ユメノナカデ   作:歩輪気

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キャラの話し方と性格が上手く掴めず、違和感があるかもしれないです。こいつ誰だよってなったらすみません。

原作のネタバレあります。

かなり駄文です。すみません。


ユメノナカデ

 

 ──────────

 

「…………?」

 

 どこともしれない空間の中、少女は目を開いた。

 ぼんやりとした視界が徐々に晴れていき、辺りの光景がハッキリと映っていく。

 

「こ、ここは?」

 

 第一声とともに少女はキョロキョロと周りを見渡す。自分の故郷では見たことがない作りをした壁、上靴が滑りにくいビニル床、高めの位置に取り付けられたプレートが一定の間隔で連なっている。どこの国かは分からないが、恐らく何処かの建物の廊下なのだろう。

 

「……?」

 

 ふと、少女は廊下窓に映る自分の姿に目を止める。

 

 伸ばした髪にやや不気味に思われてしまいそうな目元。服は自分が前に着用していた制服を纏っている。

 少女はさらに視線を外へと向ける。白い空の下には、広いグラウンドとそれを囲むように立ち並ぶ一軒家が見えた。どの家も故郷の作りとは違った形をしていた。

 

「(わ、私は……あれ、私は一体?)」

 

「クララさん?」

 

「は、はい?」

 

 混乱する中、少女は声の主に反応した。

 

「大丈夫ですか? 顔色が悪いようだけど」

 

「え、いや、あの」

 

「やっぱり転校初日は緊張しちゃう?」

 

「てて、転校? …………あっ」

 

 なんの事かと思った少女だったが、すぐさま記憶を蘇らせた。

 

「(そうだった。私、今日からここに通うんだ)」

 

 クララと呼ばれた少女。彼女はもともとルーマニアに住んでいたのだが、反体制組織として活動する両親の都合で一人で日本へと引っ越してきた。その都合の内容は表には出すことが出来ないので伏せてもらうが、とある女性の支援もあってこの国にやってきたのだ。

 

 そして彼女は今日、この中学校へと転入した。本来なら年齢や国籍に沿った学校へ行くはずなのだが、彼女の家の事情や手続きの関係もあって、かなり無理をしてここへ転入することになった。そして、今は担任の教師に連れられて、自分の通う教室の前で待機していた。

 

「それじゃあ、これからホームルームを始めるから、名前を呼んだら入ってきてくださいね」

 

「は、はいっ(……どど、どうしよう。思い出したら出したで、胸が)」

 

 初めてのことに、クララは緊張で胸をバクバクと鳴らす。彼女は暗い性格も祟って、昔から人付き合いが上手い方ではなかった。友人も少なく、学校では一人でいることが多かった。

 さらには日本なんて慣れない文化の国に来たのだから、分からないことだらけで胸の鼓動は早まる。

 

「えっと、まま、まずはファーストコミュニケーションで躓かないように…………な、何から話せばいいんだろ。ゆ、幽霊になれたら、ここから逃げられるのに」

 

 誰もいない廊下で、クララはブツブツと念仏のような独り言を呟きながら頭を抱えた。

 

「クララさーん、どうぞー」

 

「は、はやっ!?」

 

 なんてことを考えているうちに、早くもクララは名前を呼ばれてしまった。しかしここまで来たら逃げる訳にもいかず、クララは意を決したかのように手すりに手をかけ、教室の扉を開いた。

 

 入って早々に突き刺さるクラスメイトたちからの視線。奇異なものを見るものから興味津々と目を輝かすもの、特にどうでも良いがとりあえず目を向けるものまで、様々な感情を孕んだ2つ眼が彼女の体を針のように突き刺す。

 

 クララは錆びた機械人形……というよりは動きの鈍いゾンビのようにぎこちない動きで手足を動かし、やっとの思いで教卓の隣に立つ。あまりの緊張に今にも目を回しそうになる。

 

「それじゃ、自己紹介を」

 

