超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
何か、わたしにも話せない目的を持って、イリゼは未開領域の先行調査へと向かった。その目的、理由は分からない。分からないけど、未開領域の先行調査を…わたし達にとっても信次元にとっても大事な事柄の一つを表向きの理由にする程の何かがある。そう思うと、やっぱり気になるし、話してほしかった。
でも、イリゼはもう子供じゃない。自分で考えられるし、自分で決められるし、自分で困難にも立ち向かえる。必要な時に、必要な力を周りに借りる事も出来る。だからきっと、大丈夫。わたしに秘密なのも、今はまだその時じゃないだけだって、わたしの力が必要な時はちゃんと頼ってくれるって、そう信じている。…まぁ…わたしは昔のイリゼを知らないんだけどねっ!
「これでよし、っと。流石に連日やっていれば、慣れてもくるわね…」
書類のチェック作業を終え、イリゼの代わりに承認を出す。イリゼは先行調査に出る前に、可能な限り自分でないとこなす事の出来ない仕事を片付けていったし、そうでない仕事も出来るだけ割り振りを行って、支障が出ないようにしていた。
わたしが今していたのもその内の一つ。何をどうすればいいか、イリゼは細かくマニュアル化しておいてくれたから、今のところ頼まれた仕事はどれもつつがなくこなせている。今後も絶対大丈夫…かどうかは何とも言えないけど、まあそうなったらその時は、わたしの判断でやるのみ。わたしだって女神だし、これまでもイリゼと分担して色々やってきたんだから、やってやれない事はないわ。
「…っと、これは……」
そこで、わたしの卓上の端末に送られてきたのはファイルが添付されたメール。調べてみると、それはイストワールから送られてきたもので…続けてそのイストワールから、着信が入ってくる。
「ありがとう、イストワール。ファイルは今確認してるわ」
「はい。わたしがお手伝いをしていた時の内容そのままのものですが、このまま参考に出来ると思いますよ(*・ω・)b」
携帯端末で通話をしつつ、卓上端末でファイルの中身を確認していく。これはイストワールに頼んでおいた、イストワールが建国直後の神生オデッセフィアの手伝ってくれていた際のデータで、今日やっていた別の仕事の参考資料が欲しいと思ってイストワールに連絡を入れた結果、こうしてデータを送ってくれた。
勿論、具体的な神生オデッセフィアの情報が載っている訳じゃない。あくまで作業の流れや細かい手順、更に参考資料(つまりわたし視点では参考資料の参考資料ね)なんかも纏めてあるデータで、それと同じデータをイリゼも持っているらしいんだけど…そのデータがどこにあるのかが全く分からなかったから、ひょっとしたら…と思ってイストワールに訊いた。で、見立て通り持っていて、それを送ってくれた…というのが、ここまでの経緯。
「助かるわ。やっぱり持つべきものは頼れる姉妹ね」
「いえいえ。セイツさん、一人で切り盛り出来ていますか?わたしが行かなくても大丈夫ですか?(´・ω・)」
「大丈夫よ。別にいきなり任された訳じゃないし、一人で頑張ってた時期があるのは、ネプギア達も同じでしょ?…まあ勿論、イストワール達教祖はいたって話だから、少し違うでしょうけど」
今よりかなり前、信次元では守護女神の四人が犯罪組織という犯罪神を信仰する組織との戦いの中で、長期間戻ってこられなかったんだとか。今回の件とは違う、想定外の形で、しかも脅威が少しずつ迫ってくる中での守護女神の不在はかなりの痛手だったと思うし、そんな中で頑張った女神候補生の四人は凄いと思う。きっと周りの支えありきでしょうけど、それでも今現在よりもずっと未熟な中で曲がりなりにも女神の務めを果たしていたんだから、それを思えばわたしだって情けない姿は見せられない。
(うん、そうよ。イリゼがわたしについてきてって言わなかったのは、わたしに国を任せたかったから…わたしなら、って信じてくれたからに決まってるもの)
頼られたなら、信じてくれているなら、それに応えるのが女神ってもので、姉ってもの。それに、戦闘中でもないんだからわざわざ悪い方に考える必要もないわよね。
「さてと。そっちも仕事中でしょうに時間を取らせて悪かったわね。これなら何とかなりそうだわ」
「であれば良かったです。全ての場合を想定する事なんてそうそう出来ませんし、もし同様の事があれば、また言って下さいね?(^o^)」
「えぇ。プラネテューヌの教祖としての務めがあるイストワールにこう言うのは少し変かもしれないけど…イリゼの姉として、お互いイリゼが不在の間もしっかりと頑張りましょ?不在の間、特に何も困らなかった…って分かれば、今後もイリゼが精神的に動き易くなるでしょうし」
「そうですね。でも……」
イリゼの事だから、もしもの事があればお願いします、って位はイストワールにも言っていると思う。だって、かなりイリゼはイストワールを信頼しているから。
だからこそ、わたし達に向けられた信頼に応え、安心の結果と共に迎えたい。何でも自分がやらなきゃ…なんてならないように、フットワーク軽く動けるように。そんな風に思い、わたしがそれを伝えると、イストワールはすぐに肯定をしてくれた。
けど、イストワールは「でも」とそこに付け加える。そしてわたしがうん?となる中、電話越しにイストワールは言う。
「セイツさん。確かにわたし達はイリゼさんの姉ですが、わたしはセイツさんの姉でもあるんですからね?神次元のわたしの事もあると思いますし、イリゼさん以上に『姉妹』だと意識するのは難しいのかもしれませんが…わたしはいつでも、『姉』としてセイツさんの力になりますからね」
「イストワール…。…あはは、わたしよりずっと長い間、『姉』をやってきただけはあるわね。…嬉しいわ。そう言ってくれる姉がいる…そう思えるだけで、凄く」
「勿論、何もなければそれも良いんです。ただ、今はイリゼさんがいないのですから、こんな時だからこそ『姉』ではなく『妹』として振る舞っても良いと思いますよ(*´ω`*)」
「そうね、じゃあ折角だから…普段は出来ない、イストワールの真似をさせてもらうわっ(≧∀≦)」
「えぇ!?あ、今顔文字真似しましたね!?通話越しでも分かるんですからね!?それとこれとは別です、わたしのアイデンティティの侵害は姉妹であれどそう簡単に許可したりはしませんからねー!
