アホほど疲れました。
疲労のせいで、帰りはほとんど何も喋ることはなかった。これだけ見たら、負けて帰ってきたみたいだな。
でも実際は、犯罪神マジェコンヌを封印。これで異なる時間軸から来た者はいなくなったから、バズール現象も起きなくなっただろう。
重い体を引きずって、そのままプラネテューヌの教会へ。
女神様たちはイストワールさんに呼ばれ、残された俺とマホは我らがオペ子さんのところへ。
ぴーしー大陸組に与えられた作業部屋に入るなり、アンリがマホに抱き着く。
「わっ、あんりーってば甘えんぼさん」
旅から拠点に帰還した時とは逆だねえ。でも尊さ同等。あのアンリから抱き着いたって考えれば、エモさ倍。
いつものクールな印象……はもう結構剥がれてきてたけど、これまで以上に彼女はそんなものかなぐり捨てて、マホの胸に顔をうずめた。てえてえかよ。
「ロックスにも抱き着いちゃえ」
「アンリが良ければ俺はいつだってウェルカム」
俺は腕を広げて、待ちポジションを取る。来てよ。さあ! ……なんて、冗談ですよ冗談。とか思ってたのに。
「うおっと」
「ロックス……」
アンリは遠慮なく飛び込んできた。まさか俺にまでガッツリ抱き着いてくるとは思わなくて面食らってしまった。
俺、覚悟してたことにはめっぽう強いけど、予想外の事態にはとことん弱いんですわ。ねえこれどうしたらいいのん?
助けを求めて視線を移すと、マホが『行け行け』とジェスチャーしてくる。あ、やれやれこのいくじなしって感じで肩竦めんな! 俺だって、俺だってなあ、できらぁっ!!
恐る恐るアンリの背中に手を回す。細~。柔らか~。そんで、震えてる。
体、小さいな。無理させすぎ、心配かけすぎ。まったく悪い男だよ、俺は。ほんの少しでも彼女の震えが止まるようにと、力を強める。
視界の端に、部屋の中に慌てて入ってこようとする親が映る。
「ロッ──」
呼ばれる前に、人差し指を口に当てて、静かにしてくれと命じる。今いいところだから邪魔しないで。後で存分に叱られてやるから。
散々言いたいことはあるだろうに、両親ともにマホに連れられていった。
「ロックス」
「な、なんだ?」
しどろもどろになってしまう俺の胸に耳を当て、安心したように目を瞑っている。
「……生きてる」
「足が無いように見えたか?」
「いえ。ちゃんと二本あるように見えるわ。三本でもなく、二本」
それどころか五体満足ですよ。犯罪神相手にしたにしては願ってた以上の結果だ。指一本すら欠けてもないんだもの。
「ずっと、ずっと心配だった……あなたが戻ってこないんじゃないかって、見送ったのはやっぱり間違いだったんじゃないかって」
「約束しちまったからな、破ったらお前が落ち込みそうなやつ」
あんな顔してるアンリを置いて、俺だけ楽にはなれんよ。
「悪くなかっただろ、こうやって約束するの」
「もうこりごりよ。私がどれだけ気を揉んだか。あなたがマジェコンヌと殴り合いしだした時なんか……」
「あいつが殴られるたびにスッキリしただろ?」
「それはそう。でも、あなたが殴られるたびに心臓が張り裂けそうだった」
俺よりダメージ受けてんじゃん。
「でも本当に、無事で良かった」
そう言って、彼女は再び俺の胸に耳を添える。その間も決して、背中まで回した腕を離してくれない。
「言わなきゃいけないことがあるの。ごめんなさいとか、ありがとうとか、たくさん」
「それは俺のほうこそだろ。怒鳴ったこと、まだ謝ってない」
「……いつの話?」
「R・Heartフォームでバズール現象抑えた後」
「ああ、そんなことあったかも」
と言いながら、全然覚えてないって顔。
「でも、そんなこと……」
「いや、ちゃんと後で謝らせてくれ。しっかり話そう。これまでのことも、これからのことも」
「…………うん」
アンリの腕の力が強まる。
シリアスな空気ってのは分かるんだけど、そうされると興奮だけが勝っちゃうよ。
「……で、いつまでこうしてるつもりなんだ?」
「戻ってきたら何してもいいって言ったのはあなたよ」
「そりゃ言ったけど」
「だったら大人しくしてて。あなたの鼓動を聞かせて」
ドキドキしっぱなしの心音を聞かれるのって、めちゃめちゃ恥ずかしいんだぞ。なんて文句は、安堵しきったアンリの顔を見て吹き飛ばされた。
△
「みなさんお疲れ様です。本日のところはお休みしていただきたいところですが……」
「さんせ~い。もうくたくただよ~」
「お仕事が溜まりに溜まっているので、そうもいきません」
「いーすんのオニ! ケチ!」
女神様の執務室へ行くと、イストワールさんに対してネプテューヌ様が駄々こねてた。親子みたい。
「荒れる気持ちも分かりますわ。わたくしも、やりたいゲームがまだまだ積んである状態で……」
「ベールお姉ちゃん! ちゃんとお仕事したらご褒美あげるよ!」
「そういうわけでみなさん、わたくしは失礼しますわ」
ベール様、すっかり家守こもりに依存してしまっておいたわしや……何割かは、こうなること分かって家守こもりを助けた俺のせいだけど。
「機械に人が操られてる」
「ちょっと前のアンタのほうが、より当てはまる言葉ね」
「そういうこと言う!?」
「言うわよ、そりゃ」
「土下座したら許してくれるか!?」
「やめてよ! アンタのせいで、私とお姉ちゃんが土下座させる女神だってみんなに思われてんのよ!」