「は、はい」

 

 クララはぎこちない手で黒板に自身の名前(カタカナ)を書き、そして1度息を整え、

 

「……クク、クララ=ヴァルハラ……です……」

 

 精一杯に出した震え声で自身の名前を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────

 

「はぁ…………」

 

 時は流れ、昼休み。放課後は謎の人物のせいで人が寄り付かないと噂の図書室。運良く誰もいないこの場所で、クララはため息を吐きながら広机に伏せていた。

 

 今朝の件で自己紹介をしようとした彼女は、名前を名乗った後は黙りとしてしまった。その後も授業の内容が頭の中に入ってこないのは言わずもがな、ゆっくり出来るはずの休み時間は、全てクラスメイト達からの質問攻めて潰されてしまった。内容は『どこの国から来たの?』『前通ってた学校はどんな場所?』『日本語すごく上手だね』『好きな物は?』といったありふれたもので、あがっていた彼女はまともに答えることができなかった。唯一の救いは、授業で自分についての質問大会が行われなかったことだろう。

 

 その結果、彼女は図書室に逃げ込み、こうして短い休息を過ごしていたのだ。

 

「(あれ、絶対にみんな引いてた……嫌われたかもしれない)」

 

 実際嫌うほどではないのだが、あまりのオドオドとした様子にクラスメイト達が若干引いていたのは事実である。

 唯一、自分の好きなホラー映画を答えることは出来たのだが、タイトルを聞いたことがないのか、相手は首を傾げるだけであった。

 

「…………塵になって消えてしまいたい」

 

 無駄に日本語を猛勉強してしまったことが仇になった気がしたと思いながら、クララは諦めたように呟く。

 

「…………あ、あのっ」

 

 突然名前を呼ばれたクララは疲れたように顔を上げる。

 目の前には、眼鏡をかけた気弱そうな女子生徒が立っており、その姿には見覚えがあった。

 

「あ、あなたは、隣の席の」

 

 彼女はクララの隣に座っているクラスメイトの1人であり、唯一彼女が挨拶を交わせた少女であった──といっても『よろしくお願いします』の一言だけだが。

 

「……な、何か用、ですか?」

 

「……血の深淵」

 

「へ?」

 

 それはクララが唯一答えられたホラー映画の題名であった。しかしなぜ突然そんなことを、唖然とするクララを置いて少女は言葉を紡ぐ。

 

「さっき話してたの、聞いてました。ぬ、盗み聞きみたいなことしてすみません」

 

「は、はぁ……?」

 

 少女はアワアワとしながら、興奮したように言葉を続けた。

 

「……あ、あれ、凄く面白いですよね。話の内容とか、気味の悪さとか……私は、ホラー映画なら魔女の館が好きです」

 

「……も、もしかしてススペリアも?」

 

「は、はい! 大好きですっ!」

 

「わ、私も、大好き。きょ、恐怖映画なら沢山知ってる。例えばあれとかこれとか」

 

「あ、それ私も知ってます! ホラーあるあるを網羅してるんですよね!」

 

「そ、そうそう。ケケ……」

 

 ホラー映画話に盛り上がった2人の声が誰もいない図書室内に響く。静かだった彼女の明るい声が、初めて表に出た瞬間であった。

 

「「……あっ」」

 

 しばらくして2人は会話を止め、恥ずかしそうに俯く。

 

「「あの……あ」」

 

「ど、どうぞ」

 

「ど、ども……」

 

「……ほ、ホラー映画とか……す、好きなんですか?」

 

「はい……小さい頃に沢山見てて……初めは怖かったけど、いつの間にか大好きになってました……」

 

「わ、私も……み、観てる時に襲ってくるゾクゾクとした感覚が好き……はい」

 

 クララはモジモジとしながら少女に視線を向ける。お互いに緊張する様子がおかしかったのか、2人はふっと笑を零した。

 

