偽次元のプリズム【完結】   作:ジマリス

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41 絶対に離さない

 足りなかった。

 力も意志も、非情さも。

 何もかも足りなかった。

 全部。全部全部全部。

 

 女神たちは妨害され、私も鎧を壊され、もはや犯罪神の攻撃を防ぐ手立ては無くなった。

 そんな私へ、奴は容赦なく拳を突きだそうとしてくる。

 

「──……」

 

 犯罪神の攻撃を、私が丸腰で受け止められるはずもない。その拳が私の体に到達したら、それは私を貫く。

 

 もう、それでいい。

 

 こうなったのは私のせいだ。

 私が軽い気持ちで放った言葉が、ロックスを縛って、傷つけた。

 ちょっと抜けてるところもあって、けど子どもに優しくて、みんなのことが大好きで、私が大好きなこの人を戦いに駆り立てた。

 いつだって笑ったり怯えたり悲しんだりする普通だったあの人の顔を、赤い怒りに染めてしまった。

 

 私が彼を犯罪神に渡してしまったようなものだ。破壊や殺戮を嫌う私が、世界の滅亡に手を貸してしまった。

 

 ──私は罰されなくてはいけない。

 

 彼でなくなった彼に殺されるなんて、そんなの絶対に嫌だけれど、でもこれは自業自得。私が選んでしまった道。辿り着いた結末。

 だから、これでいい。

 

「……」

 

 諦めて、目を閉じる。

 この戦いの最後がどうなるかなんて分からない。しかし、世界も時代も、女神たちがきっと救ってくれる。未来を見ることが出来ないのは残念だけれど、そこに私がいる資格はきっとない。

 親友を殺そうとして、大切な人に戦いを強要する私は、その先へ行ってはいけないのだ。

 だから。

 

 ──だから、殺して。

 

 覚悟を決めた。

 決めた。

 決めた、のに……

 

 いつまで経っても、何も来なかった。

 

「む?」

 

 犯罪神が怪訝そうな声を出す。

 恐る恐る目を開けると、紫色の拳は、私のお腹の数センチ前で止まっていた。

 

「なぜ動かない……この肉体は完璧に私が乗っ取ったはずだ」

 

 肩から先が固まってしまったかのように、そこだけ時間が止まってしまったかのように動かない。

 

「ぬうぅ。このっ、くそっ」

 

 戯れには見えなかった。騙しているようにも見えない。何か重い物を引き抜こうとするかのように、本気。でも拳の形に固められた手は、決してそれ以上自由にはならない。まるでパントマイムをしているかのよう。

 

「くっ、どうしてだ! 動け! う、ぐ……っ!?」

 

 攻撃どころか、犯罪神は見えない何かに押されるようにして、私の首から手を放して後退する。しかもどうやら苦しんでいる。

 自らの体を掻き抱くその様は、まるで全身に電気を浴びているような、そんな逃げ場のない痛みに晒されているようだった。

 

「う、あ……」

 

 犯罪神の口から小さく悲鳴が漏れる。女神すら凌駕する敵が、情けなく喘いでいる。

 問題は、その声だった。

 

「う゛、ぐ、うぅ……」

 

 どす黒い犯罪神の声に、明らかに女性のものでないのが混ざっている。

 苦痛を感じている男の人の声。私がよく知る人の声だった。

 

 まさか、そんな。

 

 もう聞けないと思っていた声が聞こえて、何が何だか分からなくなって、頭が真っ白になる。

 理屈で証明される不可能が、感情に押し戻される。

 心の中に巣くっていた『あり得ない』が『もしかして』に変わった。

 

「ロックス……?」

 

 もしかして、あなたはそこにいるの?

