偽次元のプリズム【完結】   作:ジマリス

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 シーリィの腕が斬られたことによって、あちら側の勢いが弱まる。後退して、俺たちの攻撃が届く範囲から遠く離れだした。

 間が出来て、ちらりと後ろを向く。

 俺がグレイシスターたちを足止めする一方で、女神候補生VSマジェコンヌの戦いは佳境に入っていた。

 

「くっ、やはりこの体ではこれが限界か……」

 

 マジェコンヌが毒づく。

 ネプギアたちを一人で相手にしようだなんて馬鹿め。防戦一方とまでは言わないが、しかし明らかにネプギアたちが勝っている。

 息を切らしたマジェコンヌの体には切り傷や擦り傷が出来ている。実際のダメージは見た目以上だろう。女神候補生が四人揃えば、犯罪神一体くらいどうってことねえってことよ。

 ……などと得意げになっていたのも束の間、マジェコンヌは懐からある物を取りだした。

 

 何かの結晶だろうか。手に収まるサイズの正八面体が、怪しく鈍く光っている。

 奴は濃い紫色のそれを、自分の体に当てた。すると、傷は見る見るうちに塞がり、戦闘前と変わらない姿に戻っていた。

 

「回復した……!?」

「あのクリスタルのせいか」

 

 愕然とするネプギア。

 あの結晶が放つ光は弱まっていて、そこから何度も使えないことが分かる。が、いくら実力では勝ってるとはいえ、何度も治されてはかなわない。振り出しに戻されるのを繰り返すだけだ。

 

「だがこれはあくまで回復手段でしかない。貴様らを相手にするのは、やはりまだ早いようだ。ここは退こう」

「逃がしはしませんわ」

 

 杞憂を吹き飛ばす凛とした声が空に響く。

 マジェコンヌの背後に現れたその声の主は……女神化したベール様、いやブラン様にノワール様も駆けつけてきていた。

 まさか、街にいたモンスターを一網打尽にしてきたってこと?

 

 こうなったら振り出しって言った(言ってない)のを撤回しよう。勝ち確。

 まさに四面楚歌。勝敗は決したようなもんだ。俺が犯罪神の立場なら、今すぐ土下座して靴を舐める。だというのに……

 

「いいや、逃げさせてもらう。ゆっくりとな」

 

 マジェコンヌは全く関係ないというように、余裕の表情を崩さない。

 そして彼女がパチンと指を鳴らすと、瞬時にして傍に大きな物体が現れた。

 つい最近見たことのあるフォルムに、俺は唖然とした。あれだ。ネプギアたちを閉じ込めていた、あのカプセル。

 見る限り女神候補生を寝かせていたものと同型の冷凍睡眠装置。そしてその中にはなんと……

 

「お姉ちゃんっ!?」

 

 やはりとも言うべきか、あそこに入っているのはネプテューヌ様。行方不明となっていた、プラネテューヌの女神様。

 マジェコンヌが身柄を確保してやがったのか。

 中に閉じ込められている少女は、ネプギアの声に対して反応がない。外傷は無く、ただ眠らされているだけのようだ。

 

 ほっとすると同時に、その辻褄の合わなさが気になった。

 

 手元にずっとネプテューヌ様を置いてたのか? なんで?

 

「……おかしい」

 

 戦闘中に頭を掠っていたかすかな疑念が、どんどんと膨らんでいく。

 犯罪神マジェコンヌは破壊の権化。混沌を招いてばら撒く諸悪の根源のはずだ。

 なのに、不可解な行動ばかりだ。

 ネプテューヌ様を人質として出しておけば、戦いを繰り広げることもなかった。

 バリア装置にしても、すぐ壊せばいいものを、何故そのままにして、しかも守るようにして戦ってたんだ?

