超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
セイツに先導され、私はこの領域の教会へ…ネプテューヌともう一人のネプテューヌ、アルテューヌの決戦の地へと向かった。そこへと戻った。その戦いの行く末を、見届ける為に。
その上で障害となったのは、紫色を帯びた時空の歪み。上手く形容出来ない、歪みの壁。セイツ達が離脱する時には薄れていた…らしいそれが、私達が舞い戻った時には、復活していた。ただの歪みだったものが、違う歪みへと変わっていた。
けれどそれも、薄れていく。何かした訳じゃない。歪みは何かに吸い込まれ、引き込まれるようにして、薄れ消えていく。そしてある時それは、完全に消え去った。消滅するそれを見て、私は感じた。確信した。──戦いの、幕引きを。
「…行こう、セイツ」
振り向く事なく、呼び掛ける。私からの短い呼び掛けに、セイツはそうねとだけ返す。…多分、セイツも感じているんだ。私と、同じものを。
だから私は、セイツと共に紫の歪みの内側へ…歪みがあった場所の奥へと進む。聞いた通りなら、すぐにネプテューヌ達は見えてくる筈。だから、その前に…私は言う。
「…セイツ。一つだけ、いい?」
「…えぇ、何かしら」
「ご覧の通り…私は、元気です!とっても元気、正気、マケン姫っ!」
「やっぱり大丈夫じゃないわよねぇッ!?」
皆の方を見て、私は宣言。…皆って、誰の事かって?それは勿論、読者の皆だよ?流石にもう大丈夫って証明する為に言ったんだもの、当然でしょう?
という訳で、済ませておくべき事を済ませた私は、更に進む。そして…私は、私達は目にする。更に立つ、二人のネプテューヌを。静寂の中に立つ、ネプテューヌとアルテューヌを。
(──あぁ、そうか。これは……)
一瞬で、分かった。二人は既に戦っていない、微動だにしていない、その意味を。その理由を。
そして、アルテューヌは倒れ伏す。私の視界の中で、ネプテューヌの背後で…アルテューヌは力尽き、落ちる。
「…どうする?イリゼ」
「どう、って……」
ちらりと私の方を見てくるセイツ。その声音からは、どうしたい?…という意図を感じる。どうしたらいいかという疑問ではなく、私の意思を訊いている。
どうするか。たった今ネプテューヌに倒されたアルテューヌを、この場を前にして、私はどうしたいのか。見届けるとは言ったけど…決着が付いた今、もう私の見届けるという思いは果たされたのか。セイツからの問いを受けた私は、私自身へと同じ質問を問い掛ける。問い掛け、答えを出そうとした…その時だった。
「お姉ちゃん!アルテューヌさんっ!」
聞こえた声と、猛烈な勢いで空を駆け抜ける一つの声。ネプテューヌが振り向く中、その影は…ネプギアは、倒れたアルテューヌへと飛んで駆け寄る。腕を伸ばし、アルテューヌの状態を起こす。
「……ネプ、ギア…」
「……っ…終わったん、ですね…」
ぽつりと漏れるような、アルテューヌの声。その声に表情を歪ませ、ネプギアは言葉を返す。
それからネプギアは視線を上げ、振り向いたネプテューヌを見る。ネプギアの視線に、ネプテューヌは肯定するように静かに頷く。
「…駄目ね……」
「駄目…?」
「力を、まるで感じないわ…歪みも、カオスの力も……」
「…当然よ。全てわたしが、断ち斬ったんだもの」
ぼんやりと、呟くようにアルテューヌは言う。当然だと、ネプテューヌは返し…それにアルテューヌは、何も言わなかった。言われなくても分かっていた…そんな風に、私には見えた。
(…終わった、か……)
そう。戦いはもう、終わった。アルテューヌは倒れ、戦う意思も感じられない。インカムからは、カオスモンスターの動きが変わったと…統率を失った様子だと、アヴァラスからの通信が入ってきている。私は結局、あれからずっと眠っているだけだった。こうして戦場に戻るまでで、戦いは終わってしまった。それが、事実。良いとか、悪いとかじゃなくて…単純な、真実。
なら、どうする?私はもう一度、自分に問い掛ける。どうしたい?見届けると言った私は、これで満足?…そう問い掛け、考え…答えを、出す。
「──ありがとう、二人共。戦いを、終わらせてくれて。信次元の在るべき未来を、守ってくれて」
「……!」
「…ぁ……」
降り立つと共に、掛ける言葉。直後、ネプテューヌとネプギアは、ばっと振り向き目を見開く。
「い、イリゼ…貴女……」
「イリゼさん…!?だ、大丈夫なんですか!?」
「まあ、ね。…ところでネプギア、アルテューヌが転がって顔を打ってるように見えるんだけど……」
「あっ…」
驚きのままにネプギアは立ち上がった(っぽい)結果、アルテューヌは180度回転して顔…というか、身体の前面を地面に打つ。言われるまで気付いていなかった様子のネプギアは、慌ててまたアルテューヌを抱える。…酷いとは思わないけど、少し不憫な光景だった。
「こほん。理由はどうあれ、私は女神として為すべき事を、最後まで果たす事が出来なかった。だから、感謝してる。二人にも…皆にも」
気を取り直し、私は続ける。言葉と共に、軽く見上げる。見上げて…感謝を皆にも、飛んできたノワール達にも伝える。そして…また、似たような反応をされた。皆にも一目見て驚かれた。…うん、まあ…それはそうだよね…。段々冷静になってきたから思うけど、私引く程大怪我してたし……。
「…女神が、勢揃いね…それに、貴女は……」
「…マジェコンヌだ。三人を唆し、君を天界から落とした…『ネプテューヌ』が記憶を失う大元の原因を作り出したのは…この、私だ」