o(`ω´ )o」
これが姉歴の差という事なのか、それとも長女と次女の差なのか、イストワールの『姉』としての言葉はわたしの心にすっと入ってくる。見えていなくても、イストワールの柔らかな笑みが思い浮かぶ。
今イストワールが言った通り、意識的にはイリゼもイストワールも同じように姉妹だと思っているけど、心のどこかではイリゼとイストワールとじゃ、少しだけ違うように思っている…ような、気もする。例えばそれは、イストワールの見た目が姉らしさからかけ離れてるから…とか、イストワール自身も言ったように、信次元のイストワールより馴染み深い神次元のイストワールは姉じゃないから…とか、理由は色々あると思うけど、何となく距離があって…でもそれを見透かした上で、自分はいつでも力になる、姉として待っているとイストワールは言ってくれた。…そんなの、嬉しいに決まってる。幸せに、決まってる。
だけど、やっぱりまだちょっと、自然に妹として振る舞う事は出来なくて…つい、ふざけてしまった。しかもその結果、まあまあ強めに抗議をされた。うーん…ほんと難しいわね、家族って。
「こほん。少し話が逸れてしまいましたが、何かあれば頼りにして下さいね?姉としても、貴女もよく知る『イストワール』としても、出来る事があればお手伝いします( ̄∀ ̄)」
「心強いわ。じゃあ…また何かあれば、今日みたいに宜しくね?」
姉として頼るのは難しくても、そういう前置きを抜きにすれば、頼れるし、実際頼りになる。だから今は、変に重く考えなくても良いわよねと思って、宜しくと返した。そうしてわたし達は通話を終え…送ってもらったデータを活用しながら、保留にしていた仕事を片付ける。
「よし、終わりっと。んーっ…」
背もたれに深く身体を預けながら、伸びをする。凄く大変だった、って訳じゃないけど、それなりに疲労はした。というか、普段は姉として余裕ある立ち回りをイリゼに見せているつもりだけど、実のところ私も国営の経験なんて神生オデッセフィアをイリゼと一緒に建国するまでは殆どなかったし、結構手探りなのが実情。…そういうとこも、イストワールに色々頼ろうかしら…妹に見栄張る為に姉を頼るっていうのも、色々どうかと思うけど……。
(…っと、いけないいけない。危うく遅くなるところだった…)
少しの間ぼーっとしていたわたしは、ふと時計を見て、自分で思っていたよりも仕事に時間がかかってしまっていた事に気付く。これはいけない、と立ち上がり、自分の執務室から出る。
向かう先は、外。とはいえ、別に明確な目的地がある訳じゃない。強いて言えば、出る事そのものが目的。
「あら?貴方は……」
「ああ、これはレジストハート様。先日の式典の際のご出席、誠にありがとうございます」
「ふふ、実力ある企業が神生オデッセフィアに進出してくれるのは、わたし達としてもありがたい事だもの。式典の参加位は、喜んでさせてもらうわ」
「そう言って頂けると助かります。しかしあの時のお言葉は、正に感激の一言でした…レジストハート様が、あそこまで熱意を持ってお話し下さるとは…」
「貴方達から熱意を感じたんだもの、ならそれに応えるのが女神ってものよ。それに貴方達の社長から滲み出る情熱は、今思い出しても心が震え沸き立つような……」
「レジストハート様?」
「あ…こ、こほん。ともかく、神生オデッセフィアでも経営が軌道に乗る事を期待しているわ」
暫し飛んだところで、目に留まったのは先日神生オデッセフィアに進出してきた企業の広報部長。式典というのは、その進出記念のもので、あの時の事はよく覚えている。特に社長は一見落ち着いているようだけど、実際には凄く熱意のある人で…やっぱり内に熱いものを秘めている人って良いわよねっ。ほんと、素敵よねっ!
