冥刀抜錨トリニティGEAR   作:亜亜亜 無常也 (d16)

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【TIPS:復習編】
(・▽・)<モンスターはいわゆる怪物全般。

(・▽・)<魔物、幻獣、怨霊、妖怪などなど。

(#ー#)<プレイヤーはそれに対抗する人。

(#ー#)<先天的が多いが、後天的も結構いる。

(㈩*㈩)<ダンジョンは特殊な空間や異界の事。

(㈩*㈩)<異世界の事を指す隠語でもある。


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 それにフードは困ったような気配を醸し出す。

 

「いえ、迷惑をかける訳には……」

「何、気にするな気にするな」

「迷惑なんてよくあるぞ。コイツなんて借金取りに……」

「おい! それは時効だろ!」

 

 ワイワイ言い合う彼らを見ながら長老は続ける。

 

「ここにいる者、いた者は皆訳ありじゃ」

 

 その言葉に事例が挙げられていく。

 

「コイツは嫁と子供に逃げられているし、アイツに至っては会社の負債押し付けらたし、そっちの奴は連帯保証人になったせいで人生滅茶苦茶になったぞ」

「前にいたシンちゃんなんて前二つのハイブリットだぜ」

「そういうお前はヤクザの組長の女を寝取って未だに追われてるだろう」

「それを言うなよ……」

「でも皆楽しくやってるぜ」

 

 それに続くように長老は話す。

 

「だから、ここに居たらええ」

 

 その言葉にフードは暫し沈黙した後、ゆっくりと頷いた。

 

 そして、自己紹介となる。

 

「偽名でも良いぞ」

「長老なんて誰も本名知らないしな」

「ワッハッハ」

 

 このフードはサクラと名乗った。年はまだ十代半ば。

 

「……一体何があったんだ?」

「おい! 聞かないのがルールだろ!」

 

 流石に気になったのか、一人が聞こうとしたが、それを止める。

 ここの河川敷のホームレス達には、過去を詮索しない、というルールがある。……自分から話す分には止めないが。

 

(まあ気になるのも無理はないのう……)

 

 長老は長い人生で色んな人を見て来た。だからわかる。

 この少年の絶望は一際濃い。

 

(エイちゃんの眼に似とるが……、それよりも深い)

 

 エイちゃんこと、ミズタ=エイイチ。

 昔いた仲間。普通のサラリーマンだったのだが、モンスターの災害により家族と友達を失い、ここに流れ着いて来た。

 ここにいる者達との交流でどうにか生きる気力を取り戻した。

 

 そして、少年は暗い目をして、

 

「帰る場所が無くなったんです」

 

 これだけ言って、口を噤んだ。

 これは地雷を踏んだと他の面々も黙り込んでしまう。

 そんな状況で一人が何かをサクラに差し出す。

 

「これ食うか? 餡ドーナッツ」

 

 幾つも入った一口サイズの餡ドーナッツの袋だった。

 それをサクラは少し躊躇いながらも一つ取る。そして食べた。

 

「……美味しいです」

「遠慮せず食べろ」

 

 その言葉にサクラは餡ドーナッツをパクパク食べていく。

 頬には涙が伝っていた。

 

 

 ******

 

 

 それからサクラはここの面子の一員となった。

 性格などの問題はなく、あっという間に馴染んだ。

 それどころか、彼の器用さのおかげで、食事に一品追加された。

 

「仲間に入れて良かったな」

「全くだ」

「長老の慧眼は恐れ入るな」

 

 こんな会話を交わされた。

 

 とは言え、問題……という程のものではないが、幾つか問題があった。

 

 一つ目は呼び方。「サクラ」という名前なので、一人が「サク」と呼ぼうとしたところ、凄まじい圧を掛けて来た。

 とは言えそれはすぐに霧散させる。そして謝罪するが。

 

『その呼び方はやめてください。お願いします。でないと……』

『わ、わかった』

 

 何かあったのだろうと、納得する一同。

 

 二つ目は交流。誘いには応じるが、誘わないとずっと一人でいる。

 食料や金目の物の調達も、やり方を習うため、最初の方は誰かしらついていたのだが、覚えてからは一人でやるようになった。

 ちゃんと調達してくるので、問題は無かったが。

 

(一人だとなあ……)

 

 やはり複数の方が何かあった時など、助けを呼んだり出来るため都合がいいのだが……。

 

 三つ目が……

 

「サクラ! 今日は炊き出しだ。一緒に行こうや」

 

 偶に河川敷近くの公園で炊き出しがおこなわれる。

 無料で食事にありつけるので、ホームレス達はこぞって参加する。

 なのだが。

 

「……俺は遠慮します」

 