何故私がここにいるのかを軽く皆へ伝えたところで、皮肉めいた声音をアルテューヌは漏らす。そして何かを感じたのか、アルテューヌはマジェコンヌを見やり…マジェコンヌは、告げる。アルテューヌを真っ直ぐに見つめて…自分が誰なのか、答える。
原因。言われてみれば、確かにそう。アルテューヌはネプテューヌに対して怒りを抱いていた…らしいけど、記憶を取り戻さない事を選んだのはネプテューヌで間違いないけど、そもそもの原因は『記憶喪失』になった事で、そうなったのはマジェコンヌの策略があったから。…けれど、それを聞いたアルテューヌの雰囲気は、何も変わらなかった。怒る事も、睨む事もなく…ただ静かに、息を吐く。
「…その貴女が、今や女神の味方なんて…全く、本当に…理解が出来ないわ……」
「…ああ、そうだな」
まるで他人事のように話すアルテューヌへ、マジェコンヌは小さく頷く。それでいい、そう思うのはおかしくない…そんな風に、同意で返す。
それから訪れる沈黙。皆はアルテューヌを見つめ、アルテューヌはぼんやりと空を見つめて…次に言葉を発したのは、ネプギア。
「…何が、あったんですか…」
「何、って…見ての通りよ。わたしは負けた。ただ…それだけよ」
「そんな訳、ないじゃないですか…!…だって、アルテューヌさん…力が……っ!」
淡々と答えるアルテューヌに、ネプギアは拳を握り締める。…私には、その意味が分からない。だけど、語ろうとしないアルテューヌの代わりをするように、口を開いてネプテューヌが言う。
「…わたしが斬ったのよ。歪みも、アルテューヌの力…カオスエナジーも、全て」
「……っ…!」
その言葉で、私も…恐らくは皆も、理解する。ネプテューヌの力…ネプテューヌのネクストフォームが持つ、全てを斬り裂き消し去る力によって、アルテューヌがその身に宿していた力や、広がっていた歪みを、断ち斬ったんだと。ネプテューヌの刃が、根絶したんだと。
「…それじゃあ、もう…アルテューヌさんは……」
握り締めたままの拳が震えるネプギアの、表情が歪む。それを見て、更に私は把握する。アルテューヌがどういう存在なのかも、わたしはここに来るまでにセイツから聞いていた。カオスエナジーによって形を、存在を得たのがアルテューヌだと、私は説明を受けていた。
そんなアルテューヌから、カオスエナジーが失われたらどうなるか。更にシェアエナジーも得る事で、今の姿となったらしいけど…だとしても、今のアルテューヌの状態を見れば、その答えは自ずと分かる。
「…謝りは、しないわ。これは、必要な事だったもの。それに…手を抜けるような状況でも、相手でもなかった」
「…うん、分かってる。お姉ちゃんは…何も、悪くない」
勝利したネプテューヌ。だけどその顔に、晴れやかさはない。マジェコンヌやくろめの時の様に、手を伸ばそうとする事もない。…ネプテューヌが、アルテューヌをどう思っているのか…何となくだけど、それが伝わってくるようだった。
再び、沈黙が訪れる。ずっとネプギアは、アルテューヌを見つめる。そしてアルテューヌもまた、ネプギアの顔を見て…呟く。
「…一応、感謝を伝えておくわ…」
「感謝…?」
「理由はどうあれ、わたしは貴女に助けられた…策略の一環だとしても、貴女の行動がなければきっとわたしはここまで来られなかった…だから、ありがとう…ネプギア」
「……っ…お礼なんて、要らないです…要らないよ、そんなの…!だって、わたしは……っ!」
「…ネプギア…?…怒っているの…?」
「怒ってないよ…!なんでこれが、この流れで怒ってると思うの、馬鹿…っ!」
「え、えぇ…?…いや、だって……」
これまではずっと他人事のように、淡白に話すだけだったアルテューヌの声に…感謝の言葉に、初めて感情が籠る。その言葉に、ネプギアは声を震わせて…けれどそこからの勘違いに、その勘違いに対してネプギアは怒る。
今度こそ本当に怒られた事で、アルテューヌは困惑。なんというか、その抜けている感じは正に『ネプテューヌ』で……雰囲気が緩んだ数秒後、ノワールがネプギアの肩に触れる。
「…ネプギア、少しいいかしら?」
「へ……?」
静かで真面目な、ノワールの声音。ぽかんとしながらもネプギアは頷く。ネプテューヌも、何事かとばかりの表情を浮かべる。
私達が見つめる中、ノワールはベール、ブランと頷き合う。そして、ノワールの瞳はアルテューヌへ向く。
「まずは確認するわ。アルテューヌ、まだ貴女は戦うつもり?」
「…勿論、戦うつもりよ…わたしは今も、もう一人のわたしや、貴女達を…今の信次元を、認めてはいない。取り戻すって、今も思っている…。…思っては、いるわ……」
「つまりもう、その為の力はない訳ですのね。では、ネプテューヌにも確認ですわ。貴女が斬ったのは、カオスの力と歪み…それだけでして?」
「そうよ。ただ斬るだけじゃ、倒すだけじゃ、むしろ何が起こるか分からなかった。だから…守る為に、何よりも斬るべきものを斬った…つもりよ」
「…待って…待って下さい。なら、アルテューヌさんはまだ…!」
二人の問いに、アルテューヌとネプテューヌがそれぞれ答える。その内の後者、会話の流れが違うからか、表現も少し変わったネプテューヌの答えに、ネプギアは目を見開き…けれど、アルテューヌは首を横に振る。恐らくは、ネプギアが抱いた可能性…それを、アルテューヌ自身が否定する。
「…どうして……!」
「今の…このわたしにとって、カオスエナジーはただの力の源なんかじゃない。本来なら存在する事すらなかった筈の…もう存在しない筈の『記憶』が形を得る上での核になった、謂わばここにいる『わたし』の根底よ。…それが失われた以上、もうわたしは存在を保てない…残っているのは、もう一人のわたしを介して得た…そう、取り戻したんじゃなくてあくまで『得た』に過ぎないシェアエナジーのおかげで、まだ辛うじて留まっているだけの…ただの、残滓よ」
