偽次元のプリズム【完結】   作:ジマリス

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2 P・Blade

 二年前、世界は崩壊の兆しを見せた。

 

 事の発端は、かつて世界を恐怖に陥れた犯罪神の復活だった。

 プラネテューヌら四か国から離れた、海の向こうの国の名にもなっている『ぴーしー大陸』に突如として現れたそいつは、大陸を崩しにかかった。

 

 ぴーしー大陸は四か国に救援を求めた。それを受けた女神様たちの活躍によって、大陸から追いやられることにはなったが住人全員が殲滅されるようなことは避けられた。

 しかしその戦いにおいて、プラネテューヌの女神であるネプテューヌ様が行方不明となったらしい。そして同時期に、女神様の妹である女神候補生まで行方不明となった。

 国のトップがいなくなり、さらにその後のモンスター大量発生によって、プラネテューヌの住民まで街から追いやられてしまった。他のラステイション、ルウィー、リーンボックスだってモンスターの被害を受けていて、未だに続いている。

 これが、二年前に起きた大事件。ぴーしー大陸の崩壊から始まった世界の浸食。

 

 

 

 

「いたたた……」

「はい、これで終わり」

 

 モンスターを倒した後、俺たちは無事に拠点まで戻ることが出来た。

 プラネテューヌ領地の外側に位置し、元はぼろぼろの大きめな倉庫だったここはいくつもの部屋があり、ぴーしー大陸とプラネテューヌの難民の住処となっている。

 なんと三階建てで、物も部屋も余りまくり。

 

 その内の一室、一応清潔が保たれている治療室で、ところどころに出来た擦り傷や切り傷をアンリが手当てする。

 トカゲモンスターを倒した後、道中で襲ってくる敵は現れず、再び戦う必要もなく、俺が負った傷は逃げる時のものだけ。程度としては引っかけたくらい、なのだが……

 

「漫画とかアニメみたいにはいかないな。こんなちょっとしたのでもめっちゃ痛い」

「我慢我慢。すぐ治るわ」

 

 こけただけみたいなしょうもない怪我でも結構痛みが持続したりする。それがモンスターの爪であればなおさらで、見た目以上に痛覚は刺激されていた。

 『あばらが折れたか……』みたいな台詞あるけど、あれって絶対あんな平気な顔出来ないよな。俺だったら悶絶。

 

「アンリさん、ロックスさん、おかえりなさい」

 

 治療が終わったタイミングで、浮いている開いた本に乗った小さな人が部屋に入ってきた。

 この人はイストワール。女神を補佐する役割である『教祖』であり、今はこの拠点をまとめ上げている人……人? である。

 人工生命体だっけ、はたまた妖精だったか……とにかく、女神のいない現状では実質一番上の人で、本来ならばこうやって間近で見れることは相当光栄なことなんだけど、彼女は分け隔てなく接してくれる。

 

「無事で何よりです」

「五体満足で帰ってこれるなんてね」

「自分でもまだ信じられないよ」

 

 まさかただの凡人である俺が、あの堅い鱗を持つトカゲモンスターを一刀両断しただなんて。

 アンリは、一旦俺から外された腕輪をコトリと傍らの机上に置いた。

 

「どうだった?」

「システムは正常に動作してる。つまり、これはもうあなたの物よ」

 

 ああ、やっぱり。俺とアンリは向かい合って、同時にため息をついた。

 

「それはいったい?」

「モンスターに対抗できる武器です」

「この腕輪が?」

 

 イストワールさんはすっと移動して、腕輪をしげしげと眺める。

 

「この腕輪は、中に圧縮格納されてる防具と武器を呼び出すことが出来る装置なんです」

 

 あのアーマーも剣も、全てここに詰まっている。戦闘の際にそれが必要なところへ装着されるという。

 何度聞いてもどうやってそういうことが出来ているか分からないが、とにかくそういうことらしい。

 

 俺がその話を初めて聞いた時と同じく、イストワールさんは目をぱちくりさせた。

 

「凄いですね。その防具と武器はどこから仕入れたんですか?」

「それが……」

「実はわかんないんだよねー。その機械の腕輪も拾い物で、どういう働きをするのかーとかは分かったんだけど、これが元々誰の物かも、なんで作られたのかも謎なんよね」

 

 話に、ピンク髪の女の子が入ってきた。

 

 彼女の名前はマホ。

 俺やアンリと同じぴーしー大陸の出身で、境遇も同じくここで保護されている人物。

 

 彼女の言う通り、コレはゼロから作られたものじゃない。拾ったものだ。

 森に落ちていたのを俺が拾い、アンリやマホに見てもらったのだが、どうにもよく分からないシロモノらしい。

 どこかで売られているようなものではないが、かといって個人に作れるような技術のものでもないんだって。知らんけど。

 