 なぜか炊き出しに行こうとしないのだ。

 その様子を見ながら、長老は思う。

 

(やはり最初のアレじゃな……)

 

 実は最初の一回は一緒に来てくれたのだ。

 だが、そこにいた人物を見て顔色が変わった。

 

 この炊き出しは聖霊教がやっている炊き出し。

 その際、聖女手ずからおこなってくれる。近くに住んでいるので、ほぼ毎回来てくれる。その少女の名はカミヨ=リア。

 

(何かあったのかのう……)

 

 リアから、炊き出しの豚汁を受け取った際に、サクラはこう聞かれたのだ。

 

『あの、よろしいでしょうか?』

『……はい。何でしょう』

『どこかでお会いした事ありませんか?』

 

 それにサクラは――

 

『……』

 

 暫く黙り込んだ後、

 

『勘違いでは』

 

 それだけ言って、逃げるようにその場を後にした。

 チラリと見えたその顔は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 それ以来、炊き出しには来なくなった。

 誘っても断る。

 

(これは相当根が深いぞ……)

 

 長老はそう思った。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 サクラが戻って来たのは夜が明ける寸前。

 長老以外寝てしまった。

 彼は微笑んで迎え挨拶する。

 

「おかえり」

「……ただいま帰りました」

「結構遅くなったのう」

 

 それにサクラは答える。

 なんでも、拠点が複数箇所にあったので、潰すのに手間取ったとの事。

 

「雑魚は数だけは多いのが厄介です」

「はっはっは」

 

 長老は笑いながら、サクラの分の夕食――もう実質朝食――を渡す。

 

「ありがとうございます」

 

 礼を言ってから食べ始める。

 メニューは魚の味噌汁。出汁は入っていないが、色々な魚から出汁が出ているので、良い味が出ている。

 

(胃に染みる……)

 

 あっという間に食べきってしまう。

 

「ご馳走様でした。美味しかったです」

「そりゃあ良かった」

 

 長老曰く、あそこで爆睡している人は元料理人だったらしく、専ら食事係になっている。

 

「店も持っていて、繁盛しとったらしいんじゃが……」

 

 何でも長年の友人の連帯保証人になったせいで、全てを失ったらしい。

 

「ここに居る奴は皆、みーんな色々あったんじゃ」

 

 長老は視線を遠くに向ける。

 

「居なくなった奴は、どうにかやり直せた人もいる」

 

 そして、サクラを見る。

 

「生きていればまた笑えるんじゃよ」

 

 そう言って長老は軽く微笑んだ。

 それにサクラは沈黙。

 

「……」

 

 暫くして口を開く。

 

「笑えないです」

 

 そして、彼はある事を訊ねる。

 

「気になった事があるんですけど……」

「何じゃ?」

「過去を詮索しないって言う割に、皆色々把握してますよね?」

 

 それに長老は苦笑して答える。

 

「話せば楽になるからの」

「……楽に」

「ああ。それにきっと誰かに聞いて欲しいんじゃよ」

 

 そう言って長老は顔をサクラに向ける。

 

「お主も話してみんか? 楽になるかもしれんし」

 

 一拍置いて続ける。

 

「何か力になれるかもしれん」

 

 ワシはこれでも顔が広いんじゃ、と笑う長老。

 それにサクラは

 

「……」

 

 暫く沈黙。

 

(まだ話せないかのう……)

 

 そう思った時だった。

 

「自分の存在が消えてたんです」

 

 ポツリと呟いた。

 

「どういう事じゃ?」

「自分がいた形跡が跡形も無くなってたんです」

 

 サクラがポツポツ話し始めた内容は到底信じられる物ではなかった。

 だが、長く生きて来た長老にはわかる。

 彼は嘘を言っていない。

 そして、話し終わるとサクラは立ち上がる。

 

「少し楽になりました。ありがとうございます」

「……お、おう」

「寝てきます」

 

 そして、寝床に入っていった。

 

 

 ●○

 

 

「俺は――まあ波乱万丈な人生を送ってまして」

 

「生まれて早々、存在を無いものとされて幽閉」

 

「家出して、野垂れ死にそうになりながらも、どうにか生き延びました」

 

「その時に、俺を拾ってくれた人が色々基板を整えてくれたので、プレイヤー養成高校に入学出来ました」

 

「え? あそこに入学出来るなんて凄いじゃないか? ですか」

 

「それはどうも。まあいきなり転学・退学危機になりましたけど」

 

「理由? ああ、手に入れたスキルが何者かに奪われ……あ。そうか」

 

「ああ、すいません。ちょっと思い付いたというか。今は置いておきます」

 

「さらに、アーティファクト製作を頼んでいた所に逃げられまして」

 

「結構な前金と、貴重なオブジェクトを全部持ち逃げされました」

 