「こ、ここに来て……こうやってまともに話せたのは、あなたが初めてです。私、明るく話すとか、そういうのあんまり得意じゃないから……」

 

「……私も、人と話すのはあまり得意じゃないです。おかげで出前もろくに取れないし……インキャだし」

 

「わ、私も多分インキャ……ふ、ふひひ…………」

 

 ネガティブなことしか発言していないのに、心が落ち着いて笑ってしまう。

 

「……あ、あ、あの」

 

「は、はい」

 

「わ、私……クララ=ヴァルハラって言います……あなたの、名前は?」

 

 恐る恐ると聞いたクララの言葉に、少女は間を置いて口を開いた。

 

「も、紅葉山輝です」

 

「輝……て、テルちゃんって呼んでいい? い、いきなり下の名前はダメ……?」

 

「え? も、勿論いいですよ」

 

「じゃ、じゃあ、私のことは……く、クララって呼んで」

 

「分かりました。く……クララ……さん」

 

 出会って間もなく下の名前で呼び合う2人は、何処か照れくさそうな、嬉しいような表情を浮かべた。

 

「あ、あのっ! テルちゃん!」

 

「ひゃっ、ひゃい!?」

 

 クララは乗り出すように輝に顔を近づける。

 

「も、もももし良かったら……わ、私と、と、友達になってくれませんか?」

 

 クララからの申し出に唖然とする輝。しかしすぐに微笑み、

 

「……私なんかで良かったら」

 

 と言葉を返した。

 

「よ、よろしく……」

 

「……こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 クララと輝は手を伸ばし、握手を交わす。

 

 クララ=ヴァルハラと紅葉山輝の最初の出会いは、こうして実現された。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

「えっと……きょ、今日はありがとう。テルちゃん」

 

「いえいえ、そんな。私こそ助けて貰っちゃって……」

 

 さらに時間は過ぎ、クララと輝は校門の前で話していた。

 出会って早々に友人となった2人は、その後の授業でお互いに助け合っていた。漢字で読めない箇所があれば輝に教えてもらい、輝が緊張で教科書を読めない時は、クララが死ぬ思いで代わりに音読をする。独特な連携を見せる2人の姿にクラスメイトは首を傾げ、教師はクララと輝が友達になれたことに密かに喜びを感じた。

 

「そ、それじゃあ、私はこっちだから……また明日」

 

「うん」

 

 少し名残惜しそうに、クララは輝に背を向けた。

 日本に来て初めて友達になってくれた、自分と趣味があって、気楽に話すことの出来る女の子。

 そんな彼女と別れるのは、やはり寂しさを感じてしまう。

 

「あのっ、クララさん」

 

「へ?」

 

 歩く途中、輝に呼ばれたクララは振り返る。

 

「良かったら、今度の日曜日、お近付きの印に映画でも見に行きませんか?」

 

「え、映画?」

 

「はい、最近上映されたホラー映画なんですけど……せっかくだからクララさんも一緒にどうかなって」

 

「……わわ、私でいいの?」

 

「……あ、でも流石に友達になったばかりなのに、いきなり映画に行こうなんて、困っちゃいますよね……ここのこともまだ慣れてないのに」

 

 輝は徐々に表情を曇らせる。

 

「…………たい」

 

「へ?」

 

 

 

 

 

「い、行きたい! 私も! 映画! ふ、2人で行こう!」

 

「は、はい!」

 

 ずいっと輝に駆け寄り、今日1番の声を出したクララ。輝は思わず甲高い声で返事をする。

 

「……えへへ」

 

「ふ、ふひひひ……」

 

 日が沈みかけるなか、クララと輝はお互いの顔を見ながら笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

「……とは言ったものの」

 

 そして約束の日曜日。

 

 どこぞの偉人なのか犬なのか定かではないが、何かしら偉大なことを成し遂げたであろう銅像の前で、クララは輝を待っていた。

 

「つ、つい勢いで言っちゃったけど……そもそも日本の映画館ってどんな感じなんだろう」

 

