プラネテューヌを魔の手から救うため、女神様の協力を得ようとまずやってきたのはリーンボックス。
バズール現象のせいで出入国制限があったが、そこは女神候補生の顔パス。すんなり通れた。
「おー! でっかい! 高い! 四角!」
街に着くなり、マホはあちらこちらを撮影し始める。高画質で思い出を残せるんだ、そう、マジフォンならね。
俺は自分の端末を使って、アンリに通話をかけた。
「着いたぞ、アンリ」
〈連絡ありがとうございます。こちらも確認しました〉
「確認?」
横からラムが疑問を呈してきた。
〈ロックスの腕輪は、装着者のバイタルや位置情報を記録できる装置でもあるんです。それをこちらでモニターしています〉
「本来は、戦闘補助のためにシステムが読み取ってるんだけどね」
「しすてむ……?」
「そー! SVシステム!」
〈ちゃんと説明しなさい、マホ〉
そうか。結局、腕輪が何なのか、女神候補生たちに教えてなかったな。
〈その腕輪は、装着者の体調や感情、その場の環境や敵の状況を考えて、適した補助をするシステムを持っているんです。それがSVシステム〉
「……って、プログラムの中に説明書きが書いてたんだと」
俺も中身を見せてもらったけど、全くのちんぷんかんぷん。今も大体の感覚で分かった気になってるようなもんだ。
「あのアーマーは、そのシステムの機能の一部で、戦闘時にロックスに装着されるってわけね」
「へえ~、私も中を見てみたいです!」
ふむふむと頷くユニの隣で、ネプギアの目ぇキラッキラ。
これまでで一番テンションの上がった彼女の様子に、俺はちょっと引いた。
「ネプギアって……」
「機械オタクなの。あなたが良ければ見せてあげて」
俺の周り、機械に詳しい女の子多いな。ちょっと男子~、もうちょと頑張りなよ~。
気になることがあるのか、ラムがマホの裾を引っ張った。
「SVってなんの略なの?」
「そこんとこが壊れてて見れなかったんだよね。なんだろ?」
「ポシェモンかな」
「あー、確かに! ロックスどっち派?」
「紫のほう」
「そういえば、新しいポシェモン出てるのよね! おねえちゃんが言ってた!」
「ラムちゃん、後でポシェモン交換しようね。(わくわく)」
「俺も俺も」
ポシェモンってもう一つのバージョンじゃないと手に入れられないモンスター出てくるんだもん。俺の図鑑まだ埋まってない。
世界的にも紫を持ってる人のほうが多いらしいし、拠点も紫バージョンしかいなかった。
〈ロックス……〉
呆れたような声が聞こえて、びくっとなった。いやいや、プラネテューヌ奪還が先ですよね、分かってます分かってます。
「とりあえず、グリーンハート様と会ってみるよ。また連絡する」
〈分かりました。気を付けて〉
通話を切って、改めて街へ目を向ける。見慣れない街並みに、ついあっちこっち視線が向いてしまう。ザ・田舎者。
「リーンボックスは初めてですか?」
「生まれてからずっとぴーしー大陸にいたもんでね。他の国は、プラネテューヌをちょっとだけ知ってるくらいだ」
「ご感想は?」
「トカイって感じ」
ぴーしー大陸の中心部だって結構栄えてたのに、ここと比べたら……
地面が露出してるところはほとんどなく、車道は綺麗に舗装されていて、歩道もきっちり。オフィスビルみたいなのがそこかしこに建っていて、見渡す限りでっかぁ❤って感じ。
まさに近代都市。視界に映るだけでもコンビニが四件ある。うち二つは同じ系列のコンビニだ。どうなってんの。
しかし、そんな都会も今は物寂しい雰囲気が漂いまくっている。
原因は、どこかしこも人の気配がないことだろう。ここまで来るまでに、数えられる程度しか人を見かけていない。
