今回はいよいよ両軍の主力が激突します。
恐らくロデニウス大陸最多の実戦経験を積んだロウリア王国重装歩兵対訓練期間最長二箇月のクワ・トイネ公國戦列歩兵との対決となります。
果たして
「南のジューンフィルア将軍の戦区での突破は絶望的だろう。控えめに言って相性が悪過ぎる。なにせ我が軍にはあの壁を破れる装備が無いのだ。」パンドール将軍は嘆息する。
「全くパーパルディアの奴等、攻城砲が届いていないといくら言っても聞く耳を持とうとすらしませんでしたからね。*1しかも攻城砲が届いていないと苦情を入れた者を罵って鞭で打つのみならず身ぐるみ全て剥ぐ始末。あれでは列強なのか野盗なのか…。」幕僚はパーパルディアから来た連絡官の愚痴を吐く。「ともあれジューンフィルア将軍は壁正面に少数の敵を引き付けるのが精々だろう。無理攻めなどしようものならここから全軍崩れかねん。」パンドール将軍はジューンフィルア将軍の戦区に関して考察を纏めた。
「北に布陣するアデム将軍の戦区だが、ここが前進すれば我等にとって都合が良い。だがそれは敵も分かっていよう。よって成否はそれだけの兵を割いているか次第だ。敵が多くの兵を割くのであれば我等が敵を抜く可能性も高まろう。逆にあまり兵を割いて居らなんだら、我が騎兵旅団を後詰に出して突破させれば良かろうて。」パンドール将軍はアデム将軍の戦区を軽めに考察する。
だが、「恐れながら閣下、正直に申し上げて突破は期待薄でしょう。何しろ奴は劫略や殺戮をしたことはあれども戦をしたことがござりませぬ故。」幕僚はそう控えめに助言する。「ううむ。言われてみればその通りやもしれぬ。なにせ未だ嘗て我等の軍がここまで大きくなったことがなく副将格筆頭を繰り上げで将軍にする程なのだ。だがそれでも抑え程度にはなろうて。それに奴の悪名が敵を崩すこともあり得よう。」パンドール将軍はその助言に返答する。
そう、90万*2という大軍を発したロウリア王国だが、実はそれだけの大軍を率いる将軍が足りないという問題を抱えていたのである。尤もアデム副将を将軍に昇進させることで一応は解決したのだが。
それならクワ・トイネ公國はといえば、こちらはロウリア王国よりも遥かに深刻であった。無論、西部方面師団は装備転換のみであるためそこまで大きな問題にはならなかった。ではどこが問題かといえば、訓練期間が最長でも二箇月しか無い*3志願兵軍団である。というのもクワ・トイネ公國にはその軍団に所属させるべき将校も下士官も足りていなかったからである。中核となる将校は他の部隊から引き抜きこそしたものの、それだけで部隊を動かせるだけの人数を揃えることなど出来よう筈もない。それ故に志願兵の纏め役を仮で将校役として将校としての教育を受けさせることで取り敢えず形は整えたのだが、訓練を担当する
パンドール将軍麾下の重装歩兵たちはその実戦経験に裏打ちされた高い練度を発揮し、
かくして両軍は睨み合いとなった。
双方が完全に睨み合いとなったことでパンドール将軍は兵站への不安を感じ始める*9。それでもパンドール将軍は待つことを決めた。
完全に睨み合いとなったこの戦線の状況を動かしたのは北の戦線からやって来たアデム将軍であった。アデム将軍の北側の戦線が突破されたため増援を求めるという要請に、パンドール将軍は予備として拘置していた歩兵旅団と騎兵旅団を北から迂回する敵への備えに回すことにした。そしてアデム将軍には戦線を突破するだけの戦力を押し返し得る戦力は無いと解答する。
するとアデム将軍は本国へ援軍を要請することを提案し、自身が使者として向かうと立候補した。パンドール将軍はそれを承諾するとアデム将軍を送り出す。だが、アデム将軍はロウリア王国には戻らず自身が従えている魔物と共にパーパルディア皇国へ逃亡した。*10
アデム将軍を本国へ送り出したパンドール将軍は
ここの3個志願兵軍団は西部方面師団と協力して築城した塹壕陣地の前面に塹壕に据えられた重機関銃の射線を避けて布陣し、西部方面師団は塹壕陣地に籠城する。
そして
そして
その時である。「パンツァーファウスト用意。」散兵線を指揮する各将校が命令を下す。その命に従い散兵たちは背負っていたパンツァーファウストを構えてパンドール軍重装歩兵を照準する。そしてパンドール軍がマスケットで攻撃しようと停止した瞬間、
