手紙   作:匕囗

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※プレ投稿みたいなものだからおおらかな気持ちでオネガイシマス


手紙

 その日僕は、リシャール王と共にソロン王に招かれていた。

 宴自体は夜に開かれるということだったけれど、その前に茶でもどうかとソロン王自ら誘いに来てくださって、守り手三人、ごく私的で気軽なひとときを過ごしていた。

 そして―あの報せが飛んできたんだ。

「陛下、少々よろしいでしょうか」

「ん?」

「その…“角”に関することで」

「ならば二人にも聞いてもらった方がいいだろう。このままでいい、どうした?」

「は…。警備隊が倒され、賊の侵入を許してしまったと…」

「何…!?」

 色めき立つソロン王に、僕とリシャール王は顔を見合わせた。

「どうしたんだ、そんなに慌てて。“角”ってのは何のことだ、ソロンのおっさん?」

「隣国とは友好関係を築いていると聞いてますが、どこかに見張りを立てていたのですか?」

 ソロン王は緊張を滲ませ、伝書に目を走らせながら「“門”だ」と告げた。

「死の谷の最奥、谷間に隠れるように聳える巨大な門。そなたらには手紙で報せただろう」

「ああ、あの。伝承に聞く“フィニスの門”と思われる、ってやつか」

 “フィニスの門”――。神話の時代にフィニスがオルサに会うため開いたと云われる、死者の世へと繋がる扉。

 ソロン王からの手紙を読んだ時もそうだったけど、どうして門の名前を聞くとこんなに胸が騒ぐんだろう。何か……何か大切なことを忘れているような…、思い出さないといけない何かがあるような…。

「死の谷の魔物は凶暴だ、あの地に向かった狩人や行商がそのまま帰らないことも多い。だからこそ谷の入口には注意を促す看板を立て、定期的に見回りの兵を送っている、が…。それとは別に、あの門には警備を置いていた」

 門の調査を行う学者たちと、彼らを守るための警備隊。警備隊は死の谷での戦闘経験がある者を中心に編成されていると、ソロン王は語った。

「凶暴な魔物を退ける程の警備隊、それを倒した賊か…。きな臭くなってきやがったな」

「その賊の目的や規模は判っているんですか?」

 伝令は困惑を浮かべ、自身もまだ信じられないと言いたげに口を開いた。

「それが…女性が一人、と」

「間違いねえのか?」

「はい。女性が短剣で警備を全員を昏倒させ、門の向こうへ消えた…とのことで」

 伝書の該当部分を読むソロン王の眉根が寄る。

「調査員に襲いかかろうとしていた魔物を追い払ってから門を潜った、か。目的は……人探し?」

 その女性はたった一人で現れ、ある人を捜しに門を通りたいと告げた。訝しんだ警備が立ち去るように告げたが、どうしてもと食い下がり、それも断ると武力行使に出たという。

 警備の八名全員が易易と倒される様を見ていた調査員たちは震え上がり、何人かはその場から逃げ出した。が、その先でバーディアンに襲われた。死を覚悟した瞬間、一本の矢がバーディアンを貫き、周囲を飛んでいたバーディアンたちも続け様に飛んできた矢に射抜かれ、散り散りになった。

 『怖い思いをさせてごめんなさい。…信じて頂けないかもしれませんが、あなた方を傷付けるつもりはありません。警備隊も、みんな倒すつもりはなかったんです』

 腰を抜かしていた調査員と目を合わせるように屈んだ女性はそう言うと、『警備隊が目を覚ますまでにまた襲われたら』と幾つかの精霊石と傷薬を手渡してくれた。

 女性に敵意が無いと感じた調査員が『門の向こうがどうなってるか判らない、戻ってこれないかも知れない』と止めると、女性は―

 

『戻るつもりはありません』

 

