常世総ての悪、悲劇の坩堝の主(時給980円) 作:sugar 9
A:カゲマスのストーリー読み始めて設定と時系列が大変なことになってるんだよねって話と何でオメガとカイだけカゲマス実装されてへんねんって話です。
本編の補完が本当に良く出来ているので全人類カゲマスやりましょう。
「アレクシア、元気?」
「テオ……」
王都を揺るがせた謎の勢力による同時襲撃事件から一夜明け、王都内の病院のとある一室。数日間とはいえ口に出すのも憚られる扱いを受けたこともあり、入院していたアレクシアの元へテオが訪れた。
「まずまずってところよ。まだ寝足りないけど」
「ん、そっか。寝られてるなら良かった」
嘘だった。昨夜以降、アレクシアはまともな睡眠がとれないでいた。
目を閉じれば今も浮かんでくる、あの恐怖の光景。
絶対に叶わないと思った圧倒的な力が、さらに絶対的な力の前に弄ばれ、塵屑のごとく踏みつぶされるあの光景。必死に鍛えて努力してきたはずの剣が、本当の化け物の前では何の役にも立たないのだと思い知らされたあの光景。
あと少し、あの謎の集団が来るのが遅れていれば、自分はどうなっていただろうか。
考えたくもないはずなのに目を閉じる度に考えてしまうのは、あの白い少女が自分に向けて手を伸ばしてくる光景。恐らく何かが違っていれば、自分が最期に見る事になっただろう光景だ。
「そういうあんたこそ、よくもまぁ普段通りヘラヘラしてられるわね。見たんでしょ? 昨日のアレ」
「あー……あの魔人がどうとかってやつ?」
「そうよ。最後くらい見えたんでしょ?」
昨夜の王国中を包んだ黄金の空と、暗黒の魔力の衝突。数少ない目撃証言によれば、その中心には白いローブを着た女性と黒いローブを着た男性がいた事から、耳の速い新聞会は既に1000年前の勇者と魔人がこの世に顕現したのではないかという記事を出している。
何だよ勇者と魔人ってシド達じゃあるまいに。と自分にぶっ刺さるブーメランを無視してでも思わずにはいられないテオだったため、微妙に口調が濁るが、アレクシアがそれに気づく様子はない。
「見えた見えた。めちゃ綺麗だったよねー」
「……ま、傍から見たらそんなもんよね」
いつも通りの様子のテオに対して、アレクシアはため息をつく。そんなテオの様子に、わずかながらも救われている自分がいる事を自覚しながらも、それに甘える事はアレクシアのプライドが許さなかった。
「……ねえ、テオ」
「ん?」
「……もし、昨日のアレと戦えって言われたら、テオは戦うの?」
「アレって……その、魔人とか勇者とか?」
「他に何があるのよ」
アレクシアからの問いかけに対して、テオは顎を手にのせて考えるような仕草を見せる。
「んー、戦わなきゃいけないなら戦うよ」
あっけらかんとしたその発言に、アレクシアの心の中で怒りのような何かが燻る。
「……あれに勝てると思うの? 天才のあなたなら」
その言葉は、理性を振り切ってアレクシアの口から飛び出した。
天才だからなんだというのか。あれはもはや人間の物差しで測れるレベルを超えている。隕石に対して剣で挑めと言っているようなものだ。
自分で言ってて吐き気がするようなセリフに、テオの少し驚いた様な顔を見て、アレクシアはすぐに自分の発言を後悔した。
「……ごめん、忘れて」
俯いてそうつぶやくアレクシアに対して、テオは困ったような笑顔を浮かべながらしゃべり始めた。
「……まぁ、勝てないかもしんないね」
テオは困り笑いを浮かべながら頬をかく。しかし、その瞳に宿った意志は、少なくともアレクシアからは消えたようには見えない。
「けど、戦わなきゃいけないなら、戦うよ。そのために頑張ってきたんだから」
テオの笑顔は変わらない。その笑顔に、アレクシアの苛立ちが募る。
「死ぬのよ? ああ死ぬんだってわかるの! どんなに剣を磨こうが、魔力の鍛錬をしようが、惨めに逃げ足を鍛えようが無駄だってわかる! あんたは死ぬのが怖くないの!?」
徐々に自分の口調が激しくなっていくのがわかるが、それでも止められなかった。この恐怖を吐き出さなければ、頭がどうにかなりそうだったからだ。