 しかし、中身……というかこれを動かすソフトウェアや機能を見る限り、モンスターに追い詰められている今では有用ということで、いざという時の手段の一つとして持っておくことにしたのだ。

 

「ちゃんと動くかどうかだけ心配だったけど、どうにかなったわね」

「それの生体認証をロックスがしちゃったせいで、ロックスにしか動かせないようになっちゃったけどね」

 

 俺のせいかなぁ。半分くらい俺関係ない気がするんだけど。

 

 これを作った人はかなり用心深かったようで、着けた人物の生体情報を読み取って、その人しか動かせないようにしている。

 一応、持ち主であれば初期化設定も出来るらしいけど……拠点の中でまともに動けそうな男となると、俺しかいない。子どもに渡すわけにはいかないし、いい年の大人はほとんど無気力状態。それでも嫌だ、なんて言うとアンリが使いそうだし……

 

「腹くくるか。やるよ。ここまで来て他の人に丸投げするのもかっこ悪いし」

「マ!? 今ならまだやめてもいいんだよ?」

 

 ぱちぱちと拍手でもされるかと思ったけど、マホは狼狽えはじめた。

 

「俺もやめておきたいところだけど、もう言っちゃった。さようなら。また来世」

「現世諦めてる!」

「男の子でしょ、しゃきっとする。ほら、変身ヒーローみたいでいいじゃない」

 

 確かに!

 どこからともなく体を覆うアーマーが現れるなんて、男の子の憧れである特撮のヒーローまんまっぽい。

 それにモンスターを倒せる力があると証明されたのだ。シチュエーション的にもこれは美味しいのでは。

 不謹慎ではあるが、対抗する術を持っているのは今のところ俺だけ。無理にでも鼓舞していかないと。

 

 それに、『私たちのヒーローになって』というアンリの言葉を受けたのだ。やるしかない。

 だけどあとちょっとだけ激励してほしいな。がんばれ❤がんばれ❤

 

「ロックスさんに背負わせるのは心苦しいですが、今はああっ!!」

「うおっ!?」

 

 イストワールさんが急に声を上げて、隣にいた俺は飛び上がる。

 発した本人も俺も驚きで開いた目を見合わせた。

 

「ど、どうしたんですか、イストワールさん」

「シェアの力を感知しました。この数とシェア量……おそらく、ネプギアさんたちです」

 

 女神様のことだ。正確に言えば、女神様の妹、女神候補生のこと。

 その方たちも二年前から消息が不明となっており、イストワールさんはずっとシェアの力を感じ取ろうとしていた。

 三年かかると言っていたのに、大分早く見つかったものだ。

 

 シェア。人々の信仰心によって高められる女神様の力の源。そんな気みたいなものを感じるZ戦士みたいなことは出来ないので、イストワールさんのワンオペ。

 ネプギア様たちのシェアは小さくなってるか、あるいは感じ取りづらくなっているか、ともかくすぐには見つけることは出来ず、こうやって二年もかかってしまった……のだが、見つかればこっちのもん。

 

「誰かに行ってもらいますか? 他の女神の方にも連絡がつきますし」

「いえ、それは危険です」

 

 イストワールさんの提案を、アンリは却下する。

 

「女神候補生が表に出てきていないことを考えると、対女神用の罠が仕掛けられている可能性があります。もしそうなら、各国の治安を維持している女神様を失うことになります。それだけは避けなければいけません。モンスターがいる可能性も考慮すると、あまり人員を割くのも危険かと」

 

 ロックスも、そうだそうだと言っています。

 女神様に次ぐ実力を持つ女神候補生たちが二年も姿を現してないことを考えると、捕らえられていると思ったほうがいい。となれば、女神に対抗する何かしらが誰かによって用意されていて、女神様が行った瞬間にそれでズドンということもあり得る。ん、ボカンかな、バコンかも。

 それをやったのは犯罪神側ということもあり得る。だとしたら警備として配下であるモンスターを配置してるかも。普通の人間が調査に出向くには、あまりにもリスクが高すぎる。

 

「そーだね。とりあえず、実力のある人に偵察に行ってもらうとか? でもそんな人……」

「いるじゃない。女神じゃないけどモンスターに対抗できる人が」

 

 そんな人……いるか? 別の国から派遣してもらうとか?

