偽次元のプリズム【完結】   作:ジマリス

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22 プラネテューヌ奪還作戦開始

「こうやって縄で缶を繋いで、木に引っ掛ける。すると、モンスターが来た時に音で知らせてくれるってわけだ」

 

 ぴんと張った縄を揺らすと、くくりつけた缶がぶつかってカランカランと音が鳴る。

 

「これをみんなでたくさん作ってくれ」

「は~い」

 

 いわゆる鳴子ってやつ。

 こいつを新拠点の周りに張り巡らせて、モンスターが襲撃してきた時に備える。音が鳴ってるってことは相当近づかれてるってことだが、無いよかマシだろ。

 

 アンリはその様子を感心しながら見ていた。

 

「相変わらず、子どもも大人も、素直にあなたの言うこと聞くわね」

「俺人望あるから」

 

 実際は、何か力になることをしたいとか、絶望的な状況から目を逸らしたいだとかそんな理由だろう。

 それでも、手が動かせるだけいい。全員が全員うずくまってる状況じゃなきゃ、最悪じゃない。

 この人たちのためにも、俺は、俺たちは戦わないといけない。

 

「いよいよプラネテューヌに突撃だな」

「……」

 

 あともう少しでネプギアたちの居場所を取り戻せる。だというのに、アンリは唇を固く結んでいた。

 

「そんな眉間に皺寄せてばっかりいると、取れなくなるぞ」

「犯罪神にバズール現象に……他にもたくさん不確定要素があるわ。この戦いがどうなるか……」

 

 ゴールまでもうちょっと、と希望を抱いている俺とは逆に、これまでの敵や予想外の事態に怯えるアンリ。

 気持ちは分からんでもない。油断すれば不安がじわじわ押し寄せてくるのは俺だって同じだ。

 だけど。だけど、だ。これまでよりも激しい戦いになることは容易に想像がつくが、恐れるばかりじゃ駄目だ。止まってしまう。

 

 悪い考えがぐるぐる回る前に、それを追い出すように彼女の肩をぽんと叩いた。

 

「大丈夫。大体のことは大抵どうにかなる」

「そう思う……?」

「リーンボックスでもラステイションでも、はじめはどうなるか不安だっただろ。でもどうにかなった。今回の作戦だって上手くいく」

「……楽観的ね」

「それが俺の百ある良いところの一個だからな」

 

 あと九十九個は君の目で確かめてくれ!

 

「悪いことが起きれば、俺がなんとかする。なんたって、噂の装甲の戦士がここにいるから」

 

 それなりに子どもたちにも好かれて、拠点のみんなにも知名度のある装甲の戦士。

 バズール現象の脅威から人々を守る正義の味方! だなんて尾ひれに背びれ胸びれまでついてるような噂がSNSで飛び交ってるが、それなりに言われるくらいには実力もついてきた。

 

 言い切ってみせると、彼女の表情がほんの少しだけ和らいだ。

 

「そうね」

「おぅ、お前が俺を認めたの初めてだ」

「そんなわけ……」

 

 少し考えて、その通りだって顔で彼女が返してくる。ほらね、俺がお前とのやり取り忘れるかよ。

 拠点にいる間はあんま頼りになるところを見せられなかったけど、今日で覆してやる。

 好印象を与えるために戦う男、ロックス。やだ~不純~。

 

「ありがとう。少し元気出たわ」

「少しかあ。今から本番だってのに、少しじゃ足りないな。じゃあ俺の面白トークを一つ。えー、あー……本日はお日柄も良く……」

「無いなら無いでいいのよ」

「いや、ちょい待ち。面白い話あるから。ここ、ここまで来てる……」

「ここ、って耳たぶ? それってもう通り過ぎてるんじゃ……」

 

 もうちょい待てば出てくる出てくる。

 

「おーい、ロックス! こんなもんでどーう?」

 

 耳たぶをもみもみしてると、鳴子作りをしていた人たちから声が上がる。

 作るのが早いのか、アンリと話すのが楽しくて早く感じたのか、どっちでしょう。

 

「俺の天地鳴動爆笑話はまた今度」

「そんなにハードル上げて大丈夫? 期待しちゃうけど」

「撤回していい?」

「もう手遅れ」

 

 残念。

 俺に宿題が出来たけれど、アンリに元気出してもらうという実績は解除出来たので良しとしよう。

 

 さて、みんなが協力してくれたおかげで、十分な量の鳴子が出来た。これなら、周囲を囲むくらい出来そうだ。

 新拠点に近すぎたら意味ないし、遠すぎてその中でバズール現象が発生しても意味がない。ちょうど良いくらいの距離を取って、木に括り始める。

 

「いってぇ……」

 

 またしても胸がずきりと痛んだ。

 今朝、包帯をきつく巻きなおしたけど、どこもかしこも痛い。

 

 平気なふりはみんなに通ったようで、話をうやむやにしたことも相まってついていくことに決定した。

 いや、嘘はよそう。実際は、アンリとマホが直前まで止めてきた。もちろん俺は反抗。

 粘りに粘って判定勝ち。代わりに、二つの条件を提示してきた。

 あくまでネプギアたちの支援に徹すること。マホと自分を守ることに専念し、余計な戦闘は行わないこと。

 あまりにもしつこいもんだから、俺は頷いた。まあ元々そのつもりだったんだ。支障はない。

 絶対安静の約束は破ることになったが、今回の作戦の重大さと比べると塵にも等しい約束だ。というかマホのことを考えるだけでも、俺が行かなきゃいけないといけないのである。おわかり?