ガラス張りのビルの中を覗いてみても、ほんの一握り程度。大体の飲食店は休業の貼り紙が出入り口に貼ってあったり、シャッターが下りたりしている。
そういった街の異様な雰囲気に疑問を持ちながら、とにかく進む。
目的地である教会は街の中心にある一際でっかい建物だそうだ。
「女神様に会いに行くっていうのに、お土産とかなくていいのか」
「いいんじゃない? これだけの街の女神様だったら、きっと手に入れられるだけの物は手に入れてるっしょ」
拠点には大したものないから、逆に怒らせてしまうかも。そしたら今度こそ首と胴体がさよならしたりして。
ネプギアたちが想像よりも親しみやすいせいで時々頭から抜けるけど、女神様って一国の主なんだよな。
「すっごい怖かったりして」
「ありえーる! でもぎあちーたちがなんとかしてくれるからだいじょーぶ!」
ネプギアたちは、これから女神様に会いに行くという感じじゃなく、友人の家に遊びに行くような軽さだ。
実際、女神様同士での交流は多々あるそうだし、仲は良いんだろう。無下に突っぱねられるなんてことはまずないはずだ。
最悪、俺とマホは外で待機していればいい。
「改めて見ると、凄いパーティだな。世界を救うために旅をする女神候補生四人なんて、まるで魔王討伐の勇者パーティだ」
「マジそれ! みんなちょーつよでちょーかわだし、こんなの信仰不可避っしょ!」
「ふふーん。もーっとラムちゃんとロムちゃんにメロメロになっていいのよ!」
「っかー! らむちー最高! やっぱ女神様しか勝たん! ロックスは誰が好み?」
「この男1の状況でそういう話題振ってくるの、セクハラだぞ」
「いーからいーから、あーしに言ってみなって。あ、ははーん、さては誰も好みじゃないってか。そりゃそうだよねー、だってロックスってばあんりーのことを」
「着いたぜ!!」
ここらへんで一番大きく、高く、そびえたつ建物。
これがリーンボックスの教会。スケールが桁違いだ。見上げるだけで首が痛くなる。この最上階にグリーンハート様がいるんだと。
この国はでかければでかいほど良いというような考えで、ゲームも女神も小さいほうが好みのルウィーとは真反対。だからって限度があると僕は思います。
「誰もいませんね。いつもなら教会員の人がいるのに……」
正面の扉を叩いてみたり、押したり引いたりしてみてもうんともすんとも言わない。鍵がかかっていて、中に誰もいないようだ。
「おかしいわね。世界的な緊急事態なんだから、教会が主導で事に当たってるかと思ったんだけど」
「ちょうど出払ってるタイミングとか?」
「それにしては貼り紙も何もないわね」
参ったな。女神様に会うまでは大した障害がないものだと楽観していた。中に入れないとなると、どうしたらいいのか……
「「どうしよう……」」
ロムとハモるくらい困ってしまった。
教会の人を探すか、無理やり中に押し入るか。押し入ったところで女神様がいるのかどうか。
「久しぶりね、ネプギア」
うーんと唸っていると、不意に後ろから声がかかる。振り向くと、そこには一人の少女がいた。
茶髪のロングヘアに緑色の若葉リボンを着けた、長い紺のコートを着た彼女は、友人に会った時みたいに手をひらひらと振っている。
「わ、アイエフさん!」
ネプギアの顔がぱあっと明るくなる。
アイエフと呼ばれた少女はにっこりと笑って、続いてこちらを見た。
「その人がロックスとマホ? あなたたちのこと、イストワール様から聞いてるわ」
「…………あー、うん、よろしく」
「なんでそんな離れるのよ」
「人の手を捻り上げてる女の子に近づこうって男のほうが少ないと思うよ、俺は」
さっきからずっと痛い痛いって主張してる男が見えてるのは俺だけか? 亡霊でも捻り上げてらっしゃる?
