転生したら陰実の世界にいた件   作:リベリオンβ

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この回はイプシロンメイン回でっす。

閑話回というわけでまた幼少期編に遡りまっす


閑話・イプシロンメモリーズ

 

 

 

 

 

 

これは『シャドウガーデン』にイータが加わって2ヶ月経った頃のお話……。

 

イプシロンはシャドウに魔力制御の指導をお願いしようと、ガーデンのアジトである廃村に来ていた。

 

そして廃村の小屋の1つの扉を開けると、そこには既に組織の最高幹部『七陰』のトップであるアルファがいた。

 

 

 

イプシロン(当時14歳)

「おはようございます、アルファ様」

 

アルファ(当時12歳)

「おはよう、イプシロン」

 

イプシロン「あの…アルファ様、主様はどちらに……?」

 

アルファ「シャドウに用事?

……もしかして、また魔力制御の指導を頼みに行くつもりかしら」

 

イプシロン「はい……」

 

アルファ「イプシロン、あなたがシャドウガーデンの……ひいてはシャドウの為に強くなろうとするのは判るけど、あんまりシャドウに甘えちゃダメよ」

 

イプシロン「う……申し訳ございません」

 

アルファ「とはいえ、あなたが強くなりたい、という気持ちも判るわ。

……ちょっと待っててね………」

 

 

 

アルファ様は後ろを向いて、右手を自身の右のコメカミに触れる。

 

 

 

「……ええ、イプシロンが……」

 

 

 

するとアルファ様が何か、端から見ると独り言を言い出した。

 

勿論、アルファ様の事なので、何かこう、特殊な手段で他の人と会話をする術を身に着け、それを実行していると思われる。

 

主様に教えられたのでしょうか?それとも……?

 

 

 

「……引き受けてくれるの?

貴方の修行の方はもう大丈夫なの?

……そう。

ええ、ええ……じゃあ、お願いするわね」

 

 

 

アルファ様が誰かと特殊な会話術を終えると、私の方に振り向き直りました。

 

 

 

「イプシロン、ウルティオが貴方の指導をしてくれるって」

 

イプシロン「う、ウルティオ、様……が……?」

 

アルファ「ええ、彼なら、シャドウにも引けを取らない魔力制御の指導をしてくれるわ。

今彼がいる場所は、ここから北に行った森の方よ」

 

イプシロン「あ、アルファ様……」

 

アルファ「あなたは彼とはあんまり面識がないでしょうけど……大丈夫よ、シャドウと比べると多少激しいってだけだから」

 

イプシロン「は、激しい!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、いうわけで私はウルティオ様がいる森へと向かったわけだけど……。

 

正直な話、私はウルティオ様の事は、主様……シャドウ様の相棒、という所しか知らず、それ以外はよく知らない。

 

というのも、私が入った当初、ウルティオ様はガンマやデルタの訓練指導をしていたから。

 

そしてその訓練指導を見る限り……魔力制御に優れているか判らない。

 

確かに、ガンマの運動音痴を治す程の気の長さ、七陰の中でも身体能力が優れてるデルタを軽く一蹴する程の強さは私にも判る。

 

でもゼータがシャドウガーデンに入って以降、ウルティオ様1人で修行してるというのもあるけど、当の本人にシャドウ様と同格の魔力制御が出来るか定かじゃない。

 

アルファ様はシャドウ様にも引けを取らないとは言ってましたけど……。

 

 

 

「この先ね……あ、ウルティオ、様……」

 

ウルティオ(当時12歳)

「さて、やるか……!」

 

イプシロン「……?」

 

ウルティオ「『魔力分身』……!」

 

イプシロン「!?」

 

 

 

ウルティオ様が右手の3本指を左手で握った途端でした。

 

瞬間、ウルティオ様が7人に増えたのです。

 

こ、これは一体……!?

 

ウルティオ様が7人に増えた!?

 

驚いているイプシロンの事など知らず、ウルティオがキョロキョロと、自身の分身体を見る。

 

 

 

ウルティオ「……お?お?マジ!?分身完了まで1秒も掛かってない……分身体の魔力量も10%増えてる!?

……やった!

やったぞ!!

成功だ!!!

『魔力分身・第三段階』キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」

 

イプシロン(う……嘘……!?た、確かに分身体?の魔力量はウルティオ様の本体?よりも少ないですが……これ程の……!?)

 

ウルティオ「……さぁて、7人かぁ……8人になれば、俺対七陰全員とか出来たかもしれなかったが……まあいい、やってみるか……!1対6!」

 

イプシロン(はぁっ!?)

 

 

 

イプシロンが内心驚いている内に、分身体のウルティオがそれぞれアルファのスライムソード、ベータのスライムの弓、ガンマのスライムの大太刀、デルタのスライムクロー、イプシロンのスライムの大鎌、ゼータのスライムチャクラムと類似したスライムの武器を持って本体のウルティオから少し離れて囲む。

 

 

 

(ちょ!?嘘!?本気!?)

 

ウルティオ「やるかぁ!」

 

 

 

 

そしてウルティオ様は本当に、自身の分身体6人と交戦し始めたのです。

 

しかも分身体のあの動き……まさか本当に……!?

 

そう、ウルティオ様の分身体は、アルファ様からベータ、ガンマにデルタ、私にゼータと、それぞれの戦闘スタイルを再現して、本体のウルティオ様と戦っていました。

 

開始から30秒も経たない内に、スライムソードを持った分身体が本体を斬る。

 

 

 

ウルティオ「っ……オーケー、スペックも落ちてないな……!」

 

イプシロン(私達『七陰』の動きを、再現している……!?

『魔力分身』……なんという技なのでしょう……!?)

 

 

 

分身体の戦い方も、見事にイータを除いた『七陰』全員の戦い方を再現している……!

 

イプシロンが7人のウルティオの戦闘を内心で感嘆していると、スライムの大太刀を持っている方のウルティオの分身体が接近し、その大太刀を振るう。

 

ウルティオはスライムソードでそれを弾く、しかし弾いた直後、そのスライムの大太刀がスライムダガー2本に分離した。

 

 

 

ウルティオ「そう来るよなぁ……!やべっ!!」

 

 

 

スライムダガー二刀流になった分身体と、スライムクロー、スライムサイス、そしてスライムソードを持った4人の分身体が一斉に来る。

 

更に後方には、スライムアローを射た分身体と、スライムチャクラムを投げた分身体。

 

この窮地を本体のウルティオはどう切り抜けるのか。

 

 

 

「『魔術』使うしかないか……!

『ブレイズ・バースト』!」

 

イプシロン「!?」

 

 

 

すると本体のウルティオから、強烈な熱の波動が彼を中心に周囲を飲み尽くす。

 

スライムの矢とチャクラムが溶け、4人の分身体もそれぞれ後方に下がる。

 

しかし下がった直後――――――――

 

 

 

 

 

ドカァン!!!

 

 

 

 

 

4人の分身体の足元が大きく爆発。

 

覚えたてではあるが、イプシロンは『魔力感知』をしていたからわかる。

 

 

 

(今のは……魔力を使った技……!?『魔術』って……)

 

ウルティオ「やっぱ防いだな……これでやるしかないか」

 

 

 

ウルティオがスライムロングコートからスライムを6つ分離する。

 

すると6つのスライムがウルティオの姿となり、分身体へと向かう。

 

 

 

イプシロン(今度はスライムで分身!?)

 

ウルティオ「1年ぶりかな、このやり方で倒すのは……。

服従の天秤(オビディエンス・スケールス)』」

 

 

 

そして今度はウルティオ本体の前に、突如巨大な『天秤ばかり』のような物が出現する。

 

イプシロンはそれも『魔力感知』すると、またも魔力で出来た物だと認識した。

 

彼女が認識したと同時、分身体全ての魔力と、ウルティオ本体の魔力が、それぞれの計器に乗っかる。

 

 

 

「そして今日の分だけ……『制限解放』っと……」

 

イプシロン「!?」

 

 

 

ウルティオの身体から、膨大な量の紫色の魔力が溢れ出てくる。

 

それと同時、本体のウルティオを乗せたはかりが下に一気に傾いた。

 

 

 

ウルティオ「自害しろ」

 

 

 

そして本体のその言葉で、分身体全員が自害し、魔力の粒子となって消滅した。

 

あっという間に自身の分身体を倒す光景を見たイプシロンは啞然としていた。

 

 

 

イプシロン「な、な、な……!?」

(なんという魔力量……!?なんという魔力の扱い……!?)

