超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
再生した…いいえ、再度呼び出された、ネクストフォームの私達の影。漸く打ち勝ったばかりの、過去の私達自身。…正直、厳しいなんてレベルじゃなかった。あの時より今の私は強いって、ネクストフォームへの理解も進んでいるって自信を持って言えるけど…それでも、過去の私自身なだけあって、相当な強敵だったから。その私自身を、もう一度倒さなきゃいけないなんて…それどころか、何度倒しても何もなかったかのように現れてくるんだとしたら、勝ち目なんてない。認めたくはないけど、そう思う程の状況だった。
そんな中で、女神化を解き、シェアリングフィールドも解除したくろめ。そのくろめによる、勝利宣言。あまりにもその唐突過ぎる言動に、私達は呆気に取られた。一体何を根拠にしているのか。…そう、思った。
「オレ達の、勝ち…?……それは一体、どういう事ですの…?」
「百聞は一見に如かず。まあまずは、見てみようじゃないか」
全員の気持ちを代弁するようなベールの言葉に、くろめは軽く肩を揺らす。肩を揺らし、ネプギアを…その周囲に立つ、私達の影を見る。
つられるように、視線を向ける私達。そこにいるのは、ネプギアと、五つの影。やっぱり、見間違いなんかじゃない。感じる力も、何ら減衰してはいない。私が、私達が何とか倒した影達が、何事もなかったかのように、全く変わらない姿でそこにはいて……けれど、違った。ネプギアだけは違った。今のネプギアは、私達に対して優位な筈なのに、その表情は苦々しげに歪んでいた。そして……
「…え?…消えて、いく……?」
ぽつりと零れるような、ユニの声。…影は、揺らぎ始めていた。揺らぎ、薄れ、ぼやけていって…私達が見る前で、五つの影は全て消える。最初からいなかったかのように、跡形もなくそこから消え去る。
「…くろめさんが、何かしたの…?」
「いいや、オレは何もしていないよ。…何もしていないから、消えたんだ」
含みのある、ロムへの返し。ネプギアに、再度影を呼び出すような素振りはない。本人の言う通りなら、幾らでも呼び出せる筈で…それなのに呼び出す事なく、静かに口を開く。
「…いつから、気付いていたんですか?」
「引っ掛かりはずっとあったんだ。けれど確信したのは、ついさっき…ねぷっち達の影を再度呼び出した瞬間だよ。もしやと思って、暫く前からシェアエナジーの流れを注視し続けていたからこそ、気付けたという訳さ」
「…そんな事まで出来るんですね」
「出来るさ。何せ自分達で展開し、制御しているフィールド内のシェアエナジーなんだからね」
それは、事実上の肯定。くろめの見立て通りだと、ネプギア自身が認めたようなもの。語るくろめは薄く笑い…ネプギアは観念したように、小さく吐息を漏らす。
「…くろめ、どういう事なのか説明して頂戴。今のやり取りだけじゃさっぱり分からないわ」
「そのつもりだよ。…尤も、ぎあっちが邪魔をしないでくれるなら、だけど」
こくりと私の問いに頷いたくろめは、再びネプギアを見やる。視線に対して、ネプギアは無言を返す。そのネプギアに、動く気配は…ない。
「さて、それじゃあ話すとしようか。初めに違和感を抱いたのは、ねぷっち達の影…過去のねぷっち達を呼び出したタイミングだ。ぎあっちは、のわっちから一撃受けた後に呼び出した訳だが…冷静に考えると、これはおかしい。数で、戦力で圧倒的に劣っている中でそれを埋め得る手段を出し惜しみするのは、明らかに不合理だからね。加えて、一見のわっちにやられた事で呼び出しに踏み切ったような流れだったけど、これもおかしい。だって、ぎあっちがのわっちの力を、ネクストフォームを知らない訳がないだろう?」
言われて初めて、確かにそうだと私も気付く。ネプギアがずっと余裕だったものだから、新たな歪みの形成、カオスの力、そして私達の影と段階的に、それこそ一見不自然じゃないタイミングで手札を切ってきたものだから、ここまでおかしいとは感じなかった。…或いは、うずめと共に後ろから全体を見られるくろめだったからこそ、気付けたって側面もあるのかもしれない。
「次に引っ掛かったのは、ねぷっち達の影が皆に対して善戦していた事…善戦し続けていた事だ。呼び出したタイミングの方はまだ、ぎあっちが油断していたとか、実はぎあっちは凄いうっかりさんだったとか、理由をこじつけようと思えばこじつけられるけど、こっちはそうもいかない。こっちは完全に、あり得ない」
「あり得ない?確かにネプテューヌ達の影は過去の存在、故にそこから更に実力を増しているであろう今の彼女等に及ばないのは道理だが、過去と言っても決して遥か昔ではない。ならば善戦するのは、むしろ当然の事ではないのか?」
「いいや、あり得ないさ。姿を模した偽者ではなく、過去の鏡像であるならば、その性質も、長所も短所も同一である筈。…さて、ここで確認しておきたい。ネクストフォームに必要なもの、短所とも呼ぶべき点は何かな?」
「何って、そりゃ……そうか、シェアエナジーか」
何故そんな問いを、とばかりの表情を浮かべるブラン。けれどすぐに、ブランは納得のいったような顔に変わる。
