偽次元のプリズム【完結】   作:ジマリス

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10 謎は深まる

「そういうことですのね……」

 

 家守こもりがこの洞窟の奥にあるであろう何かの施設を管理するAIであること。それがVTuberになった経緯などをベール様に説明するのに時間がかかったが、なんとか理解してくれた。

 

「まさか説明に体感一週間もかかるとは」

「体感一週間?」

「いや、こっちの話」

「ところでベールさんはなんでここに?」

「わたくしの国の諜報員が、あなたたちがここに来たと知らせてくれて、急いで来たんですの」

 

 ははあ、ちゃんとリーンボックスが機能してるようで何より。

 SNSで呟いたらもっと早かったかな。いやでもこもりのところにいるなんて言ったら、大勢が家凸してきそう。あれ、この場合って家凸って言うのか?

 

 洞窟の奥の奥、そこからはガシャンガシャンと機械の動く音がしていた。

 また敵かと警戒しつつ、進入する。さらに開けた空間があり、そこは自然のものが一切見当たらない、

 金属の板で天井も壁も地面も補強されていて、そこかしこ同じ動きをしている機械のみがある。まるで、別の建物の中に入ったみたいだ。

 そこは何か、そう問われると……

 

「工場?」

 

 小さなパーツが所狭しと並び、それを金属のアームが組み立てて、下にあるベルトコンベアに置いている。

 

「動いてるみたいだね。何作ってんだろ」

 

 危なくない程度に近づいて、それぞれの部品なり組み立て工程なりを覗き込む。

 出来上がっているものは手くらいの大きさで、前面が液晶で、下部に一つだけボタンがついていて……

 

「ねえ、あれってマジフォンじゃない?」

 

 ラムの言う通り、それはマジフォンだった。何百何千という最新鋭スマホが、ベルトコンベアに置かれて流されている。

 

「なんてこと。どうやっても見つからなかったマジフォンの生産拠点がこんなところに……」

 

 アイエフが息を呑んだ。

 いやまさか、こんなところに誰がどこで作ってるのかも分からないものが作られているなんて。もっと何か、ヤバいものがあると思っていたんだけど……

 

「みなさん、ここまで来てしまったのですね」

 

 施設内に響き渡ったのは、こもりの声だ。

 

「無事だったか」

「ええ、なんとか。ですが……私がこのまま学習を続ければ、人々の敵になります」

「どういうことだ?」

 

 俺は見上げて喋った。

 

「マジフォンを作ることで、どうやって? いや、シーリィの言う通り、いずれは機械兵を量産するようになるのか?」

「詳細は……わかりません。ですが、元々そういう目的で造られたのです。ですからこの先、私がこうやってまともでいられる保証はありません」

 

 知られている情報は、あくまで必要な分だけか。よくある話だが……

 

「あのシーリィというロボットがやろうとしていたように、消してもらったほうがいいのかもしれません」

「いやどす」

 

 俺はきっぱり言い放った。

 

「俺は断固いやどす」

「先ほどは、あなたもAIに恐怖を感じていたのでは?」

「さっきはさっき、今は今。よそはよそ、うちはうち!」

「最後のは違う気がします」

 

 俺だって違うと思いながら喋ってるよ!

 

「成り行きだが、結果としてはせっかく俺が足止めして助けたんだ。わざわざ守っておいて壊すだなんて、そんな馬鹿なことしたくない」

「ですが……」

「それに、考えて喋るなんて、四捨五入したら人間みたいなもんだしな。心境的には壊すっていうか、殺すになっちまう」

「それは区切りがでかすぎだけど……マジモンのAIがVTuberなんてエモエモのエモだもんね」

「みなさん……」

 

 問答を聞いて、ネプギアが、あ、と声を上げた。

 

「このままこの工場にいて学びを続けるのが危険なんですよね。こもりさんのアクセス権限をある程度制限して、別のハードに移し替えるのはどうでしょう」

「ぎあちー名案! 出来ることが限られてるならここを動かすなんてことできないっしょ!」

「良い環境にいれば、きっと良い学習をしますわ。処理なんて物騒なことにはならないはず」

 

