透き通る様な世界観でお送りするブルアカ短編集   作:fayth

1 / 2
ヒナを始めて目にした時から感じていた欲求を消費すべく、本能のままに書きました。
ヒナは可愛い……可愛いなぁ……。


先生「…………(ヒナの髪の毛、モフりたいな……)」 ヒナ「…………?」

 太陽の光が程よく差し込む昼下がり。

 

 今日もシャーレのオフィスで書類と向き合っていると、ふと彼女の方へと視線が吸い寄せられた。

 

「…………」

 

 黒を基調とした学生服(というより、軍服と表現した方が正しいかもしれない)に身を包み、羽織った外套の袖には「風紀」と記された赤い腕章が輝く彼女――空崎(そらさき)ヒナ。

 

 今日のシャーレ当番である彼女は威厳のある表情の中に少しばかりの気怠さを含ませつつも、一言一句の読み飛ばしもない様にと真剣な眼差しで書類に向かっている。

 

「……ん? どうかした、先生?」

 

 こちらの視線に気づいたのか、読んでいた書類から目を離し、代わりに私の顔をじっと見つめてきた。

 

「ごめん。何でもないよ」

 

 アメジストの様に輝くその瞳にも一瞬目を奪われそうになるが、彼女の邪魔をする訳にもいかないので目の前の書類に集中する。

 

「…………?」

 

 ヒナも怪訝そうな顔を浮かべたが、「何でもない」という一言を聞いて納得したのか、再度書類と向き合い始めた。

 

 そうして私とヒナ、二人だけの室内では静かな一時が流れ出す。

 

 遠くから聞こえる小鳥の囀りや銃器の発砲音、爆発音を背景に仕事を片付けていく。

 

「先生、少しいい? 定期報告会で挙がってきた報告書の内容について、相談したいことがあるの」

 

「分かった。見せてもらえる?」

 

「えぇ、ここなのだけど……」

 

 書類を持ったヒナがこちらへ近づき、該当する箇所を指で示してくる。

 

「ここはね――」

 

 教えようと少し身を寄せたその時、彼女の白い髪が私の顔に触れた。

 

 ふわりとした感触と、華やかでほんのり温かみのある香りがそっと私の鼻を打つ。

 

「あっ……。ごめんなさい、先生」

 

「大丈夫だよ。気にしないで」

 

「…………そう……」

 

 話を再開しようとヒナの方を向くと彼女は少しばかり目を伏せ、何処かこちらの顔色を窺っている様に思えた。

 

 それにしても――。

 

『……ヒナの髪の毛、モフりたいな…………』

 

 さっきから必死に抑えようとしているのだが、どうしてもこの欲求が頭から離れなかった。

 

   * * *

 

 場所は変わり、ゲヘナ学園自治区――。

 

 繁華街で不良生徒集団が暴れているという報告を受け、ヒナに協力してもらいつつ、急ぎ鎮圧に向かった。

 

「ゲッ!? 風紀委員長だ!!!」

 

「マジかよ! しかもシャーレの先生まで連れてるじゃねぇか! どうすんだよコレ!?」

 

「どうするも何も、ここまで来て引き下がれるか! 応戦するぞ!」

 

 不良生徒たちは各々武器を構え、こちらへと向ける。

 

「先生は後ろに下がっていて。射線には絶対に出ない様に」

 

 ヒナは私にそう告げ、愛用のMG(マシンガン)――終幕:デストロイヤーを構え、悠然と生徒たちの前へと立ちはだかる。

 

「面倒だけど、相手してあげる」

 

 彼女の一声、そして強烈な睥睨(へいげい)がその場全員の不良生徒たちに引き金を引かせた。

 

「――うっ、撃てぇ!」

 

 街中に響き渡る銃声。

 

 飛び交う弾丸から身を隠し、遮蔽裏からヒナの戦闘を見守る。

 

