(まず、絶対に出遅れたらダメ。作戦が全部台無しになっちゃう)
9人だてのレース、私は8番ゲートに入っていた。
『あらら〜外側にきちゃったかあ』
『………これ、外回って凄いロスしちゃうんじゃない?』
『何言ってんの〜それを防ぐためのスタートの良さじゃん!』
枠順が決まった時、ラブはそう言った。
『前にも言ったけど、スタートの良さはサクラの強みだよ。単純な話、他の子たちよりも速く飛び出して不利をなくせばいいんだ』
『不利をなくす?』
『そう!スタートしてね___』
『______スタート!!』
(誰よりも速く、飛び出せ!!)
「なっ………!!??」
瞬間、ざわめき出すレース場。
『___一気に内側に入り込んじゃえ!!』
「なんだなんだあのスタート!?」
「おい!誰かあの8番のウマ娘を知ってるか!?」
(___ああ、観客たちの声がよく聞こえる)
たしか、私は9番人気………つまり、最下位人気だった。
他のウマ娘と違ってレース経験はない、体格もさほど恵まれていない。
そんな風に舐められてた私が、スタートだけで会場を沸かせている。
その事実が、ただただ気持ち良かった。
(とりあえず、不利はなくせたはず)
後ろの様子はよく見えないけど、多分ある程度列が定まってきた。なんとか内側に入り込むことができた。
(………少なくとも、5バ身以内には誰もいなさそう)
近くからは、脚音が聞こえてこない。
『素晴らしいスタートを決めた8番ユウシンサクラがそのままハナを奪う形となりました!7バ身ほど離れて2番手争いをするのは___』
実況者が現在の状況を伝える。どうやら、無事にリードをとることができたみたいだ。
『さあさあユウシンサクラがどんどん後続を離していきます!これは大丈夫でしょうか?600m通過のタイムは34.5です!』
チラリ、と一瞬だけ後ろを振り返った。二番手のウマ娘は遥か遠くを走っている。
(………よし、作戦通り)
『逃げて差す』これを実現させるためには、一度この辺りでスピードを落としたい。そのためには、ある程度のリードをとっていたかった。
『おっと、先頭を走っているユウシンサクラがスピードを落としている!これは作戦でしょうか?後続のウマ娘たちが少しずつ近づいてきました!』
そう実況者が言ったように、少しずつ、少しずつ脚音が近づいてくるのを感じる。
(………はは、凄いヒリヒリするなあ)
いつ追いつかれるか分からない、そんな緊張感が私を襲った。
でも、
(___ここからが本番!!)
残り600m、最後の3ハロン。落としていたスピードを一気に上げる。
『さあ再びスピードを上げたユウシンサクラ!まだスタミナは残っているのか?後続のウマ娘たちもスピードを上げていきます!』
最後のコーナーを曲がる。
(よし、上手くいった!)
練習の成果もあり、最短ルートを通っていけた。
「___ふっ!」
最後の直線を、全力で駆け抜けていく
『後続がどんどん離れていく!ユウシンサクラ、その差を4バ身、5バ身と開いていきます!』
他の子の脚音はもう少しも聞こえない。
聞こえるのは風を切る音と自分の脚音、
そして、
興奮で高鳴る胸の音。
___やっぱり、
「______走るって楽しい!」
『___ユウシンサクラゴールイン!圧勝でした!』
振り返ってみれば、その差はびっくり。
「「「___大差勝ち!?」」」
遥か後ろを他のウマ娘たちは走っていた。
「なんだあのウマ娘!?」
「おい、誰かあの子のこと知ってるか!?」
「どうしてあんな才能が埋もれてたんだ!?」
観客たちの困惑と、歓声と、様々な声が聞こえてくる。
(………まあ、それもそうか)
最低人気だったウマ娘が大差勝ち。
そんなレースはなかなかお目にかかれない。そもそも、最低人気のウマ娘が勝つことも、大差勝ちも、どちらもそう簡単に見れるものではない。
(___最っ高に気分がいい!)
私が目に入っていなかった人たちが驚く様子、先頭で駆け抜ける快感、全てが私を興奮させてやまない。
「___気分はどう?サクラ」
レースが終わって、声をかけられた。
「………ラブ」
「大差勝ち、逃げて差す、最低人気からの逆転勝利、ありとあらゆることを達成した気分は?」
にこにこ………いや、むしろにやにやしながらラブは聞いた。
そんなの、一つに決まってる。
「______最高!!」
「ははっ、さっすがサクラ!!」
そう言って、互いの拳を軽く突き合わせた。
…………………………
「………にしても、サクラへの熱気がすごいね〜」
「………本当だ」
レースが終わって数分経つが、観客たちの視線は未だ私に注がれている。
私の自惚れでなければきっと、私をスカウトしたがっている人たちの視線。
「こーれは後でどえらいことになるぞ〜」
「それはちょっと嫌だなあ………」
スカウトはされたい。が、もしいっぱい人が集まったらそれはそれで億劫かもしれない。
「まあまあ、そんなにイヤそうな顔しないで〜それより、アタシの走りも見ててよ」
「………あ、そっか」
あと5分後、ラブの走る模擬レースが始まる。
(そういえば、ラブの走り見たことないかも)
トレーニング中の軽い走りは当然見たことがある。けど、レースだとか併走だとか、本気で走る姿は一度も見たことない。
(………ちょっと楽しみかも)
脚質も何も知らない彼女の走りを、私はただただ待ち望んだ。