 

ウルティオ「はぁ……戦闘スタイルと大まかな思考回路をイータを除いた七陰全員に設定したとはいえ……流石に4人から6人はキツイ……まーた魔術込みで倒さねーといけね、振り出しだな。

まあいいか、第三段階のスペックも確認出来た、この調子で研鑽を重ねていくか!

 

ハッハッハッハッハ!

 

ハーッハッハッハッハッハッハッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

……はっ!?」

 

イプシロン「!?」

 

 

 

高笑いしたウルティオがこちらに気づいたのか、ひっそりと見ていたイプシロンにゆっくりと視線を向ける。

 

 

 

イプシロン&ウルティオ

「「・・・・・・」」

 

 

 

2人の間に、沈黙の時が流れる。

 

しかしその沈黙が長く続く事はなかった。

 

ウルティオが首を少し下げ、皺を大きく寄せ、青筋を立てる。

 

それと同時、彼の身体からまたも膨大な紫の魔力が溢れ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルティオ

「・・・見たな……!俺の修行シーンを……!!!」 

 

イプシロン「あっ……これは……!?これはその……!?」

 

 

 

何故ウルティオが怒っているのか理解出来ないまま、イプシロンは困惑する。

 

ウルティオの修行を見たのが行けなかったのだろうか?

 

いや、アルファとの会話で自分が来る事は知っていた筈だ。

 

なんて考える余裕は今の彼女には無かった。

 

何故なら、目の前のウルティオがそれを考える余裕を与えてくれない。

 

彼の周囲に、それぞれ推定、直径60cm程の、魔力によって生み出されたであろう火球、水球、氷塊、岩石、風塊、雷塊。

 

それぞれが浮いて出てきたのだ。

 

圧倒的な圧力、そして目の前の、魔力によって生み出されたものにイプシロンは圧倒され、まともに声を出せなかった。

 

 

 

「あ、あ、も、もう、し―――――――」

 

ウルティオ「言い訳は後で聞こうか♪」(^_^#)

 

イプシロン「―――――へ!?」

 

ウルティオ「――――――いっぺん、あの世見とけぇ!!」

 

イプシロン「いやぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

6属性の魔力で生み出された球体すべてがイプシロンに向かった。

 

イプシロンは目を閉じて悲鳴を上げたのだった。

 

6つの塊を飛ばされたイプシロンだったが、どれだけ時間が経っても身体に痛み、熱さ、冷たさ、衝撃、いずれも感じなかった。

 

もしかしたら、それを感じる事なく自分は死んでしまったのかもしれない。

 

 

 

イプシロン「ん……」

 

 

 

そして彼女が目を開けると、何も無い、紫色の空間だった。

 

 

 

「ここ……どこ……?」

 

 

 

自分は先のウルティオの、魔力で出来たであろう各属性の塊を飛ばされて死んだものと思われた。

 

しかし、死んであの世に来たにしては、自分の身体の感覚等がある。

 

いや、死んだ後の事なんてわかるはずもないのだが。

 

それにしてもこの紫色の空間……ウルティオが放って見せた魔力の色と同じだった。

 

まさかと思い、イプシロンは『魔力感知』してみる。

 

 

 

「―――――――!?」

(これは……!?この空間全てが……魔力で出来てる!?)

 

 

 

すると彼女の予感は的中。

 

何と自分がいる紫色の空間、それが魔力によって出来た物だと判明したのである。

 

彼女が内心で驚いていた時だった。

 

空間の一部に、一瞬で文字が浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッキリ大成功!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?ドッキリ……大、成功……??

………!?」

 

???「ハーハッハッハッハ!!!

見事に引っかかったな!イプシロン!!!」

 

イプシロン「ひゃあぁぁぁぁぁあ!?!!!?!?!?」

 

 

 

イプシロンの視界が、何故か上下逆さまになって、宙ぶらりんになっているウルティオで一杯になる。

 

慌てて後ずさると、何故か逆さまになって空間に浮いて立っている?ウルティオがいたのだった。

 

すかさずウルティオが降りて着地する。

 

 

 

ウルティオ「我が空間によくぞ来た、歓迎しよう」

 

イプシロン「へっ……!?

わ、私が先程見た、あの6つの、魔力で生み出されたものは……?」

 

ウルティオ「何言ってるんだ。

あんなのテキトーに放ったら、森の木が数百本やられるだろうが」

 

イプシロン「・・・」

(じゃあ、本当にただのドッキリ……?

でも、確かにあれは、普通の魔力制御では出来ないもの……!もしあれが全部私にぶつけられたらと思うと……!)

 

ウルティオ「さぁってと……確か、魔力制御の訓練をしてほしいんだったな」

 

イプシロン「は、はい……!」

 

ウルティオ「ふむ……その前にイプシロン、君は俺の事をどの程度知ってる?」

 

イプシロン「ええと……主様…シャドウ様の相棒、なのと、ガンマとデルタを主に訓練していた、としか……。

あと、ウルティオ様の訓練は激しいと、アルファ様からお聞きしました」

 

ウルティオ「んー……まぁ、ゼータが加入してから、フリーの時は俺ほぼずっと1人で修行してたから、それくらいしか知らないのも無理はないか………。

じゃあ次、イプシロンは何故強くなりたい?」

 

イプシロン「……何故強くなりたいか、ですか?」

 

ウルティオ「うん。

これ、割と重要だからしっかり答えて。

俺はイプシロンが力を求める理由が知りたいんだ。

あ、ちなみに、『悪魔憑き』から助けて貰ったからってのはナシだぜ。

そんなモン七陰共通だからな」

(まあイータはそんな思い微塵もないだろうが)

 

イプシロン「力を求める理由……」

 

 

 

何故、強くなりたいのか。

 

力を求めるのか。

 

それは複数思いつく。

 

何かで1番になりたくて、ひいてはベータという、自分よりも身体が実ってる(最もベータのみならず他の七陰も実ってるが)天然に勝ちたい、というのも勿論だが、1番の理由として思い浮かんだのが……。

 

 

 

「主様に……認められたいから、でしょうか……」

 

 

 

そう、『悪魔憑き』である自分を助けてくれた、『シャドウガーデン』の盟主、シャドウに認められる程の強さを得る為である。

 

高望みではあるが、願わくば、ウルティオと同じポジションに付きたいくらいだろう。

 

他にもまだ、彼女はシャドウに対しての思いはあるが、現状、シャドウに対しての思いで思いつくのはこんなところか。

 

 

 

ウルティオ「ふむ……。

……よし、今の答えで今日どんな訓練をするか決めた」

 

イプシロン「あ、ありがとうござい……!」

 

 

 

イプシロンは感謝の意を示そうとするが、それはウルティオの手で押し止められる。

 

 

 

ウルティオ「ただアルファから聞いているとは思うが、俺の訓練は激しい……もとい、かなり厳しいぞ?