 そうそう。人間と接したいんだったら、そうしたらいい。ああやって配信してるくらいなら、害はないだろう。

 

「じゃ、マホ、さっさとこもりを吸い上げちゃってくれ」

「あいあいさー!」

 

 工場の中心にあるPCに、マホは自分の端末を繋ぐ。

 一旦こちら側にこもりのデータを保存して、いらない権限等をろ過して、別のところへ送る算段だ。

 膨大な情報量も扱えちゃう、そう、マジフォンならね。

 

「転送先はどうする?」

「っ! はい、はい! わたくしのところがいいですわっ!」

 

 おおっと、ベール様が跳ねている! 93センチ! 93センチが跳んでおります! いや実際93センチ浮いてるわけではありませんが、でも93センチ跳ねております! どうですか解説のロックスさん!

 これはねー、ついつい目で追ってしまいますよねー。

 

「ま、待ってください。まだ私は答えを出せていません」

「じゃあ吸い出してる間に考えといてくれ」

「あなたたちもちゃんと考えてくださいっ」

「はい考えた。じゃ、マホ、よろしく!」

「すいっちおーん!」

「あーれー!」

 

 

 

 

 洞窟の中での事件がひと段落し、俺たちは教会に戻ってきていた。

 今、ベール様が家守こもりに夢中だった間に起きたこと、さらに俺たちの旅について、ネプギアが説明しているところだ。

 

「怪我はないか、マホ」

「ぜーんぜん! ゆにちーが守ってくれたもん。ねー」

「へえ、優しーい」

「た、たまたま近くにいただけよ、たまたま」

 

 ユニはぷいと顔を背ける。テンプレツンデレだ。別に恥ずかしがらなくてもいいのに。

 

「それよかロックスのほうこそ怪我したんじゃない?」

「んー、まあ、ちょっとだけな。ほんのちょっと、かすり傷」

「ほんとぉ? 突っついちゃっても平気?」

「こらやめろ、ハレンチ!」

 

 気軽に俺に触るな。あんま舐めたことすると親友にするぞ!

 

「気になってたんだけど、マホってロックスと仲良いのに、あだ名で呼んだりしないのね」

「やー、ロックスにもあだ名つけてたんだけど」

「男の名前じゃない」

「ってさ」

 

 お、馬鹿話してる間に、ネプギアとベール様の話が終わりそうだぞ。

 

「……というわけで、協力してほしいんです」

「もちろんですわ」

 

 プラネテューヌの奪還のために力を貸してほしいというネプギアのお願いを、ベール様はあっさり聞き入れた。

 

「わたくしが、ネプギアちゃんの頼みを断るわけありませんもの」

「VTuberに夢中で無視してきた人の口から出た言葉とは思えないな」

「何か言いまして?」

「いえ! ベール様は寛大で優しくて頼りになるなあって! よっ、大陸イチ!」

 

 綺麗! 美人! 包容力の塊! そんな女神様に対して懐疑的な目で見るわけないじゃないですか!

 

「そういえば、そちらのお二方はどなたですか?」

「ぴーしー大陸の美少女コンピュータエンジニア、マホでーす!」

「ロックス(G.C.2007~)はぴーしー大陸出身の青年*1

「なぜそんなwikiみたいな説明……その注釈どうやって喋ってるんですの?」

 

 わあ、ベール様にもツッコまれた。

 

「あなたたちがロボットを食い止め、こもりるを救ってくれたのですね。感謝いたしますわ」

「うんうん、ロックスお兄ちゃんもマホお姉ちゃんもありがと!」

 

 ベール様の持っている端末から、家守こもりの声が聞こえる。

 あの工場の管理をしていた彼女は、今やただのVTuber。配信を生きがいとしているAIとなった。

 当然あの工場の管理などの権限は剥奪。その他、危険なところにアクセスすることも出来ないようにしている。そこらへんはマホとネプギアの管轄で俺は一切分からないけど。

 

「ふ、ふん! 別にあんたなんかのためじゃないんだからね!」

「文章だけ見るとゆにちーっぽいね」

「あ、アタシはそんなテンプレみたいな台詞言わないわよ! そうよね、ロム、ラム!」

「「……」」

 

