偽次元のプリズム【完結】   作:ジマリス

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3 女神候補生

 俺が道中や施設内の危険を排除したことで奥まで辿り着くことが出来た後続隊によって、カプセルのようなものに入れられていた女神候補生たちは拠点に運び込まれた。

 どうやら外傷はなく、たんに眠らされていただけのようであり、つまりあの容器はコールドスリープ装置だったというわけだ。

 アンリによると、手順を踏んでマシンをオフにして外に出したから、すぐ目覚めるはずとのこと。

 長いこと睡眠させられた人が目覚めたらどうなるかなんて分からないけど、常人を超えた女神様なら大丈夫だろうと思った。しかし頭の半分は、『本当にそうか?』と心配で占められた。

 

 少女だった。いや、イベントごとに姿を見せていて、その様子は離れたぴーしー大陸でも動画などを通じて見てたから知っていたけど……でも予想以上に普通の少女みたいだった。

 もっとなんか、思わずひれ伏してしまうオーラとか出てるもんだと思っていたから、ちょっと親近感が湧いたり。

 そんな子たちのこれまでとこれからを考えると、少し暗い気持ちになる。

 女神様、大丈夫だろうか。

 

 拠点に戻って、そんなことを考えていた時、どん、と不意に何かがぶつかってきた。

 

「ろっくすー、たっち!」

「ろっくすがおに!」

 

 振り返ると、子どもたちがきゃっきゃとこちらを指差している。

 おっと、鬼ごっこか。

 拠点は広い。俺でもそう思っているのだから、子どもたちはなおさら。そのおかげで外にあまり出られないなりに楽しめているようだ。

 

「よーし、追いかけちゃうぞー!」

 

 がおーと腕を広げて、逃げようとする子たちの後ろをついていく。がおーって鬼じゃねえじゃん、熊かなにかだよこれ。

 わざと歩幅を小さくして、子どもたちとつかず離れずのデッドヒート。よきところで、追いついて抱え上げてやる。

 

「ほら捕まえたぞ」

「わー、たけえ!」

 

 両手で持ち上げて、そのまま肩車。みんなこれが結構好きみたいで、やるたびに喜んでくれる。

 俺もよくお父さんにせがんでたなあ。小さい時は高いところ好きよね。

 

「ろっくす、わたしもわたしも!」

「おれも、もちあげて!」

 

 鬼ごっこのはずなのに逃げる側が自ら寄ってくる。鬼にも寄り添うこれが多様性。次代の鬼ごっこ。そんなわけあるか。

 しかしルールなんて二の次。楽しめればなんだっていいのだ。

 

 そうやって入れ代わり立ち代わり乗せては下ろしを繰り返していると、アンリが顔を出してきた。

 

「ロックス、ちょっといい?」

「あ、あんりねーちゃんだ!」

 

 俺の肩の上に乗っている男の子が先に反応した。

 

「あんりねーちゃんもかたぐるま?」

「ううん。ちょっとロックスに大事なお話があるの」

 

 良い話でないことは、表情から察せられる。

 

「難しい話するんだってよ」

「むずかしーおはなし?」

「そう、専門用語飛び交う難しい話。聞く?」

「きくー」

「聞くんかい」

 

 きっと理解できないぞー。俺だっていつも半分も理解できてないんだから。

 

「えー、鬼ごっこしようぜ。おれが一番足速いってしょーめいしてやるよ!」

「足が速いだけでモテる時期はすぐ過ぎ去るぞ。その後は頭の良い男がモテて、大人になるとお金があるやつがモテるんだ」

「こら、子どもに夢のない話を聞かせないで」

 

 この程度で『夢のない』なんて言うのは早いぞ。結局顔の良さで全部決まるって話はまだなんだから。特に高校からは顕著。俺みたいなのに出番ないからな。度肝抜かれんぞ。

 

「わざわざ俺のところに来たってことは、女神様が目を覚ましたか?」

「ええ。イストワールさんが対応してくれてるわ」

 

 もしあのコールドスリープ装置で二年もの間ずっと眠っていたんだとしたら、何もかもが様変わりしている。そんな突飛な話でも、元々面識があったイストワールさんが言うなら幾分か冷静に聞いてくれるだろう。

 

「問題は、話す人より話す内容だな。目覚めてすぐ、世界が危ない状態ですなんて言われても受け入れづらいだろ」

「それに、プラネテューヌの女神様はまだ見つかってない。妹である女神候補生にとっては、これ以上ないほどきついことよ」

 

 両親を失ったアンリには、その辛さはよく分かることだろう。二年経っても乗り越えられない苦しみに、しかし俺は何も言えなかった。

 

 ぴーしー大陸崩壊事件の際、俺と俺の両親は偶然にもここプラネテューヌに観光旅行に来ていた。無事だったのはそのおかげだ。

 世界がヤバいと実感し始めたのはプラネテューヌにもモンスターが湧いてきた頃で、街がモンスターに占拠されてこの拠点に案内された時には、帰る場所が無くなった焦りや絶望も感じた。

 だが、実際に崩壊を目の当たりにした難民たちとは、感じたものに格差がある。ここにいる人の大半は、家族や友人を失った。目の前でその命が絶たれる場面に遭遇した人だっている。その人たちに、アンリに俺が何か言っても、何の慰めにもならないだろう。

 すぐそこに家族がいる。それはここでは恵まれたことで、だからこそ俺は失った人たちへ言葉をかけることが出来ない。

 