また、アルテューヌは段々と語る。もう受け入れているからこそなのか、諦めているが故なのか、むしろ逆に認めたくないからこそかは分からないけど…徹頭徹尾、アルテューヌは淡白な声音で言う。…やっぱり、感じた通りだった。ネプテューヌは、アルテューヌにそのまま引導を渡した訳ではなかったようだけど…だとしても、もうアルテューヌの結末は決まっていた。
「…まあ、尤も…仮にもう一人のわたしに斬られなかったとしても、結局は似たような結果に行き着いていたでしょうね。…貴女に勝つ事に精一杯だったわたしと、勝った後の事も考えていた貴女…そうなっていた時点で、きっとどうやってもこの結果に至っていたのよ、きっと……」
「…何も、恥じる事じゃないよ。わたしは、知ってるから。アルテューヌさんが、正真正銘、全身全霊で、自分の未来を掴もうとしていた事は。たとえ、どんな結果になったとしても…わたしはアルテューヌさんを、アルテューヌさんが貫いた思いを、駄目だなんて思いはしない」
「…ネプギア…。…貴女、なんで…どうして、そこまで……」
「…そんな事も、分からないの…?」
真っ直ぐに見つめるネプギアの、真っ直ぐな言葉。そこに深く籠る思い。けれどその言葉に、思いにアルテューヌが見せたのは、困惑の声。惚けている訳じゃないとすぐに分かる…本当に、理解が出来ていないという声。
きっと皆、分かっている。ほんの少し前まで眠り続けていた私にすら、ネプギアの気持ちは想像出来る。アルテューヌだけが、ネプギアの思いを分かっていなくて…アルテューヌだけには、ネプギアの思いが伝わっていなくて……
「…何故、泣くの…?」
一筋落ちる、ネプギアの涙。その涙にアルテューヌは驚き、更に困惑を深める。そしてそんなアルテューヌへ向け…ネプギアは、言う。
「そんなの、決まってるよ…わたしは、アルテューヌさんを…アルテューヌさんも、お姉ちゃんだって思ってるからだよ…っ!」
「……──あ…」
ほんの一言、ほんの一文字、アルテューヌの口から漏れた声。それ以上の事は、何も言わない。アルテューヌの口からは、何も出てこない。…だけどもう、違う。アルテューヌが浮かべているのは、困惑の表情じゃない。今のアルテューヌの顔に浮かぶのは、これまでよりもずっと多くの、色んな感情で……それでも何も言わない、或いは言えないアルテューヌの前で、発されるのは別の声。
「…だったら、尚更このままにゃしておけねぇし、これで終わりにゃ出来ねぇよな」
「…ブランさん…?」
今のアルテューヌの姿、それにきっとネプギアの言葉も『答え』とするような、確信を得たようなブランの言葉。意図の読めないその言葉にネプギアが、私達が困惑する中、ブラン…それにノワールとベールが前に出る。それからアルテューヌを掴んで、引っ張り上げる。
「よ、っと。ほら、立てるわね?」
「な、何を……」
「流石にこの怪我は放置出来ませんわね…イリゼ、セイツ。そちらの
「だ、だから何のつもり…!?負けたわたしを憐れんでいるの…?だったらそんなの、冗談じゃ……」
「憐れむ?まだ
「んな……ッ!?」
同情なんて冗談じゃない。そう言おうとしたアルテューヌを一蹴するノワール。優しさの欠片もない、いっそ剣呑な程のその返しに、アルテューヌは勿論私も目を剥き…更に三人の言葉は続く。
「ネプテューヌじゃないが、わたしも…わたし達も、お前を許すつもりなんざない。お前を倒して終わりってのも、ネプテューヌやイリゼに文句がねぇなら、それで良いと思ってる。…けど、お前はわたし達の選択も、今の信次元も否定したらしいじゃねぇか」
「それを見過ごす事は、そのままにしておく事は出来ませんわ。百歩譲って、己が身で見聞きして、体験した上で否定するのならともかく、信次元の今を、わたくし達が選んだ道をちゃんと知りもしないのに否定するなど言語道断。それこそ許せませんわ」
「…なら、どうしろって言うのよ…そもそもわたしは、その知る事すら……」
「だから、教えてあげるって言ってんのよ。今の信次元を。今の、私達を」
真っ向からアルテューヌを見据える、三人の瞳。臨戦態勢とも違う、真剣そのものの眼差し。思わず息を呑んでしまう程のそれに、アルテューヌは目を逸らし…けれどノワールの言葉で、びくりと肩を震わせる。
「…皆、もしかして……」
「ちょ、ちょっと待った。わたし、そんなの聞いてないわよ…?」
「でしょうね。だって話してないもの」
「あ、アタシも聞いてないんだけど…」
「…ロムちゃんは?」
「う、ううん…」
ここに来る前から考えていた、決めていたように話す三人だけど、どうもネプテューヌや女神候補生の皆も…というか、三人以外は全員知らない様子。当然そんな状況じゃ、私達にも困惑は広がる訳で…でもノワール達は、有無を言わさずアルテューヌを連れていこうとする。
ただ…急展開だって事を差し引いても、皆は動揺こそすれども、三人の行動を止めたり、それを咎めようとする様子はなかった。むしろ…何となくだけど、私は感じる。三人の行動に対する、皆の理解を。
「確かに、今の信次元を知らないまま否定し、挙句理解しないまま退去というのは頂けないね。それではあまりにもチープ過ぎる。オレの…オレ達の次に信次元を襲った災いがその程度じゃ、オレの名前にも傷が付くというものさ」
「そんな方向性で名前を誇ってんじゃねぇよ、【オレ】…。……ま、けどねぷっちと付き合いの長い三人がそうしようってなら、安易に否定は出来ねぇよな」
