偽次元のプリズム【完結】   作:ジマリス

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23 混戦

 女神候補生たちがマジェコンヌのもとへ向かう。俺は剣を構えて、その場でじっとしていた。

 行き遅れたわけじゃない。犯罪神を相手にするのはネプギアたちの仕事。俺の役目はそれ以外が邪魔をしてこないように壁となることだ。

 

 そして、俺の他に動かないのが一人。鎧の騎士だ。

 あいつ、不気味なほどに静止している。女神候補生と犯罪神の戦いにすら興味がないみたいに。

 

 俺は警戒したまま、視線を移す。

 ネプギアたちは犯罪神とほぼ互角。それどころか押してる。そりゃ、女神が四人もいればどんな相手だって勝てる。

 

「ミラージュ・ダンス!」

 

 舞いながらの一撃。当たれば大ダメージは必至。

 しかし──

 

「くっ」

 

 突然現れたグレイシスターが、ネプギアの必殺技を防いだ。

 

「なっ!?」

 

 当のネプギアも、俺も驚いた。

 急にグレイシスターが目の前に出てきたこともそうだが、推定女神である彼女がまさか、犯罪神への攻撃を阻んでくるなんて。

 

 グレイシスターはネプギアの剣を弾き、距離を取る。その傍に、シーリィもやってきた。

 俺たちと犯罪神一派とグレイシスターたち。役者は揃ったってところか。だが、その役が気に食わない。

 

「お前……」

 

 刀を握る手に力がこもる。

 ほんの少しだけ話して、共闘した程度だが、ちょっとは信用に値する奴だと思ってたのに。

 

「くくく……」

 

 面白くてたまらないというふうに、マジェコンヌだけが堪えきれない笑いを漏らしていた。それがまた俺の心をざわつかせた。

 

「来たな、灰色の女神。さあエフツーピーよ、相手をしてやれ」

 

 もしかして置物かもと思っていた鎧の騎士が首肯する。

 

 初めてこいつらと会った時のように相関図がしっちゃかめっちゃかだが、とにかく分かりやすくするとこうなる。

 犯罪神マジェコンヌ、エフツーピー、グレイシスター、シーリィ。この四人は全員敵だ。

 

「マホ、隠れてろ」

「う、うん」

 

 マホが塔屋の後ろに隠れたのを確認して、だっと駆ける。犯罪神以外は、俺がやらなければ! そう思っていたのは、俺だけじゃなかった。

 

「灰色の女神!」

 

 その巨体で割って入ったエフツーピーがグレイシスターに剣を突きつける。ネプギアたちから離れざるを得なくなったグレイシスターは、忌々しげに鎧を見上げた。

 

「邪魔をしないでください!」

 

 また台詞取られた。

 

 前の時と同様、エフツーピーはよほど女神がお嫌いらしい。なら適材適所ということで、そっちは任せるか。じゃあ俺は……

 

「行かせません」

 

 俺の前に、シーリィが立ち塞がる。

 

「またか。お前、俺のこと大好きかよ」

 

 俺は言った。

 

「今はお前に構ってる暇はないんだ。どけ」

「あなたを犯罪神のところに向かわせるわけにはいきません」

 

 じゃあ俺の相手はお前ってことだな。

 前の俺と思ってたら火傷するゼ! これ負けフラグっぽい。

 

「ロックスさん!」

「こんなに敵が集結してくるなんて……!」

「俺の心配はしなくていい。お前たちは犯罪神を倒せ。作戦名『ぶっつけ本番』!」

「それ作戦じゃないわよ!」

「『なりゆき』でも『出たとこ勝負』でもいいけど」

「名前が気に入らないんじゃなくてですね!?」

 

 とにかく、犯罪神を相手取るのは少しでも多いほうがいい。

 シーリィを俺一人で相手すれば女神候補生全員が犯罪神と戦える。現状ではこれが最善だ。

 

 G・Spearに換装して、宙へ飛ぶ。先手必勝だ。スラスターを噴かして接近し、槍を突き出す。が、シーリィはすんでのところで避けた。

 

「話をさせてください」

「俺もゆっくりお話したいところだがな、どうやらそんな暇はないらしい」

 

