とんでもガバガバセキュリティの裏口を通って、中のエレベータに乗る。
このエレベータは最上階、つまり女神様がいる階まで直通となっている。気分としてはもうクエストクリア。リーンボックス編、完。
それにしても、六人いてなおスペースに余裕あるなんて。
「これだけでかいエレベータが必要なのか?」
「必要みたいよ。ベール様は部屋に籠る時、なんでもかんでもここから搬入させるみたいだから。私が知ってる話だと等身大のフィギュアを……」
がたん、とエレベータが揺れた。どうやら最上階に達したらしい。自動的にドアが開き、その先には廊下があった。
途中にいくつかある扉を無視して、ネプギアたちは一番奥の扉へ向かう。
ちなみに俺は、ふかふかの絨毯を恐る恐る踏みつつついていっている。靴のままでいいの? 土足厳禁じゃない?
アイエフは扉をコンコンとノック。しかし誰も出てこない。
「いないのかな?」
「いえ、誰かと喋ってる……?」
耳を澄ませているアイエフが、違和感を感じ取る。俺たちの他に誰かがいるのだろうか。
「失礼しまーす……」
こっそりと、ネプギアがドアを開ける。中は少し物が散らかっているけれど、それもあまり気にならないほど大きな部屋だった。一人の部屋としては豪勢すぎる。
余生を過ごす人が買うような大きなテレビに、三人か四人は寝れそうなほどのベッド。縮尺間違えてません?
そんな部屋の中央、大きな机の前で誰かが正座していた。
「あの方がベール様よ」
「俺には、スマホに釘付けの女性しか見えないんだが」
「そう。その人」
「あれが……」
長い金髪に、緑を基調としたドレスを纏っているその人は、俺がこれまでに出会った中で一番と言えるくらい顔が整っていて、しかもめちゃめちゃスタイルが良い。優しそうで柔和な雰囲気は、色んなものが角ばっている街とはかけ離れた印象だ。
このお方が、リーンボックスの女神様であるグリーンハートことベール様。
もし外で見かければ、即信仰不可避なくらいの外見ではあるのだが……
「乙女ゲーやBLゲーのポスターを部屋中に貼って、その中央でスマホに向かって鎮座してVTuberに夢中で、赤スペチャまで投げてるあの人が、女神様?」
「そうよ」
アイエフに即答されて、俺はまたまたまたしてもため息をついた。
ベール様についての描写は、まあ言った通りだ。部屋に入ってきた俺たちに気付くこともないってのが、より間抜け感が出て、なんというか……
「なんてゆーか、アレだね、個性的!」
「道徳5」
ネプギアたちが全く動じてないところを見ると、これ本当に普段の感じなのね。
まあ……プライベートな空間で何をしても自由だから、ね、決して引いてるとかそんなことはなくて。
「ハピハピ、ハピネス~! うふふっ、やはりこもりるしか勝ちませんわ」
真後ろまで来て喋ってるのに全然気づかんぞ、この人。大丈夫そ?
「ぶいちゅーばーってなに?」
「あれ、二年前にはいなかったっけ?」
「いたかもしれないけど、台頭してきたのはごく最近だからな」
「というわけだ!」
「説明してないのに説明された気がする……」
「まあつまりアバターを使って活動する人たちのこと」
「結局説明するの!?」
個人がやっているものや企業公式のVTuberまでいて、その数は年々増加している。一部の有名なやつらがいて、その下に無数の無名がいるってのはどの界隈も同じだな。
「で、ベール様が見てるのはそのVtuberの家守こもりよ。リーンボックスでは圧倒的な人気を誇っているわ。自粛の呼びかけとかも、この子が言ってるからみんな守ってるって面もあるの」
そんな話はともかく、今は協力打診だ。こっちは世界の危機なんだから。
代表して、ネプギアが話しかける。
「あの、ベールさん」
「わー、ベールおねえちゃん! いつもスペチャありがとう!」
「こもりるが! わたくしの名前を!」
ちょうどそのタイミングで、スペチャ読みをこもりがした。
ベール様、鼻血、鼻血が。
「結構うるさくしてるのに、気づかないなんて……」
「重症……いや、愛やね」
BIG LOVE
△
耳も貸してくれず動きそうもないベール様を一旦諦めて出直すことにした俺たちは、再びエレベータを通って街へ繰り出していた。
「女神様、怖くなかったね」
「怖くはなかったな」
ネットとかで見たことある、公式写真とかはきりっとしたものや変身した状態のものが多く、グリーンハート様は目つきが鋭いからどうなるかと思った。何ともなかったけど、女神様どうにもならなかった。
「女神様があの状態で、この国は大丈夫なのか?」
「教会員たちの頑張りもあって、国の機能は落ちてないわ。ベール様も遊んでるばかりじゃないし……たぶん」
たった三文字で信用無くすあたり、流石。
「で、どうしようか」
「どうしようね」
女神様に話をしに来たのに、話を聞いてくれないとなったらお手上げだ。
「家守こもりの配信が終わるまで待つか。早くて一、二時間後には終わってるだろ」
「そうですね。ベールさんには改めて話をしに行きましょう」
あのVTuberが『○○するまで終われません』みたいなことをやってない限り、長く続くということはないはずだ。
その間は……
「おなかすいたー」
「ぺこぺこ……」
「ここに来るまでも長時間の飛行機旅で、そっから直に教会だもんね。あーしもお腹と背中が……」
「古いぞ、マホ」
「くっつくぞ!」
「言うなよ!」
せっかく忠告したんだからさ!
