「防衛システムを作動します」
警報が鳴り続ける洞窟は思ったよりも奥があり、しかもずっと広大な空間が広がっている。
その中を走り、先ほどのロボットを追いかける。
「ってかマホ! なんでついてきてんだ!」
「なんか居ても立っても居られなくて!」
明らかに戦闘の雰囲気が匂ってるってのに!
「だ、大丈夫ですよ、ロックスさん。私たちがいますから」
「その余裕がいつまでもつかな?」
「敵側の台詞ですよ、それ」
人型ロボットの進行方向、奥に何かが見える。
さっきからずーっと聞こえていた、規則正しい音の正体が分かった。機械だ。
空飛ぶ球体みたいなのもいれば、首無し巨人みたいなのもいる。数種類いるのは、『処理』のために考え抜かれていった結果だろうか。
「ロボットの反乱……やっぱり映画で見た通りになったな」
「倒すわよ!」
アイエフが先に出る。両手にカタールを持って敵陣に迫ると、華麗な体捌きで機械軍団の相手をし始めた。
「変身!」
ワンテンポ遅れて俺が、続いて女神化したネプギアたちが続く。
丸いのから放たれる小さなビームを避け、斬る。耐久力は全くなく、ほとんど力を入れずに真っ二つにすることが出来た。
そんなのが、縦横無尽に浮いている。バズール現象の時と同じだ。一振りに対して一匹では間に合わない。
飛び回りながら剣を振り回すネプギア、ビームで掃射できるユニ、魔法で一網打尽に出来るロムとラムが羨ましい。
「バズール現象なみに多いな……!」
「でも、アイエフさんもいるおかげで、前より楽に収められそうです」
その通り、アイエフが風のような俊敏さで次々と機械を壊していき、俺も戦いに慣れてきたため、前の時ほどヤバそうだとは感じなかった。
「でも、これ以上足止めさせられたら困っちゃう」
「あれ見て!」
ラムが前方を指差す。
奥から来たロボットと人型が戦っていた。そのおかげで、あいつも思うように前に進めていない。
「味方同士じゃないのか?」
「とにかくチャンスよ。止められるなら止めないと!」
「俺が行く!」
この防衛システムは、敵対してる者のレベルをちゃんと計っているみたいだ。俺より女神候補生たちのほうに機械が群がっている。
余裕のあるほうである俺が、あいつを止めないと。
「道を開きます! M.P.B.L!」
「エクスマルチブラスター!」
ネプギアとユニによる二本のごんぶとビームが、俺の前の敵をスクラップにしていく。それ、最初からやってくれたらよかったのに。
俺がそいつのもとに辿り着いたのと、そいつが周りの機械をあらかた片付けたのはほぼ同時だった。
「おい! お前!」
待てと言われて待つ馬鹿はいないと思ったが、予想外にもそのロボットは先へ行こうとした動きを止め、こちらへ振り向いた。
「シーリィです」
「は?」
「ワタシの個体名です」
急にまともな受け答えをしてくれたことに、こっちが驚く。
初めましてからやり直す? 握手する? どこ住み? てかラインやってる? 話聞こか?
「ああそう。じゃあ、ヘイ、シーリィ、目的は何だ?」
「この施設の情報をバックアップし、その後、施設の機能をすべて破壊します」
「破壊?」
「この施設は現在、とある生産物に利用されておりますが、将来は別の生産工場となります」
「将来?」
「未来では、機械兵を自動的に生産する工場になります。そうなる前に、あのAIを破壊します」
???
「おい、さっきから何の説明にもなってないぞ。俺、お前の言った単語を繰り返すオウムになってる。未来ってどういうことだ」
「そしてワタシの目的はもう一つ」
無視。いい性格してる。
「あなたです、ロックス」
いきなり、シーリィは俺に手を向けた。そこから細い糸が飛び出し、俺の足に絡む。
やつはそれをぐいっと引っ張って俺を転ばし、そのまま辺りを飛行し始めた。
「うお、おお、おおお!?」
引き摺られて、地面を転がる。変身してなければそこらへんの尖った石や岩で背中がずたずたになってるところだ。
俺は手に持った刀でワイヤーを切る。勢いでごろごろと転がってしまったが、これで自由だ。
シーリィはこちらを見下ろす。
「あなたが女神から離れ、一人になったのは好都合です。第一目標であるあなたを無力化します」
「第一目標? あ~またオウムになっちまった」
「武装解除し、腕輪をこちらに渡してください」
俺が目的だって言うくらいだから何となく分かっていたが……狙いはSVシステムか。とにかく、敵ってことは間違いなさそうだな。
「はいどうぞって俺が素直に渡すと思ってるなら、もうちょっと学習が必要だぞ」
駆け抜け、跳躍。一気にシーリィへ肉薄し、刀で一閃。しかし、あと一歩のところでさらに上へ逃げられる。
空中で無防備になった俺に、今度は手のひらから光弾を放ってきた。
「ぐっ」
思いっきり振り抜いたせいで防御の体勢がとれない。腹部にもろに当たり、衝撃で地面に落とされる。
仰向けになったところを、さらに追撃の光弾が来る。複数発やってくるそれを、すぐさま立ち上がって避けた。
「腕輪を外してください。シーリィはあなたのために言っています」
「いきなり襲ってくる機械が、俺のために、だってよ。泣けるね」
もう一度地面を蹴って跳び、刀を振る。しかし、シーリィはさらに上に飛んだ。くそ、届かない。
そもそも、跳ぶために走って勢いをつけている時点で、動きを相手に教えているようなものだ。
このフォームは小型から人くらいの大きさの地上にいるモンスターには有利だが、こういう空飛ぶ相手には抵抗の手段がない。
女神候補生がいるから問題ないと思っていたが、一対一の勝負イベントがあるなら対処法を考えておくべきだった。
「飛ぶのは卑怯だって習わなかったか?」
「自身の能力による優位性を活かして戦闘を制することは、卑怯ではないとシーリィは考えます」
ネタにマジレス。ロボットに俺の冗談は高度すぎたかな。
さて、どうするかな。いい案ない、SVシステム?