そう。ネクストフォーム最大の短所は、シェアエナジーの消耗が激し過ぎる事。加えて本来はあり得ない、イレギュラーな力だからか、教会のシェアクリスタルから来るシェアエナジーの供給そのものにも支障が出る事。そしてそれ等の短所が響いて持続時間に大きな制限を受けてしまうのが、明確な弱点。…段々と、見え始める。くろめの言いたい事が、気付いた事が、私の中でも浮かんでいく。
「短期決戦ならともなく、ネクストフォームでの戦闘継続には、大量のシェアエナジーが必要になる。皆はシェアリングフィールドでそれを賄っていた訳だが、そんな皆を相手に善戦するというなら、影達も同等量のシェアエナジーが必要になる筈。やられるまでネクストフォームが持続していた、シェアエナジー切れには陥らなかったという事は、ぎあっちはそれをクリアしていた、クリアする手段があったという訳になるけど…そんな方法が、あると思うかい?工夫や他の力による代替で、何とかなると思うかい?」
「…ならないでしょうね。ネクストフォームの力を引き出すのには、制御するのには、シェアエナジーが必要不可欠よ。少なくとも、ネクストフォームを会得している訳でもないネプギアが、一朝一夕で何とか出来る筈なんてない」
「あぁ、同感だよ。だからあり得ないと思った。…そう、あり得ないんだ。普通ならば、あり得ない。何とかなるとしたら、それが出来得るのはシェアリングフィールドだけ。そして……ここで一つ、明かしておこうか。皆は何気なく、フィールドに満ちるシェアエナジーを取り込んでいるんだろうけど…オレは、オレ達は、シェアエナジーに指向性を持たせる事が出来ない。だから、誰かに集中的に送るという事は出来ないし……」
「逆に、特定の相手へ送らない、って事も出来ない…行使する術さえありゃ、誰でも活用出来るのがシェアリングフィールドって訳か。はっ、くろめの考える結論が漸く分かったぜ」
「…しこうせい?アンドロイドの話?」
「字が違うし魔王とも付いてないでしょ……」
ぽかんとしているラムへ、ユニが半眼を浮かべつつも説明をする。だからそっちはユニに任せて、私は、私達は、次の言葉を待つ。そんな私達の視線を受けながら、くろめは一拍置き、ネプギアを見据えて…言う。
「という訳で、答え合わせといこうか。影を呼び出したタイミング、影がどうにかして確保していたのであろうシェアエナジー、そしてシェアリングフィールド。これ等が示す答えは一つ。──ぎあっちも利用した訳だね?オレ達の展開した、シェアリングフィールドを」
再び薄く笑うくろめ。ずっと黙り込んだままのネプギア。更に数拍の時が流れ…そして、ネプギアは頷く。くろめの示した答えに、首を、縦に振る。
「ご明察です、くろめさん。くろめさんの言う通り、わたしは利用させてもらいました。わたし一人で、全員分のシェアエナジーを賄うなんて出来ませんから。だから、シェアリングフィールドを使ってくれるのを待っていたんです。フィールドの展開を促す為に、この場へわたしの力を撒いたんです」
「わたしの力、か…ふふ、今の言葉で更に確信したよ。全く、本当に君は賢しいね。最も敵に回してはいけないのはぎあっちだと、つくづく思い知らされるよ」
「…えっと、だから……」
「知らず知らずの内に、俺達はぎあっちのサポートをしちまってたって事か。んで、ぎあっちはシェアリングフィールドを当てにしていたから、【オレ】が止めた事でねぷっち達の影は消えちまったし、もう呼び出す事は出来ない…そういう訳だな?」
いつの間にか同じように人としての姿になって、私達の所まで来ていたうずめが、ロムに答える。蓋を開けてみれば、あまりにも単純な答え。ネプギアも、私達の影も女神なんだから、シェアエナジーを力の源にしているんだから、シェアリングフィールドの恩恵を受けられるのは当然の事。私達はただそれを、恩恵を受けているのは自分達だけだと勝手に誤認していただけ。歪みやネプギアの姿から、シェアエナジーとは違う力を行使してるものだと無意識の内に思っていただけ。そして何より…種が割れれば、大した事はない。相手頼りの切り札なんて、バレてしまえば即終わりな訳で……真に凄いのは、それをここまで悟らせなかったネプギアの立ち回り。
「けれど、くろめの胆力も大したものですわ。シェアエナジーの流れという根拠を得たとはいえ、こちらの戦線を支えるシェアリングフィールドを自ら解くとは」
「オレのした事なんて、大した事ないさ。何せそもそも窮地、このまま戦っても敗色濃厚って状況だったんだからね。賭けに失敗したら負ける、賭けに出なくても負ける、けど賭けに勝てば一気に有利になる…そんな戦況なら、むしろ何も恐れる事なんてないだろう?」
「確かに、ものは考えようだな。…だが、まだネプギアが戦闘不能になった訳ではない」
深く頷き…その上で、ネプギアを見据えるマジェコンヌ。今くろめの言った通り、くろめは賭けに勝ち、一気に私達が有利になった。だけどまだ、勝った訳じゃない。圧倒的有利でも、勝つまで気は抜けない。特にそれが、ここまで私達を出し抜いていたネプギアなら。
そう、この時私は思っていた。皆だって、きっとそう。けれど、くろめは更に言う。くろめは更に……告げる。
「そうだね、その通りだ。だから、ついでにもう一つ言っておこうか。これは正直、予想の範疇を越えないけど…ぎあっち、実は君──カオスの力になんて、染まっていないんじゃないかい?」
『え……?』
