超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
き、アルテューヌもまた全速力からの刺突を突き出し……気付けば、左の肩口が斬り裂かれていた。…また、分からなかった。何も分からないまま、斬られた事実と結果だけが、痛みと共にアルテューヌの身体に残っていた。
「あぐ……ッ!」
いつの間にか大きく逸れていた刺突での突進。痛む肩を押さえながら、アルテューヌは脚を振って反転する。ただでさえ何故斬られているのか分からないのだから、この上ネプテューヌの姿を視界から逃す訳にはいかないと、表情を歪めながらも立て直し……
「……──あ、あ?…ぁ、え…?」
気付く。気付く。気付いてしまう。何かが、おかしい事に。致命的に、おかしい事に。──あり得ない何かが、斬られた事に。
肩ではない。肩が斬られる事など、驚きでもない。刺突でもない。その軌道が狂っていた事も、あり得ないという程ではない。…だから、そんなものとは比べものにならない、全く以って話にならない程の何かなのだ。理解出来よう筈もない、認識すらも不可能な……絶対的な、何かが。
「何が起きたか分からない、って顔ね。…でも、分かるでしょう?よく見えなかったとか、何がどうなったか理解出来ないとかじゃない…貴女に見せたのは、認識も把握も出来ない領域の力だって」
茫然自失とするアルテューヌを見やりながら、ネプテューヌは構え直す。まだ起こった事を飲み込めない…ネプテューヌの言った通り、把握すらもままならないアルテューヌへ向けて、ネプテューヌはその態度で見せ付ける。…今のは、乾坤一擲の一撃ではないと。同じ事を、再び行う事も出来るのだと。
「……は、は…」
ぽつりと零れる、乾いた笑い。アルテューヌの口から漏れた、気力を根こそぎ奪われたかのような声。…当然、出したくて出した訳ではない。だがアルテューヌは、笑ってしまった。…笑うしか、なかった。
「…ふざけるのも、大概にして頂戴…貴女は一体、どこまで行くつもりよ…一体どこまで、どれ程の高みにまで……」
「どこまでもよ。確かに貴女も、限界より上に、その先に至ったのかもしれない。だけどわたしは、ただ超えただけじゃない。今も、これからも、わたしは更に高みを目指し続ける。未来に向けて、超え続ける。…そんなわたしを、皆が望んでくれたんだもの。そんな姿を、わたしは見せていきたいもの」
万物を断ち斬り、道理も法則も無視して消し去るネクストフォームの力。絶対的な、破壊の顕現。工夫や作戦ではどうにもならない、決定的な差にして開き。アルテューヌはそれを、これまではカオスフォームの力で、同じく超常すら超える異常の域たる歪みを組み合わせる事で喰らい付き、一時は逆に優位を取りすらしていたが…力の限り戦っていたアルテューヌに対し、ネプテューヌは本気であっても、全力ではなかった。手を抜いてはいなかったが、まだネプテューヌの力は、底にも天井にも届いていなかった。…否、ネクストフォームに底などなく、天井…上限を超え続けるのが、今の…アルテューヌではない、『ネプテューヌ』の在り方であった。
そんな姿を見せられれば、否が応でもアルテューヌは認めてしまう。認めざるを得なくなる。…自分よりも、ネプテューヌは強いと。どうやっても、敵わないと。
(……それでも…だと、しても…)
頭では分かっていた。だからこそ、すとんと心にも入ってくる。そうなのだ、それが事実なのだ、仕方ないのだと、あっさりアルテューヌの心は受け入れる。──だが。
「…こんなにも底知れないのなら、超え続けるというのなら、確かにわたしよりも貴女は遥か高みにいるわ。…けどそれが、勝敗まで決するとは限らない…!」
アルテューヌは認めた。認めるしかなかった。元より歪みを力として利用している時点で、単独の強さでは敵わないと認めているようなものだった。
だが、敵わないと認める事と、諦める事とは違う。そして……アルテューヌは、諦めが悪かった。
「はぁああああああああああああああッ!」
今一度、アルテューヌは自らの内にある力を引き摺り出す。既に余力などない、全力の状態のまま引き摺り出し…その力の全てで、ありったけの歪みを引き摺り込む。カオスの力なしでまともに扱う事など出来ない、カオスの力を持ってしてもギリギリの均衡の中で漸く振るえる歪みという力を、許容限界など捨てて、際限なく引き込み飲み込む。
そんな事をすれば、逆に歪みに飲み込まれるだけ。許容値を超えて飲み込まれるか、制御を失い飲み込まれるか、どちらとなっても結果は同じ。しかしそれでも、アルテューヌは一縷の望みに全てを託す。諦めないという思いで、勝利への執念で、勝算などない最大最高の賭けに出る。
(歪みが、消えていく?…いや、違う…全てがアルテューヌに取り込まれている…!)