 ヒナは生徒たちの攻撃に怯むことなく街中を縦横無尽に駆け、的確に反撃を繰り出す。

 

 次々と倒れる生徒を前にして、残った生徒達の攻撃が一層激しさを増していく。

 

 そのせいか、ヒナが頼りにしていた遮蔽も徐々に心細くなり始めた。

 

「……面倒ね」

 

 応戦を続けるヒナ。それでも尚勢いを増す生徒たちの攻撃。

 

 ――だが一瞬、彼女たちの攻撃に遅れ(ラグ)が生じた。

 

 リロード……いや、違う。逆だ。

 

 シャーレに届いた報告によると、今回の騒動は計画的に行われた訳ではなく、突発的に起きたものらしい。

 

 となれば、向こうの生徒たちはこうしてヒナと戦闘することは想定していなかったはず。先程の遅れ(ラグ)も恐らく弾薬不足によるものだろう。

 

 ――ヒナ、状況は?

 

 ――制圧にはもう少し時間が掛かりそう。けど、問題はないわ。

 

 通信越しから聞こえるヒナの声に焦りはない。だが、これ以上戦闘が長引くとヒナに万が一のことがあるかもしれない。

 

 ――この後、私の方から合図を送る。それに合わせて一気に制圧してほしい。

 

 ――……えぇ、分かった。

 

 通信を終え、生徒たちの動きに注視する。

 

 相手の火力を担っているのは中衛のAR(アサルトライフル)部隊だ。彼女たちの動きに注意を払い、機を伺う。

 

「――くそっ! 弾薬が切れる! おい、そっちのマガジン数本こっちに回せ!」

 

「無理! こっちもそんな余裕ない!」

 

 再度、彼女たちの攻撃に遅れ(ラグ)が生じる。

 

 ――ヒナ、今だ!

 

 通信を入れて合図を送ると、ヒナはすぐに遮蔽から飛び出した。

 

「ヤバい! 出てきたぞ!」

 

「応戦しろ!」

 

 撃ち返そうと試みる不良生徒たちだが、攻撃の密度は粗く、彼女を止めるには至らない。

 

 ヒナは街の建物やオブジェクトを足場にして回避し、やがてビルの側面を蹴って生徒たちの上空へと飛び上がった。

 

 勢いよくうねる髪に陽の光が当たり、生じた影が生徒たちを覆い隠していく。

 

 鈍く光らせた砲身は加速度的に回転数を上げ、目一杯広げた翼は生徒たちを完全に闇へと誘った。

 

「――実力行使でいく」

 

 トリガーを引き、放たれる無数の弾丸。

 

 降り注ぐ破滅の雨は不良生徒たちを纏めて戦闘不能へと陥らせた。

 

 戦闘後の惨状を見ると、彼女の強さを改めて理解させられる。

 

「……く、くそっ! このままじゃまた矯正局送りだ……!」

 

「こうなったら――」

 

 倒された生徒の一人が懐から何かを取り出し、こちらへ投げ込んだ。

 

「――ッ! 先生!」

 

 ヒナの叫声が耳に入り、咄嗟に頭を庇ったが、それ以上の行動を取るには時間が足りなかった。

 

 目の前で起きる爆発。身体全体を揺らす衝撃と鼓膜が劈く程の音が同時に襲い掛かる。自分が地面に立っているのか宙を浮いているのかすら分からない。

 

 やがて乱れた感覚が元に戻り、目を開くと先程まで自分がいた場所には巨大な爆発痕が出来ていた。

 

「――大丈夫、先生?」

 

 至近距離から聞こえる彼女の声。振り向くと、ヒナが私の身体を支えてくれていた。

 

「助けてくれてくれたのか……。ありがとう、ヒナ」

 

 危機から救ってくれた彼女に礼を述べる。

 

「あの威力……市販の手榴弾よりも高威力だった。多分、ブラックマーケットで出回ってるものだと思う……。ともかく、無事でよかった」

 

