仮面ライダー ハーメルンジェンレーションズ HEROEZ MISSION 作:志村琴音
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いします。
「さて、準備は良いかな?」
真夜中の高層ビルの屋上にて、白髪が特徴的な黒いコートに身を包んだ初老の男が訊いた。大量の室外機によって髪や衣服が靡く様は、彼に似合っていると言っても過言ではない。
彼の周りには異形の者が3人もいる。それぞれが変わった姿形をしていて、共通しているのは黒いインナースーツと浅葱色のドライバーだけだ。
彼等は皆、男の言葉に無言で頷くと、そのままビルの下へと飛び降りた。
このままでは落下して潰れてしまうのではないかと思うが、全員が身体を黒い粒子状にし、風に乗ってそれぞれが何処かへと飛んで行った。
「じゃあ、始めようか」
────────────
一方、此方はガタンゴトンと揺れる列車の客室である。
テーブル席やカウンターテーブルのある客室には乗務員はおらず、男女が2人いるだけだ。
「本当に何やってるんですか。もしあの時の彼等を連れて行ったら、下手すれば足手纏いになって弱体化するところでしたよ」
「悪ぃ悪ぃ。どれを連れて行けば良いか分からなかったからさ。……でも、今度は間違い無いだろ?」
男の問いかけに、女は「はい」と答える。
殆ど全てが砂で覆われている中を通る線路の上を列車は走り、そして徐々にスピードを上げ始めた。
「いよいよですね」
「だな。行くか」
そして列車は赤い輪の中を潜り抜け、その先にある景色の方へと進んだ。
次は上米町。上米町に停まります。
The next station is Agegomemachi.
2027.10.24 12:22 埼玉県 上米町
夏場のカフェ。そこには暑さを凌ぎに来た者達で溢れている。
しかも今日は祝日だ。なのでただ埼玉特有の異常な暑さから逃れる者だけではなく、ただ単に休日を謳歌している者達も来店をしていることから、室内は多くの人で溢れかえっていた。
しかしこの中で三人だけ、全く休めていない者達が客の中でいる。
濃緑のシャツに茶色のズボンを履き、前髪をセンター分けにしている青年──
共通テストまで後3ヶ月を切った優司と絵麻に、花蓮が勉強を教えてくれることになったのである。初めて4時間経って、そろそろ集中が切れ始めてきた。
「ねぇ。ちょっと休憩しない?」
花蓮の言葉が鍵となって、優司と絵麻の二人はホッと胸を撫で下ろす。
そして昼食を何か摂ろうと、メニューを見始めた。
余程腹が減っていたのだろう。
三人はすぐに挙手をして店員を呼び、注文をし始めた。
「それにしても、大学受験ってこんなに大変なんだぁ……」
「うん……。本当に疲れる……」
絵麻と優司に一気に疲れが襲い掛かって来る。満身創痍と言っても過言ではない。
「そうねぇ。ま、後3ヶ月で終わるんだから」
何故か花蓮は鼻歌でも歌いそうな様子である。
教える側だからそんな感じなのだろうかと、絵麻が少し不満そうな顔をする。
「……何?」
「ん? いやぁ、こうやって三人でいられるの幸せだなぁって」
──そういうことか。
「もう優司君は私達のものだもんね〜」
「……ま、まぁ、そうよね……」
花蓮の言葉に、絵麻も満更でも無い様子だ。
対して優司は嬉しさ反面、怖さ反面という感じだ。
もしここで否定でもしてしまえば、花蓮は実力行使に出るやもしれない。
なので迂闊なリアクションは出来ないのだ。
「えぇっと……。外の空気吸って来るね」
「え、うん」
無自覚のブラックジョークに少し気まずいと思い、離席をして外に出る。
暑い。こんなことなら気まずかろうが、エアコンが効いた冷えた部屋の中にいた方が良かった。
しかし、雲一つ無く日光が全て差し込んで来る青い空をふと見ると、そんな苦言は徐々に消えていった。
戦いの中に身を投じて来た時は、こんなにも空の群青が美しいと思えなかった。なのでこれがあまりにも有り難いと思える。
これが一生続いてくれれば良い。呑気にも願ってしまった。
すると、
「?」
気のせいだろうか。
何処からか何か汽笛のような音が聞こえた。
この近くに路面電車は通っているが、聞こえたような独特の音はしていない。
──疲れているのかな……?