はっきり言おう……死ぬ、かもしれない」

 

イプシロン「……!」

 

ウルティオ「が、死ぬかどうかは、イプシロンの心次第だ。

もしイプシロンがさっき言った、シャドウに認められたいという思いが、生にしがみつきたい理由になるくらいに強いのなら、大丈夫だろう」

 

 

 

死ぬ、と言われたイプシロン。

 

確かに魔力制御の訓練に置いても、『悪魔憑き』の症状であった『魔力暴走』と同じ現象によって、最悪死ぬ危険性がある事はシャドウやアルファから聞いてはいる。

 

しかし、ウルティオの訓練はそれ程のものなのかと、そして心次第と言う事は魔力制御の訓練が主ではないのか?と彼女は一瞬疑問に思う。

 

が、今その疑問を聞く時ではない、彼女は疑問を一先ず置いておき、ウルティオの言葉の意味を考え、飲み込み、答える。

 

 

 

イプシロン「……覚悟はあります」

 

ウルティオ「ふむ、死なない自信がある、という事かな?」

 

 

 

イプシロンは首を横に振った。

 

死なない自信があるわけではない。

 

ただウルティオの言っていた、生にしがみつきたい理由が、彼女には数多くある。

 

ウルティオもそんなイプシロンの様子を察したようだ。

 

 

 

「よし……じゃあ早速始めようか。

イプシロン、何でもいい、武器を構えてくれ」

 

イプシロン「?

は、はい……?」

 

 

 

やはり魔力に関する事ではないのだろうか?

 

そんな疑問と同時に、これから何をするのか?そういった未知への不安と困惑、期待と好奇心等、ありとあらゆる思いがまぜこぜになったまま、イプシロンはスライムで生成した大鎌を構える。

 

大鎌を構えたイプシロンに、ウルティオはじっと見つめる。

 

 

 

ウルティオ「じゃあ……行くぞ?

意識をしっかりと持てよ」

 

 

 

そして次の瞬間――――紫色だった空間が黒く染まり、ウルティオを中心に全方位が炎と追い風が吹く。

 

イプシロンにもはや言葉はない。

 

ウルティオの中心に渦巻いているものの正体は殺気だ。

 

それはイプシロンの心臓をいつでも一瞬で、鷲掴み、握り潰せる程の勢い。

 

目の前の、シャドウと並ぶ者の殺意の如き濁流に翻弄され、イプシロンは自らの意識が白く染まりだすのを感じる。

 

まだシャドウガーデンに入って半年程度、場数も大して踏めてない彼女は、あまりの恐怖に意識が遠のきそうになる。

 

 

 

「お前の思いはその程度か……?

まだほんの前準備……シャドウ風に言う『遊び』にすらなってないぞ……?」

 

 

 

薄れゆくイプシロンの意識の中、ウルティオの失望したような声が聞こえた。

 

その言葉の意味、それはどんな刃よりも鋭く、彼女の心に突き刺さる。

 

ほんの一瞬でも、前方から来る恐怖を忘れるほど。

 

イプシロンは大きく息を吐き出す。

 

大鎌を持つ手を震わせながらも、彼女は必死に耐える。

 

ウルティオは目の前まで上げた右拳をゆっくりと握りしめる。

 

そして、ゆっくりと弓を引き絞るように、後ろへ下がっていく。

 

そして――――――――――

 

 

 

「では……死んでもらおう……!」

 

 

 

限界まで引き絞られた矢が放たれるように、ウルティオの拳が走る。

 

――――これは即死だ。

 

イプシロンは直感した。

 

自らの身長など遥かに凌駕する強大な鉄球のような物が、自分に猛スピードで突き進んでくるような死のイメージが、イプシロンの脳裏を支配していく。

 

大鎌を上げて盾にしたところで、それは彼の拳にいとも簡単に砕かれてしまうだろう。

 

もはや全身は動かない。

 

かつて自分の失態によって盗賊達に気づかれ、それによるゆっくりと迫る死の危機とは次元が違いすぎる、彼女はあまりの緊張状態に置かれた事で身体が硬直してしまったのだ。

 

――――目の前に突然来た死から逃れる術はない。

 

と、一瞬イプシロンは諦め、それに苛立った。

 

自分が死ぬなら、それは自分を助けてくれたシャドウの為だ。

 

『悪魔憑き』によって、じわじわと死にゆく命を救ったのはシャドウだ、ならばこの命は彼の為に、彼の役に立つために―――――

 

そして意識を失いかけようとした彼女の目に、一瞬、笑いかけるシャドウの姿を見た。

 

 

 

イプシロン(何か……何か逃れる術はないの……?

私はまだ死にたくない……!死にたくない……!)

 

 

 

彼女自身から湧き出る汎ゆる感情が、恐怖という名の鎖を砕く。

 

手が動いた。

 

足もまた動いた。

 

閉ざされようとしていた目はしっかりと見開かれ、超高速で迫る拳を肉眼で捉えようと必死に働かせる。

 

全身の感覚は極限まで研ぎ澄まされ、ほんのかすかな空気の振動すらも感じ取れるようだった。

 

所謂、『火事場の馬鹿力』

 

主様がウルティオ様と会話していた時、そんな言葉と話を聞いたことがある、これがそうなのだろうか。

 

だがそれでもウルティオの攻撃速度は早い、もはや間に合わないだろう。

 

ウルティオの拳を避ける時間はないかもしれない、だがそれでも動かなくてはならない、諦めたりする事が出来る筈がない。

 

自分の動きなど、目の前の圧倒的な力に比べればまるで鈍亀のようだったが、イプシロンは身体を捻るように必死に動く。

 

そして―――――

 

ゴゥッ、という音を立てて、ウルティオの拳はイプシロンの顔を通り過ぎた。

 

通り過ぎた風圧だけで、イプシロンの、右側の髪を纏めていた物が切れてしまった。

 

イプシロンは身体をガクガクと震わせながら、その場でしゃがむ。

 

 

 

「……あ……あ……がはぁっ……!はぁ……!はぁ……!はぁ……!はぁ……」

 

ウルティオ「ふむ……おめでとう。

圧倒的な力によってもたらされる死の恐怖を乗り切った感想はどうだ?」

 

 

 

イプシロンは息を整えるのに必死で、ウルティオの言葉の意味を全て瞬時に理解する余裕はなかった。

 

荒い息で呼吸を繰り返しながら、何かが抜け落ちたようなぼんやりとした顔でウルティオを見た。

 

先程発した殺意が嘘のように無い、ウルティオの言葉の意味が彼女の脳に浸透し、ようやく安堵が生まれ、理解する余裕が出来る。

 

 

 

「いやぁ、ショック死しなくてよかったよ。

時にはあるんだよね、死を確信してしまった故に、生命を維持する事を諦めてしまうことが」

 

イプシロン「はぁ…はぁ…。

し、失礼ですが……ウルティオ、様、あなたは一体……?」

 

ウルティオ「単にちょっと腕に覚えのあるガキンチョだよ。

今はね」

 

 

 

イプシロンはほんの少し微笑むウルティオの顔から目が離せない。

 

一見、温厚に笑っているように見えるが、それはシャドウと並ぶ絶対的強者の獰猛な笑みにも見える。

 

もしかしたら自分が主と敬うシャドウと互角なのかもしれない。

 

イプシロンは自らの好奇心をそこで満足させる。

 

折角ウルティオが時間を取って自分の訓練に付き合っているのだ、それ以上、現状余計な事を考えるのは失礼と言うもの。

 

 

 

「これを耐える程の忠義を持っている、という事かな……」

 

イプシロン「ウルティオ、様……?」

 

ウルティオ「覚えておくといい、イプシロン。

人は大切なものの為なら、信じられない力を発揮する事がある。

それが、人の強さだと、俺は思っている」

 

イプシロン「人の……強さ……。

主様にも……?」

 

ウルティオ「そりゃああるさ。

でなければあそこまで努力して強くはならんよ」

(陰の実力者になる、という願望を転生前の幼少期からずっと抱いてるからな……)

「他に譲れない何かがあれば……恐らく今さっきイプシロンが発揮したように、自分が考える、自分を超えた力を発揮する事が出来るって訳だな。

自分1人で培った力なんて脆いものだよ、自分が折れたらそこで終わりなんだから」

(シドが折れる所なんて想像は出来ないが……『陰の実力者』『核』『最強』これらのワードをシドの頭から消したら、もしかしたら折れるかもしれない)

「誰かと共に築き上げた力、或いは誰かのために尽くしたりする力、それらがあればへし折られてもまだ倒れたりはしない」

 

イプシロン「今からでも……そういった力が身につくんでしょうか……?」

 

ウルティオ「その為にその訓練をしてるんだろ?

