常世総ての悪、悲劇の坩堝の主(時給980円)   作:sugar 9

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前回更新頻度上げるとか言っておいてこの様である。曇らせとかタグ付けしといて曇るのももうちょい先なのである。


第5話 流れで、魔ジン激突

 

 アレクシアは、崩落した地下水路の瓦礫の陰に隠れて震えてうずくまっていた。ゼノンと相対していた時に湧き上がっていた勇気は今や塵となっていた。

 

 無理だ。あれはダメだ。次元が違う。

 

 絵画の中でいくら炎が激しく燃え盛ろうとも火傷どころか熱すら感じないのと同じように、魔人を名乗る白い少女とアレクシアの間に横たわる壁は、もはや壁と呼ぶことすら憚られる何かであった。

 事実、何らかの手段を用いて彼女の姉であるアイリス王女ですら容易く屠れるのではないかという領域に達したはずゼノンは、文字通り玩具のように弄ばれた挙句ボロ雑巾のようになって這いつくばり、戦意すら失ってしまっている。

 

 今や生きているのかどうかも分からないゼノンの惨状を見ればわかる。あれは、間もなくゼノンへの興味を失う。ならば次はどこに向くか。この何もない地下水路にて、次にあのような目に合うのは誰か。

 

 姉と違って才覚のない自分はいつかどこかで酷い目に合うのだとは思っていた。覚悟もしていたはずだった。

 

 だが、絶対的な存在を前に、そんな覚悟は何の意味も為さなかった。心の根底に存在する生命としての本能が全力で警鐘を上げ、心はかの存在への恐怖によって雁字搦めに縛りあげられている。

 

(アイリス姉様……っ! テオ……っ!!)

 

 白い少女に気付かれることを恐れ、身動きどころか呼吸すらも忘れながら、震える最中。

 

 

 

「児戯はそこまでにすることだな」

 

 

 

 

 

 陰の中から凛とした声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

―・―・―・―

 

(エェッッッックセレンツ!! やればできるじゃないかテオ!)

 

 テオの内心など知る由もなく、シドは上機嫌であった。全てを見届けていたわけではないが、テオの魔神ムーヴはシドのお眼鏡にかなうものだったようだ。

 

 テオの魔神としての戦い方は、その膨大すぎる魔力量に任せた自己強化。

 シャドウの是とする努力を元に練り上げられ、洗練した戦い方とは対極に位置する物である。

 

 だが、それで良い。それが良い。巧みな動きでありとあらゆる攻撃をさばき、弱点を正確に穿つ技量による強さは陰の実力者で良い。魔神は小細工が通用しない力という名のパワーを振り回してよい。否、振り回すべきなのである。レイピアでチクチク弱点攻撃してくる魔神とか嫌だろう。

 

 テオは紛れもない陰の実力者の宿敵として立ちはだかってくれた。ならばこちらも陰の実力者として応えねば不作法という物。シドは一層気合を入れた状態で言葉を紡ぎ出した。

 

 

 

「久しいな、我が宿敵よ」

 

 シャドウのその言葉に、シャドウの背後にいたシャドウガーデンの配下達の間に困惑が広がる。

 

 シャドウ率いるシャドウガーデンの最終目標は、世界を裏から支配するディアボロス教団の打倒である。そして、そのディアボロス教団の幹部候補であったゼノン・グリフィスは、白い少女によって見るも無残な惨状となっていた。

 

「宿、敵……?」

「シャドウ様、それは一体……」

 

 アルファですら知らない、シャドウが宿敵と呼ぶ何者か。シャドウのその一言を機に、シャドウガーデンの面々の注目が白い少女へと集まる。シャドウガーデンの面々と同じ程度の少女然とした体格。その全身を包む白いローブ。顔を包む禍々しい紋様が刻まれた仮面。

 しかし、全身から暴風のように吹き荒れるシャドウに匹敵する魔力が目の前の白い少女がシャドウに類する強者であることを示していた。

 

 

 

 

 

 

(え~~皆おる~~~~!!?)

