あらすじ:ラステイションに到着した俺たちは早速教会に向かい、執務室にて女神ノワール様と出会ったのであった。
「ろ、ロックスさん? 誰に説明してるんですか?」
ラステイションは教会が閉まっているということはなく、教会員に話をしたらあっさり通された。
そこにいるのは、黒髪をツインテールにした美少女。キリっとした目つきの、この国の女神様。ブラックハートことノワール様だ。
「お、お久しぶりです、ノワールさん」
ノワール様はパソコンをカチャカチャしながら、書類に目を通して判を押している。こうやって見てる間にも紙の束がまとめられ、積み上げられていく。
「よく来てくれたわね。歓迎したいところだけど、ごめんなさい、今忙しいの。手を動かしながらでいいなら話を聞くわ」
「お姉ちゃん……」
しかもちゃんとこっちを認識して、会話までしてる。仕事ができる女神様って聞いてたけど、これほどとは。
しかし、その様子から違和感を覚えたのは俺だけじゃない。
二年ぶりに妹が顔を見せたのに、そんなことより、というふうに仕事を続けるノワール様。
俺は感動の再会とか分かんないけど、こう、もっとあるんじゃないの? 正直、姉妹で抱きつく
「お、お姉ちゃん!」
素っ気ない態度の姉に、ユニは意を決して先ほどよりも幾分か大きな声を出した。
「ああ、ユニ、戻ったのね」
しかし、その一言と一瞥だけくれて、ノワール様は再びパソコンと書類に向き直った。
「……それだけ?」
「イストワールからの報告で無事だったのは知っていたし、今は再会を喜んでいられる状況じゃないの」
それって……結構冷たいんじゃないの。俺だったら泣いてるね。
これがこの姉妹にとっての適切な距離感なのだろうかと思ったが、ユニの悲しそうな表情を見るに、どうやら違うようだ。
キーボードを叩く手を止めず、ノワール様はちらりとこちらを一瞥した。
「その人たちが、イストワールの言っていた助っ人?」
「はいはーい! ゆにちーたちのズッ友、電子電脳ソフトウェアのことならなんでもお任せ! マホでーす! そしてこっちが──」
「ラステイション百景、誰も紹介してくれないまま話が進むので立ち往生する男、ロックスです」
「そんなのラステイションの景色にしないで」
ツッコミはするんだ。
「俺とこいつのことは気にしないでください。空気と思ってくれれば」
「あーしは山の上の澄み切った空気」
「俺が淀んだ空気みたいな言い方」
「あーもう分かったわ。ユニたちの仲間なんでしょ」
はいはい、と呆れ気味に返してくる。
ちょっと和ませようとしたのに、全然、空気が重くなってどんよりしてるわ。
「それで?」
「……」
ほらもぉ~、ユニちゃん黙っちゃったじゃーん。
代わりに、ネプギアが前に出る。
「あ、あの、ノワールさん、私たちと一緒にプラネテューヌを──」
「悪いけど、その頼みは聞けないわ」
ばっさり。ノワール様は断った。
「ラステイションの情勢は安定しているけどまだ油断はできない。他に戦力を割く余裕はないの」
ここらへんの事情は、ルウィーやリーンボックスと同じだ。
いつどこで起きるか分からないバズール現象。国民への自粛要請。それに伴って打撃を受けた産業への補填。それに加えてというか、当然国として通常運営もしてかなければならない。
まあ……VTuber見てた人もいるけど。あれだって息抜きだ。リーンボックスが崩れることになってないのは、一応最低限のラインは保っているからに違いない。多分。
「さあ、これで話は終わり。もう帰って──」
「お姉ちゃんのバカ!」
今まで沈黙していたユニが、ついに我慢しきれなくなって俺の隣で声を上げた。
耳、耳がキーンて……
「ゆ、ユニ?」
「どうしてそんな冷たいこと言うの!? お姉ちゃんはいつもそう! 自分の都合ばっかりで、アタシの気持ちなんてちっとも考えてくれない! そんなお姉ちゃんなんか、大っ嫌い!」
目を丸くしたノワール様を置いて、ユニは一方的に捲し立てた後、部屋を出ていった。
女神候補生はみんな、姉のことが大好きだ。同じく女神様も、妹のことを愛している。ブラン様のように、二年間行方不明だった自分のことを心配してくれているはず、とユニは思っただろう。
その姉から素っ気ない反応をされたら、ショック通り越してショッキングピンク。ピンク?