「ファイエル!」散兵がパンツァーファウストを一斉に放った。
重装歩兵は飛来する弾頭を止めようと立体的な槍衾を組むも、引っ掛かった数発のみしか防げなかった上にその数発は曳火射撃のように空中で炸裂し破片を重装歩兵の最前列に浴びせる結果となる。そして密集隊形を組む重装歩兵は間違いなく戦車より大きな的となったことからかのドイツが誇る重駆逐戦車ヤークトティーガーを撃破し得る*14
「魔法か!落ち着けぃ!落ち着いて散開隊形へ!魔法は密度が薄ければ当たらん!魔法使い組!反撃せよ!」パンドール将軍は次々と命令を下して麾下の将兵の混乱を収めようとする。パンドール軍はパンドール将軍に近いところから少しずつ陣形を広げていく。混乱している将兵はその様子を見て自身もそうしていき、軍の規模からは考えられぬ程の早さで混乱は収まった。とはいえ大軍故に掛かった時間の間にクワ・トイネ公國軍の散兵線は撤収していたのだが。そしてそのことにパンドール将軍は歯噛みしつつも称賛し、ノウ将軍はまさか無傷で帰ってきただけでなく強かな一撃まで見舞うとはと驚いていた。*15そして近代散兵戦術の利点を知ったことでノウ将軍は攻め手を増やすことになるのだがそれはまだ先の話。
撤収した散兵たちは戦線後方でパンツァーファウストの補給を受けてから塹壕線の後ろの方で待機を命じられた。
パンドール軍主力を前にした戦列歩兵は3列から構成され、前列に
その3列の戦列は前列が伏射姿勢を、中列が膝射姿勢で、後列が立った状態でパンドール軍を主力を迎え撃とうとしていた。そして距離600mにて前列がその射程の利を活かして先制攻撃を始める。九九式短小銃を装備する者はそのままの姿勢でボルトを操作し、ライフルドマスケットを装備する者は伏せた体勢のまま器用に装填して射撃を継続する。そうしてパンドール軍主力の将兵は距離を500m詰めるまでに次々と斃れていった。だが、彼等は間合いに入りさえすれば勝利は必然だと確信していた。何故なら、ロウリア王国の鑓はクワ・トイネ公國の着剣小銃よりも長いからである。
彼我の距離100m、戦列歩兵のライフル兵は射撃を中断し、マスケット兵は初弾を装填する。その間にもパンドール軍は太鼓の音に合わせてバラバラの歩調で前進を続ける。
彼我の距離50m、戦列歩兵は装填を終えた。だがまだ構えない。そしてパンドール軍は太鼓の音に合わせてバラバラの歩調で前進を続ける。
彼我の距離30m、戦列歩兵は一斉に構えて前装銃を斉射した。直後に九九式短小銃も斉射した。そして両者から放たれた銃弾はほぼ同時にパンドール軍に襲い掛かりパンドール軍の将兵が次々と斃れる。さしもの実戦経験豊富な重装歩兵もこの異常事態に足を止めた。そして戦列歩兵はその隙に脱兎の如く走って後退する。その様を見せつけられたパンドール軍主力の先鋒は怒りのままに追撃を始める。
「いかん!」怒りに任せて追撃を始めた味方にパンドール将軍は焦りを顕にする。「追撃をやめろ!」「直ぐに連れ戻せ!これは罠だ!」パンドール将軍は追撃中止を命じると側の伝令に追撃部隊を連れ戻すように命じた。だが、味方を多数殺傷されて頭に血が上っている上に無防備な背中を晒して
そしてパンドール将軍の予感は的中する、それも将軍の予想を遥かに凌駕する形で。
「味方を追っている敵を、薙ぎ倒せ!」つい一ヶ月前まで一介の農民であった下士官の号令の下
伝令と魔信が繋がらなくなったパンドール将軍は数騎の゙偵察騎兵を追撃した方向に派遣するが、途中で連絡が途絶えてしまう。その後何度も斥候を追撃した方向に派遣するも全て途中で連絡が途絶えてしまう。そこでパンドール将軍は追撃した方向とは違う方向に偵察騎兵を向かわせた。その方策は功を奏し敵が陣地線を築いていることが明確となった。但しその陣地線は
そこでパンドール将軍は麾下の部隊を迂回させて防禦が薄いと思われる箇所を突破して敵主力の背後を衝くことを決心した。
密かにパンドール軍の行動を観察していた西部方面師団の騎兵はその行動をノウ将軍に報告する。傍らでその報告を聞いていた
