決して交わらない筈のこの2つの作品が、今、交わる!
色々な違いとかは、目をつぶって下さい。
1984年、夏。常節中学校の校門に立つ数人の教師と当番の生徒。登校する生徒たちに挨拶している。
それを見ながら、俺、井之頭五郎は自身の中学校時代を思い出していた。
懐かしいなぁ。あの頃は、少し大人になった気がして、やんちゃしたりしたもんだ。
「すみません」
「えっ、あっはい」
近っ!何だこの人!?
「貴方、見たところ社会人のようですが。何故、こんな中学校に?」
「えっと、私、こういうものでして...」
名刺を取り出し、渡す。彼は、じっくりと見て、言った。
「成る程、貿易商...なら、余計に解せませんね。中学校に来る理由がない」
「えっと、ここの校長先生に頼まれまして。今度美術の授業で外国の美術品を見せたいというらしいので、今日、持ってきたのです」
彼はじっと私の目を見つめてくる。
怖い怖い。
「...そうですか。これは、失礼しました。校長室はあちらですので、まずは手続きをしてから、お入り下さい」
「あぁ、どうも...」
そうして彼は校門に戻り、黙って立っていた。
随分圧の強い人だな。
◇
私は甘利田幸男。私は給食が好きだ。給食のために学校に来ているといっても過言ではない。しかし、私は、ただ心の奥底で給食を愛するだけ。
なぜなら、教師が生徒以上に給食を楽しみにしているなどと知れたら、威厳が失墜するからだ。
さて。今日の私はテンションアゲアゲ、マックスである。それは何故か?
そう。今日の献立は、たまに現れる給食のレアキャラ、ハヤシライスなのである。
ハヤシライス。その単語だけで私の心に林の美しい景色を生み出している。
「あの、甘利田先生」
あぁハヤシ。カレーと似ているが異なる存在。早くその違う理由を味わいたい!
「甘利田先生!」
「っ!何でしょう?」
「あそこ、何か知らないサラリーマンの人がいるんですけど」
私がその方向を見ると、確かに居た。見た目は壮年だが、かなり老けているという訳では無い。どこか若若しさすら感じさせる。
「私がいきましょう」
「よろしくお願いします」
男の下へと向かう。やつは、何か他のことに集中しているのか、私には気づかない。
「すみません」
「えっ、あっはい」
男が反応する。その時、私は何か違和感を覚えた。なにか、近しいものを感じるというか...
「貴方、見たところ社会人のようですが。何故、こんな中学校に?」
「えっと、私、こういうものでして...」
名刺を取り出し、渡してくる。貿易商。名は、井之頭五郎。
「成る程、貿易商...なら、余計に解せませんね。中学校に来る理由がない」
「えっと、ここの校長先生に頼まれまして。今度美術の授業で外国の美術品を見せたいというらしいので、今日、持ってきたのです」
...校長の客か。なら、ほっといていいか。
「...そうですか。これは、失礼しました。校長室はあちらですので、まずは手続きをしてから、お入り下さい」
「あぁ、どうも...」
そうして私は校門に戻る。そうして、再びハヤシライスに思いを馳せ始めるのだった。
◇
「いやぁ、素晴らしい!流石は名だたる企業から引っ張りだこの井之頭さんだ!」
「いやいや、それは言い過ぎですよ」
さて、何とか無事商談は終わった。しかし...
商談が終わったら...
腹が、減った。
よし、外にでて、店を探そう。と、その時だった。
「校長先生!」
「おや、どうしましたか?」
「給食なんですが、どうも1人分多く用意しちゃったみたいなんですよ。そこで、廃棄するのもあれなんで校長先生に渡しておこうかな、と」
余りか。久々に給食、食べたいなぁ。
と、校長先生が俺に提案してきた。
「それなら、井之頭さん、給食、食べていってはいかがです?」
「え?...いやぁ、悪いですよ」
「いえいえ!寧ろ私に渡されても残してしまいそうですから!廃棄するのもあれなんで、ね?」
うーん、どうしようか。給食だと、足りないような気もするしなぁ...
...ま、たまにはいいか。
「じゃ、お言葉に甘えて」
◇
「皆さん!今日の給食は、お客様の井之頭五郎さんもこの教室でいただくらしいので、色々教えてあげて下さい!」
『はーい!!!』
さて。俺はこのA組で給食を食べることになった。それは、いいのだが...
「...」
まさか朝あったあの人のクラスとは。いやはや、世間は狭いものだ。
「井之頭さん。ここでは、食べる前に校歌を歌うんです。だから、少しだけ待っててくださいね」
今日座らせてもらっている席の隣の生徒、神野ゴウ君が教えてくれた。中々、面白い給食の始まりだな。
そして、校歌の合唱が始まった。ちらっとあの先生の方を見ると、なんと、物凄くノリノリで身体を揺らしていた。いや、動き過ぎでは?
腕、机にぶつけちゃってんじゃん。
「手を合わせて下さい。いただきます!」
『いただきます!』
さて、献立を先ずは確認しよう。
ご飯 〜安心と信頼の、白米。〜
ハヤシスープ 〜肉と野菜のバランス、よし!〜
コーンサラダ
〜コーンだが、ツナが入った和風系。〜
牛乳
〜いつの時代も、飲まれてきた伝統の味。〜
「いただきます」
さて。久々の給食だ。まずは、メインのハヤシから。
「はむ...」
うーん、懐かしいような味。だが、しっかりとハヤシの味だ。大人でも満足できる味付け。
しかし、ここで終わらない。なんてったってライスがあるのだ。ハヤシをライスにかけて...