「の、ノワール様、ユニを追いかけなくていいんですか?」
「さっきも言ったでしょ。私に他のことをしてる余裕はないの」
促しても、ノワール様は動かない。
ユニを追いかけるべきか、ノワール様に詰め寄るべきか。
プラネテューヌ奪還計画のためには、女神様の協力が不可欠。無理ですと言われて、俺たちもはいそうですかと下がるわけにはいかない。
でもなあ……
「空気、キツい」
「ちょっと、そういうこと言っちゃだめだよ」
「いや、しりとりしてただけだって。この空気があまりにもキツキツキッツだから」
「言ってる言ってる」
説得しようにも、岩みたいに固い意志のノワール様へかける言葉が見つからない。
国なんてデカいものを背負ってる人なのだ。まだまだ世間知らずの俺が出来ることなんて……
「これは終わりね。さ、次の仕事に取り掛からないと……」
ッターン! と大げさにキーを押したノワール様は、俺たちが見てる中で初めて立ち上がった。立った、ノワール様が立ったァ! ……と思ったら、その体はぐらりと傾き、倒れた。
「の、ノワール様!?」
すぐさま駆け寄って、体を起こす。思いっきり頭から床にぶつかってたけど、大丈夫か?
「ど、どう、ロックス?」
一言で言えば、混乱状態。
頭の上では星が舞っていて、目がぐるぐると渦巻状になっている。
うん。
「二次会行けるって!」
「教会の人呼んできます!」
おお、ネプギア、ついに俺のことを無視するようになって……お兄さん嬉しいよ。
△
ノワール様はどうやら、かなり無理を押して仕事をしていたらしい。それに加えて精神的ショックも大きかったようだ。ああ見えて、妹から大嫌いなんて言われたのが相当なダメージだってわけ。まあそりゃ、好きな人にあんなこと言われたら終わりだよな。俺だってアンリに言われたら、もう全部諦めて引きこもっちゃう。
症状は過労。女神様でも……というか、女神様だからそうなってしまったというべきか。今は教員の人に寝かせられている。幸い命に別状はないそうだけど……
「ユニ様は引きこもりになるし、ノワール様は倒れてしまうし、一体どうすれば……」
教会の人が、ロビーを行ったり来たり。落ち着かない様子でぶつぶつと言いながら頭を抱えていた。
ユニはあれから自室に籠ったきり、いくらドアを叩いても反応がない。
そういうわけで、つまりこの国の女神が二人とも動けない状態にある。運営の要がいなくなってしまって、部下である教会員にとってはそりゃおろおろするしかないだろう。
なんなら俺もおろおろしてる。この先どうしたらええねん。
「あの、私たちでラステイションをお手伝いしませんか?」
ここでじっとしているわけもいかず、かといってラステイションから離れるわけにもいかず、どうしようかと頭を巡らせていると、ネプギアがそう提案した。
「お手伝い?」
「今のままじゃ、ラステイションがもっと大変になっちゃうかもしれないので。ノワールさんが起き上がるまで、私たちで出来ることをやりましょう」
「さんせー!」
ぱっとマホが手を挙げる。ロムとラムもうんうんと頷いていた。
「ロックスさん、いいですか?」
「決定権俺になさそう。いいよ」
このお人好しめ。困ってる人見つけたらうずうずするんだから、まったく。
俺たちがノワール様と話せない以上、じっとしてられない症候群のネプギアに従ってためになることをしたほうがいい。そうして恩を売ってノワール様が断れないようにしてやるのさ。
「ラステイションの人たちが困ってることを解決しよう。その後でユニとノワール様を話し合わせて仲直りさせて、協力も得て解決といこう」
「で、でもユニちゃんもノワールさんもいじっぱりだから、上手くいかないかも……?」
「そうなったら俺が土下座でもなんでもして本心をぶちまけさせるよ。綺麗だぞ俺の土下座。今度こそラステイション百景に認定させてやる」
「見せて見せて!」
「見たい……!」
「後でね、後で」
度肝抜いてやるからな。
「そういうわけで!」
「ノワールさんの分まで、わたしたちもお手伝いします」
「本当ですか! ノワール様は自身のシェアエナジーを使ってまで街を維持していたみたいで、目覚めてもしばらくは動けなさそうですから、とても助かります!」
ラムとロムに跪き、教会員が礼をする。
ノワール様のあの感じだったら、他所の女神の力は借りないとか言いそうだけど、教会員はそうも言ってられないよな。特に今みたいな状況だと。
「私どもではどうしても対処できない案件がありまして……」
「そのお仕事って、どんな内容なんですか?」
「自粛要請に応じない住民の説得です」
ほう。説得、とな。
ラステイションは、リーンボックスと同じく国民に対して外出自粛を呼び掛けている。それなのに応じない人がいるなんて、平和維持を掲げる教会としては悩みの種だな。
「バズール現象とかは問題ないのか?」
「一部以外の住民は自粛に応じているので、モンスターの被害はそれほど無いのです。ただ、意地でも仕事を続けようとする者がいまして……」
「だから説得か」
「ええ。お願いできますか?」
そんなん聞いちゃったらもううちのネプギアは頼まれなくても飛んでいっちゃうから。俺も手伝いますよ。
「よし、やるか」
私、本気出しちゃうわよ。
髪ファサッ、目じりパチッ、靴紐キュッ。
「身だしなみチェックしてないで、早く行きますよ、ロックスさん」