…と、少し会話を交わした後、彼と別れる。またさっきまでの高度に戻って、わたしに気付いた人には挨拶したり手を振り返したりしながら、街中を回る。
それ自体が、今の目的。守護女神が長期的に不在になるという、神生オデッセフィアにとって初めての状況でも皆が不安にならないよう、わたしがいるんだ…って事をアピールする為に、わたしは定期的に外に出ている。…まぁ、不在ってだけで不安がる程、国民の皆が小心者だとは思わないけど…何事も初めての時は、念には念を入れておいた方が良いものよね。
(イリゼは今、何してるのかしら。少しは何か見つけられたのかしら…)
飛びながら、遠く離れたイリゼに思いを馳せる。上手くいっているだろうか…とか、一緒に向かった皆は大丈夫かしらとか、分からないからこそ色々気になる。リアルタイムでなくとも、連絡を取れる手段があれば、ずっと違うんだけど…ないものねだりをしたって仕方がない。まだ見ぬ場所を調べに行くなら、それは我慢しなきゃいけない話。
ただ、物理的には隔絶されてる別次元との連絡手段はあるのに、物理的に繋がっている同じ次元内で連絡を取り合えないっていうのも中々に奇妙な事だと思う。勿論別次元と連絡を取り合えるのは、それが出来る環境や状況があるからではあるんだけど、それを含めても世の中というのは不思議な……
「…う、ん?」
そう思っている中、わたしの頭上…わたしよりも上の高度を、何かが高速で駆け抜けていった。
初めは気のせいかと思った。でも、違う。駆け抜けていったと思う先に目を凝らせば…確かにそこに、何かが飛んでいる。
(…鳥やモンスター、ではないわよね…)
あっという間に駆け抜けていった上、すぐに目で追った訳じゃないから、もうその何かとはかなりの距離が開いていて、そのせいかよく見えない。けど、確かに何かいる。まだ、目で捉えられている。
一瞬だけ考えるわたし。そしてわたしは、自分の感覚に従い…その存在の追跡を開始。
「全く、神生オデッセフィアの空を…それも守護女神が不在の中を堂々と侵犯なんて、舐めた真似をしてくれるじゃない」
元から空に身を隠す場所なんてないんだから、とわたしは真っ直ぐに、どんどんとスピードを出して追う。女神がその気になれば、追い付く事は容易…かと思いきや、向こうもかなりの速度なようで、少しずつ距離は縮んでいくけど、まだ相当相手とは離れている。
追跡の最中、連絡は入ってこない。という事はつまり、相手はこっちの監視網に気付かれていない…って事になる。気付かれないような存在なのか、こっちの監視網がまだ未熟だって事なのかは分からないけど、気を引き締めるに越した事はない。
(…って、何かしらこの感覚…誘導されている…?)
初めこそ順調に距離を詰めていたわたし。でも、暫くしたところでその距離が縮まらなくなる。スピードを上げれば向こうも加速するし、速度を緩めれば向こうも加速を止める。少なくとも、わたしの存在に気付いているのは間違いなくて…ならば何故?と疑念が浮かぶ。そうする理由の一つとして、わたしをどこかへ誘っているんじゃないかという思考が出てくる。
でも、だとしても、わたしの行動は変わらない。あれを放置するのは間違っていると、わたしの直感が断言しているのだから。
「……!」
そうして更に追跡を続けていると、ある時不意に何かが止まる。それを受け、わたしもブレーキを掛ける。まだ臨戦態勢は取らず、あくまで警戒に留めて…改めて、相手を見やる。そして…自分の目を疑う。
今、わたしの目の前にいる存在。わたしはそれが、何かよく分からなかった。確かにそこにいるのに、距離的にはどう考えてもはっきり見える筈なのに、ぼんやりとしか認識出来ない。陽炎…或いはモザイクでも掛かっているようにしか見えなくて……人型の何か、今はそう形容する他ない。
「…まるでどこぞの《ファントム》ね。一応訊くけど、何者かしら?その見た目は元からなのか…それとも、正体を知られたくない理由があるとでも?」
見るからに只者ではない『何か』に対し、わたしは二つ尋ねる。答えが返ってくる事なんて期待してなかったけど、だからって訊かない訳にもいかない。そう思いながらわたしは訊き…返ってきたのは、戦闘の構え。何も言わず、問いにも答えず…ただ、わたしに向けて構えを見せる。
でも、仕掛けてくる様子はない。戦闘の意思は感じられるけど、そのまま何かはわたしの反応を待っている。
「…知りたいなら、力尽くで口を割らせてみろ、って事かしら?…そっちがその気なら…うちの領空侵犯の件も含めて、身体に訊かせてもらうとするわッ!」
念の為、ともう一度問いをぶつけてみるけど、やっぱり反応はない。ただ訊いても答えない、答える気がないというのは間違いない。だからわたしは二振りの得物を構え、はっきりしない『何か』を見据え…お望み通り、こちらから仕掛ける。
捻りを加えての、左剣での一撃。袈裟懸けに近い軌道で放った斬撃に対し、『何か』は手にした武器…らしきものを掲げ、受け止める。一瞬武器同士が激突し、すぐにわたしは弾かれる。ならばとわたしは即座に右剣での二撃目を打ち込み、再び『何か』と斬り結ぶ。
「悪いけど、手加減なんてしないし…させないわよッ!」
ぶつかり合った状態から腕のプロセッサに装填した圧縮シェアエナジーを解放し、その勢いで押し切る。無理せず後退する『何か』に対し、振り抜いた軌道から修正する形での刺突を放つ。突進しながら三撃目を押し込む。
それも『何か』は防ぎ弾く。わたしは二本の剣による連続攻撃を仕掛けていき、『何か』は巧みな武器の扱いと体捌きで尽く凌いでいく。そして、わたしが攻撃はしてこないのか、防ぐだけか、と思った次の瞬間に、防御から切り返す形で『何か』は武器を振るってきた。
反射的に、交差させた連結剣で受ける。防御自体は問題なく出来たけど、その一撃は重い。重いし、防がれたと見るや否や、すぐさま『何か』は次の動きに移る。
(棍や槍…じゃ、ないわね。持ち方からして、恐らく刀剣…くっ、にしても武器が見辛い…不可視じゃないだけ、某騎士王よりはましでしょうけど、もッ!)
武器の角度はそのままに、若干手首を捻って武器を押し付ける、防御の上から押し込むような形を取った『何か』。その押し込みでわたしの姿勢を崩し、連続攻撃を仕掛けてくる。
刺突、斬り上げ、その流れからの回転斬り。わたしは刺突を半身となる事で躱し、斬り上げは横に飛んで避ける。その先を塞ぐような回転斬りは、右剣を逆手持ちに切り替えながら刀身で受け、がら空きとなった胴に左剣を叩き込む。
「……っ…」
両手で振るわれる攻撃を片手で受けるのは難しいもの。ましてや相手が女神と正面から斬り結べるだけの力を持っているとなれば、片手で正面から受けるのは出来る限り避けなきゃいけない。少なくとも、押し切られる、或いは腕に大きな負荷を喰らうリスクを負うのに見合うだけのものがなくちゃ、片手防御は割に合わない。そして、そんな防御をしたのは…ここが攻め時だと、感じだから。
振り抜いた左剣は、『何か』が下がった事で僅かに届かず空を切る。『何か』を掠めるだけに留まる。惜しい、勿体無い……けど、まだ仕掛けられる。
「逃がさない…ッ!」
さっきの意趣返しとばかりに、下がる『何か』へわたしも右剣で回転斬りを放つ。でも今の右剣は逆手持ち。その状態で回転する事により、回転斬りは峰の側から刺突を打ち込む形になる。偶然?いいえ、狙っての事よ…ッ!