「…イリゼ、貴女は?今回の件で酷い目に遭ったのは貴女よ。だからイリゼがいいっていうなら、わたしも口は挟まないし、逆にこれ以上信次元にアルテューヌの存在を許容なんか出来ないっていうなら、今すぐわたしが……」
「ま、待った待ったセイツ。私を慮ってくれるのは嬉しいけど、そんな過激派的なのは望んでないから…。……私は見届けると決めた。そしてアルテューヌに、もう戦うだけの力はない。故に…アルテューヌがどんな選択をしようと、私は最後まで見届ける。ただ、それだけだ」
三人やネプギアの思いを突っ撥ねてでもバッサリいきそうなセイツにストップをかけつつ、私は小さく息を吐き…見届けるという思いに、変わりはない事を伝える。
許した訳じゃない。セイツは私が酷い目に、と言ったけど、私は自分の事よりも、
「…わたしの、選択…。…ふん、何を今更…手を組んでわたしから未来を奪っておきながら、その未来の…今の信次元をだなんて、図に乗るのもいい加減に……」
「はいはい、そうですわねー」
「文句を言うのは勝手だが、お前は敗者だろうが。負けた側が偉そうにすんな」
「なッ…わ、わたしは貴女達には負けていないわ…!わたしは……」
「…つまり、ネプテューヌ次第って事か?」
何か言おうとしたアルテューヌだったけど、そこにウィード君が被せる。というか、「あ、やべっ、すまん…」と呟いていた事からして、偶々タイミングが被って重なる。
けど、その通り。アルテューヌは負けていないとは言ったけど、ブランの「勝者と敗者」の観点そのものは否定していない以上、確実な勝者であるネプテューヌの判断は拒絶出来ない…って事になる。そしてウィード君の発言により、皆の視線はネプテューヌへ集まり…ネプテューヌは、言った。
「…そうね…わたしはもう、アルテューヌとの…もう一人の自分との決着を、ケリを付けたつもりよ。だけど考えてみたら、ノワール達は記憶喪失になる前のわたしとの関係が有耶無耶になったままな訳だし…ここからの事は、三人に任せるとするわ」
『それじゃあ、決定(ね・ですわ・だ)』
判断があっちこっちへ渡った末の、勝者であるネプテューヌからの任せるという言葉。それにノワール達は頷き、有無を言わさずアルテューヌを連行する。私はセイツとアイコンタクトを交わし、インカムでアヴァラスに「これから来るネプテューヌの手当てを」と伝える。
(…これで終わり、か……)
ぐるり、と私は周囲を見回す。もうこの場に、戦いはない。アヴァラスの方からも、カオスモンスターが蜘蛛の子を散らすように逃げていく事、更にはその場でバタバタと倒れて消えていく個体も散見される事が伝えられる。この領域を包む、染め上げている歪みも、いつの間にか薄れ始めていて……天界の景色が、少しずつ見えてくる。
本当に、これで終わり。戦いは、決着。私は殆ど関われないまま…また一つ、大きな戦いが終わりを迎える。…だけど、戦いは終わっても、まだ全てに決着が付いた訳じゃない。私の思い、皆の思い…その全てが果たされ、それぞれの形で行き着くべきところへ行き着いた時、漸く終わったのだと言える。そしてノワール達の行動は、きっと…その為の、最初の一歩だった。
*
神生オデッセフィアへの帰還。セイツ達にとっては、決戦を終えての帰還。でも私にとっては…随分と、久し振りに感じる帰還。ずっと眠っていた事を差し引いても、やっと帰ってこられた…そんな風に思いながら、私は人の姿で自国の大地を踏む。
「お帰りなさい、皆さん。お帰りなさい、イリゼさん(´・∀・`)」
天界から、私達は戻ってきた。天界に広がっていた…らしい歪みは、完全に消えた。アルテューヌが歪みを掌握し、そのアルテューヌの力をネプテューヌが断ち斬った結果、制御を失った歪みは暴走する…どころか逆に、アルテューヌを介してネクストフォームの力が逆流するかのように、或いはアルテューヌを通じて歪みすらも破壊の力の間合いへと収めたかのように、歪みすらも消し払われていた。当初はもっと、時間を掛けて安全に…それこそ長期間の対応で歪んだ時空を正常化させる事を想定していたとの事だけど、ネプテューヌはそれをすっ飛ばして解決に至らせていた。
そして帰還し、生活圏外に設置された仮設拠点へと着陸したアヴァラスから降りた私を迎えてくれるのは、イストワールさん。ゆっくりと見回し、まず皆に…それから私に、お帰りなさいと言ってくれる。
「うん。ただいま、イストワールさん」
ただいまと、お帰り。なんて事ない、当たり前のように交わすやり取り。だけどそれすらも、今は久し振りに…嬉しくて、感慨深いものに感じる。
そう。アルテューヌとの戦いを抜きにしても、私は
「皆、お疲れー!それと…お帰り、ネプギア、イリゼ」
「…はい。大きいお姉ちゃんも、イストワールさんも…ご迷惑を、お掛けしました」
「どっちも割とピンピンしてんな。って事は、今回も大団円で終いって事か」
イストワールさんに続いて、大きいネプテューヌ…それに、クロワールもやってくる。二人に、皆に向けて、ネプギアは頭を下げて…そんなネプギアと私を見て、クロワールは肩を竦める。…クロワールが味方になった事も、聞いてはいたけど…い、違和感が凄い……。
「んで、アルテューヌの方はどうしたよ?着陸前の通信で聞いたが…連れてきてるんだろ?」
「まだ艦内で手当ての途中だよ。なんせわたし、何度もバッサリ斬ってるからね!」
「そっか…でも生きてる辺り、やっぱり──」
『流石わたし!凄い!』
ふふん、と並んで胸を張るネプテューヌ二人。そのやり取りに、わたし達は苦笑し…イストワールさんが、また口を開く。
「それはともかく、驚きました。仮に勝利しても、歪みが何とかなるとは限らない…最も不確定で未知数だった時空の歪みを、まさかネプテューヌさん単独で解決してしまうとは……(。-∀-)」