 

 

 

 

「ん゛ん、ぐぅっ、ふう、うう゛!」

 

 拳を必死に止める。少しでも気を緩めてしまうと、アンリすらこの手にかけそうだった。

 綱引きでロープを引っ張る時のように、主導権がじわじわとあっちへこっちへ引っ張られる。常に力を入れていないと、一気に決着がついてしまう。

 全て壊してしまえば楽になると、誰かが誘惑してくる。魅力的な提案だった。何かが、誰かがいるせいで苦しんでしまうのなら、何もかも無くしてしまえばいい。全部消えるのが先か、俺が壊れるのが先か、どちらにしても大した違いはない。

 

 でも、でも、アンリはダメだ。アンリだけは何をおいても、この手で触れちゃいけないんだ。

 触れてしまえば、俺の拳はアンリを破壊してしまう。

 

 ──全て壊してしまいたいなら、なぜこの女だけは駄目なんだ?

 

 うるさい。

 

 ──なぜ?

 

 なんだっていい。俺がそうしたくないからだ。

 

 ──この女を見ろ。私の破壊を受け入れる顔をしている。

 

 はっとして、俺はアンリへ目を向けた。

 何もかも終わりだというふうに、力なく瞼を閉じて抵抗の意思も見えない。

 そんな……そんな、まるで死に行くみたいじゃないか。生すらも手放そうとしているみたいじゃないか。

 

 ──この女は望んでる。貴様の手で終わりを迎えることを望んでいるのだ。

 

 そうさせているのは誰だ? そんなの決まっている。俺だ。俺がこうやって目の前にいてしまっているから、アンリの生への執着を奪ってしまった。

 

 何やってんだ。

 何をやってるんだ、ロックス。お前はアンリを守ると自分に誓ったはずだろ。何をおいてもアンリだけは助けるんだろ。それが、なんでその人を自ら殺そうとしているんだ。

 俺が殺そうとしている。俺が止めなければいけない。犯罪神ごときにアンリを殺させていいわけがない。

 

「ロックス……?」

 

 彼女が俺を呼ぶ声が聞こえる。それに応えるんだ。

 俺はまだ、彼女と交わした約束を一つも守れていない。

 

『お願い、私たちのヒーローになって』

 

 あれも。

 

『マホを守って』

 

 これも。

 

『あなたも、無事に帰ってきて』

 

 何もかも。

 

 何も果たせていない。

 犯罪神に体を利用され、世界の滅亡を近づけさせるのは許しておきながら、強く正しい正義のヒーローとしての成果は何一つとしてない。

 ヒーローじゃない、ヒーローになれないからと逃げようとした。だけど、それでも、そうあろうとするのは諦めてはいけないんだ。

 

「う、ぐ、うおおおおおおお!!」

 

 返せ! 俺の体だ。たとえ価値がなくとも、壊れかけていても、俺の体なんだ!

 

 犯罪神の意識を、自分の意識から無理やり引き剥がす。

 こいつは既に、俺の精神の深いところにまで根を張っている。一体になる寸前だったこいつを押しのけるのは、上から下まで全身の皮膚を剥ぐようなもんだ。そんな失禁してしまうような激しい痛みに喚きながらも、決して緩めてなるものかと踏ん張る。このまま負けてしまった後を想像して、一層奮起する。

 半ば自棄だ。正気じゃこんなこと出来ない。だけどそうしてでも、アンリだけは!

 

 犯罪神の抵抗は激しく、諦めろと何度も唆してくる。しかし負の意識が徐々に離れていくのが分かって、努力を何倍にもする。

 喉から金切り声が出る。女々しい、何もかもに負けた男の悲鳴だ。

 が、犯罪神の影響はどんどんと弱くなっていく。俺を知ったかのような地獄の声はどんどんと遠ざかる。

 

 ここからどけ。俺の前から。俺たちの前から!

 

 ぱ、と突然、引っ付こうとしてくる力が消えた。心を食らっていた影が、最後はいきなり外れた。

 

「うっ」

 

 どさり、と地面に体が落ちる音が、二人分。

 一人は思いきり背中から倒れた俺。そしてもう一人は……

 

「貴様……まさか、人間ごときが私に抵抗してくるとは……っ」

 

 肉体から追い出され、器を失ったマジェコンヌ。

 今まで余裕のあった彼女から一転、立ち上がるだけでも一苦労の様子だった。

 

「くっ、何でもいい。虫でもスライヌでも、私が入れる肉体が要る……!」

 