パンドール軍が展開する間に附近の西部方面師団は中隊単位でパラパラと集まってくる。そして少女は砲隊鏡を覗き様子を伺う。「敵の動きが遅過ぎて退屈してしまいそうだ。もしかして、敵は夜襲するつもり?」砲隊鏡を覗いている少女が宣うと近くで息を潜めている西部方面師団の将兵は思わず苦笑する。そして
それからしばらくしてパンドール軍は西部方面師団が息を潜めている陣地線に接近する。太鼓の音に合わせてバラバラの歩調で接近を続けるパンドール軍は陣形が若干乱れた状態となっている。だが、パンドール将軍は乱れを治すより魔法攻撃が出来なくなるまで接近することを優先した。
そして
パンドール将軍にとって幸運なことに追撃は無く、
その後パンドール将軍はさらなる迂回を試みた。そして
パンドール将軍はどうにか生き延びて敗走者を纏めることに成功したが、士気や戦意はとうに失われており、攻撃能力を喪失していた。そのためパンドール軍の残党は已む無く撤退する。
だが、彼等に逃げ道は残されていなかった。
その夜、クワ・トイネ軍はロウリア軍による夜襲が無いことを訝しみ恐る恐る照明を頼りに塹壕の外を窺った。そこには、パンドール軍将兵の屍が折り重なっていた。命令を受けて師団通信隊の通信兵はエジェイを通して本国に通信を送る。
「こちら西部方面師団、エジェイ戦線異常ナシ。繰り返す、エジェイ戦線異常ナシ。」
なお主な献立は
日魯戦役や第一次世界大戦猛威を振るった機関銃。その猛威に曝されてパンドール軍は壊滅致しました。とはいえパンドール将軍以下降伏せざる生存者も結構居ますのでこれから追撃となることでしょう。
果たしてパンドール軍残党はお家に帰れるのか。何やら不穏な一文がありますがお楽しみに。
次回予告
パンドール将軍の攻勢に合わせてクイラ王國軍を拘束すべく攻勢に出た。だが、そこに九七式重爆撃機と百式重爆撃機による絨毯爆撃が襲う。そしてクイラ王國の狙撃兵により軍を纏める者が次々と戦死する。
その猛威を前にスマール軍は遂に崩壊する。
次回、「外道鎮守府第十五回 クワ・トイネ=ロウリア戦争 〜スマール将軍の最期〜」
山岳でクイラ王國に勝てる軍は存在しないのか。
今回も紹介コーナーに行きましょう。とはいえ今回は内容が充実し過ぎているので紹介テーマを絞ります。
紹介コーナー
攻城戦術いろいろ
今回ジューンフィルア将軍がエジェイに対して坑道戦の実施を指示しました。
城というものはかなり歴史があり、古来多くの城が築かれては攻囲戦の舞台となりました。
今回は城攻めで用いられてきた戦術を紹介致します。
強攻
恐らく世界最古であろう攻城戦術。
やることは簡単。沢山兵隊集めて突っ込ませる、以上。
利点は単純なためマル9でも出来ること。
難点は、読んでいて察した方が居ることと思われるが、犠牲者が多くなることと城の防禦力次第では落とせないこと。実際第一次世界大戦では何度も実行されては跳ね返されてとんでもない犠牲者が出たという。
なお孫子ではやってはいけないことの代表例として挙げられている模様。*1
包囲
強攻と並んで世界最古であろう攻城戦術。
これもやることは簡単。沢山兵隊集めて城をぐるりと囲む。そして相手が音を上げるまで囲み続ける。
利点は上手くいけば僅かな損害で城を落とせることと応用戦術が多いこと。
難点は時間がかかるのとこれ単独での決定力が弱いこと。そして何より囲み続ける間食糧を攻囲軍に補給し続けるのは極めて困難なこと。
実際城を使った戦略の一つに”堅壁清野”というものが存在し、これをやられた場合食糧の供給という観点からこの戦術は自殺手となる。
そもそも籠城側は普通食糧を備蓄しているのでね。
城外から射撃
城内の主郭に直接攻撃出来る位置に布陣して矢や弾を撃ち込む。
利点は少ない損害で敵守備隊に物理的にも心理的にもダメージを与えることが出来ること。
難点は普通矢や弾を直で主郭に撃ち込めるようなところに城築いたりしないこと。実際関ヶ原以降に築城された城は火砲対策でどれも城下町(の一部)を取り込んだ巨大城郭となっていたり天守閣が砲撃対策で頑丈になっていたりする。
一応難点を克服する手段は色々あるが、実行された中で最も有名な例である大坂冬の陣ではイングランドから輸入した長射程砲を大坂城にとって背後となる位置に展開することでこれを可能とした。
