエフが、左右からイリゼをがっしりと掴む。本当に?…と言わんばかりの顔で、コンパがイリゼをじっと見つめる。速攻二人に取り押さえられ、コンパにまで疑われたのは流石にショックだったのか、イリゼはしゅんとなり…これなら大丈夫そうね、えぇ。
そうして艦の後退と、MG部隊の立て直しに合わせてわたしは再び飛び立つ。コンパは医療班の手伝いに向かって、イリゼの事はアイエフと東ザナ、それにスカネクの三人へ任せる。そして……
「通信状態に問題なし。これよりわたし以下ストラマ四機は、貴君等の指揮下で助力させてもらう」
「こちらオラクル1、貴君の助力に感謝する。オラクル2、こちらはダークメガミの迎撃で手が離せない。彼女の事は任せるぞ…!」
「なっ、貴方は相変わらず……まあ、いいでしょう。…オラクル第二小隊長、チュイルです。私の直属で作戦行動に望める事、光栄に思いなさい」
カタパルトを利用し出撃していく乙戦ちゃんと、彼女や彼女の兵が駆る戦闘機。その方がお互い動き易いという事で、一時的にオラクル中隊と協同する形を取った乙戦ちゃんへチュイル特務中佐が指示を飛ばし、最前線では最低限の支援のみを受けて、サクリスタン特務中佐がダークメガミを押し留める。…まだ、いける。わたしも皆も相応に消耗しているし、戦いは気力だけじゃどうにもならないけど…士気だけは、微塵も衰えてはいない。
(……うん?カオスモンスターの、再生が…)
皆と話している間も努めてはいたけど、場所を転々としての長期戦で、プロセッサ各部への圧縮シェアエナジーの装填がいい加減間に合わなくなっている。イリゼが主にやっている、その場でとにかく圧縮と解放をすれば良いだけの方法と違ってわたしはプロセッサのカートリッジ内に装填して、その状態を維持し続ける必要があるから、どうしたって手間が掛かる。
とはいえ状況は待ってくれないし、それならそれで圧縮シェアエナジーを利用しない立ち回りをするまで。わたしは左手を順手、右手を逆手の持ち方で陸へ空へと飛び回り跳ね回り、片っ端から斬り付ける。カオスモンスターを全力で引き付け…そうしている中で、気付く。カオスモンスターの再生が、何かおかしいと。
「……っ、やっぱり…!」
少しの間だけ刃での攻撃を止め、打撃だけに留める事で、カオスモンスターを観察する。視線を走らせ、飛びながら凝視する。その中でもまた一体のモンスターが突っ込んできて、わたしはその個体を捕まえる。猛禽類の様なモンスターの背後に回り込み、翼の付け根を両手で掴む事で動きを封じる。当然の様にその個体は暴れ…傷を、晒す。不規則に再生と悪化を繰り返す、何もしていないのに裂傷が変容し続けている、単なる再生以上にあり得ない傷口を。
(これって……)
何かどころか、明らかにおかしい。そしてこれに原因があるとすれば…きっとそれは、わたし達がイリゼを取り戻した事、結果歪みから『イリゼ』というピースが失われた事に起因している。
「レジストハート様!」
「ここからは、我々にお任せを!」
複数の光芒が、わたしの左右を駆け抜けていく。恐らくは補給を終えて再出撃してきた二機のマエリルハが、翼を並べて飛んでいく。どうやらオラクル中隊の再編は済んだようで…再展開していくMGの後ろから、もう一対の翼が舞う。
「セイツ!」
「…全くもう、急ぎ過ぎよ…けど、確かに出るなら良いタイミングね」
広がるオラクル中隊の動きに合わせれば、単独で突っ走るより安全且つ着実。その判断は正しいもので、わたしは頷き反転する。イリゼの前で、イリゼの道を切り開く。
「イリゼ、行き先は?」
「私は、見届けたい。ネプテューヌと、もう一人のネプテューヌ…その戦いの、果てにあるものを」
「つまり、折角脱出してきた教会に逆戻りって訳ね。…でも、そういう事なら…少しだけ、寄り道させて頂戴」
だったら方向は合う。そう思いわたしは答え、イリゼも一拍の後察したような声を漏らす。そうしてわたし達は加速し、教会へと向かっていく。戦場を突っ切り、イリゼを守る上で障害になるモンスター以外は全て無視して、進んでいく。
わたしはイリゼへ、寄り道をすると言った。その立ち寄る先が、段々と近付いていく。そして、大きく迂回する進路を取るイリゼとは対照的に、更に私は加速し…ダークメガミへ、突っ込む。
「サクリスタン特務中佐!合わせるわ、行ってッ!」