 

 一方、白い少女の中でも困惑が広がっていた。急に陰の実力者ごっこを始めたシドに対して、ではない。シドがイかれていることなど今更過ぎて何が起ころうが驚くには至らない。

 

 問題は共にいる面子である。

 

(ってかアルファ! 私マジで3年ぶりとかなんだけど!?)

 

 金色の絹のような長髪とエルフ特有の長い耳が特徴の少女、アルファ。テオが彼女と会ったのは、引っ越し前が最後になるため、およそ3年ぶりという事になる。

 悪魔憑きをシドに治してもらった恩として当番制でシドと会って陰の実力者ごっこをしていたのは知っていた。何故かタイミングが異様に合わずテオは会えずじまいだったが、それでも知ってはいた。

 だが、こんな大がかりな襲撃(?)をやるなど聞いていないし、何よりその為にアルファまで集まっていたとなるとそれはもう避けられていたとしか言いようがないだろう。陰の実力者ごっこであっても自分が3年近くハブられていたという事実を直視したくないテオであった。

 

(ぺんぺん草だからか? 私が演技ぺんぺん草だからか!?)

 

 確かに、テオはシドやアルファ達と比べれば陰の実力者ごっこに熱を入れていたとは言い難い。だが、だからといってここまでハブられるようなことをした覚えはない。こんなことなら魔神なんて大層な役やらずにシャドウガーデンの掃除係でも拝命すればよかった。

 

(あーあーいーよ! やってやろうじゃねーかよこの野郎! テオさんハブったこと後悔させちゃる!)

 

 そして、ちょっとキレたテオはノリを加速させて声も表情も思考も魔神さんへとチューンナップ。魔神の役を羽織る。

 

 

 

 

 

 

「シャドウ……そうか、シャドウか」

 

 白い少女がゆっくりとその言葉を紡ぎ出す。邪悪な喜色を表すかのように、それと同時に暴風のような魔力が吹き荒れ、ただでさえ半分崩落していた地下水路が悲鳴をあげる。

 シャドウの洗練されたそれとは異なる、文字通り嵐のような荒々しいそれは、正しくシャドウに匹敵する威圧感を以てシャドウガーデンの面々に襲い掛かり、目の前の存在が比類なき強者であることを理解させた。

 

「凡愚を引き連れて、何の用だ?」

 

 開幕のその一言に、シャドウの後ろに控えていたシャドウガーデンの面々が俄かに殺気立つ。

 

 そんな彼女たちを片手で制し、シャドウは言葉を紡ぎ出す。

 

「知れたこと。貴様を滅ぼし、全ての悲劇の幕を引く。お前が我が目の前に立った時点で、それはもう決まっている」

 

 そんな言葉を受けた白い少女の表情は、仮面に包まれていて伺う事は出来ない。だが、今なお吹き荒れる魔力の奔流が示すそれは、喜びであるかのようにアルファは感じた。

 

「クハッ、そうかそうか」

 

 上機嫌に笑う白い少女。その様はどこか子供っぽく、それでいて大人びた、つかみどころのないちぐはぐな印象を受けた。

 

 白い少女は、まるでシャドウを迎え入れるかのように、両手を広げ、信じられない言葉を紡ぎ出す。

 

「来い、我が宿敵。魔神が相手をしてやる」

 

 その言葉に、シャドウ以外の面々に衝撃が走る。

 

 魔人。聞き間違えるはずもないその言葉は、彼女達が滅ぼさんとするディアボロス教団が崇める偶像。この世に蔓延る全ての悲劇の根源に位置する存在。

 

「魔人って、まさか……」

「そうだ小娘。俺が魔神。魔神ディアボロスだ」

 

 思わずといった様子でアルファの口から飛び出したつぶやきに対して魔神が答える。日に二度も名乗るなど初めてだな。と愉快そうに笑う白い少女改め、魔神ディアボロスをよそにアルファの脳内に困惑が広がる。

 

 ディアボロス教団。

 

