教会の前で起きた暴動は、親方の助けもあって落ち着いた。教会前に集まっていた人々の熱は冷めて解散。
SNSでまだ女神様を非難する奴らはいるが、その勢いは収まりついてもう他の話題に移っている。これ、動画を投稿した俺のおかげね。
「みなさん分かってくれて良かったですね」
「これで後の問題はユニだけか」
教会の中に戻った俺たちは、ほっと一息つきながらもまだ残っている問題に頭を抱えていた。ユニがまだ自分の部屋から出てこないのだ。
ユニとノワール様は国と国民の関係でなく、姉妹、つまり家族の問題だ。
兄弟姉妹のいない俺にとっては口が出せることじゃない。これが拠点の子どもたち同士の喧嘩なら収められる自信はあったんだけど。
ユニがいなくなったことによる影響を、俺たちは痛感した。
戦力のことだけじゃない。この国の人たちに協力を申し出るには、ユニが適任だっただろう。あの暴動も、物事をきっぱり言うユニが加わってくれれば説得力も増した。
それに寂しさもある。ツッコミが足りない。ネプギアたちもやってくれるが、こう、鋭さというか、当たりの強さがないといいますか。
「SNSは見てくれてるみたいなんだけどね。ほら、この病みツイートしてるのがゆにちー」
「今はポストって言うんだってよ」
マホがスマホを見せてくれた。
あーー、なるほどなるほど。この世の地獄を煮詰めに煮詰めてジャムにしたって感じ。砂糖なし。
「どんなのどんなの?」
「見たい」
「あ、こら、子どもには刺激が強すぎます」
画面を覗こうとぴょんぴょん跳ねるラムとロムを抑える。
色で言ったら真っ黒みたいなポストしてるから。それに噛みつくのもいて……批判批判に忙しくて楽しそうだねえ。いい具合に人生充実してそう。
「お前たちにまで見られたら消えない黒歴史になるから。ブラックシスターだけに」
激オモロギャグ。
「でもロックスだってイジるでしょ?」
「しないしない。人のXを笑うな、って言うだろ」
「初耳……」
ユニは昨日の騒動にも反応していて、姉を擁護していた。その時には陰謀だなんだと騒がれていた時だから、心無い匿名が馬鹿にしているのも散見される。お前ら笑うなっ。
現代はこういうのもあるから大変だな。俺がロムやラムくらいの時には、ぴーしー大陸にはまだスマホも出始めくらいでみんなパカパカ携帯電話だったんだぞ。二人の歳知らんけど。
しかし……解決したってのに、教会員は浮かない顔で、息せき切ってこちらにやってきた。
「た、大変です!」
「ななな、なんだってー!?」
「まだ話始まってないわよ」
ユニと似たような、ノワール様の呆れたツッコミ。くぅ~、これこれ、こういうのでいいんだよ。俺の中のこういうのでいいんだよおじさんもにっこり。やっぱ姉妹って似るんすね~。
「ラステイションの近郊でバズール現象が! 大量のモンスターがこちらに向かっています!」
「なんだって!? 今回は正しい反応のはず。合ってるよな?」
「私が行くわ」
待って! 判断が早い! せめてツッコんでからにしてよ!
△
「これ以上は進ませないわ!」
バズール現象が起きたのは昨日の鉱山。しかもその中という、全く同じ場所。どんな確率やねんと言ってる暇もなく、先に切り込むノワール様に続く。
問題なのが、これまでよりも現象の規模が大きいということだ。マホによると、昨日起きた二つを合わせたようなくらいらしい。ヤバいじゃん。
そのマホは街に待機させている。流石に今回は危険すぎる。
鉱山内では、数体のモンスターが外に出ようと出口へ、つまりこちらを目指していた。
ノワール様が先陣を切るが、昨日の今日、しかも多大なストレスになるような暴動にさらされた後では……
「うっ」
ああやっぱり、駄目っぽい! 膝ついて剣も落とした!
