女神候補生であるネプギアとユニと知り合い、彼女たちも含めて鬼ごっこを始めたのだが……
「ロムちゃん、一緒に逃げましょ!」
「うん、ラムちゃんとなら捕まらない……」
な ん か 増 え と る で お い 。
ふわもこのお揃い衣装を着た双子。彼女たちも女神候補生だ。
水色の服で大人しそうなのがロムで、ピンクの服で快活なのがラム。様付けしたらめっちゃ嫌がる目で見られた。変な扉開いちゃう。
拠点内の子どもたちと同じくらいの歳に見える彼女たちでも、やたらと顔が整っている。大人になったら絶対美人になるやつじゃん。女神様って見た目変わらないらしいけど。
この世界ことごとく顔面偏差値高いのどうにかならんか。俺の自尊心ズタボロだよ。
それはともかく、これで四か国の女神候補生とは全員知り合いとなったわけだ。
プラネテューヌのネプギア、ラステイションのユニ、ルウィーのロムとラム。リーンボックスには女神候補生はいないんだって。
そんな彼女たちも普通の人と変わりなく、いきなり始まった鬼ごっこに子どもたちが疲れるまで興じてくれた。
目覚めたばかりですみません、ほんとに。でもネプギアもユニもなにか悩んでるふうだったから、ちょっとは気分転換になっただろう。
あーいい汗かいた。
「ネプギアさん、先ほどのお話の続きをしてよろしいでしょうか」
遊び終わり、SVシステムでどこまで出来るか試そうかなと思っていたところに、イストワールさんが来た。
現状がどうなっているか基本的なことだけ教えたらしくて、もっと詳しいことをこれから説明するようだ。
俺もついてくるように言われ、特に反論することなく女神候補生たちに続く。
「ロックスさん、少し気になっていることが……」
歩いている途中、拠点の中をきょろきょろしながらネプギアは言った。
「大人の方たちが、無気力なように見えるんですが」
「あ、それアタシも気になってた。大丈夫なの?」
「いいや、大丈夫じゃない」
残念ながら、と俺は首を横に振った。
「みんな、ぴーしー大陸やプラネテューヌからの難民で、色んなものを失った。その上、女神様もいなくなって希望を失っているのが、大体半分くらいいる」
「それで、あんな感じになっちゃってるのね」
「それに、マジフォンのせいってのもある」
「まじふぉん?」
「突然現れた新しいスマホです。今の最新機種で、ゲームも動画もサクサク出来て、アップデートも随時されています」
俺の言葉を、イストワールさんが継ぐ。
「それが何か問題あるの?」
「依存性が高すぎるんだよ」
「いぞんせー?」
「そればっかりやっちゃう状態ってこと。食う寝る以外はほとんどこればっかりだ」
「どの国も全く関与してないということですし、怪しいと思って探ろうとしても今はどこも危ないですから、どこで開発されてるか製造されてるか不明なんです」
そこらで項垂れている大人のほとんどがマジフォンをじっと見ている。話しかけてもほとんど反応なし。腹が減るか眠くなるまでずっとそうだ。
最初はそれでいいと思った。何もかも失くした人たちにとっての娯楽になれば、と。しかしこれはなんというか……行き過ぎだ。
「マホさんとアンリさん、ロックスさんには調査から子どもたちの世話まで、色んなことを助けてもらっています。まさかネプギアさんたちを救出するまでになるとは思ってませんでしたが」
「それはそう。俺も人生の中で『変身』って叫ぶとは思わなかった」
変身の意思を示せばいいって話だったけど、まあでも言いたいよね、変身。男のロマン。
少し広めの部屋に到着。円形の机が中央にあるここが、一応この拠点の作戦会議室となっている。周りに誰もいないことを確認して、イストワールさんは話し始めた。
この二年間にあったことと、現状。良い話の一つもない絶望的なストーリーが続く。特にプラネテューヌがモンスターに乗っ取られたことが相当ショックだったようで、話が後半になるにつれて明らかにネプギアの口数が減った。
「そしてここからが問題なのですが……」
今までも問題だらけだったのだが、イストワールさんはことさらに強調して言った。
「ネプテューヌさんは、未だに行方不明です」
「っ!」
ネプギアの姉、プラネテューヌの守護女神パープルハートことネプテューヌ様。二年前、ぴーしー大陸に救援に駆けつけてくれた四女神の中で、彼女だけがその後一切姿を確認できていない。
「この二年、ネプギアさんたちと同じように連絡もつかない状態です。他の女神たちも消息は知らないと」