けれどももう一度汽笛が聞こえ、空に白い穴が開いた。
そこから線路が宙に伸び始め、優司の前へと現れる。
そして3度目の汽笛が聞こえると、そこから赤色のフロントガラスが特徴的な一台の長い列車が猛スピードで走って来た。
はっきり言ってもう何が何だか理解不能だ。
これは勉強の疲れで見ている夢なのか、それとも
ただ一つ言えるのは、空が少しだけ暗く見えた。
次は東中野。東中野に停まります。
The next station is Higashi-nakano.
2024.10.27 10:33 東京都 中野区
「それにしても、あの二人大丈夫なのか……?」
「大丈夫よ。お兄ちゃんも着いているし」
休日になると何故か人通りがほんの少しばかり少なくなる東中野の商店街を、1組の夫婦が歩いていた。
黒いTシャツに黒いズボンと黒装束に身を包んでいる
彼等は今日、1月に産まれた長男を長女と碧の兄に任せ、二人だけでデートをしているのだ。
正直、息子を他人に任せて自分達だけで楽しむに若干の罪悪感はあるのだが、「後は私と叔父さんに任せて! 折角だしデート楽しんで来て!」と長女に押されたので、今は色々と忘れて楽しんでいる。
雑談をしながら歩いていて気が付いたのだが、じっと春樹は碧の方を見ている。
流石に気になったので、碧は彼に訊いてみることにした。
「何か、私の顔に着いてる?」
「……いや。ただ、お前いつも綺麗だよなと思って」
「⁉︎ 春樹……生命保険入っているよね?」
春樹はいつもこんなことを言うタイプではない。
勿論、口に出さないだけで彼が碧を愛していることに変わりは無いのであるが、やはり何か生命の危機にあるのではないかと心配になってしまう。
「別に何でもねぇよ。……ただ、いつも仕事で忙しいのに
「春樹……。
「……は⁉︎」
碧の目を見て、春樹は血の気が引いてきた。まるでハートマークが浮かび上がっているようである。
次の瞬間、碧が春樹の首に両腕を回してきた。
──不味い……。搾り取られる……!
「おい! ちょっ! 人前だぞ……!」
「何言ってるのよ。私の身体を自分のものにしたくせに」
「言い方!」
「ちゃんと責任、取って」
しかし別に嫌なわけではない。
寧ろ長男の育児に追われた中では、夫婦でスキンシップを取ることはかなり難しいため、こうしてくれることは有り難い。
周りをふと見渡せば、道行く人々にじっと見られている。顔の整っている二人を尊いと思う者や、羨望の眼差しで見る者に二分化をされているのだが、そんなことはどうでも良い。
ただ双方共に目を閉じ、唇を近付けた──。
だが、
「「……?」」
突如として自分達の足元に線路が伸びていることに気が付いた。
すぐにでも退きたいところだが、緩み切っていた彼等にそれは出来ない。
そして二人の前に汽笛を鳴らしながら、猛スピードで特徴的な見た目をした列車が近付いて来た。
「「……え?」」
一瞬だけ意識が飛んで、すぐにまた戻って来た。
そして東中野の商店街にいたにも関わらず、何処からか潮風の香りが漂って来始める。
何だか妙だと思った二人は、パートナーから身を離して辺りを見渡し始める。
すると何と、そこは湾岸沿いにあると思われる広場ではないか。行き交う人々の格好はそれまで自分達がいた場所にいた者達よりも、ほんの少しばかり裕福そうに感じられ、それもこの状況が異様であることを物語っていた。
「何だここ……⁉︎」
「……変な夢とかじゃないよね?」
碧は自身の頬をつねってみるが、痛みを感じるためこれが現実であることはすぐに分かった。
しかしどうしてなのかと考える。いきなりこんなところに飛ばされた心当たりはまるで無い。そして気を失ったとは言っても、誰かに襲われて失ったというわけでもない。
とすればまさか──。
「フォルクロー……」
「⁉︎ 冗談だよね……?」
それは春樹と碧が嘗て戦っていた相手の名前。
遺伝子レベルで何もかもを変えられた彼等は、人地を超えた能力を発揮して人々を襲ったのだ。
しかし全員が今はカードの中に封印されている。新たな個体も現れるわけが無い。
とは言ってもそれ以外に考えられることは無い。
あり得ないとは思いながらも、その可能性を拭いきれずに不安になってきた。
すると、
「よっしゃーっ! 暴れるぞーっ!」
気性の荒そうな男のハイテンションな声が後ろから聞こえてきたため、その方を振り向く。
同時に周りにいた人々は悲鳴を上げて、急いでその場を去って行くのだ。
そこには骨のように白い紋様が描かれた黒いスーツを着た、白いナイフを持っている戦闘員達が周りを取り囲む中に、同じスーツの上から炎が燃えているのを模した灰色の鎧を纏った、犬のような顔をした怪人が立っている。
「貴方は……何なの⁉︎」
「まず初対面には敬語を使えよ」
「え? お前ら、俺を見ても驚かねぇのかよ⁉︎」
「「うん」」
予想外のことに怪人──プロトヘルハウンドユーザーは驚愕する。
何せ自分は異形の姿の者だ。先程の街の人々のように逃げ纏うの常だと思っていた。けれどもこの二人は一切動じない。少し驚いただけで後は冷静に分析されている。
まさかのリアクションに、プロトヘルハウンドユーザーはイライラとしてきた。
「何か調子狂うなぁ……。だったら、こうだぁっ!」
プロトヘルハウンドユーザーが合図すると、戦闘員達は独特の掛け声と共に春樹と碧に迫って来た。
──不味い……!