「……!了解…ッ!」
迎撃のエネルギー刃を躱しながら声を上げれば、インカム越しに答えが返ってくる。ライフルでの射撃を行っていた赤いマエリルハが、ビームサーベルを双刃刀形態に連結させて大きく踏み込む。わたしは装填を済ませた圧縮シェアエナジー弾頭を、サクリスタン特務中佐のマエリルハはバックパックのビーム砲を放つ事で牽制し、掌底部からの薙ぎ払いをほぼ同時の急降下と急上昇で分かれて避け…肉薄。わたしは連結による大剣を、特務中佐は上下から出力する荷電粒子の刃を引き付け、ダークメガミの胴を同時に突き刺す。
「後は、頼むわ!」
深々と突き立てた得物を更に斬り裂きながら引き抜き、脇をすり抜ける形で離脱する。サクリスタン特務中佐のマエリルハも、水平展開していたバックパックを背部へ沿う形へ戻して、バックパックと脚部の推進器の向きを合わせて急上昇での離脱をしていく。
ダークメガミも、カオスモンスターと同じだった。接近を掛ける中で、損壊している部分が再生しているかと思えば、映像の巻き戻しを止めたかのように、また砕けていくという光景が見えた。…やっぱり、わたしが見たもの、抱いた違和感は、間違いじゃない。
「…もう歪みの崩壊が近いって事なのか、そうじゃないのか…仮にそうだとしても、このまま収束してくれるのか、それとも最後に滅茶苦茶な爆発でもしてくるのか……」
「…セイツ?」
「独り言よ、気にしないで。…けど…わたしも見届けるとするわ。尤も、わたしは感傷や心が望む行動としてじゃなくて、あくまで万が一に備える為だけどね」
迂回していたイリゼと合流し、またわたしが前に出る。ここでごちゃごちゃ考えても仕方ない。わたしの理解を超えた事柄なんだから、直接目で見て確かめるしかない。
だから、わたし達は向かう。再び教会へ、ネプテューヌとアルテューヌの戦いへ。イリゼは見届ける為に。そしてわたしはイリゼを守り、浮かんだ「もしも」に備える為に。
*
撃ち合う。撃って、撃って撃ち続ける。手を抜ける隙も、気を抜ける瞬間もない。そんな事をすれば、次の瞬間にはやられる。
女神の目なら、反応速度なら、撃たれてからでも回避や防御は出来る。だけどそれだけに頼れば、押し切られる。撃たれる前から視線の動きで、砲口の向きで予測して対応しなきゃ、勝つ事は出来ない。…いや、違う。そうしなくちゃ…戦いに、ならない。
「ほらほら、そんな攻撃じゃ…アタシには、届かないわよッ!」
「そうみたい、だね…ッ!」
上下左右加速減速、縦横無尽に飛び回る事で、ネプギアを翻弄する。動き続ける事で、動きを不規則に変化させ続ける事で、ネプギアに狙いを付けさせない。それでもネプギアの射撃は、端末の砲撃は何度もアタシを掠めていくけど…どんなにギリギリだろうと、当たらなければそれは外れ。躱せたという意味では、紙一重も大外れも大差はない。
そんなアタシに対して、ネプギアは砲撃一辺倒じゃなく、端末自体での突進、刺突も狙ってくる。だからアタシは、砲撃は躱し、突進は引き付けた上で蹴り飛ばす。
「だけどそれは、ユニちゃんも同じ事じゃないかな…ッ!」
「それはどうかしら…ねッ!」
勿論凌ぐだけじゃない。回避と迎撃、その僅かな合間でアタシはネプギアへ射撃を返す。確かにアタシの攻撃も、ネプギアには届いていない。何ならネプギアの方が、余裕を持って立ち回れている。…だけど、いい。何も悲観する事はない。だって初めは、もっと封殺されていたんだから。こっちが大きな一手を撃たなきゃ、どんどんジリ貧に追い込まれていくだけって状況だったんだから。
それが今は、それなりに巻き返せている。有利不利の差が、大分縮まっている。そしてそれは、実際の差以上の意味がある。縮められている、優位を失いつつあるっていう事自体が、一つの精神的な負荷になる。
(けどまぁ、よく考えたら当然よね。これだけの端末を同時に操って、それぞれの位置やら射角やら仕掛けるタイミングやらも考えて、その上で自分自身も戦闘に参加するなんて事を、楽にやれる筈がないもの)
逆に差を縮められている事で、アタシの心は少し軽くなっている。だからネプギアの優位が、優位を取る為にやっていた事が、相当な負担のある戦い方なんだって気付く事が出来た。…そう。ネプギアはアタシを徹底的に包囲して、着実に削る戦法を取る為に、端末を徹底して『個』として動かしている。複数基を『集団』として運用する事で、負担を減らすってやり方をここまで殆ど取っていない。