俺のせい!? 俺のせいかも。俺のせいだな、これ。
「私もラステイションに戻るわ。やることが山積みなのは同じだし」
「ええー!? 手伝ってよノワールー!」
「へばりついてこないでよ! 今まで何回そうやって手伝ったと思ってるの!」
「じゃあブラン、ブランは手伝ってくれるよね!?」
「嫌よ。手伝いのはずが、私メインで仕事するはめになるもの」
いやいや、女神様がそんなぐうたらなわけないでしょ、ねえ? あれ、なんでみんな目を逸らすの。
「それじゃネプギア、この子のこと任せたわよ。ユニ、帰ってくるのは後からでいいからね」
「ラム、ロム、あなたたちも休んでから帰ってきなさい」
自分たちも顔に出るほどお疲れなのに、お姉様女神様はさっさと去っていく。
「女神様って、大変なんだな」
「マジェコンヌを倒したからって、全てが元通りになるわけじゃありませんから」
ネプギアが苦笑する。
あらゆることに対して素人の俺でも、ぱっと思いつく限りで二、三十は問題が思いつく。 犯罪神封印やバズール現象終息の発表に、他にも諸々。
まあでも、元凶がいなくなったんだ。これからは良くなる一方だけだろう。多分。知らんけど。
さて俺からも報告が一つ。
「イストワールさん、はいこれ」
「ありがとうございます。厳重に管理します」
手のひらに収まる、小さな容器を渡す。マジェコンヌの魂を閉じ込めたカプセルだ。
イストワールさんはそれを丁寧に受け取ると、そっとしまった。
「しかしまあ、あんな小さいのに犯罪神の魂がねえ……うっかり落としたら大変なことになるな」
「衝撃にも強いカプセルですから、簡単には割れませんよ」
「フラグっぽいわよ、ネプギア」
そもそも封印ってのが、復活フラグっぽいよね。誰かやらかししなきゃいいけど。
「出てきてもだいじょうぶよ! なーんたって、わたしとロムちゃんとおねえちゃんがいるから!」
「ちょっと自信ない……かも」
大丈夫やろ。お前たちに加えて俺たちもいるし。ISクリスタル無ければ楽勝も楽勝よ。
△
「──で、そこからアンリが離してくれなくさ」
女神候補生と外で飯を食いながら雑談タイム。
マホとアンリはイストワール様に付き添って、封印カプセルの保管場所と封印の安定化について協議しているそうで、後で合流。
「へえ、やるじゃない。好きな女の子に抱き着かれた感想はどう?」
「ネプギアァ!!」
「え、冤罪です! ロックスさんがアンリさんのこと好きだってこと、誰にも言ってません!」
「へ~、そうなんだ!」
「どきどき……」
ァ!
「あ……す、すみません……」
「いやでもバレバレよ。アンタ、目で追いすぎなのよ。さっきの話も、自慢げで私たちに聞いてほしくてたまらないって感じだったし。女の子はそういうのすぐ分かるのよ」
「変な男を引き寄せてそうなお前に言われると説得力あるんだか無いんだか」
「喧嘩売ってるなら買うわよ」
売り切れです。
「それで、その後はどうしたんですか?」
「親にアホほど怒られた」
「ご愁傷様ね」
まさか親の前で正座するとは思わなかったです。マジ怒りの母さんと父さん怖かった……
「そんななのに、こうやってアタシたちと話すの、よくあなたの両親が許したわね」
「女神にも会わせないように、って言ってたもんね。まさか内緒でここに来てるんですか?」
「まさか。アンリのこともマホのことも女神様のことも許してやってくれって、バーニングスライディング土下座で頼み込んだ」
「えーっ、それやったの!?」
「見たかった……」
ふともも赤くなった……もう二度とやらんわ。まだちょっと痛いもん。無駄に怪我するなって余計に怒られました。
「これからどうするの?」
一連の事件で一番被害を受けたのは、俺たちぴーしー大陸の民と言ってもいいだろう。なにせ、故郷はぼろぼろ、国民も他国に居候状態だし。
この状況について、なるようになるやろとは流石に思えなかった。だから、事件の渦中にいた俺たちで既にそこらへんは話し合い済みだ。
「アンリとマホと話して、決めたことがあってな。そのために、女神様の力をお借りしたい」
だから、と深呼吸を一回。
「どうか、お願いします」
思いっきり頭を下げる。
土下座じゃないけど、俺としてはそれ以上の気持ちで下げた頭。
友人としてではなく、他国の女神様へのお願いだからだ。
「やっぱり、アンタに敬語使われると気持ち悪いわね。畏まられるともっと気持ち悪い」
「ええ!? そりゃないだろユニ。このお辞儀めっちゃ練習したんだぞ! 見ろ、もう腰曲がっちゃって曲がっちゃって!」
この綺麗な九十度を作るために鏡の前で練習しまくったのに!
「なんで今さらきっちりしようと思ったのよ」
「いやでも第一印象って大事だろ」
「第一印象どころか、アンタのことは第十印象くらいまで見たわよ」
呆れたように言うユニは、俺の頭を上げさせた。
「今まで通りでいいですよ、ロックスさん。もちろん協力します」
「もちろん、わたしたちも!」
「おねえちゃんに上目遣いでおねがいすると、言うこと聞いてくれるの」
「ブラン様……」
なんかほんと、女神様って一部切り取ると普通の女の子って感じ。百回くらいそう感じたよ。
「それにしても……」
「ロックスさんって、そうやって頭を下げるのに抵抗ないんですね」
「世界一大切な親友二人のためだからな」
「世界一が二人?」
「いいだろ二人いたって」