再びの指摘。くろめからの投げ掛け。それを聞いた私は、私達は…その発言の意味を理解出来なかった。訳が分からなかった。だって、そうでしょう?現に今、ネプギアはカオスの力を纏っているんだから。その力を撒いたと、ネプギア自身が言っていたんだから。
「だって、そうだろう?話を聞く限り、カオスエナジーというのも相当な力だ。本来の力、シェアエナジーを取り戻す前のアルテューヌがその時点から十分な強さを有していたんだから、強力な力である事は間違いない。…だというのに、オレが見る限り、ぎあっちとゆにっちの戦いはほぼ互角だった。その特異な能力があればこそとはいえ、のわっちに対しては初撃を防ぎきれずに手傷を負っていた。ビヨンドパープル・カオス…その大層な名前の割には、大して強くないじゃないか、今のぎあっちは」
大仰に肩を竦めてみせたくろめの視線が、私とユニに向く。…否定は、しない。ユニとネプギアの戦いはじっくり見る余裕なんてなかったから、よく分からないけど…怪我の状態だけ見れば、確かに大して変わらない。私の刺突を受けた状態から始まった事を差し引いても…ネプギアの力がカオスエナジーによって大きく引き上げられているなら、こんな結果にはならない筈。…って、事は……。
「大して強くないって、ばっさり言いますねくろめさん…。そんな事を言われたら…頑張って強く見せようとしていた自分が、滑稽じゃないですか」
「滑稽って…ネプギア、まさか本当に……」
「うん。この力も、この姿も、全部……解析したカオスエナジーの情報を元に、NG粒子で『それっぽく』しただけだよ、ユニちゃん」
肩を竦めたくろめとは対照的に、ネプギアはがっくりと肩を落とす。落とし…認める。それは、事実だと。くろめの言う通りだと。
「え?え?ど、どーゆーこと…?」
「…わたしもラムと同じ気持ちだ。ちゃんと説明しろ、ネプギア」
「ですよね。けど、今言った以上の事なんて何もないんです。わたしはわたしの力を駆使して、NG粒子をカオスエナジーへと偽装した。表面上はカオスエナジーの様に感じるNG粒子を散布して、形だけのカオスフォームを作り上げた。…でも、ちょっとは強くなってる筈なんですけどね……」
「どうして、そんな事を……」
「皆さんの目を、わたしに向ける為です。歪みで外と隔絶したとはいえ、これだけ女神が集まっていれば、何か突破する方法を編み出してしまうかもしれない。だからこそ、突破よりも先にわたしを倒さなきゃいけないと、わたしを倒す必要のある相手だと認識してほしかったんです。──お姉ちゃんと、アルテューヌさんの為に」
何をしていたのは分かった。分かったからこそ、私は何故、とネプギアに問う。そして、ネプギアは答え…私達は、目を見開く。ネプギアが、ネプテューヌを『お姉ちゃん』と呼んだ事に。ずっとネプテューヌさんと呼んできたネプギアが、元の呼び方へ戻した事に。
「そんな理由で、と思うかもしれません。だけどわたしには、大切な事なんです。譲れない、事だったんです」
「…ふん、そうでしょうね。是非はともかく、その発言を疑う気なんかないわ」
「ぎあっちはねぷっちと同じで、真っ直ぐだもんな。まあ、今回はとんでもない方向に突き抜けちまった感じがあるが…」
「ユニちゃん、うずめさん…」
語った言葉を嘘だとは思わない。そんな風に返す二人に、ネプギアはぽつりと声を漏らす。それから一瞬、静寂が訪れ…くろめが、前に出る。
「さて、これにてもう一つの答え合わせも終了だ。全てはっきりしたところで…どうする?ぎあっち。まだ、やる気かい?」
「ふふっ、そんなの決まってるじゃないですか。──降参です。お姉ちゃん達の影の絡繰りも、わたしの『嘘』も見抜かれちゃった今、もう戦う理由はありませんからね」
ぱっと両手を上げ、カオス…に偽装したビヨンドフォームを解くネプギア。戦意はもう、感じない。完全にネプギアは、降参の意思を示して…私達は、顔を見合わせる。そして私達もまた…ネクストフォームを、或いはビヨンドフォームを解く。
「…ありがとうございます」
「礼を言われる筋合いはないわ。こっちだって、その必要もないのにネクストフォームを維持していても無駄だから解いただけ」
「とはいえ、ネプギアのした事を思えば、もっと警戒されて然るべきところ。そうなっていないのは、君がノワールに伝えていた一言と…これまで君が積み上げてきた、信用の賜物だろう」
「そういう事ですわ。…して、ネプギアちゃん。この歪みは……」
「ごめんなさい、これは本当にわたしにも解く事が出来ないんです。でも、もうそんなに長くは持たないと思うので、待って頂ければと思います」
ゆっくりと首を横に振るネプギアの回答を受けて、仕方ないかと私は頷く。
かなり予想外の形ではあるけど、ネプギアとの戦闘は決着した。くろめが真実を突き止めた事で、圧倒的劣勢は覆り、ネプギアは降参した。…けれど逆に言えば、くろめがいなければ、気付けなければ、結果は大きく変わっていた。最後にひっくり返ったとはいえ、恐らくマジェコンヌによるネプテューヌへの成りすましを除けば、この戦いは殆ど全てネプギアの掌の上だった。…本当に、大したものだと言わざるを得ない。勝敗もネプギアの降参という形で付いたには付いたけど、元からネプギアは足止めが目的だったっぽい事と、実際に私達は大きく足止めされた事を思えば、悔しいけど結局はネプギアの一人勝ちなのかもしれない。私は、そう思った。…そう、思っていた時だった。
