イズモ「良かったって言いたいところだけど……第3新東京支部、壊滅してないか?」
カエデ「ほんと、最悪ね」
眼下には、かつて都市だった痕跡が広がっているだけだった。
地表は抉れ、建造物は原型を失い、生命の気配はほとんど感じられない。
イズモ「仕方ない。
とりあえず対ショック体制を解除しよう」
アリス艦船員「了解。
対ショック体制を解除します!」
艦内の緊張がわずかに緩む。
だが、誰一人として安心はしていなかった。
カエデ「まずは生き残りがいるか、支部に向かうわ」
イズモ「第3支部の状況はどうなってる?」
カエデは航法モニターを睨み、眉をひそめる。
カエデ「……待って。
この世界線座標、ヴィレがクデュックになる前よ」
イズモ「え?
なにそれ」
カエデ「ニアサードインパクトの後に、サードインパクトが起きた後の世界線ね」
イズモは短く息を吐いた。
最悪の歴史を辿った世界だと、即座に理解する。
イズモ「……なら、とりあえずヴィレ側にコンタクトを取ろう」
南極。
極寒の大地を進む反NERV組織ヴィレの旗艦ヴンダー。
ミサト「未知の艦が三隻、接近中よ」
リツコ「艦影照合不能。
不明艦ね」
アスカ「はぁ!?
なにそれ、意味わかんない!」
日向「三隻だと……?」
モニターには、異様な速度で迫る三つの光点が映し出されていた。
リツコ「NERVの艦と比べて、速度が数百倍。
このままだと接触まで三十分もないわ」
アスカ「じゃあ逃げればいいじゃない!」
日向「無理だ。
向こうの方が圧倒的に速い」
リツコ「ええ。
逃走は現実的じゃないわね」
ヴンダークルー「艦長!」
ミサト「なに?」
ヴンダークルー「通信です。
葛城ミサト艦長を名指ししています」
ミサトは一瞬だけ目を細めた。
敵意があるなら、警告なしで撃ってくる。
それがないということは。
ミサト「……わかったわ。
私が出る」
イズモ通信「初めまして。
パラレルワールド管理組織ピースギア所属。
アリス級ポータル艦アリス艦長、最上イズモです」
ミサト「……イズモ君?」
イズモ通信「ええ。
ミサトさん」
ブリッジの空気が一瞬、凍りつく。
イズモ通信「早速ですが、こちらはポータル艦の不具合で、この世界線に戻ってきました」
ミサト「ポータル艦?
どういうこと?」
イズモ通信「端的に言えば、自分はこの世界の人間じゃありません」
イズモ通信「ポータル修復までの間、共同戦線を組めませんか。
第3新東京支部のNERVも壊滅しているようなので」
ミサトは一拍置いて、頷いた。
ミサト「……わかったわ」
イズモ通信「ありがとうございます。
合流地点はヴンダー右舷艦尾でよろしいですか?」
ミサト「ええ、構わないわ」
イズモ通信「では、後ほど」
巨大なアリスがヴンダーに接近し、VTOLで静かに着艦する。
イズモ「アリス艦艦長、最上イズモです」
カエデ「同じく艦長のカエデよ」
ミサト「反NERV組織ヴィレ艦長、葛城ミサトよ」
アスカ「同じくヴィレ所属、式波・アスカ・ラングレー」
日向「同じくヴィレ所属、日向マコトだ」
イズモ「早速ですが、共同戦線について話をさせてください」
ミサト「ええ、いいわ」
イズモ「こちらの艦は、我々の世界の宇宙戦艦です」
イズモ「そして、自分たちの世界線と、この世界線の関係について説明します」
ミサト「聞かせて」
イズモ「我々の世界とこの世界は、同一であり、異なる」
イズモ「つまりパラレルワールドです」
アスカ「パラレルワールド?」
カエデ「そう。
地球の存在する宇宙には無数の世界線があって、その一つがこの世界よ」
イズモ「自分は別の世界線の地球から来ました」
シンジ「……パラレルワールド……」
イズモ「こうした世界線を管理しているのが、ピースギアです」
ミサト「それで、私たちヴィレは何をすればいいの?」
イズモ「共同戦線です。
NERVを壊滅させるもよし、講和条約を結ぶもよし」
ミサト「……了解」
イズモ「最終的には、ポータルを修復して本部へ報告。
この世界は調査の後、管理対象になります」
アスカ「それって、あたしたちが管理されるってこと?」
イズモ「いいえ。
世界規模の崩壊が起きない限り、我々はただの傍観者です」
アスカ「……なら、いいわ」
イズモ「では、我々の世界のNERVについて話します」
カエデ「私たちの世界でも、NERVはサードインパクトを起こして壊滅したわ」
カエデ「ただし、こちらと違って加持さんは生存している」
イズモ「その後、自分が帰還し、能力を得てヴィレはクデュックへ改名」
イズモ「銀河規模の組織に成長しましたが、ゼーレの介入で管理AIが暴走」
イズモ「AIを破壊、追放し、新体制としてピースギアが誕生しました」
アスカ「……分かったわ」
アスカ「ヴィレとして、あんたたちに協力する」
イズモ「よろしくお願いします」
ヴィレの面々は困惑していた。
だが、ヴンダーの数十倍はある巨大艦と、異質な二隻の随伴艦を前に、疑う余地はなかった。
この世界の技術体系では説明できない装備。
紛れもないオーパーツ。
やがて、US作戦で回収したシンジのサルベージが完了し、覚醒したとの報告が入る。
イズモが戻った後のシンジは、以前とはまるで別人のように落ち着いていた。
だが、イズモが残した告白メッセージが、彼の変化の理由を語っていた。
それを知った誰もが、もう驚かなかった。
そして静かに、その事実を受け入れた。