偽次元のプリズム【完結】   作:ジマリス

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20 W・Axe

「ロックスさんは左の敵をお願いします」

「了解!」

 

 拠点から出てすぐの森へ分け入る。

 

 右側はネプギアとユニが務めている。対して左側は、ロムとラム。近接戦闘が苦手な魔法使いには盾役が必要なのがお約束。

 俺はネプギアの指示に従って、双子の前へ出た。この間にも双子は氷やら風やら雷の魔法でどんどんと敵を片付けていく。いらんやん俺。

 

 ランダムで発生するバズール現象が、ネプギアたちが戻ってきたタイミングで、拠点近くに発生するなんていくら計算に疎い俺でもありえないって分かる。

 それまでにも、ラステイションで三度も俺たちの近くでバズール現象は起きた。

 バズール現象は脅威だが、そう何度も何度も起きるもんじゃない。だからこそ拠点は二年間無事だったんだし、ラステイションもノワール様が切羽詰まっていても持ち堪えられていた。

 だとすればどういうことか。

 

 ──誰かが故意に引き起こしてる。

 

 そんなことが可能かどうかは知らないが、その確率は高いだろう。目的は人間の殲滅か、女神の集中力を削いで仕留めるってのもありそうだ。

 誰の仕業か分からないが、そいつはクソ野郎に違いない。子どもたちも含めた難民がいる所へモンスターを放ったのだから。

 

「ふざけやがって」

 

 一度失った者へ、また失えというのか。一度受けた悲しみを、また味わえというのか。

 その計画、片っ端から潰してやる。もしこれが偶然だったとしたなら、モンスターにこの怒りを受け取ってもらおう。

 

 自然と自分の中にある怒りが湧き上がる。それと同時、半ば無理やりそれに便乗する気持ちもあった。そうしなければ、恐怖が頭によぎり、鎧の騎士につけられた傷が疼くからだ。

 いや、馬鹿。んなことに気を取られてる場合じゃない。怒りで頭を埋めろ。そうすれば痛みも怖さもなくなる。

 

 双子の魔法から逃れた敵を狩る。

 雑魚的相手ならもう慣れたもので、わざわざ向かってくるのに合わせて剣を振るだけだ。音ゲーみたい。

 しかし万全だったなら、もっと速く、もっと多くの敵を倒せただろう。怠さがのしかかってきているこの体では、全力の半分も出せているかどうか。

 

「マホ、避難完了まであとどれくらいだ!?」

〈まだ全然!〉

「くそっ!」

 

 毒づいても状況は変わらない。それどころか悪化してきている。

 数度このバズール現象に遭遇しているが、毎回毎回食い止めるってレベルのことしか出来ていない気がする。一気に薙ぎ払うこととか出来たらいいのに。

 

《モジュール検索中……》

 

 頼むぜほんと。

 

「きゃあああ!」

 

 !?

 誰かの悲鳴が響き渡る。拠点の方向からだ。

 

「ロム、ラム! ちょっと離れる!」

 

 返事を待たず、周囲の敵を薙ぎ払って、G・Spearフォームに変わる。

 超特急で飛び、声のした方へ急ぐ。景色が矢のように吹っ飛んでいくが、先ほどの声の主ははっきり見えてきた。拠点のすぐ近く。遅れて出たばかりの子どもとその母親に、モンスターが数体向かっている。

 今にも危害を加えようとする一体をすれ違いざまに串刺しにして、急ストップ。あまりのスピードのせいで思ったよりも数メートル先まで進んでしまったが、急ターン&少し噴かして位置調整。そのままぶんと槍を振り回した。残りのはそれでノックアウト。

 

「大丈夫か!?」

「う、うん」

「あ、ああ、ありがとうございます!」

 

 その子は頷き、親はしきりに頭を下げる。強がりでなく、ちゃんと無傷だ。一瞬だけ安堵の息を吐いて、すぐに頭を戦闘モードに戻す。

 

「早く逃げろ」

「は、はい!」

 