ふむ……魔力制御の訓練をしようと思ったが………気が変わった。

今日は先程やった訓練を繰り返す事にしよう。

死の恐怖を常にどうにか出来ないようじゃあ……魔力制御をどれだけ鍛えたところで話にならないからね。」

 

イプシロン「は、はい……」

 

ウルティオ「さて、繰り返す前に注意点を言っておこう。

恐怖というのは、生存本能……つまり、『まだ生きていたい』『死にたくない』等の願望……他にも色々言い様はあるが、それらを刺激するものだ。

そいつが完全に麻痺していると、明らかな危険も危険と認識出来なくなる。

その見極めがしっかり出来るようにする為の訓練を今からする、いいかな?イプシロン」

 

イプシロン「はい……!よろしくお願いします!」

 

ウルティオ「いい返事だ……なら、もう一度……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

 

ウルティオ「――――――というわけで、暫くイプシロンの訓練は俺が見ることにした」

 

アルファ「そう……。

イプシロン、気に入られたようね」

 

イプシロン「い、いえ……その様な事は……」

 

デルタ「ウルティオ様!イプシロンに構ってないでデルタと遊ぶのです!」

 

ウルティオ「まずは無傷でガンマに勝ってから言えデルタ。

修行中でも粗方アルファからは聞いてるんだぞ?

ついこないだガンマと戦って勝ったものの多少傷を追ったらしいな?」

 

デルタ「うぅ……ガンマ!

デルタと今すぐ戦うのです!」

 

ガンマ「えぇ!?私これから主様とカレーの研究を……」

 

ウルティオ「流石にシャドウとの用事となれば引き止めるのは無理だな。

さて、あっちはあっちで置いといて、行くか、イプシロン」

 

イプシロン「はい!」

 

 

 

ウルティオ様に言われ、私はやっと、今日から魔力制御の指導をしてもらえる事になりました。

 

主様の指導とは少し異なるものの、私はウルティオ様の指導の元、ひたすらに魔力制御の練習をこなしていた。

 

 

 

ウルティオ「ふむ……割とやるな……」

(あれ……?これ多分普通に教えるまでも無いんじゃないか……?

うーん、とは言っても折角教えてるわけだから、何かこう、別のやり方で魔力制御の訓練をさせても良さそうだな……よし)

 

イプシロン「あ、ありがとうございます!」

 

ウルティオ(イプシロンだったら、あれを教えてもいいかな。

え?他の人には絶対に言わせないよ?イプシロンも秘密があるから、秘密の共有ってやつだな)

「折角だ……もう少し別のやり方で、魔力制御の訓練をしてみるか」

 

イプシロン「別のやり方……ですか?」

 

ウルティオ「うむ。

イプシロンになら教えてもいいかな……『魔力制限』を」

 

イプシロン「ま…、魔力…制限?」

 

ウルティオ「そうだ。

………イプシロン、詳しくは言わないが魔力制御で『何か』を維持してるのはお前だけじゃない」

 

イプシロン「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ウルティオ

 

 

 

そう言って俺はイプシロンの、首と胸の中間の部分に触れる。

 

あくまで直接は言わないで置く、直接言ったら言ったでそれこそ……。

 

 

 

イプシロン『何か言ったかしら?』

 

 

 

みたいになるだろう。

 

 

 

ウルティオ「俺も維持してるんだよね。

魔力制御で、自分の魔力の制限を―――――」

 

イプシロン「………どうしてですか……?」

 

ウルティオ「?」

 

 

 

イプシロンの表情が急に険しく、声も少し低くなってる。

 

………ダメか、かなり遠回しに言ったつもりだったんだが。

 

 

 

イプシロン「どうして、わかったのか……失礼いたしました、どうして、わかったのですか?」

 

ウルティオ「………あのね、俺は曲がりなりにもシャドウ(アイツ)の相棒やってるのよ?

その程度の事が見抜けないとでも思っていたのか?」

 

イプシロン「……っ!

(小声)……その、程度……やはり、まだまだ甘いのね……」

 

ウルティオ「……どういう事情でそうしているのか詮索する気はないが、嘆く事はない」

 

イプシロン「何を……!」

 

ウルティオ「まあ最後まで話を聞け」

 

 

 

俺1人だけとは言え、自分の秘密がバレてイプシロンは感情的になってしまってる。

 

………聖域編でも後にシャドウガーデンに加入した……誰だったか、金髪エルフの子と褐色のダークエルフの子にバレてしまったが、それを言わせないが如く威圧するくらいだったからな。

 

だが、これだけは言っておかねば。

 

 

 

「イプシロンは、シドが見た目で判断するような男だと思っているのか?」

 

イプシロン「それは……!そんな事はない、と思うけど……。

でも不安なのよ!アルファ様にベータ、ガンマにデルタ、私より後から入ってきたゼータにイータも!

私なんかよりも余っ程大きいし……!

もしかしたら主様も、そういった子が好きなんじゃないかって……」

 

ウルティオ「それならそれでベータやガンマ辺りととっくにくっついてるだろ」

 

イプシロン「う……それは……確かに……」

 

 

 

さらに感情的になったイプシロンだが、俺の言葉を聞いてそれ以上感情をぶつけられなかった。

 

 

 

ウルティオ「人は外見よりも中身だ、特にシドの場合はな?

アイツは『あるもの』になる為に、努力一平等で徹底的に知識も肉体も鍛えてきた。

それ故にアイツは自分と同じように努力する人に対して好感を大きく持てるのさ」

(まあ、恋愛にまで発展する程の好感を持つかどうかは知らんが……)

 

イプシロン「そ、そうなの?」

 

ウルティオ「こんな事で嘘はつかないって。

それ故に、例えイプシロンのその秘密がバレたとしても、シドは間違いなくその努力を称賛するだろう」

 

イプシロン「そう……なのですね……。

……はっ!わ、私……!ついウルティオ様の前で感情的に……!お許し下さい」

 

ウルティオ「いや、構わん。

……イプシロンも俺の秘密を見たのだ、お互い様だろう」

 

イプシロン「ウルティオ様の秘密……?

……あっ!もしかして昨日の……?」

 

ウルティオ「うむ。

どういうわけか、あれはゼータを助けた翌日、シドから全力勝負を挑まれてな……。

……っと、知っているのなら、この話はここまでにしよう、さて、イプシロンには『魔力制限』を実行し、維持してもらう」

 

イプシロン「魔力制限……?」

 

ウルティオ「何、言葉通りの意味だ。

自らの基礎魔力量を制限するという事だ。

口で言うのは簡単なんだが……これを24時間常に維持するとなると相当な魔力制御が必要になる。

まあ、イプシロンは元から魔力制御の才がある分、俺よりも強く、優れてる。

俺なんかよりも速く、常に24時間維持出来るかもしれないな」

 

イプシロン「そ、そんな……!

私が、ウルティオ様よりも優れてるなど……!ご謙遜を……!」

 

ウルティオ「いや本当に……。

んん!……この話もすると長くなるからまた後程にしよう、イプシロンには、24時間……それも寝ている最中にも魔力の制限が出来るようにしてもらうつもりだ」

 

イプシロン「ね、寝てる最中にも……!?」

 

ウルティオ「何も不思議な事じゃない。

シドだって、寝ながらトレーニングしてるしな。

イプシロンはシドの寝てる所を1度くらい見たことはあるだろう?」

 

イプシロン「た、確かに……私も1度見たことはありますが……」

 

ウルティオ「これが出来れば、間違いなく魔力制御はさらに上達する。

ましてや、“それ”を自然の如く維持しようってんなら尚更やるべきだ」

 

イプシロン「う……」

 

ウルティオ「あ、そうだ。

この『魔力制限』に関しては誰にも言っちゃダメだぞ?

