「改めて、女神ネプテューヌふっかーつ!」
天真爛漫な笑顔で、ピースをする美少女に俺たちは安堵のため息を漏らした。
この方が、ここプラネテューヌの女神であり、ネプギアの姉、ネプテューヌ様だ。
カプセルでぐっすり、起きてパニックだったとは思えないほど元気等倍アンハ●ンマンだ。
ほらぁ、やっぱり無事だっただろ? こういうのは大体大丈夫なの。崖落ちしかり、川流されしかり。
「……復活ッ、復活ッ、ネプテューヌ様復活ッ!」
「お、なかなかノリのいい人がいるね。私のファン?」
「あ、お姉ちゃん、紹介するね。この人はロックスさん」
「お初にお目にかかります、ネプテューヌ様。紹介しますね、こちらはあなたの妹のネプギア」
「わ、すごい。今のところこの人がボケてるとこしか見れてないよ、私」
これでようやくネプギアの心の引っ掛かりも取れたんだ。きっとネプテューヌ様は無事っていう俺の言葉も嘘にならなくて、安心安心。
ほっとしたのと同時に、皆様揃って視界に映す日が来るとは。この大陸の四女神とその妹ぞ。こんなのでっけえイベントでしか見れんぞ。それでもこんな間近で見れんぞ。
「それで、こっちがマホちゃん」
「ぎあちーのズッ友、マホでーす!」
「うんうん、よろしくね。ネプギアに新しい友達ができたんだー。ノワールは相変わらずぼっち?」
「なんで矛先がこっち向いてくるのよ!」
友達っていうか、それを超えた仲間……っつーの? まったく、候補生とはいえ女神様と仲間だなんて、照れちまうぜ。
「というかあなた何で捕らわれてたのよ」
「え? えーっと……」
ノワール様の疑問に、ネプテューヌ様は首をひねった。
「ぴーしー大陸でマザコングのおばさんと戦って、追い込んで……頭にゴチーンって何かがぶつかって……」
「マザコング?」
「無視していいわよ。いつも名前を言い間違えてるだけだから」
……ああ、マジェコンヌのことか。言い間違いするにももうちょっと近い間違いしてくれないとボケって分からないんだが……
「で、そのぶつかったのが……」
「カプセルじゃないの? それで眠らされたとか」
当たって寝ちゃうってカプセルの使い方間違ってますけどね、それ。
「そこからマジェコンヌにカプセルごと捕らわれて、二年眠りっぱなしだったってわけですわね。」
「に、二年!?」
ああ、そうか。
二年前、ネプギアたちがあの施設に行った頃とほぼ同じ時期に、犯罪神が現れたぴーしー大陸からヘルプを受けて、その場に行ってから連絡取れてなかったんだっけ。
てことは、ネプテューヌ様も同じく、二年前からあのカプセルで眠らされていたわけで……
大きいことが多く起こりすぎたからな。俺の周りで起こったことだけでも、説明するのは骨が折れそう。それがぴーしー大陸入れて五か国分だから、全身複雑骨折くらいはかかるかな。
「どこから説明しましょうか」
「話すべきことはたくさんあるし、かいつまんでっていうのも難しいわね」
「えーと、じゃあロックスお願い」
お任せあれ!