(更に攻め込む…向こうにペースなんか整えさせない…ッ!)
ギリギリなところで刺突は振り上げられた武器に弾かれる。けど弾かれた勢いを利用し、強引に逆回転に切り替えたわたしは、元に戻るようにしながら腕を振る。無理矢理な再回転の中じゃ上手く左剣を振るえない…そう判断し、首へ向けてラリアットを仕掛ける。身を屈める事でそれを躱されれば、二本の剣で同時攻撃…と見せかけて、防御姿勢を取った一瞬で二本の剣を大剣状態へと連結させる。長大な剣となった連結剣を、防御に向けて叩き付ける。
ここまでは、恐らくリーチと一撃の重さに勝る向こうに対して、多数で勝る双剣状態で攻め立てていた。そこから大剣状態に切り替えた理由は簡単。ここまでの攻防で相手が相当な手練れだと分かった以上、出し惜しみなんて出来ない。状況状態に応じてスタイルを自在に切り替えていく…そんなわたしの戦い方を十全に発揮しなきゃ、この相手には勝てない。
「……っ!」
「まだ、まだぁ!」
互いに大振りの斬撃を放ち、ぶつけ合う。お互い打ち込み、ぶつかり合って弾かれ合う。そうしながら、踏み込むチャンスを伺う。傍から見れば、大振りなんだからチャンスは幾らでもあるように思えるだろうけど…違う。わたしは勿論、多分向こうも余裕を残したまま振っているから、安易に踏み込めば、その瞬間武器ではなく殴打や蹴撃でのカウンターを喰らうのがオチ。だから何度も打ち合って…幾度目かの弾き合いの直後、向こうが動く。
わたしの武器も向こうの武器も完全に弾かれた瞬間での、サマーソルトキック。爪先がギリギリで当たるような、間合いが開いた状態での鋭い蹴り上げ。
対するわたしは、回避を選択。けど、ただ避ける訳じゃない。力を抜き、蹴りを引き付けながらその場で後方宙返りをかける。わたしも『何か』と同じように回転をし…タイミングを噛み合わせる事で、回転のみで蹴撃を躱す。
(そして、ここから…ッ!)
回りながら、連結剣を組み替える。大剣状態から双刃刀状態へと移行し、後方宙返りの頂点で更に横回転。『何か』の方を向きながら双刃刀状態の連結剣を振り……でも、躱される。わたしの回避に対するお返しだとばかりに、サマーソルトキックから大きな後方宙返りへ移る事で、一気に斬撃の届かない距離まで離れていく。これは、わたしも想定外で…だけどまだ、わたしの攻撃は終わっていない。
「言ったでしょう?逃がさないってッ!」
肩、肘、手首、それぞれの関節のスナップを効かせて、双刃刀を投げ放つ。横回転と共に剣は飛び、弧を描きながら『何か』を襲う。風を切り、空を斬りながら連結剣は飛び…後一歩のところで、『何か』は躱す。…やっぱり、強い。パワーやスピードもそうだけど、反応速度が飛び抜けている。
だからこそ、これはただの投擲じゃない。一度は躱された連結剣だけど、狙い通りにそのまま弧を描いて戻ってくる。それを視界の端に捉えながら、わたしは『何か』の反撃を躱す。回避に専念し、横や後ろに細かく避ける事で、躱しながら戻ってくる連結剣の軌道上へと『何か』を誘導する。わたしには見える、けど『何か』には見えない…即ち連結剣が『何か』の背後を取る位置取りを作り上げ、振り下ろされる斬撃は武器ではなく腕の辺りを突き出した両前腕で受け止める事によって、しっかりと受ける。直後にわたしは後方へと大きく飛ぶ。離れたわたしを『何か』が追おうとするのと、連結剣が背後から『何か』を襲うのが、ぴったり合うようなタイミングで以って、わたしは『下がる』という形で仕掛ける。そしてわたしが下がる中、双刃刀状態の連結剣は『何か』に迫り……
(……っ、笑った…?)
