偽次元のプリズム【完結】   作:ジマリス

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46 ヒーローなんて

《マスター、もう少しで到着します》

「……どこかでお前の声聞いたことあるんだよな……」

 

 飛びながら、俺はアーマーから聞こえてくる音声に違和感を覚える。

 

《私です。シーリィです》

「シーリィなのォ!?」

 

 見ないと思ったら、こんなところに閉じ込められちゃって……

 元々のボディはマジェコンヌとの戦いの時に酷い損傷を受けたからな。だからって、SVシステムの中に入れなくても。

 

《このアーマーはアンリ様が使う予定でした。ですが、SVシステムに搭載されていた前のAIは、偏った学習を続けたせいで装着者に対して危険な存在となっていました。そうさせたのはマスターですが》

 

 チクチク言葉禁止って道徳の授業で学ばなかった?

 

《ですので、代わりに新しく私がこのシステムの補助を務めることになりました》

「新しくって、これまで戦ってきて手に入れたフォームとかも、データ無くなったってこと?」

《いえ。マスターが以前の装着者であることを確認しましたので、データを復旧させました》

「有能」

《ありがとうございます》

「有能ついでにちょっと聞きたいんだけどさ。五つもフォームあるのに遠距離武器が一個もないって偏りすぎだと思うんだよね、そこんとこどう思う?」

《マスターが願うなら準備しますが、訓練していないマスターが銃を扱うのは難しいと考えます。照準補助は出来ますが、元々の腕が素人ではどうしようもありません》

「人間、隙のない正論かまされるとぐうの音も出ないって学ばなかった? AIにロジカルハラスメント受けた初めての人間じゃないの、俺」

〈怖いならやめていいのよ〉

「おう、アンリ。通信良好。今、お前とシーリィから5.1サラウンドロジカルハラスメント受けてる」

 

 良い声なのが救い。ASMR出す? タイトルは『美少女が正論で潰してくる』とか。需要ありそう。俺は買う。

 

 さてさて、見えてきたぜ。四か国がある大陸、その中心近くに浮かぶ島。そこは資源もなく、どの国の管轄でもない。それゆえに、人の目につかず、警戒の外だ。隠れ場所には最適だ。各国にちょっかいをかけるにも。

 マジェコンヌは、ずっとそこに隠れていた。逃げる場所は、そこしかない。

 

「やっぱりいるな」

 

 浮遊島の上へ飛び上がった俺の目に映るのは、マジェコンヌと女神様たち。

 どちらも疲弊しきっていて、どちらも膝をついて肩で息をしている。あそこまで追い詰められているということは……マジェコンヌは既にISクリスタルに溜め込んだパワーを放出しきっていることだろう。よほどの力を積み立てていたから心配していたが、これは嬉しい誤算だ。

 立ち上がったマジェコンヌは武器である鎌を握り直した。それと女神様たちの間に、俺は着地する。砂埃が巻き上がって、それを槍で払った。

 

「ロックス!」

「あんた……!」

「文句は帰った後で」

 

 驚愕の目で俺を見る彼女たちにピースをして、敵に向き直る。

 マジェコンヌは俺の体で、俺の声で、アンリたちに自らの論を述べた。なら、俺にはそれに反論する義務と権利がある。

 一連の事件も、心の移り変わりも、間違いも、全ては他の誰のせいでもなく、誰に押しつけるものでもなく、自分が背負うものでもなく、お前のせいだと。

 

「つーわけで、ロックス参戦。ここでいい感じのムービーが挟まります」

 

 いい感じのBGMも入ります。盛り上がっていこうぜ。ようやく犯罪神ぶっ飛ばせるんだからよ。

 

「ロックス、貴様……」

「リベンジマッチといこうぜ。前に負けたのお前だけど」

「黙れ!」

 

 マジェコンヌが駆け出す。俺はP・Bladeに換装。刀を出現させ、握る。あー、久しぶりこの感覚。さあパーッと行きましょう。

 ぶん、と空を裂いて鎌を振ってくる。俺は刃を合わせて、間近まで迫ってきたマジェコンヌの顔を睨みつける。

 

「お前が戦えば、あの女がまた悲しむぞ」

「承知の上だ」

「エゴの塊だな、貴様は」

「そんな分かりきったこと言って核心突いたつもりか、俺以下の犯罪神様がよ」

 

 斜め、縦、横。敵の一閃をことごとく弾く。記憶をいただいたおかげでマジェコンヌの戦い方は分かってる。馬鹿正直に正面から攻撃を受けなければ、流せる!