攻城兵器で防禦施設破壊
最もオーソドックスな攻城戦術。
古くは丸太を城門や城壁に叩きつけたことに始まる。
中世以降大きな発達を遂げて攻城戦の必勝戦術の一つにまで昇華された。
利点は適切な攻城兵器を揃えて実施し、これを完遂さえ出来れば落ちない城は存在しないこと。
難点は所要費用がかかることと事前準備が大変なこと。
オーソドックスなだけに実施例は数知れない上にこれを目的とした有名な兵器も割と多い。
第二次世界大戦に限っても最近某惑星で猛威を奮ったというチャーチルAVREや某戦車アニメでパンター2両を文字通りひっくり返したカール自走臼砲、世界最大の列車砲であるグスタフドーラに世界最大口径の砲リトル・デイヴィッド、かのティーガーIを改造したシュトゥルムティーガーに計画倒れ含むと日本最大の戦車となるオイ車等が存在する。
攻城塔戦術
古代アッシリアで発達した攻城戦術で、スロープ作って攻城塔を城壁に横付けして攻撃する立体戦術。
最も発達した攻城塔は上段に火点、中段に橋、下段に破城槌が備わっていることから攻城塔の上から矢を射込みつつ自軍を城壁に侵入させ更に城壁そのものを破壊するという欲張りセットとなっている。
利点は火力支援を受けながら城壁に兵を送り込めること。
難点は攻城塔は現地で製作するため時間がかかることと平地じゃなければ使えないこと、及び攻城塔が破壊される可能性があること。
坑道戦術
古くは三國志でも用いられた攻城戦術。
一口に坑道戦術と言ってもいくつか種類があり、大きく分けて防禦施設を破壊するものと防禦施設の機能を喪失させる分けられる。
前者は袁紹が公孫瓚を滅ぼした界橋の戦いや第一次世界大戦でイギリス軍がドイツ軍に仕掛けた事例が有名でその見た目が派手なためか近代戦もののフィクションでも割と用いられている。(ex.『幼女戦記』の「衝撃と畏怖」作戦や『軍靴のバルツァー』でヴァイセンがバーゼルラントを首都前面まで追い詰めるきっかけとなる要塞大爆破。)
一方後者は武田軍の攻城戦術の土竜攻めが有名である。また意外な変形例として井戸に横穴を開けて使えなくすることで水不足からの籠城継続不能による開城に繋げるという戦法も存在する。
利点は成功した場合のリターンが大きいこと。特に爆薬を大量に調達出来るなら難攻不落の城すら汚い花火と化すことが出来る。
難点は時間がかかることと穴を掘る際の振動が探知されやすいこと及び対策が多岐にわたること。
附城
包囲の発展版。
包囲する城の周りに築城する。
築城することにより攻囲軍は休憩場所と防禦拠点及び食糧の備蓄施設を得られることから土木能力のある勢力で盛んに行われた。
利点は長期の攻囲が容易となること。
難点は築城するのに結構コストがかかること。
二重包囲
包囲の特殊例にして附城の派手な奴。
先ず城側に城をぐるりと取り囲む城壁を築きます。次にその外側に援軍に備えてぐるりと一周する城壁を築きます。すると何ということでしょう、城を包囲する城が完成してしまいました。これでは攻囲されている城を解囲するのに城攻めしなくてはなりません。
要するに包囲し続けるために築城して籠城しますという戦術。
古代ローマがアレシアの戦いで実施した戦術。
利点は挟撃されようと気にせず包囲を続けられること。
難点は難易度が高過ぎて実施出来る軍と将が限られ過ぎること及び本質的に籠城戦となること。*2
水攻め
包囲の特殊例。
堤防を築いて城を水に沈める。
包囲戦術の中で最も兇悪な戦術と言っても過言では無い。
利点は上記の二重包囲と同じ効果をより少ない労力で得られることと籠城側の状態を大幅に悪化させることが可能なこと(何しろ籠城側は洪水被害に遭いますからね。)
難点は可能な地形が限られる事。
"故上兵伐謀、其次伐交、其次伐兵、其下攻城、攻城之法、爲不得已、修櫓
これを某掲示板風に表現すると、「だから良い軍隊は敵の謀略を潰す。その次は敵の外交を滅茶苦茶にする。その次は敵軍を潰す。最後にしょうがなくやるのが城攻め。城攻めは攻城兵器を造るのに三ヶ月、土木工事にまた三ヶ月。それから攻めるのが普通。焦って力攻めなんかやったら三分の一殺られても落ちる訳無いだろ常考。」となる。