 ほっとした表情で微笑むヒナ。戦闘時に見せた厳格な様子とは裏腹な可愛らしさについ目を奪われる。

 

 それに彼女の長い髪がふわりと自分の肩に乗っかっていることに気付き、ふと手を伸ばしてしまった。手がフワフワとした柔らかな感触に包まれる。

 

「――…………ッ!? せ、先生……!?」

 

「ご、ごめん……! つい……」

 

 慌てた様子のヒナを見て、彼女の髪を触っていた手をすぐに退けた。

 

 動揺の色を見せながらも私を立ち上がらせたヒナは周囲の状況を確認し、通信を入れる。

 

 ――……アコ、聞こえる? 騒動は無事鎮圧したわ。

 

 ――お疲れ様です、委員長。事態はこちらでも把握しております。

 

 風紀委員会の行政官、天雨(あまう)アコと通信が繋がる。

 

 ――人員を少しこっちに回して。後、イオリに南東部へ逃げた生徒たちを捜索する様に指示しておいて。

 

 ――分かりました。それでは……失礼します。

 

 通信が切れる直前、アコがこっちを睨んでいた気がするけど……気のせいだろうか。

 

 その後、到着した他の風紀委員に不良生徒の身柄を受け渡したことで騒動は無事に幕を閉じた。

 

   * * *

 

 後始末が予想以上に手間取ってしまい、一段落終えてシャーレに戻る頃にはすっかり暗くなってしまった。

 

「お疲れ様、ヒナ」

 

 労いも兼ねてココアを入れて手渡すと、彼女はそれを静かに受け取った。

 

「えぇ、ありがとう……」

 

 そうして立ち上っていく二つの湯気を眺めながらソファに腰掛け、二人きりの静かな時を迎える。

 

 カップに注いだココアが少しずつなくなっていく中、私は未だに溢れる自らの欲求を抑えることに必死だった。

 

「…………ねぇ、先生」

 

 カップから口を離し、ゆっくりとこちらを向くヒナ。

 

「今日の先生、いつもと様子が違う気がする……」

 

「そ、そんなことないと思うけど……」

 

「今朝の書類整理の時も頻りに私の方を見ていたみたいだったし、さっきも――いえ、何でもない……」

 

 ヒナはココアのカップを机に置き、私の方に詰め寄る。

 

「……もしも、何か私に言いたいことがあるなら言って」

 

 そう告げるヒナの真剣な眼差しを受け、私は正直に自分の欲求を打ち明けることにした。

 

「…………私の髪の毛を……触りたい? 一日中、ずっと気になってた…………?」

 

 …………。

 

 思いもしなかった回答が返ってきたのか、理解に時間が掛かっているヒナ。

 

 そうして私の発言を理解した時には、顔を真っ赤に茹で上がらせて驚いていた。

 

「…………///」

 

「ごめん、変なことを言って……。今のは忘れてほしい」

 

 明らかに動揺するヒナを落ち着かせようとしたその時――ヒナの口が開いた。

 

「――……わかった……」

 

 ヒナは私の元へと歩み寄り、そっと頭を差し出した。

 

「ひ、ヒナ……?」

 

「髪の毛を触るくらいなら……別に……。それに、今日は先生に色々と助けてもらったから……」

 

「けど、出来れば手短に済ませてもらえると助かる……。こうやって先生に頭を向けてるの、何だか恥ずかしくて……」

 

 私に頭を向けたまま、上目遣いで小さく呟くヒナ。

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

 差し出された頭にゆっくりと手を近づける。

 

 冷ややかな空気から一転、まるで日差しを浴びた雲を触る様な感覚が優しく私の手を包み込んでいくのが分かる。

 

「……んっ…………」

 

 それを実現しているのは彼女の腰、そして膝まで伸びているこの長髪。頭部を少し撫でるだけで、足先の毛はまるで踊る様に揺れるのだ。

 

「…………っ………………!」

 