加えてもう一つ、アタシには有利な点があった。…それは、射撃にしろ砲撃にしろ、『撃つ』事に関しては、アタシの方が上だって事。撃つ面で上回っている分、『撃つ側の思考や狙い』を読み取る力も、アタシが勝っているって事。落ち着いてくれば、M.P.B.Lにしろ端末にしろ、自然と狙いが見えてくる。読めればその分、早く次の行動に移せるというもの。
「そこッ!」
「……!」
「…なんて、ねっ!」
攻撃位置へ向かおうとする端末の一つ、その先を予測し銃口を向ければ、端末は急反転から別方向へ向かっていく。ネプギアは、偏差射撃を回避させる為の行動を取る。…だけど、アタシは撃たない。だって初めから、撃つつもりなんてなかったから。
端末が進路を変えた。それはつまり、本来その端末がカバーする筈だった場所が空白になるって事。ネプギアが作り上げる包囲に、穴が開くって事。それこそが、アタシの狙い。アタシの狙っていた状況。
「くッ、それなら…!」
「遅いッ!」
すぐに別の端末がアタシを撃ってくる。アタシの進路に急行して、阻もうとする。でも遅い。アタシはバレルロールで砲撃を躱し、サブマシンガンの連射で邪魔しようとする端末を退かす。端末による包囲を抜けて、全速力でネプギアへ突っ込む。
これは実験でもあった。もしネプギアにまだ十分な余裕があるなら、端末を一基退避させたとしても、すぐに別の端末でフォローしアタシを押し留めてくる筈。けど実際には違った。押し留めようとはしてきたけど、アタシの考える『万全のネプギア』より動きが遅いし、動きの精度も甘い。だから一度のバレルロールで躱せたし、雑な弾幕で退かす事が出来た。…間違いなく、ネプギアも消耗している。ネプギアの狙い通りにいったなら、ネプギアより先にアタシがガス欠になっていたんでしょうけど…もう、そんな未来は訪れない。
「接近してくる、って言うなら…ッ!」
トップスピードで突進するアタシに対し、ネプギアは撃たずにM.P.B.Lを構える。構えて、ネプギアも突っ込んでくる。今の自分じゃ、今のアタシを撃っても止められないと思ったのか、それともアタシの後ろに端末を展開しようとしていて、撃つと自分で撃墜する形になるから撃てなかったのか、或いは別の理由か…そんな事は分からないけど、なんだっていい。撃ってこない、ただそれだけが確かな事実。
射程距離へ入ると同時に、左手を振り上げショットガンを放つ。広がる弾丸の束をネプギアは横っ飛びするように躱し、その先へアタシは右手を向ける。握ったグレネードランチャーの銃口を向け、対するネプギアもM.P.B.Lの銃口を向け返し…次の瞬間、アタシはランチャーを手放す。同時にホルスターからもう一丁のショットガンを射出し、フリーになった右手で掴み、同じくショットガンを手放した左手で右腕を支えつつ二度目のショットガン攻撃を仕掛ける。
「な……ッ!」
「貰ったぁッ!」
恐らくネプギアは、グレネードを撃ち落とそうとしていた。だけどショットガンならそうはいかない。ばらけて広がる多数の弾は、そんな迎撃を許さない。
それでもネプギアは避ける。被弾をたった一発、それも浮遊ユニットの表面に傷跡を残すだけに留めてくる。その反射神経と判断力は、消耗していても尚流石で…だからアタシも、更に突っ込む。ネプギアに、回避先に突っ込んで…目一杯の、蹴りを放つ。
「ぐぅッ…!」
「まだまだいくわよ、ネプギアぁ!」
交差させた腕の防御を、振り抜く脚で正面から崩す。二丁のショットガンを離して、殴り付ける。左で一撃与えて、右の拳も突き出して…それを受け止める、ネプギアの左の掌。
「突撃からのダブルショットガンにキックって…どこかの辺境惑星で流行ってそうな事をしてくるね…ッ!」
「そんな減らず口を叩いてる余裕、あるのかしら?」
止められたとはいえ、状況は悪くない。ネプギアは表情を歪め、じりじりとアタシの拳が押していく。だけど別に、アタシが腕力で上回っている訳じゃない。ただ、ネプギアの状態が悪いだけ。お姉ちゃんが左肩に与えた一撃が、響いているだけ。…弱っている部分につけ込むみたいなやり方は、あんまり好きじゃないけど…だとしても、アタシは最後まで…容赦しない…ッ!
