偽次元のプリズム【完結】   作:ジマリス

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44 案じるだけの身

 結果として、マホとグレイシスターはあっさりと一人になった。

 ネプギアの言う通り空に穴が開くこともなく、そしてそこにいたのは俺たちがよく知るほうのマホ。

 俺の時と同じく、グレイシスターの記憶も共有したようで、女神化のコツも掴んだらしい。ただ、女神化すると敬語になってしまうあたりは、あのグレイシスターに引っ張られているみたいだけど。

 

「体は大丈夫か、マホ」

「ロックスよりはね」

「じゃあ、それなりってことだな」

 

 少しばかり……いや正直かなり心配していたところだが、ほっとした。一体化なんてろくなもんじゃないからな。

 

「未来のあーしが、これを残してくれてた」

 

 そう言って、マホは手に収まるほどの小さな筒状の物を見せてきた。銀色のそれは、特に何か入っているわけでもなく、ついている蓋を外して見ても中は空だ。

 

「犯罪神を封じる装置……だって」

「この小さいのが?」

「魂を消滅させるのはむずいんだって。そこで、封印するの」

 

 まあありがちだな。不死身の敵は封印されるかバラバラにされるかがオチ。実際、ネプギアたちは過去に犯罪神を倒したらしいが、復活してるしな。

 

「ぎあちーたちを閉じ込めたカプセルの技術を流用して作った物で、犯罪神だって閉じ込めちゃうらしいよ。この時間軸に来てようやく完成させたは良いけど……」

「器が俺だったせいで、倒せなかったのか」

「うん。ロックスを解放するために犯罪神の魂を封印したいけど、犯罪神の魂を抜き取るためにはロックスの体を壊さないと駄目だから」

「ジレンマね」

「だけど、今は気兼ねなくやれるだろ。俺とマジェコンヌが分離したあの近くで人はいないしな。体を乗っ取るなら、そこらのモンスターしかいない」

 

 魂だけの状態では長くいられない。となると、適当なやつを見繕うしかない。気がかりは消えたってことだ。

 

「カプセル……そういえば、ネプテューヌさんを捕えていた時のカプセルも同じ物だったのよね? マジェコンヌはあれをどうやって用意したのかしら」

「犯罪組織が作ったんでしょ? だったら、それがマジェコンヌに献上されたんじゃない?」

「偶然落ちてきたんだと」

 

 それに関しては俺が答える。

 

「恐らく、プラネテューヌタワーの上空で渦が発生した時に飲み込まれたカプセルが、時空を超えてマジェコンヌの頭上に落ちてきたんだろ」

「それって……すごい確率じゃない?」

 

 どうだろうな。あの渦が時間の修正力によるものなら、同じく時間的に異常な存在であるマジェコンヌのところに現れるのはそう不思議じゃない気がするけど。いや、分からん。適当こいた。

 

「でもそうなると、その時のマジェコンヌが未来からカプセルを手に入れて、またそれが過去へ……ってなりますわよね? 元々そのカプセルはどこから来たのでしょう?」

「卵が先か鶏が先か。時間をいじったことによるパラドックスね」

「まあそこは考えても仕方ないとこだろ」

 

 そういうことは分かる人が考えればいいし、考えるにしても犯罪神を封じ込めてから。それが一番しんどいことだけど。

 奴の根城はプラネテューヌの外側に浮かぶ孤島。今頃は新しい器を馴染ませるために休息していることだろう。

 あいつはカプセルのことも知らない。ISクリスタルを奪われないように抵抗はするだろうが、いざという時には俺の体を乗っ取ったように女神様の体も奪ってしまえばいいと考えてることだろう。

 封印の対抗策を練られる前に一気に片をつけるのが最優先だ。

 

「居場所を変えられないうちに行きましょう」

 

 ネプギアの言葉に、みんなが頷く。

 俺も着いていこうとする。が……

 

「ロックスは待ってて」

 

 マホが俺の腕を掴んで制する。

 