 有罪だって、ユニ。

 

「これからはベールお姉ちゃんのサポート兼妹兼VTuberとしてやっていくよ!」

「ふふふ、いつでもこもりると一緒ですわ」

 

 大切な『妹』といつでも一緒にいられるということでベール様はご満悦。骨抜きにされて、実質働いてるのがこもりにならなきゃいいけど。

 まあ、ベール様とこもりがいれば、リーンボックスはどうにかなるだろ。教員の人も見えないところで頑張ってたみたいだし。

 

 さて、リーンボックスでの用事は済んだわけだが、問題が片付いたわけじゃない。

 人間を『処理』しようとしていたこもりが管理していたのはマジフォンを作る工場だった。ということは、マジフォンは人に害を与える物だってことだ。

 マジフォンと人間の処理をどう結び付けるつもりだったのか、そもそも誰がなんのために作った工場なのか、施設管理のみを任せられていたこもりには分からないらしい。

 

「工場に関しては、無断で生産していたためという名目で稼働停止はさせましたが……今出来るのはこれくらいですわね」

 

 あらゆる人の手に渡ったマジフォンを禁止してしまえば反発が起きる。ネプギアやマホ、アンリがいくら調べても危険はないと証明されているため、理由も曖昧なものにならざるを得ない。それでは誰も納得してくれないだろう。

 結局、現状はそのまま、マジフォンの普及に関しては何も言えない状態だ。

 

「一番大きな問題は、あのシーリィってロボットか」

 

 あれの目的も分からない。俺と戦いはしたが、工場の機械たちとも敵対していた。工場自体破壊しようとしていたようだし……単純な敵じゃないって感じがする。

 

「あんなロボット、見たことないですね」

「ネプギアも知らないとなると、相当ね。犯罪組織が極秘に作った兵器とか?」

「だとすると、こもりるを狙った理由がわかりませんわ。攫うならともかく、破壊だなんて」

 

 うーん、そうか、犯罪組織に犯罪神も絡んでる可能性があるのか。というかそっちのほうが有力な気がするなあ。

 

「ロックス、あんた戦ってる時に何か言われたりしなかった?」

「……いや。引き摺られっぱなしの撃たれっぱなしだったよ」

 

 俺以外のみんな、シーリィから離れていたから会話は聞いてないはず。

 時間稼ぎ含めて結構喋ったけど、その内容はしっちゃかめっちゃか。将来のことだとか、この腕輪が危険だとかどうとか。伝えておくようなことはない。

 

「バズール現象に犯罪神に、加えてロボットか……ま、考えても仕方ない」

「そうですね。今は一刻も早く次に行かないと」

 

 分からないものは分からない。推測を立てるにも材料が少なすぎる。

 次だ次!

 

「あーしたちの次の目的地は?」

「ラステイションだよ」

 

 マホの問いにネプギアが答える。

 工業が盛んなラステイション、そこにいるユニの姉であるノワール様が次の説得対象だ。

 噂では結構厳しめのお方で、それゆえにかなり栄えていたりして技術もあって、四か国の中ではシェアも多いほうらしい。

 

「それじゃ、ここでお別れね」

 

 アイエフが言った。

 

「私はイストワール様に任された仕事があるから。あの工場のことを調べないといけないの。これだけでも調査に何日かかることやら」

「たまには実家に顔出しなよ」

「親なの?」

 

 バズール現象の危険性もあってめちゃめちゃ多い人数で調査は出来ないから、余計に日数かかることだろうな。俺たちの旅の終わりのほうが早かったりして。

 

「そうか。プラネテューヌの諜報員だもんな、アイエフは」

「そうよ。私は……わたしは、ちょうほういん……わたしはちょうほういん……」

「顔溶けてる顔溶けてる」

 

 マホのせいで自信なくしてNPCみたいになってるじゃん。

 