〈飛行ユニットの必要性を確認。モジュールを検索中...〉
いいね。段々愛着湧いてきた。
「従わないのであれば、実力行使です」
「タイム!」
またしても手のひらを向けてくるシーリィに向かって、腕でTの字を作る。おっとロックス選手、ここでタイムを使いました。残り二回です。
「この腕輪を手に入れて、何をする気だ」
「破壊します」
「破壊ばっかだな。これを使うわけじゃないのか?」
「いいえ。シーリィはそれを破壊し、あなたを助けます」
「言ってることが全然分からないんだけど」
例えば今この状態でこの腕輪を壊されたら、お前か後ろのロボットに抵抗する術を無くして即ご臨終なわけだが。そこのところどうな~ん?
「助けるってあれか? 死こそ救済とかいうやつ?」
「いいえ、違います。シーリィは人を生かすために活動を行っています」
「ご大層な任務にあたってるわけだ。それで、ここと腕輪を破壊することが、人のためになると」
「その通りです。分かっていただけましたか?」
いや、全然謎だよ。情報量一切増えてねえんだもん。
「もうちょっとこう、腕輪が存在することで、何がどうなって悪いことが起こるとか教えてくれない?」
「……分かりました。SVシステムが進化することによって、あなたが犯罪神に──」
〈モジュール検索完了〉
「換装!」
長々とおしゃべりして時間稼ぎ成功だ。早速、その成果を見せてもらおう。
P・Bladeフォーム用のパーツは外され、代わりに緑色のパーツがベーススーツに貼り付けられる。
薄く、軽い。比べると明らかに物足りなく、気休め程度の防御能力しかない。P・Bladeはある程度全身を覆おうとしていたが、これはかなり下の黒色が覗いてる箇所が多い。それどころか、指先なんかはベーススーツすらも外されてる状態だ。
しかし……
「ようやく同じ目線だな」
背中と各関節部に付けられた小型スラスターが、俺の体を空中に持ち上げる。
《防御力を極限まで減らすことにより、機動力を上げました。G・Spearフォームです》
「名前はお前がつけんのね」
でもいいよ、それで。俺が名づけるよりはセンスある。
刀の代わりに槍を握らされる。だからSpearね。確かに、飛行してる状態だと地に足付けて振る必要のある刀より、突き刺す槍のほうがいいのかも。知らんけど。
背中に付いてるのが主な推進力で、小型のほうで方向転換しろってことか。
じゃあ早速とつげ──
「アッ」
一瞬後、気づいた時には壁に衝突するところだった。槍の先が壁に刺さってる。
いつの間にかシーリィを通り越して、その向こうの壁にまで飛んでしまったのだ。
「いやいやいやいや」
速すぎ。馬鹿か。コントかよ。語彙力なくなっちゃったわ。
「もうちょっと抑え気味にいけるか?」
《修正します》
槍を抜き、もう一度突撃。今度も速すぎるが、なんとか体をついていかせることが出来た。
瞬きする間もなくシーリィに近づき、すれ違いざまに槍を突き刺そうとする。
貫いた! と思ったが、微妙にずれた。いや、シーリィのほうがずれたんだ。俺の行動を先読みして、すんでのところで体を逸らした。
だが、傷をつけることには成功した。脇腹あたり、ボディを小さく裂くことが出来て、中から配線が露出している。
いいね。このスピードにシーリィは対応しきれていない。後は俺が慣れさえすれば、一撃粉砕玉砕大喝采も夢じゃないってことだ。
と、いい気に浸っていられるのも束の間。シーリィの丸い目が赤色に光りだした。
「G・Spearフォームを確認。脅威レベルを引き上げます」
「その、首をギギギって動かしながら言うの怖いんだけど。怒らせちゃった?」
「全武装の安全装置を解除。あなたを戦闘不能にして、腕輪を破壊します」
どこにしまい込んでいたんだか、肩や背中から伸びた銃口が現れる。
どれもこれも俺のほうを向いていて、戦闘不能で済ませる気ないような気が……
あー……
「ここから入れる保険ある?」
「発射」
有無を言わさず、シーリィの猛攻が始まった。エネルギー弾に小型ミサイル、弾の嵐が襲いかかってくる。
