俺の名前はロックス! どこにでもいる普通の男の子☆
寝ないで見張りをしていたら、なんとバズール現象が発生! すぐに現場である鉱山の中に急行してみるとモンスターがいっぱい湧いちゃっていた! いっけな~い、殺意殺意! こんなにたくさんいるなんて、危なすぎるぞ☆ 一掃してやるんだから!
「う、うわあああ!」
親方に噛みつこうとしていた狼モンスターを剣で一閃。
「あっぶねえ!」
あと一秒でも遅れていたら大怪我だったぞ。
「出口は確保する! ネプギアたちはみんなをこっちに連れてきてくれ!」
「了解!」
ユニたちが、すでに戦いを始めているネプギアのもとへ向かう。
バズール現象は鉱山の奥から発生したようで、そこから次々とモンスターが押し寄せてきている。しかし女神候補生が来たことでその勢いは抑えられ、鉱山夫たちは多少の怪我は追いながらも無事に出口に辿り着いていた。漏れてくる敵は、俺のほうで処理する。
「お、お前たち、どうして……」
「寝ずの番してくれた女神様に感謝しろよ」
パーティ六人中四人がすやすやだったけど。寝つきよすぎ。
「みんなー、こっちこっち! 急いでー!」
人々はマホが誘導してくれるから、俺たちは戦闘に専念。
俺も一気に片づけをしたいところだが、G・Spearで縦横無尽に駆けるには狭すぎる。ここはやはりP・Bladeで凌ぐしかないか。
バズール現象でどれだけのモンスターが出てくるかは不明。ただ共通しているのは、たった数体程度で収まらないということだ。
途中で現れたとはいえ、それを一撃で薙ぎ払ったブラン様はどんだけのお方なのよ。旅についてきてもらったほうがよかったかな。
女神候補生の脇をすり抜けるようなスピードが取り柄のモンスターが来る。ただそれだけで、あまり強くもなければ頭もよくない奴らばかりだ。出口で邪魔をする俺に向かってきては斬られる。その数もだんだん減ってくる。女神候補生がモンスターを押し始めているのだ。
「マホ、そっちはどうだ?」
〈みんな脱出したよ。今はラステイションまで避難させてる〉
よし、順調。
街にまで辿り着けば、あとは家の中で大人しくしてくれればいい。街の中だったら、万が一モンスターが入り込んでも教会員や警備がなんとかしてくれるはず。
後はこのバズール現象が落ち着くまで、モンスターを倒せば……
ピーピーピー!
またしても警告音が鳴った。
「なに!?」
「新しいバズール現象だ。場所は……」
〈うわあ!? モンスターだ!〉
耳元で悲鳴が聞こえる。
確かめなくても分かる。バズール現象が起きたのはあっち、マホのいるほうだ。
そんな馬鹿な。立て続けに発生するのも今までにないことだし、それがマホたちのところだってのもピンポイントすぎだろ……!