「ラムちゃん、みんなを治してあげ……あれ…?」
「…なんか、お空が…変?」
「変?何を言って──」
空を見上げたロムとラムは、二人揃って首を傾げる。それにネプギアが反応し、同じように空を見て…目を、見開く。
「…これは、一体…何が、起きて……」
「…ぎあっち?」
「まさか、外で…ううん、アルテューヌさんに何か……いや、それよりも…!」
気になって、うずめが呼び掛ける中私も空…というより、周囲へと目をやる。相変わらず周囲は、ネプギアが新たに作り出した歪みに覆われていて…けれど確かに、何かおかしい。元から歪んでいる、『歪み』としか表現出来ないものが広がっているせいで、具体的に何がどうおかしいのかは上手く表現出来ないけど…とにかくこれまでとは、何かが違っている。そして…揺らいでいる。
「行って、ビット!」
直後、再びビヨンドフォームとなったネプギアは端末を射出する。まだ回復しきれていないって事なのか、元々の半分にも満たない数の端末はバラバラに飛んでいく。一瞬、ネプギアが臨戦態勢に入ったのか、戦意を隠していただけなのかと思ったけれど…違う。端末は私達の方へは向かう事なく飛び回り、歪みに向けて砲撃を放つ。その間ネプギアは、展開したコンソールを指で叩き、同じく開いたウィンドウへと忙しなく目を走らせる。そうしている間、段々とネプギアの表情には焦燥が浮かんでいき…叫ぶ。
「くッ…皆さん、わたしの側に!歪みがわたしの想定とは違う形で収束を始めています!これに巻き込まれれば、どうなるか分かりません!」
「ど、どういう事よそれって!収束?ただ消えるんじゃなかったの!?」
「そうなっていないから想定外なんですッ!とにかく、わたしの側まで来て下さい!何とかしてみます…!」
「…何とか、なるの?」
「…するよ、絶対に何とかする。無理してでも、無茶してでも、皆だけは……!」
ぴしゃりと一喝するような返しに私が面食らう中、ユニが問う。一瞬の間を経て、ネプギアは何とかすると返す。でもそこに、その言葉に、確証や自信は感じられない。感じられるのは、後ろ向きな決意だけ。
「ま、待ちなさいなネプギアちゃん。皆だけはって…何を考えているんですの…!?」
「ベールの言う通りだ、ネプギア。もし自己犠牲を考えているというなら、ここにそれを望む者など誰も……」
「分かっています、でも違いますよマジェコンヌさん。これは自己犠牲なんかじゃなくて、自分のした事の責任を負う…いえ、自分の行いのツケを払うだけです。この場において、皆さんは被害者で…わたしは、加害者なんですから」
そう言って、ネプギアは自嘲気味に笑う。自らを加害者と語る、仕方ない事だとばかりに笑ってみせるネプギアの姿に、思わず全員黙り込んでしまう。
多分、本当にネプギアは分かっている。身を挺してなんて事は、誰も望んでいない事は。なのに譲ろうとしないのは…きっと、それだけ危険な状態だから。ネプギアには、そうする以外の方法がないから。
「でも、そんなに心配しないで下さい。わたしだって別に、自分の事を諦めた訳じゃありません。出来る限り頑張って、それでも無理なら最悪…ってだけですから。だから、ここはわたしに任せて……」
更にネプギアは笑う。今度は普通の…普通に見える、作り笑いで。嘘を言っているようには思わない、だけど何が何でも成功させるっていう、最悪の場合なんか起こさせないっていう覇気は、今のネプギアからは感じられない。
…だったら、やっぱり認める訳にはいかない。状況を唯一正しく理解しているのはネプギア、それは事実。理解しているからこそ、最悪を想定しなきゃいけないのかもしれないとも思うし、ネプギアをただ許すつもりもない。だけど、だとしても、私はネプギアを、仲間を、そんな心で望ませる事なんて……
「──だったら、俺の出番だな」
認めない。止めなきゃいけない。そんな事に、なって堪るものか。…そう、心を固めた時だった。背後から声が……ウィードの声が、聞こえたのは。
*
静まり返る空間、その中で俺を見つめる目。全員が、俺を見る。俺を見て、目を見開く。そして……言う。
『え、いたの!?』
…なんか、凄く酷い事を言われた。存在を認知すらされていなかった。いやまあ、確かに俺も黙ってたけど。ずーっと黙ってはいたけども。
「えぇー…全員にその反応されると、流石にちょっとショックなんだが…」
「ショックなのはこっちだわ!ギョッとしたわ!なんでいるんだよ!?いつからいたんだよ!?」
「ずっとだけど?」
「う、嘘だ…そんな訳、ある筈が……」
「いやほんとだって。ほら、第四十七話で次元の門を開いた時に、クロワールの言った注意点に反応した台詞あったろ?で、『女神でも専門家でもない俺には』って台詞を、女神のうずめが言う訳ないだろ?って事は、自ずと俺の台詞になる訳だよ」
「何で自分の発言を推理風に語るんだよ…てか、メタ発言過ぎるだろウィード……」
言葉通りギョッとしているうずめは突っ込み、くろめは困惑に満ちた表情を見せる。…まあでも、ぶっちゃけ俺がいると思ってた人は読者の方々の中にもほぼいないだろうな。活字媒体で喋らないし特に行動も起こさないってなると、ほんといるんだかいないんだか分からなくなるもんだし。
「い、いるならいるって言いなさいよ貴方…うっかり攻撃に巻き込んじゃったらどうするのよ……」