 すぐ近くでの戦いはどんどんと激化している。

 どちらが勝つか分からないが、犯罪神側のエフツーピーと犯罪神を庇ったグレイシスターのどちらが残っても女神候補生の邪魔をするだろう。

 

「マスター!」

 

 俺から目を離し、シーリィはグレイシスターのもとへ飛ぼうとした。

 今度は俺が立ち塞がる番。より速く飛び、隙だらけのボディに蹴りをかましてやった。

 シーリィは吹き飛んで、俺はさらに追い打ちをかけようとする。しかし、槍が貫く寸前に、シーリィは穂先から体を逸らした。

 プラネタワーの上空で、攻撃の手を緩めずに繰り出す。ただ、流石に飛行戦闘に関してはあちらが上のようで、ギリギリ避けられる。

 しかし、しかし悪くないぞ。この一対一の状態を長引かせれば長引かせるほど、ネプギアたちの戦闘時間を稼げるからだ。

 

「……続きはあのエフツーピーを倒してからにしませんか」

「それしたら、グレイシスターとお前と俺で二対一になるじゃねえか」

 

 そうなったら負けるのは目に見えている。ここでの最善の手は、シーリィと戦って戦闘不能にさせ、あちらの戦いに加わって決着をつけさせないこと。時間を引き延ばせれば、ネプギアたちならきっと犯罪神を倒せる。それまで俺と付き合ってよ。

 

 シーリィは意を決してたように拳を固め、こちらへ向かってきた。ついに堪忍袋の緒が切れたか。

 閃くパンチを、避ける、いなす。指先が裸のため、槍を細かく扱うことが出来る。とはいえ、機動力に優れ、その突進による突きの貫通力も素晴らしいG・Spearだが、攻撃力と防御力は低い。強敵との一対一では、機を見て叩く戦法じゃないと大したダメージすら与えられないだろう。

 

 一度屋上に降り立ち、ちらりとネプギアたちのほうを見る。

 

 バリア装置に触れさせたくないマジェコンヌは、その前に陣取って女神候補生と刃を交えている。

 まあマジェコンヌとしては……ん、あ? なんでマジェコンヌはバリア装置を守るみたいな戦い方してんだ?

 バズール現象抑制装置を繋げさせないためか? いやいや、作ろうとして作ったのは昨日から今日にかけてだぞ。その間にマジェコンヌが知ることはなかったはず。ここまで奴と話してないどころか会ってすらいないんだから。

 そもそも待ち構えもせずにバリア発生装置を壊してしまえば……

 

「おっと」

 

 俺たちが戦う間を、何かが通り過ぎた。そいつは──エフツーピーはでかい図体に似合わず、屋上を滑って落下の衝撃をいなす。

 大きい体を持っていようが、流石に推定女神には敵わないか。その事実は奴も分かっているようで、ガンと床に拳を叩きつける。

 視線だけで射抜いてきそうな一つ目が、ギョロリとこちらを向いた。

 

「装甲の戦士、力を貸せ」

 

 臆面もなくそんなこと言ってきた。

 

「犯罪神側の奴に、俺が従うとでも思ったか?」

「よく考えろ。灰色の女神とロボットが邪魔なのは、お前も同じだろう」

 

 俺にとって邪魔というか、女神候補生にとって邪魔というか。うん、邪魔です。

 

「ま、待ってください。そこの鎧は犯罪神に与する敵ですよ、ロックス」

 

 確かに。それどころか俺にふっかぁ~い傷をつけてくれた張本人でもある。

 だがしかし、待て待て。冷静になれ。ここで俺が取るべき行動は──

 

「はい考えた」

 

 俺はP・Bladeに換装して、剣先をグレイシスターたちに向ける。

 

 ここは、体裁上二対二のほうがいいだろう。

 もし俺がグレイシスター側につけば、エフツーピーを圧倒できる。だがその後は先ほどシーリィに言った通り、二対一になって俺が負ける。

 

 だがエフツーピーと組めば、女神候補生VS犯罪神の決着まで邪魔を入れさせずにいられる。もしくはグレイシスターたちに勝って、その後エフツーピーと一対一に持ち込める。

 敵とコンビになるなんてプライドはないんですか? そんなもの今ごろ拠点の前で転がってるよ。

 