「ど、どうしよう? こっちのモンスターを放っておいても、あっちに向かっていっちゃう!」
ラムの言う通り。今、あっちとこっちで挟み撃ちにされている状況だ。どちらか片方でも無視すれば、逃げている人たちの命の保証はない。
同時多発的にバズール現象が起きたことはなかったから、俺と女神候補生たちで何とかなると高を括っていた。
くそ、くそ、くそ。
「ネプギアたち、ここを任せていいか!?」
居ても立っても居られなくなって、俺は返事が来る前に外へ出てG・Spearフォームに換装。空へと飛びあがる。
〈どうするつもりですか、ロックスさん!〉
「あっちは俺が行く」
△
マホ率いる鉱山の人たちは、街まであと少しのところで行く手を阻まれていた。街の門、その目前でバズール現象が起き、モンスターの大群が迫っている。
いきなりモンスターが現れたことで、腰を抜かしている人もいる。だが、その人に、敵は近寄ることが出来なかった。
「はあっ!」
綺麗な白色の髪をたなびかせ、苛烈に敵を薙ぎ払う黒の女神がいるからだ。
ブラックハート様。女神化したノワール様は、俊敏に敵を捉えて倒していく。その動きは当然、俺なんかよりも素早く、華麗。一切無駄のない攻撃と回避で、群がってくるモンスターを切り伏せる。
こういう状況でもなければ、芸術と思って鑑賞していただろう。実際、今も見惚れていた。だが、その後ろから、カマキリのように腕が刃となっている昆虫モンスターが襲おうとしているのが見えて頭を切り替える。
「ノワール様!」
それが振り下ろされる直前、俺は割って入り、槍で受け止めた。
「ぬ、ぐぐ……」
重い。
G・Spearフォームはスピードとそれによる貫通力に優れているが、防御に適した形態ではないのだ。早く戻さないと。
「だ、誰!?」
「ネプギアたちと一緒にいた男です……っ。ロックス。以後お見知りおきを!」
カマキリの腕を弾き、体を突き刺し、払う。急いでP・Bladeフォームに換装し、迫りくる別の敵を切り裂いた。
小さな昆虫を蹴り飛ばして態勢と息を整えて、モンスターたちを睨んだ。厄介なことに、まだまだ何十体と控えている。
「倒れてたのに、こんな数の敵を相手にするなんて、正気の沙汰じゃないですよ」
「そこに突っ込んできたあなたもね」
咆哮とともに向かってきたモンスターに刃を突き立てる。それを皮切りに、ノワール様へ向かっていた群が俺にも向き始めた。
あーあ、上空からちくちく攻撃したらよかったのに、俺って奴はなんて馬鹿なんだろうか。
《最適なモジュールを検索中……》
こいつらが話を聞く耳を持ってりゃあな。シーリィと同じようにちょーっとお話してやるのに。戦うことが時間稼ぎって、本末転倒というか……この使い方合ってる?
ノワール様が剣を振るたび、旋風が起こり、狙った敵以外も巻き込まれていく。圧倒的な実力とスキルの差にショックを受けそうだが、まあ、味方でよかったと胸をなでおろしておこう。
俺が目の前のモンスターに対抗するのに精いっぱいだというのに、ノワール様はなんと俺の背中を守りながら戦っている。だが、拠点でブラン様に感じたような、圧倒的な力を彼女からは感じない。過労が原因なのだろうか。まだ本調子じゃないのかもしれない。
おっと、心配してる場合じゃない。モンスターの群れに混じって、明らかにサイズの違うモンスターが現れた。
見上げるほどにでっかい体。大きな翼に、尖った牙。
どの国からも、会ってしまえば命の保証はないほど危険だと指定されている生物、ドラゴン種だ。
モンスターを狩るハンターなどからも危険視され、逃げるのが最善手だと言われるほど、人間とは別格の存在。初めて生で見た。
「でっか……アスペクト比合ってる?」
「下がってて!」
あまりの迫力に威圧されて震える俺とは違って、ノワール様はなんの躊躇いもなく真っすぐ突っ込んでいった。
ドラゴンは腕を振り上げる。ノワール様の身より太い腕だ。叩かれるだけで無事では済まないだろう。だが、その予備動作が終わる前に、決着はついていた。
とんでもないスピードで間合いを詰めたノワール様は、たった一度剣を振る。目に見えないほど、しかし鮮やかな太刀筋。芸術ともとれるすれ違いざまの一閃は、ドラゴンの首をすっぱりと斬り落とした。
「すご……」
首と分かたれた胴体は、足元にいたモンスターを巻き込んで倒れる。唖然としている俺の前にノワール様が着地した。あんなのを一撃で倒すとは、やはり女神様は規格外だ。もうあと何行か戦闘が続くと思ってたのに。
が……
「くっ、まだ敵がいるのに……」
がくり、とノワール様は膝をついた。しかも最悪なことに、女神化まで解かれている。
もっと最悪なのは、その場に倒れ伏してしまったことだ。
「ノワール様っ!」
過労で倒れるくらい体力が減っていたのに、こんな大量の敵を相手にして限界だったみたいだ。