シドにも、アルファにもだ。

まあ俺も人の事は言えないのだが、わざわざ口外するメリットもないしな」

 

イプシロン(確かに……ウルティオ様であれば秘密を言いふらす事はありませんわね……)

「畏まりました、ウルティオ様」

 

ウルティオ「よし、それじゃあ早速やってみるとしようか」

 

 

 

こうして俺はイプシロンに『魔力制限』を教える事にした。

 

スライムであのボディを維持するのであれば、『魔力制限』をやってみればより上達するだろうからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side イプシロン

 

 

それから少し経った日……。

 

クレア誘拐事件の半年前………。

 

 

 

 

アルファ「今回の教団の小規模拠点はここから北西の山脈地帯にあるわ」

 

ゼータ「無法都市の近くだね」

 

イータ「山脈……歩くの、面倒……」

 

ウルティオ「あー……アルファ、今回のその拠点だが……」

 

アルファ「何?ウルティオ?」

 

ウルティオ「今回は、俺とイプシロンの2人で行こうと思ってる」

 

イプシロン「えっ!?」

 

 

 

ウルティオから指名されたのか、イプシロンが驚愕する。

 

が、それ以外の七陰はあまり驚いていなかった。

 

というのも、2ヶ月程前から、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタと、ウルティオが指名して順番に1人ずつ、彼とツーマンセルで教団の小規模拠点を攻めている。

 

流れ的にはイプシロンも自分の出番が来るとなんとなく思ってはいたが、本当に来たので驚いていたのである。

 

ちなみに、この場にシャドウがいないのは、『アトミック』をメインとした魔力に関わる修行中の為、今回は不在だ。

 

 

 

アルファ「そう……今度はイプシロンの出番ということね」

 

ウルティオ「ああ、そういう事だ」

 

デルタ「えー!?ウルティオ様!デルタも行くのです!」

 

ウルティオ「こないだ俺と一緒に思う存分狩りしただろ?今度はイプシロンの番だ」

 

デルタ「うぅ……。

あ!それならガンマ!デルタと戦え!」

 

ガンマ「ええっ!?」

 

デルタ「今度こそデルタが無傷で勝つのです!」

 

ベータ「あっちは置いておいて……ウルティオ様、宜しいのですか?『イプシロン』で」

 

イプシロン「ちょっとベータ?それどういう意味?」

 

ベータ「どういう意味も何も、まだイプシロンを主に拠点を攻めた経験がないから、私はあくまでも心配しているだけなのですが?」

 

イプシロン「ぐっ……!」

(言わせておけばこの天然……!)

 

アルファ「ベータ、ウルティオが指名したのだから、ここは彼を信じましょう。

イプシロンも去年と比べて随分成長している筈だから。

イプシロン、上手くやるのよ」

 

イプシロン「は、はい……!アルファ様!」

 

ウルティオ「決まり、だな。

じゃあ行くぞ、イプシロン」

 

イプシロン「はいっ!ウルティオ様!」

 

 

 

こうして私は、ウルティオ様と共に教団の小規模拠点を攻める事になりました。

 

そうして、『教団』の拠点まであと数kmまで来た時でした。

 

 

 

「さて……これから『教団』の拠点を攻めるわけだが……。

……どうだ?イプシロンがメインでやってみるか?」

 

イプシロン「!

宜しいのですか!?」

 

 

 

ウルティオ様が、私をメインに攻めてみるかと言ってきたのです。

 

これまで私は、拠点攻め等の、『教団』との戦闘面で重要な仕事はそこまで任されていませんでした。

 

今回の『教団』の拠点攻略に私を指名するだけならまだしも、まさか、私をメインに任せてもらえるなんて、私は思っていなかった。

 

それだけに、ウルティオ様のその言葉に驚いてしまったのです。

 

 

 

ウルティオ「なんだ?嫌なのか?

じゃあしょうがない、俺がメインでイプシロンがバックア――――――」

 

イプシロン「やります!やらせてください!」

 

ウルティオ「そ、そうか……」

(えらい張り切ってるな……)

「……よし、ならどう攻めるかの作戦も全部イプシロンに任せる。

俺は全力でイプシロンをバックアップする。

……まっ、思いっきりやってみな」

 

イプシロン「はいっ!ウルティオ様!」

 

 

 

こうして今回の『教団』の拠点攻略は、私をメインに動く事になりました。

 

ウルティオ様に任されたからには、全力でその期待に応えなければ……!

 

そして作戦を立てて拠点のすぐ近くまで来ると、教団の人間と思わしき者が2人、拠点の入口に立っていました。

 

 

 

ウルティオ「見張りが2人、か……。

さてイプシロン、お前ならここからどう攻める?」

 

イプシロン「今回の拠点は逃走ルートがないので、普通に正面突破してもいいのですが、より安全に攻略するなら、見張りを即戦闘不能にして攻めたいですね」

 

ウルティオ「うむ、今回は俺とイプシロン故に、普通に攻めても大して問題は無いが、この組み合わせが変わるとそうもいかない事もあるからな。

よし、じゃあ早速やってみるか、イータの実験で作られたこいつを試すいい機会だ」

 

 

 

ウルティオは吹き矢のような物を取り出した。

 

そしてその吹き矢を2連続で、教団員の頭部目掛けて吹く。

 

すると見張りの教団員はその場で倒れた。

 

 

 

「ふむ、イータの新しい即効性の毒……普通の人間には効果抜群、と」

 

イプシロン「頭部に当たったのも効いてますよね」

 

ウルティオ「そうだな」

 

イプシロン「それでは行きましょうか、ウルティオ様」

 

ウルティオ「うむ。

………とその前に……」

 

 

 

ウルティオがスライムを使い、入口周辺を確認する。

 

するとスライムを通して、入口の少し奥、薄暗い部分にアーティファクトらしき物を確認する。

 

 

 

「……アーティファクトらしきものがあるな、機能を停止させて攻め込むのだ」

 

イプシロン「あ、あんな所に……!?ぜ、全然気づきませんでした……」

 

ウルティオ「最小限の労力で攻略するには入口周辺の警戒も必須……。

とはいえ、アレが停止した途端、中にいる教団の奴らが気づく可能性もある……となれば、静かに暗殺というのは無理か」

 

イプシロン「行き先々にもアレがある事も想定して行かないといけませんわね。

こうなったら、壊しながら攻めるしかないですね」

 

ウルティオ「決まりだな、じゃあ行くとしよう」

 

 

 

こうしてイプシロンを先頭に、教団小規模拠点の攻略が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 教団員,s

 

 

 

教団幹部「……ん?」

 

教団員「どうかされましたか?アンヴェルト様?」

 

アンヴェルト「いや……強い気配が2つ、近づいてきてるようでな……」

 

教団員「強い気配……?そう言えば、アーティファクトの反応が……」

 

アンヴェルト「阿呆、アーティファクトにばかり頼るな、俺のカンが間違った事があるか?」

 

教団員「い、いえ……!」

 

アンヴェルト「なら様子見てこい、恐らくは……最近『教団』の拠点を潰し回ってる奴らかもしれん」

 

教団員「はっ!直ちに!」

 

 

 

教団員の1人が退室していった。

 

 

 

アンヴェルト「たった2人とはいえ……例の組織だとしたら……俺も、腹を括るべきか……。

まあ、この『銃撃』のアンヴェルトは簡単にやられるつもりはないけどな」

 

 

 

そうして『教団』幹部の1人であるアンヴェルトは銃型アーティファクト二丁を取り出して左右の手でクルクルと回していく。

 

そして彼は拠点内の騒動を聞きながら、部屋で待っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side イプシロン

 

 

 

イプシロン「セアァッ!」

 

 

 

イプシロンの大鎌が振るわれ、教団員を2人ほど斬り裂く。

 

一方、イプシロンの後方にいたウルティオは行き先々にある、天井に張り付いているアーティファクトを次々と破壊していった。

 

 

 

ウルティオ「これで32個目、と……。

やれやれ、監視の強さよりも構成員の育成に専念してほしいものだな、俺ほぼほぼ出番ないやん」

 

教団員A「くっそぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

ウルティオ「おっと」

 

 

 