「一応俺なりに、邪魔にならないよう隅っこにはいたんだぜ?というか、実際俺の出る幕は全くなかったからな。正直、『か、火力が違い過ぎる…』って終始圧倒されてたし」
『いや、火力以外も色々違うだろ』
「……それは、うん…」
ぐさっと刺さる二人の返し。真顔で淡々と言ってくるのはまあ刺さる。止めてくれ二人共、その返しは俺に効く…。
「ま、まあ彼がいた事については、置いておくとして…ウィードさん。俺の出番というのは、どういう事ですの?」
「あ…こほん。…言葉通りの意味だ。収束するって事は、この歪みが消える前に縮まっていって、俺達を押し潰そうとしてくる訳だろ?だったらそれを、俺が防げばいい。耐える事だけは、そこそこ自信があるからな」
「防ぐって…そんなの無茶です!確かにイメージとしては合ってますが、歪みは物理的なものじゃありません!幾らウィードさんだって、そんな……」
「それを言うなら、俺の力…っていうか、性質?…も、普通のものじゃないぜ?」
確かにこの歪みっていうのは、俺にはまるで理解の及ばないもの。だがそれは、俺自身だって同じ事。そんな風に、俺は軽い調子で言い…一旦言葉を区切る。声のトーンを落とし、そこから続ける。
「…俺だって別に、ちょっと試してみるかとか、そういう軽い気持ちで言ってる訳じゃない。今は皆疲弊してるんだ。ネプギアだって、上手くいく確証はないんだろ?だったら今は誰よりも余裕があって、可能性も…まあ、ちょっと位はある俺がやってみた方が良い。俺は、そう思う」
ゆっくりと皆を見回しながら、俺は自分の考えを語る。俺も、見物感覚で来た訳じゃない。俺にも出来る事があると思って、共に来た。そして今が、その時なんだ。女神同士の戦いなんて、とても手の出せるものじゃなかったが…歪みから皆を守る事なら、出来るかもしれない。
「…この気概は、嫌いではないな。それにどうやら、本気らしい。と、なれば…私は、任せるとしようか」
「…いいんですか?」
「いいも何も、私に手出し出来る事はない。であれば、ネプギアに任せるか、彼に任せるかのどちらかを選ぶのみ。そしてそれは、君達も同じだろう?」
「それは…そう、ですけど」
ユニからの問いに答え、マジェコンヌさんは俺を見る。やってみせろという視線を、眼差しを俺に向けてくる。
その瞬間、じわりと広がる緊張感。ここまでは、単に自分がと名乗りを上げただけだった。けど、任せられた事で、そこには責任が生まれる。俺は任せてくれた人を、背負う事になる。
「確かに、マジェコンヌの言ってる事は尤もね。実力はある、けど疲弊しているネプギアか、良くも悪くもまだ未知数のウィードか…。…いいわ、私も貴方に任せようじゃない」
「わたくしとしてはネプギアちゃんに…と言いたいところですけど…今のネプギアちゃんに任せるのは、少しばかり不安がありますものね。ネプギアちゃん、二段構えの形をとる事は出来まして?」
「二段構え?わたしが失敗してもすぐ、ウィードさんが入れるようにっていう……」
「あぁ、確かにその方が良さそうですね。ウィードさん、一段目を宜しくお願いします」
「うん。わたしもその方が、いいと思う」
「がんばってよね!」
「あ、お、おう…」
被せる…というか、封殺するように言葉を重ねる女神候補生の三人。対照的に、何か居た堪れない雰囲気になるネプギア。…ま、まあ、それはともかく…次々と、皆は俺を信じてくれる。それは嬉しい。女神に任せられるなんて誇らしくもある。でも同時に、感じる責任も大きくなっていく。俺の心の中を、どんどん重責が占領していく。
(…そっか…これが、守るって事の『重さ』なんだな……)
誰かを守るのは、初めてじゃない。俺は俺の力で、これまでもうずめやくろめを守ってきた。けど二人は俺にとって特別で、だからこそ責任なんて感じなかった。責任なんて思い浮かびすらしない程、守りたいって気持ちの方が遥かに大きかった。だから今は、初めて感じる。これが守るって事なのかと。自分の意思で、信じてくれた相手を背負うって事なんだと。
感じたからこそ、改めて女神の凄さを痛感する。きっと女神はいつも、いつだって、この重みを背負っているんだ。もしかすると、それを重いとすら感じない程、背負う事が当たり前になっているんだ。やっぱり女神は凄い。俺とは比べ物にならない。…あぁ、でも……
「…うん?おい、大丈夫かよウィード。お前、震えてるぞ?」
「…大丈夫。なんか今、凄ぇ緊張してて…よく分からねぇけど、これまで感じた事のないやる気が湧き上がってきてるんだ」
「…んだよ、武者震いなんて一丁前な事しやがって…。…わたしの前で、防御にゃ自信があるって言ったんだ。なら、気張れよ?」
勿論だと、俺は頷く。緊張はある。嫌な汗がどんどん噴き出す位にある。だけど同時に、やる気もどんどん溢れてくる。俺より遥かに凄い女神の皆が、俺を信じてくれた、任せてくれたって事が、勇気になって満ちていく。…やっばいな…これが、これも含めて、守るって事なのか。だから…女神は、強いのか。
「…よし。ネプギア、俺にも理解出来そうな範囲で収束に飲み込まれるとどうなるのか、ネプギアはどうするつもりだったのか教えてくれ。もしかしたら、防ぐ上で役に立つ情報があるかも……」
「ちょ、ちょっと待てよウィード。…俺は、任せるなんて言ってねぇぞ」
