偽次元のプリズム【完結】   作:ジマリス

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12 さながら修学旅行の夜みたいだね

 教会の人から聞いた話によると、ラステイションから少し離れたこの鉱山で働いてる人が、自粛要請に応じない人たちらしい。

 

「鉱山に、そんなに人がいるのか?」

「ラステイションは工業が盛んですから、材料である鉱石の採掘はとても重要なお仕事なんですよ」

「20へぇ」

 

 後でメロンパン入れあげる。

 てくてくと歩いていくと、そこには立派な山が。正面に大きな穴が開いていて、中心にはトロッコのレールが敷かれている。どうやらそこが入口らしい。

 

「へえ~、ここが鉱山かぁ。入ってみようかな。ウィン」

「なんでコントみたいな入り方してるの?」

「自動ドアないよ、ロックスさん……」

 

 中に入って少し歩くと、早速ツルハシでカンカン叩く音だったり、ドリルが唸る音が耳に入ってくる。

 この前の洞窟よりも狭いけど、窮屈はしない程度の空間にこれでもかというくらい屈強な男たちが汗水垂らして働いていた。

 活気あるぅ~。あっちゃいけねえんだよ。

 

「この中でも外でもバズール現象が発生したら、逃げ場はないな」

 

 入口は広かったが、これだけの人数が一気に外に出られるほどじゃない。詰まってる間に後ろからズドン、パリン、ボンだ。

 外に出ても、近くに隠れるところや逃げ場はない。ラステイションの街までは数十分ほどかかるわけだし。

 

「まあ、手間はかからないだろ。こっちには女神候補生が三人もいるわけだしな」

 

 そんなふうに思っていた時期が、俺にもありました。

 

 

 

「──あの! そういうわけなので、他の鉱山夫のみなさんにも避難するように伝えてもらえたら──」

「帰ってくれ」

 

 親方に話をつけようとしたところ、めちゃめちゃ門前払いです。

 

「鉱山の仕事はこの国の産業の要だ。俺たちはここでの仕事に誇りと責任がある。ノワール様のご命令ならともかく、よそ者の指図は受けん」

 

 そのノワール様は倒れてる……なんて言えるはずはない。国のトップが全く動けないなんて一大ニュースだ。広まって、国民に不安を与えるわけにはいかない。

 

「だけどモンスターがいつ出てくるかわからないんだぞ」

「追い返してやる」

「そりゃ見たことないから言えるだけで……」

「何を言われても俺たちの対応は変わらん」

 

 何よりも命が大切だろってぇ! ノワール様も絶対そう言うってぇ!

 この頑固者どもめ! 分からずや! 意地っ張り! お馬鹿さん❤

 

「家族のために働いてるやつだっているんだ。働かなくなって、どうやって養えってんだよ」

「それは……」

 

 補填します、とは口が裂けても言えない。彼が言うように俺たちはよそ者だ。勝手に援助や制度を決められたりはしない。

 それはそうとしても、もうちょっと歩み寄りの精神見せてくれたってよくない?

 

 俺たちが言い淀んでると、親方はますます不機嫌そうな顔になった。

 あ、『さあほら、帰った帰った!』って言いそう。

 

「さあほら、帰った帰った!」

 

 言ったわ。

 

 

 

 

「ぐぅ」

「ぐぅの音出ちゃった」

「それって普通出ないんじゃ……」

 

 取り付く島もないとはこのことである。

 あの野郎~、腕組みしてどっしり構えやがって。ラーメン屋の大将か?