「このまま…張っ倒すッ!」
関節を軸に捻りを加え、全身の力で腕を弾く。その勢いのまま身体を振って、追撃の回し蹴りを振り出す。弾かれたネプギアは逆に下がり…当然アタシは逃がさない。逃す事なく、楔状のパーツを稼働させて一斉掃射。敢えてその全てを回避先潰しへ使って、回避という選択肢を奪ってもう一度突っ込む。
グレネード、ライフル、バレルをパージしてのサブマシンガン。次々放って、叩き込んでは手放し次の火器を抜く。イリゼさんじゃないけど、そうして攻撃の性質を矢継ぎ早に変えていく事で、対処の難度を引き上げる。
「やられないよ…わたしは、まだッ!」
反撃の連射が頬を掠める。その中でもアタシは接近を続け、今一度肉薄。ネプギアの振るうM.P.B.Lに左のサブマシンガンを叩き付けて、この一丁を犠牲にネプギアの手からM.P.B.Lを落とさせる。衝撃で姿勢を崩すネプギアへ、近距離から右のサブマシンガンを向けて…けれど、離脱する。離脱せざるを、得ない。
(ちッ、間に合わなかった…!)
離れた直後、アタシのいた場所へ端末が殺到する。アタシの照射が途切れた直後…きっとそれを狙っていた端末による反撃が、後一歩のところでアタシを阻む。……だけど。
「焦ったわね、ネプギア。これでもう…後ろを気にせず、叩き込めるッ!」
「……っ、まさか…読んでたって言うの!?」
「えぇ読んでたわよ、そろそろチャージに戻るだろうってねッ!」
左手にハンドガンを握り、中距離からサブマシンガンでフルオート射撃。意識の全てをネプギアへ向け、狙いを定める。
明らかに持続時間が長い端末、それでもチャージ不要って訳じゃない事はもう分かっていた。だからそろそろチャージの為に引き戻すだろうとは思っていた。正確な事なんて分からないから、確信はなかったけど…端末は一基も撃つ事なく、全てがそのまま突っ込んできた。それが、証拠。アタシの読みが当たっていた事の裏付け。
加えてネプギアは、一度に全て戻してしまった。一基でも残せばアタシにプレッシャーを与えられただろうに、全て一斉に浮遊ユニットへと引き戻した。勿論、ネプギアはすぐに再射出をするだろうけども、その前に決める。もうネプギアの手に得物はない、戻した直後じゃ端末も大した砲撃は出来ない筈。決める為の条件は…揃ってる。
「…だけど、それでも…まだ、終わってないッ!」
「だから…焦ってるのが、見え見えなのよッ!」
引くかと思った。引いて、ほんの少しでも距離と時間を稼ぐかと思った。けどネプギアは逆に前に出る。両手に、拳に炎を纏いながら、アタシとの距離を詰めてくる。奇策や駆け引きを組み合わせなきゃ、やっぱり近接戦はネプギアの方が上手いんだから、もう射撃も出来ない以上距離を詰める事そのものは間違ってないけど…今はそのタイミングじゃない。それなのに仕掛けてきたネプギアは…やっぱり、焦っている。
だから今度は右のサブマシンガンで突き出してきた拳を横から叩いて弾く。同時に突き出してきた両の拳を、両方弾く。これでもう、完全にネプギアの姿勢は崩れた。この距離なら、この近さなら、端末だって射角を取れない。
「ネプギア、これでアンタの負けよッ!」
振り出す左のハンドガン。突き付ける胸元。そして真っ直ぐネプギアの事を見据えながら、アタシはトリガーを……
「──違うよ、ユニちゃん。負けるのは…ユニちゃんの、方だから」
引こうとした。もう指は掛かっていて、一瞬も要らない状態だった。…だけど、引けなかった。引ききる直前に、右腕に激しい衝撃が走って…アタシは、引き剥がされる。銃口はネプギアの身体から逸れて、弾丸は何もない場所を虚しく貫く。
「これは──ぐぅぅ……ッ!」
直後、同じ衝撃が左腕にも襲い掛かる。斬撃じゃない。打撃でも、銃撃でもない。アタシの両腕を襲ったのは…捕縛。浮遊ユニットに装着されていた、爪や牙の様な遠隔操作端末…それが装着されたまま可動し、ユニットごと前に出る事で、アタシを捕えていた。巨大な手の様に、アタシの両腕を掴んでいた。
「やっと捕まえたよ、ユニちゃん。俊敏なユニちゃんを捕まえる機会は全然なかったから、望みは薄いと思っていたけど…上手くいって、良かったよ」
「…初めから、これが狙いだったって言うの…?包囲しての封殺も、アタシをじっくり削って息切れさせるのを狙っていたんじゃなくて、アタシにそう思い込ませる為の…この瞬間の為の、ブラフだったっての…?」