 初めての友達からの誘いについ乗ってしまった彼女。

 

 だが冷静に考えてみれば、日本に来てからまだ日が浅い上に観光地等にも行ったことすらない。

 なので、日本の映画館がどんな場所でどんなルールが敷かれているのかなんて知るはずもなかった。服装もどのようなものが良いのか分からなかったため、結局学校の制服を着用してきた。

 

「(と、とりあえず失礼のないようにしないと……嫌われるのは避けたい)

 待ち合わせ場所……テルちゃんと一緒に何度も確認したからあってる、はず……あっ」

 

 待ち合わせ時間近くになって不安になっていると、遠方から1人の少女がこちらに走って来た。服装からしても普通の女の子、しかしこちらへ向かって焦った様子で走るその姿を見て、クララはすぐさまその正体が分かった。

 

「す、すみません。お待たせしました」

 

「そ、そんな、わ、私も今来たところだから」

 

 息を切らして謝る輝に、クララは手と首をブンブンと横に振った。

 

「ママー、あれー」

 

「こら」

 

「と、とりあえず行きましょうか」

 

 通りかかった子どもに指を差される中、2人は並んで歩き出す。

 

 目的地は街中にある大型ショッピングモール内に設けられた映画館で、ここいら周辺では1番大きな場所である。場所が場所なので人が大量にいるのは確定事項なのだが、それは致し方ない。

 

「に、日本の映画館って、どうやって観るの?」

 

「えっと、まず映画館についたらチケットを買います。それでその後に食べ物とかジュースとかを購入します。ぱ、パンフレットはネタバレになるので映画を観た後に買いましょう」

 

「(す、すごい……流石、映画館のルールにも詳しい)」

 

「……で、合ってるかと」

 

 何故かつっかえるような言葉を付け足す輝に、クララは小首を傾げた。輝は目を逸らしながら答える。

 

「じ、実は……映画とかは大体家で済ましてまして。1人でああいう人が沢山いる場所に行くのは苦手で……気分が悪くなっちゃうんです……私、インドアなキャラクターなので」

 

「な、成程……あれ、じゃあさっきのは?」

 

「……ネットに書いてあったことをそのまま話してました」

 

「わぁ……」

 

「で、でも大丈夫ですっ! チケットの買い方もちゃんと勉強してきましたから。今日行く映画館のオススメのメニューも事前に調べました」

 

「そ、そこまでやらなくても」

 

「も、もともとは私から誘ったんですから、このくらいは……

 それに、クララさんは大切な友達ですから」

 

 純粋な笑顔を浮かべる輝。そんな彼女にクララは頬を紅くする。

 

「く、クララさんは何が食べたいですか? 今日行く映画館って色んな味のポップコーンがあるらしいので、何でも言ってください」

 

「へ? あ、えっと、じゃあ……はちみつ味、とか?」

 

 映画館に着くまでの間、2人は上映中に食べるフードやドリンク、主にクララの好きなことや思い出話等について話し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

「………………」

 

「し、しっかり……」

 

 そして数時間後。

 

 映画館から出てすぐに横に置かれた背もたれ付ベンチにて、クララからの声掛けを横に、輝はズーンっと暗い雰囲気を纏いながら、魂が抜けたかのように体を真っ白に染めていた。気のせいか、口からも白い靄が抜け出ている。

 

 つい数時間前まで自信満々……ではないが、勇気を出して映画館へ向かった彼女。

 しかし着いて早々にチケット購入でミスを冒し、フード購入ではキャラメル味を上手く伝えられずなぜか塩味と聞いたこともない味のポップコーンを買う羽目になってしまったのだ。ちなみにはちみつ味なんてものはそもそもなかった。

 

 さらに追い打ちをかけるように、座席も列の真ん中、しかも中央という人に囲まれながら鑑賞しなければならない最悪の席に座る羽目になった。

 そもそもチケット自体、事前にネットで購入等をすれば幾分かはマシになったことを知り、輝はより落ち込んでいた。

 