「マジェコンヌのやり方は俺が一番知ってる」

「分かってるよ。分かってる。だけど、これ以上は……」

「いつもそう言って無事だっただろ」

「無事じゃない。無事だったことなんて一度もないよ。今こうやってここにいるのが奇跡みたいなもんじゃん」

 

 そう言われて、俺は何も返せなくなった。

 何度死ぬと思ったか。何度終わってしまったと感じたことか。最終決戦となれば、マジになってしまってもおかしくない。

 

「あとは任せてくれたらいいから、ね」

「……お前が俺の代わりに行くことない」

「代わりだなんて思ってないよ。必要だからやる。ロックスが教えてくれたことだよ」

 

 彼女の掴む力が強くなる。

 

「あーしは一回逃げた。今度は逃げない。女神として戦うって決めたから」

 

 行くな、と言いたかった。でも無駄だって分かった。

 目、ギンギラギンだもん。こういう場合、止めても行くってのは俺が証明しちゃったからな。

 俺は長い溜息をついて、マホの肩を叩いた。

 

「生きて帰って来いよ」

「うん、終わらせてくるよ」

 

 

 

 

「バズール現象も落ち着いて、街中を歩けるなんて良い日だな」

 

 俺は、快気祝いとして両親に外へ連れられていた。

 

 脅威というものからプラネテューヌは解放された。

 どこの店も営業を再開していて、賑わっている。これは、どこの国でも同様だ。

 子どもも大人もそこらへんを無警戒に歩き回って、あるいは走り回っていて、遊びにショッピングに人生を謳歌している。つまり、日常が広がっている。

 だけど……賑やかだなんて思っておきながら変だが、静かだと感じる。こういう光景の中にいるのを望んでたのに、いざそれ叶うとなんだか場違いな所にいるような錯覚を覚える。

 

「これも、ロックスが頑張ってくれたおかげだ。だから、もう戦わなくていいんだぞ」

 

 戦える体も心も無くなった。だから戦わなくていい、と聞いて心が幾分か楽になる。

 痛い思いをするのは嫌だ。しかもあんな死に近い状態にまでなってしまうのも、もう勘弁願いたい。

 

 その一方で、本当にそうなのだろうかとも思う。戦いをやめても許されるのだろうか、と。

 元々この戦いは犯罪神が引き起こした戦いで、その犯罪神は俺の体を利用していて、つまり俺が戦い始めたのが原因で……

 

「俺は……」

 

 いや、いっぱい戦ったじゃないか。

 みんなの代わりに戦って、復讐も止めて、アンリとマホが協力できるようにして……それで十分だ。

 もともと凡人だ。ちっぽけな男だ。したことを認めてほしいような人間で、純粋な善人じゃない。そんなの俺が一番よく分かっている。

 

 どうせ、俺が何をしなくても世界は回る。回り続ける。

 

 無理だったんだ、俺が何かを成し遂げるなんて。

 そんな人間にしては戦果は上々。なんてったって、マジェコンヌを追い出してやったんだからな。グレイシスターやマジェコンヌの知っている未来からは外れた。あれは、ここから辿り着く先とは違う。

 もういいだろう。戦力が必要になったとしても、俺は力にはなれない。違う時間軸の自分の記憶が混ざって吐くくらいだ。

 だから……これ以上は気にする必要は……

 

『ロックス』

 

 気にする必要は……ない、はずだ。

 

『私たちのヒーローになって』

『私たちのために戦ってください』

 

 ………………

 俺は、ロックスだ。アンリとグレイシスターに戦いを託された男だ。

 未来で交わされた約束と、過去に託された希望を、繋がなくちゃいけない。

 それが出来るのは、俺とマホのたった二人だけだ。そしてその一人であるマホは、俺のズッ友は、想いを受け継いで戦いへ向かった。

 じゃあ俺は何をしてるんだ。こんなところで。

 

『マホを守ってね』

 

 好きな女の子との約束を一つも守れない。そんな男でいいのか?

 俺に罪があるのかどうか分からない。けど、罪悪感があって、責任を感じているなら、俺がやるべきは……

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