 いつもあれだけ激しい戦闘をしているのにも関わらず、髪質は柔らかくて触り心地がとてもいい。それに何やら花の様な――恐らくシャンプーの香りも漂ってきて、まるで花畑の真ん中で日向ぼっこしている様な気分になる。

 

「…………あ、あの……先生……そろそろ……///」

 

「――あっ! ご、ごめん!」

 

 思っていた以上の心地良さについ夢中で撫でてしまった。すぐに触るのを止めると、ヒナは頬を赤く染めながら自分の髪の毛を手に取る。

 

「……これで満足?」

 

「満足した。ありがとう、ヒナ」

 

「そう……なら、よかった」

 

 ヒナはほんのりと笑みを浮かべる。

 

「改めて思ったけど、この髪型似合ってるね」

 

「そ、そう……? 私は特に意識したことなかったのだけど……」

 

「ヒナの良さがすごく出てると思う」

 

「…………///」

 

 またまた頬を赤くするヒナだったが、一つ咳払いを挟むことでいつもの表情を取り戻した。

 

「先生はいつも私たちの為に頑張ってくれているから、これで少しでも恩を返せたらいいのだけれど……」

 

「気持ちは嬉しいけど、恩返しをする程のことじゃないよ。生徒の役に立ってこその先生だからね」

 

「それを言うなら、ヒナもいつもみんなの為に頑張ってると思う」

 

「そう言われても、私は風紀委員長としてやれる事をしているだけだから……」

 

 いまいちピンとこない様子のヒナを見て、折角なので一つ提案をしてみる。

 

「私にも何か出来ることがあるなら言ってほしい。何でもするから」

 

「…………何でも?」

 

 そう問い返すヒナは私が頷くと、しばらく考え込んだ末に一言「頭を撫でてほしい」と答えた。

 

 言われた通りにヒナの頭を撫でてあげると普段の彼女とはまた一味違う、ほんの少し気の抜けた表情を見せてくれた。

 

「……ありがと、せんせ…………」

 

 気がつけば、ヒナの瞼が徐々に閉じ始めていた。瞼の下にはうっすらとだが隈が出来ている。

 

「…………」

 

 そのまま彼女の頭を撫で続けると、やがてトサッという音と共にヒナの頭が私の膝に落ちてきた。

 

 上着をそっと掛けてあげると、ヒナは可愛らしい寝息を立てて微睡みの奥へと引き込まれていった。

 

   * * *

 

 翌日。ゲヘナ学園、風紀委員会の執務室にて――。

 

「おはよう、アコ」

 

「おはようございます、委員長。……あら?」

 

「どうかした?」

 

「いえ。委員長、いつもより何だかご機嫌な様子でしたので……」

 

「そ、そうかしら……? そんなことないと思うけど……まぁいいわ。今日の予定は?」

 

「はい。本日は午前に自治区周辺のパトロール、午後は……万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)との会合になります」

 

「はぁ……わかったわ」

 

「そういえば最近、この辺りにとても腕のいい美容室が出来たらしいのですが、委員長はご存じですか?」

 

「美容室?」

 

「はい。その美容室に行けば『新しい自分』に出会えるとの触れ込みで、生徒たちの間でとても流行っているらしいのです」

 

「そう……知らなかったわ」

 

「私も今度行ってみようと思うのですが、委員長もどうですか?」

 

「私? そうね……」

 

 ――この髪型似合ってるね。

 

 ――ヒナの良さがすごく出てると思う。

 

「…………私はいいわ」

 

「? そうですか……」

 

「えぇ。さぁ、執務を始めましょう」

 

 この髪型、本当は切るのが面倒だった髪を纏めただけだったのだけど……。

 

「――しばらくは、このままでもいいかな……」

 

 

 

 ――おわり――

 

【感想、お待ちしてます!】

 




満足しました!
またインスピレーションが湧いたら短編書いてみたいと思います!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。