「勿論。…と、言えたら格好良いけど…それは本当に狙ってた事だよ。だけどそれは通用しないって分かったから、ギリギリまで引き付けて、最後の最後でカウンターを仕掛ける戦法に切り替えたの。どうせ押さえ込まないなら、最後には押さえ込めなくなる前提で、その後に勝つ方法を考える…それって普通の事でしょ?」
追い詰めたと思っていた。ネプギアには焦りがあって、それを突く事が出来ていると、本気でアタシは考えていた。けれど、違った。追い詰めたように見えていただけで、ネプギアは更にその先も見越していた。焦りはあったのかもしれないけど…それ以上に、アタシの見通しが甘かった。
「けど、本当にギリギリだったよ。ユニちゃんの砲撃で中々引き戻せなかったし、かなりわたしの攻撃はユニちゃんに見切られてたもん。だからこれはわたしの作戦勝ちって言うより、賭けに何とか勝った…ってところかな」
「…ふん、もう勝った気でいるなんて、随分と自信家になったものね。たかだか両腕を掴んだ位で、アタシに勝ったと思ってるなら……あぐ…ッ!」
「無駄だよ、ユニちゃん。ユニちゃんが右腕を怪我してる事は分かってるもん。さっきだって、反動の強いショットガンを右手で撃つ為に、左手でわざわざ支えてたよね?」
掴む力の強くなる、アタシから見て右側のユニット。その瞬間、肘に痺れるような痛みが走る。一撃受けてから、少しずつ…本当に少しずつだけど悪化していった右肘を、捕縛で痛め付けられる。
ネプギアは、冷静だった。しっかりアタシの怪我を見抜いていた。勿論、軽んじていた訳じゃないけど…ネプギアの冷静さは、アタシの想定を、超えていた。
「降伏して、ユニちゃん。言っておくけど…この状態からなら、ユニちゃんの両腕を潰す位、訳ないよ?」
少しずつ、ネプギアは掴む力を強めてくる。恐らく、今のはハッタリじゃない。その気になれば、きっと本当に握り潰せる。
決して実力が届かなかった訳じゃない。勝機は感じていたし、後一歩だった事も事実。だけどそれを、ネプギアが策略で、駆け引きで覆した。ひょっとしたら、アタシが包囲に対抗出来るようになっていったのも、突破出来たのも、ネプギアも消耗しているからっていうアタシの見立てに加えて、ネプギアの考えていた『最後には突破される前提で』って部分もあったのかもしれない。
あぁ、悔しい。本当に悔しい。勝てると思ったところで覆されるのは、本当に悔しいし、情けない。……でも。
「…そうね、読み合いはアタシの負けよ。ネプギアは、アタシを上回っていった。カオスの力だとかなんだとかは、何の言い訳にもなりはしない」
「…そんな事ないよ。あるとしても、それは薄氷の勝利──」
「けど、甘いわね。本当にネプギアは…甘過ぎるわ」
やれやれと、軽く首を降ってみせる。当然そんな反応をすれば、ネプギアが浮かべるのは、怪訝な表情。
「…甘い?もしかして、こうして捕縛で済ませてる事?…ユニちゃん、それはただ負け惜しみ……」
「あぁ違う違う。甘いって言ったのは、心の話じゃなくて……アンタの、見通しよッ!」
「え……!?」
吠えるようにして、アタシは言葉を叩き付ける。そしてその言葉と共に、アタシは展開する。配置する。ネプギアを驚愕させる。──宙に浮いた、アタシが突撃しながら次々と手放していった、まだプロセッサのホルスターに格納していなかった何丁もの銃器で以って。
「これは……!」
「アタシだって、アンタの端末みたいに長距離でも自由自在…とはいかないけど、距離が近ければこうして操る事が出来るのよ。じゃなきゃ、手放した火器を引き戻す事も出来ないでしょ?」
「…やってくれたね、ユニちゃん…やられたフリして、包囲し返す算段を立ててたなんて……」
「残念だけど、それは買い被りよ。アタシは包囲なんて狙ってなかった。ただアンタが突っ込んできたから、手放した火器の引き戻しを後回しにしただけ。アンタのカウンターが早かったからこそ、今度は引き戻す事も出来なくて、逆に待機中の火器を包囲に使うって策を思い付いただけ。…ネプギアが賭けに何とか勝ったって言うなら、アタシは運が味方してくれただけよ」
展開した銃器の全てを、ネプギアに向ける。表情を歪め、それでもアタシを見つめるネプギアの瞳へ、アタシは真っ向から見つめ返す。…ネプギアの策を見抜けなかったアタシも、そのタイミングのせいで逆転の芽を残してしまったネプギアも…甘かったのは、お互い様。どっちが上なんて事もない。
「さ、どうする?ここは仲良く、お互いクリーンブレイクでもする?」