ハヤシライス、完成。
この手の料理は混ぜて食べるか、比率を考えて食べるかの2つのパターンがある。俺は比率を考えてる人間だが...
えーい、今日はいいだろう。思いっきり混ぜて、食べる!
「うんうん、うまい」
何だが懐かしくなってきた。昔は比率なんて考えずに、こうやって混ぜたものだ。
ここで、コーンサラダも挟もう。
うん、ツナのしょっぱさと酸味が相まってサラダとは思えない味を生み出している。意外と合う組み合わせ、トップテンに入れそうだ。
...しかし、一気に少なくなったな。じゃ、ラストスパートといきますか。
◇
「常節中学校〜♪」
さて、念願のハヤシちゃんだ!この滅多に現れないレアキャラと出会うために何度眠れない夜を過ごしたことか。
よし。じゃあ...いただきます!
先ずはやはりハヤシ!具材は、肉と野菜のバランスが絶妙だ。子供の栄養を考えつつ、満足感を与えようと考える偉い人に感謝しかない。
あー、ん♪
う、うまーーーい!!!!
口の中で、肉と野菜の林が一気に広がっていく!森の音楽隊ならぬ、林の音楽隊のようだ!
うまい!なんてうまいんだハヤシ!
「やっぱハヤシライスうめー!」
生徒の1人がそういう。
ん?あ、あぁ、そうだった。今日はあくまでハヤシライス。ハヤシ単品で楽しむものではない。素材の味は堪能したし、いざ!
投入!
...んはぁ〜〜♪
これこれ!やっぱりこれぞパーフェクト!
私は、カレーライスと並んでハヤシライスは料理の完成形の一つと考えている。さぁ、パーフェクトなその味を楽しませておくれ...
いや、待てぇぇぇ!!?
聞こえる...あの声が!コーンサラダの食べてほしいという声が!
すまない...私は、目先のレアキャラに気を取られ、いつも支えてくれる君たちのことを忘れていた...
一口。うまい。こういうサラダは、私を、給食を食べているという気持ちに改めてさせてくれる。
...じゃ、改めてぇ!?
ハヤシライスちゃ~ん?を、いた、だく!
...うまーーー...ハッ!!
いかんいかん。うますぎて、気絶しかけた。
しかし、ご飯...ライスと合わせるだけで数倍もランクアップしている。素晴らしい...!
それじゃあ、牛乳を一口飲んで...開演だ!
ハヤシ!コーン!ツナ!ライス!牛乳!順番にドンドン食べる!
今日の主役は、君たちだァァァァ!!!!
...ふぅ。今日も、整った。
ん?あれは...
!?なんだと!?ヤツが...なにもしていないっ!?
神野ゴウ。私と同じく給食を愛するもの。普段のヤツは私の想像の域をこえたアレンジを見せてくるのだが...まさか、なにもしていないとは。
流石のヤツも、ハヤシライスの威光の前には無力、ということか...?
いや、なんだ?どこを見ている?
あれは...井之頭さん?
彼は何か特別なことをしているのかと思えば、何もしていない。ただ、食べているというだけ...!?
な、何だ!?目が、目が離せないっ!ただ食べているというだけなのに、ヤツがやって食べているアレンジのときのように目が離せないっ!!
どういうことだ?彼は何も...まさか!ハヤシライスを、混ぜているからか!?
なんてことだ!そんな食べ方、大人じゃああり得ないだろーーーー!!!!?
でも、うまそーーーー!
あぁ、なんていい表情なんだ。
私は、給食が好きだ。給食のために学校に来ているといっても過言ではない。
貿易商、井之頭五郎。ヤツ以外に私のライバル足り得る者がいるとは...
負けた。完全、敗北だ...
こうして、私はいつものように教室の床に倒れ伏すのだった。
◇
「いやぁ、美味しかったなぁ」
さて、じゃ、帰るか。
と、その時。
「あの!」
「君は、神野君。どうしたんだい?」
「えっと、井之頭さんに聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「僕、給食が好きなんです。でも、今日井之頭さんの食べる姿を見て、まだまだだと思いました。そこで、どうすれば井之頭さんのようになれるか、聞きたいんです!」
オイオイ、俺みたいになりたいって?変な子だなぁ。ま、強いて言うなら...
「何か特別なことをしている訳では無いさ。ただ、俺は誰にも邪魔されず、自由に食べれればそれでいいからね」
「自由、に...ありがとうございます!」
「どういたしまして」
よくわからないが、伝わったようだ。よかったよかった。じゃ、帰るか。
こうして、俺の給食は終わったのだった。
◇
神野が彼になにかを聞いている。井之頭五郎。彼は給食を愛している者ではないのかもしれない。
だが、食事を愛している。そう、感じた。
私は甘利田幸男。私は給食が好きだ。給食のために学校に来ているといっても過言ではない。
私は、ただ心の奥底で給食を愛するだけ。
明日の給食も、楽しみだ。
おいしい給食も孤独のグルメもどっちも面白いので好きです。