 魔人ディアボロスの復活を目論むかの教団だが、では彼らが魔人ディアボロスそのものを信仰しているかといわれればそれは違う。

 彼らが欲しているのは魔人が有する絶大な力と不老不死。それを我が物にするために彼らは魔人ディアボロスを追い求めているのだ。

 

 ならば、魔人を野放しにすることなど考えられない。どことも知れぬ地下奥深くで大事に飼育することだろう。

 しかし、現に魔人を名乗る存在が、シャドウの宿敵として立ちはだかっている。ならば、目の前にいる白い少女はまず間違いなく魔人ディアボロスなのだろう。

 

 余りにも情報が足りていない。シャドウガーデンの認知の外で、大きな陰謀がうごめいている状況に、アルファの心中を焦りが満たしていく。

 

「下がっていろ。アルファ」

「シャドウ……」

 

 そんなアルファの思考に冷水をかけたのは、シャドウの一言だった。それだけ言ったシャドウは一歩歩みを進めた。ここから先に、アルファ達の助けは不要という事を言外に示すその動きに、アルファの表情に影が差す。

 

 

 次の瞬間、そんなアルファの思いが霧散する勢いで、両者は音すら置き去りにして激突した。

 

 シャドウのスライムゼリーによって生成された細身の黒剣に対して、ディアボロスはその拳をぶつけていた。これまで何もかもをバターのように容易く切り裂いてきたシャドウの剣と激しい火花を散らしながら、一瞬の間にアルファが認識できただけでも数十発の衝突が起こり、暴風が吹き荒れる。

 

「嘘……」

 

 アルファは驚愕の表情で目を見開いた。あのシャドウと互角に戦っている。たったそれだけのことが、アルファには信じられなかった。これまでどんな敵だったとしても容易く切り伏せてきたシャドウと互角の剣戟を演じた者など、1人としていなかった。

 しかし、相対する白い少女は切り倒されるどころか、拳1つで応じていた。

 それは、白い少女が魔人ディアボロスであることの、何よりの証左であった。

 

「クハッ、そうだこれだ。こうでなくてはなぁ!」

 

 1つ1つ、目の前の宿敵の事を思い出すかのようにディアボロスは拳を握り締め、喜色を滲ませた声を上げながら拳を振り上げる。シャドウの腹部を狙ったその一撃は、剣によって防御される。しかし、勢いまでは殺しきれず、シャドウの身体が跳ね上がり、地下水道の天井を粉砕して地上へと放り出される。

 

「っシャドウ!!」

「せっかくの『外』だ。広く使おう!」

 

 初めて見る主の劣勢に、思わず叫び声をあげるアルファ。そんなアルファなどお構いなしに、ディアボロスは追従する形で跳躍し、地上へと飛び出す。

 

「……っ! 展開中の部隊と七陰に伝達! シャドウと魔人ディアボロスを名乗る敵性存在が戦闘中! 絶対に手を出させないで!」

「わ、分かりました!」

 

 今すぐにでも駆けつけてシドの援護に向かいたい気持ちを唇をかみしめて堪え、アルファは控えていた部下に即座に指示を飛ばす。

 先程の10秒にも満たない戦闘だけでもわかる。ディアボロスに対抗できるのは、シャドウガーデンの中ではシャドウ1人だけ。

 七陰が束になってかかったとしても時間稼ぎが関の山、むしろシャドウが守る対象が増える分足手まといにしかならないだろう。

 

 分かってはいる。分かってはいるが、主を支えるための組織を作っておいてこの体たらくかと、アルファは自身の無能を呪った。

 

「シャドウ……」

 

 2人が消えていった地下水路の天井に空いた大穴を見ながらつぶやいたアルファのその声は、未だ明ける気配のない夜の闇へと消えていった。

 

 

 

 

―・―・―・―

 

「一体何だというの……っ!」

 

 世界の終わりが始まるとすれば、それは今日のような日なのかもしれない。その日は、アイリスにとってそう思わずにはいられない日だった。

 