「そうだね、仲良く…と言いたいところだけど、本気でそう思ってる?確かに一方的な状況じゃなくなったけど…まだ有利なのは、わたしの方だよ?この位置取り、射角なら、一斉に撃たれてもわたしは致命傷を避けるだけの動きが出来る。だけどユニちゃんは、違うよね?」
そう、その通り。ネプギアなら、避けてくる。ある程度は当たるだろうけど、戦闘不能にはならない程度に留めてくる。だけどアタシは避けられない。どうしたって、圧壊からは逃れられない。…だから、だからこそ言ってやる。目一杯口角を上げて、これでもかと挑発を込めて…ネプギアへと、言ってみせる。
「だったら、やってみればいいじゃない。両腕が潰れる?駄目になる?はッ、だとしてもアタシはアンタを逃さない!たとえ握り潰されようとも、引き千切られようとも、その分アンタを撃ち抜くだけよッ!」
「……──ッ!」
目を見開く、それから鋭い視線へと変わるネプギア。そのネプギアを、ネプギアだけを見据えるアタシ。そして次の瞬間……端末は、飛翔する。端末の全てが、光線を放ちながら、包囲へと突っ込む。
「ネプギアぁああああああッ!」
「ユニちゃぁぁああああんッ!」
飛来する端末に、アタシも火器を突っ込ませる。互いに撃ちながら激突し、アタシの火器も、ネプギアの端末も爆ぜて砕けて散っていく。
「やっぱり右側が使えてないみたいだねッ!」
「だからッ、なんだってのよッ!」
右側へ回り込もうとするネプギアを、撃ちながら追う。端末を射出する直前、ネプギアは一瞬強く締めてきた。完全にではないにしろ、右腕を使えなくなるようダメージを与えてきた。やってくれる、本当にやってくれる。だけど、だとしても…アタシは、負けない…ッ!
『はぁああああぁぁぁぁッ!』
接近してくるネプギアへ向けて突き出す膝蹴り。ネプギアもまた脚を振り出し、アタシもネプギアも仕掛けながら回避に動いて、アタシ達は互いに掠めながらすれ違う。すれ違い、直後にアタシは全力で振り向く。
そうして振り向いたアタシが見たのは、同じように振り向くネプギアの姿。再び拳に纏う炎。振り向きざまに、ネプギアは左の拳を突き出し…アタシも右の拳を放つ。負傷してたって、それ位は出来る。いつものパフォーマンスでの射撃は出来なくても、攻撃にぶつければ、盾代わりにはなる。
弾かれるアタシの拳。結果逸れるネプギアの一撃。けれど同時に、ネプギアは右の拳も引き付けていて…アタシもまた、左手で握るハンドガンをもう一度突き出す。さっきは届かなかった一発を、もう一度向ける。そして……
「がは……ッ!」
「ぅぐ……ッ!」
引ききったトリガー。超至近距離から撃ち込んだ弾丸。アタシの胸元に食い込む拳と、燃え盛る熱。歪む視界の中で、ネプギアは仰け反り…アタシもネプギアも、同時に落ちる。
「はぁッ…はぁッ…相、討ち……?」
「馬鹿、言うんじゃないわよ…この位じゃ、アタシは…」
文字通りの焼ける痛みに襲われながら、アタシは左手で地面を押す。歯を食い縛って、痛みを堪えて立ち上がる。痛いけど、こんな程度じゃ倒れる理由にはならない。まだ身体は動く。アタシの心はこれっぽっちも折れていない。だからまだ、戦える。
けれどそれは、ネプギアも同じ事。アタシが撃ち抜いた胸元を押さえながら、よろめきながら立ち上がる。…多分、致命傷にはなっていない。プロセッサに当たってしまったから、その分ダメージは抑えられている。
だとすればここからは、これまで以上に根性の勝負。お互い大きなダメージを負って、武器もかなり潰れた以上、心が勝敗に直結する。折れるまでもなく、心が揺らいでしまった時点で、勝敗が決まる。…そう、アタシは思っていた。──アタシとネプギアの間に、巨大な氷塊か落ちてくるまでは。
『え…?』
衝撃と共に飛来した氷塊に、アタシもネプギアも動きが止まる。一瞬、何が起きたのか分からなくて…けど次の瞬間、気付く。落ちてきたのは、氷塊だけじゃない事に。その氷塊は、イリゼさんの影を押し潰していた事に。そしてイリゼさんの影は、アタシの目の前で微かに震え……動かなくなる。
「いっえーいっ!『対おねーさんセンジュツ』大成功ねっ!」
「ふぅ、ふぅ…大変、だった……」
聞こえた声につられて見上げれば、そこにいたのはピースサインを見せるラムと、安心した様子のロム。氷塊の時点で、答えは明白だったけど…二人は、イリゼさんの影を倒していた。撃破、していた。