 俺が疑問を持った目で見ると、三人の、合わせて六つの目がこちらを見返してくる。

 これって、もしかして……

 

「オイオイオイ死ぬわ俺」

 

 

 

 

 イストワールさんが示したのは、プラネテューヌの端の端にある建物だった。

 木もなく草もなく、動物すら来ないような荒れ果てた地にぽつねんと佇んでいるその大きな建物は、イストワールさんも知らないようなものらしく、しかしここに女神候補生がいるのは間違いないという。

 

 外見は豆腐が巨大化したみたいに真っ白な直方体。窓もないせいで中を窺うことも出来ない。

 明らかにきな臭いな。いかにも疑ってくださいって言ってるみたいなもん。それでは早速中に入ってみましょう。

 

 唯一の出入り口である、横開きの扉を開け放つ。中へ入りこんだ風のせいで、むせかえるほど埃が舞った。

 中は何故か電気が点いたままで、わざわざ持ってきた懐中電灯は必要なくなった。

 

 警戒しながら中に入る。奥へと続く廊下を進みながら、左右に見える部屋を物色していく。

 

「侵入した。聞こえてるか?」

〈はい、感度良好です。こちらの声も聞こえますか?〉

「聞こえるよ。アンリの事務的な声が」

〈あんりーってば、仕事はぴしっとやりたい派だもんね〉

〈ちょっとマホ、余計なこと言わない〉

 

 アンリとマホの声が聞こえる。SVシステムには通信機能もついているのだ。便利~。一家に一台欲しい。

 

 アーマーに関しても潜入任務に関しても俺はズブの素人。

 ナビゲーターとしてアンリが、自称スペシャル美少女アドバイザーとしてマホが、アーマーから送られるデータを参考に指示を出してくれるというわけだ。スペシャルは美少女かアドバイザーかどっちにかかってるんだい。

 

〈中はどうですか?〉

「いかにも捨てられた研究所って感じ。荒らされてはないけど、埃が積もってる」

 

 会議室みたいに大きな机といくつもの椅子が並べられている部屋だったり、個人用のオフィスみたいに小さな机と棚だけがある部屋だったり、誰かが集団で働いていたような雰囲気を感じる。

 しかしそうだとしてもかなり前のことだろう。指を這わせれば目に見えるほどつく埃が床にも机にも、目に入るもの全てに溜まっていた。

 どういった目的で使われていたのか調べるのは難しそうだ。資料だとか稼働してる機械だとか、手掛かりになるものが一切ない。机の中や棚にも何も入っておらず、そのせいでいつから放置されてたかというのも判断つかない。

 

 さらに廊下を奥へ進み、開いたままの扉を抜ける。

 そこは、今までよりも大きな部屋だった。恐らく、この建物の半分を占めるくらいの面積。

 四方の端にはモニターやキーボード、俺の身長以上もあるコンピュータが並んでいて、整えられた配線がそこかしこに張り巡らされている。

 

 中央は、何か巨大な物を置いていたかのように、不自然にぽっかりとスペースが空いている。

 

〈女神様はいそうですか?〉

 

 人がいそうな場所じゃない。女神様は本当にここにいるのか? シェアエネルギーを餌にした罠の可能性が俺の中で大きくなっていく。

 そう答えようとすると、何かが動く音がした。カツカツと、堅いもので床を小突くような音だ。

 

〈ロックス?〉

「あー、どうかな。それどころじゃないかも」

 

 返事の催促をしてくるアンリだが、それに答える前に俺に脅威が迫ってきていた。

 振り返ると、まあなんとも、立派な四本足。

 

〈もしかしてモンスター?〉

「馬みたいで、黒くて、ところどころに赤いラインが入ってて、今にもこっちに突進してきそうなのってモンスターって言う?」

〈言う!〉

 

 終わりだぁ。ここで死ぬんだぁ。

 出来るだけ刺激しないように、じりじりと後退する。四本足のモンスターは息を荒くして、ひづめで床を叩いて威嚇してくる。あぁ~、死が近づいてくる音ォ~!

 

〈ロックス、落ち着いて。SVシステムはあなたの考えを読んで、動きを補助してくれるわ。だから、しっかり相手の動きを見てどうしたらいいか考えて〉

「チュートリアル戦闘の説明みたいなのをどうも」

〈みたいなってゆーか、まんまそれ〉

 

 つまり戦えってか。

 まあ、このモンスター相手では逃げ切ることは不可能だろう。一瞬で追いつかれて激突されるのが関の山ってところだ。

 やるしかない。

 

「変身!」

《P・Bladeを既定のモジュールに設定。展開します》

 

 黒のベーススーツが着せらされ、トカゲと戦った時と同じ、紫のラインが入った灰色のパーツが各所に装着される。今回は最初から手に刀を握らされた状態だ。

 システムが言うことを借りて、P・Bladeフォームと呼ぼうか。どうやらこれが今後の基本の形態となるらしい。

 