「オレ達は、だ。これは、あまりにも危険過ぎる」
「…うずめ、くろめ…」
やる気はある。迷う理由は初めからない。そんな中で、俺を制止する二つの声。うずめとくろめ、二人の言葉。二人は、俺の前に来る。俺を止めるように、並び立つ。
「皆の言う事も一理ある。今のぎあっちに任せるのは、消耗具合的にも、精神的にも、不安があるのは事実だ。けど……」
「だからってそれが、そのままウィードに任せる事に繋がったりはしねぇよ。…ウィードは、ただ防ぐ気なんだろ?受けて、防御して、それで耐えようって考えてるんだろ?」
「…それしか俺には、出来ないからな」
「だったらやっぱり、危険過ぎるんだよ。お前の防御は、防ぎきれなかった分が全部お前自身に来るじゃねぇか。だったらそれは、どうなるか分からないもんをウィードが受けるって事じゃねぇか…!」
それは、そう。俺に賢いやり方なんてものはない。いつものように、俺自身の再生能力で無理矢理堪えて、踏み留まって、それで歪みが消えるまで凌ごうってだけ。…だから、うずめの指摘には何も言い返せない。本当に、その通りでしかない。
「ウィード。お前はアルテューヌとの戦いの時も、俺の為に時間を稼いでくれた。一人で立ち向かってくれた。その事は今も感謝してる。…けどウィード、お前は女神じゃない。マジェコンヌや人間のねぷっちの様に、特別強い訳でもない。…だから、ここで前に出る必要なんかないんだよ。それは、ウィードがやらなきゃいけない事じゃない」
「…やらなきゃいけない事じゃ、って…それを言うなら、女神の皆も……」
『…ウィード?』
「…いや、すまん。皆はそれを、人や国を守る事を、やらなきゃいけない事だと思ってる…思ってるし、守りたいとも思ってる。そう、だったな…」
すぐに俺は返そうとして、自ら訂正する。…女神は、そういうものだから。今ここにいる皆も、俺が本当にただの人間だった頃の皆も、そうだったから。
「…けど、戦ってるのは女神の皆だけじゃないだろ?くろめはマジェコンヌさんや大きいネプテューヌの名前を挙げたけどさ、二人や他の皆、同じようにここへ乗り込んできた軍人の人達は、強いから戦うのか?そういう人達は、弱くなったら戦わないのか?…俺は、そうは思わない」
「そりゃ…ああ、そうだな。俺だって、そうは思わねぇ」
「だったら……」
「けど、それとこれとは別だ。結局ウィードは無茶しようとしてるだけじゃねぇか。確かにウィードの身体は元に戻るよ、だけどだからってそれが無茶じゃなくなるなんて事は、絶対にねぇんだよ…!」
「なら、ネプギアに任せようって言うのか?俺はそれが良いとは思わない、少なくとも二段構えを取らない理由は……」
「そうは言ってないだろう…!第一、他に手がないなんて事もない。ウィードにそんな危険な真似をさせる位なら、オレが……」
「くろめだって…くろめとうずめだって、シェアリングフィールドの維持で疲労してるんだろ?」
「……っ…それは…」
「言い淀んでんじゃねぇよ【オレ】…!ここで俺達がウィードを止めないで、ここで危ない真似しようとしてるウィードを引き留めないで、誰が止めるってんだ…!俺だって、女神でも強い訳でもねぇウィードの思いは凄ぇと思うよ。だけど、だとしても俺は……!」
どんな理由、理屈を並べようと、無茶しようとしている事には変わりない。それが、うずめの主張。俺に無茶してほしくないという、うずめの思い。そしてそれは、くろめも同じ。だから、二人は引いてくれない。根本的な部分だから、そこを覆せない俺が何を言っても、『それはそれ』にしかならない。
歯痒かった。俺だって引く気はない、だけど俺の事を思ってくれる二人の気持ちに沿えない、その気持ちとは真逆の事をしようっていうのは苦しかった。うずめとくろめも、辛そうな顔をしていた。言い争う形になっちまってるからなのか、もっと良い案がある訳じゃない…俺を止めたところで、後に残るのはネプギア一人に任せてしまう形しかない事が心苦しいのかは分からないが、俺もうずめもくろめも、誰も望まない言い争いだけが続いていて……
「──だとしても、なんだよ。だとしてもウィードにゃさせないってか?…ダセェ事、いつまでも言ってんじゃねぇよ」
そんな時だった。静かな…けれど真っ直ぐな意思を感じる声が聞こえたのは。…ブランが、うずめの言葉を制したのは。
「だ、ダサい…?…ぶらっち……?」
「ダセェよ。多分わたしがこれまで見てきたうずめとくろめ史上、今が一番ダサいんだよ」
「な、何を言って……」
ダセェという言葉で一蹴するブランに、うずめもくろめも…いや、俺含め全員が唖然とする。その中で、ブランは続ける。二人へ向けて、はっきりと言っていく。
「お前等の気持ちは分かる。確かにウィードがやろうとしてるのは無茶な事だろうさ。一緒に戦うんじゃなくて、任せるしかないってのも…女神としちゃ、情けねぇと思う。こんだけ女神が揃ってて、頼る相手がウィードだけ、次点のネプギアすら不安があるなんて、揃いも揃って何やってんだって話だろ」
「…けど、そうするしかないって言うんだろう?それが認められないから、オレ達は……」
「そうじゃねぇよ。そうだけど、そうじゃねぇ。わたしが言ってんのは、力の話じゃねぇ。立場の話でも、出来るかどうかの話でもねぇ。心の話を、してんだよ」
「心…?だから、ぶらっちは何を……」