それだけじゃない。いつの間にか、戦闘の音はまばらになっていて…一人、また一人と、守護女神の影が倒れていく。お姉ちゃんの影が、ベールさんの影が、ブランさんの影が…最後はネプテューヌさんの影が、沈む。お姉ちゃんに、ベールさんに、ブランさんに、マジェコンヌさんに倒されて……戦いの音は、遂に消える。そうして聞こえてくるのは、息遣いだけ。かなりの消耗をした…勝者の、吐息だけ。
「……この位じゃ、相討ちにも、ましてや負けたりなんかもしないのよ、アタシ達は」
氷塊が消えていく中、イリゼさん達の影も消失していく中、ロムとラム、それにお姉ちゃん達が飛んでくる。アタシ達は並び立ち…ネプギアを、見やる。
「終わりよ、ネプギア」
「わたくし達にわたくし達をぶつける…それは失策でしたわね」
「ネプギアが呼び出した時点より、わたし達が強くなれば…強くなっていれば、間違いなく倒せる。ただ、それだけの事だ」
近くにいる事で、よりはっきりとお姉ちゃん達の消耗具合が分かる。だけどその表情に、纏う雰囲気には、今もまるで隙がない。
最初と違って、今は全員が消耗している。怪我もしている、だけど、アタシ達全員と、一人のネプギアという状況は変わっていない。戦力差を一変させた、お姉ちゃん達の影はもういない。…なのに……
「…ですよね、分かっていました。だけど、わたしがこの場で頼れる、その強さを信頼出来る一番の人達って言ったら、やっぱりネプテューヌさん達なんです。だからわたしの判断が間違っていたとは、思いません」
圧倒的不利な状況で、妙に落ち着いた様子を見せるネプギア。虚勢かと思ったけど、そんな風にも思えない。となれば次に思い浮かぶのは、まだ何か策があるっていう可能性で…でも、お姉ちゃん達の影を呼び出す以上の事が出来るとも思えない。だからこそ余計に不自然。余計にその態度が、理解出来ない。
それはお姉ちゃん達も思ったようで、困惑と警戒、両方の感情が伝わってくる。一体どういう事なのか。どうしてこうも落ち着いていられるのか。そうアタシが思う中……ネプギアは、言う。
「それに…皆さん、勘違いしていませんか?まだ、何も──終わってなんか、いませんよ?」
『……ッッ!?』
──その瞬間だった。ネプギアが、そう言った時だった。ネプギアの周囲が歪んで…倒された筈の、消えた筈の、お姉ちゃん達の影が再び現れたのは。
「馬鹿な…まさか、再生したとでも言うのか…!?」
「違いますよ、マジェコンヌさん。…言いましたよね?直接来てもらった訳じゃないって。影みたいなものだって。ここにいるお姉ちゃん達は、過去から今に映った鏡像のようなもの。だから倒されても、条件さえ揃っていればこうしてまた呼び出す事が出来ますし…仮に本当に倒されていたとしても、その時はイリゼさんのリバースフォームと同じ要領で、一度目に呼び出した時間軸より一瞬前、ほんの僅かに前のお姉ちゃん達を呼び出せば、倒されたかどうかなんて関係なくなるんです。だって、倒される『前』の段階で呼び出している訳ですからね」
いつもの調子で語るネプギアに、その内容に、愕然とする。困惑と警戒、それと共に感じていた小さな余裕が、誰からも感じられなくなる。
信じられない。そんな訳ない。無茶苦茶が過ぎる。そんな言葉ばかりが浮かぶ。だってその通りなら、何度でも、幾らでも呼び出せるって事だから。どれだけ倒しても、無駄になるって事だから。…でも、きっとそれが真実。少なくとも今、お姉ちゃん達の影は再び現れた。百歩譲って、実は嘘で、これが一度きりの復活だとしても…もう一度倒さなきゃいけない事には、変わりない。
「勝ったとはいえ、皆さんも相当疲弊してますよね?シェアリングフィールドのおかげでシェアエナジー切れにはならないとしても、このまま全力で戦えば別の形で活動限界になる…違いますか?」
「ネプギア……ッ!」
「そんな怖い顔しないで、ユニちゃん。わたしは皆がじっとしててくれるなら、わたしも何もしないから。わたしだって、この一帯を覆った歪みが解けるまでは、ここから移動出来ないんだから。…だけどまだ戦うって言うなら、容赦はしません。見ての通り、わたしももう余裕なんてありませんから…容赦は、出来ません」
軽く笑った後に、ネプギアは真剣な、本気の眼差しを向けてくる。その目と言葉で、伝わってくる。本当に、こっちが何もしなければ、ネプギアも何もしないんだと。こっちがまだ戦おうとするなら、ネプギアも最後の最後まで戦うつもりなんだと。
…勝機は、見えない。ネプギアとの一対一なら、まだやれる。だけど、アタシ一人が勝つ事が出来たとしても…アタシ達の戦いは、これじゃ勝てない。このまま戦えば、きっと……負ける。
(…だけど…だと、しても……ッ!)