「そんな……」
ネプギアは俯いて、震えていた。
無理もない。ここの拠点の人たちのように、大事な家族を失ったのだ。最悪なことも頭をよぎってしまう。
止める間もなく、彼女は後ろを向いて走り去ってしまった。
「ネプギア!」
いきなり駆け出すもんだから、咄嗟に手を伸ばした時には、もう彼女は部屋を出ていっていた。
「仕方ないわよ。あの子、ネプテューヌさんのこと大好きだったから」
「頭を整理する時間が必要かもしれませんね」
本当かなあ。ああいうの、一人にするほうが危ないと思うけど。でも、俺よりネプギアを知っている彼女たちが言うならそうなんだろう。
「ともかく、私たちはこの後どうするか考えましょ。ここにずっといるわけにはいかないし」
「早くお姉ちゃんに会いたーい」
「私も……」
拠点にいて何かが変わるわけではない。女神候補生にはそれぞれ故郷があるわけだし、一刻も早く戻ってもらって姉を安心させて、国の運営に携わってもらったほうがいい。
あらゆる面で予断を許さない状況なのだ。少しでも好転しなければいつかは国民も疲弊しきってしまう。
「私たちも調べることが山積みよ。バズール現象も腕輪も、まだまだ未解明なことがあるんだから」
「バズール現象?」
「複数種のモンスターがいきなり現れて、徒党を組んで襲ってくる現象のこと。なんでそんなことが起きてるのか、全くの不明なの」
「プラネテューヌがモンスターに占拠されたのも、これが原因。街の中でもどこでも発生してくるんだ。そこらへんはアンリとマホに任せ……」
そこで、あることに気付いた。
「そういえばマホは?」
バズール現象については、マホだって調べようとしている。その彼女がいない。
「呼ぼうとしたけれど、部屋にいないみたいなの」
「鬼ごっこしてる時も見なかったぞ。てことは……」
俺たちは二人して大きなため息をついた。
「あの子、またやったわね」
△
本当は、開放的な屋外で子どもたちを伸び伸びと遊ばせたい。大人たちだって、人工的な照明じゃなく、太陽の光を浴びれば少しはやる気が出るだろう。そう思っていながら出来ないのは、単純に危険だからだ。
二年前から頻発するバズール現象によって、どこであっても安全な場所なんてない。拠点だっていつまでもいられる保証なんてどこにもない。しかし、近くに遮蔽物も少なく、武器も防具もない外よりは大分マシだ。
そんなワケで、子どもは外出厳禁。大人だって調査のためでなければ出られない。それでも一人で出ていくのは禁止。調査に一人、周りを警戒するのに一人の合計二人が最低条件だ。
そのルールを、マホはあまり守らない。ふらっと一人で出てはいつの間にか戻ってきている。危険なんだからやめろと言っても、一向に聞きゃしない。
「マホ!」
拠点から出て森を抜けた先、切り立った岩が転がる平原で、目立つピンクの髪を見つけた。
あちらもこっちを見つけて、おーいと手を振ってくる。やっぱり外にいやがった。幸いなのは、隣にネプギアがいることか。彼女も拠点を出てこんなところにまで来てしまったようだ。
「見て見てロックス。あーし、女神様と友達になっちゃった!」
「はあ……」
こんなド昼間のド草原のド真ん中で、そんな良い笑顔を出来ることは褒めてやろう。よくできました、説教してやるゾ☆
苦笑いしていたネプギアがほっと息を吐いた。
「ロックスさん、助かりました」
「どうせこの馬鹿がネプギアの話を聞かずに一方通行で喋ってたんだろ」
「あはは……」
図星の時しかしない笑い方じゃん。俺はくるりとマホに向き直る。
「お前なあ、外は危険だって何度も言ってるだろ」
「あんりーとロックスだってこの前工場に行ってたじゃん」
「安全が確保されてるところを二人以上で、ってルールだろ」
「でもモンスターに襲われたんでしょ?」
「だからこそ一人は余計に危険なんだよ」
「でもバズール現象を突き止めるには、やっぱり外に出て観測しないとだもん」
「こいつゥ……!」
だからといって、モンスターに遭遇でもしたら無事でいられるか分からないってのに。俺はつい最近そういう危険に遭ったところだから、余計に心配になる。
お説教タイムに入りたいところだったが、場所が場所ということもあって、俺は一度怒りを収めた。
「マホの処遇は、アンリに任せるか」
「うえっ!? あんりーにバレてるの!?」
「帰ってから俺がバラす」
「そ、そりゃないって! ね、お願い、あんりーに言わないでよぉ」
こら、縋ってくるんじゃない! 近っ。顔良いなお前も!