それに教会員は『ノワール様はシェアエナジーを使って街を維持していた』って言ってたな。命を削ったうえでこんなことまでやって、もうとっくに倒れていてもおかしくなかった。
揺すっても気絶したままで、ノワール様からの反応はない。
「これはまずいな……」
逃げ出したいところだが、ノワール様を抱えて逃げるには敵は多く残ってるし、G・Spearはあの薄いアーマーを纏った状態より重くなると飛べない。
それに、マホや鉱山の人たちもまだ近くにいる。まだ俺がヘイトを買ってるおかげでモンスターがこっちに来ているが、俺がいなくなったら次の標的はそちらになる。
ここで耐えきるしかないのだ。ノワール様たちに爪を向かわせないように。それには……
《モジュール検索完了》
待ってました。
昆虫型やスライムがぴょんと跳ねて、体当たりをしかけようとしてきている。惜しいな、あとちょっとで俺を圧し潰せたのに。
「換装!」
叫ぶと同時、今の装甲の代わりに黒い線があしらわれたパーツが全身を覆う。
付け替えられた時には、すでに俺はしゃがみつつ剣を振り、刃を周囲の敵の体に通していた。
遅れて、新しいフォームになった自分を見る。
P・Bladeと同じく全身をくまなく装甲が守ってくれているが、薄い。しかし、ところどころアーマーがないG・Spearよりはマシだ。
各部にはG・Spearと同じくスラスターが付けられていて、つまり、この形態はP・BladeとG・Spearの中間といったところだろうか。
生身で動くより明らかに速く上半身が逸れ、相手の攻撃が空振る。隙だらけのそいつを一刀両断してやった。
《地上戦における機動力をアップしました。B・Swordフォームです》
Swordの名の通り、新たな武器は剣。それも、柄の両側から刃が延びている両刃剣。それぞれは刀身の幅が広く、斬るだけでなく叩くといった攻撃も可能のようだ。
スラスターを利用した高速機動により、ほとんど止まることなくUターンも出来る。しかし、この形態の真価は、回避にこそある。
換装した瞬間のも、今さっきのも、思った時にはもう避けていた。瞬時に思考を読み取るシステムの反応速度は驚異的で、ギリギリで受け流し、躱し、深くカウンターを決められる。
これなら、ノワール様を中心として、かかってくる敵を迎撃できる。
G・Spearフォームは飛行状態からのヒットアンドアウェイを得意としていたが、こいつは肉薄した状態での戦闘を得意としているのか。
その分、攻撃を食らうリスクは高い。高速機動をするためにアーマーが薄いから、食らってしまったらモロにダメージが入るが……当たらなければどうということはない。
実際、スラスターのおかげでバク宙も側宙もお手の物。攻撃が来ても体が固まらず、ほぼ反射に近い速度で伏せたり跳躍出来ている。
戦えば戦うほど、これはバズール現象で出現した大量のモンスターへ対抗するためにはうってつけのフォームだと分かる。次々と襲ってくるのを足蹴にして、両刃剣による手数の多さによって上手くいけば一振りで二体以上を倒せる。
視界の端で、マホがみんなを率いてじりじりと後退しているのが見えた。モンスターを刺激しないように距離を取っている。それに目ざとく気付いた奴がいた。
「行かせるか!」
ぐっと足に力を入れ、ブーストを噴かし、瞬時に敵の前面まで回って阻止。敵を押し返し、再び魔物たちの注意をこちらに向けて戦いを続ける。
離れていたのはほんの数瞬。ノワール様に危害は及んでいなかった。
「はあっ、はあっ」
システムが補助してくれているため、常に理想の動きが出来ているのだが、中にいる俺の体力は限界を迎えつつある。
当然だ。これだけの数を相手にして、体もアクロバティックに動かして全力で戦えば五分と経たずに疲れはくる。それをもう十数分以上は続けているのだ。
百メートルを全力疾走したときよりも心臓がバクバクと言い、息が苦しくなる。ベーススーツの下は汗でびっしょりだ。
自分でもよく戦っていると思う。もう既に数えるのをやめたくらいには、モンスターを切り伏せた。のだが……
「くそっ、どんだけ来るんだよ」
目に見えて減ってはいるが、まだ十体ほどいる。しかもこれで終わりかどうかも分からないのがバズール現象だ。
どうする。退くという選択肢はない。許されるのは攻撃・防御・回避くらい。ああくそ、女神候補生一人くらい連れてくるんだった。ノワール様はまだ起きそうにないし……
「グルゥア!」
しまった。
よそ見をしていた隙をついて突進してきた熊のタックルを食らい、地面に押し倒される。
「うぐっ」
重い体でのしかかってくるそいつは、歯を立てて迫ってくる。すんでのところで刃を合わせ、届かせないように踏ん張っているが……それでも諦めずに顔を近づけてくる。
まずい。こんなやつに手こずってたら……
嫌な予感は的中した。ちらりと横を見ると、これまた歯を剥き出しにしている犬がノワール様へ向かっている。
ああもう、くそっ!
