イズモ「ピースギアの空間圧縮技術と、紫から教わった虚数空間技術」
イズモ「舐めてもらったら困る」
その瞬間、スキマが展開され、ドーム全体を覆った。
空間そのものが折り畳まれ、外界との干渉が完全に遮断される。
イズモ「これで記憶操作はできないし、外部からの物理干渉も遮断される」
イズモ「正々堂々、条件は同じだ」
トレーシーが距離を詰める。
イズモは迷いなく銃を構え、引き金を引いた。
乾いた発砲音。
弾丸は確かに命中した。
だが、次の瞬間、損傷した肉体は波紋のように揺らぎ、即座に再生した。
撃ち抜いたはずの感触だけが、手に残る。
これが世界の終焉条件の一端かもしれない。
イズモは無言でさらに三発。
最後の一撃は頭部を正確に貫いた。
しかし、結果は同じだった。
傷はすべてなかったことのように塞がっていく。
イズモ「……やはりな」
次の瞬間、床と空間に複数の装置が展開される。
スタングレネード。
催眠ガス地雷。
眩い光が炸裂し、空気が一気に変質した。
視界を奪うだけでなく、触れれば切り裂かれそうな圧を伴っている。
さらにイズモは、粘着性の高い睡眠麻酔を混合した特殊スタングレネードを二つ投擲した。
効果は凄まじく、十秒以内に複数の対象を強制的に昏倒させる代物だ。
爆光と衝撃の後、トレーシーの動きが鈍り、意識が沈む。
イズモ「似たもの同士、か」
床一面に張り巡らされた罠が作動する。
極細の繊維を束ねたワイヤー編みの敷設物。
摩擦係数と粘性を極限まで計算した構造だ。
引き抜こうとすれば、別の罠が起動し、捕らえた対象に衝撃を叩き込む。
攻防は何度も繰り返された。
互いに倒れないまま、時間だけが削られていく。
疲労が、確実に双方を蝕んでいた。
イズモ「あんたも創造能力者だ」
イズモ「だが、俺には及ばない」
イズモ「あんたは異世界転移ができるかもしれない」
イズモ「だが、決定的に仲間が足りない」
一人で創造するしかない。
その限界は、いずれ必ず露呈する。
イズモは構えを取った。
幻想郷支部の技術と魔法体系、その集大成。
大出力魔力砲。
イズモ「どれだけ創造能力が強くても」
イズモ「仕組みを理解できなければ、創造はできない」
イズモ「終わりだ、トレーシー」
二発目のチャージが完了する。
魔力を全開放した一撃が放たれた瞬間、空間が裂けた。
まるでモーゼの奇跡のように、世界が割れ、光の回廊が現れる。
トレーシーは抵抗する間もなく吸い込まれ、亜空間へと消えた。
永遠に閉じた牢獄へ。
イズモ「……初めて対人戦で使ったが」
イズモ「大丈夫なんだろうな、これ」
そう呟き、深く息を吐いた。
異空間。
トレーシーは、何もない場所に立っていた。
上下左右の概念すら曖昧な空間。
トレーシー「なんだ、ここ」
通常の次元断層であれば、対惑星兵器すら突破できる。
だが、この異空間は違う。
あらゆる物理攻撃、エネルギー干渉、空間操作を無効化する。
実質的な無限牢獄。
トレーシー「なんで僕が、こんな目に……」
トレーシー「あの世って、案外こういう場所なのかもな」
イズモ「あいかわらず、テキトーな喋り方だな」
トレーシー「イズモなのか」
トレーシー「頼む、ここから出してくれ」
トレーシー「負けを認める」
トレーシー「記憶も全部戻す、だから」
不安を隠しきれない声だった。
イズモ「君には、ここで相応の罰を受けてもらう」
イズモ「記憶が失われる恐怖、そのものをな」
イズモ「もちろん、奪った記憶は返してもらう」
用意していたタイマーが起動する。
能力の詳細を解析し、記憶構造を確認。
不要な干渉が残らないよう、その場で解放処理を行った。
その後、トレーシーは別の空間へと移送された。
すべての記憶を取り戻した状態で、別世界へ送る準備が進められる。
亜空間にて。
イズモ「約束通り、君の記憶を預かる」
イズモ「百年後に返してあげよう」
イズモ「現実時間では一瞬だ」
イズモ「刑を執行されたあとも、恨み続けるといい」
イズモ「他人の記憶に干渉できる力」
イズモ「厄介な能力には、退場してもらうのがセオリーだ」
その後、トレーシーは百年分の記憶を保持したまま元の世界へ戻された。
だが、その百年より前の記憶と能力は、完全に抹消されていた。