「なにそれ?」
「うた?」
「えー、らむちーもろむちーも知らないの? これがジェネギャってやつ?」
「お前の世代でもないだろ」
「はいはい、じゃあどこかに食べに行きましょうか。開いてる飲食店に案内するわ」
△
アイエフに連れられてきたのは、ファミレスだった。
ここ知ってる。リーンボックスじゃそこかしこにある有名チェーン店だろ。安くて美味いし、アニメとコラボしたりもして、家族連れだけじゃなくオタクも結構足繁く通ったりする店だ。
だけど、お昼時だというのに俺たち以外には客はいない。
「景気悪そうだな」
「そりゃそうよ。国からの営業時間短縮要請や席数制限もあったりして、大打撃だもの。そうでなくても、外出制限のせいでどこもかしこもこんな感じよ」
不要不急の外出はしないでくださいってやつね。
「国民にとっては、外に出られないっていうのがきついみたいね。大人しく家守こもりを見てる人みたいなのばっかならいいんだけど、SNSで攻撃的な投稿やリプライをする人も増えてきてるわ」
「そんだけ暇ってことだな」
「身も蓋もないわね……否定はしないけど」
パスタだったりドリアだったり、それぞれが頼んだ食事が運ばれてくる。
拠点でもそれなりに手の込んだ飯を食えてたけど、外食なんて久しぶりすぎて覚えてない。
「ところで、ロックスとマホってなんでネプギアの旅についてきてるの?」
「……それはつまり、『足手まといなのになんでついてきてんだ、この雑魚』って意味でよろし?」
「え゛、えふちー言い過ぎ……」
「言ってないわよ、そんなこと!」
ちょっとからかったら良~い反応返してきますねえ。業物ですよこの人。名刀アイエフ。
「危険な旅っていうのは分かってるんでしょ? ちょっとでも戦力や技術を賄うためって聞いてるけど、ネプギアたちだって簡単にやられるほどヤワじゃないわよ」
そらそうだけど。俺いらんけども。
だからといって、自分より幼く見える女の子たちのことを、戦場へ行ってらっしゃいって送るのはあまりにも無責任だと思う。
マホだって非戦闘員だ。となれば、保護者として、多少なりとも戦える人間として誰かが手を挙げる必要がある……っていうのは、リーンボックスに来るまでの間、自分が逃げないように考えた、自分に言い聞かせるための理由だ。
実際は、ほら、『ヒーローになって』というアンリとの約束があるわけだから、怖いけど仕方なくって感じ。アーマー着込んで戦うとかロマンあるしね。つまりまとめると……
「成り行き任せって感じ」
「成り行き、ね」
あまり納得していないような目で見てくる。
正直に言いすぎても気まずくなるだろうし、何より重めの話を食事時にする趣味はない。
「おっ、ヒット!」
マジフォンをぽちぽちやっていたマホが、声を上げた。
「さっきから何してん」
「やー、ぎあちーが話しかけようとしたところで家守こもりがちょーど邪魔してきたのが気になって、ベールさんの部屋見張られてるんじゃないかなーって思ったらビンゴ! あの部屋を盗撮してる信号発見! あーし天才か?」
「「盗撮!?」」
女神様の部屋を!?
「なんてこった。まさかそんなことが……」
「これは、問い詰めなきゃいけないみたいね」
「ああ、行くぞ! あ、嘘、食うの待って」