 母親が子どもを抱えて走り去る。その後ろ姿が消える前に、俺は次の群れに突っ込んでいった。

 ネプギアたちのほうも苦戦しているようで、漏れた敵が木々の隙間を縫って走ってくる。周りには味方なし。

 

「やるしかないか……!」

 

 ここを通せば、避難中の難民を守る者はいなくなる。

 

「換装」

 

 P・Bladeに戻り、剣を構える。

 

 大きくて強そうなのはあっちで食い止めてくれているが、ウサギ型とかスライヌとか小さいのがすり抜けてこちらに。

 ここは通──

 

「ぐっ!?」

 

 胸が張り裂けたような痛みが突如襲ってくる。麻痺ったみたいに体が一瞬硬直し、強張る。

 それでも姿勢は崩さず、立ち向かった。けれど全力全開の時には及ばず、隙を見せてしまう。

 何体もの相手が俺の動きを止めようと寄ってくる。装甲の中、ベーススーツの奥にある肉を食い破ろうと、次々に歯を立ててきた。

 

〈ロックス、そっちはだいじょうぶ!?〉

「こっちのことはいい!」

 

 ラムに集中するよう促し、腕に張り付いてきたのを地面に叩きつけ、足を千切ろうとしてくるのを剣で刺す。出来上がったモンスターの屍を払いのけ、剣を杖代わりにして立つ。まだまだ敵はやってくる。

 

 幸いなことに、こいつらのヘイトが俺に向いて、残らず向かってきている。逸れて通り抜けようなんて奴はいない。

 よそ見せず、来る敵を退けられさえすれば、何とかなる。というか何とかしなければ話にならない。

 俺がやられれば、こいつらはこの先で避難している人たちの元へ向かう。それだけは駄目だ。それにはもっと、こんな奴らに倒されないような頑丈さが必要だ。

 

《モジュールを検索完了》

「換装!」

 

 はい来た!

 同時に、手に現れた武器を振るう。ぶおん、と大げさな音が鳴って、目の前のモンスターが消し飛んだ。

 

「おうっ!?」

 

 体がずしり、と重い。

 自身を見れば、白い線が入ったアーマーが至る所に装着されている。一つ一つが大きく、厚い。お相撲さんもかくやという体型だ。

 全身を隙なく覆うそれらのパーツのおかげで全長は二メートルを余裕で超えている。それまでのスピード感を重視したスリムなフォームとは真逆。

 手に握られているのは、その体と同じくらいの斧。これの攻撃力はさっきの通り、一体一体を相手にしていた今までとは変わって、複数体を制圧してしまった。

 

《機動力を犠牲にし、攻撃力と防御力を上げました。W・Axeフォームです》

 

 これ、もっと早くに欲しかった。

 

「かかってこい!」

 

 挑発。モンスターにそれが分かったのか、前方から水が流れてくるように絶え間なく魔物がやってくる。

 

 ぶん、と斧を振った。

 たったそれだけで、十数体が巻き込まれて斬られる。あるいは吹き飛んでいく奴らもいて、周囲の魔物にぶつかってダメージを与えていた。

 攻撃の間に噛みついてくる輩もいるが、今までと違って全くと言っていいほど衝撃が伝わってこない。何かが当たった程度にしか感じられないのだ。

 これなら潰せる。

 

「いや、潰してやる」

 

 風を轟かせる音とともに、再び斧が振るわれる。またしても、面白いようにモンスターは飛び散った。

 

 確かに動きは遅い。対人間なら簡単に避けられる。いや、モンスターだって多少の脳みそと本能があればそう難しくないだろう。

 だが、それを補って余りある攻撃力。どれだけ牙を立てようが届かない防御力。機動力に優れたこれまでとは逆を埋める力。

 

「潰れろ」

 

 地面に斧を叩きつける。

 

「潰れろっ」

 

 右に左に、歯を食いしばって斬りつける。

 

「潰れろォ!」

 

 痛めつけ、動かなくなるまで暴力を振るう。モンスターは悲鳴を上げる暇もなく倒れていく。心臓が暴れまわってるかのように拍動する。全力疾走した後のように息は乱れる。

 

 風を切る鈍い音が聞こえるたび、敵の数は減っていった。だがそれで安心は出来ない。一体でも取り逃せば、甚大な被害になる。だからこそ、俺は続けられる限り続けた。

 そうして限界を迎える直前になった時、周囲が静かになったことに気が付いた。

 

「はあ……はあ……はあ……」

 

 もう近くには生きている敵はいない。次はどこだ?