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

「マジェコンヌっ!」

「待て、ネプギア!」

 

 逸るネプギアを抑える。

 

「止めないでください、ロックスさん!」

「何かおかしい。何か、とんでもないことを見落としてる気がする」

 

 二年も音沙汰がなかった姉が敵の手にあると知って、冷静でいられないのは分かる。

 だけど、このまま思うがままに行動していけば、取り返しのつかないことになりそうな気がする。マジェコンヌの笑みが、疑念を深くした。

 

 犯罪神は、何の目的もなく辻褄の合わないことをしてみせるような奴なのだろうか。何故、こんなにも噛み合ってないことをしてるんだ、あいつは。

 

 俺がネプギアを止めようとしたことで、それまで抑えていた女神が飛び出す。

 

「そこですっ」

 

 グレイシスターだ。

 一瞬で間を詰めた彼女が、クリスタルをマジェコンヌの手から弾く。油断していたマジェコンヌの手から、それはカツンと音を立てて落ちた。

 

「なっ!?」

 

 怪しく光るクリスタルに、ほとんど全員の目が向く。

 

「あーしに任せて!」

「換装!」

「取らせん!」

「っ!」

 

 とっさに動いたのは、後ろで見ていたはずのマホ、G・Spearに換装した俺、マジェコンヌ、グレイシスターの四人。

 他は、ネプテューヌ様が突然現れたことによって反応が遅れた。

 

 アレが何であろうと、とにかくマジェコンヌにとって益のあるアイテムなら奪っておかなければいけない。

 少しでも速度を増すため、槍を投げ捨てる。

 

 緊張感のあまりか、アドレナリンが放出されて周りの時間が遅く見える。俺はぐんぐんと近づいて行っているが、タッチの差で間に合わないだろう。

 おそらく、マホかグレイシスターのどちらかが先に触れるはずだ。ならば……

 

「どけ!」

 

 ほんの少し体を捻ってグレイシスターに体当たりをして阻止し、続いて、マジェコンヌの手を払う。

 

「取った!」

 

 数センチの差を制したのは、マホだった。

 それを確認する間もなく、マホを抱えて屋上を滑る。

 

「無茶しやがって」

「だけど、奪ったよ、これ!」

 

 彼女は鬼の首を取ったかのように、クリスタルを掲げた。

 こればっかりは予想外だったようで、マジェコンヌの顔が初めて悔しそうに歪む。

 

「これで回復手段は無くなったわ!」

「今度こそ終わらせます!」

 

 もう一度マジェコンヌを追い込めば、世界の危機は終わる。

 女神様たちは気合を入れなおし、一斉に敵へ向かう。だが、その足はすぐに止まった。

 

「……なんだ?」

 

 急に辺りが暗くなった。しかし、遮るものがない屋上に、突然影が差したのだ。

 夜になったんじゃない。見上げると、空に円が出来ていた。

 上手い表現を考えようとしたが、円としか言いようがない。屋上より少し広い真円が、数十メートル上空にある。

 巨大な円の内側は塗りつぶされたように黒く、深海の底を覗き込んでるような得体の知れなさに、背筋がぞくりとする。

 

 そうやってビビり散らかしてアホみたいに口を開けていられるのも束の間。

 足元から頭のてっぺんまで、つまり下から上へ微かに風が吹き始めた。

 さっき感じたよりも大きい嫌な予感が、頭に警告を発してくる。

 

「穴が開いたか。ちっ……まあいい。退くぞ、エフツーピー」

「……」

 

 ハッとして視線を戻した時には、マジェコンヌもエフツーピーも、グレイシスターとシーリィすらいなくなっていた。

 今から追いかければまだ間に合う。逃さずにトドメを刺すことが出来る。

 けども、俺たちは後を追うよりもその場に留まった。敵を倒すよりもしないといけないことが起こったからである。

 カプセルが浮き始めたのだ。

 空に開いた穴はブラックホールみたいなもんで、見た目重そうなそれすら飲み込もうとしてる。

 

「いや『飲み込もうとしてる』じゃねえ!」

 

 飛んで、天に昇るところだったカプセルにしがみつく。それでもまだ、穴は引っ張ろうとしてくる。それどころかどんどん吸引力が増していっている。

 ついに、カプセルを掴んで踏ん張っていた俺の足も地面から離れる。UFOの中に転送されるみたいに、徐々に穴へ近づいていく。

 

「か、換装!」

 

 穴がぽっかり口を開けた怪物に見えて内心震えながら、W・Axeに換装し、増えた重量のおかげで下降。

 だが安心は出来ない。穴の中へと吹く風は時間が経つごとに強くなっていっている。早くネプテューヌ様をここから出さないと!

