偽次元のプリズム【完結】   作:ジマリス

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31 仲直り式

「えーそれではこれより『アンリとマホの仲直り式』を開催したいと思います。一同起立!」

「もう立ってるわよ」

「ユニの景気のいいツッコミもいただいたところで、挨拶を割愛しまして、乾杯!」

「「「「かんぱーい!」」」」

 

 ネプギアたちの私室兼執務室には、各国の女神様と女神候補生だけでなく俺やアンリ、マホのぴーしー大陸組もいて、だだっ広い部屋だっていうのに結構賑わって見える。

 そこに、所狭しと並べられた豪勢な食事にたくさんの飲み物、巨大プリン。おかげで何十人も入れそうな空間が狭いこと狭いこと。

 

「なんでこんなに大々的にしてるのよ、ロックス」

「だって、仲直りだからな」

「だからって、お姉ちゃんたちまで集めちゃって」

「はぁーあ、お前ら……」

「心底呆れだした!」

「分からないほうが悪いみたいに!」

 

 良いことあったら即パーティやろがい!

 

「ちなみにこの特大プリンはネプテューヌ様にお願いしました」

「お願いされて、ネプギアにお願いしたよ!」

「お姉ちゃんにお願いされました!」

「ひとつ無駄に挟んでる!」

 

 そんなことないよ。姉にお願いされて、ネプギアのやる気満々だったんだから。

 その証拠に見てくれ、この俺よりでっけえプリンをよ! 形崩れないのが不思議だぜ!

 

「いやあ、今年のプリンはいい出来ですねえ~。豊作」

「あんたいつものネプギアのプリン知らないでしょ」

「それでは、いざ、実食!」

 

 プリンが大好きだというネプテューヌ様と一緒に、皿によそって一口頬張る。

 

「「美味しーこれ!」」

 

 目が星になっちゃうくらい。適度に固められたプリンは濃厚な味で、舌に乗っけた段階で卵と砂糖の味が分かる。これは『甘い』っていう味です。

 

「いつもよりはしゃいでるわね」

「それほど嬉しいんですよきっと」

 

 それはもう! いっぱいある心配事のうちでっかいのが無くなったからね! 今の俺は光る蕎麦マンくらい無敵だよ!

 

「てゆーか、ロックス、もう怪我は大丈夫なの?」

「歩くくらいならギリ許せるって医者に言われた」

「それってまだ安静にしてろってことじゃ……」

 

 傷も塞がって抜糸も済んでるんだ。それってもう治療完了ってことじゃないの?

 そんな怪訝な顔するなよ。医者にOKって言われるまでは、激しい運動も力仕事もしないつもりだからさ。

 

「じゃあ挨拶も済んだところで、次のプログラムに……」

「いや、いいからさっさと本題にいきましょ」

 

 ユニのせっかちさん❤

 

「それでは余興2~43番まで飛ばしまして~」

「どんだけ用意してたのよ」

 

 この日のために特選一発ギャグと面白話仕入れてきたのに。

 しかしまあ、気になることがあればこれ以上進めないってのも理解できる。まずはそこから片づけるか。 

 

 こほん、と咳払いをして真剣モード。空気が締まって、みんなも佇まいを正す。

 

「じゃあ教えてくれ。マホのこれまでを」

 

 そう言うと、この場の全員の視線がマホに集まった。

 

 俺もみんなも誰もかれも、マホのことを普通の少女だと思っていた。しかし変身して、グレイシスターと同じ姿になってしまったからにはその評価は一変する。

 いったい何者なのか。作品でいったら重要人物にしか投げられない質問が、彼女にぶつけられている。

 

 マホはゆっくりと口を開いた。

 

「みんなに黙っていたけど、あーしはぴーしー大陸の女神候補生」

 

 ごくりと唾を飲む。

 薄々、ほんと、他人の家で出てくるカルヒスくらい薄々気づいていたけど、本人から言われて真実と確定すると驚きが押し寄せてくる。

 マホが、ネプギアたちと同じ女神候補生……その証拠は目の前で見たのに、まだ結びつかない。

 

「どうして黙ってたの?」

 

 静かな空気を破って、言いづらいことをユニが言った。

 流石にその質問には、マホだって俯いてしまう。彼女の存在、二年間の沈黙。それらはどれだけ冗談を交えたとしても重い話だ。

 

「みんなに嫌われたくなくて……」

 

 女神は人間を守護する存在だ。それなのに逃げ出してしまったのだから、バッシングを受けることは覚悟しておかなければいけない。

 近くにいればいるほど辛かっただろう。様々なものを失ったぴーしー大陸の難民にいつ打ち明けるか、いつバレるか、何を言われるか……彼女はこの二年間ずっと、怯えていた。

 

「だってよ、アンリ」

「そこで私に振るの?」

「そりゃあ、この場において、お前とマホの問題だろ、これは」

 

 そこんとこどうよ。

 

「ロックスだって関係あるじゃん」

「あ、俺に関係あるの? じゃあ無罪。以上」

「そんなテキトーな……」

「犯罪神が現れたら誰だって逃げるし、隠し事なんて誰だってある。みんながみんなそうだ」

 

 マホは当たり前の行動をしただけだ。それで罪があるって言うなら、逃げ出した全員悪いってことになる。そりゃあ流石に無茶ってもんですよ。

 ぴーしー大陸の惨状を目の当たりにしたアンリなら、その恐怖はよく分かっていることだろう。

 

「言っただろ、マホは悪くない。俺はその主張を曲げる気はない」

 

 逃げるのをやめて殺されることを選んだのはまだちょっと怒ってるけど。けどマホの弁護側席立つよ、俺は。異議あり!