 数日前に何者かによって誘拐され、今なお行方が分からない妹、アレクシア。

 それに連鎖するかのように発生した大規模な同時襲撃。

 どこからともなく現れた醜い巨大な怪物。

 それをいともたやすく撃破し、王都を守る騎士団を観客呼ばわりする不遜な謎の集団。

 

 しかし、いくら嫌な予感がしたところで、騎士団として、この国を守護する者として、止まるわけにはいかない。怪物の撃破後、広がりに広がった被害範囲内の住人の避難のために指揮を飛ばしながら王都内を走り回っていた時。それまでとは比べ物にならない激しさで地面が揺れた。

 

「っ何事!?」

「殿下、あれを!」

 

 部下が指さす方向にアイリスが視線を向ける。

 

 そこでは信じられない光景が広がっていた。

 

 そこでは、先程怪物を撃破した謎の少女を彷彿とさせる陰を纏いし少年らしき人物と、対照的に純白の、それでいておぞましい雰囲気を漂わせた少女らしき人物が戦っていた。

 

 信じられないのは、その練度。

 

「何よ、あれ……」

 

 少年の方は剣を、白い少女の方は拳を振るっている。それはわかる。

 しかし、見えない。辛うじて両者の得物の残像のようなものが見えるだけで、それ以外の事は一切分からない。

 それでいて、はるか遠くにいるはずのアイリスにまで伝わってくるその衝撃は、振るわれる斬撃1つ1つが必殺の一撃である事を、否が応でもアイリスに理解させた。

 

 剣の国、ベガルタに訪れた際に見た七武剣の御前試合ですら、今目の前で繰り広げられている激闘に比べれば子供のごっこ遊びにしか見えない。それほどの遥か高み。

 

「殿下!」

「っ……間もなく追加の部隊が到着します。被害区域の分布を確認の後、逃げ遅れた住人の捜索を開始してください!」

「はっ!」

 

 見とれていた。剣を志す者として、その天上の戦いを一瞬でも長く目に焼き付けたいと無意識に思ってしまっていた。部下の声で我に返ったアイリスはそんな己の内心を振り払うかのように指示を飛ばしながら自身の剣を抜き放つ。

 

「殿下、どちらへ!?」

「……あの者達を止めに行きます」

「なっ……危険です! 殿下の身にもしもの事があれば!」

 

 傍に控えていた兵が必死にアイリスに言い寄る。アイリス程強者ではなかったとて、それでもアイリスの傍に控える事を許される程度の強さを持っている者ならば、彼方で繰り広げられている戦いが人間の領域を逸脱している事程度分かる。

 

「ですが、現状あれらに対応できるとすれば私だけです。王女だからとこれ以上王都の混乱を見過ごすわけには行きません」

「そのような問題ではございません! 殿下の身にもしもの事があればそれこそ王都の崩壊に匹敵する混乱が起こりましょう! 殿下は陣頭指揮に専念を!」

「っ…………」

 

 そう指摘してくる兵に対してアイリスは口元をゆがめる。アイリスとて馬鹿ではない。自分の命が自分1人のものではないことくらい、物心ついたころから嫌という程教え込まれてきている。

 だが、それでも今目の前で起きている暴虐より己の命を優先しなければならない状況に対する怒りが消える訳ではない。

 

 いっそ兵を押しのけてでも向かってしまおうか。アイリスの脳内でそのような思考が芽生えた瞬間。

 

 

 

 

 

 王都中を、それまでとは比べ物にならない魔力による暴風が駆け抜けた。

 

 

 

 

 

―・―・―・―

 

(やー、ノリで外出ちゃったけどどうしようねこれ)

 

 王都始まって以来の混乱の渦中にいる2人は、息もつかない激闘を繰り広げながらも、次の手を決めあぐねていた。

 

 まず、テオ。3年余りも自分だけハブられていた(疑惑)からカッとなってこんなことをしてしまったが、この後の事は何も決めていない。

 こんなことならシャドウにもう少し魔神とはどうあるべきか聞くべきだったと一瞬後悔するものの、どうせ帰ってくるのは「一度ぶつかって後は流れで」でしかないだろうと思いなおした。シャドウはライブ感を大事にするタイプの陰の実力者なのである。