 それもそのはず、犯罪神とは本来魂だけの存在で、この世に居続けるためには器が必要となる。

 今、形を保っているだけでも精一杯だろう。しかしそうしなければ、周りに憑依出来る生物も機械もいないここでは存在できない。

 

 マジェコンヌが狙いをつけたのは、アンリだ。

 

 させるわけにはいかない。

 体は言うことを聞いてくれない。頭がぐるぐると回って、倒れたままだと深い眠りについてしまいそうだった。だけど俺の意思を読み取ったSVシステムが、アーマーを装着させて動いてくれる。

 このアーマーを動かすパーツに成り果てた、とマジェコンヌは言った。まさにその通りだ。

 SVシステムに目的を与えるだけの脳みそ。空洞の中身を埋めるだけの肉体。それをアーマーが操っている。

 機械に使われているなんて、お笑いものだ。でもそれしかない。俺がどれだけ恥を晒しても構わない。

 

 ぎこちなく、ふらふらと、素人が動かす人形のような動きで二人の間に割って入る。

 立つのが精いっぱいの体で虚勢を張り、アーマーのヘルメット越しにマジェコンヌを睨み返す。

 びくり、とマジェコンヌの体が震えた気がした。怒りか、それとも怯えているのか。それは分からないが、彼女はじり、と半歩下がり、

 

「ちっ」

 

 身を翻して、飛んでいく。一瞬呆気に取られている間にも、犯罪神の魂は遠くへ、遠くへ逃げていく。

 

「あの野郎ッ!」

 

 弱気が見えたことで、俺の闘志が少し燃え上がった。殺意と言ってもいい。

 この場で逃せば、奴は同じことを繰り返すだろう。今度こそアンリが殺される。そうなる前に俺が殺してやる。

 魂の存在である犯罪神をどうやったら倒せるのか、なんて全く策もないが、俺は俺の衝動のままに飛び出そうとする。

 

「うっ……!?」

 

 しかし、がくりと体から力が抜けた。

 どっと両膝が地面につき、倒れこんでしまいそうになる。なんとか両腕を地に立てたが、それ以上動けない。

 燃えるような、痺れるような痛みに囚われる。神経が焼き切れてしまいそうな感覚に歯を食いしばった。それでも漏れる荒い息が止められない。

 

 限界だとかそういうのすら超えて、脳が体を動かすのを拒否した。

 心のどこかで、休みたいだとか倒れてしまいたいだとか甘えたことを思ってしまっているせいだ。心の底が、もう無理だと訴えているのだ。SVシステムはそれを敏感に感じ取った。

 あと一歩かもしれないのに、こんなところで止まってられないはずなのに。ここまで来て、俺は自分が大事なのかよ……っ。

 

「逃がしてたまるか……っ!」

 

 逃げの思考を全て追いやるつもりで、自分に言い聞かせるように呟く。すると、徐々にではあるが上半身は起き上がり、片膝が地面から離れ始める。

 そうだ。踏み出せ。奴を倒せ。俺にはその責任と義務がある。じっとしていられる暇なんて一秒もないのだ。楽をするなんて死んでからでも出来るだろ。

 まともじゃないのは分かってる。でも何かしなければいけないんだ。犯罪神が知る未来に、誰も辿り着かせるわけにはいかない。

 

「待って!」

 

 らしくない叫び声を上げて、アンリとマホがのしかかってくるようにしてしがみついてくる。

 彼女たちの軽い体重にも耐えられず、また膝をついてしまった。

 

「離せ!」

「離さない、絶対!」

 

 どうしてだよ。意味わかんねえだろ。犯罪神を倒そうとする男を、どうして止める必要があるんだ。

 

「あいつを、あいつを倒さないと、俺は……っ!」

「行かないで、ロックス!」

 

 絞りつくされた俺の体は、アーマーを纏っていても女の子一人振り払う力も出ない。どうにかして二人を引き剥がす必要があるのに。

 俺に残された力は、今はもう言葉だけとなっていた。

 

「俺が行かないと駄目なんだ!」

「行かなきゃならないなんてことない! だってあなたはもうみんなを助けてくれたんだから!」

「助けてなんかいない! 俺が殺したんだ、お前の両親を!」

 

