「帰還っ!」
拠点に到着したマホは元気だった。
俺なんか入口に着いた時点で限界が来て、へたり込んでしまった。もう疲れちゃって、全然動けなくてェ……
「おかえりなさい」
疲弊しきった体を休ませてると、アンリが急いだ様子で迎えに来てくれた。
「げ、あんりー……」
「げ、とはご挨拶ね、マホ。どこ行ってたの」
アンリは俺たちが無事だったことにほっと胸をなでおろし、すぐさま眉を八の字に変形させた。
「ええっと、あー、それはそのー」
「やっぱり外出てやがったこいつ」
「ちょっとぉ! 言わないって約束したじゃん!」
「してません。大人しく怒られろ」
無事で何よりだけど、ネプギアがいなかったら死んでたぞ。心臓に悪い。
「まったく……心配したのよ」
「ごめんごめん。でも、良いデータいっぱい取れたよ!」
懲りてなさそう。後でアンリにこってり絞ってもらうか、カラッカラになるまで。
「ロックスは大丈夫だった?」
「SVシステムのおかげで余裕」
モンスターに群がられてやられる手前だったのは黙っておこう。Vサインしちゃう。ダブルピース。
それよか、気にすべきはこちらのお方。
「あなたがロムとラムを助けてくれた人ね。感謝するわ」
ブラン様だ。ロムとラムの姉。つまりルウィーの守護女神ホワイトハート様。この目で拝めるなんて一生ないと思ってた。
先ほどの姿は、シェアエネルギーを使って変身した女神ホワイトハートとしての姿で、今は茶髪の大人しそうな少女の姿になっている。
「すみません。立ってお話したいところなんですけど、代わりに土下座でもいいですか?」
「そのままでいいわ」
寛容~!
お言葉に甘えて、座ったまま応対する。せめて正座になっとこ。背筋ピーン。天使の羽。
「モンスターと一緒に吹き飛ばしてしまってごめんなさい」
ま、ま、ま、マジモンの女神様が頭下げてる……!
「いやいや、あの」
「素直に受け取っておきましょう、ロックスさん」
「はい……」
あの混戦では、俺が機械モンスターに見えても仕方がない。さらに言えば、妹たちが危ない状況だったのだ、それ以外をぶっ飛ばしてしまうのもこれまた仕方ない。
「ところで、お姉ちゃんがどうしてここに?」
「あなたたちが見つかったと聞いて、すぐさま飛んできたの」
それはもう比喩なしで文字通り飛んできましたよね、あなた。
「無事で良かったわ」
「わ、えへへ」
「ぎゅーっ」
双子を抱き寄せて撫でるブラン様に、ラムもロムもくっつく。
てぇてぇ。見てるだけで浄化されそう。
△
「プラネテューヌを奪還しましょう」
帰ってきて数時間後、色々と考えていた様子のネプギアが俺たちを集めて、開口一番そう言った。
「ネプギアさん、大丈夫なんですか?」
「はい」
話を聞いて飛び出していった時とは真逆、闘志に燃える炎がネプギアの目の中に見える。
「やれることをやるしかないんです」
それ、最近どっかで聞いたな。
「その心意気は素晴らしいです、ネプギアさん。しかし、今プラネテューヌは多くのモンスターが闊歩する国となっています」
「アタシたちだけじゃどうにもならないかもしれないわよ」
「うん。だからプラネテューヌ奪還の前に、戦力を整えないと」
戦力……ここにいるだけじゃまだ足りないようだ。女神候補生四人でも、となると……
「ラステイションとルウィー、リーンボックスに協力をお願いしに行きます」
やはり。女神様の力を当てにするしかない。
リーンボックスとラステイションは忙しくしてるらしく、こちらから直接出向いていかなければ。
その前に、ネプギアはちらりとブラン様のほうを見た。
「ルウィーは協力するわ。他の国より被害は少ないし、プラネテューヌを放ってはおけないもの」
「ありがとうございますっ」
「とはいえ、ずっと一緒にはいられないわ。もうルウィーに戻らなきゃいけないし」
「それでも助かります!」
幸先が良い。これでルウィーに行く手間が省けた。
後はラステイションとリーンボックス。すぐに承認が得られるといいけど。