「……しかもアレ酷い事に、誰も責任取ってくれなかったんです」

 

「最初は担任の伝手で職人さんに頼もうとしたんです」

 

「でも、横入りして来た先生がいて、ソイツが熱心に勧めて来たんです」

 

「ここが良いって、しつこくてしつこくて。金額も割引なるからとか」

 

「え? どう聞いても怪しい? ええ。ですよね」

 

「俺もそう思いましたし、担任も不安がってたんですけど」

 

「その先生が大丈夫大丈夫、責任は取るって言ったんで預ける事にしたんです」

 

「ところが、いつまで立っても連絡がないので、場所に行ったら蛻の殻」

 

「調べたら、何と俺が頼んだその日の内に逃げ出してたらしいんです」

 

「ウケる! ……え、ウケない? ですよね。今だから笑えますけど」

 

「しかも、責任取るとかほざいていた糞野郎もしらばっくれまして、もう八方塞がり」

 

「え? 担任はどうしたのか? それが色々ゴタゴタのせいで丁度その時いなかった」

 

「で、退学を掛けた決闘となったんですけど、色々あってチカラを手に入れて、それでどうにか危機を脱したんです」

 

「まあ、その後も色々問題事あったけど、乗り越えてきました。でも……」

 

「その日、クエストの帰りに襲撃を受けまして死に掛けて、チカラがほぼ全部奪われました」

 

「それで、どうにか帰ったら……」

 

「……」

 

「皆、皆。誰一人俺の事を覚えていない」

 

「どうなっているんでしょうね……」

 

「それで河川敷にいた所を、長老に拾われたんです」

 

「異常です……じゃなかった以上です」

 

「異常事態なんで間違えじゃないですね」

 

 

 ■□■□

 

 

 サクラが自分の寝床に帰ってから。

 長老は考え事をしていた。

 

(サクラちゃんの話は荒唐無稽じゃが、今の時代あり得ない事ではない)

 

 スキルやアーティファクトのチカラがあれば出来るだろう。認識を変えたり、記憶を改竄する手段もあるだろう。

 だが、そう簡単に出来るものではなく、何かしらのリスクや、膨大なコストが必要となる。

 しかも、あまりに危険すぎるモノは禁忌指定され、使った場合、重罪となる。

 

(そもそもチカラを奪うと言ったって……サクラちゃんは強い。そう簡単に奪えるか?)

 

 強力なスキルは発動条件を整えるのが大変。

 膨大なリソースだったり、長いインターバルだったり、色々ある。

 「強奪」、「改竄」、「洗脳」などの他者に及ぼす悪影響が大きいスキルであれば猶更。

 しかもそういうスキルは先天的に持っていようが、後天的に手に入れようが、申告義務がある。

 無申告で使い、他者に悪影響を与えたら、下手をしなくても重罪。

 

(そして、どうやって隠していたのか……)

 

 サクラは言わなかったが、犯人捜しはしっかりおこなわれた事を、長老は察していた。

 

(それでバレないようにして、再犯という訳か)

 

 長老にはわかっていた。

 そして、最大の問題は。

 

Who done it(フーダニット)?)

 

 誰がそれをやったか。

 

 わかる事は――最初にサクラのスキルを奪った奴と、今回奪った奴、周囲の人間に改竄をした奴は同一犯。

 因みに、サクラも勘づいた事である。

 

(何のために? いやそれは知る必要はないか……)

 

 理由なんてくだらなかったり、無いに等しい場合も多い。

 

(だが、ここまでする事か?)

 

 チカラを奪っただけに飽き足らず、周りの人間の記憶すら改竄するとは……

 

(人間のすることではないのう……)

 

 恨みを買っているのか、どうでもいいのか。

 

「まあ、このままにする気はないが……」

 

 ボソリと呟く。

 話をここまで聞いたのだから、放っておく気はない。

 

(全ては表裏一体。強固と脆弱もな)

 

 この改変が完全に効いているとは思えない。

 どこかに粗がある。

 あの聖女のように違和感を持っている者がきっといる。

 

「さて、動くか……」

 

 立ち上がり、歩き出そうとする長老。

 だったが……

 

「ふわあ……」

 

 欠伸が出た。

 そういえばまだ一睡もしていない。

 

「寝てからじゃな……」

 

 自分の寝床に帰る長老だった。

 河川敷は暫し静寂に包まれた。




【コソコソ話】
(㈩*㈩)<因みに勧めた奴と、逃げ出した職人はグル。

(㈩*㈩)<今はいない。ある日行方不明になった。

(#ー#)<……。絶対これアレだろう……。

(・▽・)<コンクリートか、豚か魚の餌か……。

(#ー#)<オブラートに包め!?
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