仮面ライダービルドーWe The Oneー   作:K-K

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コツコツと書いていた続きです。


その2

「名前だぁ? そんなもん、死ぬまで考えてろ!」

 

 エボルが地を蹴る。コブラのような動きで残像を残しながら一瞬で間合いを詰め、その拳がブラッドイーターの変貌した顔面へと叩き込まれた。 しかし、その感触は硬質な装甲ではなく、泥沼のような弾力。シンビオートの肉体がエボルの拳を包み込み、衝撃を殺すと同時に腕を絡め取った。

 

「こいつは、お前の「進化」への皮肉だ……!」

 

 ブラッドイーターが吼える。機械的なボイスチェンジャーを突き抜け、獣の咆哮が混じる。シンビオートによって強化されたその腕が、エボルの胸部装甲を掴み、そのままゼロ距離でネビュラスチームガンを連射した。黒い衝撃波がエボルを突き飛ばし、周囲のコンクリートを粉砕する。

 

「チッ……鬱陶しい生命体だ」

 

 エボルは空中で体勢を立て直し、着地と同時にエボルドライバーのハンドルを回す。

 

『Ready Go! エボルテックフィニッシュ!』

 

 天球儀を模したエネルギーがエボルの足元に発生し、星のエネルギーを纏わせた蹴りが放たれる。だが、ブラッドイーターはそれを避けない。背中から無数に生えた黒い触手が、盾のように編み合わされ、凄まじい爆発を真正面から受け止めた。

 煙の中から現れたのは、装甲の一部が焼けただれながらも、瞬時に「再生」していく異形の姿。

 

「……そうだ。ヴェノム。毒には毒、星喰いには喰えば死ぬ『猛毒(ヴェノム)』がお似合いだ。ヴェノム・スパイダー……。いや、少しばかり長いな。──ああ、そうだ」

 

 新しい名がようやく浮かぶ。

 

「ヴェノムスってのはどうだ?」

 

 ブラッドイーター、いや、自らをヴェノムスと名付けた男は牙を剥き、獰猛に笑った。

 

 

 

 

 戦兎は目の前の光景に言葉を失っていた。

 

「……万丈。お前、何やってるんだ?」

 

 戦兎の問いかけに、万丈は答えられない。なぜなら、近所のスーパーからいつの間にか買って来た「牛もも肉・業務用ブロック(2kg)」を、パックから掴み出し、そのまま生でムシャムシャと貪り食っているからだ。

 

「もぐ……もぐ……。いや、戦兎、止まらねえんだよ! 体が、体が肉を求めてやがる!」

 

 万丈の肩からは、黒い粘液の頭がニョキッと生え、万丈と一緒に肉に食らいついている。

 

『美味い! この脂身、そして鉄分! 地球の家畜は最高だ!』

「お前も食うなよ! つーか、会話に混ざるな!」

 

 戦兎、美空、紗羽の三人は、カウンターで「生肉パーティー」を繰り広げる一人と一匹を、完全に引き切った目で見つめていた。

 

「ねえ、戦兎。あれ、本当に万丈なの? 宇宙の新種のゴリラじゃないの?」

 

 美空が、万丈から一番遠い席で震えながら呟く。

 

「……一応、万丈だ。ただ、あのシンビオートっていう寄生生物の代謝が異常に高いせいで、宿主の万丈が常に飢餓状態になってるんだと思う。……それにしても、せめて焼こうよ」

 

 戦兎がフライパンを差し出すが、「シャーッ!」と威嚇される。

 

『火はダメだ! 死んだ肉は好かん!』

「おい、戦兎を脅すんじゃねえ! わりぃな戦兎。こいつマナーがなってなくて……あ、これタン塩? ありがとな!」

 

 万丈の体から伸びた触手が掴み上げたタン塩を、そのまま口に放り込む。

 

「……あの、万丈君。それ、まだ解凍しきってない冷凍肉なんだけど」

 

 紗羽がノートパソコンの陰から恐る恐る指摘する。

 

「関係ねえよ! シャリシャリしててアイスみたいで美味いぞ!」

『アイス! 良い響きだ!』

「うおお……味覚まで変わっている……」

『チョコレートはあるか? チョコと脳みそは成分が似ているから大好きだ!』

「脳みそとか言うなよ! 物騒なもん食おうとするな!」

 

 万丈が自分の肩から生えたシンビオートの頭をパシッと叩いた。

 

 

 

 

 シンビオートを回収にし来たヴェノムスと戦闘に入る直前、シンビオートから万丈に提案する。

 

『待て、万丈。今のままでは勝てない。俺を使え』

「お前を使え……だと?」

『お前の怒りに合わせて、俺が形を作ってやる。……さあ、最高のディナータイムを始めようぜ!』

 

 シンビオートが万丈の持つグレートクローズドラゴンを包み込み、その姿を禍々しい黒銀の色へと塗り替えていく。万丈は覚悟を決め、その変貌したグレートクローズドラゴンをビルドドライバーに叩き込んだ。

 