「じゃあ……もう行っちゃうの?」
マホがしょぼんとしている。せっかく出来た同年代の友達だからな。すぐにお別れなのが寂しいんだろう。
「うん。大丈夫だよ、ちゃんと帰ってくるから」
即答。
世界の危機に、国民の危機。ネプギアにとってはどちらも見過ごすことのできない、一番に解決すべき問題なのだろう。
でもやることやったら真っ先に帰ってくるんだろうな。そうやって信じきってしまうくらいには、彼女は誠実な女神だ。
「ネプギア」
ここまで話を聞くだけだったアンリが口を開く。
「この旅で、バズール現象のデータも取ってほしいの。発生する原因を突き止められればベストよ」
世界中あらゆるところを巡るなら、バズール現象に出会う確率は高い。少なくともここにいるよりは。
脅威を取り除くためにも、対抗できるネプギアたちに任せるのが一番の案だろう。
アンリは、バズール現象データを測定できるアプリをネプギアの端末にインストールしながら、俺に向き直った。
「ロックス、同行を頼める?」
「俺が?」
「今、各国のシェアは少なくなって、ネプギアたちは不安定な状態よ。誰かがサポートしないと」
人々からの信仰心で強さが上下する女神たちにとって、現状は厳しいものとなっている。
特に、ネプギアはほとんど力を出せない状態らしい。今後、この旅が長引けばさらにシェアが減っていく恐れもある。
パーティが全員そんなだと、どこかでやられてしまうかも。だからそういったものに左右されない人物が必要ということだ。
「その間、拠点は?」
「さっきのデータのおかげで、今までよりも早くバズール現象を感知することができるわ。逃げる時だけなら十分。大人たちだって、絶望漬けの人ばっかりじゃないし。それに……」
「それに?」
「今後、SVシステムはきっと私たちの戦力の要になるわ。そのためにも、扱うあなたは経験を積んでおかないと」
もう思いっきり俺がこれを使う前提で話進んでますね。いや、やるっつったけどさあ。
「あー、俺は全然ね、全然いいんだけど、ネプギアたちがどう言うか……」
「ロックスさんが来てくれたら頼もしいです」
「ま、ネプギアが言うならいいんじゃない」
「うんうん、楽しくなりそう!」
「わくわく」
ヒ、ヒエ~、女神候補生のほうが乗り気~。ヤダとか言えない空気~。
「大丈夫です。いざとなったら私が守りますから」
「女の子にここまで言わせて、怖気づいたーなんて言わないわよね?」
「逃げ場ないなら最初から言ってくれよ……」
△
翌日の早朝、俺たちは拠点の出入り口にて集まっていた。
ブラン様は昨日のうちに国へ戻っていった。もうちょっとゆっくりしていっても……と思ったが、国のトップがそうそう自国を空けられるわけもない。
そんな彼女に触発されたのか、いや元々っぽい気もするけど、ネプギアたちはてきぱきと準備を整え、早いうちから出発しようと提案してきたのだ。
どこから話を聞いてきたのか、子どもたちまで総出だ。早起きさん。
「ろっくす、行っちゃうの?」
「そう。俺がいないからって悪さするんじゃないぞ。いい子にしてたら、おみやげいっぱいあげるから」
「おみやげ! いいこにしてる!」
現金なやつめ。うりうり。
「ちょーっと待ったー!」
声でか。
なんだなんだと振り返ってみれば、必死な顔で追いついてきたマホが待ったをかけていた。
「あーしもついてく!」
「ええっ!?」
一同驚く中、アンリはまたかと呆れだした。
「マホ、昨日散々話し合ったじゃない」
「でもでも、バズール現象を解明するなら、アプリに詳しい人がいるでしょ? SVシステムだって、途中で壊れたりしたらロックスが危ないし。あーしがいれば何とか出来るもん!」
「ああ言えばこう言う……」
アンリの心配はごもっとも。外に出るのは危険だ。バズール現象がいつどこで起きるのかも分からない以上、戦闘員ではないマホが足手まといになる場面だってあるだろう。
「ロックス、あなたも何か言ってやって」