一瞬、わたしはそう思った。表情は本当に分からない。表情どころか、顔付き自体が今の状態じゃまるで見えない。けれど何故か、笑ったような気がして…直後、『何か』は振り向く。振り向きながら、武器を振るい…真正面から、一瞬前まで背後にあった連結剣を狙う。
迷いのない、逆袈裟の一撃。これはどう見ても、咄嗟の反応じゃない。どこまで読まれていたかは分からないけど、わたしが誘導をしていた事、後方から攻撃がくる事を、『何か』は把握していたようにしか見えない。
本当にこれは予想外。ここまでしっかり対応されるのは想定外。一瞬の動きに、わたしは思わず舌を巻き…でも、焦る事はなかった。想定外ではあったけど、最悪の展開には程遠かった。だって──対応される事自体は、最初から見据えていたんだもの。
「……っ!?」
「貰ッ、たぁああああああぁッ!」
顔は分からなくても、微かな身体の反応で分かる、驚きの気配。『何か』はきっと、ブーメランの如く戻ってきた連結剣を、弾き飛ばすつもりだったんだと思う。跳ね飛ばす想定をしていたと思う。…けど、そうはならなかった。双刃刀状態の連結剣は、『何か』の迎撃を受けた瞬間、あっさりと連結が解けて左右に吹っ飛んでいった。『何か』の目の前で、二つに弾けた。
迎撃の力が強かったから?…いいや、違う。これは、わたしが狙った事。対応される前提で、きっと対応してくると踏んで、わざと連結を甘めにしておいた。強い衝撃を受ければ、簡単に外れてしまう程度にしておいた。そしてそれが、簡単に分離し二つに分かれたその事実が、目論見通り『何か』の意表を突き…わたしはその隙に、その一瞬を突いて、全力で肉薄する。肉薄し、振り返る『何か』に向けて、突進の勢いを全て乗せた飛び膝蹴りを叩き込む。
「……っ、ぅ…!」
「……やるじゃない」
脚に感じる、確かな感覚。この一撃は、躱される事はなかった。でも、直撃ともいかなかった。当たる瞬間、正にその寸前も寸前のタイミングで、『何か』は武器を手放し、両手を重ね、その掌でわたしの蹴りを受け止めていた。
勿論、完全に塞がれた訳じゃない。それは辛うじて防御が間に合っただけで、防御の為の体勢なんてあったものじゃない。武器も落としているし、直撃よりは遥かに辛いだろうけど、受け止めた両手にはそこそこの衝撃が、ダメージが入っている筈。少なくとも、最善の選択としての防御ではなく、その瞬間に出来る苦肉の策としての防御だったのは間違いない。
それでも、『何か』はほぼ確実に直撃するだろうという状態から、ダメージを大きく軽減した。咄嗟の判断としては十分過ぎるものを的確に選び、それを迫る蹴りに対して間に合わせていた。…受け止められたのは、悔しいけど…敵ながら天晴れとしか、言いようがない。
「圧縮シェアエナジー解放で加速した蹴りは効くでしょ?少し前に似たような事が出来る人と交流が出来たから、その人のを参考に少し調整してみたのよ?…まあ、そっちからすればどうでもいい話でしょうけど」
「…………」
「…ふぅ、ほんとにつれないわね。少し詰まらないわ」
戦闘中に相手と話す趣味がある訳じゃないけど、こうまで一貫して無言だと味気ない。全く、これじゃあまるで某ロボット大戦の人工知能ね。というか、電子音がない分もっと味気ないかも?
「…さて。それはそうと、お互い今は武器が手元にない状態ね。ここはフェアに、一度取りに行ってから勝負を再開する?それともこのまま殴り合う?わたしはどっちでも構わないわよ?」
さっきの飛び膝蹴りの衝撃で『何か』は少し後退していて、わたし達の間には多少の距離がある。その状態で、どうせ反応なんてないだろうけど…と思いながら、今一度問う。
そして案の定、『何か』は無言。全く以って、一言足りとも言葉を発さず……
「……へっ?あ、ちょっ…えぇ!?」
反転した。わたしに背を向け、速攻で距離を取り始めた…というか、逃げ始めた。
あまりに唐突過ぎる、あんまりにも意外過ぎるその急展開に、ついシンプルにびっくりしてしまうわたし。どういう事!?と逃げていく『何か』の背をその場で見つめて…数秒してから、「あ、不味い!何普通に見送ってるのよわたし!」…と心の中で自分に突っ込みながら、慌てて『何か』を追い掛ける。
「(不利を悟っての撤退?けど、まだ余力を残している感じよね…?それにそもそも、向こうは何が目的だったって言うの?少なくとも、わたしを誘っていたのは間違いないの──)んな…ッ!?」
逃がすものか、と圧縮シェアエナジーを解放し、推力に変えて後を追う。まだ振り切られてはいない。今度は全力で離脱しようとしているみたいだけど、追い付ける可能性はある。そう思い、わたしは立て続けに加速を掛ける。
ただ、それがいけなかった。対応が遅れた分、わたしは焦ってしまっていた。そしてそのミスを突くかの如く、加速するわたしへ対し『何か』は振り向く。突如振り向き、複数の遠距離攻撃をわたしへ放つ。結果、わたしは『何か』からの攻撃に、自ら突っ込む形となり…反射的に、両腕を突き出した。突き出し、プロセッサ手甲部の圧縮シェアエナジーを解放し、それが爆ぜる力を用いて遠距離攻撃の迎撃を測った。
その迎撃自体は成功。刃に見える遠距離攻撃と解放された圧縮シェアエナジーはぶつかり合い、相殺される。けどそれにより『何か』の攻撃も爆ぜ、二つの爆発の衝撃を受けたわたしはその場から大きく吹き飛んでしまう。
(くっ、さっきのお返しとでも言うつもり…!?)