この者達に対抗をするための道具は、全て国に返還をしてしまった。今手元にあるのは貴重品だけである。
けれどもまだ方法はある。
二人は目を全く違う色に光らせて、そのための準備を始めた──。
しかしそれ以外の方法がどうやらあるらしい。
突如として乾いた音が次々に響くと、銃弾が戦闘員達を攻撃し、更に当たらなかったものは地面に当たって火花を散らしたため、彼等は一度行進を停止した。
銃弾が飛んで来たのは春樹と碧の方からだ。
後ろを振り向くと、そこでは華奢な身体の上からスーツを着たショートヘアの女が立っていて、向けている小銃の銃口からは白い煙が一筋の線を作っている。
「貴女は……?」
「説明は後です。とにかくこれを使ってください」
碧の質問に答えてくれない
それは全て、二人が嘗て使っていた最強の武器である。
「な、何でこれを⁉︎」春樹が訊く。
「ですから、説明は後です。とにかく今はアイツらをお願いします」
目の前の女が何者で、どうしてこれを持っているのかは分からないが、今は同じく謎めいたあの集団を倒すしか無い。
なので春樹と碧は道具を全て取り、敵の方を向き直した。
「グアルダ」
春樹の呼び掛けに、二人のトランスフォンの画面に白い猫の画像が投影された。
グアルダと呼ばれたそれは会話を始める。
『春樹、碧、久しぶりだな』
「ねぇ、ここは何処なの? 何で私達ここにいるの?」
『それは私にも分からない。だがやることは一つだけだろ』
「そうだな……。やるぞ、碧」
「うん! 春樹」
『了解した。では只今より、椎名春樹、椎名碧、両名のライダーシステムの使用を許可する』
承認を得た春樹と碧は、トランスフォンの裏側にアシスタンスカードをかざす。
『『ACT DRIVER』』
すると腹部に、右側に何やら戦士であろう絵が描かれたプレートが配置されている、銀色のドライバーが装着される。
この感触は久々だと、二人は思わず口角を上げてしまう。
トランスフォンの上部にあるスロットにメモリアルカードを挿し込む。
『"ACT" LOADING』
『"REVE-ED" LOADING』
電源ボタンを押すと待機音声が流れ出し、彼等の上にそれぞれゲートが現れて開き、銀色の鎧が姿を見せる。
その下で春樹は右腕を左斜め上にゆっくりと伸ばし、手をひっくり返して掌を見せる形にする。
碧は右腕を挙げて振り下ろし、両腕を開いた後に左腕を右側に引っ張った。
そして二人は高揚感の中で1年以上振りに叫び、トランスフォンをドライバーに装填した。
「「変身!」」
『『Here we go!』』
次の瞬間、春樹の身体は緑色の、碧の身体は青色の素体に瞬時に変化をし、宙空に浮いていた鎧が装着をされた。
その姿は彼等の前に人々を守っていた戦士を可能な限り模った、細い2本の角を伸ばしたものである。
『I'm KAMEN RIDER ACT!』
『I'm KAMEN RIDER REVE-ED!』
仮面ライダーアクトに仮面ライダーリベード。
最強の夫婦がこの世界に降り立った。
────────────
いきなり電車がやって来たと思ったら、カフェの外側から何故か暗く広い高架下にいた。地面はアスファルトから湿気を含んだ土になっていて、ほんの少し汚れた空気が漂っている。
どうしてこんな場所にいるのか全く理解出来ない優司。まだ疲れによって幻覚でも見ているのか……。
すると後ろの方で独特なサラサラとした音が聞こえてきた。
その音に聞き覚えがあった優司は、すぐに振り返る。
そこでは思った通り、大量の黒い粒子が宙を舞っていた。
徐々に2つの人の形を形成していくそれは、固まって怪人のような姿になった。
「ユーザーか……!」
現れたのは、白いラインの入った黒いアンダースーツの上から灰色のドレスのような鎧を着、ボッティチェリの『ビーナスの誕生』に登場するビーナスを模した顔をした怪人──プロトマーメイドユーザー。そして同じアンダースーツの上から巨大な灰色の鎧を纏い、牛のような顔立ちのプロトミノタウロスユーザーである。