 びくりとアンリの体が反応して、力が弱まった。

 

「俺が……俺が、アンリの両親を……ぴーしー大陸のみんなを……俺が殺した!」

 

 犯罪神と一体化したことで、奴の記憶が流れ込んできた。奴が行った行為を見た。

 

 ──グレイシスターのタイムトラベルに乗じて過去に戻り、ぴーしー大陸を破滅に導いた。

 

 残された子どもたちはみんな良い子だ。絶望に沈む大人たちをその明るさで救い、拠点の中でも楽しいムードを作った。

 自分たちも辛いだろうに、笑顔を振りまいてくれた。あんな良い子たちの親を、俺が殺してしまった。

 

 ──グレイシスターと戦い、教会を壊させた。

 

 アンリの両親の命を奪い、マホの居場所を無くした。

 

 それだけじゃない。前の時間軸でも数えきれないほどの罪を犯した。

 女神を殺した。世界を破滅させた。アンリすらこの手で……

 

 全ての事の発端は、俺だ。前の時間軸でもこの時間軸でも、犯罪神に体を乗っ取られた馬鹿な俺のせいだ。

 

「こうなってしまったのは俺のせいだった。みんなの居場所がなくなったのも、親がいなくなったのも、全部、全部!」

 

 最悪な真実に、俺はまともな思考を邪魔されていた。こんなのどうしろって言うんだ。

 仲間面をして戻ることも許されない。唯一何か出来るとしたら、あの犯罪神を倒すこと。たったそれだけ。それは、犯罪神の話を通してアンリだって分かってるはずだ。

 だからもう、俺の心を揺らさないで、放っておいてくれよ。

 

「ロックスのせいじゃないよ!」

 

 マホが、ますます力を強めて俺を縛りつける。

 

「だって全部マジェコンヌがやったんでしょ? ロックスは一つも悪いことしてないじゃん!」

 

 俺は首を横に振る。

 マジェコンヌに乗っ取られてる時も、奥底に意識はあった。奴がやったことをずっと見てた。

 

「ぴーしー大陸の人たちを殺すのも、国を滅ぼしたのも、女神様を殺したのも、見てただけだった。こうやって、マジェコンヌを心の中からどかすことが出来たのに!」

 

 そもそも乗っ取られたのは、あれだけ止められてたのにRフォームを使い続けたせいと、マジェコンヌの策に乗ってしまったせいだ。

 短慮だった。

 俺より頭の良いアンリやマホのことも、戦いに関して経験豊富なネプギアたちのことも無視して辿り着いたのがこれだ。

 

「ロックス、そんなに自分を責めないでよ」

 

 俺は再び頭を振る。

 

「物を壊した時の、人を殺した時の感触が消えないんだ。俺はあれを止められたはずなのに、しなかった。必死でもがいたつもりだけど、足りなかった」

 

 ぬるりとした血の生暖かさが手に残っている。建物や自然のものを崩す手ごたえが体に刻まれている。そうするたびに犯罪神が感じた喜びをまだ覚えている。

 嫌な快感を無理やり流し込まれて、前の俺は壊れてしまった。

 普通の凡人じゃ耐えられない感触や感情がこびりついて流れてくれない。

 

「マジェコンヌの支配を抜けられるなんて、女神でも難しいことだよ。ロックスがこうしていられるのは奇跡なんだって!」

「それでも出来たんだ! 出来るだけの何かがあったんだ。それを、未来の俺は怠けてしなかった!」

 

 どれだけ確率の低いことだろうが、現にこうやって可能なんだ。だったら、やっぱり出来るってことだ。必死になれば掴めるチャンスだったってことだ。

 

「これは、俺の行動が招いた結果だ。俺が選んでしまった未来だ」

 

 ほら、分かっただろ、俺の罪が。

 償う必要があるのだ。死ぬ前に少しでも人を救わなきゃいけない。奪った命よりも多くを救うためには、行かなきゃいけない。他の誰でもない俺が。

 

「そんなことない! ロックスは頑張った! あーしたちのためにたくさん、たくさん!」

「子どもたちを元気づけて、私たちのために戦ってくれる人が、あんなことをするはずない。何もかも犯罪神のせいよ」

 