「これぞ元祖主人公の力、ってね!…まぁ、なんていうか…アルテューヌと戦う中で、気付いたんだ。わたしはネクストフォームの力の、『物理的に消し去る』…って部分にばっかり意識が向いていたけど、本来…本来?…は、どんな対象でも、概念でも何でも『斬る』力なんだと思うんだよね。だから戦いの中ではその『斬る』部分に立ち返って、最後はカオスエナジーの存在なんかと一緒に、歪みそのものじゃなくて歪んでるっていう『事象』を斬って、正常な状態に戻した…的な?」
「ちょいちょい説明がふわっとしてるが、凄ぇ事言ってやがんな…なんかその気になれば、某
「その気になれば、無かった事を無かった事にする事も出来るかなー!多分!」
「…ほんと、私のリバースフォームやネプギア達のビヨンドフォームと比較しても、頭一つ抜けてるっていうか、規格外な感じあるよね、ネクストフォームって……」
再び胸を張るネプテューヌだけど、どうも雰囲気的に、100%誇張…という訳ではない様子。同じくネクストフォームを持つノワール達も普通に聞き流している辺り、今すぐ出来るかどうかはともかく、少なくとも可能性はある…のかもしれない。
「…こほん。それでだけど、わたしは改めて
「えぇ。あぁでも、ネプテューヌとネプギア、それにユニはここでちゃんと手当てを受けてきなさい。もうそろそろ、治癒魔法の効果も切れるでしょ?」
「勿論イリゼも、しっかりと治療を受けるんですのよ?ここまでも今も普通に立っていますけれど、貴女が一番危険な状態な筈なんですから」
「アルテューヌの方はちゃんとこっちで預かるわ。…尤も、もうアルテューヌには本当に悪さをするような力は残ってないようだけど」
手当をちゃんと受けるよう言われた私達は、当然頷く。戦場なら、まだ戦いが続いているならともかく、今拒否する理由なんてないし…ぼろぼろの状態で国民の皆の前に出たら、皆を心配させるだけ。皆の為にも、まず私がきちんと自分を癒さなきゃいけない。
そうしてアルテューヌの手当てが終わったところで、ノワール達はアルテューヌを連れていく。それを私は見送って…改めて、イストワールさんと向かい合う。
「…イストワールさん。それと、セイツ」
「なんですか?イリゼさん( ̄∀ ̄)」
「なにかしら?イリゼ」
「帰ってくるのが、遅くなってごめんね。──ただいま」
二人を見て、二人から問われて、私は言う。もう一度、二人に…家族に、ただいまと伝える。
神生オデッセフィアが見えて、降り立った時、帰ってきたと感じた。女神としての私にとって帰るべき場所は、ここだから。国民の待つ、私の国だから。でもこうしてただいまと言う事で、家族に帰ったよって伝える事で、『イリゼ』としての私は帰ってきたんだなって実感する。…あぁ、そうだ。私は…帰って、きたんだ。
「ふふっ。お帰りイリゼ。…ちゃんと、イリゼを連れて帰ってきたわ、イストワール」
「えぇ。イリゼさん、セイツさん。お二人がこうして帰ってきてくれて、嬉しいです。…ずっと、お待ちしていましたよ」
「……っ…うん、うん…!」
私に続いてセイツも言えば、イストワールさんは頷く。笑って…本当に、安心したように笑ってくれる。セイツは目を覚ました私を見て、泣いていた。泣く程私の事を思ってくれていた。イストワールさんもこうして…私の、私達の帰りを、待っていてくれた。帰りを望んでくれる人がいる。帰るのを待っていてくれる人がいる…それがどれだけ嬉しくて、幸せな事か。
「でも、ごめん…ごめんね…!二人に、皆に、心配掛けて……っ」
「いいのよイリゼ。よくはないけど…貴女は女神として、為すべき事をした。それは姉としても、女神レジストハートとしても、ちゃんと分かっているわ」
「イリゼさんの選択が、行動が、多くの人を助けた…それは紛れもない事実です。それをわたしも…皆さんも、分かってますから」
だからこそ私は、申し訳なさ、不甲斐なさが込み上げてくる。そんな二人に、皆に、心配を掛けてしまった。スカネクや、東ザナちゃんや、乙戦ちゃん、それに
分かってる。この手に、この優しさに、甘えちゃいけない事は。二人がいいんだって言ってくれる事と、私が未熟である事は別。皆が気にしないとしても、他でもない私自身が気にする。私は今の私に満足なんてしていない、もっともっと皆に安心と平和と喜びを、希望を届けられる女神で在りたい。……それでも、やっぱり…嬉しかった。二人の手は、思いは…温かかった。
「…さて、と。イストワール。わたしは軍の方に行ってくるから、イリゼの事は任せてもいいかしら?イリゼ、一人にするとちゃんと治療受けずに『自分の務めを果たす』とか言ってどこか行きそうだし」
「し、失礼な…流石に私だってもう、ちゃんと療養するつもりだよ…」
「でも、イリゼだしねぇ?」
「イリゼさんですもんね( ̄^ ̄)」
「そんな、酷い…」
揃って「イリゼだから」で頷く姉二人。酷い、私妹なのに酷い…!…と思ったけど、実際問題目覚めた後も『見届ける』って事で戦場に戻ったのは事実だから、あまり強く言い返せないのは辛いところ。だから今回はその評価に甘んじるしかない、と私は肩を落としながらも受け入れ、軽く笑ったセイツはアヴァラスに戻ろうとして……イストワールさんに、肩を掴まれる。
「それではお二人共、教会のわたしの部屋に行きましょうか」
「え?教会に?」
「ええ、お説教です」
「あぁ、お説教…お説教!?なんで!?」
お説教、その言葉にぎょっとするセイツ。勿論同じように私も仰天。な、何故…!?何故今お説教…!?というか、そもそもイストワールさんから私とセイツがお説教…!?