「そう。私達は貴方と同じユーザー」
髪の毛をくるくるといじりながら妖艶に言うプロトマーメイドユーザー。
「そんな筈は無い……! だって、ユーザーは僕が全部──」
「倒した、でしょう? ところがどっこいってことですよ」
プロトミノタウロスユーザーは大きな見た目に反して丁寧な反応だ。
「何で僕をここに?」
「実は、着いて来てもらいたい場所がありまして」
「今受験勉強で忙しいんですけど」
「ふぅん。だったら、実力行使しようかしら」
二体の化け物がじわじわと近寄って来る。
しかし立ち向かうための術を今の彼には無い。何せ
優司はすぐにその場から逃げ去ろうとしたのであるが、多分逃げても追い付かれる。
なのでどうすれば良いのかと考えているうちに、もうすぐのところまで近付かれてしまった──。
その時、
「オラァァァァッ!」
二体の怪人が誰かに蹴られた。威力はかなり凄いらしく、遠くの方まで飛ばされてしまう。
蹴った者の方を見る優司。
それは『サモトラケのニケ』が背中に印刷された洒落たオレンジ色のTシャツにジーンズを着た、筋肉質な吊り目で金髪の若い男である。
「レディーを蹴るだなんて失礼ね……!」
「何方ですか、一体……?」
「俺か? 俺は、この世界救いに来たただの格闘家だよ。あ、後これ、ほら」
「え、ちょっ」
男──
優司が確認をすると、それは嘗て彼が使っていたユーザーズドライバーであった。
二人の敵と向かい合う海来は巨大なスマートフォン型の端末──ディクリードライバーの画面を操作し、一つのアプリを起動する。
『変身アプリを起動します』
腰にドライバーが出現をしたため、その中央にディクリードライバーを装填する。
そして横にあるカードホルダーから1枚のカードを取り出して、単語を叫びながら端末の表面にかざした。
「変身!」
『カメンライド! ディクリード!』
するとカードが吸い込まれるのと同時に、灰色のホログラムが20個現れて海来と一体化。
黒いアンダースーツの上に、金色のパーツが付いていてバーコードを模しているアーマーを装着する。
「っしゃぁ!」
仮面ライダーディクリードに変身をした海来は、兜の下にある紫色の複眼で相手を睨むと、指を鳴らしてすぐに敵の元へと走り出した。
その後ろで優司は更に混乱をしていた。
あの2体のユーザーは何なのか。そしてあの反社会的な匂いを感じる金色の戦士は何者なのか。
しかし考えていても仕方が無いとドライバーを巻き、レバーを下げた。
『只今より、意識を転送します』
意識を失っていく中で怪我をしないようにゆっくりと身体を倒す。
そして瞼を閉じた瞬間、遠くの方からライドボットと呼ばれる黒い粒子が大量に飛んで来て、優司と同じ容姿に固まる。立っている優司と眠っている優司が存在する摩訶不思議な光景の出来上がりだ。
「あ、ライドボットあったんだ……」
呟いた優司の手元に飛蝗の形状をしたヘキサゴンガジェットが収まった。
なので両脚と頭部を中に仕舞って完全な六角形にし、ドライバーのスロットへと装填をする。
『
軽快なEDM系の音楽が流れる中で、優司は右腕を左側に伸ばすとゆっくりと右側に戻していく。そして右腕を左側に下げて右腕を左側に挙げ、男が言っていたのと同じ言葉を叫んだ。
「変身!」
左腕を下げて左手をレバーに絡めると思い切り下げた。
『変身シークエンスを開始します』
次の瞬間、優司の身体が黒く変色。そして一瞬のうちに戦士へと姿を変えた。
焦茶色の身体に赤色の複眼、浅葱色のドライバーが良い具合にミスマッチをしているそれは、優司が本能のままに行動するために必要不可欠な姿である。
『HOPPER』
仮面ライダーブートレグ ホッパーフォーム。
とある街を見えない脅威から救った戦士の再来である。