洞窟内を縦横無尽に駆け、攻撃を避ける。目まぐるしく視界の景色が変わり、脳では処理しきれない。それでもなんとか避けられているのは、SVシステムが補助してくれているからだ。
この衝撃で洞窟は揺れ、銃撃を受けた壁や天井から破片がぱらぱらと落ちていっている。
造りは頑丈なようだから崩れるようなことは滅多にない……と思うけど、それも素人目からしてそう見えるってだけ。埋められて、骨になって発見されるとか勘弁だぞ。
雑念が入ったせいか、目の前を通ろうとしていたミサイルに気が付かなかった。それは俺の眼前で爆発し、熱を伴った鋭い風を浴びせてくる。
「ぐっ」
爆風で体は吹き飛ばされ、勢いのついたまま落下する。地面に激突する寸前、スラスターで体を浮かす。
「あ、あぶな……っ!」
ほっと胸をなでおろす。アーマーでどれだけ軽減できるか分からないが、こんな薄いのじゃ骨折しても不思議じゃない。
もう飛ぶのやめようかな……P・Bladeがいかに扱いやすいか身に染みたよ。
体を立たせてすぐ、目を怪しく光らせるシーリィの拳が迫ってきていた。ギリギリ、顔面に届く前に、槍で防ぐ。
「ロックスさん、食い止めてください! こっちはもう少しで片付け終わります!」
「さっきからずっと食い止めてる!」
シーリィの拳を弾き、態勢を立て直しながら、声をかけてきたネプギアに返す。
こちとら飛行能力を手に入れたばっかり。戦闘の経験も少ない。あちらに軍配が上がってるみたいだ。
「こいつは参ったな……」
「降参してください、ロックス」
そこまでするなら有無を言わさず殺せばいいのに。いや、俺は殺されたくないけど。
人へ危害を与えるのはある程度までとかのロックがかかっているのか?
じゃあもしかしたら、本当に人間の味方なのか?
だとしたら、第一目標が俺……というか、この腕輪なのは何故だ?
そもそもこいつの目的は?
シーリィのおかしな振る舞いに、疑問が湧いてくる。換装する前にちゃんと聞いときゃよかったな。
いや、今でも間に合うか?
「俺が武装解除したら、質問に答えてくれるか?」
「……時間稼ぎですか?」
「半分そう。もう半分は歩み寄り」
恐る恐る槍を下ろして、ゆっくりと両手を上げる。すると、シーリィの赤色の目が白に変わった。
「お前は味方なのか?」
まず最初にこれを確認しなきゃ。
お互い第一印象は最悪だったけど、もしかしたら運命の人かもね❤ んなわけ。
「シーリィはそのつもりです。ですが、あなたたちはシーリィのすることを許さないでしょう。この工場のAIを破壊するつもりですし、あなたを倒してでもSVシステムを破壊するつもりですから」
「俺を殺してでもか?」
「いいえ、あなたを殺害することは出来ません。あなたはマスターの大切な──」
「こもりるは無事ですの!?」
ああ~、今大事そうなとこだったのに~! 誰だ、俺たちの会話に割って入ってきたのは!
「って、ベール様!?」
なんと女神様がこんなところにやってきていた。
その時の俺といったら、あまりに隙だらけで、誰であっても一撃食らわせることができるくらい唖然としていた。
けど、シーリィはその間まったく手を出してこない。それどころか……
「……SVシステムの破壊は困難。戦闘継続は避けたほうがいいと判断。撤退します」
そう言い残して、飛び去っていった。
急すぎる展開に思わず体が固まってしまって、追うことも出来ずにその場に佇んでしまう。
……これで終わり? 戦闘終了? イベント戦みたいだったけど、こんなにあっさり幕切れるもんなの?
「べ、ベールさん?」
「ネプギアちゃん、こもりるはどこにいるんですの?」
「ベール様はどうしてここに?」
機械兵を倒し切ったみんなが、ベール様へ寄る。
全員、疑問符ついてる台詞しか喋ってない。みんなこの状況に混乱しているようだ。
無理もない。俺だってこんがらがってるうえに、疲れてまともな思考が出来ていない。
次の話までの間に説明するので、えー、今日はここまで! また来週!