 

「貴様の死をもって訂正させてやる、貴様以下などでは決してない!」

「確かに言いすぎたよ、訂正する。俺()()だもんな」

「貴様ァ!」

 

 ウケる。めっちゃおこじゃん。でも俺のほうがプッツンきてるから。死語。

 

 切り結ぶ音が響く。

 経験と記憶とシステムの予測で、俺はマジェコンヌとやり合えている。いや、それだけじゃない。

 奴が全快なら、ましてやISクリスタルを使って強化をされたなら、こんな互角の戦いをするなんて出来ない。もって一、二分が限度といったところか。

 マジェコンヌの消耗具合で、どれだけ激しい戦いを繰り広げたかが分かる。

 元々、優雅な戦い方ではないマジェコンヌが、さらにやたらでたらめに動く。血気盛んといえば聞こえはいいが、精細さを欠いたその動きは読みやすい。

 俺は奴の勢いに執拗なまでに追いつく。冷静さを取り戻させるな。回復させるな。追い詰めてるのは俺のほうだ。俺たちのほうだ。

 

 ネプギアたちが、この状況を作ってくれた。決着を延ばすな。決して奴を逃がすな。今、ここで、犯罪神を倒す!

 

「チッ」

「逃がすか!」

 

 しびれを切らして後ろへ下がろうとしたあいつの動きに合わせて、G・Spearに換装。距離を取って姿勢を直そうとしたマジェコンヌに、全力で突撃する。

 虚を突かれて目を見開くマジェコンヌの脇腹を裂いた。

 

「きさ、まァッ!」

 

 鎌が、首を刈り取ろうと閃く。

 

「おおっと」

 

 瞬時にB・Bladeに変わった俺は、紙一重で体を逸らす。

 さっきの攻撃、浅かったか。だが……確固たる殺戮のイメージを持った一撃を躱されたことによって、マジェコンヌの体が一瞬固まる。その隙を逃さず、剣で腕を斬る。切り落とすまではいかなかったが、鎌を落とさせることには成功。攻め時だ。

 

「換装」

 

 W・Axeの大きな斧を振り回す。がつん、とマジェコンヌの体を叩いた衝撃が手に伝わる。全快状態なら避けられただろうが、マジェコンヌは無様に吹っ飛ぶ。

 ああそうさ、お前にはそんな砂まみれの姿がお似合いだ。

 

 ぎりぎりと歯を砕かんばかりに噛んで悔しがるあいつは、息を荒くして肩をいからせて歩いてくる。まるで、怒っているぞと、今からお前に恐怖を与えるぞと伝えるように、憎悪を撒き散らしながら近づいてくる。

 いくらでも不機嫌オーラを放つといい。真正面から受けてやる。

 

 もう一度、斧を振った。

 だが、奴は今度はその場で耐えた。そして、斧を蹴り飛ばす。武器が手から離れ、数メートル離れた場所を滑る。その音だけ聞いて、視線は敵に合わせたまま、得意げになっているマジェコンヌの腹に重いキックを食らわせた。

 空いた距離を詰めて、拳を固め、構えも何もなくぶん殴る。顔にクリーンヒット。よろめいたマジェコンヌは、足を踏ん張って殴り返してきた。首が吹っ飛んでしまいそうだ。

 飛びそうな意識を手繰り寄せて、お返しに一発。

 犯罪神も俺もお互い、もう力はほとんど残っていない。相手の攻撃を避けられる余力もなく、拳をぶつけ合う。

 