剣を引いて、熊にわざと俺を噛ませる。ぎらりと光る歯が、アーマーを貫いて肩肉に達した。
「う、ぐぅ!」
鋭く、そして圧し潰すような痛みを耐え、食いちぎられる前に、その顔に剣をぶっ刺してやった。
「っ、どけ!」
スラスターを使ってアホ重い巨体から逃げ、すぐさまノワール様のもとへ向かう。
一体、二体だけじゃない。残りの全てが同時に攻撃をしかけてきていた。正面の三体を薙ぎ払いで倒す。が、横や後ろから来るのはどうしようもない。
ノワール様を踏まないように立って、歯を食いしばる。
モンスターが、全て俺に攻撃を加えた。爪や牙や歯、あるいは棘などで突き刺そうとしてくる。薄い装甲が、引っ掻かれ、貫かれる。
「っ!」
声を押し殺して、がむしゃらに振り払う。何体かはそれで叩き落すことが出来た。
距離を取ったモンスターたちに、剣の先を向ける。あと数体。ほんのそれだけだ。
「くっ……」
しかし、ついに膝をついてしまう。痛みのせいか恐怖のせいか、足が動かない。
上半身は? 肩が上まで上がらないが、振ることは出来る。ならいける。やれる。倒せる……はず。
周りを囲む敵たちが、じりじりと間を詰めてくる。徐々に徐々に空気がピリピリとしたものを帯びはじめ、心臓が高鳴る。
正面のが、跳躍のために一度身を屈めた。
来る。おそらく周りも一斉に。次の瞬間で決まる。
「来るなら来やがれ」
荒い呼吸を繰り返しながら鋭く睨みつける。倒れるのはこいつらを全部ぶっ潰してからだ。
尽きかけた体力を振り絞り、剣を握る手に力を込めたその時──
「ロックス!」
俺の周りに突然、風が巻き起こった。
「なんだ……?」
つむじ風か? 最初はそう思った。俺とノワール様を中心とした風の渦が発生している。
そよ風程度だったそれは勢いを増して、守ってくれるみたいに敵を阻む壁となる。やがて、どんどんと大きくなっていき、敵だけを空中へ浮かせ、切り刻む。
気づけば、あと少しだったモンスターは全て巻き込まれて、上空で倒されていた。
あっという間の出来事に、俺はただ茫然として眺めることしかできなかった。
「いえーい! やっぱり私、さいきょー!」
上空から、明るい声が落ちてくる。見上げると、そこにはホワイトシスター・ラムがびしっとポーズを決めながら浮遊していた。
どうやら彼女がやってくれたみたいだ。つまり、鉱山のほうは片付いたってことでいいのか。それを示すように、遅れて他の三人もやってくる。
「た、助かった……」
張っていた気が緩む。一緒に、体の力まで抜けてしまった。ノワール様の隣にへたり込んで、はあ、と深く息をつく。
「ロックス大丈夫!?」
腰を下ろした俺に、マホが寄ってきた。
「もう、無茶ばっかするんだから。あんりーに言いつけるよ!」
「いや、これは女神様を助けるための仕方ないことで、だからアンリには……」
〈見てたわよ〉
「──脚色なしに報告してくれって言おうとしてたところだよ。これマジね」