「ノワールさん!」
「俺たちがやります!」
彼女の前に立って、変身と同時に敵を斬りつける。
「ご、ごめんなさい、お願いするわ」
「謝罪よりこの後の協力、お願いしますよ!」
「ええ」
言質取った! ラステイション編、完! ……って許してくれないのがバズール現象なのよね。ほらもう、次の奴らが来た。
SVシステムを手に入れても、最初、バズール現象を目の前にした時は体が固まってしまっていたけれど、もう見慣れてきた。大半倒してくれるの女神候補生なんだけど。
とにかく、あの敵たちをここから出したら面倒なことになる。昨日と同じく、ここで食い止めるのだ。
疲れが残っていて、みんな全力とはいかなかった。
昨日はこれくらいの敵、押し出すくらい余裕だったのに、数で押され、力で押しの一進一退の攻防が繰り広げられる。
一番体力のない俺なんか、負けはしないものの、じりじりと後退させられている。
ちょいちょい捌ききれずに、敵からの攻撃が装甲を掠りだした。明らかに集中力が落ちてる。
おいおい、始まったばっかなのにこんなんで耐えられんのかよ。ああくそ、傷もじくじく痛んでるし、見た目よりもたないぞこれ。
焦ったせいで、視野が狭くなった俺の死角から、ウサギの魔物が飛び出してきた。
「ぐっ」
こんな小さなモンスターに攻撃されてものけ反るだけ。だが、そのせいで鈍重な奴が攻撃する隙を与えてしまう。やはり、一対多だと速いアクションが求められる。
「くそ」
迫ってきていた敵を蹴飛ばして、俺は舌打ちした。
分かっていたことだが、B・Swordは装甲が薄い。今は無効化できているモンスターの攻撃ですらダメージを受けてしまうだろう。多数相手に有利なフォームのはずだが、限度がある。
サポートがあれば別だが、ネプギアもロムもラムも来る敵来る敵を相手にするので忙しい。自分でやるしかないか。
幸いなことに、大半はP・Bladeフォームの敵じゃない。ベーススーツやアーマーにより強化された膂力によって、並のモンスターなら一撃で切り裂ける。刀に頼らずとも、パンチやキックだってかなりの威力だ。
それに、俺とシステム両方に経験値が溜まってる。今さら序盤に出てくるようなのに後れは取らない。相手がこんな多くなければ、だが。
しかしそんな泣き言は言ってられない。
絶え間なく剣を振り、蹴り、向かってくる奴を片っ端から片付けていく。
「はあ、はあ……ったく、どんだけ来るんだよ」
いくら倒してもきりがない。どんどん湧いてきやがる。このままじゃジリ貧だが……出口すら拝ませてなるものか。気合を入れなおし、構えなおす。
ここを耐えられるなら、後でどんだけ筋肉痛で苦しんでも、飯が食えないほど疲れ果ててもいい。いや、今の嘘。痛いのは嫌。
向かい来る敵をがむしゃらに迎える。体を動かすのをほとんどシステムに任せて、俺は敵を逃がさないように視界に入れ、次の目標はこいつだと指令を送る。
〈ロックス、SVシステムが警告を放ってる〉
「まだまだ平気だって言っとけ、マホ」
それはこっちが見てる画面にも出てる。ビックリマーク付きのウィンドウでわざわざ知らせてくれてどうも。じっくり見てる暇はないけど、ダメージ量だとか体力が赤ゲージ突入したとかそういうのだろ。
傷の状態とかもアンリに見られてるかも。ふーん、やべえじゃん。オプションからオフに出来ない?
「ぐっ!?」
警告が出てから十数匹倒して、さらに敵へ剣を振ろうとした時、腕が止まってしまった。
ズキリ、と体が痛む。昨日の傷がまだ治ってない。傷口が開いて、苦悶の声を上げてしまう。
本調子であっても手こずるであろう大群に対して、今の俺は絶不調だ。負った傷が、敵と同じように俺を痛めつける。
「くそっ」
がくりと膝を折ってしまった。
数時間の休養とアドレナリンだけでは足りず、抑え込まれていた痛覚が強い訴えを始める。
そんな俺に、魔物たちは躊躇はしない。昨日と同じように、大きく口を開けて、その牙で俺を刺し貫こうとする。
退却、という言葉が頭をよぎった。いったん後ろに下がって、体力が回復するのを待つか、無理なら戦闘を中止するか。
でも、後ろにはノワール様がいる。俺がやられれば、こいつらは彼女に襲い掛かるだろう。ぎり、と歯を噛んで防御の態勢を取った。
しかしこれでは──
「ロックス!」
俺の前の敵を一掃するかのように、光線が放たれる。それは壁のように敵を阻み、触れたものを消滅させていった。
こ、このごん太ビームは……!
「ユニ!」
「ラステイションは、アタシが守る!」
女神化したユニが、上空から精密なビーム射撃で敵を穿っていく。撃たれたモンスターは一発で倒れていき、ユニはすぐに俺のスコアを追い越していった。
頼もしいねえ、我らがツッコミ役は!