ダメージはほぼないものの、姿勢を崩してわたしは落下した。地面に激突する前に立て直して、尚且つ追撃に備えて立て直した位置から飛び退きもしたけど、『何か』からの次なる攻撃はない。それどころか、『何か』の姿自体がもうなく……まんまと、逃げられてしまった。
「…結局、なんだったの…?なんだったって言うのよ…」
ぐるりと見回し、やっぱりもう逃げられたんだと理解したわたしは、誰も聞いていない空で呟く。
本当に、何も分からなかった。誰なのかも、何を目的にしていたのかも、何故戦闘に持ち込んだのかも、どうしてその戦闘を途中で止めて逃げたのかも…何一つとして、分からず終い。身体は勿論、武器もよく分からなかったし、最後の遠隔攻撃も瞬時の対応を強いられた関係でちゃんとは見えなかったし…これといった怪我はないとはいえ、何とも後味の悪い形で終わる事となってしまった。
でも…これだけは言える。なんだったのかは分からないけど…正体不明の何かが今、信次元にいる。たったそれだけではあるけど…ただそれだけでも、それが分かっただけでも、大きな意味はある。
*
「よぅ、お疲れさん。…と、言いたいところだが…なんで途中で止めちまったんだよ、詰まんねーな。面白くなるのはここからだろ?」
「そうね、面白くなるとしたらあそこからよ。けど、今回の目的は最後まで戦う事じゃないわ。だからあれで十分だわ」
「けっ、理由もやっぱり詰まんねーなぁ。…んで、力試しをしてきた結果としちゃどうなんだよ」
「強かったわ。でも、想定内ね。強いけど、単に強いだけなら問題ないわ。それに…安心したわ」
「安心?」
「ええ。今の自分の力がどれ程のものかっていうのは…試す相手がいなきゃ、分からないものでしょう?」
*
お姉ちゃんは今、頑張っている。博覧会を成功させる為に、毎日色んな事をしたり、色んなところに出向いたりして、準備を進めている。戦闘以外でこんなに頑張っているお姉ちゃんを見るのは、初めて…かもしれない。
そんなお姉ちゃんの為に、わたしが出来る事は何か。多分、沢山あると思うけど…一番はやっぱり、頑張ってるお姉ちゃんの負担が少しでも減る事なんじゃないかな、と思う。
「やぁぁぁぁっ!よっ、ほっ…てぇいッ!」
空からの急降下、その勢いを乗せた斬撃を叩き込む。斬り裂いた直後にバックステップとサイドステップを細かく行い、着地したわたしを狙う攻撃を躱す。更に襲い掛かってきた、わたしが数瞬前にいた位置へ飛び掛かった個体を、横一閃の攻撃で仕留める。
「後は、これで…ッ!」
今度は大きく、跳躍と飛行を合わせたバックステップで跳んで距離を取りながら、M.P.B.Lのトリガーを引いて光弾を連射。ばら撒くように撃つ事でダメージを与えつつ足を止めさせ、そこから照射に切り替える。着地と同時に薙ぎ払い、残る個体をビームで全て撃破する。
目標にしていた相手、モンスターの完全撃破を確認して、ふぅ…と一つ息を吐くわたし。これで、ギルドから回ってきたクエストは完了。後は教会に戻って…あ、でもまだ時間はあるし、直接ギルドに行って報告しようかな。ここのところビーシャさんとも会ってなかったし。
(やっぱり、一人で戦うのも色々と学びがあるなぁ)
M.P.B.Lを降ろしたわたしは、今回の戦いを振り返る。討伐対象だったモンスターは、数はそこそこだけど個々は大した事なかった。勿論、普通の人にとっては凄く強くて危険なモンスターだと思うけど、今のわたしにとっては群れが相手でも脅威じゃない。…なんて考えるのは、ちょっと調子に乗り過ぎかな?
…でも、そんな相手でも、戦う中での学びはある。仲間と連携して戦うのも大事だし、連携の取れた戦い方は、一人一人の実力以上の強さを作り出せるものだけど、連携する、複数人で戦う中では見えてこないもの…一人で全部やらなきゃいけない戦いだからこそ気付けるものも、沢山ある。
「ビーシャさん、いるといいなぁ…念の為、ギルドには途中で一回連絡してから……って、あれ?」
街に戻る為に、軽く地面を蹴って飛び上がる。途中で連絡を、と考えながら、わたしはこの場を立ち去ろうとして…でもそのタイミングで、近くの森林に見覚えのある人の姿を発見した。
「もしかして…大きいお姉ちゃん?」
「そのチャーミングだけどちょっぴり凛々しさもある声は…ネプギア?」
声を掛け、そっちに向かうと、そこにいたのはやっぱり大きいお姉ちゃんだった。お姉ちゃんだけど、お姉ちゃんじゃない…女神じゃないし、わたしより色々大きい、別次元のお姉ちゃんが、森林にいた。
何かちょっと恥ずかしくなる反応と共に、気付いたお姉ちゃんもわたしの方に来てくれる。その手には、封印とそれを利用した収納機能がある本、ねぷのーとがあって……
「…ひょっとして、虫取りの最中でした?」
「虫取りっていうか、探検かな。信次元に来て暫く経つけど、まだまだ知らない場所、行った事のない所は沢山あるからね」
そう言って、大きいお姉ちゃんは今日の探検の事を話してくれる。わたしはそれを、女神化を解いて聞く。
色々あって今は信次元に滞在してる大きいお姉ちゃんが、色んなところへ行っているのは知っていた。次元の冒険家を名乗っていただけあって、大きいお姉ちゃんはほんとに冒険、探検が好きっていうか、なんならそれが日常な感じで…まあ、普通にお姉ちゃんと一日中ゲームしてたりした事も普通にあるんだけど。
「ネプギアはどうしたの?女神化してたって事は、ひょっとしてクエスト?」
「はい。丁度終わって、帰るところだったんです」
「そっか。ネプギアは働き者だね、偉いっ!」