 

「どうする。ユニかノワール様を連れてこないと、てこでも動かなそうだぞ」

「ね、ぎあちーが危ないって言ってるんだから、ちょっとは聞いてくれてもいいのに」

 

 可愛い女の子に言われてもびくともしないあたり、本気なんだろう。俺も女装して行ったほうがよかったかな。

 

「でも、あの人たちを放っておけないわ」

「うん。バズール現象がいつ起こるか分からないから、きけん」

「かと言って、説得は無理だな。ああいうオヤジには、どれだけ理由を説明しても無駄だ。生活や家族のこと出されたらこっちは強く言えないし」

 

 命あっての物種だが、仕事がなくなれば遅かれ早かれである。現状を訴えようにも、訴える先は今いないわけで。

 

「あの、それならいっそのこと、説得するのは諦めて別の方法を考えませんか?」

「別の方法てーと?」

「いつバズール現象が起きてもいいように私たちが泊まり込みで警護をするんです」

 

 とんでもないこと言い出した。

 

「でもネプギア。バズール現象はいつ起きるか分からないのよ?」

「ずっと待っているのは、大変じゃないかな?」

「でも鉱山のみなさんの気持ちを考えたら、それが一番いいと思うんだ」

 

 今、街の外で仕事してるようなのは鉱山の人たちぐらいだし、その人たちが動かないなら、俺たちもその場にいたほうがいいというのは分かる。最善かどうかは知らん。

 

「あーしは一緒にやるよ!」

 

 早いよ賛同が。もうちょっと迷うべきことなんじゃないの?

 ああもう、分かったよ。

 

「一回危険を体験したら聞く耳持つようになるだろうしな。いいだろう、お泊り大作戦だ!」

「それだけ聞いたらめっちゃなごやかな作戦ぽいね」

 

 

 

 

 夜。鉱山の外。

 テントを張った俺たちは、交代で見張りをすることになった。

 まずは、俺とネプギアが起きている番。マホとロム、ラムはテントの中ですやすやと寝息を立てている。

 普段はマホももう少し遅くまで起きているのだが、いつ襲撃があるかも分からない。体力は温存しておくに限る。

 くっちゃべっていたので早く寝るように怒って数度、ようやく寝ついた三人の顔を確認する。美少女が気持ちよさそうに寝息を立てている。こんなん時間来ても起こせねえでしょ。

 念のため、一度街に戻ってコーヒーやらエナジードリンク買ってきてよかった。俺よ、今夜は寝かせないゾ☆

 

 にしても、もうだいぶ遅い時間だというのに、まーだ鉱山の仕事終わりませんかね。仕事に誇りを持ってるっていうか、仕事に取りつかれてんじゃねえの。

 

 テントの外でランタンを点けて、草場の上に腰を下ろす。

 

「あの、それを見せてもらえますか」

 

 ネプギアは俺の腕輪を指差した。

 そういえば、リーンボックスで言ってたな、中を見せてほしいって。

 壊すなよ、と忠告して腕輪を外して寄越す。ネプギアは受け取ると、自分の端末を繋いで、上機嫌な顔でいじり始めた。

 

「それは?」

「Nギアと言って、プラネテューヌで量産されている携帯端末です。私のこれは、それなりに改造していて、ハッキングとか、別次元との交信とか色々出来るようにしてますけど」

「それなりね」

 

 別次元とかとんでもないことが聞こえたような気がするけど、聞かなかったフリをしておこう。俺はキャパオーバーの時ははっきり言うタイプ。

 

「わあ、すごい。パーツ収納の技術があるだけじゃなくて、修復の機能まで備えてるんですね。この小さな腕輪の中にそれだけを詰め込めるなんて、作った人はとても賢い人ですね」

「へえ、そうなのか」

「そうなのか、って分からずに使ってたんですか?」

「機械については門外漢。理解できるほど頭良くない」

 

 この先理解できる気もしない。

 数理は苦手で、しかも勉強できる場も状況も無くなったわけだしな。これからもどうなるか分かんないし。

 

「使えるもんは使う。選り好みしてるほど余裕があるわけじゃないからな」

 

 こんくらいの精神でいたほうが何かと楽だ。未来のことなんて、心配するだけ無駄無駄。

 なので今のことだけ考える。とりあえず、この鉱山の件に神経尖らせるのが、俺のやること。

 

「……今さらですけど、ロックスさん、体調は大丈夫ですか? 疲れてなかったりしませんか?」

「どうした、いきなり」

 

 楽しげにしてたネプギアは、それまでの表情を曇らせ、ふとそんなことを訊いてきた。

 