ちょっと待ってて、と彼女はその男に手錠をかけ、伏せさせた。何かしら犯罪を犯した人みたいだ。アイエフはそれを捕まえた、と。
「リーンボックスへようこそ。私はアイエフよ」
「よろしくね、えふちー!」
「え、えふちー?」
マホの距離の詰め方エグチ。クールだったアイエフもちょっとびっくりしてんじゃん。かわヨ。
「……まあいいわ。ベール様に用があるんでしょ。ついてきて」
取り直して、彼女はどこかに連絡した。それからすぐに駆けつけてきた者に、伏せさせていた男を渡す。
あっけなく連れていかれた男を尻目に、彼女は先頭を歩きだす。女神様の下に案内してくれるようだ。
ネプギアの仲間のようだし、まるっと信じて大丈夫なはず。
「アイエフは、リーンボックスの警察かなんか?」
「いえ。プラネテューヌの諜報員よ。今はイストワール様の命令で各国を調査してるの」
聞けば、どこからともなく現れて配布され続けているマジフォンについて調べているんだと。
あれ自体には特に悪い機能はないみたいだけど、人々を無気力にして、結果として女神様のシェアが奪われている。女神様側からすれば、放っておいて良い存在ではないんだろう。
自己紹介も終えたところで、俺は気になっていることをアイエフに確認することにした。
「ところで、都心ってもうちょっと人がいるもんだと思ってたけど……」
「バズール現象の影響で、国が外出規制をかけたのよ。ラステイションでもルウィーでもほとんど同じ規制をしているわ」
「あーね、だから全然人がいないのかー」
となれば当然外食産業なんかは大打撃。恐らく国から補填金は出るだろうが、まあそれでどれだけ持つかって話だな。
話としては聞いていた。だけどこんな殺風景になるまで縛られているとは思わなかった。
ってなると、俺たちがやってる旅って、結構規模がでかい話だったりする? 今さら実感が湧いてきた……
リーンボックスは特に、国として早々に外出制限をしたから、モンスターに襲われるような事件もほとんど起こらなかったらしい。現れたモンスターに対しても今のところ対処できているから、被害という意味では四か国の中では軽いほうなんだとか。
言われた通りに家に籠るなんて、なかなか良い民度してるな。うちの拠点といい勝負だ。マホを除く。
「マジフォンが全国で人気なのって、こういう状況も関係してるのかな」
「どゆこと?」
「家に籠りっきりだと、人とコミュニケーションを取ることが出来ないだろ。そういう時だから、ネットで繋がりを求める人が多いのかなって」
「……私たちの知ってるのとは、全く違う時代に聞こえるわね」
バズール現象が起き、マジフォンが流行する前でもSNSやゲームアプリ、などは波及していたが、これほど人を依存させるとは思いもよらなかった。
たった二年でこれだ。人が落ちるのは一瞬だな。
「国に強制されてるから外に出ようにも……って状況だしな。自粛警察もいることだし、家で大人しくしてるのが一番波が立たない。で、やることと言えばドラマ・映画・アニメ・ゲームを見たりやったり」
「おかげでサブスクが捗りまくりんぐ!」
ってところは、国も拠点も変わらない。
バズール現象はそういったエンタメ事業にも影響を出していて、例えば外に出られないから映画やドラマの撮影が出来なかったり、会社に行けない分だけアニメ制作が遅れたり。
おかげで、楽しみにしていた大作が延期に次ぐ延期。スケジュールはもうめちゃくちゃ。
俺が続きを待ち望んでいる漫画の作者は、下書きやページ数をSNSに載せるだけでいいねを貰ってるくらいだ。いや、これバズール現象関係ないわ。働いてくれ。
「この二年の間に流行ったゲームって、どんなのがあるんですか?」
「ルウィーが作った島開拓のゲームとかフィットネスゲームとか。外を感じられるのとか、運動不足解消とかが人気かも」
後はオンラインゲームとか。配信者がやっているのがきっかけで普及したのもある。
「あの拠点にずっといた割には、結構最近のゲーム事情にも詳しいのね」
「ルウィーのゲームは、ブラン様が拠点に寄付してくれたからな。おかげで子どもたちを屋内で遊ばせるには困らなかったよ。マジフォンのおかげで情報も簡単に手に入れられるしな」
「さっすがおねえちゃん!」
「そう、君らのお姉さんはすごい!」