 そう、儚く微笑んだ。

 女性が門の向こうへ消えて程なく、警備たちが目を覚ました。驚くべきことに、皆気絶させられただけで、大した傷は負っていなかった。

「“女性は最後まで名乗りませんでしたが、あれだけの強さであれば、どこか名の知られた方である可能性があります”――か」

「警備全員を一人で相手取って、無傷で勝った? しかも警備は気絶させられただけ?」

「派遣した警備隊は我が国でも精鋭と呼べる者たちだ、それを……。俄かには信じ難いな…」

「闘技大会のチャンピオンとかか? 速さならティキレンかリ・トゥ…。あ、弓も使うならどっちも違うな」

「うむ。“夜空のような濃い青の短い髪と、深い緑の瞳”だそうだ。どちらも特徴からは外れるな」

「…濃い青の髪、深い緑の瞳……」

 伝書の内容を聞く途中から、脳裏を過る一人の女性の姿があった。

 確証はない。でも胸騒ぎが、どこか確信を伴った予感に変わっていく。

「……行かなきゃ」

 比類なき強さ。守ろうとする意思。儚く淡い笑み。

 聖火に照らされた、悲しげな横顔が蘇る。

「お、おいどうしたロンド。顔が真っ青だぜ?」

「死者の世界で、生者が無事でいられるわけがありません。助けに行かないと」

「しかし、我らは門の向こうの知見が無い。向かうならば相応の準備を――」

「それでは間に合わなくなります!」

 自分でもどうしてこんなに焦っているのか判らない。ただ

「僕はもう、失いたくないんです…!」

 胸の内から焦燥感が湧き上がる。

 立てかけていた剣を取り、ソロン王に向き直る。賢王は既に、僕が何を言うかを判っているように応えてくれた。

「ソロン王陛下、僕はその人を追います。せっかくお招き頂いたのに、申し訳ありません」

「構わんよ。だが一人で向かわせるわけにはいかんのでな、控えの隊と共に行くといい。話は通しておこう」

「お心遣い、感謝いたします。では―」

「お、お待ちくださいロンド殿…!」

 二人の王に一礼し、場を辞そうとした瞬間、伝令に呼び止められた。今は一刻の猶予もないというのに、いったい何なんだろう。

「実は、その女性からと思しき文も届いているのです」

「む、何故それを早く言わなかった?」

「それが…“ロンドという聖火騎士が追おうとしたら渡してほしい”と添え書きがありまして…」

「ロンド、何て書いてあるんだ?」

 渡された手紙を開くと、細い筆致でただ一言だけ綴られていた。

 

『来ちゃ駄目だよ、ロンド』

 

「―――…」

 “彼女”の声が、頭の中に響いた気がした。

 昏い世界に向かいながらこちらを振り返り、困ったように笑って。

 瞳は暗く、沈んだまま。

 鮮やかな緑だった筈なのに―

「……ッ!」

 急に息が苦しくなり、目の奥で火の粉のような光が舞った。壁に手を付き、歯を食いしばる。リシャール王が僕を呼んでいるのが、膜を張ったように遠く聞こえる。

 

 “ロンド”と呼ぶ、誰かの声が重なる。

 大切な……とても大切な、誰かの声。

 …大切だった。

 僕を導いてくれた炎。

 僕を信じてくれた光。

 大切な二人の声――それを焼き尽くさんと、黒い炎が燃え盛っている。

 ……消させない。

「―青き炎は我が魂…、我が守り人なり―」

 これ以上、僕の何も奪わせない…!

「聖火よ、闇を制す力を!!」

 

「うわあぁああ!?」

「……あ」

 近くから聞こえた声に瞬けば、リシャール王が急いで飛び退ったところだった。

「ちょ、おま、ロンド! いきなり聖火出すなよ、びっくりするだろ!? あとまた燃えてっけど、本当にそれ大丈夫なのか…?」

「大丈夫です。…リシャール王、“また”って、僕が以前聖火に包まれた時のことを覚えているんですか?」

「あー……いや、思い出せねえな。なんかそんなことがあったような気はするんだが」

 思い出せてはいない、か。でも焼き尽くされたわけじゃない、きっと思い出せる筈だ…!

「ふむ、顔つきが変わったな、ロンド殿。詳細を聞かせてもらいたいところだが、急ぐのだろう?」

「はい。迎えに行ってきます、僕らが忘れてしまった彼女を――“選ばれし者”を」




この後の展開は二通り。

一つは悲嘆と絶望に呑まれるけれど、いつか希望に至るかも知れない。遠く救われる白銀。幸せではないが救いを得る金色。

もう一つは拭いきれない悲しみを負い、互いの傷を舐め合うような掛け替えのない日々。救われない白銀。痛みと共に幸福を得る金色。

どちらも書くけど投稿するかは未定。
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