この出会いはきっと、運命なのかもしれないね。
『___生まれましたよ、お母さん!』
それは、4月のよく晴れた日のことだった。
生まれたのは黒鹿毛のウマ娘。
母ウマも、周囲の人々も顔を綻ばせ喜ぶ。
が、医者が呟いた。
『………軽すぎる』
そう、彼女は他のウマ娘よりもずっと軽く生まれてきたのだった。
…………………………
小さくても活躍してきたウマ娘はいる。しかし、その例は決して多くはない。
それ故に、彼女___『ユウシンサクラ』は言われ続けた。
『そんなに小さくてサクラちゃん速く走れるの?』
『そんな体格でトレセン学園に入れるわけないじゃん!』
『うーん………サクラちゃんは小さいから、走るの危ないかもしれないね〜』
(『小さい』って、そんなにいけない?)
たしかに、大きければ一歩が大きくなる。
でも、小さければ小回りがききやすい。
大きければ、ぶつかっても飛ばされにくい。
でも、小さければ間をすり抜けたりしやすいかも。
少なくとも、デメリットだけじゃないはずでしょ?
(小さくても、鍛えたりすれば飛ばされることはないはず)
(歩幅だって、意識すれば差はできない)
そう思って、毎日ひっそり走ってきた。
バカにされないように、誰にも見られない場所で走り続けて、鍛え続けて、途中お母さんにも心配されちゃったけど(あまりにも泣きそうな顔だったから申し訳なかった)。
ようやく、
「___夢が叶う」
バカにしてきた人たちに、私の走りを見せつけてやる!
…………………………
「………てか、広いなあ」
ついに、あのトレセン学園に入学することができた。
(お母さん、凄い心配してたなあ………)
『___大丈夫?本当に辛くなったら、いつでも帰って来てね?』
『大丈夫だよ、お母さん。私、メンタルは図太い自信あるから』
ずっとバカにされ続けていたし、加えてお父さんが私が小さい頃に亡くなっちゃったものだから、お母さんは人一倍心配性になった気がする。
(私のメンタルが図太くなったのはそれもあるかもなあ)
お母さんに心配かけすぎたくなかったから、バカにしてくる声は聞こえないふりして、かき消すように走って走って鍛えまくって。
(………お母さんには、毎日電話かけようかな。写真も送ってみよう)
広い校舎内を歩き続けて、ようやく私のクラスを見つけた。
「「___あった/あった〜!」」
真横から、同時に声が聞こえた。
「………え?」
「………あっ、キミもこのクラス?」
見上げると、そこにいたのは青鹿毛のウマ娘。
(___この子、めっちゃデカイ!)
私より頭一つ………いや、二つ分ぐらい上に顔がある。手脚は長いし、細いけど筋肉はついてそう。
「………あれ?入らないの?」
「………あ、ごめん」
思わず、頭のてっぺんからつま先までまじまじと見つめてしまった。
(………小さいことに後悔はそんなにないけど、やっぱり背高いのはいいな)
鍛えたりすれば大きいウマ娘との差はある程度埋まる。けど、最初から少しでも大きければ他のトレーニングに時間を割くことができたかもしれない。
そんなことを考えながら、自分の席についた。
すると、その大きなウマ娘も私の隣に座る。
「お、隣じゃん。よろしく〜」
視線を向けると、ぱちっと目が合った。
「ねえねえ、キミの名前何〜?」
「私は、ユウシンサクラ」
「へ〜可愛い名前。あ、アタシは『ラブペインター』ね。アタシの名前も可愛いでしょ?」
「まあ、可愛いと思うけど」
(………これが初対面の距離感???)