「わたしはこれまで、お二人の女神としてのスタンスを尊重してきました。イリゼさんもセイツさんも真面目ですし、真剣に国民や国の事を考えていますし、何より信頼出来ると思っていたからこそ、多少の無茶や危険には目を瞑ってきました。家族として思うところはあっても、『女神』の判断としては一理ある…そうも思ってきました。…ですが、少々それは甘かったようです。今回の一連の件で、わたしも反省しました。ここで一度、姉としてきちんと叱っておかなければならないと痛感しました」
「うっ…で、でもさっきはイストワールさん、私を肯定するような事を……」
「それとこれとは別です。多くの人を助けたのだから、その方法や結果に関わらず正解だったなどとは一言も言っていません。それに、イリゼさんの無茶は今回が初めてでも、今に始まった事でもありませんよね?わたしは、これまでの事全般を含めて言っているんです」
「そ、そうね、わたしも同感よ。けど、それならわたしは関係ない……」
「おや?わたしの記憶が正しければ、セイツさんもアルテューヌさんからわざと攻撃を受けていましたよね?あの時のセイツさんは、明らかに『死にさえしなけれはいい、そうはならないようにするから大丈夫』という、無茶そのものの思考で動いていたように見えましたが、あれはわたしの勘違いでしたか?」
「うぐッ…それは、その……」
強い口調ではない…けれど声音と雰囲気だけでイストワールさんは、私達を…女神二人をたじろがせる。一瞬冗談かな、とも思ったけど…というか思いたかったけど、さっきから全く顔文字を使っていない以上、これはもう明らかに本気。確実にイストワールさんは怒っている。
勿論、当然だとは思う。怒って当然だし、きっとその怒りも私やセイツを思ってこそのもの。だけど、だからってお説教されたいかと言えば、当然されたくはない訳で、顔を見合わせた私とセイツは何とか回避しようとするけど……
「い、イリゼはほら、見ての通りすぐに治療を受けなきゃいけない状況よ?だからお説教は、後回しの方がいいんじゃないかしら?」
「う、うん。セイツも自分で言ってた通り、確認とか労いとかやらなくちゃいけないよね?それを疎かにするのは、女神として違うよね?」
「大丈夫ですよ、お二人共。その辺りはきちんとわたしが手を回しますし…これまで何度も無茶をしながらも、最後はきちんと帰ってきてくれたのがイリゼさんなんですから、ここにお説教の一つや二つが重なったところで、きっと大事には至りません」
((八方塞がり打つ手なし…!?))
取りつく島のないイストワールさんのスタンス。そして私達が愕然とする中、イストワールさんはぴっ、と指を三本立てる。
「そ、それは…三十分怒るって事ですか…?」
「違います」
「じゃあ…三時間……?」
「違います」
『な、なら…もしかして、三日ですか…ッ!?』
どこぞの館のゲーマー執事みたいな心理状態となる私達の前で、イストワールさんはゆっくりと…深く、深ーく頷く。
幾ら応急手当てしか受けてないとはいっても、それなりに飛べる事はもう分かってる。私はまだしも、セイツなら普通に飛んで逃げる事も出来る状況。けれど私もセイツも、イストワールさんの…『姉』の威圧感に圧倒され……初めて私は、姉からのお説教というものを受ける事になるのだった。
*
このまま、知らずに否定したまま終わる事など許さない。その意思の下アルテューヌは連行され、プラネテューヌへと向かった。全く望まない、予想しない形で、再びプラネタワーへと訪れる事になった。
アルテューヌは考えていた。一体何をするつもりかと。これが今の信次元だと、各国の外遊でもさせるのだろうかと。…だが、その予想は覆される。ノワール、ベール、ブラン…嘗ては対立していた、アルテューヌとしては今も対立しているつもりの三人が用意していたものを見た事で、アルテューヌは…愕然とする。
「さあ、準備出来たわよ」
「こ、これって……」
これで良し、と片手を腰に当てるノワール。思わずぽつりと声を漏らすアルテューヌ。今、アルテューヌがいるのはプラネタワー居住区画のリビングルーム。そしてアルテューヌの視線の先にあるのは、TVと……そこに繋げられたゲームハード。
「…何のつもり?」
「何のって…これがゲーム以外の何かに見える?」
「ゲーム以外の何物にも見えないから聞いているんだけど?」
「はい?」
「え?」
首を傾げるノワールの反応に、余計アルテューヌは困惑。一体何を言っているのか、本当に何のつもりなのか、アルテューヌは全く状況を飲み込めず…そこでブランが嘆息をする。
「驚いたわ、アルテューヌ…いえ、『ネプテューヌ』がゲームの事でこうも察しが悪いだなんて……」
「要はこれから、ゲームをするという事ですわ。…まさかゲームを目の前にして、ゲームをすると説明しなくてはならないとは……」
「だ、だからどうしてゲームなんか…っていうか、名前だってなんでわざわざ言い直して……」
「アルテューヌというのはネプテューヌとの混同を避ける為の便宜的な呼び方なんだから、ネプテューヌがいない今は使い分ける必要もないでしょう?」
「ああでも読者の皆様、地の文は『アルテューヌ』表記のままになると思いますわよ?わたくし達にとっては便宜的な名前でも、作品としては一つの『キャラクター名』ですものね」
「どこを見て喋っているのよ貴女は……」
全く、こんな事も分からないのかと呆れるブランに、アルテューヌはむっとする…が、主張自体は特におかしなものではなく、それ故に言い返す事も出来ない(明らかにおかしいベールの方は突っ込んだが)。むしろアルテューヌからしても、『アルテューヌ』というのは勝手に付けられ使われている仮の名前であり、ネプテューヌと呼ばれる方が良いのも事実。だからこそその部分についてはもう触れない事にし…もう一つの疑問を、今一度言う。
「ゲームをする事が、一体何になるって言うの?」
『ね…ネプテューヌが、ゲームの存在を否定した……!?』
「そ、そういう意味じゃないわよ…!貴女達の主張とは全然関係ないって言ってるの…!」
「あぁ、そういう…私は言った筈よ?今の信次元を、私達を教えてあげるって」