 

 こんな作業程度で音を上げてたら、また面倒な問答が始まってしまう。俺は努めて何もないふうを装って、ぱっぱと動いて作業を終わらせる。

 みんなのいるところに戻ると、女神様も女神候補生たちもそれぞれの準備を終えたところだった。

 

「ロックス、終わった?」

「ああ。そっちは?」

「ばっちり」

 

 マホはサムズアップで答える。

 バズール現象抑制装置の最終チェックを頼んでいたが、問題ないみたいだ。これがちゃんと動作するかは、ぶっつけ本番で試してみるしかない。

 

「それじゃ、みんなのことは頼みましたよ、イストワールさん。アイエフも」

「はい。お任せください」

「何かあってもちゃんとみんなのことは守るわ」

 

 ここに残す戦力がアイエフだけというのは気がかりだが、ここは信じるしかない。

 誰かを犠牲にすることなくこの戦いに勝つ。それも迅速に。

 

 

 

 

 プラネテューヌは、『革新する紫の大地』と呼ばれる先進技術を持つ国だ。街は他の国にも劣らず、綺麗で整っていて、住むには何の不便もなさそうな土地……のはずだった。

 

「……二年ぶりだな」

「ロックスさんは、二年前に観光に来てたんでしたっけ?」

「犯罪神が復活したのとほぼ同じ時期にな。あの時は人がいっぱいだったけど……」

 

 今じゃ見る影もない。この間訪れたリーンボックスより閑散としている。こうやって建物の陰に隠れてるのが馬鹿に見えてくるくらいに。

 本来ならモンスターが我が物顔でここらへんも歩いていることだろうが、囮役が上手くやってくれているようだ。

 

 今回の作戦は、スピードが物を言う。そういうわけで、モンスターと戦う班とバズール現象を抑える班に分かれることにしたのだ。

 ブラン様、ベール様、ノワール様の女神様部隊が陽動を行う。そしてモンスターがいなくなったところで、俺たちがプラネタワーへ潜入。屋上にあるバリア発生装置にバズール現象抑制装置を繋げるという流れ。

 

 先を進みながら、俺はきょろきょろとあたりを見渡す。

 

「あんまり荒らされてないのね。モンスターがいっぱい出たって言うから、もっとめちゃくちゃになってるかと思ったのに」

「不幸中の幸いだな。これなら、作戦が成功すれば元通りにするのは難しくないだろ」

 

 モンスターが移動した跡……例えば足跡や、尻尾が当たって出来た傷などは散見されるが、ほとんどの物は形を残している。モンスターがいなくなったら、今すぐにでも住めそうだ。

 

「……」

 

 バズール現象によって出現したモンスターには不可解なことが多い。

 急にどこからともなく現れてくること。多種にわたって徒党を組んでくること。そしてまた謎が増えた。

 ここを占拠したのはバズール現象によって押し寄せてきたモンスターたちだろうが、この様子を見る限りでは、俺たちが戦ってきたような凶暴性は見られない。

 人間を襲う時にはあんなに暴虐って感じなのに……何でなんだ?

 ほとんど本能で動くようなモンスターが、何か明確な目的を持っているような……

 

「バリアってのでモンスターいっぱいになるのは防げなかったのか?」

「バズール現象って急にモンスターが発生するんでしょ? だったらバリアの中で現れたとか?」

「確かに、内側で出現したならバリアじゃ防げないから……」

 

 外側からの攻撃ならいくらでも防御できるが……ってことか。当時、プラネテューヌは女神様がいなかったから、モンスターにとっては人を追い出すのは苦労しなかっただろう。

 

 周囲を警戒しつつ急ぎながらそんな話をしていると、軽い地響きとともに何かが炸裂するような音が響いた。何棟ものビルを隔てた向こうで、何十何百という敵を、女神様が蹴散らしているのだ。

 

「派手にやってるみたいだな。あっちは三人だけだけど、平気か?」

「だいじょうぶ。おねえちゃんは強いから」

 

 ロムが胸の前でぐっと拳を固める。

 

 普通の人間じゃ推し量れない超常的な力があるのは何度も目にしている。俺が心配するのはおこがましいか。

 音に引き寄せられ、ちらほらいたモンスターもあちらへ向かっていく。そのおかげで、プラネタワーまでは、何の苦労もなく辿り着けた。

 