今まで、こんな風に気さくに接してきた人はほとんどいなかったから、どんな反応をするべきなのかいまいち分からない。
しばらくして、担任の先生が入ってきた。
何か、大事なことを話していたはず………だけど、
(………ラブペインター、か)
彼女のことが、気になって仕方がなかった。
…………………………
「___では皆さん!2週間後の模擬レースで良い結果を残してトレーナーと契約できるように頑張りましょう!ホームルームはおしまいです。さようなら〜!」
最後にそう言って、先生は去った。
(………模擬レースか)
どの距離を走るべきか、そもそも芝とダートのどっちを走るか。
そんなことを考えながら、寮へ行く準備をする。同室のウマ娘がどんな子か気になるし、なるべく早めに行こう。
準備途中、どこかから会話が聞こえてきた。
「___ねえねえ、うちのクラスすごい子ばっかじゃない?」
「いや、マジそれな?」
(………へえ、そんな凄い子ばかりなんだ)
少し心惹かれる話題。耳だけ会話に向けて準備を続ける。
「『サリューター』ちゃんだっけ?あのショートヘアの子。あの子のお母さんダービーウマ娘でさ、しかもあの子もめっちゃ脚速いらしいの!」
「『ランドオブヒーロー』ちゃんも凄いんだよ〜たしか、小学生の頃にかけっこ大会のレコードタイム出したとか………」
他にも、本人の活躍からお母さん、お父さんの活躍___何人ものウマ娘たちの名前があがった。
その中でも、一番心惹かれたのは、
「___でもさー、一番ヤバイのって『ラブペインター』ちゃんじゃない?」
やっぱり彼女だった。
「あー!たしかあの子のお母さん三冠ウマ娘じゃなかったっけ!?」
「え?………マジじゃん!ウィキにも載ってる!」
「しかもお父さん凄い有名なトレーナーさんじゃん!たしか去年のダービーウマ娘とかもその人が担当してたよ!?」
「今お母さんの方もトレーナーしてるんじゃなかったっけ?この間重賞勝ってる子いた気がする」
「それにあの子自身も凄いよね〜たしか、既にデビュー済みのウマ娘との併走で相手をぶっちぎってたとか………」
「え、やば〜………」
聞こえてくる内容のどれもが、彼女の凄さを示していた。
(………いつか、同じレースで戦う日も来るのかな)
そんなことを思いながら、教室を出た。
…………………………
「………グラウンド広いなあ」
廊下の窓から、広いグラウンドがよく見える。多くのウマ娘たちがトレーニングをしている姿も、よく見えた。
(そういえば、プールとかもあるんだっけ)
この広いトレセン学園には、いくつものトレーニング用の設備がある。専門的な用具は使ったことなかったから、いつか使ってみたいかも。
「___サークラッ」
突然、背後から誰かに声をかけられた。
「………びっくりした」
「えへへ、アタシで〜す」
振り返れば、やっぱり私より頭二つ分高い身長。ラブペインターだった。
「ねえねえ、今からどこ行くの?」
「とりあえず寮に行こうかなって。同室の子も気になるし」
「あ〜たしかに!じゃあアタシも寮に行こっと」
………何故か、ラブペインターと一緒に寮に行くことになった。
「___サクラって美浦寮?栗東寮?」
「私は栗東寮だけど………」
「えっ!アタシも栗東寮!席も隣だしなんか運命感じちゃうな〜」
「はあ………」
………やっぱり、距離感凄い。いきなり『サクラ』呼びだし。
栗東寮に着くまでの間、ラブペインターはずっと話しかけてきた。
「___えっ!?サクラってレース走ったことないの!?」
「まあ、今まで走り込みとかしかしたことないから」
「じゃあ模擬レースが初レースってことか〜」
「てかてか、サクラの脚って凄い鍛えられてんね〜筋肉やばすぎ」
「………そりゃどうも」
「………よくよく考えれば、初レースってことはどの距離走るかもバ場も決めてないってこと!?いっそのことアタシと同じレース走っちゃう?」
「………考えてはおく」
「___あ、着いちゃった」
気がつけば、栗東寮は目の前だった。
「さてさて、アタシの同室はどの子かな〜?」
玄関前にある部屋割り表の中から『ユウシンサクラ』の名前を探し出す。
(………あ、あった)
私の部屋は、3階の端。
(同室の子は___)
「___え、」
___もしも『運命の出会い』というものがあるとすれば、きっとこのことを言うんだろう。
「___あはは、マジでアタシたち運命じゃない?」
『ラブペインター』
これは、ただのクラスメイトなんかじゃない。
きっとこの先、いつか戦うかもしれない