 

「ロックスさんはそれでいいんですか?」

「いいよ。女神候補生だってのにはびびったけど、それだけだ」

 

 親友を親友のまま見て、親友として接する。そんだけ。俺はこれ以上を論じる気はない。

 誰かが何か言う必要があるとしたら……

 

「アンリ」

「……うん」

 

 彼女がその権利を有している。

 目の前で大切な人を失ったアンリが、どう判断するか。

 

 俺があっさり答えを出せたように、逆に簡単に決められない人間もいる。

 アンリがその代表だ。復讐相手は友人でした、本当はそれは間違いでした、って分かっても心は納得できないだろう。

 

 マホの近くへ、アンリがゆっくりと寄る。そうして目の前まで迫ったと思ったら、アンリはばっと頭を下げた。

 

「マホ、ごめんなさい。あなたは何にも悪くないのに、あんなことをしてしまって」

「あんりー……」

 

 マホはアンリの頭を上げさせた。

 

「じゃあ、これからも友達でいてくれる?」

「ええ。むしろこっちからお願いするわ」

「──っ、あんりー!」

 

 お互いに差し出した手を握ると同時、マホがアンリに抱き着く。

 ようやく二人のいつも通りが見られて、俺は大きくため息をついた。

 もしかしたらこうならなくて、アンリが恨んだままかもって危惧してたから、ようやく大安心。

 

「よし、これで全部元通り。俺も回復したし……腕輪返してくれ」

「「だめ」」

 

 ぬぐぐぐぐぐ。返してよ! 差し出した手が寂しそうにしてるじゃない!

 

「話の続きしたいんだけど、いい?」

 

 行き場を失った手を下げさせて、ユニが先を促す。

 

「マホが女神候補生だっていうのは分かったわ。問題は……」

「変身後の姿が、グレイシスターとそっくりだってことだな」

 

 そっくりっていうか瓜二つっていうか、まんまだったけど。目の前で見た俺が言うんだ、間違いない。

 見た目はそのままで、違いと言えば表情とか立ち振る舞い。マホが女神化した姿は狼狽してばかりだったけど、グレイシスターのほうはそんな素振りほとんど見せなかった。

 

「実は二重人格とか?」

「いや、ここの屋上でマホもグレイシスターもいたんだし、それはないだろ」

 

 夢遊病とかの線も消えたってわけだ。

 

「ロックスが色々可能性を言ってたわよね。えっと……双子とか?」

「あーしには、お姉ちゃんはいたけど双子はいないはずだよ」

 

 あらゆる可能性の中で、現実味のあるのが出ては潰される。ああでもないこうでもないと話して、俺たちはむむむと眉をひそめた。

 

「……だとすると、グレイシスターの言ってたことは正しいかもな」

 

 ぽつりと俺が呟くと、みんな怪訝な目で見てくる。

 いや、『未来から来た』なんて言葉、俺だってすんなり信じてるわけじゃない。今だってアホらしいとさえ思ってるくらいだ。

 でも思いつく限りのことを端から端まで考えて、残ったのがそれだ。

 グレイシスターはタイムトラベルしてきたのだとすれば、二人いるっていう状況にとりあえず説明はつく。

 

「……あっちが一方的にロックスを知ってるっていうのも、納得は出来るわね」

「でも、SVシステムを壊そうとしたり、マジェコンヌを庇ったりしたのはどういうことなんでしょう?」

「それが痛いところだよな。マホが犯罪神を庇うなんてあり得るか?」

「ないない。自由に変身できるなら、むしろこの手で倒すよ!」

 

 だよなあ。

 グレイシスターに対してなんだかちぐはぐな印象を受けるのは、彼女のやっていることが噛み合ってないからだ。

 その正体がマホだとするなら、余計に何を考えてるのか分からなくなってくる。

 

 ……話、やっぱりちゃんと聞いたほうが良かったな。

 

「ねえねえ」

 

 静まり返った場に、明るい声が響く。スプーンを持ったままのネプテューヌ様が、山盛りプリンからまた

ひとかけらを掬った。

 

「みんな食べないなら私が全部貰うよ~?」

「あーしも食べるー! ほら、あんりーも!」

 

 マホがアンリの手を引っ張って、プリン山へ。

 呆気に取られた俺たちは、走っていた緊張が萎んでいくのを感じて、ため息をついた。

 

「……ま、グレイシスターはSVシステムを狙ってるみたいだし、また来るでしょ。詳しいことはその時、縛ってでも訊けばいいわ」

「そうね。ロムやラムたちを閉じ込めた礼もまだしてないことだし」

「こもりるを壊そうとしたのも勘定に含めないといけませんわね」

 

 女神様たちも深く考えるのはやめて、半分お気楽に、半分恐ろしいオーラを漂わせて元に戻る。

 その頼もしい背中を見ながら、俺はネプギアにこっそり話しかけた。

 

「女神様がああいうこと言うと物騒に聞こえるのは、そう感じる俺が悪いのか?」

「あ、あはは……」

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