 出来れば何とかしてやりたい、と子どもたちの相手をしているが、俺がどこまで代わりになれるか分からない。もしかしたら、一縷の望みにすらなれていないのかも。それでも、俺は続けるしか……それしか出来る力を持っていなかった。

 

「ろっくす、話つまんない」

「だから言ったじゃないか」

 

 まだ大して長くも話してないのに、子どもたちは退屈のようだ。俺の袖をぐいぐいと引っ張っている。伸びるからやめなさい。

 

「まったく仕方ないな……もう一回俺が鬼になってやる!」

 

 もう一回腕を広げてやると、子どもたちはぱあっと顔を輝かせて、たたたっと駆けていった。

 

「あ、ちょっと、もう、まだ話は終わってないわよ」

「じゃあ鬼ごっこしながらで!」

 

 アンリにそう言いながら、俺は追いかける。

 もちろん、俺が全力で走ったらすぐ捕まえちゃうので、手加減しながらだ。でも最後には全員捕まえて全員高い高いしてやる。お覚悟!

 

「わ!?」

 

 走る子どもが角を曲がろうとしたとき、誰かが現れた。ぶつかりそうになったところを抱え上げる。セーフセーフ。

 

「す、すみません」

 

 衝突寸前だったその人はぺこぺこと頭を下げる。

 白色を基調とした、紫色のラインが入っているセーラーワンピを着た、腰まで届くピンク色の髪をもつ女の子。

 その姿には見覚えがあった。装置に入れられていたうちの一人、ネプギア様だ。

 横には黒髪をツインテールにして束ねている少女、ユニ様。

 二人とも、件の女神候補生だ。めんこ~。

 

「女神様。もう歩いてもいいんですか?」

「はい、おかげさまで。あなたがロックスさんですか?」

 

 お、あ、え、俺のこと知ってくれてんの?

 イストワールさんから聞いたんだろう。女神様に覚えてもらえるって結構凄いことなのでは。

 

「へ、へへへ、そうでございやす、女神様」

「ろっくす気持ち悪い」

「しょうがないだろ。女神様と面と向かって話すなんて一般ピーポーの俺には荷が重すぎるんだから」

 

 国を束ねる女神様だぞ。妹とはいえ、力も権力もある存在には変わりない。油断したら跪きそう。

 

「そんなに畏ま……畏まってるのか分からないけど、もっと楽にしていいわよ」

 

 今度はユニ様から五臓六腑に染み渡るようなありがたいお言葉。

 

「いや、でも、女神様ってほら、俺の五千兆倍くらいは偉いじゃないですか」

「女神候補生だからそうでもないわよ」

「じゃあ四千九百兆倍ですね」

「全然譲る気ないわね、あんた!?

 

 お、おお、女神様もツッコミするんだ……

 

「タメ口でも呼び捨てでもいいわよ。あんたでしょ、私たちを助けてくれたの」

 

 出会った瞬間に即タメ口呼び捨てとか、そんな世に蔓延るチョロインじゃないんだから。

 あと多すぎるよ畏れが。タメ口で喋ったとたん不敬罪で処刑されたりしない? そんな、女神様を普通の人間が呼び捨てなんて出来る奴なんて……

 

「あ、ロックス。ネプギアたちと話してたのね」

 

 いるぅ!

 後ろから追いついてきたアンリがまるで友達かのようにネプギア様のことを呼んでいる。

 

「ロックス、なにその顔」

「おまっ、不敬罪だぞ! 首を隠せ首を! 切られるぞ!?」

「切らないですよ!?」

「切らないんですか!?」

「私たちのこと、なんだと思ってるのよ」

 

 女神様という存在に大して、俺たちぴーしー大陸の人間の認識が間違っているのか?

 こちらでは女神様は全くといっていいほど姿を見せない。女神候補生もいるって話だけど、そちらも見たことがない。それゆえか、扱いが神格化(女神なんだからこの言葉正しくない気がする)されているのだ。

 だから、まあ、こうやって一メートルくらいまで近づいてる時点で俺の心臓はもう破裂しそうなくらい緊張している。

 

「いいって言ってるでしょ。ほら、あんたも」

 

 ええ~……

 しかし、こうやって何度も言ってくれているのに蹴るのも失礼なのでは。アンリも呼んでいるのだから、大丈夫なはず。たぶん。

 

「あー、じゃあ、えーと、よろしく……ユニ、ネプギア」

「はい、よろしくお願いします」

 

 ネプギアのほうが敬語なのはおかしくない? へんな汗出ちゃう。

 そういうわけでぎこちない自己紹介を済ませていると……

 

「ろっくすー、続き続きー!」

 

 いつの間にか子どもたちが集まってきていて、袖も裾も顔も足もぐいぐい引っ張られる。拷問かな。

 

「子どもたちと仲が良いんですね、ロックスさん」

「大人たちはみんな大変だからな。誰かが相手してやらないと。あと、この歳になってやる鬼ごっこもなかなか楽しいぞ」

 

 俺はくるりと子どもたちのほうへ向き直る。

 

「よーしみんな、このお姉さんたちも一緒に遊んでくれるって。人数増えたし、鬼増やすか。じゃんけんだじゃんけん」

「ぜってえ勝つ……っ」

「負けられない戦いがそこにある」

「我が魂をこの右手に!」

「なんかすっごいじゃんけんに覚悟決めてる子たちいるんだけど」

「ロックスの影響なの」

 

 半ば呆れながら、アンリがユニに返す。

 手を抜いてちゃ面白くないからな。遊びこそ全力でやるべきなのだ。

 

「いくぞ、せーの、じゃんけんぽん!」

 

 俺はパーを出したぞ。

 負けました。

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