 

 しかも、冷静になって気づいたが、流石に事が大きくなりすぎだ。カゲノー領のような辺境の地ならばともかく、此処は王都。それも、先ほど理解らせたゼノンの言葉を見るにどうもシャレにならない事態が裏で進行している。

 

 となると、変な事が起こる前に切り上げたいというのがテオの考えであった。

 

 

 

 

(んーーーー……Excellent*1……)

 

 対するシャドウは、若干アカン領域に突入していた。

 

 この日の為にコツコツと買い集めた調度品を惜しむことなく飾り付けた部屋にて、陰の世界から開戦の号砲を告げ、夜闇が包む王都にて優雅に暗躍。

 

 囚われの姫*2の前に颯爽と現れた後は、絶対的な強者である魔神と気の利いた会話を交わす。

 その後は即座に戦闘に突入、並み居るモブどもから「あ、あいつは一体何なんだ!?」という驚きと好奇と畏怖の視線を集めながらの8割くらいのちょうどいい本気での戦闘。

 

 あれ? 今日って僕の為のフルコースが振る舞われる日だっけ? シェフを呼んでくれ、握手がしたい。そう思わずにはいられないシドであった。

 

 今、シドはらしくもなく感謝していた。言うまでもなく今回最大の功労者のテオに、今なお付き合ってくれるアルファ達に、実に良いリアクションを取ってくれるモブ共に、全てに感謝していた。

 

(しかし、ここまで完璧となると今全部やっちゃうのは惜しいな……)

 

 だが、ここに来てもなおシャドウは満足してはいなかった。

 

 何故ならば、今回のシチュエーションはあくまでプレリュード。今ここで全てを決めるつもりは毛頭なかった。せいぜいがネームドキャラのピンチに颯爽と現れ、圧倒的な力をチラ見せする程度で去るつもりであった。ここまでやっているのはあくまでテオが珍しくノリノリで魔神をやってくれたからだ。

 今全部やってしまっては、主人公が出ることなく終わってしまう。それではもはや陰の実力者ではない。盤外でなんかラスボスと戦ったらしい何かやたら強い人で終わってしまうではないか。

 

 

 故に、変な事が起こる前に切り上げよう。シャドウはそう判断した。

 

 

 

 

 

―・―・―・―

 

 いつ終わるとも知れない2人の激突は何の前触れもなく終わりを告げた。それまでさながら雨のようになり続けていた激突音が止み、両者の間に間合いが生まれる。

 

「む?」

 

 テオが疑問の声を上げた次の瞬間、シドを中心に、魔力が展開される。この世界では類を見ない精度で以て、核にも匹敵する膨大な魔力が練り上げられる。

 それはさながらかつていた世界における機械の回路のような、精密さと機能美を兼ね備えた紋様を周囲へと広げながら広がっていく。

 

(ちょいちょいちょい!! ここ王都!! 人住んでんの!! Understand*3!?)

 

 次のシドの一手を察したテオの心中が焦りで埋め尽くされる。もしもこの一手がそのまま放たれた場合。冗談抜きで王都の一角が吹き飛ぶ。幸いにも騎士団の尽力の影響か範囲圏内に人らしき気配はないが、それでも経済的な損失は計り知れない。

 

「……やるのか? シャドウ」

「我が最強、味わうが良い」

(あ、ダーメだこりゃ気持ちよくなってるわ)

 

 万が一にでも機嫌を損ねさせないよう魔神のままの声で尋ねる。だが、シド改めシャドウから返ってくるのは返答になっていないキメ台詞とフードから覗く完全に気持ちよくなっちゃってる鋭い瞳のみ。

 

 フードから一瞬除いたシャドウの顔で判断したテオは、仮面で隠された顔に疲労を滲ませながらも声だけは魔神としての格を保ったまま応じる。

 

 

 

 

 

 

「良いだろう。魅せてみろ! シャドウ!!」

 