「……すみません。私から誘っておいてこんな有様で」

 

「い、いやいや。そんなことは。けどほら、え、映画はちゃんと観れたし、面白かったから」

 

「そ、そうですね。思ってたよりもずっと怖かったし、演出も迫力がありました」

 

「く、クリーチャーもキモくて可愛かったから…………両隣のカップルの悲鳴もいい味出てた気が……する、かも」

 

 屋内のはずなのに、どこから沸いたか分からない虚しい風が2人の間を通り抜ける。

 

「……なさい」

 

「?」

 

「ごめんなさい……私、できもしないのに意地を張っちゃって……クララさんに迷惑をかけて……ホント、自分が気持ち悪い。これじゃあ、お姉ちゃんみたいになれない……」

 

 あまりの失敗の連続に輝は負の感情を漏らした。

 

「そ」

 

「…………?」

 

「そ、そんなに自分を責めなくても、いいんじゃない……? テルちゃんは、私なんかのために頑張ってくれたんだから……わ、私は凄く嬉しい……」

 

 クララからの励ましに、輝は彼女の顔を見つめ、クララも恥ずかしそうに微笑をする。

 

「うわぁぁんっ!」

 

 突然の鳴き声に、2人は声のした方を振り返る。

 身長からして、恐らく5歳児程度であろう男の子が泣いていた。

 

「あれ、もしかして迷子?」

 

「か、かもしれない」

 

「(どうしたんだろう。お父さんとお母さんとはぐれちゃったのかな? だったら早く見つけてあげないと)」

 

 輝は男の子の方へ声をかけようと手を伸ばす。

 しかし体は言う事を聞かず、彼に近づこうとしない。さっきの失敗もあってか、彼女は無意識に緊張し、人見知りを発症していたのだ。

 

 息が荒い、大丈夫の一言もでない。

 

 昔からそうだ。お姉ちゃんと違って明るくなくて、そんな自分が悔しくて、情けなくて、嫌いに────

 

「……て、テルちゃん」

 

 そんな彼女の肩を、クララはぽんと叩いた。

 

「わ、私も一緒にいるから……あの子、助けよう?」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

「ぐすっ……」

 

「あ」

 

「……?」

 

 

 

 

「あああのっ! どどうしたのかな? まま迷子かにゃ?」

 

「おお、お姉ちゃん達に話して?」

 

 輝は顔を真っ赤に、クララはお化けのように引き攣った笑顔で男の子に話しかける。

 

「(しまったぁ、これじゃあからさまに不審者だぁ。しかも噛んじゃった)」

 

「(け、けひ…………こ、これじゃあ怖がらせてるだけじゃ)」

 

 妙な冷や汗が2人の額から溢れる。

 

「……お母さん」

 

「「?」」

 

「お母さんとお父さんと、はぐれちゃった」

 

 2人の声掛けに対して、男の子はそう話した。

 輝は前に屈み、男の子に目線を合わせる。

 

「……1人で、怖かった?」

 

「……うん」

 

「……じゃあ私たちと一緒に、お父さんとお母さんを探そう?」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────

 

「バイバーイ! お姉ちゃんたちー!」

 

 数十分後、無事に男の子の両親を見つけ出すことのできたクララ達は、入口を出ていく男の子からの満面な笑みに手を振り返した。

 

 あの後、3人は仲良く手を繋ぎながら彼の両親を捜しにショッピングモールを捜索した。

 

 休日ということもあって、人の波の中から探し出すのは容易ではなかったが、彼の証言を頼りに、吐き気を抑えながらなんとか見つけ出すことが出来たのだ。一時は迷子センターに預けた方が良いとも考えたが、彼が嫌がったために断念した。

 

「良かった。無事に会えて」

 

 輝は嬉しそうに両親と話す彼の背中を見つめながら微笑む。

 

「……て、テルちゃんって」

 

「?」

 