『グレートクローズドラゴン! シンビオート!』

「変身!」

 

 万丈がハンドルを回すと、いつもの青い炎ではない。 黒い粘液が爆発的に噴き出し、万丈の全身を飲み込む。その中から、エボルの装甲を模したような有機的なラインを持つ、漆黒のクローズが姿を現した。

 

『ウェイクアップクローズ!! ゲットオーバー! We Are Venom! Yeeaahh!』

 

 本来のグレートクローズの意匠を残しつつも、全身が脈動する黒い筋肉のような質感に覆われた姿。 複眼は吊り上がった白い瞳へと変わり、胸には縁が黒く燃える龍の白い紋章が刻まれ、生物のように蠢く。

 

「何だ……力が、内側から溢れてきやがる……!」

「ほう、シンビオートを制御したか。だが、付け焼き刃で俺に勝てると思うなよ!」

 

 ヴェノムスが高速移動で距離を詰め、破壊的なパンチを放つ。 しかし、クローズはその拳を避けない。 クローズの背中から黒い触手が瞬時に伸び、ヴェノムスの腕を絡め取った。

 

「捕まえたぜ!」

『そうだ、万丈! 叩き潰せ!』

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

 クローズドの仮面の口が開き、牙が並ぶ口から咆哮すると、その声は万丈の声とシンビオートの重低音が重なった二重の声となる。 万丈の格闘センスに、シンビオートの変幻自在な質量攻撃が加わる。 クローズの拳がヴェノムスの胸板を打つ直前、拳が巨大な「黒い塊」へと膨張し、ヴェノムスを数百メートル先まで吹き飛ばした。

 

「嘘だろ……今の威力……」

『驚くのはまだ早い。俺たちの本気を見せてやれ!』

 

 万丈はハンドルを再び回す。 ビルドドライバーが、恐ろしい駆動音を鳴り響かせた。

 

『Ready Go!』

『シンビオティックフィニッシュ!』

 

「これで終わりだ……! 今の俺たちは、負ける気がしねぇ!」

 

 クローズが宙へ跳ぶ。その背中から黒い翼のような触手が広がり、ヴェノムスの逃げ場を塞ぐ。 急降下するクローズの脚部には、シンビオートの力が上乗せされ、黒い粘液の渦が収束していく。

 

「ハアァァァァッ!」

 

 ヴェノムスのガードを突き破り、黒い龍の形をした衝撃波が大地を穿つ。 爆煙の中から、変身を解除されたヴェノムスが膝をつく姿が見えた。

 

「まさか……出来損ないの共生体に……!」

 

 ヴェノムスは忌々しげに吐き捨て、その場から消え去った。

 変身を解除した万丈は、肩で息をしながら自分の手を見る。 黒い粘液は再び万丈の肩から顔を出し、満足げに舌を出した。

 

「……おい。お前、名前は何てんだ?」

 

『名前か。さっき言っただろう?』

 

 黒い粘液はニヤリと笑い、戦兎たちにも向け、名乗る。

 

『俺たちは……「ヴェノム」だ』

 

 最強のエイリアンと、最高に熱い筋肉バカ。 スカイウォールの下で、最凶のバディが誕生した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェノムスの放ったガーディアンの群れが、戦兎たちを囲む。ビルドに変身して応戦するが、ヴェノムスから与えられた新兵器を持つガーディアンに苦戦を強いられる。

 

「万丈、何やってる! 早くしろ!」

「分かってるよ! 腹も膨れたし、一気に決めてやるぜ!」

 

 万丈は、腰に巻いたビルドドライバーにクローズマグマナックルを装填する。 溢れ出すマグマのエネルギー。周囲の気温が急上昇し、地面が熱でひび割れる。

 

「変身!!」

『極熱筋肉! クローズマグマ アーチャチャチャチャチャ チャチャチャチャアチャー! 』

 

 万丈が叫び、マグマが噴き出そうとしたその瞬間──『ぎゃあああああああああ!?』という、鼓膜を劈くような悲鳴が上がった。万丈の声ではない。

 

『熱い熱い熱い! 殺す気かお前!!』

 

 万丈の肩から生えていたヴェノムが、文字通り溶けたアイスのようにドロドロに崩れ、のたうち回り始めたのだ。シンビオートにとって、高熱は火炎と同様の致命的な弱点。マグマの熱量は、彼にとって地獄の業火に等しかった。

 

「うわあああ!? ヴェノム、お前どうしたんだよ!」

『熱いと言っている! その、その真っ赤なナックルを外せ! 今すぐだ!!』

 

『変身!』と音声が流れる直前で、万丈の体表を覆っていた黒い粘液が爆発的に膨張。強制的にクローズマグマナックルを弾き飛ばし、変身シークエンスを物理的に遮断した。シンビオートの弱点の一つである火がここで裏目に出てしまった。

 

「あ、痛っ! 何しやがる!」

「……えっ?」

 

 戦場に、間の抜けた声が響く。 敵であるガーディアンも、加勢しようとしたビルドも、あまりの不格好な中断劇に思わず動きを止めていた。

 

