自分の事が大嫌いな少年と彼の事が大好きな皆 作:いもけんぴ。
あの後は、何事もなく進んだ。本当に、何事もなく。先生は怪我をしなかったし、シャーレオフィスも奪還できた。明日からシャーレは活動を開始するらしい。既に先生の活躍はインターネット上で拡散され、シャーレへの興味を示す書き込み等が見られる。本格的に、物語が動き出したのだ。
奪還に協力してくれたハスミやスズミ、ユウカ、チナツたちは既に各学園へと戻って行った。去り際まで何度も学園へ来る様に頼まれたし、今度顔を出してみよう。
けれどこれから、どうしようか。物語が動き出したのなら、ここで僕が変に動いてしまうと歯車が狂ってしまう可能性がある。なら、何もせずに過ごすべきなのだろうか。しかし、何もしないというのは、未来を知っている者にしては無責任のように思える。どうするべきか……。
「おーい、マーガト」
「っ!? せ、先生。何かありましたか?」
声が聞こえた為顔を上げると、目の前に先生の顔があり、思わず仰け反ってしまう。び、ビックリした……。
「いやね、明日からシャーレの活動が始まるでしょ?」
「ああ、そうらしいですね」
「でも、今の私ってキヴォトスのこと全然知らないんだ。だから、キヴォトスのこと教えて欲しいなって思って」
「僕がですか?」
「うん。リンちゃんに聞いたら、マガトが詳しいって行ってたから」
「はぁ。なるほど」
リンめ、こっちに投げたな? まあこの位だったら構わないけど。
「ええ。構いませんよ」
「本当に? 助かるよ。じゃ、マガトがシャーレの部員第一号って事で!」
「ん?」
「ん?」
「シャーレに? 僕が?」
「え、駄目だった?」
「いえ、その」
どうしようか。いやまあ、仕事を手伝うだけだし大丈夫、か?
「……分かりました。入部しますよ。入部届はありますか?」
「ふふん。こちらに」
そう言いながら、懐から一枚の紙を取り出す先生。準備が良い、最初からどうしても入部させるつもりだったな?
その思いを表に出すことはなく、紙を受け取り必要事項を記入していく。それ自体はすぐに終わり、先生へと紙を手渡す。
「よし! じゃ、正式に入部ってことで。これからよろしくね」
「……えぇ。こちらこそ」
大丈夫。大丈夫だ。……多分。
「じゃ、早速お願いして良いかな?」
「分かりました。ではまずですね───」
◇
「───こんなところでしょうか。何か不明な点は?」
「……うん。いや、大丈夫。すごく分かりやすかったよ。マガトって先生向いてるんじゃないかな?」
「はは。僕に限って、そんなことはないですよ。絶対」
「そうかなぁ?」
「そうですよ。では、そろそろ僕も帰ります。ああ、これ僕の連絡先なので、何か用があればその時に」
「あ、うん。ありがとうね」
「いえ。では、明日からよろしくお願いしますね」
そう言って、彼は去っていった。
大丈夫、だろうか。彼は何事も無いように振舞っていたが、その実、今の彼の精神状態はどこか不安定なものの様に思えた。
しかし、私はまだ彼のことをよく知らない。あまりこの段階で考えすぎるのも良くないだろう。彼のことを知る。その為に、彼をシャーレに加入させたのだから。
「……よし、アロナ、居る?」
「はい! 私はここに居ます! どうかしましたか? 先生」
「少し調べて欲しいことがあって。鳳瑠マガト、っていう子について何か分かる? とりあえず、何でもいいから彼のことを知りたいんだ」
「鳳瑠マガトさん、ですか。分かりました、少し待っていて下さい!」
「ありがとね。あ、プライベートな所はなるべく調べない様に……って、お願いできるかな?」
「もちろん、その辺りは弁えていますよ!」
「流石アロナ。じゃ、よろしくね」
一先ず、アロナにお願いして彼について調べる事にした。黙って調べてしまうのはお世辞にも褒められたことではないが、仕方がない。プライベートなことは調べないし、どうか許して欲しい。
「──一先ず、データ上に残っていた彼の情報をまとめると、このくらいですね」
「え、もう出来たの!? 早くない!?」
心の中で彼への言い訳を行っていれば、どうやらその間にもう調べは済んだ様だ。やだ、ウチの子優秀すぎ……?
「もーっと褒めてくれたって良いんですよ!」
「後で飽きるくらい褒めてあげる! っと、データデータ……え、なんか多くない? 普通こんなものなの?」
「いえ、それ程の量になる方は珍しいです。どうやら彼は様々な学園自治区に赴いているらしく、行く先々でボランティアで色んなことを行っているみたいですね。生徒からの評判も良く、様々な方面から慕われているみたいですよ!」
「へぇ〜、やっぱり凄い子だったんだ。うわ、ホントだ。ゲヘナでの暴徒鎮圧、ミレニアムの部活動への資金援助、ヴァルキューレとの協力で強盗犯確保……まだあるし。いやー、こりゃ凄い」
パッと見ただけでもこれだけ、しかもまたまだ全然ある。色んな学園から"編入"の誘いも来てるし、これで生徒と仲良くないは嘘でしょ……。
って、編入?
「アロナ、この子が今どの学園所属かって分かる?」
「はい? えーっと、所属所属……あれ? どうやらどの学園にも通っていないですね?」
「そっか。じゃあ元々何処に通ってたかっていうのは?」
「それはえっと、どうやらアビドス高等学校所属だった様ですね」
「アビドス……。辞めた理由とかは?」
「それが、データには残っていなくて……」
「うーん、そっか。分かった、ありがとうアロナ」
「いえ! 何か困ったことがあれば、どんどんアロナちゃんに頼ってください!」
「あはは、頼りにしてるよ」
画面の中のアロナを撫でながら、一つため息を吐く。
どうにも、一度生徒たちにも彼のことを聞いてみた方が良さそうだ。データ上だけでは分からないこともあるだろうし、私自身、彼女たちと交流を深めたいという気持ちも大きい。
本人と腹を割って話をできるのはいつになるのだろうか。
ふと、そんな考えが頭を過ぎった。
「……ま、これからどうなるか。かな」