「かくかくしかじか」
「ねぷぅ!? かくかくしかじかしか喋ってないのに、情報の洪水が流れ込んでくるう~!」
ネプテューヌ様は目をぐるぐると渦巻かせ、頭を抱えて、ばたっと倒れた。
「あれ、どうやってるのかしら。不思議ですわよね。一瞬で説明してると思ったら、体感一週間くらいな気もして……」
「かと思ったらテレパシー使ってるみたいに、言ってる言葉以上を頭にぶちこんでくるし」
「いや、そんな冷静になってる場合!? ネプテューヌ痙攣してるわよ!?」
「あばばばばば」
「これ本当に大丈夫なんですか、ロックスさん!?」
「(全然保証は出来ないし、こんなことになるなんて思ってもみなかったけど)ヨシ!」
「だいぶ含みある!」
前は一日間程度の話とかVTuberの説明だけだったからな。今回は二年分ということもあって、負担が大きいらしい。
まあ女神様だし大丈夫やろ。知らんけど。打ち上げられた魚みたいになってるけど。
「あーしに良い案があるんだけど。壊れた家電って、叩いたら直るって言うよね」
「カプセルがそれで直ったしな」
「怖いこと言わないで!?」
「ぴーしー大陸の人って変な人多い……」
「おい、俺を含めるなよ」
「ロックスが一番変人なのよ」
結局、黙って待つしかなく、やがてほどなく落ち着いたネプテューヌ様は、ケロッとして立ち上がった。
「お、お姉ちゃん大丈夫?」
「へーきへーき! ちょっとまだくらくらするけど」
やっと帰ってきたネプテューヌ様が心配のようで、ネプギアは彼女のことを支える。
なんかこう、落ち着き度合いといい、身長や体格といい、ネプギアのほうがお姉さんっぽいな。
「よかったね、ロックスが女神様を危ない目に遭わせたってことになったら、あーしインタビューで『いつかはやると思ってました』って言うところだったよ」
「見捨てるスタンス取るな!」
もっと俺のこと庇え!
「でも、へえ~。二年も経ってて、そんなことが起きてたんだ。ってことは……」
「てことは?」
「アニメもゲームも二年分溜まっちゃってるってこと!?」
「あ~しまった、真面目に聞いちゃった」
もっと重大なことに気付いたのかと思って耳寄せちゃった。
「だってだって、最近特にコンテンツの消費が早いじゃん。その時にやらないと話にもついていけないし、ネタバレ食らうんだよ!」
「犯人はヤス」
「あー! ロックスがネタバレしたー!」
「いや何十年前の話してるのよ」
「相性良さそうね、あの二人」
ネプテューヌ様ノリが良すぎる。今のところはまだボケ数は俺のほうが多いが、すぐに追いつかれそうな気配もする。ついてこれるか、遊星!
さて、ネプテューヌ様の無事を確認して、俺たちはようやく元々の目的を果たすための行動に移る。
早速、ネプギアとマホがバリア発生装置に自前の機械を繋いで、それぞれの端末を取り出してピコピコやりだした。
バリア発生装置自体は、あれだけの戦いがあったにも関わらずほぼ無傷で、すんなり作業は進みそうだった。
「バリアシステムと接続、起動します!」
ネプギアがそう言って、Nギアをタッチ。
そうすると、バリア発生装置から光がばーっと出て街を覆う……なんてことは起きなかった。
「しーん……」
「ねえネプギア、これちゃんと動いてるの?」
「うん。空間のゆらぎに対して波をぶつけてるだけだから、目には見えないんだよ」
わかんねえ~~~。
理系の話はさっぱり。でも……
「動作は安定してるよ、ぎあちー!」
「成功です! これで、街の中でバズール現象は起きません!」
二人の言葉と喜びようから、どうなったかは分かった。
ついに、ついに、バズール現象が無効化されたのだ。
「やったわね!」
「急ごしらえの装置で本当に上手くいくなんて」
「ふふ、これで安泰ですわね。流石わたくしのネプギアちゃんですわ」
立て続けにみんなが喜んで、実感が追いついてくる。
はあ、と大きく息を吐く。
一歩、いや百歩くらい前進した。なんといっても、唐突に大量のモンスターが現れることに怯えなくてよくなった、というのはでかい。
誰も彼もを困らせる最大の脅威だったのだ。この国も他の国も、これからは良くなる一方だろう。
「じゃあ早速、他の国にもこのシステムを設置しに行こー!」
「問題は俺たちぴーしー大陸の人間はどうするか……」
「それだったらプラネテューヌに来たらいいよ! 教会には部屋が余ってるし、宿泊施設とかにも協力してもらって、生活が安定するまではみんなそこで住めば?」
うんうん、そうしよう、とネプテューヌ様はあっけらかんと言ってみせた。
「いいんですか!? で、でも、かなりの人数いますよ?」
「大丈夫大丈夫、なんとかなるなる!」
「おお、おお、ネプテューヌ様、我らが偉大なる指導者よ、我らが太陽よ……」
思わず跪いてひれ伏しちゃう。
「ロックスからしたら相当喜ばしいことなんだろうけど、あの崇め方なんか嫌ね」
何でよ! 最上級の礼賛でしょうが!