「おい、ふざけんな! あと一歩で変身できたんだぞ!」

 

 万丈が弾き飛ばされたクローズマグマナックルを拾おうと手を伸ばす。しかし、足元でドロドロにのたうち回るヴェノムが、その脚に必死に絡みついた。

 

『無理だ……! あんな熱すぎるオモチャ、死んでも使わせんぞ万丈!』

「離せよ! これじゃ戦えねえだろ!」

 

 一人と一匹が足元で泥仕合を繰り広げる、その隙を「彼」は見逃さなかった。 黒い蒸気が音もなく万丈の背後に収束し、ヴェノムスの鋭い爪が、無防備な万丈の腰へ伸びる。

 

「……仲間割れか。やはり、知性が足りない共生体には、宝の持ち腐れだったようだな」

「なっ……!?」

 

 万丈が振り向いた瞬間には、すでに遅かった。 ヴェノムスの力強い蹴りが万丈の腹部を捉え、その衝撃で万丈の体が大きく浮き上がる。

 

「がはっ……!」

『万丈!』

 

 宙に舞った万丈の腰から、固定が緩んでいたビルドドライバーが外れ、放り出される。 それをヴェノムスは空中で鮮やかにキャッチし、着地した。

 

「返せよ……それは、戦兎が俺のために作った……!」

「ああ、知っている。ハザードレベルによって性能が跳ね上がる、最高傑作の一つだ」

 

 ヴェノムスは手の中のドライバーを愛おしげに眺めると、それを自らの腰へと当てた。 カチリ、という無機質な音が、万丈にとって絶望の鐘のように響く。

 

「シンビオートの特性は『コピー』。お前たちが使いこなせなかったこのドライバーの真価……俺が引き出してやろう」

「やめろぉぉぉ!」

 

 万丈の叫びも虚しく、ヴェノムスは懐から二本のボトルを取り出す。 一本は、禍々しい紫の光を放つ『スパイダーロストフルボトル』。そしてもう一本は、ボトルの中で黒い粘液が意志を持つように蠢く『シンビオートフルボトル』。

 

「シンビオートの『模倣』と、ロストボトルの『狂気』……これこそが、このドライバーに相応しい真のベストマッチだ」

 

 ヴェノムスが二つのボトルをドライバーに差し込む。

 

『スパイダー!』

『シンビオート!』

『ベストマッチ!』

「蒸血……ではないな。ここは、ライダーの流儀に合わせるとしよう」

 

 ヴェノムスがハンドルを回し始める。 その瞬間、ドライバーから溢れ出したのは、クローズのような熱い炎でも、ビルドのような輝く数式でもない。 万丈から奪ったドライバーを媒介に、ヴェノムスの全身から噴き出した黒い粘液が、物理法則を無視して巨大な「牙」の形を形成していく。

 

『Are You Ready?』

「変身」

 

 ドライバーから生み出された牙がヴェノムスの体を呑み込む。それは装甲を纏わせるための装置ではなく、捕食のように見えた。 閉じた牙の内部で溢れ出した黒い粘液がヴェノムスの体をドロドロと侵食し、ロストボトルの力で硬質化した蜘蛛の甲殻が全身を覆っていく。

 完成し煙の中から現れたのは、ビルドの形状を模しながらも、全身がシンビオートの漆黒の皮膚で再構築された、最悪の仮面ライダー。

 

『猛毒のシンビオート! ヴェノム・スパイダー! イエーイ!』

 

 ビルドのラビットタンクフォームに似た形状を持ちながらも、その質感は生物的で禍々しい、漆黒と深紫のライダー。 複眼は左右非対称なまま、白いシンビオートの瞳が獲物を睨むように吊り上がり、胸には巨大な蜘蛛の足が這い回るような紋章が刻まれている。

 

「……素晴らしい。エボルトの力、そして葛城巧の遺産。これら全てが、今、俺の中で一つになった」

 

 ヴェノムスが拳を握ると、その隙間から黒い火花が散る。 その姿は、かつて戦兎が暴走したハザードフォームをも凌駕する、圧倒的な圧迫感を放っていた。

 

「嘘だろ……ビルドドライバーで……変身しやがった……」

「……最悪だ。シンビオートの適応能力で、ビルドドライバーのシステムを完全に自分のものに書き換えやがった」

 

 戦兎の隣で、万丈は膝をつく。 相棒であるドライバーを奪われ、隣では弱点に怯えて小さくなったヴェノムが震えている。 ヴェノムは、自分たちの力を奪い、さらに凶悪な進化を遂げた「黒いライダー」を恐れている。

 

『万丈……逃げろ。あれは……俺たちの知っているシンビオートじゃない。あれは、全てを喰らい尽くす「暴食の化身」だ……!』

 

 ヴェノムスの複眼が怪しく光り、その長い舌がビルドドライバーのハンドルを舐めるように這った。

 

「さあ……誰から喰われたい?」

 




気が向いたダイジェスト風で最後まで書くかも
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