「モンスターなんかにでかい顔させないわ!」
「お前と比べたら大概のやつが顔でかいぞ」
「ありがと!」
ふう、と大きく息を吐いて立ち上がり、B・Swordに換装。
ユニに向かおうとする輩は俺が斬り伏せる。遠くから押し寄せてくるのはユニが倒す。
B・Swordの軽い動きにもユニは合わせてくれる。俺が左を斬れば右を撃ち、しゃがんで払えば上を突く。相性良すぎ。俺たちゴールデンペアって名乗ろうぜ。俺、菊丸役ね。
「新しい姿ね」
「男子三日会わざれば刮目して見よってな。お前が引き籠ってからまだ二日だけど」
こんな軽口も叩けるくらいには余裕が出てきた。守ってくれる人が一人いるだけで随分気が楽になる。
その後は、大して時間もかからずに敵を殲滅することが出来た。
終わりか、と思ったが第一陣が収まっただけ。もっと奥にいるモンスターは集まりつつある、とSVシステムが教えてくれた。
第二ウェーブってか。タワーディフェンスじゃん。第三ウェーブまであったりして。
とりあえず一息つく。あーあ、包帯持ってきたらよかった。傷口開いちゃったよ。
「来てくれて助かった、ユニ」
「いつまでもふさぎ込んでるわけにはいかないもの」
どこか吹っ切れた顔をして、ユニは返す。
教会での一件は野次馬に撮影されていて、拡散されていた。そこでの姉の様子を彼女も見たのだろう。きっとそれで奮起してくれたんだ。
「ユニ……」
立ち上がったノワール様が、ユニのそばへと近づく。
「お姉ちゃん、ごめんね。アタシ、お姉ちゃんが苦しい中で頑張ってるのに……」
「いいのよ。私ももっとあなたのことを考えるべきだったわ」
ずっと強気だったノワール様が、声を震わす。
「本当はずっと心配だったの。それを仕事で紛らわせて……いつしか仕事にとりつかれてたのね。本当に無事でよかった……帰ってきて嬉しいわ、ユニ」
「お姉ちゃんっ」
ユニがノワール様に抱き着く。
拠点でも見たけど、女神様は人間と同じように、人を、家族を愛する心を持っている。いや人よりももっとかもしれない。
あんな態度を取っていたノワール様だって、国民を想うより遥かに妹を想っているはずなのだ。元々素直でない性格のうえ、二年の間に育ってしまった窮状のせいでまともな対応が出来なかったのだろう。
ようやく、ちゃんと話が出来たな。
「ええ話やで……」
〈姉妹の仲直り……エモ……ぐす……〉
「そんな泣くほどのことなの?」
ロムももうちょっと歳を取ったら分かるよ……俺もまだ若いけど、心の中にはヤンクミがいるから分かるんだ……
「ネプギアたちも、ごめんなさい。不甲斐ない姿見せちゃって」
「ああ、やっぱりユニがいてくれないと調子出ないよ。お前がいないと俺のボケが流されっぱなしだから」
「女神としてじゃなくてツッコミとして助かってるの!?」
「うん、私にはロックスさんとマホちゃんのボケは難しくて……」
「やっぱりパーティのアタシの役割ってツッコミ役なの!?」
もう今この場で証明しちゃってるから、それ。もうちょっとスルーして楽になろうぜ。元凶俺だけど。
さて、ようやく次の群れが来だした。どたどたと足音を立てて、小さいのから大きいのまで。傷口縫った糸が外れてスリップダメージ受けて、体力も削られている俺にはきっついねえ。
「来たぜ、次のが」
「大丈夫よ。来たのは、アタシだけじゃないわ」
ユニがにやりと笑って出入口を指差す。
……ああ、なんか音が近いと思ったんだよ。
筋骨隆々のおっさんたちが、ツルハシやスコップやらを持って、勢いよく俺たちを過ぎていった。その先頭にいるのは、あの親方だ。
「お前ら、行くぞ!」
「おう!」
屈強な男たちがモンスターに向かっていく。へっぴり腰だった昨日とは大違いだ。あれなら、そう簡単にやられはしないだろう。守る対象であることに変わりはないが、一気に戦力が増えたのはありがたい。
「親方はいつでも俺の見せ場を奪ってく」
「私も休んでる場合じゃないわね」
鉱山夫たちとユニにあてられたのか、ノワール様までやる気満々。
「さ、活躍を奪われるのがそんなに嫌なら、早く混じりに行くわよ」
行く!!
「待ってください」
一歩踏み出したところで、誰かにストップをかけられた。
しかし、それを発したのは女神候補生でもノワール様でもない。
俺たちが振り向くと、そこには少女がいた。空中に浮かんでいるその人は、灰色の……
「女神……?」