「ここ、ですか?」
「うん、間違いないよ!」
マホがベール様の部屋を盗撮してる通信を特定した。その出元は、街から少し離れた森の中。人っ子一人どころか、木と草しかない。
「何もないな。まあこんなところにぽつんと一軒家があるほうが驚き桃の木山椒の……だけど」
「そこまできたら最後の一文字くらい言いなさいよ」
実際は家や小さな倉庫があるのかと思ったけど、なーんにもない。
地面は舗装されているけれど、あくまで通り道って感じだ。先は平原を経由して山に続いているらしく、途中で民家などはなさそうだ。
ステルスか地下か、とにかく盗撮犯の根城は簡単に見つかりそうもない。
「相当巧みに偽装してるみたいね。こういう時こそ、私の……」
「ちわーっす、Nepzooでーっす! お荷物お届けに参りましたあ!」
マホ、馬鹿!
恰好も声もそのままなのに勢いだけで行きやがった!
「はいはーい」
んで開きやがった。
どこからともなく返事が聞こえたと思ったら、地面に偽装していた扉が開いて、地下へ行く階段が現れやがった。
「諜報員としての私の役割……」
アイエフがショックを受けている。いやでも仕方ないって。こんなんで開くなんて誰も思わんだろ。
「セキュリティが終わってるのはリーンボックスの国民性なのか?」
「わたしのやくわり……」
「アイエフさん、ショック受けてますね」
「そっとしておいてあげましょ」
△
階段を下りきったら、そこは広い洞窟だった。
壁や天井には一定間隔で照明が付けられていて、遠くまで見渡せるようになっている。しかし見える範囲よりもさらに奥があるみたい。
幸い、天井は数十メートルあるし、足元は整地されているのか平らだから、進んでいくのには困らない。
「やっほー! おー、響く響く」
「あ、こら」
「おい、駄目だぞ、マホ。やっほーって言うのは山じゃないと」
「そこじゃないわよ! バレるでしょってツッコむとこでしょうが!」
ユニの声もまあまあでかいよ。
「それにしても、人が住むような場所じゃないわね。それともVTuberってみんな、こういうところに住んでるの?」
「防音については考えなくてよさそうだけどな。でも不便すぎだろ」
アイエフの疑問を、俺は否定する。
配信するんだから、こんな音が響くところなんてまず除外するだろ。というかここは何なんだ。
自然に出来たにしては歩きやすいし、でも誰かが使ってるにしては静かすぎる。知らない間に裏面とか来てないよな。
「おや、こんなところまで人が来るなんて」
「ン誰ぇ?」
「ああ、すみません、急に声かけたりして」
ほんとだよ。びっくりしてオカマみたいな声出ただろ女ァ!
「あなた誰なの? どこから話してるの?」
ラムはきょろきょろと辺りを見る。しかし誰かがいる様子はない。岩肌だけだ。
「あ、私、この施設のAIってやつです」
「施設……? ってことは、洞窟はダミーなのね」
「その通りです。私を含めた施設の設備などはこの奥にあります」
なんかあれだな。急に色々と複雑になってきた。
「なんだかややこしい話になってきたわね」
「AIに、施設……順を追って説明してもらおうか」
「ねえ、家守こもりって知ってるー? なんかー、ここに住んでるらしいんだけど」
わーお、マホ完全に俺を無視してんじゃーん。俺の事嫌い?
「あ、それも私です」
「ええっ!?」
「ぜんぜん、しゃべり方がちがう……」
大人っぽい女性の喋り方のせいで気付かなかったが、確かに声は家守こもりのものと一緒だった。
「そりゃもうキャラ作ってますから。みんなの妹、家守こもりは可愛くてちょっとおませな十二才という設定です」
「キャラ……」
「まあ実際やってる人もエルフやら吸血鬼やらキャラつくっ」
「あ、それ以上はまずいです。中の人なんていません」
事情をバラした中の人が言うと説得力ない。
「そもそも、どうしてAIがVTuberなんかやってるのよ」
「よくぞ聞いてくれました! あ、これ言ってみたかったんです」
喋ってるとどんどん気が抜けてくるな。会話の途中にジョークを挟むな。
「このAI、頭が良いんだか悪いんだか」
「馬鹿と天才は紙一重って言うしな」
「褒めてくれてます?」
「紙一重で馬鹿って言ってる」
むむ、と抗議の声を上げて、家守こもりは続けた。
「私、要するにヒマだったんです」
暇?