 確か、側面にあるボタンを押せば開くはずなのだが……

 

「反応しませんねえ!」

 

 名人の如く連打しても、うんともすんとも言わない。壊れてんのか、これ?

 

「叩いたら直ったりしない?」

「そんな古い機械みたいな直し方でどうかなるのかパンチ!」

「ツッコミとパンチを同時に……腕上げたね、ロックス」

 

 最悪ぶっ壊してネプテューヌ様を中から連れ出せばいい。そう思って全力で殴りつけてもヒビ一つ入らなかった。が……

 

《スリープモードを解除します》

 

 わ~、上手くいってるぅ。

 

「う~ん、あーよく寝たぁ」

 

 ちゃんと目覚めてるぅ。

 

 そうするともちろん……

 

「ねぷうううう!?」

「!」

 

 俺はG・Spearに換装し、カプセルから飛ばされ、吸い込まれそうだった小さい体を掴んだ。

 

「ちょちょちょ、目覚めていきなりなにこの状況!?」

「あ、暴れないでください、ネプテューヌ様!」

 

 突然起こされたと思ったらこんなことになってるなんて、そりゃパニックになる。俺も反射的に女神様を抱えることには成功したけど、脳内はいきなり起きたあれやこれやで破裂寸前だ。

 

「ロックス、ナイス!」

「ネプテューヌを離さないでよ!」

「が、合点!」

 

 スラスターを最大出力で噴かす。人ひとりを抱えて飛行するのは無理だが、落ちる分にはG・Spearフォームは存分にその特性を活かせる。

 ……そのはずなんだけど、吸い込まれる力のほうが強いみたいで、少しずつ穴に近づいていく。

 そんな俺のすぐそばをすり抜け、カプセルが吸い込まれていった。人ひとりがすっぽり収容出来るような大きな物があっさり闇の中に入ってしまうことにぞっとした。

 

「もっとスピード上げられないのか!?」

《これが限界です》

 

 システム側からは、無情にもそんな言葉が返ってくる。

 

「「ひえええええ!」」

 

 二人して情けない悲鳴を上げてしまう。

 もしかしてこのまま飲み込まれて異世界編始まるの? 夜明けの炎刃王編なの?

 

「ロックスさん、手を伸ばしてください!」

 

 柵に掴まるユニ、その手を繋ぐロムとラム、そしてネプギアが腕を目いっぱい伸ばして、手を差しのべていた。

 

「……っ!」

 

 ギリギリ届かない。指と指が掠るだけで、掴もうとするには遠い。そうしている間にも、穴の吸い込む力は増していく。

 汗が顔を伝う。あの穴に巻き込まれて無事で済むなんて甘い考えはない。最悪その先は……

 

 悪い考えが加速していく中、状況はぱっと変わった。

 

「おうっ!?」

 

 俺を引っ張り上げようとした力が、突然消えた。

 全力で抵抗しようとしていたせいで、本来の飛行能力が遺憾なく発揮され、高速で地面に激突した。

 勢いあまって、屋上のあちらこちらに何度かぶつかって、転がる。

 

 痛……くない。どうやら、SVシステムが咄嗟に判断して換装をしてくれていたらしい。いつの間にか厚い装甲のW・Axeになっていて、落下ダメージを受け止めてくれたようだ。

 で、肝心のネプテューヌ様は俺の腕の中で、無傷で収まっていた。

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