 未来の技術を使う俺と、女神に匹敵するラスボスの最終決戦がこんな原始的だなんて。いやでも、そんなもんかもしれない。

 戦いがスマートに解決することなんて、ほとんどない。少なくとも、俺の場合はそうだ。いつだってそう。それでも上手くやってきた。最後には何とかなる。

 それが、こんなクソ野郎の時だけ例外だなんてこともないだろ。

 

「こんなに泥臭く戦うのが、お前の目指したヒーローか!」

「ヒーローなんてただの称号だろ。いらねえよ、そんなもん」

 

 ヒーローとは、目的でも手段でもない。結果だ。それに固執していた気持ちは、もう無い。俺はその資格を捨てた。

 アンリやマホ、両親、子どもたち、ぴーしー大陸の人たち、戦う中で出会った人たち、女神様たち。俺が望むのは、周囲の無事だ。

 世界を救うなんて、俺には無理だ。そんなこと本心では願ってもいなかった。そんな俺はヒーローではなく、ヒーローにはなれない。

 だけどそれでいい。自分の手が届く範囲だけでも全力になれるのなら、俺はきっと、自分を認められるだろう。

 

 タックルで突っ込む。なんとか、という感じで受け止めたマジェコンヌの顎へ一撃。よろめいたマジェコンヌは、肘を胸に突き出した。装甲を貫通して、臓器にまで衝撃が達する。

 咳き込みながらおぼつかない足取りで距離を取り、膝をつく。

 R・Heartフォームで傷ついた体の内側は、まだ万全じゃない。だが……それでも!

 

「もういい」

 

 マジェコンヌは鎌を拾い、その刃先を俺に向ける。

 

「R・Heartの強制戦闘能力がない貴様など、所詮この程度でしかない。そこらへんのモンスターを倒すのが精々。そんなお前が私に勝てるとでも思ったか、この出来損ないの人間風情が」

 

 絞り出すようなか細い声で笑いながら、奴はトドメの一撃を刺すために武器を振り上げた。

 

「ここでお前も殺して、全てを破壊してやる。私に楯突いたことを後悔するがいい」

 

 そして鎌を振り下ろ……さずに、動きを止めた。眉をひそめて俺を見てくる。

 まあ不思議に思うだろう。なんせ、今にも殺されそうな俺本人がくくく、と笑っているのだから。

 だっておかしいだろ。こうもテンプレみたいなことを言われると、滑稽に見えてくる。そういうセリフが氾濫してた時代から年号変わって、もう何年だよ。

 

「何がおかしい」

 

 今度は吹き出してしまった。これもありがちすぎるセリフだからだ。

 

「お前みたいな悪役に一度言っておきたかったことがある」

「なんだ?」

 

 決して油断はせず、武器を持つ手を緩めないマジェコンヌを、俺は指差した。

 

「そうやってペラペラ喋るから負けるんだ」

 

 刃が、肉を貫く。

 

「うぐ、が……っ」

 

 絞められたような声を漏らしたのは、マジェコンヌだ。

 奴の胸から刃が生えた。そんなわけないだろ。グレイシスターが、後ろから奴を貫いたのだ。

 

「くっ、きさ、ま……!」

「さらにもう一発!」

 

 今度は俺が正面から刀を突き刺す。もうちょっと抵抗あると思ったが、すんなり通った。

 

「あ、やべ。マホ、お前のほうに刀の先がいくぞ」

「もう来てます」

 

 ああ良かった。ちゃんと避けてるわ。

 

「ぐ、うう……!」

 

 流石のマジェコンヌといえども体を貫かれて無事でいられるはずもなく、武器を引き抜くと苦悶の表情を浮かべながらその場に跪いた。

 殺すならさっさとやるべきだったな。もったいぶって出演時間延ばしても、ギャラ出ないよ。

 さてさて、よーし、お兄ちゃん張り切って斬っちゃうぞー。

 