「わたくしたちのほうでも、難民の皆さんの身柄を預かりますわ」
「そうね。ロックスたちのおかげで少しは余裕が出てきたわけだもの」
「バズール現象が起きないなら、安全も保証できるわね」
「おお、おお、我らが賢明で聡明で輝かしい守護者よ……」
「変な崇め方しか出来ないの?」
え、これダメ!?
「土下座もしなくていいからね。ほんと、あの時はびっくりしすぎて心臓が飛び出るかと思ったわよ」
「ノワール……土下座させたんですの?」
「女神失格ね」
「ち、違うわよ! こいつが勝手に滑りながら土下座してきたの!」
「ノワール様、スライディング土下座です」
「知らないわよ!」
女神様とコントじみたことしてると、さっきまで犯罪神相手に押せ押せだったのが嘘みたいに見えるな。
「ま、まあまあ、とにかく早いうちに各国のバズール現象対策を進めましょう」
「じゃあ、そっちはネプギアとマホで頼む。俺は難民をプラネテューヌに誘導してくるよ。善は急げってな」
言うと同時に、俺は端末を使って通話をかける。お相手はもちろんアンリだ。
「そういうわけで、アンリ、みんなに準備させておいてくれ……アンリ?」
〈わ、わかったわ……〉
喜んで! とすぐ返ってくるかと思ったのに、アンリの反応は遅くて鈍かった。流石の彼女も感極まったのかしら。
必要な物だけ持ってくるとなれば、準備はすぐ出来るだろう。安心できる場所に移れるってなったら、文句を言う人はいないはず。
「アタシたちも行くわ」
通話を切った俺にそう言ったのはユニ。そしてロムとラムも賛同した。
「拠点のほうはまだバズール現象が起きる可能性もあるし、大移動には護衛が必要……ちょっと、跪かないでよ!」
「土下座のほうがいいか?」
「ユニちゃん、そんなことさせなくても協力してあげたらいいのに……」
「ラステイションって土下座させるのが普通なの?」
「ほら誤解招いてる!」
このままいったらぴーしー大陸が土下座大陸になりそう。わかった、この話はやめよう、ハイ!! やめやめ。
「三十分後に出発でいいか?」
「どこ行くの?」
階段を下りようとする俺にラムが声をかけた。
「あー、えっと、お花を摘むの男バージョンってなんて言うんだっけ?」
「普通にトイレ行くって言えばいいのよ」
女の子ばかりのパーティだと、こういうのすら気を付けるのが男ってもんなのさ。ふへへ。
たたたっと階段を駆け下りる。二階分降りたところで、俺は歩を止めた。
「つ……っ」
ジャケットのファスナーを開ける。
体に巻かれた白い包帯が、赤くなっている。今もじわりじわりと血が出て、どんどんと赤色が濃くなっていっている。
あくまでサポートとしてついてきたんだが、それにしては動きすぎた。グレイシスターやシーリィ、エフツーピーが相手では手加減でどうにかなるわけもなく、SVシステムの補助機能をフルに使ってまで戦ったのがまずかったか。
でも、これは大したことじゃない。傷が開いただけで、さっきの戦闘で負った怪我はほとんど耐えきれるものだった。
ちゃんと治療して一ヶ月か二ヶ月もじっとしていれば、完全にとは言わなくても、また開かない程度には治るだろう。
俺の体は元通りになる。それよりも、俺が気にすべきは拠点のみんなだ。せっかく女神様たちが居場所を作ってくれるというのだから、早く伝えて早く連れてきてやりたい。
良い飯を食って、良いベッドで寝て、勉強して、遊んで……そんな『普通』を、出来るだけすぐに味わってほしいんだ。
ふう、と一息ついて、俺は包帯をきつく巻きなおした。