「怖いよ」
その言葉は、恐ろしい程に平坦だった。普段は起伏に富んだ感情豊かな喋り方をするテオだからこそ、その一言にどれほどの思いが籠っているものなのか。
その一言を言う時だけは、テオの目は一切笑っていなかった。初めて見るその目に、アレクシアの息が詰まった。
「私はきっと、この世界の誰よりも死ぬことを恐れてる」
「だから逃げない。怖いからこそ、死を想うんだよ」
普段の彼女からは想像もつかない淡々とした声色。それを喋っているのがテオであると、アレクシアの脳が一瞬認識できなくなるほどに、普段のテオと今目の前で喋っているテオは乖離していた。
「……何よそれ」
「えー、天才の死生観?」
「シャレになんないからやめなさいよ」
しかし、アレクシアがそう思ったのもつかの間、次の瞬間そこにいたのはこれまでと何も変わらない、悩みなど何一つなさそうな笑みで笑うテオがいた。
「……間違えても挑むなんてしないで。あんただけの命じゃないんだから」
「……任しときんさい。テオさん生き汚いから!」
俯きながらそう言うアレクシアに対して、アレクシアの手を握るテオ。その行動には安心させるための意図が含まれていた事は、誰の目から見ても明らかだった。
にも拘らず、アレクシアが幻視したのは、悪夢の中の今際の際の光景だった。
息が詰まり、身体の内側から熱が失われていく。逃げ出したくてたまらないのに体はまるで自分のものではなくなってしまったかのように動かない。
白いローブの少女の姿をした化け物の、見た目相応の不気味な程綺麗な白い手がアレクシアの手を握って――――
「…………っ!」
叫び声を上げなかったのが不思議な程に、アレクシアは勢いよくテオの手を振り払った。
「? ……どうかした?」
怪訝そうな顔を浮かべるテオに対してアレクシアは慌てて気丈に振る舞う。
「っごめん、ちょっと傷が響いて」
「え、大丈夫? お医者さん呼ぶ?」
「平気よ、急に動いたせいだから」
「そっか。じゃ、お大事にねー」
「ええ……」
そう言いながら、テオはいつも通りの笑顔を浮かべながら手を振り、アレクシアに背を向け、病室を後にした。
「……何なのよ、一体」
未だに震えるテオに握られた右手を抑えながら、アレクシアは1人呟いた。あの化け物が恐ろしい事に変わりはない。きっとかの化け物は今もまだこの国のどこかにいて、かの存在の気まぐれ1つでこの国を滅ぼせるのだろう。
だとしても、それが今を無為に生きる理由にはならない。
テオのように、迷いなくは難しいだろうが、全力で生きるのだ。
その時覚えた違和感を、アレクシアは後に後悔することになるが、それはまだ先の話。
―・―・―・―
「さて、と、今ならいるかな……」
アレクシアのお見舞いの後、テオはミツゴシ商会を訪れていた。相も変わらずの長蛇の列をかいくぐりながら、列の整理をしていた従業員に話しかける。従業員は何やら慌てた様子で店の中へと入っていき、しばらくした後に駆け足で戻ってきて、テオを案内し始めた。
「ガン……マじゃなくてルーナ。いる?」
「テオ! いらしてたのですね!」
ミツゴシ商会の長ルーナ改めシャドウガーデン七陰が1人、ガンマの出迎えを受けながら、テオはミツゴシ商会の会長室に入った。
ちなみにガンマは陰の実力者ごっこをしている時限定の名前なため、「素で接しますよ」という時にはルーナという名で呼ばなければならない、というのがテオの認識である。
「ごめんね、復興作業手伝わせちゃって」
「単独出資者たってのお願いですもの、断れませんわ」
そういうガンマの脇では、ミツゴシ商会の従業員が書類の束を抱えながらせわしなく動いている様子が散見された。
シャドウことシドとディアボロスことテオの衝突による周囲への被害は、テオのとっさの判断で王都の遥か上空での衝突に変更したこともあり、王都の一角が丸ごとクレーターになるような被害は発生しなかった。
しかし、それでも衝突による余波や、それ以前のシャドウガーデンによるディアボロス教団への強襲による混乱等により、人的被害こそなかったものの騒ぎがあった区域の被害はそれなり以上のものとなっていた。