なんて彼が言ってると倒れていた教団員の1人がウルティオに奇襲をかけてきた。

 

だが、そんなものウルティオに届くわけがない。

 

ウルティオは避けた直後、指先から雷のようなものを纏う。

 

 

 

「『プラズマ』」

 

教団員A「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁあ!!?!?」

 

 

 

そしてその雷が教団員に向けて撃たれ、教団員は黒焦げて死んだ。

 

 

 

ウルティオ「大声出しちゃ死んだフリ作戦意味ないだろ、まあほんの微かに呼吸が聞こえたからどっちみちバレバレ何だけど」

 

イプシロン「ウ、ウルティオ様!?もしかして私、討ち漏らしが……!?」

 

ウルティオ(……イプシロンも、教団拠点襲撃を任されたのか、やっぱり少しお熱になってるな。

まあデルタに比べれば全然マシだが)

「これに関しては後で言おう、ほら、先進んだ進んだ」

 

イプシロン「は、はいっ!」

 

 

 

私はウルティオ様に先に進むよう促され、先へと進みました。

 

すると、目には見えませんが、複数の、僅かな魔力を感じました。

 

 

 

イプシロン「ウルティオ様」

 

ウルティオ「うむ、数人、隠れてるな。

左右の人数は同じだが……」

 

イプシロン「私は左に潜んでいる者達を相手しますので、ウルティオ様は右側をお願い出来ますか?」

 

ウルティオ「おーけー」

 

教団員B「くっ!?くそっ!バレたか!?」

 

教団員C「やむを得ん!行くぞ!」

 

ウルティオ「一斉に出て来てどうすんだ馬鹿共。

『ニードルプラズマ』」

 

右側から出てきた教団員達

『ぎにゃあぁぁぁぁぁぁあ!?』

 

教団員B「ゆ、指先から雷……!?」

 

教団員D「まさか、アンヴェルト様にちか―――――」

 

イプシロン「余所見してる場合?」

 

教団員B「はっ―――――――」

 

 

 

ウルティオの魔力によって発生した雷に気を取られた左側の教団員達もイプシロンによって纏めてやられてしまった。

 

そして先に進むと、1人、これまでとは異なる格好をした教団員が1人、銃のようなものをクルクル回して待っていた。

 

間違いない、幹部だ。

 

 

 

教団幹部「ん~~……来たか……。

漆黒を纏った子供2人……やっぱ例の組織か」

 

イプシロン「ウルティオ様。

ここは私1人にやらせてもらえませんか?」

 

ウルティオ「いいだろう、そいつはきっちり取れよ」

 

イプシロン「はい!」

 

教団幹部「おいおい、2人がかりで来ないのか?

俺としてはありがたい所だが……」

 

 

 

教団の幹部らしき者が銃型のアーティファクトを二丁構える。

 

 

 

ウルティオ「フッ、戦ってみれば判るさ」

 

イプシロン「行くわよっ!」

 

 

 

イプシロンが大鎌を持ってスタートを切る。

 

教団幹部の男は二丁のアーティファクト銃を撃っていく。

 

イプシロンはスイスイと、その弾を避けながら向かっていく。

 

 

 

教団幹部「くっ!?早い!?」

 

イプシロン「貰った!」

 

 

 

そして教団幹部目掛けて鎌を振るう。

 

……が、その男は身体を下げると同時、姿勢を低くした。

 

 

 

教団幹部「なんてな」

 

イプシロン「…っ!」

 

 

 

それにより、イプシロンの大鎌が空を切る。

 

それと同時、教団幹部が足払いを仕掛けた。

 

イプシロンはそれを避ける為バックステップ。

 

しかしそれと同時―――――――

 

 

 

教団幹部「それで避けられるか?」

 

イプシロン「っっっ!」

 

 

 

教団幹部が、二丁の銃をイプシロンに向けてそれぞれ2回早撃ち。

 

イプシロンは回避するも、4発の内1発、身体の中心に近い右肩に被弾し貫通した。

 

 

 

ウルティオ(銃の早撃ち技術に、足払いをこなす体術……。

まだ底は見えないが少なくとも、アルファとベータ、ガンマとデルタと、それぞれ一緒に拠点を攻めた時の、幹部よりは面倒くさそうだ。

イプシロン、攻略出来るか)

 

イプシロン(銃弾に毒類はない……これなら、まだ戦える。

でも、隙を見せられる相手じゃない。

となると……)

 

教団幹部「ほらほら、考える暇は与えないぞ!」

 

 

 

教団幹部がイプシロン目掛けて、銃を掃射する。

 

イプシロンは弾の軌道に入らないよう、避けながら男に接近する。

 

その間にイプシロンは大鎌に魔力を込め―――――

 

 

 

イプシロン「これならっ!」

 

教団幹部「はっ―――!?」

 

 

 

魔力の斬撃を、男に飛ばす。

 

魔力の斬撃が飛んだ事に一瞬驚いた教団幹部だったが、一丁の銃でそれを弾く。

 

しかしイプシロンの魔力の斬撃を弾いた銃は壊れ使い物にならなくなった。

 

そして、その隙をイプシロンは狙う。

 

 

 

「ちぃぃぃい!」

 

 

 

男は避けようとするが間に合わず、イプシロンの大鎌によって斬られた。

 

しかし、そこまで深い一撃は入っていない。

 

男は残った銃で、イプシロンを撃つ。

 

 

 

イプシロン「たった一つの銃じゃ、私は撃ち抜けないわよ」

 

教団幹部「カッッッッ!?」

 

 

 

が、イプシロンに当たることなく、もう片方の銃も大鎌によって銃身を大きく斬られ、使い物にならなくなった。

 

彼女が追撃する、これで勝負あったかに見えたが……。

 

 

 

イプシロン「!?」

 

 

 

イプシロンが何かに気づき、回避行動を取る。

 

しかし、それと同時彼女の頬を何かが掠めた。

 

 

 

教団幹部「とと……危ねえ危ねえ」

 

イプシロン「今のは……まさか……」

 

ウルティオ「……魔力の弾丸、か」

 

教団幹部「その通り……魔力に関する攻撃が出来るのは何も嬢ちゃんだけじゃないってこった」

 

 

 

そう、イプシロンの頬を掠めたのは、教団幹部の指先から放たれた魔力の弾丸だった。

 

 

 

イプシロン「アーティファクト任せじゃないって訳ね……」

 

教団幹部「そういうこった、たかがアーティファクトだけで『銃撃』のアンヴェルトって名乗ってねえよ」

 

ウルティオ(指先からも魔力の弾丸が撃てるから『銃撃』という事か……。

イプシロンも、頬の傷は大した事は無いが、肩を……それも身体の中心に近い箇所を撃たれてる……見た感じ、そのままにして長引くとヤバそうだが……まだイプシロンの闘志は折れてない、見守るとしよう)

 

イプシロン「でも結局攻撃は直線的、それなら―――――」

 

アンヴェルト「そういう事は、次の攻撃を見てから言うんだな」

 

 

 

アンヴェルトが親指以外の指を展開し、合計8本の指から魔力の弾丸を放つ。

 

その魔力の弾丸は軌道が滅茶苦茶だが、ホーミングするようにイプシロンに向かう。

 

 

 

イプシロン「!?」

 

ウルティオ(ほう……まるで仮面ラ◯ダーWのル◯ト◯ガーみたいだ)

 

 

 

とっさにイプシロンは魔力を使った防壁を展開した。

 

これにより、8発の魔力の弾丸は防げた。

 

しかしアンヴェルトがイプシロンに接近してくる。

 

 

 

アンヴェルト「魔力で防いだか……だがそれも計算の内……だっ!」

 

イプシロン「あがっ……!?」

 

 

 

アンヴェルトの蹴りが、イプシロンの張った魔力の防壁を突き破り、彼女の腹部に直撃した。

 

イプシロンが怯んだ隙にアンヴェルトが間髪入れずに魔力の弾丸を連射していく。

 

 

 

「うぐっぅ……!」

 

 

 

イプシロンは咄嗟に魔力の防壁を展開するも間に合わず、全弾命中し、ダウン。

 

身体を貫通こそしてないが、かなりダメージを受けたようだ。

 

アンヴェルトは視線をウルティオに向ける。

 

一対一ならこのままイプシロンを追撃するが、ウルティオもいる為、もし彼が仕掛けるなら彼も警戒しないといけない故だろう。

 

 

 

アンヴェルト「そっちのガキは手を貸さなくていいのか?

