職場をクビになった。
理由はなんとなく分かる。
部下の一人が俺の活躍を妬んで部下の同僚や俺の周りの人達に俺のよからぬ噂を流していたことは、職場の友人からもよく聞かされていた。
ただ、別に何かしようと言うわけでもなく悪口だけだった為に噂について触れられた時にそれとなく否定するだけだった。
それがダメだったのだろう。
元々部下の失態は上司である俺に来るような職場だったこともあり、俺の部下はわざと失敗を繰り返し俺の上からの信用を失わせようとしていた。
上は俺の仕事っぷりを評価していたらしいが、なんでも俺の部下はお偉いさんの息子だとかで確実に俺に非がなくとも上は俺のせいにした。
その積み重ねがやがて山となり、俺はクビになったのだ。
元々、親父に憧れて就職した。ただ、親父が死んだ今となっては幽霊の背中を追いかけるだけの空虚な日々だった。
そう考えると、都合が良かったのかも知れない。
別に、クビになったことで絶望しているわけではない。
幸か不幸か、これといった熱中できる趣味もなかった為に貯金だけはしてある。
仕事が決まるまでは食うに困ることはないだろう。
家に帰ると、着替えるまもなくベッドへと飛び込む。
「これからどうすっかな……」
食うに困らないとは言え、不慮の事故や予想外の出費の可能性を考えると万全とは言い難い。
多くの不安は残っているが、今日のところは何もかも忘れて寝ることにしよう。最近は短い睡眠ばかりが続いていたし、明日はお昼ごろまで寝てやろう。
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ふと、聞き慣れた携帯のアラームで目が覚める。
「そういや、アラーム切るの忘れてたな……げ、まだ7時かよ。まぁ、起きちまったもんは仕方ないし起きるか──なっ!」
起き上がり、布団から出ようとした瞬間俺の時は止まった。
空いた口が塞がらないと言うのは、こう言うことなのだろう。どう言う状況なのか全然わからないだって? ああ、そうか。なら、手短に言おう。
──知らない幼女が隣で寝ていた。
「え? は!? いや、待て待て。俺はそんな趣味なかったいぞ? 玄関の鍵は掛けてたし、寝る前までの意識もある……じゃあこの子誰だよ」
目の前の状況を一切飲み込むことができず、ただあたふたすることしかできないで居ると目の前の少女がモゾモゾと動き始めた。
「ん……先生?」
「いや、俺は先生ではないが?」
慌てすぎて逆に冷静に返してしまったが、俺の言葉を聞いた瞬間に少女はカッと目を覚ますとベットから飛び降りた。
身のこなしが軽すぎて、寝起きとは到底考えられなかった。
さらに、慌てて気づかなかったがこの少女ツノや翼が生えている。しかも、禍々しい天使の輪っかも頭上に浮いている。もはや、この世のものとは思えない少女は俺を睨んでいた。
「あなた……誰? なんで私の寝室にいるの?」
「はぁ? 私の寝室ってお前、ここ俺の部屋だぞ?」
「何をいってるの、ここは私の……部屋……」
俺に指摘され、あたりを見回しようやく自分が身に覚えのない部屋にいる事に気が付いたようだ。
そこで俺は誤解されないよう、すかさず補足を入れる。
「ちなみに、俺は誘拐してきたわけじゃないぞ? 朝起きたらお前が俺の隣で寝てたんだ」
「……信じられない」
「信じるも何も俺はお前のツノとか輪っかの方が信じられねぇよ。ホログラムとかか? それ」
「? ヘイローを知らないの?」
「なんだそれ? ゲームかなんかのアイテム?」
「っ、バカにするのも大概に──」
くぅ。
突然、小さな音が少女から聞こえる。おそらく、腹の虫が鳴いたのだろう。
少女は顔を真っ赤にさせながらも、こちらを睨み続けている。
「……取り敢えず飯にするか?」
俺の提案に、少女はコクリと頷くだけでそれ以降の返事が返ってくることはなかった。
****
「で? お前もなんで起きたらここにいたか分からない感じ?」
「……ええ」
朝食を作ると、少女は空腹だったのか黙々と食べ始めたと思ったらあっという間に平らげてしまった。
お互いテーブル越しに向かい合い、コーヒー片手に状況の整理をしようと試みているが……。
「そろそろ睨むの辞めてくれる? ロクに話もできないんだけど?」
なぜかいまだに警戒されている。
「はぁ……空崎ダイゴだ」
「?」
「名前だよ名前。お前にもあるんだろ?」
「……空崎ヒナ」
瞬間、再び長い沈黙が訪れる。
「いや、ちょっと待て。空崎って……俺に親戚はいない筈だぞ?」
全員から縁切られてるし。
「私だって大人の知り合いなんて一人しか記憶にないわよ」
「まぁ、苗字が同じ奴なんて珍しくもないが……状況が状況だからな。取り敢えず苗字呼びはややこしい、ヒナと呼ばせてもらう」
「別に……好きにすれば」
相変わらず警戒はされているようだが、ほんの僅かに鋭い視線が緩くなった気がした。
「それで、ヒナはどこ住みの人?」
「ゲヘナ学園の寮ね」
「ゲヘナ学園? なんだその禍々しい学校、どこの地区だ?」
「キヴォトスよ」
「き、キヴォ……なに?」
「キヴォトス、ここもキヴォトスでしょ?」
「いや、日本だけど?」
「日本?」
なぜだろう、明日会話が噛み合っていない気がする。
取り敢えず家にある端末をテーブルに置き、ここが日本であると言うことを証明する為に色々な情報をヒナに教えるとみるみると険しい顔になっていった。
それから、ヒナの言うキヴォトスなる場所について詳しく話を聞いてみる事にした。
「キヴォトスってのはつまり、大雑把に言うと銃で撃たれても死ない超人たちの住む場所って事で合ってるか?」
「キヴォトス基準ではそれが普通なのだけど……この世界だと私達は超人の部類に入るようね」
「なるほど……さっぱり分からん」
いきなりSFチックな方向に話が飛躍しすぎて、情報の整理が追いつかないがヒナのツノや翼、ヘイローと呼ぶ輪っかを見る限りあながち嘘とは言い切れないのも事実。
ただ、一つ問題があるとすればなぜ俺の部屋に突然現れたのかと言う事だ。
「謎が多すぎるな」
「そうね……なんとしてでも戻らないと行けないわ」
「そういや、さっきから切羽詰まってるけど戦争でもしてたのか?」
「いいえ──仕事があるわ」
衝撃の発言に空いた口が塞がらなかった。今日一にだけで顎が痛くなるには十分だ。
「いやいや、そんな心配する歳じゃないだろ? ほら、周りにも頼れる人とかいるんだろ? 少しは任せとけって。それに、急ぎすぎて帰るための情報を見落とす可能性だってあるんだ」
「そうね……でも、私がやらなくちゃいけないの」
「えぇ……」
朝起きたら、隣で寝ていたこの少女──空崎ヒナは思ったより社畜精神を兼ね備えているのでは? と思わずにはいられなかった。
あらすじが雑だって? う、うるさいやい!