「……け、結構…………恥ずかしがり屋?」

 

「うっ……じ、自覚してます」

 

 クララからの言葉がグサリと胸に突き刺さった輝。

 自分の性格のことは自分がよく知っている。だからこそ、友達である彼女に見抜かれてしまったことが余計にショックだった。見抜かれるほど隠せていないが。

 

「…………けど」

 

 クララは輝に向き合い、彼女の瞳を真っ直ぐ見つめながら口を開く。

 

「誰かの為に身体を張れるあなたは、とても素敵。相手を思いやれて、純粋に相手のことを見てくれる。そんな優しいあなたのこと…………光のようなあなたを、心から……尊敬します」

 

「クララ……さん」

 

「テルちゃんはさっき、自分のことを気持ち悪いって言ってた……けど、そんなことはない。あなたは勇気を出して私に話しかけてくれた。そしてこうして、遊びにも誘ってくれた…………そうやって誰かの為に頑張れるあなたと友達になれて……わ、私は……幸せ」

 

「……私の方こそ、クララさんに助けてもらって……あなたのような心の優しい人と友達になれて……良かった」

 

 手を握り合い、見つめ合う2人。やがて顔と顔が近づきあい──ー

 

「「…………わぁ」」

 

 直ぐに後退った。

 

「すす、すみません」

 

「あ、いや、私も……上から目線みたいでごめんなさい」

 

 グウゥゥゥゥ…………

 

「……あ」

 

 あたふたとしていると、2人のお腹の虫がなき声を上げる。鑑賞後に歩き回ったのもあってか、胃袋が小腹を空かせてしまったようだ。

 

「さ、捜すのに忙しくてお腹が」

 

「……ふ、2人で……甘いものでも、食べる?」

 

「…………はい」

 

 照れくさそうにしながら、クララと輝は肩を並べて歩く。

 

 その後、輝とクララはショッピングモール内を右往左往しながら、やっとの思いで入ったカフェで蜂蜜がかかったデザートを注文し、仲良く分け合って食した。

 

 

 

 ひょんなことから出会った彼女達。

 

 

 

 この先、2人は親友としてさらに仲を発展させていくだろう───

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

『ぱ、パパとママを止めることができるのは……わ、私だけ』

 

 

『ま、間違ってる……2人とも、間違ってる』

 

 

『わ、私は、光になりたいっ!』

 

 

『わ、私は! シャインみたいな正しい人になるっ!』

 

 

 

 

 

 ────

 

 

「…………」

 

 暗闇の中。

 

 部屋の明かりは一切きられ、外の光すら閉めきったカーテンによって遮る、飲み込まれそうになるくらいに深い深い漆黒の室内の中で、クララは目を覚ます。

 

 寝そべっているソファの堅い感触が、触れていた部分に伝わる。それがなぜだか気持ち悪くて、彼女を痛めつけているようだった。

 

「………………」

 

 クララは身体を起こし、視線を目の前の床に向ける。

 

 そこには血の跡も何もない、無地のカーペットが敷かれているだけであった。

 

「…………夢?」

 

 先ほどまで見ていた夢──テロを起こそうとした両親を止めるために、自らの手で殺してしまう地獄のような悪夢。目覚めたばかりでその内容は鮮明に覚えている。余程怖かったのか、瞼は涙で真っ赤に腫れていた。

 

「……違う…………よね?」

 

 クララは目の前の床を再度確認し、胸を撫で下ろす。

 

 ここは日本の施設、そしてこの部屋は自分のためにとある組織が用意してくれた特別な部屋だ。故郷にある実家ではない。

 ましてや、目の前に両親の死体なんてもの、あるはずがなかった。

 

 

 ──なのに、どうしてこんなに胸が張り裂けそうになるのだろう。

 

 ──痛くないのに、頭に拳銃の弾で弾いたような感触が残ってる。

 

 ──陽の光が嫌いなはずなのに、暗闇がこんなにも怖い。

 

 