「ま、待て! 私を受け入れれば、この世の誰よりも強い力が手に入るんだぞ! それが欲しくないのか!?」

 

 犯罪神の命乞いだって。元気出るわ~。

 

「興味ないね」

「な、ならば、世界の半分を貴様にやろう! 一人の人間が手に入れられるものとしては破格だろう!」

「いかにも悪の親玉っぽい台詞。ついでに言うと負ける奴の台詞な、それ」

 

 そんで、俺が選ぶ選択肢は当然、『いいえ』だ。世界の半分なんて持て余しちゃ~う。

 

 こういう時、俺が主人公なら新しい必殺技でも出来てたんだろうけど、あいにくただの人間でしかないもんで。

 だから、ただ斬る。単なる袈裟斬り。犯罪神程度にはこれで十分だろ。

 

 糸の切れた人形のように、マジェコンヌの体は力なく地面に倒れる。

 さあ、総仕上げだ。

 

「ロックスさん、これを!」

 

 ちょうど、ナイスタイミングでネプギアが()()を寄越してくれる。その蓋を開けて、マジェコンヌのほうへ向けた。

 マジェコンヌの器から、黒いもやのようなものが噴き出す。あいつの魂だ。もはや形も保てないほど消耗してしまったのだろう。煙っぽいのに、右往左往してるっぽい動きで焦っているのが分かる。 

 

「こうなったら、そこの女神の体を……っ!?」

「オーライオーライ!」

 

 マホのほうへ向かおうとしたマジェコンヌの魂が、その思いとは逆に動く。強風に煽られたかのようにずるずるとこちらに引きずられていく。

 犯罪神封印の筒。グレイシスターが残してくれたアレを、満を持して発動させたのだ。

 掃除機で埃を吸い込むがごとく、黒い煙はどんどんと筒の中へ。 

 

ドア閉まります(ダァ! シェリエス)

 

 魂の全てが完全に吸い込まれたのを確認して、蓋を閉める。その後は、その後は……どうしたらいいんだっけ?

 

「アンリ」

〈……成功よ。犯罪神が封印出来てる〉

 

 ……

 …………

 数秒、静寂が流れた。

 

「それって、つまり……」

「終わったってことですか?」

 

 俺とマホが訊く。

 アンリはいくらかもったいつけてから、こう言った。

 

〈ええ。終わったわ〉

 

 緊張の抜けた彼女の声を聞いて、どっと力が抜ける。受け身も取らずに、俺はその場に倒れこんだ。

 

「ロックス、大丈夫!?」

 

 変身を解いたマホが、同じく変身を解いた俺の傍らにしゃがみ込む。マホだけじゃない。ネプギアたちも心配して俺に寄ってきた。

 

「お祝いだな」

「は?」

「お祝いだよ。ようやくぱーっとした飯食えるな」

 

 俺がそう言うと、ネプギアたちはぽかんと口を開けたまま固まって……くすくすと笑いはじめた。

 

「豪華な食事を用意しますよ、ロックスさん」

「肉と白飯!」

「あーしは寿司と蕎麦!」

「ふふ、分かりました」

〈まったく……〉

 

 アンリは呆れて、苦笑して、最後は安堵のため息を漏らした。

 

〈迎え、よこすわね〉

「よろしく、あんりー! ほらほら、ロックス立って!」

「優しくしてよ。俺病み上がりの復帰戦だったんすけど!」

「早くあんりーに無事なところ見せないと。反対押し切って来たんでしょ?」

「そうだけどさあ。もうちょいでエンドクレジット降りてくるところだっただろうがよ!」

「はいはいクレジット上げて上げて! 画面のフェードアウトも戻して戻して!」

 

 俺を無理やり立たせて、肩を貸してくれるマホ。くずおれそうな体に踏ん張りを込めて、半ば引きずるようにして歩く。

 

「あんたたちには一体何が見えてるのよ」

「え~? 強いて言うなら……未来、かな。決まっただろ、これ」

「最後のが無ければね」

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