引っ込むように、アルテューヌの周囲に広がっていた歪みは消える。雲が風に吹かれて千切れ、そのまま吹き飛ばされるが如く、目に見える歪みの全てがその姿を失っていく。
されどそれは、消失ではない。歪みの全てが、広がっていた全てがアルテューヌに取り込まれ、その身に吸収されていく。身体から溢れ出す事はなく、アルテューヌの内で積み重なっていく。
反射的に、ネプテューヌは思った。これは放置出来ないと。一刻も早く止めるべきだと。しかし同時に、直感的に理解もする。今のアルテューヌは、歪みをその身に収束させ、カオスフォームの気力で強引に押し留めているだけ、本来即崩壊するようなものをあり得ない形であり得ない力へと変えているも同然だと。…つまり、ただ倒すだけでは歪みが、尋常ならざる力が解き放たれ、想像を絶する事態にもなりかねない。そうなってしまえば、何も得るもののない勝利に、ただ失うだけの結末になってしまう。そこまで分かったからこそ、ネプテューヌも決める。ネプテューヌもまた、今の全てを賭ける事を選ぶ。
「勝つのは…勝つのは、わたしよ…ッ!わたしは勝つ、わたしが勝つ…勝ってわたしは、勝ってわたしが…ッ!」
アルテューヌは、同じような言葉を繰り返す。暫く前から、その片鱗はあった。歪みを取り込んだ影響か、それ程までに精神が追い詰められているという事か、或いは同じ言葉を繰り返す事で、心をより強く持とうとしているのか。ネプテューヌには、その真の理由など分からない。そして、アルテューヌ自身にも分からない。…意図して繰り返しているものでは、なかったから。気付けば口を衝いていた言葉であったから。
「…そうまでして…そこまでして得る勝利に、意味は──」
「あるわッ!貴女に勝つ、わたしから何もかも奪った『ネプテューヌ』に勝つ、わたしが『ネプテューヌ』として勝つ……今はそれが、全てッ!」
「……そうね。そうかも、しれないわ」
漏れ出る事なく内側で渦巻き続けていた力は、再び外へと現れる。だが違う。溢れたのではなく、その身に、刀に、翼に留まり、力となって光を放つ。歪んだ紫の、輝きを見せる。
そんなアルテューヌの姿に、薄々ネプテューヌは感じていた。ネプテューヌでなくとも、恐らく誰もがこう感じる。…もう、アルテューヌに未来はないと。ここでネプテューヌに勝ったとしても、そこにいるのはアルテューヌの姿をした何か、アルテューヌの存在が残滓として残る歪みでしかないだろう、と。…それ程までに、アルテューヌはこの戦いに、勝利に懸けていた。全てを投げ打つ覚悟ではなく、文字通り全てを投げ打っていた。彼女の纏う雰囲気は、鬼気迫る表情は、それをはっきり感じさせるものだった。
(ここで負ければ…ううん、最後まで駆け抜ける以外で、アルテューヌに未来なんてない。負けて、討たれてしまえば、『そういう事もあった』で今度こそ本当にアルテューヌは…わたしが否定した、わたしがわたしになる前にいた『わたし』は、いなくなってしまう。…ずっと必死だったのね、きっと)
自然とネプテューヌの中で浮かぶ、アルテューヌへの理解。共感でも同情でもない…されどこれまでのどんな時よりも、『アルテューヌ』という存在へはっきりと目を向けた思い。
だが悲しいかな、それは真の理解ではなかった。当たらずとも遠からず…掠める部分こそあれど、今のアルテューヌへ対する正しい理解は出来ていなかった。そして、奇しくもそれはネプテューヌとアルテューヌの違いを如実に表していた。家族が、友が、仲間がいる、自らの手で、自らの意思で未来を掴み、紡ぐ事が出来る…これまでもそうしてきたネプテューヌと、何もかも失い、漸く未来への歩みを始められる場所の前まで戻る事の出来た…即ちまだ何も取り戻せていない、始められていないアルテューヌの差として、ネプテューヌはアルテューヌを理解し切れていなかった。