 抱き着く力が強くなった。決して俺を離すまいと、俺に残された『説得』という攻撃も弾き返してくる。

 

「ちがう。違う! そんなことを言うな。俺は──」

「あなたは私の大切な人、失いたくない人なの」

「そーだよ、ロックス! あーしだって、ズッ友を離さないだけの意地はあるかんね!」

 

 ……どうして。

 アンリたちは全て奪われてしまったのに、どうしてそんなことが言えるんだ。

 大切だと、友達だと、どうしてそんな一瞬の迷いなく言えるんだ。

 

「──っ」

 

 俺はそう言われて、どうして喜んでいるんだ。

 こんな男にそんな思いを抱いてはいけないと、怒らなきゃいけないとこだろ。なのに、どうして、どうしてこんなに嬉しさが溢れてくるんだ。なんで満たされた気になってるんだ。

 

「もう大丈夫、後はもうどうにでもなる。だから帰ってきて」

「なんの根拠があって……」

「大体のことは、大抵何とかなるんでしょ? あなたがそう言って、あなたが証明したことよ、ロックス」

 

 ────っ。

 

「う、う、く……」

 

 帰れるなら……許されるのなら帰りたい。

 アンリやマホともまだまだずっといたいし、子どもたちとももっと遊びたい。お父さんやお母さんとも日常を過ごしたい。

 でもそれを俺が自分から奪って手放した。ロックス、お前には罪がある。罰を受ける必要がある。

 誰か、そう言ってくれ。大事なものから、俺を引き剥がしてくれ。そうじゃないと、弱い俺は……

 

「あ……」

 

 胸の装甲が消えた。それだけじゃない。頭も背中も腰も足も、俺を覆っていた全ての鎧が消える。ベーススーツすら消え、腕輪の中に収納される。

 変身が……解除された。

 

「あ……ああ……そんな……」

 

 これ以上ないくらい最悪なことが起きた。

 彼女たちに触れたいという気持ちが汲み取られてしまった。そこにいるのは、当然生身となった俺。ぼろぼろと泣いてしまっている情けない顔が晒される。

 SVシステムによってブーストされていた戦意が風に吹かれた砂のように去っていく。彼女たちの想いが、俺の張った気を和らげようとしてくる。

 

「そんな、駄目だ。違う。これは違うんだ。変身。変身っ。変身だって言ってるだろ!」

 

 どれだけ叫んでもブレスレットは反応しない。なんでだよ、壊れたのか。

 もう十分だなんて俺が思うはずないだろ。戦う。戦うんだ。そう思えば戦わせてくれるんじゃなかったのかよ。

 

 脳への刺激もなくなったせいで、はっきりと感じていた怒りもぼやける。疲れがどっときて、体重の何十倍も重く感じる。

 倒れて寝てしまいそうだったが、もう一度装甲を纏えば元通りになるはずだ。なのに、これだけ願ってもシステムはうんともすんとも言わない。

 

「もういいのよ、ロックス」

 

 ぎゅっと、柔らかい体が遠慮なしに押しつけられる。こうやって誰かに触れるのは、ずいぶん久しぶりな気がした。

 あたたかい。あれだけ襲ってきたあらゆるものが消えていった。負のものが無くなって生まれた穴に、安心感が埋まる。

 固まっていた決意が、日に照らされた雪のように溶けていく。戦う理由や意気をかき集めたそばから零れ落ちていく。

 

「こんなんで、いいはずが……」

「いーんだよ、ロックス」

「もう傷つく必要なんてないの。だってあなたは何も悪くないんだから」

「それどころか、一番の功労者じゃん」

 

 望んだ言葉を言われて、望んだ称賛を受けて、戦意が削がれていく。

 もういいんだと、ぬるい俺がまたしても訴えて、意識を底に沈めようとする。瞼が落ちるのを防ぐ力すら、もうない。

 力が抜けきってしまった。何も考えられない。支えてくれる二人に、身を委ねてしまう。

 

「俺は、俺は……」

「ヒーローよ。あなたは、私たちのヒーロー」

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