 みんなからだいぶ離れてしまったみたいだ。遠くに聞こえる戦闘の音を頼りにして急ぐ。

 

「重いわこれ……」

 

 全身に砂袋でも着けてんのかってくらい足が動かん。W・AxeもG・Spearもピーキーすぎて使いづらいわ。

 基本フォームであるP・Bladeに換装して、歩を進める。

 その場で寝転がりたい欲求を抑え、SVシステムの運動補助機能を利用して体を動かす。酸素が足りない。疲労も回復してない。ないない尽くしだが、立ち止まることだけはしなかった。

 

 

 だって俺はならなきゃいけないんだ。

 

「なるんだ、ヒーローに……ヒーローに……」

 

 うわごとのように言葉を繰り返して進む。こんな状態であとどれだけ戦えるか疑問だ。だが……

 

 あともう少しで元の場所に戻る。そう思った時、突然、ぶわりと風が吹いた。木々がしなるほどの風。

 何があったんだ。強力なモンスターの出現か、それとも双子の特大必殺魔法が炸裂したか。

 

 辿り着いた先で目にしたのは……大勢のモンスターが倒れていくところだった。辺り一帯の敵は全て駆除され、あれだけいたのが嘘のように静まり返っている。

 

 呆気に取られたが、どうやら危機は去ったらしい。そう確信したのは、女神化したブラン様、ベール様、ノワール様の姿が見えたからだ。

 

「みなさん! 来てくれたんですね!」

 

 ネプギアたちが駆け寄る。俺も遅れて、そちらに近づいた。

 周りを見渡すと、やっぱり敵は全て排除されていた。女神様底知れなさすぎ。今までで一番大きな規模のバズール現象だってアンリが言ってたのに、こんなすぐ片づけてくれるなんて。

 

「ロックス、あんたは大丈夫?」

「いえ、どうやら幻覚攻撃を受けてしまったみたいです。女神が七人いるように見える……」

「合ってるのよ、それ」

「余裕みたいですわね」

 

 はあ、と呆れたようにため息をつき、彼女たちは変身を解く。

 

「避難場所に向かいましょう。みなさんが無事ならいいんですが……」

 

 

 

 

 拠点の人たちが避難した先は、森の中の開けた場所だ。

 元はキャンプ場だったここにはログハウスやテントなどが残っており、持ち出したランプなどの照明器具も合わせれば、それほど貧相な印象は受けない。

 

 一、二、三……全員いるな、ヨシ! 転んですりむいたとかはあるみたいだが、大きな怪我をしている人はいないみたいだ。

 

「あ、あの人! あの人が助けてくれたんだ!」

「ありがとうございます! あなたのおかげでこの子も私も助かりました!」

 

 新拠点に着いてすぐ、たたたと近づいてきたのは避難中に助けた親子だ。

 子どもは周りの人たちに言いふらし、親は助けた時と同じようにぺこぺこと頭を下げる。そのせいで、あっという間に俺の周囲に人だかりが出来てしまった。

 

「あの人知ってるぞ。ラステイションを救った『装甲の戦士』だ……」

 

 あ、やべ、解除するの忘れてた。装甲姿のままじゃん、俺。

 てかなんか変な噂流れてるみたいなんだけど。装甲の戦士とやらは慕われているみたいだ。喋ってイメージ崩したらどうしよう。

 

「ラステイションの国民を守ったって話題になってるんだって」

 

 そばに来たマホが言う。そういうのはもっと早く教えてくれませんかね。もっと威厳ある感じで参上したのに。

 