真剣な眼差しを向けるブランに対し、今度はうずめが問う。問おうとする。けれどその中で、ブランは息を吸い……言った。
「ちったぁウィードを信じてやれっつってんだよ!男が覚悟決めて、身体張ろうとしてんだ!だったら掛けるべきなのは──頑張れって応援だろうがよッ!」
心に叩き付けるような、ブランの言葉。熱い、本当に熱い、心意気と熱量に溢れた言葉。それにうずめもくろめも息を呑み、俺の心の中でもその声は響き……
『…か、かっけぇ……!』
……シンプルに感動していた。ものっそい感動していた。二人は勿論…俺も思わず、かっけぇ…と言ってしまっていた。
「は…はぁ?いや…何言ってんだお前等……」
「待ってくれよ…ちょっ、今のは格好良過ぎるだろぶらっち…!」
「くっ…後輩にこんな事を思うのは、正直悔しい…悔しいけど、これは格好良いと思わざるを得ない…!」
「だから今はそういう話をしてるんじゃねぇんだけど…!?」
「あぁ、分かる。分かるよ二人共。こいつは男の俺からしても格好良いが過ぎる…!」
「お前まで同意してんじゃねぇよ!?」
うんうんと頷き合う俺達に、突っ込むブラン。だがこれは仕方ない。仕方ないってか、格好良い事言うブランが悪い。……とは流石に言わないが…とにかく今の発言は、格好良さに憧れるうずめとくろめに刺さりまくりだった。なんせ、そうじゃない俺にまで刺さってる訳だしな。後、何ならロムとラムも目を輝かせてたし。
「ったく、段々歪みが狭まってるって状況考えろっての…。…なぁ、うずめ、くろめ。何も心配する事、危ない目に遭わないようにする事だけが、女神の選択じゃ…いいや、大切に思ってる相手へしてやる事じゃねぇだろ。信じてやる事だって、それと同じ位大切だって、思わねぇか?」
「ふふふー、そうよね?おねえちゃん」
「そうだよね、おねえちゃん」
「うっ…まあこの通り、偉そうに語ってるわたしも、それをロムとラムに教えられたようなもんだが…二人だって、分かるだろ?信じる気持ちの、信じてもらえる事の、強さってもんを。…わたしはそれを、女神だけのものだとは思わねぇ。それとも…二人にとってウィードは、信じるに値しない男なのか?違うだろ?」
胸を張る二人の妹の頭をぽふぽふと軽く撫でたブランは、語り掛ける。その間、うずめとくろめは黙っていた。何も言わず、ブランの言葉を聞いていて…ブランが問いで締め括った後も、少しの間黙っていた。俺もまた、今は何も言わず……二人は同時に、息を吐く。
「…信じるに値しない男なのか、ね…。…ふざけるな、そんな訳ないだろうが」
「言われなくたって、いつだって…ウィードの事は、信じてるに決まってんだろ。…ただ、それでも心配なもんは心配なんだ。危ない事は、してほしくないんだ」
「…そうかい、その気持ちも分かるさ。…んじゃ、最後まで反対するか?」
信じている。そう言われて、嬉しかった。それでも心配。その言葉は、それ以上に突き刺さった。ブランも二人の選択を蔑ろにする気はないようで、なら判断は任せるとばかりに二人へ問うた。
再び訪れた沈黙。その中で、二人は顔を見合わせる。そしてうずめは、くろめは、俺の方を向き……胸へと当てられる、二人の拳。
「…あそこまで言われたら、止められる訳ねぇからな。だから…見せてくれ、ウィード。お前が、俺の…俺達の思いを、力に変える姿を」
「だけどやっぱり、心配な気持ちはなくせない。だから…心配なんて不要だったって位にオレを、オレ達を守りきってくれ、ウィード」
「…ああ。二人の気持ちは受け取った。俺にとって…一番大きくて、心強い気持ちをな」
その拳に、言葉に、思いに頷いて、俺は盾剣を手にする。両手で持ち、地面に突き立てる。
「…すぅ、はぁ……」
ネプギアから情報を受けながら、何度も深呼吸。吸って吐いてを繰り返し、意識を集中させる。神経を張り詰めさせ…二人の、皆の思いで湧き上がる力を、全身へと張り巡らせる。
実際のところ、保証はない。悪い言い方をすれば、多分何とかなるだろう位の、ふわっとした感覚しかない。…だけど、守れるかもしれない。よく分からない俺の力だが…その凄さだけは、俺自身が、自分の身としてよーく知っている。だからそれに、賭ける価値はある。昔の俺は、傍観者だった。傍観する事しか出来なかった。けど今は違う。ほんの少しでも、舞台に立つ事が出来る。出来るんだから…そこに、全身全霊、全力を注ぐ。
「ウィードさん、もし無理そうなら、すぐに止めてわたしに任せて下さい。…お願いします」
「あいよ。俺にとってうずめとくろめは特別だが…ネプギアや皆も、大事な仲間だ。女神相手に生意気だけど、俺にとっちゃ友達だ。だから…悲しませたり、信じた事を後悔させるような、真似はしない」
真摯さの伝わってくるネプギアの声に、返す。今のはネプギアへ対してだけの言葉じゃない。俺自身への、皆を苦しませるんじゃねぇぞって言葉でもある。
収束し、迫り来る歪み。初めはよく分からなかった、けれど今ははっきり分かる、明確な縮小。内側にある物を一切合切関係なく、例外なく飲み込み迫ってくる。
それを前に、俺は力を込める。集まった皆を守る形で、橙色の防壁を展開する。ビヨンドフォームのネプギアのプロセッサユニットから、粒子が放出されて…それが防壁を補強していく。
(さぁ、来いよ。大切な二人と、皆に信じてもらった男の力…見せてやろうじゃねぇか…!)