「あなたはこの旅に同行してくれています。それってすごく辛いことだと思うんです。今までと違う国に連れ回され、普通の人ならしない戦いを経験して、世界を平和な状態に戻すなんて大それたことの一部を担わされて……」

「そこまで言うなら見張りとか言い出さなかったらよかったのに」

「す、すみません」

「冗談冗談。こうやって外でキャンプっていうの一度やってみたかったから丁度よかったよ。拠点じゃずっと屋内だったから」

 

 陽の当たらない地下生活だったよ。いや、実際にはあの拠点、三階建てだからむしろ地上生活だったけど。それ普通の生活じゃん。

 

「どうしてそういうふうにいられるんですか?」

「そういうふう、とは?」

「そうやって、普通みたいに振る舞えるものなんですか?」

 

 普通みたいに、ねえ。

 

「別にそんな訊かれるほどのことじゃないよ。これが俺ってだけ。それにSVシステム使って戦うのは、変身ヒーローみたいでいい気分だし」

「本当……ですか?」

 

 あら窺うような上目遣い。

 

「やけにつっかかるじゃないか」

「事情があるなら聞いておきたいんです。ロックスさんは大事な仲間ですから」

 

 よくもまあそんなこっ恥ずかしいことを正面から言えるな。

 これが、若さ……ってヤツ。いやネプギアの年齢知らないけど。見た目じゃ分からないという女神の罠。

 よかった。『何歳に見える?』とか言われなくて。

 

 夜は長い。ネプギアも引き下がらなさそうだ。一対一じゃごまかしづらいし。

 それに……彼女一人になら、話してもいいだろうか、と思う。

 

「誰にも言わないって約束してくれるなら」

「誰にも言いません」

 

 即答。固そ~、口。あずきバー並み。

 俺はそれを信じて、胸の内を開くことにした。

 

「さっきのは、まあ嘘じゃない。力を手に入れたからそれを使いたいってのは本当。二割くらい本当だよ」

 

 そう前置きして、続ける。

 

「拠点、さ、子どもたちいっぱいいただろ」

「はい」

「そのうちの結構な人数が親を亡くしてるんだ。ぴーしー大陸崩壊のせいで。みんな何か失くしてる。アンリも両親を……マホだって、何にも言ったりしないけど、時々すっごい悲しそうな顔するんだよ」

 

 普段明るい奴が見せる、今にも死にそうな表情とのギャップといったら、こっちまで胸が苦しくなるほどだ。

 

「俺はみんなと違って、ぴーしー大陸が崩壊した時は家族でプラネテューヌに観光に来てたから、両親も健在で、失った実感も実はそんなにない」

 

 いつの間にか、感じる間もなく拠点生活に巻き込まれた。国がなくなっただなんて、どこか遠い星の話みたいに聞こえた。

 

「拠点のみんな、結構経ったからだいぶマシになったけど、まだ余裕があるわけじゃない。だから、余裕のある俺がやるしかないってわけ。武器だって手に入れたしな」

「……拠点のみなさんの希望になろうとしてるんですね」

「うーん、まあ、なれたらって感じだけど」

 

 女神様たちが世界の危機に抵抗して、女神候補生が世界を救う旅に出ている。だから本当は俺がでしゃばる意味なんてないのかもしれない。

 それでも、何かやってる感が欲しかったのかも。

 

「でも……ロックスさんも、誰かを失ったんですよね? 助からなかった人はたくさんいるって聞きました。家族でなくても、友達とか……」

 

 そこらへんは、俺と同年代のやつが拠点にほとんどいなかったことから察してほしいもんだ。

 

「……でも、他のみんなよりは大したことないんだと思う。子どもたちも、マホもアンリも、最初は喋れないくらいだったんだから」

 

 あまりの喪失に、情緒が不安定な人が多かった。急に暴れだしたり、泣き出したり、逆に大人しくなったり、全然動かなかったり。

 あの頃と比べたら、今はずいぶんと楽になったもんだ。

 

「……やめよう、やっぱこんな話。ただでさえ暗いのにもっと暗くなっちまう。別の話題にしよう。○○の話とか書いてるサイコロない?」

 

 もっと面白いネタ仕込んどいたらよかったな。ほらもう重苦しい。実際に重量があったらトンはいってるね。

 ええっと、楽しい話楽しい話。あーでもないこーでもないと考えていると、ネプギアがぱっと顔を上げた。

 

「そういえば聞きたかったんですけど」

「ん?」

「アンリさんのこと、好きなんですか?」

「ゲッホォア!!」

「ほら、前にマホちゃんが言ってたことが気になって」

 

 続けんな! 人がエナドリ噴いてる途中でしょうが!