「それを言えば、テオの方こそ復興支援を行う義理は無いのでは?」
「あーー……人気取りってことにしといて?」
「まぁ、嫌なお貴族様」
「わはは、苦しゅうないぞよ」
照れ臭そうに苦笑いするテオに対して、ガンマも冗談めいたほほえみを浮かべる。ガンマからしてみれば、目の前で困っている人がいて、それを放っておくことを我慢できるような精神性をテオが持っているはずがないため、それはむしろ当たり前の事であった。
当然、表では今回の騒動には何一つとして関わりがないテオがそれらの後始末に手を貸すのは不自然ではあるのだが、そこは国家を揺るがす事態が起こっている真っ最中に
「被害を受けた土地の買付話も上がってきましたし、ちょうど販路の拡大を練っていた所ですので、丁度良かったですわ」
「そう? ならいいんだけど……」
無論、テオがいくら現在のような大商会になる前からの出資者とはいえ、今の2人の関係はビジネス、お金に基づく信頼関係が第一にされるべきものである。販路の拡大というが、今回被害があった地域はディアボロス教団の拠点が地下にある事もあってか、比較的閑散とした地域であることに間違いはない。
そのような取ってつけた理由でじゃあええか! ほなよろしく! と言って帰れる精神性をテオは持ち合わせていなかった。
「して、今日はどんなご用件で?」
「ううん、頼みっぱなしだったから何か困ってることがないか聞きに来ただけ」
「それはどちらかというとこちらが聞く事なのでは……?」
「細かい事はいーの、良いから言ってみんさい」
そういうテオに対して、ガンマは困り笑いを浮かべながらほんの少しの間思考に耽る。気分は、あげたがりの祖父母をどういなすか考える孫のそれである。
無論、本来ならばディアボロス教団を打倒するまで会えないはずのテオと、表の世界でとはいえ触れ合えるこの時間はかけがえのないものだ。しかし、それはそれとして商会立ち上げ時から巨額の投資をしてもらっただけでなく、その後もシャドウから与えられる
かと言ってせっかくの提案を無下にするのも……とガンマが悩んでいると。
「では、こちらの新商品の試食にご協力していただいても?」
そんなガンマに助け船を出し、テオの前のテーブルにチョコがいくつか載せられた小皿を置いたのは、褐色の肌と顔の右半分に彫られた刺青が特徴のエルフだった。
「あ、オリガ久しぶり! 元気してた?」
「テオ様、こちらではオメガとお呼びください」
オリガと呼ばれたエルフ。今ではシャドウガーデンに属し、オメガと名を改めている彼女はテオに対して優し気な笑みを浮かべながら人差し指を自身の口に添える。
「え、それって源氏名的な?」
「ゲンジナは存じ上げませんが、店員として働く際には名を改めております」
「そーなのかー」
そう言いながら、テオは皿の上に乗った美麗な衣装が施されたチョコとを1つつまみ、口に入れた。
「ん、美味しい。ちゃんとトリュフだ」
「わかるのですか?」
「そりゃ、ルーナ達と一緒にチョコ作ったの私だし」
「なんと」
オメガの顔にわずかながら驚愕の表情が浮かぶ。逆に大切な思い出として秘密にしておくつもりだったガンマはほんの少し不満げな表情を浮かべる。
まだガンマ達がシドの用意した小屋にて生活していたころ、「苦い豆を砕いて砂糖ぶっかけて食うと美味いよ」というガンマ達が言うところの
「何かあった際にはこちらから追って連絡します。今はそれでよろしいかと」
「んー、わかった。なんか困ったらすぐに呼んでね。あとガンマ、トリュフの生クリームはもうちょっと減らした方が良いかもだ」
「かしこまりました」
それじゃ、お忙しい所失礼しましたーとだけ言い残し、席を立ったテオはその場を後にした。
―・―・―・―
「あれが、アークノ家始まって以来の天才、テオ・アークノ様ですか……」
「あなたが知るテオと違ったかしら?」
テオが商会を去った後、テオが出ていった扉を見つめてそうつぶやいたオメガに対して、ガンマが悪戯めいた笑みを浮かべながら問いかけた。