「ネプギアも、一人になりたいんだろうけど、まず戻ろう。みんな心配するから」
「は、はい。すみませ──」
ピーッ、ピーッ、と甲高い音が鳴る。
マホが持っているスマホがアラートを発したのだ。それが何を意味しているのかは俺にも分かった。
まずい。まさかこのタイミングでこれが起きてしまうなんて……
何かが、空気を轟かせながら迫ってくる。
拠点とは逆側、道の向こう、遠くに何十体ものモンスターが見えた。さっきまで影も形もなかったのに、急に大量に現れる。バズール現象だ。
恐ろしいことに、その全部がこちらに向かってきている。
「バズール現象!?」
「おいおいマジかよ。急いで逃げるぞ!」
空を飛んだり、四足歩行で地を駆けるモンスターもいる。一匹一匹は大したことなさそうだ。しかし、こんな大群、俺の手に負えない。
「ロックスさんとマホさんは逃げてください!」
「ネプギア!?」
「女神化!」
驚いている俺たちをよそに、ネプギアは前に出る。その姿が光に包まれたと思ったら、全身が変わっていた。
顔はそれほど変化はないが、髪は煌めいて、服はレオタード風。半透明の翼があり、それのおかげで浮いている。
手には、その細腕では到底持てないような大きな銃剣が握られている。
女神はシェアエネルギーを使って、通常の姿から『変身』を行う。あれが女神パープルシスターとしての姿……
いやしかし……悩んでる間に、ネプギアが群れに突っ込んでいく。どこからともなく取り出した銃剣を構えて、モンスターを切り裂いていく。大群もネプギアに狙いをシフトして、すぐさま彼女は囲まれた。
「ちょ、ちょっとぎあちー! どどどどどーすんの どーーすんの!?」
「……」
自棄かと思った。でも違う。
モンスターに向かっていく直前のネプギアの目も言葉も、一切の迷いがなかった。
姉がいなくなって泣いていたのに、絶望していたはずなのに、急にモンスターが現れて狼狽えるのが当然なのに、守るためには何の躊躇もなかった。
ああいうのを、ヒーローと呼ぶのだろう。
「よし!」
俺はバチンと頬を叩いて、自分を鼓舞する。
「ちょちょちょちょおー! ロックス、どこ行くつもり?」
「見りゃ分かるだろ。ネプギアのとこ」
「ぱ、パニックで頭おかしくなっちゃった?」
「頭おかしいのは元からだよ!」
正気の沙汰じゃない。んなこと分かってる。けど正気でいて得られるものは逃走の選択肢くらいだ。
じゃあもう頭おかしいほうが正しいのでは? 多分そう部分的にそう。
「変身!」
P・Bladeフォームの装甲を纏って、空に現れた剣を掴む。
じっとりと嫌な汗が湧いてきた。それでも……
『お願い、私たちのヒーローになって』
退くわけにはいかない。
「お前は先に逃げてろよ」
マホにそう告げ、ネプギアのもとへ走る。
いくつかのモンスターがこちらに気付き、寄ってきた。スライム型も、蜂っぽいのもすれ違いざまに一閃。小さい的だけど、システムは完璧に捉えてくれた。これくらいなら一撃で倒せる。
「行かせるか!」
ネプギアの後ろから迫ってきていたイノシシを、一刀両断する。
包囲されていた彼女の姿が見えてきた。モンスターどもを薙ぎ払いながら近づいていく。
「待たせたな、ネプギア」
「その声、ロックスさんですか!? 早く逃げ──」
「女の子が戦ってるのに、言われるまま逃げるのは出来ないくらい男の子なんだよ、俺は」
「これだけのモンスターがいて危ないんですよ!?」
「じゃあなおさらお前を置いていけないだろ」
長い眠りから目が覚めたばっかり。しかも力の源であるシェアは、人々の信仰心から生まれるため、プラネテューヌ民が絶望を抱いている難民となっている今では少なくなっている。そんな状態で戦う女神に任せて背を向けられるほど、俺は真面目じゃない。