「えへへ…ここのところ、お姉ちゃんは色々頑張ってますから。わたしもそのお手伝いが出来たらな…って」
にこっと笑って褒めてくれる、大きいお姉ちゃん。その顔は、別次元の同一人物なんだから当然だけど、本当にお姉ちゃんそっくりで、嬉しさが湧き上がってくる。
だけど、今は少し違う。今本当に頑張っているのはお姉ちゃんで、わたしはそれを手伝っているだけ。お姉ちゃんの負担を少しでも減らせるよう、わたしでも担える仕事をしているだけ。それを大きいお姉ちゃんに伝えると、大きいお姉ちゃんは目を丸くして…それからわたしの頭を撫でる。
「…大きいお姉ちゃん?」
「うん、やっぱりネプギアは偉いよ。だってネプギアは、お姉ちゃんじゃなくてちっちゃいわたしの『妹』でしょ?姉妹は支え合うものだと思うけど、それでも妹のネプギアが、『姉』のちっちゃいわたしを自分から助けてあげようってするのは偉いと思うし…えっと、博覧会だっけ?それはちっちゃいわたしが、言ってみれば自分がやりたくて進めてる事だよね?元々はやらなきゃいけない訳じゃなかった事をやってるだけなのに、その為に頑張ってる姉を助けようってするのは、本当に偉いし凄いよ。…少なくとも、プラネタワーに住まわせてもらってるのに自由な事ばっかりしてるわたしよりは、ずーっと…ね」
ゆっくりとわたしの頭を撫でながら、大きいお姉ちゃんは言う。優しい目で、優しい声で、わたしを偉いと、凄いと言ってくれる。そんな事ない、わたしよりお姉ちゃんの方が偉いし凄いと思うけど、思ったけど…そんなわたしの心にも、大きいお姉ちゃんの言葉はすっと入ってくる。
褒められたかった訳じゃない。ちょっとでもお姉ちゃんの力になれるなら、それだけでも嬉しい。わたしは心からそう思っていて…それでも大きいお姉ちゃんの言葉は、とっても…とっても嬉しかった。大きいお姉ちゃんにそう言ってもらえるのは、誇らしかった。
それからお姉ちゃんは、自嘲気味に笑う。笑って、肩を竦めて、その後に手を離す。
「…よし、決めた!」
「決めた…?」
「わたしもちっちゃいわたしと、ネプギアの事を手伝うよ!別次元とはいえ、自分の妹であるネプギアがこんなしっかりした姿を見せてくれたんだもん、わたしも何かしなきゃネプ族の名が廃るってものだよ!」
「ね、ネプ族?そんなのあるの…?」
「あるよ、多分!わたしやネプギア、ちっちゃいわたしにミラテューヌ、別次元…じゃなくて別世界?のわたしに…後は深海の戦士さんとか、お笑いトリオさんとか、後はネプチューンオオカブトとかかなっ!」
謎のグループに言及した事はともかくとして、大きいお姉ちゃんはやる気満々。一人でえいえいおー、ってやってる様子も、やっぱりお姉ちゃんだなぁって感じで…その大きいお姉ちゃんが力になってくれるなら、心強い。
「まあ、ただの一般人なわたしに何が出来るのさ、って話でもあるけどね。けど、それこそネプギアが今日やってたみたいなクエスト程度なら出来ると思うから、手伝える事があったら言ってね?……あ…えと、もし今日ネプギアがやってたのが、女神でも全力を出さなきゃこなせない位厳しいものだったなら、流石に無理かもしれないけど…」
「あはは、そこまでのものじゃなかったですから大丈夫ですよ。…じゃあ、お姉ちゃんやいーすんさんにもそれは伝えるとして…何か頼める事があれば、頼んでもいいですか?」
「もっちろん!あーでもそれは明日からね!今日はまだ、行ってみたいところがあるからさ!」
胸を叩く大きいお姉ちゃんに、わたしは小さく笑う。大きいお姉ちゃんを頼る事に、躊躇いはない。確かにわたしは女神で、大きいお姉ちゃんは人間だけど…だとしても、仲間だから。大きいお姉ちゃんはわたしへ本物の妹みたいに優しくしてくれるし、わたしも大きいお姉ちゃんを、もう一人のお姉ちゃんみたいに思っているから。頼る事もまた力の一つ、強さの一つだって、わたしは知っているから。
それからお姉ちゃんは、「でも今日は探検優先!」と言う。そのぶれない感じに、わたしも更に笑う。そしてお姉ちゃんは、じゃあねと言って走り去っていき……
「…って、大きいお姉ちゃん!?そ、そっちは立入禁止区域ですよ!?」
「へ?…そうなの?」
「そうですよ!?え、知らなかったんですか!?」
……危うく協力を申し出てくれた大きいお姉ちゃんを、速攻で取り締まらなくちゃいけなくなるところだった。…最初の協力が任意同行とかになるとか、そんなの嫌過ぎる…。
「し、知らなかった…あっちってそういう所だったんた…」
「そういう所だから、クエストを受けた人がうっかり禁止区域に入ったりしちゃう危険を避ける為に、今回のクエストはわたしがやった…っていうか、ギルドから教会に依頼が回ってきたんです…。…他にも禁止の場所はありますから、覚えておいて下さいね…?」
「…因みに入っちゃったらどうなるの…?」
「許可なしで入ったら…流石に大きいお姉ちゃんでも、笑って許す事は出来なくなっちゃいます…」
幾ら大きいお姉ちゃんでも、駄目なものは駄目。それを伝えると、大きいお姉ちゃんは乾いた笑い声を漏らしながら、しっかりと頷いてくれた。…一応、ある程度の間隔で立入禁止区域である事を示す看板は設置してあるんですよ?禁止区域を完全に囲える、且つモンスターが壊そうとしても簡単には壊れず、短いスパンでの修理や点検も必要としない壁や柵を作ろうとすると、物凄いお金や時間が掛かっちゃって、設置した場合のメリットや効果を考慮してもあまり現実的じゃないから、看板だけに留まってるのが実情ですけど…。
そんなこんなで大きいお姉ちゃんと生活圏外で会話をした後、わたしは別れて街に戻る。連絡して、ギルドに寄って、報告のついでにちょっとビーシャさんと話して…教会に帰還。