「どうすんのよ。SVシステムを使って戦ってるのは秘密なんでしょ?」

 

 そう。親に怒られるから内緒。だからここで解除するわけにはいかない。あとあれ。マスクをしたヒーローは謎の人物って設定がつきものだから。

 どうしようか迷っていると、子どもたちが近づいてきた。

 

「すげー、本物だ!」

「ねえねえ、どうやったらお兄ちゃんみたいに強くなれるの?」

 

 お兄ちゃんだとォ!? お前、俺が麗しい乙女だったらどうすんだ! 鎧の中が綺麗な女性ってのは一周回ってベタになってるだろうが!

 

 なんてことは言わず、胸を張って腕を組む。

 

「良い子の諸君! お父さんとお母さんの言うことを聞いて、好き嫌いはせずに野菜もしっかり食べたらこうなれるぞ!」

「へー! 大人ってみんなそう言うけど、マジだったんだ!」

 

 いつの間にか教育のダシに使われてる! いやまあ俺も同じことしてるからあんまり言えないな……いや言えるわ。本人だもん。

 

「それではさらばだ!」

 

 正体がバレないように、人々がこれ以上集まる前に去る。

 後ろからは落胆の声が聞こえたが、さっさと抜け出してしまわないとボロが出そうなのだ。これ以上は事務所を通してください。

 

 新拠点の光が見えるところギリギリのところで、木を背中に座り込む。

 

「解除」

 

 アーマーが外れ、黒のベーススーツも腕輪に収納される。ようやく生身に風が当たった。戦闘で火照ったあっついあっつい体を鎮めてくれる。

 各国を回って、ようやく休めると思ったらモンスター襲撃なんて、モブ男性Aにはカロリー高すぎるって。

 どっと疲れが押し寄せてきた体に命令して、ジャケットを脱ぐ。あーあ、汗びっちょり。ぽたりぽたりと地面に落ちてますわ。

 

「あれ」

 

 汗と一緒に、別の液体が混じってる。それは顎から垂れたもので、大元は額から流れている。なんだ、と思ってシャツの袖で拭うと、白かったそれは真っ赤に染まってしまった。

 

「え」

 

 え、え、嘘。血? 出すぎじゃないか?

 体を見てみると、袖だけじゃなくて、もう一方の腕も、足のすねも赤色が滲んでいた。

 さっきの戦い、アドレナリンどっぱどぱで感覚が麻痺していたらしい。W・Axeの状態で受けた攻撃は、全くのゼロではなく、少しは通っていた。旅の途中につけられた傷も開いているのを自覚すると、遅れて痛みがやってくる。

 

 最悪なことに、鎧の騎士から受けた傷も開いている。

 

 冷や汗も噴き出てきた。

 紙の端で手を切ったとか、転んでしまったとか、そんな今までの生活の中で出る血の量とは明らかに違う。重い武器とアーマーを動かすために力を込めすぎたせいだ。せっかく縫われた部分は糸が切れている。

 抑えると、べったりと醜い赤色が手に付いた。ほんの少し粘ついた液体。見ているだけで気分が悪くなる。

 これ、これって大丈夫なのか? ぞわぞわと総毛立ち、呼吸が浅くなる。

 

「大丈夫、大丈夫、大丈夫……」

 

 同じ言葉を何度も唱えて、落ち着こうとする。

 2リットルくらいならギリギリ命落とさないはず。2リットルってどれくらい? 今出てる血の量は?

 いやいや、そんなことよりもまず血を止めないと。俺はシャツを脱いで、患部を押さえる。みるみる間に赤く染まっていくそれを見ないようにして、出来るだけ強く押しつけた。

 どくどくと傷口が脈打つ。それに合わせて、心臓の鼓動が早くなる。

 

「大丈夫、大丈夫だろ。いつも言ってるじゃないか、大体のことは大抵なんとかなるって。これもそれと一緒、一緒だ……」

 

 ああ、そうだ。こんなところでどうにかなってしまうなんてありえない。

 そうだろ。だって、だって俺はまだ……

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