目の前(つっても全方位からだが)に迫る歪みを見据え、心の中で言ってのける。緊張感と、責任と、信じてくれる思い…その全部を引っくるめて、俺は盾剣の柄を握り締める。両足で地面を踏み締める。そして歪みが……触れる。
「……──ッ、ぁああああああああああぁぁッッ!!?」
『ウィードッ!?』
その瞬間、その直後、本当に一瞬の間もなく、防壁は捩じ切られ、飲み込まれ、消滅する。フィードバックが身体を貫き、身体がズタズタになる。気付いたら、ズタズタになっている。俺の力は機能し、消えた防壁は瞬時に再生し…また、消滅。再生と消滅が一瞬毎に、瞬く間に繰り返され、その度俺の身体も滅茶苦茶になる。
恐れはなかった。怖いとも思わなかった。というより、起きている事が俺の理解を遥かに超えていて、超え過ぎていて、訳の分からなさのあまり逆に恐怖なんてしようがなかった。それは不幸中の幸いだが…同時に、こうも思った。あ、これは無理だと。こんなん防げる訳ない、あっという間に俺の身体も消えて終わると。無理だって、どうしようもないって、妙に冷静な思考が回っていた。
本当に、何の偽りもなく、俺の頭はそう考えていた。100%無理だと断定していた。──けど。
「……負…けるかよぉおおおおおおおおおおぉぉッ!!」
俺は吠える。心が吠える。ズタズタになって砕けそうな腕を、崩れそうな足を、気力で繋ぎ止めて踏み留まる。歯を食い縛って、腹から叫んで、俺は歪みに喰らい付く。収束していく歪みの中で、飲み込まれたその内側で、喰い破ろうとする歪みを跳ね除け続ける。
頭は無理だと断定している。だが、心は諦めちゃいない。諦めるもんかって、その炎を絶やさずにいる。詳しくもない頭が出した結論なんざ、絶対じゃないと言い返している。ああ、そうだ。無理だと思う。無理な気しかしねぇ。だけど、諦めたくはない。まだやれるって…俺が俺を、信じている。
聞こえてくる。皆の声が。伝わってくる。皆の思いが。だからまだいける。皆のくれる力が、俺を支えてくれている。うずめとくろめの応援が…俺に意思を、貫かせてくれる。
「いッけぇぇぇぇええええええッ!!」
防御してる側が挙げる叫びとしては何か違うと思いながら、更に俺は響かせる。仕方ない、だって言葉を選んでる余裕なんてないんだから。
痛い、辛い、苦しい。もう楽になりたい、力を抜きたい。そういう思いも、ある。あるけど…諦めないって意思が、上回る。耐える、耐える、堪えて…耐える!時間なんか分からない、後どれ位かも知らない。でもいい。関係ない。俺は絶対に…守りきるッ!
そんな思いを貫いて、貫き続けて、力の全てを出し尽くして……消える。負荷が、歪みが、ふっと消える。突然に、何の前触れもなく、まるで最初からなかったかのように──全てを飲み込まんとする歪みは、消え去った。
(ぁ……)
そして俺も、倒れ込む。役目を終えた防壁も消える中、頭の頂点から足の先まで、全く力の入らなくなった俺は仰向けに倒れ…支えられる。うずめとくろめに、二人の腕に。
「…は、は……」
微かに漏れる、乾いた笑い。俺の顔を覗き込む、本当に心配そうな…泣きそうな顔。なんでそんな顔を、って思ったが…多分側から見れば、俺は防壁同様凄まじい勢いで身体がズタボロになって、再生して、またズタボロになってを繰り返していたんだろう。そんなのを見せられたら…そりゃ、辛くなるに決まってる。
駄目だなぁと思った。駄目じゃん、結局辛い思いさせてんじゃんと。こうなる事は予想出来たのに、そうなっちゃうのが俺の力なのに、それを失念してたなんて…やっぱり俺は、まだまだだ。ちょっと凄い力があるだけで、まだまだ未熟だ。
だけど、それを今嘆くのは違う。泣きそうな二人の前で、そんな事言うもんじゃない。それに、見栄えは最悪だろうが…ちゃんと俺は、守りきった。全員守って…俺もちゃんと、まだここにいる。それもまた事実。辛い思いをさせたのと同様…確かな、真実。だから俺は、何とかして掻き集めた力で片腕を挙げ、その手でサムズアップをして……言った。
「……へへっ…やってやったぜ、うずめ、くろめ。…俺も…ちょっとは、格好良かっただろ…?」
今回のパロディ解説
・「しこうせい?アンドロイドの話?」、「〜〜魔王〜〜」
EDENS ZEROに登場する、魔王四煌星の事。指向性って言葉、意外と使いどころがあんまりないんですよね。軍事関係、特に兵器関係となるもそれなりにあると思いますが。
・「行って、ビット!」
ガンダムシリーズにおける、遠隔操作端末を放つ際の台詞のパロディ。具体的には、「行け!ファン・ファンネル!」や「行けよファング!」辺りです。
・「〜〜か、火力が違い過ぎる…〜〜」
こちらもガンダムシリーズ(宇宙世紀)に登場するキャラの一人、シャア・アズナブル(キャスバル・ズム・ダイクン)の台詞の一つのパロディ。当たらなければどうという事はない、の後の台詞なんですよね。