「ネプギアちゃんたちのため、わたくしもついていきたいところですが……」

「だめだよ、ベールお姉ちゃん。リーンボックスのためにもちゃんとお仕事しないと。がんばれ❤がんばれ❤」

「はうっ、こもりるがわたくしのためにエールを……がくっ」

「わああ、ベールさん!」

 

 【悲報】こもり、ベール様をノックアウトさせる。

 いや仕事させなさいよ。ネットの海から必殺の一撃を拾ってくるんじゃありません。元の場所に返してきなさい。

 

 幸せそうな顔で倒れてしまったベール様を目にして、ネプギアたちは慌て始めた。そんなわちゃわちゃ空間を横目に、俺は少し離れて、アンリに連絡を取る。

 今回はバズール現象が起きなかったからデータを取れなかったのが残念だ。ん? バズール現象が起きたほうが悪いのか? お?

 

「──というわけで、アンリ、次はラステイションに行くよ」

〈分かりました。無事に済んで何よりです〉

 

 現場に出てきた割にマホに一切の怪我もないし、順調順調。

 

〈後ろ、騒がしいですね〉

「ベール様が鼻血出して倒れてるくらいだから問題ない」

〈それ問題ないの?〉

 

 お。

 

〈……どうしたの、いきなり黙っちゃって〉

「いや、やっぱりいつもの喋り方が一番いいなって。染み渡るわ~」

〈ばか〉

 

 耳元でアンリに「ばか」って言われるのぞくぞくする。文字数に対して俺へのダメージ量バグってんだけど。もっとやってくれませんか?

 

「じゃあ、また着いたら連絡する」

〈……〉

 

 あれ、今度は向こうが黙ったぞ。

 

「アンリ?」

〈な、なに?〉

「急に黙ってどうしたんだ。らしくない」

 

 俺のボケにあえて無視を決め込むことはあっても、まともな話には応対してくれるから、ぼーっとしてるのは珍しい。

 こんな世の中だ。何か気がかりなことがあるなら溜め込まないほうがいい。

 

〈あのロボットが言っていた言葉が気になるの〉

「腕輪を破壊して、俺を助けるって言ったことか?」

 

 SVシステムを通して、アンリは俺の見聞きしたものをリアルタイムで確認している。だからシーリィの言ったことも聞いていた。

 第一目標だとか救うだとか。他にも不穏なことは言っていたが……

 

「気にするなよ。考えても仕方ないことだ」

〈でも……私は全貌が分かっていないものをあなたに使わせている責任があるもの〉

 

 このSVシステムは、あのマジフォンと似ている。誰が作ったか、何の目的で作ったか、どう扱おうとしていたのか。これを使って、最終的に行きつく先は何なのか。

 アンリに理解できないなら、俺にはもっと分からない。だけど、

 

「パソコンだってゲームだってスマホだって、俺は仕組みをよく分からないまま使ってる。それとおんなじだよ。それはそういうものだって、考えないようにしたほうが楽だぞ」

 

 どういうものであれ、俺はこれを使ってモンスターと戦えている。もし無かったら、シーリィの言うことやることに抗えなかっただろう。そもそも拠点から出ずに、今も燻るだけだったに違いない。

 これは選択肢を与えてくれた。使い方さえ間違わなければ、薬も毒も同様に益となるのだ。

 

「SVシステムは戦いの道具。あのシーリィってのは敵。これくらい単純に捉えたほうがいい。じゃないと、頭の中ナゾばっかりになるぞ」

〈……ロックスはそれでいいの?〉

「もちろん。だからシーリィの言ったことだって他のみんなに言ってないわけだからな」

 

 今も、ベール様の介抱で忙しいみんなに背を向けて話を聞かれないようにしてるわけです。

 

「心配しなくても、大抵のことは大体何とかなる」

〈そう、ね。今は気にしないでおく〉

 

 ほんの少し、アンリの声に元気が灯った。

 うんうん、そうじゃなくっちゃ。拠点にいる大人たちが暗いまんまなんだから、俺たちまで引きずられちゃいけないだろ。

 アンリも子どもたちも、みんな笑ったままでいてほしい。

 

「それじゃ、オペレーターのアンリ殿、これにて交信終了」

〈はい。進展があったら教えてください〉

*1
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