 俺の姿が変わったことで、モンスターは興奮しだした。

 威嚇していたひづめで床を蹴り、真っすぐこちらに向かってくる。はっとした瞬間には、もう肉薄するくらいにまで迫ってきていた。

 

「ぐっ」

 

 とっさの判断が出来ず、反射的に後ろへ。しかし、モンスターはそのまま衝突してきて、俺はその攻撃をもろに受けた。

 吹き飛ばされ、地面を転がる。

 

「くうっ」

 

 アーマーを着けていても、ダメージが来る。腹や胸、肩がズキズキと痛む。

 当たり前だ。何でも防げる盾などありはしない。相手の攻撃が強力であればあるほど、その分俺も傷を負ってしまう。

 突進してくるような攻撃一辺倒な敵相手では、以前トカゲモンスターにやったような防いで斬るというようなのは通用しない。

 

 ならどうするか。

 防御しても無駄なら、二つの選択肢がある。

 一つはダメージを気にせずに戦うこと。相手の攻撃を受けても吹っ飛んだりせず、反撃に転じて斬ってやる戦い方。

 ただしこれは……

 

「おっとぉ!」

 

 再び突進してきたのを、跳んで躱す。勢いあまって、モンスターは見事壁にぶつかった。どすぅん、と音を鳴らして、壁に大きくヒビが入る。

 

 ……肉を切らせて骨を断つ作戦は、やっぱり痛そうだからなし。そんなん無理無理。あばらどころじゃ済まない。

 

 近づくのは危険だ。ああいうやつの足とか頭の勢いってとんでもねえって聞くし。

 

「……ふう」

 

 深呼吸して、剣を両手で構える。

 突進の軌道は直線。大仰に避けなくても、少し体をずらすだけで躱せる。思い描いている通りに上手くいけば、その後の一撃だけで倒せるはず。

 

「ミスって俺の骨が粉々になるか、あいつがおろされるか……」

〈な、何するつもり?〉

「昔の映画の真似」

 

 俺が覚悟を決めたのと、モンスターが突っ込んでくるのは同時だった。

 さあ、来い来い来い。

 引き付けて、引き付けて……

 

「今だ!」

 

 当たる寸前、横にローリング。同時に、剣を水平に振った。

 モンスターの大きな体が俺のすぐそばを掠める。そいつの体に、刃が食い込む。しかし、勢いは止められない。

 刃はやってくるモンスターの体を、熟練の料理師が魚をさばくようにすーっと裂いていく。一秒後には、通り過ぎざまに前から後ろまでを真っ二つに。

 

 モンスターがまた壁に激突することはなかった。その前に、綺麗に上下に分かれ、身が崩れる。

 

〈敵の排除を確認〉

「…………はあ~」

 

 息を止めていたのに気づいて、盛大に吐く。緊張からの安堵で、どっと汗が出た。

 あと数センチずれてたら、顔が吹っ飛ばされてた。

 

 つんつんと刀の先で刺す。つんつん、怒った?

 モンスターは反応を示さない。俺はもう一度息をついた。

 

「ふう」

 

 威圧感はあったものの、基本的には突進を繰り返すだけで助かった。でもこれと見た目が一緒で色違ったりする強い奴が後々現れたりするんだ、きっと。

 

〈やったー! 大・勝・利!〉

 

 やったの俺ね。自分のことのように喜んでるけど。

 

「でもモンスターが暴れまくったせいで滅茶苦茶になっちまった」

 

 コンピュータが凹んだり、モニターが真っ二つになっていたり、配線が千切れていたり……あーあ、どれもこれも使えそうだったのに。

 どれどれ、と近くのPCに触ろうとしたら、バチッと大きめの火花が散った。

 

「おうっ!?」

 

 その瞬間、ガシャンガシャンゴウンゴウンと音が鳴る。それと同時に地面が揺れていた。何かが壊れたのか、もしくは動いているのか、目の届く範囲では何も変わってないせいで分からない。

 だけどすぐ近く、きっとこの真下で、何かが……

 

 十数秒揺れが続いた後、不意にそれは収まった。かと思うと、部屋の真ん中に四つの穴が開いて、床下から何かがせりあがってきた。

 現れたのは四本の容器……俺の背丈よりもでかいカプセル状の物体。

 

「そんな、マジかよ……」

〈どうしたの、ロックス?〉

 

 そのカプセルの中には、それぞれ一人ずつ、計四人の少女が入っていた。

 立った状態のまま眠っているようで、これだけ大きな音が鳴って物が動いたのに、起きる気配がない。

 この少女たちを、俺は知ってる。テレビやネットで何度も何度も。

 

「女神様を見つけた」

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