 

「げほっ、げほっ……気になるかあ?」

「私、気になります!」

 

 こっちが引くくらいぐいぐい来んじゃん。

 

「…………まあ、もう隠せないことだし……そう。そうだよ」

「わあ、あの、え、え、いつどこで好きになったんですか?」

 

 こちらに向き直りつつ、腕輪を返してきて、めちゃめちゃ目をキラめかせて聞いてくる。夜空といい勝負してるね。

 恋バナ好きなあたりは、やっぱり女の子だな。

 

「ぴーしー大陸が無くなったって聞いてプラネテューヌがモンスターに占拠された後、ワケが分からないまま拠点に案内されて、まずは腹ごしらえって食堂に連れられた。そこで出会ったんだ」

 

 絶望と諦念の空気が漂っていた中で、唯一色がついてたように華やかだった。本人は飾りっ気ないんだけど、でも俺にとってはこれ以上ないくらい。

 

「何を喋ったか覚えてない。余計なこと言ったかも。アンリの反応は薄かったけど、でも嫌がってる感じはしてなかった……と思う。飯を食い終わる前にもう惚れ込んでた」

 

 それで、まあ年が近いってのもあって、どんどん喋るようになりましたとさ。

 

「単純だと思うよな。国失ってなにしてんだって。俺もそう思う。でも残念ながら、男ってのは可愛い女には絶対勝てないんだ。種族的な弱点だよな。だから俺は悪くない。誰かが悪いって言うなら、アンリだ。可愛すぎるだろどう考えても」

「早口になってますよ」

 

 くすくす、とネプギアは笑った。

 俺は熱弁してたのが恥ずかしくなって、エナジードリンクを飲んでごまかす。

 

「正直、戦う理由の一つに、アンリがいる」

「アンリさんが?」

「『ヒーローになって』って言われた。滅多にお願い事を言わない奴だからさ、愚かな男の俺としては叶えたくなるってもんだ」

 

 この旅についてきたのは、SVシステムを使いこなせるようにならないと、というのもある。アンリがそのデータを必要としているのだから。それにはネプギアたちに同行するのが手っ取り早い。

 だけどそれ以上に、『私たちのヒーローになって』というアンリとの約束がある。アンリの真剣なお願いは初めてだった。だから、俺は戦った。戦ってる。

 その約束は今も続いている。拠点にいる人たちの、子どもたちの、アンリやマホのヒーローにならなければいけないのだ。

 

「今の、アンリには言わないでくれよ」

「言わないでいいんですか?」

「いいんだよ。今そんなこと言われても迷惑だろ。それどころじゃない状況だし」

 

 あいつは家族を失った。本当ならカウンセリングが必要なくらい傷ついたはず。その負の感情を、オペレーターやプログラマーをやることで発散している。

 多分、それでギリギリ均衡が保たれてる。変なこと言って乱してしまうのは良くない。

 

「こういう状況だからこそ、必要なことだと思います。それにロックスさんなら……」

「あーあー、言いたいことは分かってる。ありがと。褒められて光栄だよ。だけど──」

 

 ピーピーピー! と甲高い音が鳴る。ネプギアの端末からだ。それはマホとアンリが開発したアプリから発せられる音。つまり、バズール現象の発生。

 お泊り初日に来やがるとは、運が良いんだか悪いんだか。いや来てほしくなかったから悪いわ。

 

「ネプギア、先に……って速ぁい!」

 

 俺が立ち上がるよりも早く、流星のごとき速さでネプギアは女神化して飛んでいった。

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