「くっ。ロックス、どうして……」

「最後にはお前ら全員を斬る」

 

 世界を平和にしようっていう俺たちを邪魔するなら、容赦はいらないはずだ。

 

 しかしグレイシスターは俺に剣を向けることはせず、エフツーピーに向かった。エフツーピーも突進して、刃を合わせる。

 猪突猛進なエフツーピーの横から、シーリィが攻撃を加えようとする。俺はその間に割って入り、銃口を槍で逸らす。続けて、W・Axeに換装してグレイシスターにタックル。

 

 ずいっと前に出て、一見囲まれているこの状況、だがこれで良い。

 この二人と一体は、俺を殺すつもりはない。というか倒すことすら避けてる節がある。今だって、エフツーピーは俺をどかして追撃することも出来たのに、すぐさま引っ込めた。

 俺が中心にいれば、それぞれの攻撃は緩くなり、決着にかかる時間は倍。さらに倍率ドン!

 

 もちろんこれはこいつらが痺れを切らしたら終わりの作戦だ。もしくは間違いが起きて、この間みたいに体に深い傷が残るかも。

 しかし、だ。この場面において、集まった敵どもが俺を攻撃するのを躊躇っている状況を利用しない手はない。

 

 体裁上は二対二だが、実際は混戦状態。

 数秒膠着状態に陥ったグレイシスターとシーリィは、いっそ俺たちを無視して女神候補生のところへ向かおうとする。当然それを許すわけもなく、エフツーピーが動き、そして俺が両者の邪魔をする。鍔迫り合いの火花が幾度も散り、一進一退が繰り返される。

 

 焦ってきたのか、グレイシスターの踏み込みが深くなった。エフツーピーへの当たりが強くなり、鎧を削ろうと躍起になっている。

 だがその分、横や後ろは無防備だ。

 

「換装!」

 

 W・Axeになって、斧を振り回す。大振りな攻撃だが、隙を見せたグレイシスターは防御できずに食らう……はずだった。

 

「マスター!」

 

 代わりに斧を受けたのは、割り込んできたシーリィ。

 斬ることは叶わなかったが、巨大な武器の身に当たり、重く脆い物を床に落とした時のような音が鳴って、シーリィを吹き飛ばす。

 すぐさまB・Swordに換装、グレイシスターに斬りかかった。不意打ちに怯んでくれるようなことはないが、想定通り。

 

「させません」

 

 主の危機に、従者であるシーリィが反応する。叩きつけられた体に無理をして、俺に突進しようとする。

 武器も構えないその姿は隙だらけで、カウンターを打ち込むには絶好の機会だ。

 

 すぐさま女神の相手をエフツーピーに任せ、標的をシーリィに変える。

 思いきり踏み込んで、剣を振る。

 

「もらった!」

 

 すれちがいざま、シーリィの片腕を斬り落とす。

 ロボットの片腕を落とした程度じゃ、まだ潰すには遠いが……だがかすり傷しかつけられなかった以前と比べると大金星。

 当然、それで勝ったなどとは思ってない。機能停止するまでは油断禁物だ。

 

「次は頭を斬る」

 

 剣先をシーリィに向ける。

 焦りが怒りを沸かす。シーリィに傷をつけたが、まだまだ緊張は緩められない。

 

「ちっ」

 

 今回の作戦に置いて、俺に役割が時間稼ぎだってことは分かってはいる。しかしそうなったのは、俺の実力が他と比べて著しく低いからだ。

 もし俺がもっともっと強ければ、ここでこの二人+一体を下してみせるくらいの力を持っていれば、今ごろハッピーな結末になってエンドロールが流れてるところだ。

 そんなことも出来ない自分にも怒りが募る。

 

「マスター。ロックスの状態が……」

「分かっています。これ以上はまずいですね」

 

 ビビったわけでもないだろうに、シーリィとグレイシスターは飛んで離れた。

 

「早くしないと……!」

 

 ぎりっと歯を噛むグレイシスター。

 純粋な憎悪を煮詰めたようなその視線は、俺たちの向こう、犯罪神マジェコンヌへと注がれていた。

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