イズモ「早速行くか。座標は把握してる」
ポータル室でデータを入力し、例の世界線へ跳躍した。
転移した瞬間、前回とは明らかに違う重苦しさが全身を包む。
時間の流れそのものが歪んでいるような感覚だった。
バタフライエフェクトにより、既に別の世界線へ分岐している。
出現と同時に、叩きつけるような豪雨と横殴りの旋風が襲った。
雨は本来あり得ない角度で流れ、風は渦を巻きながら地表を削っている。
イズモ「異常気象か……?」
イズモ「レーダー反応、消失してるな」
視線の先、約五キロ前方。
山のように盛り上がった雨と風の壁が、不自然な方向へ引きずられていた。
一瞬で理解する。
原因は、トレーシーの存在だ。
進んだ先に、巨大なクレーターが現れた。
半径およそ五十メートル。
地面は規則正しい六角形の隆起で覆われ、人工物のような秩序を保っている。
無意味に積み上げたくなるほど、異様に整った形だった。
さらに奥。
エッフェル塔を思わせる高塔が、赤く染まった空の下にそびえ立っていた。
周囲は異常なL結界濃度。
空気そのものが重く、呼吸がわずかに鈍る。
イズモ「……やばいな、これ」
近づいた瞬間だった。
トレーシー「やっぱり来たようね」
外壁に備え付けられたタレットが一斉に展開し、包囲される。
だがイズモは迷わず爆破。
火花と破片を突き抜け、内部への侵入に成功した。
イズモ「さて、普通に戦えば」
イズモ「また、あんたに記憶を消される」
不敵な笑みを浮かべ、真正面から言い放つ。
トレーシー「逃げずについてきたことは褒めるよ」
トレーシー「さあ、ついてきなさい」
案内されたのは巡洋艦の最上部。
艦内で唯一、普段は立ち入れない特別区画。
決戦時には大統領が直々に指示を出す、司令塔でもある空間だった。
最上階の巨大なタワーは、威厳そのものだった。
その下層ドームには、スペースコロニーやスーパーコンピュータを連想させる装置群。
重力制御、演算核、空間歪曲装置。
その中心に、アルカディアと呼ばれるワープ装置が静かに浮かんでいた。
宇宙艦というより、巨大な建築物の内部に近い。
イズモ「この世界の技術水準にしては、完全にオーバーテクノロジーだな」
イズモ「ヴンダーが限界だった世界のはずだろ」
イズモ「……まあいい」
イズモ「目的は一つだ」
イズモ「あんたとの決着をつけに来た」
トレーシー「君と話したくて、ここへ呼んだんだよ」
トレーシー「そんなに構えるな」
トレーシー「アハハ」
トレーシー「創造使いかと思ったけど、少し違うみたいだね」
トレーシー「僕は僕の能力を使う」
トレーシー「あんたは自由にして構わない」
トレーシー「好きなタイミングで、この戦いを始めようじゃないか」
トレーシー「ハハハッ!」
トレーシー「さあ、これを聞いたなら記憶を失う準備はできただろ?」
トレーシー「じゃあ、いくよぉ!!」
言葉と同時に、空間が軋んだ。
目に見えない力が降り注ぎ、虚空から雷が落ちる。
爆風が連鎖し、床と壁が悲鳴を上げる。
世界そのものが、戦闘開始を告げていた。