 身に覚えのない不安が胸の中で渦巻くなか、耐えきれなくなったクララは机に向かい、ライトスタンドのスイッチをつける。

 

 そして暖色の光が灯ると、クララは机の引き出しから一冊の薄い本を取り出す。

 

 これは今日、日本で初めてできた友達、紅葉山輝と一緒に観たホラー映画のパンフレットである。

 男の子の親探しを終えて、カフェでゆっくりとデザートを堪能している最中にグッズを買い忘れたことに気が付き、急いで購入したのだ。怖さを出そうと無駄に手の凝った表紙からは、本編と同じB級感が溢れ出ている。

 

「…………へへ」

 

 クララはパンフレットを眺めながら笑みを浮かべる。

 

 なんの仕掛けもない単なるホラー映画のパンフレット。しかしクララにとっては、初めて日本で出来た友達と一緒に購入した大切な一冊、今日一日を思い返すことが出来る、今いるこの世界が本当の世界だと認識できる一冊である。

 

 

 ──間違いない、さっきまで見ていたのが悪夢で、今が現実なんだ。

 

 ──私は、パパもママも殺してない。

 

 ──そして、テルちゃんは……友達。

 

 ──けど。

 

 

 ふと、クララは視線を時計へと向ける。時刻はまだ夜になったばかり、今ならまだ間に合う。

 

 クララはパンフレットを仕舞うと立ち上がり、部屋を後にしてとある場所へと向かう。

 

 廊下の灯りが暗闇上がりの目をチカチカと刺激する中、クララは職員に声をかけ、端末を受け取る。

 

 

 

 

 

 

 

 …………あ、ぱ、パパ? ママ? げ、元気? 体調、崩してない? 

 

 …………そ、そっか…………うん、わ、私は元気……は、初めてのことばかりで慣れないことが多いけど、なんとかやれてるよ。

 

 ……ごめんなさい、流石に連絡するのが早かったかも……けど、怖い夢を見て……わ、私が2人を…………そ、その……殺す夢……

 

 ごめんなさい、変なこと言って……そ、それで怖くて、電話を……

 

 ……へ? 友達? …………う、うん、できたよ。

 

 ちょっと照れ屋だけど、凄く優しくて──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

「(私と趣味が合う女の子…………け、ケケ……なんて都合の良い)」

 

 嫌に眩しい、夜の終わりを告げる光が体を焦がすなか、クァバラは左眼を虚空に向けて内心呟いた。

 

「(ああ……どおりで心地がいいわけか)」

 

 右手には、自分を救ってくれたヒーローの暖かい手の感触が伝わっている。

 

 

 先程まで見ていた光景──走馬灯のような、夢のような長く、しかし一瞬のもの。

 

 中身もない、数ページのつまらない光景。

 

 何もかもが矛盾だらけで、無理やりで、ツギハギとした夢物語。

 

 あまりにも現実のかけ離れた自分、そしてあまりにも自分に都合の良すぎる、存在しない記憶。

 

 ──自分を救ってくれた『この子』は『幻のあの子』よりもずっと強いのに。

 

 

 それは現実的(リアル)で、今の自分には最も遠い世界であった。

 

 そんなものは、両親を殺したあの瞬間から既に叶わぬものだと云うのに、シャインの手を払った時には既に終わっていたと云うのに。

 

 アマラリルクとなってもそんな幻を見てしまっていたのか。

 

 クァバラは、そんな自分が心底嫌になった。

 

「(けど、最後くらいは幻に浸れて…………)」

 

 クァバラは左眼を閉じ、消えるその瞬間まで、手を握ってくれるあの子の優しさを感じた。

 

 

 

 

 

 

 ────もし生まれ変われるなら、今度はあなたのように、温かな心を持って生まれたい────

 

 

 

 

 

 ────あなたも、どうか、自分を嫌いにならないで……誰かを信じて────

 

 

 

 

 

 




主人公一家不憫すぎ・・・・・・
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