そう。勝利は常に未来と共にある…勝利の先にあるものをいつも見ている、見えているネプテューヌと違って、アルテューヌは今はただ勝利のみを欲している…たったそれだけの事すら、今は全てを投げ打ってでも掴みたいと望んでいた。その純粋にして根源的な願いが、ありったけの歪みを取り込み力に変えるだけの支えになっていた。…そこだけは、ネプテューヌも正確に理解出来ていたのである。思いそのものは見誤っていても、思いの力が、強さが今のアルテューヌを立たせている事は、はっきり分かっていたからこそ…ネプテューヌは否定しない。ただひたすらに、自身も力を研ぎ澄ます。
「……だけど、一つだけ言わせてもらうわ」
如何なる理由があれど、理解に至ろうと、ネプテューヌの行動は変わらない。アルテューヌを討ち、自身が招いた結果の責任を取る。もう一人の自分と、自分自身でケリを付ける。その思いは、欠片も削がれていたりはしない。
だが一つだけ言いたい事が、言わなければならない事があった。そう思う事があった。だからネプテューヌは、アルテューヌを見据えて言う。
「…ネプギアは、そんな姿になってまで戦う事を、勝とうとする事を、望みはしないわよ」
真っ直ぐ言い切るネプテューヌ。多分やきっとという言葉は使わない。断定出来るだけの自信が、確信があったからこそ言い切った。アルテューヌの前だからこそ、断定してみせたいという気持ちも、少しだけあった。
訪れる、数秒の沈黙。敵意のないネプテューヌの投げ掛けに対し、アルテューヌは目を閉じる。ゆっくりと閉じ、開き…それまで以上の鋭さとなった眼差しをネプテューヌに向けながら、アルテューヌは返す。
「そんな事、関係ないわ。もうネプギアは、わたしに必要な存在じゃない。初めからネプギアも、わたしの事は所詮『貴女ではない姉』としか見ていなかった。だから…わたしに妹なんていないし、ネプギアの姉は……貴女よ」
悲痛な声には、聞こえなかった。怒りも、悲しみも、侮蔑も…後悔もない、ネプテューヌと同じ、断言だった。
はたしてそれは、ただ突き放すだけの言葉か。ネプギアの思い出の中に、アルテューヌの存在はないように、アルテューヌにとってもネプギアは結局『自分ではないネプテューヌの妹』に過ぎない…否、そうとしか思えないという事なのか。…それをネプテューヌが知るには、アルテューヌ本人に訊く他なく…しかしアルテューヌにそれを語るような気配はなかった。最早何一つとして語る気はない…そんな面持ちだった。
「…アルテューヌ。何があっても、わたしは貴女を許容しないわ」
「同感よ。わたしも貴女を許容はしない。これまでも、これからも」
意識は刀の様になる。鋭く、鋭く、その斬っ先を相手へ向ける。ネプテューヌの心は極限まで砥がれた刃の様に、アルテューヌの心は限界まで打たれた刃の様に、大太刀と共に構えられる。
一瞬の静寂。声も響きも、全ての音がその瞬間消え失せ……次の瞬間、互いに全力を解放する。ネプテューヌの翼からはネクストフォームの力が、シェアエナジーが紫の奔流となって駆け昇り、アルテューヌの翼からはカオスの力が、紫の歪みが空に逆巻く。
『貴女はッ!ここでッ!わたしが──倒すッ!』
完全に重なる言葉と共に、ネプテューヌとアルテューヌは、同時に空を蹴る。解き放たれた力で空間を染めながら、真っ直ぐに目の前の相手へ向けて邁進する。ネプテューヌの力により、認識の出来ない切断が、消滅が巻き起こり、アルテューヌの力で周囲は歪んでいく。消失と歪みが喰い合い、時空を歪ませる力と次元にすらも刃を届かせる力が氾濫する。