「いえ、何も変わりません。私を救ってくださったあの時のままの、テオ様です」
オメガは、優し気な笑みを浮かべながら首を横に振った。
―― 一緒に逃げよう。大丈夫、あてはあるから。
かつて、まだオメガではなくオリガという名前があったころ。ベガルタ王国にて軍人としての任を果たしていたオメガとテオは出会った。
悪魔憑きとなった事により存在そのものを消され、そのままディアボロス教団に引き渡される時、偶然ベガルタ王国に来ていたテオによって救い出されていなければ、オリガが今頃どうなっていた等想像に難くない。
オリガを引き連れたテオの旅路は2週間程に及んだ。テオが自身を魔力で強化しながら駆け抜ければ半日もあれば済む距離だったが、病人であり死に体のオメガを連れてとなると速度は相当に落ちた。
その上、見た目に症状が現れるほど悪魔憑きが進行しているオリガを連れている以上公道などはどれも使えず、魔物が巣食う危険な森林や洞窟を伝って進む。
本来ならば過酷な旅路は、しかしてオリガにとってそれまでの人生の何よりも特別な日々であった。
―― 大丈夫、大丈夫だよ。きっと助かるから。
既に悪魔憑きが進行し、右肩から腕にかけて醜い肉塊と化していたオリガの外見など少しも気にすることなく、暇さえあればテオはオリガを抱きしめていた。
オリガには知る由もないが、テオはシド達と比較して魔力の操作を苦手としていた。故に、暴走した魔力回路の流れを改変、適応させることで魔力暴走を抑え込む悪魔憑きの治療は、テオには出来なかった。
そこでテオが行ったのは、対象からの魔力の抽出であった。そもそもが蓄積した魔力量故に魔力の制御が仕切れず、魔力暴走を起こしその結果体内の何らかの細胞が暴走して腫瘍と化すというのが悪魔憑きの症状である。
ならば、身体を接触させることで対象の魔力を抽出。体内の魔力量を一旦減らし、体内の魔力回路が制御できる段階まで落とした後、抽出する魔力量を徐々に減らす事で魔力回路が制御できる魔力の絶対量を増やしていき適応させるという寸法である。
ちなみに、この暴走を起こす何らかの細胞がディアボロス細胞と呼ばれることを、テオは知らない。何ならシドも知らない。
徐々に体の細胞が有り余る魔力を制御できるようになっていき、醜い肉体から元の肉体を取り戻しつつあるのを呆然と感じながらも、オリガには分からなかった。
何故自分はこれほどまでの寵愛を受けているのか。
彼女は、ベガルタ王国にて教導官を務めていた。務めは果たしていたという自覚はあるが、それ以上のものは何も無かった。教えた兵にも国にも愛着らしい愛着を抱く事は終ぞなく、そのまま悪魔憑きを罹患し、何もかもを奪われ、誰からも見放されて息絶えるはずだった。
何を間違えても、自分よりも二回りは幼い見も知らぬ少女に助けられ、ここまで献身的な事をされるような上等な存在ではない。
ずっと絶え間ない痛みに苛まれていた身体を癒すその暖かさが、オリガにはとてもではないが理解が出来なかった。
――何故、助けた。
――あ、喋れるようになったんだ、良かった。
悪魔憑きの治療が進み、喋れるようになって真っ先に口から飛び出した言葉はそれだった。恩知らずにも程があるが、それ以上にオリガは知りたかった。目の前の少女は、何を求めて自分を助けたのかを。
そんなオリガの態度など気にすることもなく、目の前の少女は太陽のような笑顔を浮かべながら答える。
――あんな死に方、私だったら嫌だなーって思った。それだけだよ
オリガには理解できなかった。たったそれだけの事で、知り合いですらない悪魔憑きを助け、あまつさえこんな自殺行為に等しい旅路を決意したという目の前の少女の言葉に恐ろしさすら感じた。
――な、ぜ。
――死にたかったのなら、ごめんね。
その言葉と、悲しさと優しさが入り混じった笑みに、自分の国にすら何の感情も抱けなかったオリガの心が動いた。
この旅路の中でずっと与えてくれた暖かさ。それに報いなければ、目の前の少女が余りにも報われないではないかと。
――ルーナ、人を雇ってほしいんだけど……
――あら、テオ、その方は……?