「どっちにしろ、戦いは始まったんだ。やれることをやるしかない」
「……!!」
もう逃げるという選択肢が使えなくなった。だったら中途半端な姿勢はなしにして、前に集中するだけだ。
一メートルはあろうかというひよこっぽいのが体当たりをしてきた。俺は少しよろめいたが、その程度。トカゲやキリン型に比べたらなんともない。こいつら個々は、俺が戦ってきたのより数段劣る。
俺自身にダメージがいかないなら、ある程度突っ込んでも大丈夫ってわけだ。
システムが戦闘の補助もしてくれる。やぶれかぶれに暴れるなんて戦い方じゃなければ、今のようにモンスターを斬れるように動きを修正してくれるだろう。
避ける、防ぐ、斬る、刺す。システムは俺の思った以上に状況を細かく分析し、適した動きをしてくれる。
これまでは一体一体でひいひい言ってたが、こいつらが弱いのと、俺が慣れてきたのでかなり戦果を上げられた。十までは数えていたが、もう覚えきれないほどを倒すまでに至る。
だが……
「うっ」
四本腕のカエルみたいなのが、俺を押し倒してきた。刃をぶっ刺して倒す。立ち上がるのを邪魔するように向かってくる犬を半身で避け、縦に斬る。
多すぎる。
質を量で補うみたいに、どんどんやってくる。減ってる感じがしない。このままちくちくダメージを蓄積されたら、いつかは限界が来てしまうぞ。
息も荒くなってきて、汗が垂れてくる。
「逃げておくべきだったかな」
「だから言ったじゃないですか」
ネプギアも息が上がっている。くそ、今からでもネプギアを連れて逃げるの間に合うかな。
弱気になったところで、目の前の数体を一筋のレーザーが貫いた。
「ネプギア!」
ユニだ。スナイパーライフルで撃ち込んでくれたんだ。その後ろにはロムとラムもいる。
三人とも女神化して、ネプギアと同じように飛び込んできた。
援軍が来てくれた。負けイベントだと思って萎えていたけど、活力が湧いてくる。
気合を入れなおし、モンスターを蹴散らしながら、そちらに顔を向けた。
「助かったよ、ユニ」
「誰?」
「もしかしてロックス?」
「どうしてそんな恰好してるの……」
あ、そうか。装甲を纏ったままだ。けど、きょとんとしている女神候補生たちにあれこれ言っている暇はない。
「説明は後!」
「そ、そうね、援護するわ!」
とりあえず目の前の敵を優先してくれる。
俺が霞むくらい、ネプギアたちは強い。それが四人もいれば戦力は単純な足し算で済まない。1+1は2じゃないぞ。女神たちは1+1で200だ! 10倍だぞ10倍!
特に双子の扱う魔法が、多数の敵を巻き込む範囲攻撃なおかげで、大量にいたモンスターも半分くらいまでには減ってきた。
体力もそろそろ底をついてきたけど、もうあとひと踏ん張りすれば──
「ロム! ラム!」
頭上から双子を呼ぶ声が聞こえる。なんだ、と疑問を発する前に、俺の体は吹き飛ばされていた。
嵐が来たのかと思うほどの強風が吹く。転がっている岩に衝突して、肺から息が全部吐き出された。
咳き込みながら必死に息を吸う。何があったのかと辺りを見回す。
誰かが上空から落ちてきたのだ。
その人は着地と同時に手に持った斧を振り下ろし、たったその一振りの衝撃によって大量のモンスターが宙へ舞い上げられた。俺が吹っ飛んだのは、その余波。
「めちゃくちゃだ……」
俺は唖然とした。
残っていた全ての敵が、空から地面へ落とされる。それらは、打ち上げられた魚のごとく、ぴくぴくと動いたが起き上がることはなくなった。
その中心、いままさにとんでもない攻撃をかました張本人が、持っている大きな斧で巻きあがった砂埃をぶんと払った。
水色の髪に白い武器、これまた白のレオタードのような衣装、背中の翼。ネプギアたちよりもさらに神々しさを感じさせる輝き。
ルウィーの守護女神、ホワイトハート様だ。