まともに考えれば、アンリの味方をしたほうがいいところだ。が、マホの言うことも分かる。
バズール現象については、遠隔でアンリに確認を取るより、その場でデータ取得と解析を出来たほうがいい。それに、SVシステムがなければ俺だって役立たずだ。メンテナンス出来る誰かがいてくれないと。
「ネプギア、マホも連れていこう」
「ロックス!?」
「アンリ、こいつが言って聞くようなやつじゃないのは知ってるだろ。何度忠告しても一人で外に出る女なんだから」
「それはもう言わないでってぇ」
「はいはい決まり! お互いが納得する案なんて出ないんだし、言い合いしても無駄だろ」
結局、どちらかが折れるしかないのだ。マホを行かせるか、それとも軟禁させとくか。連れていくほうがまだうるさくない。
「……もうっ」
ぷんすこして、アンリは俺を見た。
「ロックス、マホのことお願いできる?」
「ああ、見張っておくよ」
「なにさなにさ、人を危なっかしい子みたいに!」
「「そう言った」」
ハモっちゃった。
パーティの中で唯一戦闘能力がないんだから、ふらふら~っとどこかに行かれちゃ困る。
勝手に外出ちゃいけないルール破った前科があるマホは、この目でちゃんと見ておかないと。
「ロックスっ」
よし行くか、と言いかけた瞬間、またしても待ったがかけられた。
止めてきたのは、中年の夫婦だ。
「誰?」
「うちのお父さんとお母さんです……」
急いで走ってきたようで、息を切らしている。
「リーンボックスに行くって本当?」
誰に聞いたんだよ。子どもたちか。
「バレる前に旅立つつもりだったのに……」
「なに?」
「いや、なんでも!」
絶対なんか言われるから事後報告にしようと思っていたのだが、そのことが気に入らないみたいで、両親ともどんどん顔が険しくなっていく。
怖いよ。子どもたちに悪影響だから、スマイルしよスマイル。
「何のために行くの?」
「あー、その、女神様のお手伝いみたいな?」
「お前が行く必要あるのか」
「あー残念、それは俺が先に言った」
「女神様だけで十分でしょ?」
「それも言った」
その上で逃げ場なくされました。
「すみません。どうしてもロックスの助けが必要なんです」
「そうそう。でもだいじょうぶい! 危なくなったら、あーしがロックスを引っ張って守るから!」
アンリとマホが前に出て説得してくれる。
「俺、いま俺より年下の女の子にフォローされてる」
「ろっくす、なさけなー」
「お前が思ってる四倍くらいは、俺は俺のこと情けないと思ってるよ」
見る目あるな。
「ロックスじゃないといけないの?」
「そこから先は説明してると世界が滅亡するくらい長くなるから割愛するけど、とにかくその……マホ……と女神様に助けてもらうから、心配いらないって」
「ろっくす、もっとなさけなー」
「今、五倍になった」
でも、こんな情けない俺のことを要ると言ってくれる人がいる。仕事を託してくれる人もいるし、危なっかしい友達もいる。
「必要なことなんだよ」
どう言われても、最悪飛び出して旅を始めるつもりだ。そのことを察したのか、長いこと躊躇って、父が頷いた。
「……分かった」
「あなた……」
「男がここまで言ってるんだ。もう止められないよ、母さん」
さらにまた長いこと迷って、お母さんはネプギアたちのほうに向きなおった。
「女神様、マホちゃん、息子をお願いします」
「はい、任せてください」
深々とお辞儀をする母に、ネプギアが答える。
うむうむ、これにて一件落着! まだ旅立つ前だけど!
じゃあ何の憂いもなくなったところで、出発しますか!
「あ、ロックス」
アンリまで止めてきた。みんな一回は止めてくるシステムなの、これ? あと何回あるか教えてくれる?
彼女は俺の手をそっと握った。
ヒッ。急な女の柔肌は男の心臓を止める危険性があります。このハレンチ!
「そういうことだから、ロックス、あなたも無事に帰ってきてね」
「もちろん。痛いのは嫌だからな。五体満足で帰ってくるよ」