何かおかしな事がある?とばかりに腕を組むノワールの姿と、当たり前のように頷くベールとブランの姿を見て、漸くアルテューヌも理解する。ゲームをする…それは本当に、そのままの意味なのだと。ゲームを通じてどうこうではなく……要は、昔は争っていた四人の守護女神が、『今』は普通に集まってゲームをする関係なのだと。
「…理解したわ…したけど…むしろ余計に意味が分からなくなったわね。グリーンハートはともかく、ブラックハートとホワイトハートまで、さも当然みたいにしてるなんて…。…貴女達も記憶を失ったんじゃないの?」
「残念だけど、そんな事はないわ。ただ…変わっただけよ。わたし達の、関係が。お互いに、相手へ抱いている気持ちが」
「そしてその切っ掛けになったのが、他でもない記憶喪失になった以降のネプテューヌという事ですわ。…というかいい加減、始めようではありませんの。据えゲームやらねば女神の恥というでしょう?」
「そんな言葉聞いた事ないけど、私も同感よ。話ならゲームしながらでもやれるんだし…ネプテューヌもここまで来たんだから気持ちを切り替えなさい。それとも私達三人がゲームをするのを、一人で寂しく見てたいの?」
「それと、もう一つ。貴女も女神化を解いたらどう?…もし解かないんじゃなくて、解けないというのなら、今の言葉は撤回するけど……」
「…解けない訳じゃないわ」
次々発される言葉にアルテューヌは押される。争っていた時は思いもしなかった程、自然に三人の言葉は続き…逡巡の後、アルテューヌは息を吐く。納得した訳ではないが、今更逃げようとも思わないし、実際三人がゲームする姿を見ているだけというのも癪だと、コントローラーの前に立つ。そして、女神化を解き……座る。
「…姿は…やっぱりネプテューヌそのものなんですのね」
「そりゃそうでしょ、今も昔もわたしはネプテューヌなんだから。……ああ、でも…今の状態になってから、初めてこっちの姿になったな…」
「それはまた、どこかの次元の一部の女神候補生みたいなスタンスね…」
何もおかしな事はない、としつつも呟くアルテューヌ。発言に対してノワールに突っ込まれつつも、アルテューヌは自分の手を数秒見つめる。
特別な理由があった訳ではない。ただ、気付けばアルテューヌは、ずっと女神の、本来の姿のままでいた。それだけ、アルテューヌは気を抜けなかったという事かもしれない。或いは…ひょっとすると、仮初の姿でも、『自分』を取り戻せた事への喜びと、もう失いたくないという思いが、アルテューヌの中から女神化を解くという発想を取り払っていたのかもしれない。
「…一つ、確認しておくわ。今更だけど…貴女、まだ身体は持つの?」
「…持つよ。いつまでかは分からないけど、まだ五分や十分じゃ尽きたりはしない…と、思う」
「だったら問題ないわね。早速始めましょ」
ふっ、と真面目な表情を浮かべたブランに、一瞬黙った後アルテューヌは首肯。されど重い空気になる事はなく…というよりそうはさせず、すぐにノワールが始めようと言う。言い、そこにアルテューヌが待ったを掛ける。
「待った。何か普通に二種類のハードが置いてあるんだけど、これはどういう事?」
「今からやるのはうちとリーンボックスのハードとでクロスプレイが出来るのよ。まあ、この作品といえばうちだろうけどね」
「あら、お安くハードを用意出来るのはこちらですわよ?安く用意出来るというのはつまり、より多くの方に楽しんで頂けるという事。それって大切な事でしょう?」
「…………」
「…………」
「…ちょっと、皆は本当に普段から一緒にゲームしてるの?普通に第二次
「こんなの日常茶飯事よ、気にする程の事でもないわ」
無言でバチバチとした雰囲気を作り出すノワールとベールだったが、ブランは涼しい顔。それにネプテューヌは呆れ…まあいいか、とコントローラーを握る。そうして四人は、ゲームを始める。
とはいえ、アルテューヌに大してやる気はなかった。ゲームが嫌な訳ではないが、この三人とやるなんて…と気持ちは低空飛行状態だった。…だったのだが……
「え、うっそ何これ!?オープンワールドってやつ!?え、え、歩きながら食べられるの!?謎のポーズしないの!?なんか乗ってるし、武器二つ!?こんなに進化してるのぉ!?」
……十数分後、アルテューヌは滅茶苦茶興奮していた。久し振りの…そして自分が普通に存在していた頃より大きく進歩したゲームの内容に、大層驚き……それはもう、楽しんでいた。
「漸くネプテューヌらしくなってきたわね」
「えぇ、斜に構えてるネプテューヌなんて違和感しかなかったしね」
「そんな事より大技来ますわよ、早く退避を!」
大興奮でゲームをするアルテューヌの姿に、ブランとノワールは肩を竦め合う。それからベールの警戒を受け、素早く操作しているキャラを動かし…そこにアルテューヌも合わせる。攻撃を回避し、三人と共に反転攻勢を仕掛けていく。
「へぇ、案外協力的じゃない。やっぱり確執なんかより、ゲームの方が優先なのかしら?」
「…別に。偶々だよ、偶々」
「ふぅん…あ、麻痺したわ」
「それなら尻尾斬りは任せて!」
「…わたくし達、早々にゲームに誘っておけば、もっと早くネプテューヌとの戦いを終わらせられたのでは…?」
「いや、まあ…それは、うん……」
素っ気ない態度を取ったと思いきや、即協調の姿勢を再び見せる…というか、普通に協力プレイを楽しむネプテューヌに、ベールとブランは何とも言えない表情を浮かべる。
だが別に、それが嫌という訳ではない。楽しんでいるアルテューヌは元より、ノワール達にとってもそれは、少々予想外ではあるものの、良いか悪いかで言えば間違いなく良い事。そしてそのまま四人はゲームを進め…ひと段落したところで、休憩も兼ねてコントローラーを離す。
「ふぅ…いやほんと、久し振りにこんながっつりゲームしたなぁ…」
「そういえば、貴女ネプテューヌ…記憶喪失以降のネプテューヌと入れ替わっていた際にはしていなかったんですの?」
「下手な事して怪しまれたらおじゃんって時に、ゲームする心の余裕があると思う?」
「むしろわたし達からすると、ゲームを一切しないネプテューヌの方が怪しいんだけど?」
「…言われてみると、確かに……」
「って事は、ネプテューヌのゲーム好きは記憶関係なく元からだった訳ね。ま、ここまでのはしゃぎっぷりを見れば納得だわ」