このままじゃ嬢ちゃん死んじまうぞ?」

 

ウルティオ「そういう事はイプシロンを仕留めてから言うものだ。

……まだ、終わってないぞ?」

 

アンヴェルト「んあ?」

 

イプシロン「うっ……ぐうぅ……!」

 

 

 

アンヴェルトが視線をイプシロンに戻すと、イプシロンが立ち上がり、大鎌を構える。

 

その様子を見ていたウルティオはほくそ笑む、彼女が勝つと確信しているようだった。

 

 

 

アンヴェルト「……チッ、まだ立つかよ……」

 

イプシロン「はぁ…はぁ…まだ…まだ私は負けてないわよ!」

 

アンヴェルト「いい加減大人しく……寝てなっ!」

 

 

 

立ち上がり、再びこちらに向かうイプシロン目掛けて、アンヴェルトは再び魔力のホーミング弾を放つ。

 

それら全てが彼女に直撃する、が、イプシロンは傷を追ってる様子も、怯む様子もない。

 

 

 

「なっ……何故っ!?」

 

イプシロン「魔力の弾丸は悪くは無いけれど、アーティファクト程の威力はない。

それなら、弾丸が被弾する箇所だけ魔力を集中させて、防げばいい……!」

 

アンヴェルト「っ!小娘がっ!」

 

 

 

そう、イプシロンは魔力の弾丸の被弾箇所にのみ、スライムボディスーツを含む身体に魔力を集中させて、魔力の弾丸を無力化したのだ。

 

アンヴェルトは魔力の弾丸が効かないと認識した途端、開いていた手を握る。

 

体術主体で行くつもりだろう、だが、それを見たイプシロンは大鎌で魔力の斬撃を飛ばす。

 

アンヴェルトはそれを、腕でクロスして防ぐ、彼も両腕に魔力を込めて、イプシロンと似たような事をしたのだ。

 

だが……その分、正面以外が手薄になった。

 

イプシロンが即座に、素早くアンヴェルトの背後に回る。

 

そして次の瞬間――――――――

 

 

 

イプシロン「これで……おしまいよっ!」

 

アンヴェルト「があぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

イプシロンの大鎌がアンヴェルトの背中を大きく斬り裂いた。

 

アンヴェルトはうつ伏せに倒れる、身体を両断するには至らなかったが、アンヴェルトの臓腑をいくつか斬った、かなりの深傷だ。

 

 

 

「あっ…ぐっ……おっ……」

 

イプシロン「はぁ……はぁ……」

 

ウルティオ(かなりのダメージを追ったみたいだが、やはりイプシロンなら行けると思った。

後は情報を聞き出して、トドメを刺すだけ。

トドメを刺すだけだったらこのままイプシロンに最後までやらせるが……尋問も含めると少しキツイだろう。

まあ彼女の成長具合を確認するにはもう充分だろう)

「……よくやったイプシロン。

尋問は俺に任せて、魔力で応急処置しときな」

(まだイプシロンでは、魔力で傷を完全に癒やすのには時間がかかる、なら後は俺の仕事だ)

 

イプシロン「はぁ…はぁ…はい……」

 

ウルティオ「さてと、ここからは、蹂躙の……時間だな」ニヤリ

 

 

 

ウルティオはアンヴェルトに悪辣な笑顔を向け、蹂躙という名の尋問を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、拠点攻略後の帰り道……。

 

 

 

「やれやれ、大した情報は得られず……ハズレだったか……」

(強さの面は、イプシロンの成長を促す点としてはややアタリといったところか、魔力のホーミング弾を撃てるくらいには、魔力の扱いも良さげだったからな………)

 

イプシロン「あ、あの……ウルティオ様」

 

ウルティオ「ん?」

 

イプシロン「その……どうして、私を指名したのですか?」

 

ウルティオ「んー?前はデルタの番だったから、次はイプシロンの番だから、という答えじゃ納得いかないか?」

 

イプシロン「はい……」

 

ウルティオ「んーそうだな……今回の拠点攻略を含めて、色々と言いたい事はあるが、まあ真っ先に言いたいのは……」

 

イプシロン「………」

 

ウルティオ「……ちょっとだけ、シャドウや俺、アルファ……まあこの3人の内誰でもいいが、我儘言ってもいいんじゃねえのかい……?」

 

イプシロン「わ、我儘……?」

 

ウルティオ「そ。

イプシロンは自分が未熟だと感じてる、でもそれと同時、自分だって出来るって気持ちはあるんじゃないか?」

 

イプシロン「そ、それは……はい……その通りです……」

 

ウルティオ「だったら、もうちょい我儘言ってもいいんじゃないかと思うんだ。

流石にイプシロン1人だけ、重要なのを任される事はそうそう無いかもしれない、だが、他の奴と一緒に活動する事で、色々と経験出来る筈だ。

今回俺と一緒に拠点を攻めた事で、イプシロンにとって、何か学びはあった筈だ」

 

イプシロン「た、確かに……」

(拠点攻略でも、私はウルティオ様に作戦を任されて、少し熱くなっていた……いくつかの小さいミスだけど、これが私1人だったらどうなっていたか……)

 

ウルティオ「あともう一つ言うなら、そうだな……イプシロンを含めた七陰全員、そう遠くない日に俺とシャドウから一旦離れる時が来る、ってとこかな。

そこからお前たちが、俺やシャドウがいなくてもやっていけるか、見極める為、かな」

(まあ、ぶっちゃけ俺などいなくても原作通りどうにかなるから、これは建前なんだけどね、ホントの所、相手の実力が未知数の場合、デルタを除く七陰の皆だったらどう作戦を立て攻めるかを見て、今後の参考にしたかっただけなんだけど。

シドの奴は修行に関しては精密な癖に、攻める時は作戦もクソも無いからなぁ)

 

イプシロン「な、成る程……その為に、アルファ様やベータ、ガンマにデルタと、それぞれ組んで教団の拠点を攻略していたのですね……!」

 

ウルティオ「そういうこった」

 

イプシロン「でも……一時でも、私達が主様やウルティオ様から離れる時が来るのでしょうか……?」

 

ウルティオ「来るさ、本当に、一時だけどな。

さて、どうやら納得したようだし、帰るか」

 

イプシロン「はい!ウルティオ様!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからさらに2年後、聖域編から半年以上前のお話。

 

アレクサンドリア内を歩いていたイプシロンは、ピアノの音がする部屋へと向かっていた。

 

 

 

イプシロン(当時17歳)

(これは……主様の考えた新しい曲なのでしょうか?

心地よくて……なんというか、子守唄に近いような……)

 

シャドウ(当時15歳)

「あれ?イプシロン?」

 

イプシロン「えっ!?あ、主様!?」

 

 

 

部屋へ向かっている途中のイプシロンは、シャドウガーデンの盟主ことシャドウと遭遇する。

 

しかし未だピアノの音色は止まっていない。

 

では、今ピアノを弾いているのは一体……?

 

 

 

シャドウ「イプシロンがここにいるって事は……今聴こえるピアノを弾いてるのはイプシロンじゃないって事か」

 

イプシロン「わ、私もてっきり、主様が弾いてるものかと……」

 

シャドウ「うーん……僕もこの曲は聴いたことあるような気はするけど、流石にどんな風に弾くかは……あ」

 

イプシロン「?」

 

シャドウ「ピアノを弾いてるのはイプシロンじゃない……。

そして僕も聴いたことがあるようなないようなこの曲……弾いてるのはまさか……」

 

イプシロン「あ、主様……!?」

 

 

 

主様が駆け足で、ピアノの音色が良く聴こえる部屋へと向かい、私も向かう。

 

部屋が近くなって来ると、ピアノの音色と一緒に歌声も聞こえてきた。

 

 

 

『そして 坊やは 眠りについた――――』

 

 

 

ピアノの音色もそうだが、聞いているだけで安らぎを感じる歌声だ。

 

主様ではないのだとしたら、これは誰が弾き、歌っているのだろう。

 

主様は聴いたことがあると仰っていましたが……?