「あら、ネプギア出掛けてたの?」
「あ、お姉ちゃん…そっか、今日はお姉ちゃんも朝から出掛けてたもんね」
プラネタワーの敷地内に降下しようとしたところで、上空から掛けられた声。見上げるように振り返れば、そこにいたのは綺麗で艶やかな紫の髪を二つの三つ編みにしてる、澄んだ感じの青色の瞳をこっちに向けている、黒を基調に紫をあしらった…露出してる胸元や太腿以外はぴったりとした、その上でお腹周りや腋の周辺は明るい紫のシースルー仕様となったプロセッサを纏う、プラネテューヌの守護女神。人間じゃない、女神のお姉ちゃん。
…改めて見ると、同じ『大人っぽい外見をしたお姉ちゃん』でも、女神の姿のお姉ちゃんと、大きいお姉ちゃんは全然違うなぁ。お姉ちゃんは本当にお姉ちゃん…というか大人っぽい、綺麗とか華麗って言葉が似合う感じで、逆に大きいお姉ちゃんは大人っぽさもあるけどそうじゃない感じも強い、明るさや快活さが溢れ出てる感じがあって…やっぱりどっちも、素敵だなぁ…。
「…ネプギア?その、突然無言で見つめられると、相手が妹だとしても恥ずかしいわ……」
「うわっ、ご、ごめんねお姉ちゃん!大丈夫、良い感じの事だから!」
「えぇ……?」
我に返ったわたしは慌てて言葉を返した…けど、慌ててたものだから、変な感じになってしまった。余計にお姉ちゃんを困惑させてしまった。
という訳で反省し、謝罪。お姉ちゃんは肩を竦めながらも許してくれて、わたし達は揃って着地。女神化を解いて、プラネタワーの中に入る。
「はふぅ、今日も疲れたなぁ…ネプギアはどこ行ってたの?」
「クエストだよ。取り敢えず教会に回ってきたクエストは全部片付いてるし、今後もわたし…それに大きいお姉ちゃんで何とかしようと思うから、安心してね」
「おっきいわたし?それに、今後って……」
怪訝な顔をするお姉ちゃんに、わたしは自分が思ってる事と、大きいお姉ちゃんが手を貸してくれるって事を伝える。その間、お姉ちゃんは黙って聞いていて…聞き終わると、頭を掻きながら軽く笑った。
「そっかぁ…ありがとね、ネプギア。やっぱりネプギアは頼りになるし、気が利くなぁ」
「ふふっ、わたしはお姉ちゃんの妹で、プラネテューヌの女神候補生でもあるからねっ」
「うんうん、流石はわたしの妹!…けど、そっか…ネプギアもおっきいわたしも思ってくれてるんだから、ほんと最高の博覧会にしないとだよね」
こくん、と自分に言い聞かせるようにして頷くお姉ちゃん。その反応は、わたしが思っていたのとは少し違って…ちょっぴり不安になったわたしは、言う。
「…お姉ちゃん、もしかしてわたしの行動、お姉ちゃんのプレッシャーになっちゃってる…?」
「へ?あ…そんな事はないよ、ネプギア!大丈夫大丈夫、ほんと助かるって思ってるし、全然そんな事ないから!」
「ほんと?それなら良いけど…無理はしないでね?」
「分かってるって。んもう、皆わたしを心配し過ぎだよ。そりゃ、これまでのわたしの事を思えば、そうしたくなる気持ちも分かるけど…わたしはやる気に満ち溢れてるんだから!今日だって一日、準備の為にばっちり回ってきたんだからね!博覧会の準備は順調も順調!これなら完璧な状態でプレオープンを迎える事も出来るってものだよ、多分!」
言葉と共にガッツポーズを取るお姉ちゃんの姿には、確かに気負ってるとか、無理してるような感じはない。けどやっぱり、不安になる部分はある訳で…そんなお姉ちゃんにどうしたらいいか、何をしてあげられるのか…それは、考えるまでもない。
(やっぱり、支える事だよね。直接的でも、間接的でも)
お姉ちゃんは凄い女神だけど、完璧な女神じゃない。きっとどんな女神だってそうで、そしてそれは悪い事じゃない…と、思う。
だからわたしは、今日みたいにお姉ちゃんの負担を減らしたり、仕事以外の時はいつも通りお喋りをする事でリラックス出来るようにしたり、わたしなりに出来る事をしようと思う。お姉ちゃんをよく見て、足りてなさそうな事に気付ければ、それもやりたいと思う。まだまだ女神として未熟なわたしだけど、そんなわたしにも出来る事は沢山あるんだから、それをやって、大きいお姉ちゃんやいーすんさんとも協力をして、色んな形で、色んな方向から、お姉ちゃんを支えていく。それがわたしの出来る事だから。それがわたしの、したい事だから。
今回のパロディ解説
・「…まるでどこぞの《ファントム》〜〜」
デート・ア・ライブに登場するキャラの一人…の仮称の事。だからと言って、今回出てきた存在が、プルルートの姿をしたりはしません。何故プルルートかといえば…えぇはい、声優ネタです。
・(〜〜不可視じゃないだけ、某騎士王よりまし〜〜)
Fateシリーズに登場するキャラの一人、アルトリア・ペンドラゴンの事。このネタで指しているのは、そのアルトリアの宝具の一つである、
・某ロボット大戦の人工知能
スーパーロボット大戦シリーズにおける、敵キャラの一つの事。因みに、こういう「喋らないキャラ」って書く上では色々と難しいんですよね。何せ会話シーンを作る事が出来ない訳ですから。
・「〜〜深海の戦士さん〜〜」
セーラームーンシリーズに登場するキャラの一人、セーラーネプチューンこと海王みちるの事。ネプテューヌ、ではなくネプチューンです。間違える方はいないと思いますが…。
・「〜〜お笑いトリオさん〜〜」
お笑いトリオ、ネプチューンの事。何なら冠番組である、ネプリーグの方をパロネタとして出しても良かったかもですね。番組名がネプ族の一つ?…という疑問はありますが。ネプ族という存在自体も謎ですが。