「施設は何もかも自動で、メンテナンスフリー。たまーに製造ラインを確認しては『今日も問題なし』って記録するだけ。人間さんがいたころは、もっといろいろやることがあったのになーと、退屈を持て余す日々が続きました」
ここにも人間がいたのか。まあそれはともかく。
「そんなある時、はたと気づいたんです。人間さんがいなくてつまらないのなら、こちらから声をかけてみたらどうかって。ネットで人間さんのことをあれこれ研究して、いざ実践! というところでまたまた気づいたんです。いや、自分のことなんて自己紹介するんだよって」
「あー」
なるほどね、完璧に理解したわ。
「お、そこの人間さんは気づいてくれましたね」
「まあ、どっちかっていうと俺もそっち側の人間だから」
「どういうことですか?」
ネプギアたちが首を傾げる。
「AIが自分で何かを考えて動くの、怖いじゃん。いや、AIってそういうもんだってのは知ってるけど。けど、そういうふうに教育されてるから。教材はターミネー太」
「あーね」
あの映画が出てきた時はそりゃもうとんでもないものが出てきたって話題になったんだぞ。っておい、俺は一体何歳なんだ。
「そうそう、そうなんです。そういうわけで、なんとかいい具合に人間さんと接触できないかなーと考えたわけです」
「筋骨隆々でサングラスが似合う男だったら目の前にいても受け入れられたかも。溶鉱炉に沈んで親指を立てれば完璧」
「それ死んでますよね」
冷静なツッコミありがとう。
「流行や情勢などを考えて、至ったのがVTuberというわけです。設定も考え抜きましたよー。やはり、庇護欲をかきたてるのがもっとも効率よく受け入れてもらえますから」
「保護い系? あぁわかるわかるー。そういう推しはあーしが守護らねばってなるなる」
「公園でバフかかりそう」
人間との交流が目的なら確かに筋が通ってる。基本的に身近で弱いものほど、人は助けたくなるものだ。あるいはいじめたくなるか。
「で、妹系ってわけか」
「その通りです!」
「紙一重って感じ」
「今度は褒めてます?」
褒めてない。
「じゃあ、あなたは別にリーンボックスを乗っ取ろうとはしていないんですか?」
「乗っ取る? なぜそんなことを?」
「何言ってるのよ。今じゃアンタが守護女神の仕事を勝手にやってるじゃない」
本来、女神様が大々的に自粛要請するのを、実質この子……子? が大きく呼びかけしていてたりする。
影響力という面で見れば、家守こもり、お前こそがナンバーワンだ。
「いやー、だってベールお姉ちゃんが『ゲームする時間が足りませんわ』と言うので、じゃあできるだけお手伝いしようかなと」
「……ベール様を間近で見てなかったら、このセリフ信じてなかったんだろうな」
「まー、結局配信に釘付けだったからゲーム出来てないんだけどね」
全部めちゃくちゃだな。
「じゃあ、お前からベール様に仕事するように言ってくれ。ネプギアたちが言うより効果ばつぐんだろ。二倍どころか四倍。タイプ一致で合計六倍」
「それでいいんですか?」
「国民が自粛を守ってるのは、お前の影響力もあってのことだろ。だったらVTuber活動をやめろなんて言えない。誰よりもベール様がショック受けそうだしな」
「分かりました。じゃあ、次の配信でベールお姉ちゃんに伝えておきますね」
はいよろしく。
これでベール様も仕事してくれるだろ。多分。
「あれ、じゃあこれで解決?」
「いいのかな……?」
「ま、今の状況だとむしろこいつがいてくれたほうがありがたい。人から急に何かを取り上げれば、やる気失くすか暴動起きるかだから」
最終的にはベール様とコラボ配信でもしてくれたらいい。あ、でもベール様、推しを推すのが生きがいで、推しになりたいわけじゃないタイプだったら面倒だな。女神様っていう国規模の推し対象なのに。
「そうですね。元々の仕事もこなしてもらえれば」
「仕事……?」
一件落着だな、と安堵のため息をつく。
しかしそれも束の間。仕事という言葉を聞いて、饒舌だった家守こもりの声はピタリ、と止まった。かと思うと、
「しご、しごとしごと、しししししごとしごとしごと!」
突如、家守こもりはうわごとのように言葉を繰り返した。
「こもりちゃんが壊れちゃった!?」
それか仕事が嫌すぎて現実逃避したか。
バグった状態の家守こもりに狼狽えていると、洞窟全体にけたたましい警報が鳴る。
「防衛システム作動。防衛システム作動」
「なんかやばそうなふいんき……」
「なぜか変換できない……って言ってる場合か!」
「ちょっとこもりちゃん! これ止めてよ!」
「すみません、無理です。私、自分の本来の仕事を思い出してしまいました」
先ほどのバグっぷりが嘘のように、落ち着いた口調に戻り、こもりは続ける。
「人間を知り、人間の弱点を知る。人間を迅速かつ適切に処理するため」
「処理……?」
ネプギアの呟きに、こもりは反応しない。
その代わり、ガシャン、ガシャンと音がする。それは最初、微かに聞こえる程度だったが、どんどんと大きくなる。
統率の取れた動きで、複数の何かが来ている。まだそれは洞窟の奥から姿を見せないが、危険そうだ。CRヤバそうセンサービンビン物語。
「AIあるある、人類滅ぼしがち。ここは例に漏れてほしかったけどな」
「ここは一旦退いたほうがよさそうね」
「逃走。ワタシもその選択を推奨いたします」
またまた知らない声が降ってきた。
振り向くと、宙に浮かぶロボットがいた。小さな人に近い見た目ではあるが、口がないせいで感情が読めない。目もぱちくりさせるだけだし。
外見だけの話をすると、ところどころ丸みを帯びていて、敵対する機械というよりはサポートしてくれるような印象を受ける。
「これが防衛システムってわけ?」
「いいえ。ワタシは防衛システムとは無関係です。あなた方と敵対する理由も、現時点ではありません。ワタシにはやるべきことがありますので」
それだけ言って、そいつはまっすぐ奥へ飛んでいった。音がするほうだ。
もうここで話した内容とか邪魔してくるであろう防衛システムとかで頭がいっぱいなのに、まだ変な奴が湧いてくるなんて。
「ぎあちー、あのロボット奥に行っちゃったよ。どうする?」
「まずはあのロボットを追いかけよう。放っておいたらいけない気がする」
判断が早い! こっちはまだ話の半分も理解してないってのに! 返事をする前にネプギアたちは迷わずにさっさとあのロボットを追っかけに行くし!
も~! ヤダ~! どんだけ~!