 

 

 

『息衝く 灰の中の炎――――』

 

 

 

シャドウ「……近いな……む?」

 

イプシロン「あの部屋ですわね」

 

 

 

『一つ……二つ……と――――

浮かぶ ふくらみ 愛しい横顔――――』

 

 

 

そして、ピアノを弾きつつ、歌を歌っているであろう人物がいる部屋の扉へとたどり着く。

 

シャドウが扉を開けようとするが……。

 

 

 

シャドウ「………鍵がかかってるね」

 

イプシロン「どうしましょう?主様?」

 

 

 

『大地に 垂るる 幾千の夢 夢――――』

 

 

 

シャドウ「答えは聞くまでもないよね、スライムで鍵を開ける。

間近で聴きたいしね」

 

イプシロン「そ、そうですね……!

間近で聴いてみて、後で教えてもらいましょう……!」

 

シャドウ「まあ、誰が弾いているかは見当がつくけど……」

 

イプシロン「?」

 

 

 

『銀の瞳のゆらぐ夜に――――

生まれおちた 輝くおまえ――――』

 

 

 

ピアノの音色と歌声を聞きながら、私は主様がスライムを使って鍵で扉を開けるのを見ている。

 

そして鍵が開き、主様がその扉を開けると………。

 

 

 

シャドウ「……やっぱり、ね」

 

イプシロン「えっ……!?」

 

ウルティオ『幾億の年月が――――

いくつ 祈りを 土へ還しても――――』

 

デルタ「Zzz……Zzz……。

ムニャア〜………もう食べられないのです〜……」

 

 

 

なんとその部屋にいたのは、歌いながらピアノを弾いているウルティオ様と、ほんの少し奥で寝転がっているデルタだった。

 

嘘……!?ウルティオ様って、ピアノも……!?

 

 

 

ウルティオ『私は 祈り 続ける――――

どうか この子に 愛を――――

つないだ 手に KISSを――――』

 

イプシロン「…………」

 

シャドウ「ほう……間近で聴くとこうも……」

 

ウルティオ『私は 祈り 続ける――――

どうか この子に 愛を――――

つないだ 手に KISSを――――――――』

 

 

 

そうしてウルティオはピアノを弾き終わり、デルタの方に視線を向ける。

 

 

 

「ふぅ……デルタはぐっすり眠ったか。

久しぶりに聴きたくて、色々思い出しながら弾いてみたが……この様子だと、上手くいったようだな……ん?」

 

 

 

ウルティオが何か気づいたようにこちらに視線を向ける。

 

それと同時、シャドウが拍手した。

 

 

 

シャドウ「……お見事」

 

イプシロン「・・・」Σ(*゚д゚*) ハッ!!

 

 

 

隣にいるシャドウの拍手に気づいてイプシロンが我に帰る。

 

それ程までに彼女はウルティオの演奏にしばし絶句(いい意味で)していたのだ。

 

彼女も拍手をしながら、ウルティオに聞く。

 

 

 

「お、お見事でした…!ウルティオ様……!

今の曲はなんてい……はっ!?」

 

ウルティオ「あ……!あ……!あ……!?」

 

シャドウ「む……?どうした?ウルティオ?」

 

イプシロン「ウ、ウルティオ、様……?」

 

ウルティオ「み……!みっ……!みっ……!!」

 

シャドウ「え、ま、待ってウルティオ?なんで『スライムドラグーン』展開して……?」

 

イプシロン(こ、これは……もしかして……!)

「あ、主様!ここは一旦にげ―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルティオ「見るなー!!!

聞くなー!!!」 

 

 

 

そしてウルティオはシャドウと……特に、イプシロン目掛けてスライムドラグーンの弾丸を掃射した。

 

シャドウはそれを防ごうとする前に、イプシロンに手を取られ部屋を出ることに。

 

 

 

シャドウ「え、ちょっと待ってよ、イプシロン。

アレくらいなら簡単に防げ―――――」

 

イプシロン「防いだらもっと強い攻撃が来ますっ!

そうなったらアレクサンドリアが滅茶苦茶になってしまいます!」

 

シャドウ「あ、うん。

でもウルティオ、なんで急に怒ったんだろ……?」

 

イプシロン(鍵をかけてたとはいえ、それを開けて、ウルティオ様の演奏を見たから怒った、なんて想像出来るわけないわよ……!?

あ、でも……主様の手を取って逃避行……!これもありですね!)

 

 

 

こうしてシャドウとイプシロンの逃亡劇が始まった。

 

このあとすぐに、デルタにも追いかけられて、デルタがイプシロンの胸を執拗に狙って、彼女がそれを死守したのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







イプシロン


シャドウガーデン七陰第五席にして、この回のメイン主人公

おそらくレベリオ/ウルティオの、よくわからない怒りのトリガーを最も良く理解したキャラ。

最初は魔力制御の指導をしていただくのが、いつの間にかウルティオとお互いの秘密を共有している仲になっている。

ちなみに、ウルティオが演奏した曲については教えを請いたが教わっていない。



ウルティオ


このシリーズのオリ主

『黒』の魔力の制御、かつ『魔力分身』のアップデートの最中、アルファからのメッセージを受け取り、イプシロンの魔力制御の指導を承諾していたのだが、思ったよりも速くイプシロンが来たことにより修行シーンを見られてしまい、自身のよくわからない怒りのトリガーが発動(どう考えてもウルティオに非がある為逆ギレのようなもの)した。
※尚、後でドッキリと称してイプシロンを驚かせていた。

その後はイプシロンに魔力制御の指導をする過程で、彼女とお互いの秘密を共有する事になる。

ちなみに、イプシロンに『魔力制御』を教えたが、シャドウにもアルファにも教えていない。

クレア誘拐事件の数ヶ月前から、七陰1人1人とツーマンセルで教団の小規模拠点を潰しに行っていたのは、七陰がシャドウと自分から離れても上手くやっていけるかを見極める……というのを建前として(実際原作でもどうにかしてる為)、いざ自分が拠点攻略の作戦を考える際、七陰1人1人が、拠点攻略の作戦をどうするか参考にするためだった。

また、自身が陰実世界に介入後、七陰1人1人の成長を促す為に、敢えて七陰1人1人に教団幹部と一対一の状況を作ったり、一対一でやってみるように言ったりした。
※アルファやデルタ、イプシロンは自分から1人で戦いたい等言って志願している。

ピアノの腕に関してだが、感覚で弾いている為にシドやイプシロンと比べると劣る(『月光』すらまともには弾けない)が、前世で記憶に残ってた1つの曲はこっそり練習して弾けるようになり、デルタに聴かせて彼女が眠って少し経った所でシャドウとイプシロンに目撃されて憤慨した。



シャドウ


陰実原作にっぶい主人公

この回では聖域編から約1年近く前でのみ登場。

アレクサンドリアを徘徊している所、ピアノの音色が聞こえ、イプシロン自身が考えた新曲かと思って演奏してる部屋を目指すと、同じく部屋に向かっているイプシロンと合流。

そして曲をよく聞くと、前世で聴いたことのある曲、イプシロンは弾いていない、これらの点でウルティオが演奏してると予想しイプシロンと共にピアノの音色が聞こえる部屋へ向かう。

いざ部屋へ向かい、鍵をスライムで開け、ウルティオの演奏を聞き終えて、彼としては見事と言うレベルの演奏だったが、演奏してる所をを見られたウルティオが激昂、その理由がわからないままウルティオのスライムドラグーンを軽々とやり過ごしイプシロンに連れられて逃走した。


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