「…ふ、ふん。今のは本当に久し振りだったから気分が乗っただけだよ。はしゃいでいたとか、そういう訳じゃ……」
「なら、わたしが用意したうちの新ハードと、伝統のパーティーゲームはやらないでおく?」
「そ、それは…やらないとは言ってないでしょ…?」
実質的にやりたいと認めているようなアルテューヌの返しに、三人は苦笑。この分かり易さ、ちょろさも『ネプテューヌ』だ、と内心思い…プランの用意したゲームをするべく、場所を片付け再配置する。
「…ねぇ、ここまでスルーしてたんだけどさ、さっきのゲームって内容的にハードとTVをそれぞれ四つずつ用意してたよね…?そうじゃなきゃおかしいよね…?」
『…………』
「え、なんで黙るの…?そこは触れるなと……?」
そんなこんなで準備を終え、今度は強力ではなく四人での対戦でゲームを開始。しかし、アルテューヌの中の熱は少し冷めていた。半分は言い訳だったが、久し振りのゲーム故に燃えていたという側面があったのは事実。だが今はその要素もなくなり、ブランの用意したパーティーゲームは本当に伝統の、言い換えればメインの要素は順当な進化こそ新作の度に行われていても、内容が大きく発展する事はそこまでなかったという事を知っているからこそ、そこまで熱くはならないだろうと考えていた。…しかし……
「そ、そんな…まさかこれって…据え置き機にも、携帯機にもなるっていうの!?こ、こんなの進化なんてレベルじゃない…革命だよ!革命的進化だよ!最早革命チェンジだよ!?」
……やはりというべきか、またもアルテューヌは大興奮していた。ゲームの内容云々以前に、ハードの時点で目を輝かせていた。
「いや、それだと違う意味になるから…というか、どっちにもなる要素はこの新ハードじゃなくて、一つ前のハードでもあった事なんだけど…」
「そうなの!?くっ、レトロゲー好きなわたしでも…いやレトロゲーが好きだからこそ、これには仰天せざるを得ない…!」
「…貴女が記憶を失ったのって、うちの前のハードが出るよりも前だっけ…?」
「その前だよ?ほら、このシリーズの一作目であるOAは2016年スタートだし」
「がっつりメタ発言とは、もう完全に絶好調ですわねネプテューヌ…後、もうこのシリーズが始まってからそんなにも時が経っているんですのね……」
気付けば三人との間に壁を作っていた彼女はどこへやらという程の、三人からすればよく知る状態となるアルテューヌ。しかし、アルテューヌに壁を壊したつもりなどない。本人はあくまでまだ、三人との距離を縮めたつもりなど微塵もなく…にも関わらずこれだけはしゃげる辺りは、本当にアルテューヌもまたネプテューヌなのだという事だろう。
「あぁそうだ、レトロゲー好きなら割と神生オデッセフィアのゲームもいいかもね。神生オデッセフィアのゲームは、復刻とかリメイクとかに力を入れてるし。後はシンプルに、『え、古くない…?』ってのを出してたりもするし」
「そう、なんだ…。……で、やらないの?」
「あぁはいはいやるわよ。そうだ、最下位はおやつの買い出しに行くなんてルールはどう?」
「あら、面白そうですわね。乗りますわ」
「わたしも構わないわ、勝てばいいだけだもの」
「それ、わたしが負けた場合わたしを野放しにする事になるよね…?…まあ、いっか…わたしが負ける訳ないし」
ノワールからの話を受けたアルテューヌは、少しだけ遠い目を…感情の読めない表情を浮かべる。だが今度はアルテューヌ自身から、このまま話を続けるつもりかと問い…四人の対戦は、幕を開ける。
当然の様に白熱する勝負。ゲームの対戦という事もあってか四人は熱くなり、対抗心をどんどん露わにしていくも、それはそれとして楽しむ。ゲームを、対戦を、大いに楽しむ。そしてこの時…確かにアルテューヌも、楽しんでいた。一つ目のゲームも、このゲームも、全力で…仲間に、友になった『ネプテューヌ』と同じように、アルテューヌも楽しんでいる……そんな風に、ノワール達には見えたのだった。
*
「うぅ…あ、脚が…脚の感覚が……」
「も、もう本作も最終盤なのよ…?それなのにお説教なんて面白くない事を長々やるのは……」
「いいえ、後二日程やりますo(`ω´ )o」
『本当に三日間掛けてやるつもりなの!?』
今回のパロディ解説
・「〜〜マケン姫っ!」
漫画、マケン姫っ!の事。やる気、元気〜のパターンも考えましたが、それは前にパロネタとして使った事があるよね、と思いこちらのネタにしました。
・「〜〜だって、アルテューヌさん…力が……っ!」
ONE PIECEの主人公、モンキー・D・ルフィーの台詞の一つのパロディ。この発言が出るシーンは名場面で間違いないですが、この台詞単体では、名台詞…と表現するのは少し違う気がしますね。
・「…そんな事も、分からないの…?」、「…何故、泣くの…?」
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズに登場するキャラの一人(二人)、ガエリオ・ボードウィンとマクギリス・ファリドのやり取りの一つのパロディ。思い込まずとも感じるのが本当の幸せ…だと、私は思います。
・「そんな、酷い…」
ドラクエシリーズにおける、定番ネタ(フレーズ)の一つの事。かなりシンプルなフレーズなので、使い勝手は非常にいいですね。色んな場面で使えると思います。
・「そ、それは〜〜ですか…?」、「じゃあ…三時間……?」、『な、なら……ですか……ッ!?』
ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズに登場するキャラの一人、テレンス・T・ダービーの一連の台詞の一つのパロディ。どうやら本当に二人はお説教をされたみたいですね…。
・「〜〜お説教なんて面白く〜〜やるのは……」、「いいえ、後二日程やりますo(`ω´ )o」
ドラえもんの主人公、野比のび太と、登場するキャラの一人、野比のび助のやり取りの一つのパロディ。パロネタを振りにし、その通りにする事でお説教をギャグに変えている訳ですね。
また、お分かりの方も多いとは思いますが、終盤で出てきたゲームはそれぞれ、モンハンシリーズの新作(ワイルズ)とマリオパーティーシリーズの事、更に各種ハードの事です。特にワイルズは発売直前という事で入れてみました。