突撃から接触までは、ほんの一瞬。しかしその一瞬で、あまりにも多くの歪みと消失が繰り返された。次元が軋むような、軋みの音を上げるような破壊と異常が幾度も巻き起こり、その力で空を染め上げながら、ネプテューヌとアルテューヌは肉薄する。
そして煌めく二つの刃。異なる二つの紫の刃が、二人のネプテューヌの力…その全てを込められた一撃として、激突する。
「──次元一閃ッ!!」
「──混沌一掃ッ!!」
振り出された大太刀が、袈裟懸けが、唸りを上げる。激突の瞬間、二つの力の余波だけで、それそのものが強力な攻撃を思わせる程の衝撃波を全方位へと放ち飛ばす。その中で、その中心で、二つの刀身が…それを振るうネプテューヌとアルテューヌがぶつかり合う。
極致へ、限界を超えたその先へと至った力。そこに最早上下関係など存在しなかった。あまりに強大なそれぞれの力は、強大であるが故に破壊も歪みもその性質が通用する事はなく、純粋な力としてぶつかっていた。純粋にぶつかり合い、押し合い、削り合う、力と力の勝負だった。即ちそれは、ネプテューヌとアルテューヌ、二人の本来の力…ひいては心の力の戦いだった。
互いに譲る事はない。譲れる道も、理由もない。だからこそ、どちらも力を振り絞る。目の前の相手を、もう一人の自分を…誰よりも、何よりも自分に近い、されど絶対に相容れる事のない存在を見据え、その先にある勝利へと手を伸ばす。強く激しい力の輝き、女神の光。確かにそれは、両者がそれぞれに放つものであった。ネプテューヌは元より、アルテューヌもまた、確かに女神であり、パープルハートであり…最後まで、引く事はなかった。最後の最後まで、二人は力を振り絞り続け…腕を、刃を、思いを振り抜く。
「────」
もう一度、静寂が全てを包む。一瞬前までは、何もかもが斬られ、歪み、彼方へと消えてしまいそうな程の激突が、熾烈極める力と力の戦いが繰り広げられていたその領域は、今や何もなかったかのように…或いは全てが過ぎ去った後のように、静まり返っていた。
あるのは無言ですらない、ただ一つの結果だけ。ネプテューヌもアルテューヌも得物を振り抜き、止まっていた。既に両者の視界に相手の姿はなく、互いが互いを背にしていた。振り向きはしない。構え直しもしない。…もう、分かっていたから。決着は、果たされたのだと。終わったのだと。
解けていくネクストフォーム。消えていくカオスフォームと、纏った歪み。元の姿に、本来の女神の姿に二人は戻る。まだ静寂は、沈黙は続く。そして静けさの果て、それを破ったのは一つの音。倒れ込む、乾いた音。その音だけが、静かに響き──最後に立っていたのは、ネプテューヌただ一人であった。
今回のパロディ解説
・「〜〜どこの焱熱系最強〜〜」
BLEACHに登場する斬魄刀の一つ、流刃若火の事。より正確には、卍解である残火の太刀の技の一つ、旭日刃の事ですね。同じ(大)太刀使い繋がりであり、神繋がりです。死神ではなく女神ですが。
・斬ったのなら〜〜アルテューヌは解る。だが
同じくBLEACHに登場するキャラの一人、藍染惣右介の台詞(心の声)の一つのパロディ。勿論ネプテューヌは無神とか最後のネクストフォームとかになってる訳ではありません。
・「〜〜確かにわたしより〜〜決するとは限らない…!」
とあるシリーズに登場するキャラ(主人公)の一人、垣根帝督の台詞の一つのパロディ。ネプテューヌのネクストフォームの防御的運用は、ちょっと