これじゃ仕方ない。ここはネプギアの話に乗るしかない。…そんな声は、誰からも出なかった。ある意味それが一番現実的な選択なのかもしれないけど…誰も、そうしようとは言わなかった。…当たり前ね。だってアタシ達は…女神、だもの。
だから、答えは決まっている。であれば、アタシが、アタシ達がする事は一つ。玉砕なんて考えてない。意地を貫ければそれで良しとも思っていない。単に、偏に、諦めるなんて選択肢がアタシ達にはないだけで……
「──ふふっ。ふふふふっ。本当に…本当に凄まじいね、ぎあっちは」
戦いは続く、戦いは続けられる……そう思っていた、時だった。背後から、笑い声が聞こえたのは。──くろめさんの声が、聞こえたのは。
「うわ…っ!?ちょ、ちょっと!?何をして……」
「全く、恐ろしいにも程があるよ。もし嘗ての戦いで、ねぷっち達ではなく君が味方になってくれていたなら、未来は大きく変わっていたかもしれない…今は本気で、そう思うよ」
「…くろめ、さん……」
「ちょっとぉ!?だから何やってるのくろめぇ!?女神化解いちゃったら、シェアリングフィールドが……」
足音と共に近付いてくるくろめさん。さっきのネプギアと同じかそれ以上に、妙に落ち着いたその声に、アタシ達は振り向く。その直前には、ネプギアの…どこか驚きを帯びたような声も、聞こえてくる。
動揺するうずめさんの言う通り、くろめさんは女神化を解いていた。うずめさんが言い切る前に、シェアリングフィールドが…アタシ達を支えていた空間が、消え始めていた。一体何のつもりなのか。何を考えているのか。疑問ばかりが浮かぶ中、くろめさんはアタシ達の下まで来る。そして、アタシ達と同じように立ち……言った。
「なに、何も心配は要らないさ。だって…これで今度こそ、本当に終わりだからね。これで──オレ達の、勝ちだ」
今回のパロディ解説
・電磁波放電〜〜分身だろうと
機動戦士ガンダムSEED FREEDOMに登場するMSの一つ(三つ)、マイティストライクフリーダム、インフィニットジャスティス弐式、デスティニーspecⅡのパロディ。デスティニーだけは武装じゃないですね。
・最高にハイってやつね!
ジョジョシリーズに登場するキャラの一人、ディオ(DIO)・ブランドーの名台詞の一つのパロディ。味方(主人公)側のパロネタの直後に、今度はラスボスのパロディをするセイツ…確かに絶好調みたいです。
・「〜〜元気だからーっ!?」
プロレスラーであったアントニオ猪木こと、猪木完至さんの代名詞的な台詞の一つのパロディ。この時のイリゼは元気です。本当に滅茶苦茶元気です。大丈夫かどうかは別ですが。
・「全身痛いし〜〜笑顔だから!」
ののちゃんに登場するキャラの一人、タブチ先生の台詞の一つのパロディ。四コマ漫画です。このネタ(花粉症ネタ)が記憶に残っている私です。分かった方はいるでしょうか。
・「〜〜オラクル第二小隊長〜〜光栄に思いなさい」
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONに登場するキャラの一人、V.Ⅱスネイルの台詞の一つのパロディ。えぇ、もう完全にキャラ自体がパロディです。個人的にスネイルはAC6で好きなキャラなんです。
・「〜〜どこかの辺境惑星〜〜」
上記同様ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONに登場する星、ルビコン3の事。軽めの中二、レーザーライフルにレーザーキャノン、パルスブレードにミサイル…これが私の愛機です。
・「〜〜右側が使えてない〜〜」
機動戦士ガンダム00に登場するキャラの一人、アリー・アル・サーシェスの台詞の一つのパロディ。ネタは一期のものですが、浮遊する武器をぶつけ合う展開的には二期の終盤を意識しています。