 瞬間、上空遥か高くに舞い上がったテオの魔力が黄金のオーラとなって展開され、王都の夜空を黄金の輝きで埋め尽くす。シャドウのものと比べて余りにも精細を欠くそれは、しかしてその圧倒的な物量によってシャドウが展開した魔力とぶつかり合う。

 

 テオは最強を超える事を求めた。

 最強を超えるにはどうすればよいか。

 テオの知る最強は、核を超えるために己が核になる道を選んだ。

 ならば、テオも核に耐えれるようになれば良いのか。

 

 否、それだけでは足りない。最強を超えるのであれば、前人未到を踏破しなくては意味がない。

 

 故にテオは、核以上の力を求めた結果、1つの結論にたどり着く。

 

 高い所から重い物を落とせばエネルギーが発生する。そんな幼子でもわかる理屈を突き詰めた結果誕生した、テオの元居た世界ですら空想の産物でしかなかった超兵器。

 

 本来であれば、衛星軌道上から音速の十倍もの速度で金属の棒を叩きつける宇宙兵器。人類史上最強の鉄槌であり、運動エネルギー弾(kinetic energy penetrator)の究極系。

 

I……」

Rods

 

 たとえ砂であったとしても、数万tの質量を極限まで圧縮して光の速さで射出すれば海底すらも穿つ。そんな余りにも力任せな理屈で以て、最強の兵器が現出する。

 

am……」

from……」

 

 極限にまで圧縮された魔力を纏い、己の身体を強化し、最高効率で放つ〈〈正拳突き〉〉。余りにも単純なそれは、桁外れのエネルギー量によってありとあらゆる小細工を嘲笑い、万象を粉砕する無双の一撃と化す。

 

Atomic

God

 

 神の杖(Rods from god)。本来ならば空想の類に過ぎないそれを、テオは絶大な魔力で以て現世に再現する。

 

 瞬間、この世界ではあってはならない破壊と破壊が、衝突し打ち消し合った。余波の衝撃波と突風が王都中を襲ったものの、衝突した地点が王都の遥か上空だったことが幸いし、これによる死者数は0であったという。

 

 

 

 

 

 

「そう、シャドウは寮に戻ったのね。証拠隠滅をした後、一旦ミツゴシ商会で落ち合いましょう……」

 

 仲間への連絡を終えたアルファは、何事もなかったかのように静かな王都の夜空を見上げた。

 

「あれが、魔人ディアボロス……」

 

 極限の破壊の衝突を、アルファは王都の一角にある塔の上から眺めていた。空を埋め尽くした黄金の魔力は、何も知らなければ天上の楽園のような光景として映るのかもしれない。だが、シャドウが迎え撃たなければいったいどれほどの破壊がこの都市に齎されていたか分かったものではない。

 

 この王都に愛着があるわけではない。むしろ、この世界の真実を知らずにのうのうと生きている人間が痛い目を見て清々する気分すらあっただろう。

 

「テオ……」

 

 だが、この都市には彼女が暮らしている。彼女の日常がこの王都にあるならば、アルファはその安寧を守りたい。その気持ちは、シャドウとて同じはずだ。王都内のディアボロス教団の拠点を徐々に潰していったのはその目的もあったはずだった。

 しかし、その王都で今、シャドウガーデンすらあずかり知らない陰謀が蠢いている。それは、いつどことも知れぬ場所でテオの身に危険が及ぶことと同義である。

 

「守って見せる、何があっても……」

 

 アルファはそのつぶやきを残した後、夜闇の陰へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 下町の一室。深夜にもかかわらず明かりがついている一室にて、シドとテオは向かい合っていた。 

 

「……何かいう事は?」

「……超楽しかった!」

「そっか、良かったね!!!!」

 

 この日のシドの唯一の負傷は、この後に放たれたRods from God(げんこつ)であった。

 

 

*1
ネイティブ

*2
バーサーカー

*3
notネイティブ




テオの声はシドがシャドウやってる時よろしく魔神やってる時は別人になってます。
いい加減他の七陰も出したいです。
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