 早速中に入って、まるで高級ホテルのロビーみたいな豪華な空間を抜けて、奥のエレベータに乗る。

 下層階は教会員用の仕事場や部屋があり、上層階はこの国の女神様であるネプテューヌやネプギアの私室や執務部屋があるらしい。

 ネプギアが押したのはさらにそれよりも上、屋上へのボタンだ。

 

「いよいよね」

「こういう時は大体、ボスが待ち受けてるから気を引き締めろよ」

「今そう言ったせいでフラグが立った気がする」

 

 俺も言った後で思った。緊張して余計なこと言ったかな。それはいつも通りか。

 

 俺は隣に目を移した。

 

「マホ、大丈夫か?」

「うえっ、何?」

「口数少ないから、緊張してるのかと思ってな」

「だだ、だいじょーぶ! あーし無口なだけだから!」

「お前が無口なら、全人類の大半は口がないことになるぞ」

 

 いつになく真剣な面持ちのマホは、手に持った装置をぎゅっと握りしめる。

 

「この戦いでたくさんの人が救われるんだよね」

「そのはずだ」

 

 街を守る防護壁を作り出す装置。あれにバズール現象抑制装置を取り付ければ、この街と周辺は平穏を取り戻す。

 そして装置の有用性が認められれば、他の三国にも使ってこの大陸は安全になる。

 

「じゃあ、怖気づいてらんないよね」

「やっぱ緊張してたんじゃないか。じゃあ俺のとっておきのカスエピソードを披露してやるか」

「アンタのその身の削り方だけは尊敬するわ」

「へへ、よせよ」

「褒めてない」

 

 よーし、お兄ちゃん恥を捨てて喋っちゃうぞ~。どれにしようかな~。

 ……っておっと、喋りはじめる前に着いてしまった。

 

 女神候補生も俺も心を切り替える。俺は変身して臨戦態勢に入った。扉が開いた瞬間、俺たちはぱっと外に出ながら状況を確認する。

 

 だだっ広い平らな床は、鬼ごっこに使っても余りあるほど。まあ、こんなところではしゃいだら落ちる危険性大だけど。

 中央には目を引くばかでかい機械があった。表面がつるりとした、ドリルみたいに根元から先へ尖っていっているやつだ。

 天へ向かってその先端を向けているあれがバリア発生装置。その他には何もなく、目に広がるのは青い空。こんな状況じゃなければ、下の街を一望できる景色を堪能したいところだ。

 

「っ!」

 

 だが装置の前には、やはり立ち塞がる者がいた。

 

「マジェコンヌ!」

 

 ネプギアが叫ぶ。

 

 黒っぽいドレスを着て、ぼろ布をマントのように羽織り、魔女のような帽子を被り、にやりとした笑いを向けてくる女がそこにいた。

 あれが犯罪神マジェコンヌ……見た目だけで言うと、肌が薄紫のおばさんである。しかし、ぴーしー大陸を崩壊に導いたであろう存在だ。決して警戒は解いてやらない。

 

「よりによってラスボスが来るとはな……」

「ロックスがフラグ立てるから」

 

 その横にはあの鎧の騎士もいる。あいつ犯罪神の側だったのか。予想してた中で最悪の展開だ。

 

 だが、逆にチャンスでもある。

 犯罪神より強い敵なんてそうそういないだろうし、こいつを倒せれば後は消化試合みたいなもんだ。

 

「どっちにしろ最後には倒す必要があるんだ。だからラスボスだろ。ここで仕留めよう」

「ロックスにさんせ~い! わたしとロムちゃんなら楽勝よ!」

 

 頼りにしてるぜ、ほんとに。

 

 マジェコンヌは手を広げる。そこから黒く蠢く何かが現れ、形を成していく。それは、大きな刃を携えた鎌だった。

 彼女はネプギア、ユニ、ロム、ラムを順番に見て、最後に俺とマホに視線を移すと、裂けたかと思うくらい口の端を吊り上げた。

 

「それでは、戦うということでいいな、女神ども」

 

 向こうさんもやる気が溢れている。腰を抜かしてしまいそうなほどの殺気が放たれる。

 今まで、モンスターからも似たようなものを感じたことがあるが、こいつのは質が違う。もし戦闘の経験がなく生身であったなら、この場で命乞いでもしてただろう。あるいは動けずに声も発せずにいたか。

 しかし、こちらには女神がいる。かつて奴を倒した女神候補生が。

 

「これで、終結へと近づく」

「俺が言おうとしたセリフ取られた」

 

 一言一句同じ決めゼリフ言おうとしてたのに。

 

「ロックスさんはマホちゃんを守っていてください」

 

 了解。流石に犯罪神相手だと、俺は足手まといにしかならないからな。

 邪魔にならない程度に、マホへの流れ弾を阻止する。元々、メインまで出張って戦おうって思ってついてきたわけじゃない。

 

 平和か混沌か。世界の行く末を決める戦いの火蓋が、今、切られた。

 

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