ルウィーの新型ハードは、昔からある対戦やパズルゲームの最新版なんかもあるおかげで、大人も含めて拠点にいる人たちの癒しとなった。
バズール現象によって生産が遅れたり、巣篭もりによって需要が増えたせいで品薄になっているそれを、ブラン様は快く提供してくれた。おかげでこの二年、心身ともに衰弱しきることはなかった。ブラン様万歳。ありがたやありがたや。
「犯罪組織がマジェコンを配ってた頃が懐かしいわね」
アイエフがしみじみと言う。
「犯罪組織?」
「そう。昔、犯罪神マジェコンヌが現れた時に、女神を弱体化させようと、当時の犯罪組織がマジェコンを人々に与えてたの」
「それ知ってる。教科書に載ってるレベルの話だろ」
「ぴーしー大陸は大丈夫だったの?」
「もちろん影響はあったよ。世界の危機だったんだからな。でもここと比べると、あくまで海の向こうの事件って感じだったかな」
こっちの大陸では犯罪組織が台頭して、一時期の治安は最低レベルにまでなっていたと聞く。
それと比較すれば、こっちは全然平和だった。マジェコンだって噂程度にしか聞かなくて、実物を目にしたことはない。
「その犯罪組織の活動が、マジェコンヌの復活と前後して活発になってきてるの」
ここで言う犯罪組織とは、犯罪神マジェコンヌを崇拝する輩で構成された軍団のことを意味する。
ぴーしー大陸の崩壊の崩壊を引き起こしたと目される犯罪神。それを復活させたのが、犯罪組織の残党だとアイエフは睨んでいるようだ。
ネプギアたちは一度、犯罪神を倒している。その時に世界中であくどい活動をしていた犯罪組織も解体されたはずだったが、それなりの人数が逃れたようである。
密かに地下活動を続けていたのがこうやって表に浸食してきていて、バズール現象のことも重なって治安維持が難しくなってきているとアイエフはため息をついた。
「ところで、今どこに向かってるんですか?」
「裏口よ」
裏口? 俺たちは揃って首を傾げた。
「ベール様が部屋に籠る時に、他の人を介さずに宅配業者を入れるために作られた秘密の抜け道があるの」
「部屋に籠る? 執務で忙しい時とか?」
「いえ、籠る時は大体新作ゲームをやりこむためよ」
「は?」
「ここよ」
表の厳かな扉とは違って、人が三人は通れるレベルの両開きの扉。秘密の裏口だが、荷物を運ぶ台車が入れるようなサイズというわけだ。
扉の傍にはタッチパネル式のスマホみたいな機械が備え付けられていた。デジタルドアロックだ。暗証番号が分からないと中には入れない。
「四桁の数字を入れるみたい」
アイエフの言う通り、画面上部には数字が四つまで表示されるっぽい。下に表示されている0から9の数字を選んで決定ボタンを押す、よくあるパターンのやーつ。
「えふちーは知らないの?」
「他国の諜報員が教えてもらえると思う?」
確かに。
ふむ、それならば……
「↓↘→Y」
「波動拳打たないで。矢印もYもないわよ」
「じゃあ、↑↑↓↓←→←→BA」
「だから矢印もアルファベットもないってば」
「←→AB」
「それエネミーコントローラー!」
だめかあ。
「こういうのは、まず第一にボタンを見るの。指の脂が付着していれば、それが……」
ガチャリ。
アイエフが人差し指を立てながら得意げに説明している横で、軽快な音が鳴った。
「お、開いた」
俺たちがコントみたいなやりとりをしている間、適当に番号を打ってると思われたマホが数度目のチャレンジで鍵を開けたのだ。
「こーゆーのは大体、0000、1111、1234、9999のうちのどれかだから、やってみたらビンゴ! あーし天才!」
「……」
見たことがある。説明書に書いてあるその番号でまずはログインしてから、パスワードを任意の数字に変更してねってやつね。
というかそれってつまり初期設定なんじゃ……
「仮にも女神様の部屋直通のセキュリティがこんなんでいいのかって顔してるわよ」
「仮にも女神様の部屋直通のセキュリティがこんなんでいいのかって顔なんだよ、元々」
思ってないよ、女神様がバカだなんて。そんなこと思うはずないじゃないですか、ねえ?
「あはは……まあ、ベールさんですから」
フォローになってないよ、ネプギア。
「あれ、ロックス、えふちー、入らないの?」
「……もうよし! 終わり良ければすべて良し!」
「まだ扉開いただけよ」