旅の終着点は、ミドガル王国。王都の中の一角、見るからに新築であることがわかる豪奢な商店。その一室でテオとオリガを出迎えたのは、黒い長髪のエルフだった。
――うん、悪魔憑きだよ。もう治ってはいるけど。
――そうでしたか、出資者様の話であれば断れませんわね。
そう言って可笑しそうに笑うエルフによって、トントン拍子でオリガはその商会、ミツゴシ商会で働く事となった。
それでもなお、オリガの頭の中は疑問と焦燥で満たされていた。もしかしたら自分はあの時テオと出会う寸前に死んでいて、今見ているのは今際の際の夢ではないのか。何より、自分はまだテオに、あの暖かさに何も返せていない。
生まれて初めての衝動的な感情に動かされるまま、オリガはルーナに問いかけた。
何故悪魔憑きと知りながら受け入れたのか。何故不治の病とされる悪魔憑きが治ったのか。何故彼女は見も知らない悪魔憑きの自分の為にあそこまでするのか。
すると、先ほどまでテオの前にいた時には人懐っこい笑みを浮かべていた目の前のエルフ、ルーナの表情が変わった。口元が浮かべる笑みはそのままに、こちらを見据える目つきが変わる。
――知りたいですか? 知ったらもう、二度と戻れませんよ?
普段の彼女なら一瞬逡巡しそうなその問いかけに、オリガは少しの迷いもなく即答した。
そうして、オリガ改めオメガは知る事となる。悪魔憑きの真相、そして、この世界の陰に巣食うディアボロス教団の暗躍を。
彼女が、テオが光の中で笑って生きることができるように、オメガもまた、陰の世界で戦う道を選んだのだ。
「本当に、変わらないのが恐ろしいくらいです」
「私達の育て親よ? 侮ってもらっては困るわ」
苦笑いするオメガに対して、ガンマは得意げに笑う。しかしその後、反転してその表情は陰る。
「だからこそ、不安でもあるわ。今の彼女は目立ちすぎている。彼女が今以上の立場を手に入れた時、教団は必ず彼女に何らかのアプローチを仕掛ける」
元々、それは織り込み済みの事であった。教団の戦力はこの王都ともう1つ、聖地リンドブルムに偏っている。それはこの土地にある教団の重要設備を守護するためであるが、今回の襲撃によって王都内にディアボロス教団の手が届かない空白地帯が発生した。それに教団が気を揉んでいる間に王都内でのシャドウガーデンの勢力圏を確固たるものにし、テオを守るつもりであった。
「問題は……」
「魔人ディアボロス、ですか」
しかし、思惑通りに進んでいるはずだった盤面に突如現れた理外の駒。魔人ディアボロスを名乗る何者か。アルファの報告ではシャドウに匹敵する実力を持つ、これまでシャドウガーデンの情報網に一切かかる事の無かった謎の存在。
情報では教団の幹部格であるゼノン・グリフィを手にかけていたという情報こそあるが、ゼノンより上の存在として処分しに来たという事もあり得るため、それだけでディアボロス教団のものではないとは言い切れない。
分かっているのは彼女達の主であるシャドウに匹敵する実力のみ。それが王都に潜んでいるという事実は、七陰の面々にとって最も危惧すべき事態であった。
「そちらに関しては、情報が少なすぎるわ。私はもちろん、ベータやゼータにも情報収集を行っているけれど、難しいでしょうね」
だからこそ、それが何なのかを確かめるために、シャドウガーデンは聖都リンドブルムへと狙いを定める。ディアボロス教団、魔人ディアボロス、英雄オリヴィエ、様々な因果の始まりの地である聖なる都にある情報を手に入れるために。
「急ぎましょう、時間は、まだ私達の敵よ」
「はっ」
「あ、シド、ラッキーセット奢って」
「こないだの陰の実力者ごっこの時にたっかい家具しこたま買って金欠だから無理」
「おい」
事態は動いていくこととなる。またしても何も知らない陰の実力者と魔神さんを蚊帳の外にして。
話が一向に進まないのに七陰列伝編(幼少期以降~学園入学までの期間の話)やりたすぎるのでちょくちょく挟むかすると思います。